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第四話「友情、努力、勝利」
ようやく私の出番ね……ってそんなメタ発言してる場合じゃない、か。初めまして、織斑千春よ。
皆さんご存知、織斑一夏は私の双子の弟。国語の成績が若干悪くて恋愛関係になると物凄い発想の飛躍をする恋愛台風。
正直ラヴ・ザ・スタンピードとかに改名しても問題ないんじゃない? あ、でも眼鏡分が足りないか。それむしろ私の担当だし。
私の見た目は至って簡単。姉さん―――織斑千冬をショートカットにして身長を何センチか下げ、眼鏡をかけて雰囲気を優しくすれば出来上がり。
そんな私は今、同じクラスの更識簪って子とお昼を食べに食堂へ来ている。そして目の前には何故か顔に紅葉をつけた不肖の弟。負傷だけにね。
「で、どうしたのアンタ。鈴も一緒に居るかと思ったんだけど」
「いや、何か怒らせちまったみたいでな……」
「また何かやらかしたのね。とりあえずアンタが悪いわ」
速攻で結論を出し、簪と一緒に一夏と同じテーブルに着く。ここの食堂って凄いお洒落よねー。
「話も聞いて無いのに決め付けんなよ!」
「経験を踏まえて言っただけよ、そんでアンタが悪いんでしょ?」
「……そうなる、のか?」
私に聞かれても困るっての。と言うか隣で黙々とご飯食べてる箒の顔見てれば大体解るわよ。
「そうだな。横で話を聞いているだけでも大まかな事情は解ったし、第三者の意見を言わせて貰えば全面的に一夏が悪い」
「だってさ」
「はぁ……何だってんだよ」
この子はこと恋愛に関しては病的なまでに吹っ飛んだ思考するからねー。事実は小説よりも奇なりって言うけど、確かにまだ一夏以上の思考回路したキャラには出会えてないわ。
「それはそうと千春、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「箒もね。師匠達はお元気?」
「ああ、いや……最近は会えていない。辛うじて源蔵さんが手紙を運んでくれるくらいでな」
「そっか、ゴメンね」
「い、いや、こちらこそ最近は千春に手紙を出していなかったしな。構わない」
一夏には週一ペースで送ってたのにねー。気づかれてないとでも思ってるのかな。
……佐倉源蔵。私の目の前に居る篠ノ之箒の姉である篠ノ之束と共に世界最強のパワードスーツ『インフィニット・ストラトス』を作った大天才の片割れ。
と、世間一般の認識ではそうなっている。けどそんな評価は私達から見ればちり紙以下の価値しかない。因みに私は昔からなんとなく源ちゃんと呼んでいる。
背は高くおおよそ2m、髪は色素が薄くライトブラウン、IS開発中の事故により左肘から先が義手、視力が悪く眼鏡をかけている。外見はこれくらいかな。
昔篠ノ之道場に通っていた名残か肉付きは良く、こないだまでたまに一夏と竹刀を振っていたので人並みには腕も立つ……けど、中身が酷い。
束さんにベタ惚れなのは良いけど真顔で堂々とセクハラ発言をするのはどうかと思う。やれ乳触らせろだの尻揉ませろだの、挙句の果てにはヤらせろだの。
正直な所、束さんが失踪したのって源ちゃんから逃げるためなんじゃないかと思う。でもたまーにまんざらでもなさそうな顔するんだよね、天邪鬼なのかな。
それ以外の性格は兄貴気質とでも言うのだろうか、他人の面倒を見るのが好きらしい。昔から私達の面倒見てたからかな?
そのせいか頼られる事は多い(主に一夏と弾)けど、それ以上に場を引っ掻き回すのが大好きらしい。束さんと違って最後の一線は見えてるらしいけど。
ただその分厄介になった問題の矛先が大抵私達に向いてるのは勘弁してほしい。頭がいい人間って皆こうなのかな。
「なあ千春、その子は?」
「ん? ああ、同じクラスの子。親睦を深めるために一緒にご飯をね」
っと、いつの間にかボーっとしてたみたいだ。いけないいけない。簪の紹介もしとかないとね。
「……更識、簪」
「俺は織斑一夏、よろしくな」
「篠ノ之箒だ。よろしく頼む」
……あれ? ちょっと待って? 簪、なーんか雰囲気おかしくない?
