翌日、学校で私たちはライダーの結界の基点をある程度無効化する作業を行った。
その間、ずっと士郎とまどかの様子がおかしかったけど、昨日の話をまだ引きずってるのかしら?
その間に結界の進行のチェックもしたけど、結界がまた完成に近づいてるように感じた。これは本当に保険なんて嘘としか思えないわね。
慎二の奴。もしこんなことすれば協会だって黙ってないって理解してるのかしら?
いや、そもそも魔術師でもなく、正規の方法でマスターになっていないなら、そういうことも理解していないかもしれない。忠告ぐらいはしておくかしら?
士郎の淹れたお茶を飲みながら考え込んでいて、
「で、遠坂、どうなんだ?」
と、士郎に聞かれた。
今回、士郎はライダーの結界の結節点の特定をこなしてくれた。変なところで能力が優れてるわね。
「ん、昨日よりも結界の状態は進んでいたわ。こりゃ慎二の言い分はあてにならないとみていいわ。どうする?」
じろっと睨むと士郎はむっとする。
「昨日も言ったけど、俺はあいつを信じる。でも……駄目だったときは俺が決着をつける」
たく、こいつは。
まあ、なら私が動けばいいだけだけど……他人の間に割って入るほど無粋でもない。我ながら甘いったらありゃしない。
そんなことを考えていたら電話が鳴った。
士郎が対応するために出て行って、
「なんだって?!」
大声を上げた。
なんなのよ? 声の感じからしてかなりの大事そうだけど。
私は腰を上げて士郎の元へと足を向ける。
「あ、ああ、わかった。ありがとう藤ねぇ」
がちゃんと士郎が電話を切る。心なしかその顔は青い。
「士郎どうしたの?」
私が問いかけると、ゆっくりと士郎が顔を向ける。
「美綴が……病院に担ぎ込まれた」
綾子が?!
すぐに私たちは綾子が運び込まれた病院へと駆け込んだ。面会時間は過ぎているって言うけど、私たちはそれを無視してこっそりと綾子の病室へと忍び込む。
ベッドの一つで綾子が死んだように眠っていた。普段の綾子からは想像できない青白い肌から、かなり消耗していることがうかがえる。
そっと綾子のそばにより容態を見て、それを見つけた。
綾子!!
ぎりっと私は歯ぎしりする。
「遠坂、美綴は?」
心配そうに士郎が聞いてくる。
「……生命力をぎりぎりまで吸われてるのよ」
そして、それを見せる。
おそらくはサーヴァントが魂喰いをしたであろう噛み傷を。
士郎はそれを見てくそ、と毒づく。
「美綴、敵は必ず取ってやる!」
そうしてくれるとありがたいわね。
口先だけじゃないって証明できるんだから。
「新都で最近起きてたのとは違うわ。こんな杜撰な後を残すような手合いじゃない」
だから、言っておくことにした。
その一言に士郎は私が何を言いたいのか察したようだ。
そう、私が言いたいのは、
「おそらくライダー、いえ、慎二の仕業よ」
私は拳を握りこむ。あいつ、よくも!!
今すぐにでも間桐の家に殴り込みに行きたい。でも、表面上は冷静に見せる。
「ちょっと行くところができたわ」
慎二に言う前にあの性悪神父に言わないとね。さすがに、これはアウトだ。
私は綾子と士郎に背を向けて、病室を出た。
そこそこの距離を歩き、私は教会へと訪れていた。
そして、まるで待ち構えていたように私を出迎えた綺礼に今回のことを話した。だが、
「まあ構わないのではないか? まだ死者が出たわけではない。そして、聖杯戦争において魂喰いは勝利のための定石であろう」
確かにそうではある。サーヴァントの強化という方法では、これが確実ではある。
それでも、
「ここは私の管理地よ。そんなところで好き勝手されたらたまらないわ。いざというときは協会よりも先に私が始末をつける」
「ならば、戦えばよかろう。相手もマスターなのだ。いずれ殺しあうだろう?」
それから、ふんと綺礼が考え込む。
「だが、確かに今回のこれは新都のものと比べ拙い。監督役として一応忠告は行うとしよう」
そうしてもらえれば助かるわ。
綺礼との話を終え、教会の外に出ると、少し離れた場所でまどかが待っていた。
「どうしたのよ?」
まるで教会から距離を置きたいような感じがした。
「あ、いえ……前よりも嫌な感じが強くするんで、つい」
嫌な感じ、か。この前教会に来た時も同じこと言っていたけど、どういうことかしら?
私は教会を振り返る。夜の暗さからか、それともまどかの言葉のせいか、教会は不気味な雰囲気を醸し出していた。
少しだけ、綺礼を警戒するべきかしらね?
そして、教会からの帰り道にだった。
「あの、突然すいません、桜さんと凛さんって姉妹なんですか?」
まどかが突然そんなことを聞いてきた。
んな!?
「な、なんでそんなこと?!」
どうして気づいたのよ!!
「ご、ごめんなさい! なんか、凛さんも桜さんもお互いのこと気にしてるように見えますし、二人ともよく見れば似てるような気がしたんです!!」
と慌ててまどかは答える。
あー、もう、本当になんなんだこの子は。
隠し事もあっさり見抜いて。誤魔化しても無駄と思わされる。
「ええ、察しの通り、私と桜は姉妹よ。事情があって、父が間桐に養子に出したのよ。それが?」
そう答えるとその場でまどかは考え込む。
「凛さんの妹さんなら魔術回路もありますよね?」
「ええ」
確か父がそんなことを話していた。桜の優秀な魔術回路を遠坂の次女という立場のままにしておくには惜しために出したのだ。
うんとまどかは頷く。
「で、それがどうしたのよ?」
なにが知りたかったのかよくわからない。なんで私と桜の関係なんか。
でも、なにか、そう、この子は私が見たくない何かを見抜いている、そんな気がしてくる。
「すいません。慎二さんの回りについて少しでも知りたいんです」
慎二について、ね。
戦うであろう相手の情報を得たいのから、それとも、知り合いのマスターだからか、それとも……もっと別に理由か。
そして、私たちは衛宮邸に着く。で、玄関