「よう。こりゃまた変わった組み合わせ……でもないか」
「あれ? 源兄ぃ、どうしてここに?」
「俺だってたまには学食くらい来るさ。座っていいか?」
「どーぞ。簪、ちょっとだけ詰めて」
あと佐倉先生な、と源ちゃんが私の隣に座る。お盆の上には山盛りの生姜焼き定食が乗っていた。
「そんで鈴の奴は……まあ、その顔見れば一発だわな」
「げ、源兄ぃまで……はぁ」
「後で鏡でも見てみな。綺麗に手形付いてんぞ」
喋りながらも源ちゃんは箸を止めない。あっという間に山盛りの生姜焼きが消えていく。
「で、どうした。昔の約束でも忘れてたのか?」
「いや、その……鈴の料理の腕が上がったら酢豚を毎日食わせてくれるって約束だったんだけど……」
「「ぶふっ!」」
味噌汁を飲んでいた私と簪は揃ってむせる。炎じゃなく味噌の匂いが染み付きそうだった。
「……あー、一夏。お前的にはどういう約束だったんだ?」
「どうって……店に行けば食わせてくれるって話じゃないのか? 料理が上手くなったら、って厨房に立てるようになったら、って事だろ?」
「……これだよ」
解る。その気持ちは凄いよく解る。一夏、流石にその勘違いは無いわ。簪も凄いジト目で睨んでるし。
……と言うか、本当に当人達しか知らないような事を知ってるんじゃないかと思うくらい勘が鋭いわね。源ちゃんって。
「そんでクラス代表ってどーやって決めんだ? そういう話だったろ?」
「ん、ああ。今度の月曜に三人で総当たり戦だってさ。そう言えば千春のクラスの代表って誰なんだ?」
「ん」
お椀を置いてから隣に座っている簪を指差す。おお、驚いてる驚いてる。まあ一組って騒がしいのばっかりみたいだし仕方ないかな。
「自己紹介の時に先生がうっかり専用機持ちで日本の代表候補生だって漏らしちゃってね。それで自動的に」
「へぇ! そうだったのか。それなら強―――何だよ、そんな睨んで」
「……別に」
「ちょ、ちょっと簪? どうしちゃったの?」
簪は理由もなく人を睨んだりする子じゃない。どっちかと言えばオドオドビクビクするタイプだし、その反動か正義のヒーローに憧れてる所がある。それなら相応の理由があるはずだけど……。
「しょーがねーわな。結局ここの入試の時に機体が間に合わなくて教官に負けて、今度は目の前の男のせいで開発が凍結同然なんだからよ」
「っ!」
「開発に関与して無いから知らないと思ったか? 生憎とここに来るISの情報は自然と俺の所に集まって来るんだよ」
源ちゃんの一言に簪が反応する。それもそうだ、こんな性格だけど源ちゃんはIS研究の権威でこの学園の全ISを管理しているんだから。
……参ったなぁ。仇の双子の姉でわざわざ相席させるとか嫌がらせ以外の何物でも無いわよこれ。失敗したなぁ……。
「でも倉持ん所も馬鹿だよなー。出来もしないのに無理やり手ぇ広げて、結局どっちも間に合ってない。どっちか俺に預けてりゃ最悪でもそっちだけは完成してたろうに」
「あー……えっと、ゴメンな? なんか、俺のせいで……」
「……別に」
「まあそうツンケンすんな。コイツだってモルモットなんだし、自分の意思でそうなった訳でもないしな」
モルモットって……確かに合ってはいるけどさ。やっぱり源ちゃんって束さんと同種の人間だよね、解り辛いけど。
「それに罪を憎んで人を憎まず、って言うだろ。一夏の場合罪を犯したわけでもないし、こうやって自分が存在する事の余波を見て罪悪感を抱いている。ここは許してやるのがヒーローってもんだろ?」
「!」
「いや、そこは普通ヒーローじゃなく大人なんじゃ……って、簪?」
何か眼鏡の向こうが輝いてるんですが。え、何? 本当に勧善懲悪系がツボなの?
「はいごっそさん、と。お前ら、ISの勉強ついでにコイツの機体完成させるの手伝ってやりな。けど、色々と事情があるから無理強いはしないようにな」
「あ、ああ……って言うか相変わらず食うの早いな、源兄ぃ」
「お前らが遅いんだよ。昼休み終わっちまうぞ?」
ほんじゃなー、と空のお盆を持って源ちゃんが去っていく。どうして一番遅く来て一番早く食べ終わるのか。
けどまあそれは別にいい。いつものことだし。それより聞かなきゃいけない事がある。
「ね、簪……未完成って、ホント?」
「……うん。動かすだけなら、できるけど……色々、足りない……」
「あっちゃー……それで、言いたくなければいいんだけど……事情って?」
多分、ここから先は完全に簪個人の問題だ。それも感情論とかそういう類の。しかもこの説得を失敗したら四組は確実にアウトだろう。
「その……お姉ちゃん、この学校の……生徒会長、なの」
「……人呼んでミス・パーフェクトとかそんな感じ?」
「………(コクン)」
うわっちゃー、コンプレックスだよ……私にも昔はあったからよく解るわ。一夏とか源ちゃんとか見てたらどうでもよくなったんだけどね。
「色々あって……ロシアの、国家代表で……IS一人で作ったり……」
「凄っ」
さっきから一夏と箒は口を挟めないでいる。と言うかこの状況で口を挟めるのはただの馬鹿か紙一重の馬鹿だ。
でもなー、源ちゃん見てたから解るんだけど、ISって一人で作れる物なのかな? 源ちゃんですらパーツの納入がどうとか騒いでたし。
「それで……私でも、頑張れば……できるかなって……」
「出来るわけねーだろこの根暗眼鏡が」
「っ!?」
いつの間に戻ってきたのか、源ちゃんが簪の死角にドアップで近付いていた。
……源ちゃん、簪いじめたらある事無い事束さんにチクるよ?
「確かに【ミステリアス・レイディ】は二年の更識楯無が一人で『組み上げた』フルスクラッチタイプの機体だが、何もパーツ一つ一つから作ったって訳でもねーぞ。
第一、あれの最大の特徴である『ナノマシンによる流体制御』は俺が作ったもんだ。武装は殆ど【モスクワの深い霧】からの流用だしな」
「え……? そう……なん、ですか……?」
「ああ。機体構成も高レベルに纏めてあるが、それも時間と才能をフルに使った結果だ。ついでに今現在も微調整を繰り返してる。
お前はそれに相当するだけの時間を使って機体を組み上げるつもりだろうが、その間にクラス代表が必要な行事なんざ全部終わっちまうぞ?」
大きいのは一学期に集中してるからな、と源ちゃんが鼻を鳴らす。そりゃ無理だ。
いくら簪が天才的な腕だとしても三ヶ月程度じゃできっこない。それができるのは私達の目の前に居るこの人くらいだ。
「それに俺を見てみろ。確かに螺子一本から機体を全て組み上げる事は可能だが、普段はそんな事絶対にやらん。面倒だし、何より効率が悪い。
じゃあどうする? 簡単だ、人を頼れば良い。一人じゃ半年かかるもんでも単純計算で二人いりゃ三ヶ月、三人いりゃ二ヶ月だ」
実際はそんなに簡単じゃないだろうけど、源ちゃんが言ってる事は全て正しい。
結果のために感情を捨てる、科学者的な思考とでも言うんだろうか。
「特にお前はクラスの代表、三十人の期待を背負ってるんだ。だが、それは同時に三十人分の苦労を背負ってるって事でもある。だったらその分は皆に迷惑かけたって良いんだよ。
それに関係なくても自分から突っ込んでくる奴には特大の迷惑をかけてやれ。それ相応の働きをさせて見せろ」
それになにより、と源ちゃんが席から離れる。
「これこそ勝利の三原則」
「―――友情、努力、勝利」
「そーゆーこと。そんじゃま急げよー? 時間ねーぞー?」
しかし説教臭くなっていかんな、と今度こそ源ちゃんが食堂を後にする。説教臭いのは昔からだと思うけど。
私達は流石にこれ以上時間をかけるといけなかったから殆ど食事は終わっていた。その中で簪が口を開く。
「……千春」
「ん? なーに?」
「……手伝って、くれる?」
「勿論」
ここでやらなきゃ女が廃る、ってね。それと簪、私達の目の前に居るアイツを甘く見ちゃいけないよ?
「なあ、更識……いや、簪」
「……な、何?」
「俺にも手伝わせてくれ。どうであろうと結局は俺の責任なんだし、ISの勉強にもなるしな」
「……う、うん」
これだよ。しかもいきなり呼び捨て。既に簪の頬が赤くなりかけてるのは見なかった事にしておこう。
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ようやく一日の仕事を終えて俺の城に戻ってくる。多目的工作室がある整備科棟に隣接した小ぢんまりとした一軒家、そこが現在俺が住んでいる場所だ。
当然ながら学生寮、教員寮の両方から離れているこの場所は多少うるさくしても怒られないのが良い所だ。若干移動に時間がかかるがそれも数分の差だしな。
「それにしても今日は疲れたな……SEKKYOUしちまったし……んぁ、電話? しかも一夏? もしーん!」
『い、いきなり叫ばないでくれよ源兄ぃ。ビックリするだろ』
「悪い悪い。んで、どした? そろそろ寮にいる時間だと思うが」
『やっぱり知ってたか……源兄ぃ、もしかして部屋割りも知ってるのか? 何でか箒と一緒なんだけど……』
知ってると言うか俺が原作どおりにしたんだけどね。だってそっちの方が面白いだろう?
千春は簪と同じ部屋になってもらいました。マジ眼鏡部屋。
「知らない奴と一緒にするのもどうかと思ってな。まあ暴れようがナニしようが備品壊さなきゃいいよ、俺としては」
『えっと……既にドアに穴が……』
「……そう言えばここってドアに鉄板とか仕込んでないんだよな。いや、まさか鉄板ごとぶち抜いたのか!?」
とか唐突に現実逃避してみる。普通にドアを木刀でぶち抜くだけでもありえないんだけどね。
「で、それより何より早速やらかしたのか? 勘弁してくれよ……監督責任こっちに来るんだからさぁ」
『えっと……ゴメン』
「とりあえずやまやか千冬に報告だな。あいつら一年寮の担当だから」
『あ、そうなのか。そっか、寮監ならたまにしか帰ってこれないのも仕方ないな』
「そーいや言ってなかったな。まあとりあえず今日はもう寝ろ、明日も早いぞ」
『ああ。おやすみ、源兄ぃ』
「応、おやすみー」
電源ボタンを押して通話を終える。全く、やっぱりやらかしてくれたか。実にいいね、すばらしい。
「で、『六花』。お前はどう思う?」
見る限りは『誰もいない』机に声をかける。誰かの前でこんな事してたら黄色い救急車呼ばれちまうな。
『どう、と申されても情報が不足しているため回答は出力できません』
「ハハッ、それもそうだな。だがきっと長い付き合いになる相手だ。覚悟しとけよ、色々と」
『入力情報が不適切と判断します。不適切でない場合は具体的な入力をお願い致します』
「……全く、まだまだお子様だなお前は」
『入力情報が不適切と判断します。不適切でない場合は具体的な入力をお願い致します』
「……風呂入って寝るか」
べ、別に相手をするのが面倒になった訳じゃないんだからね! とか言ってみる。キメェ。
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七巻が見つからんでゴザルよー! 簪のキャラがわからんでゴザルよー!
仕方ないんで気にせず進めようと思います。週末までには何とかしたいなぁ……。
源蔵、SEKKYOUをするの巻。あと酢豚イベントスタートの巻。でもまだ一日目の巻。
なんかこのペースでやってたら束さん出てくる前に力尽きそうなんでサクサク進めようと思います。
4巻の話は束さん祭りになる予定です。だってメインヒロインですから。
所でふとゾイドのスラッシュゼロ見たんですが、やっぱゾイドの重量感って半端無いですね。
ISで一番足りないのは歩きモーション時のあの重さかもしれないです。
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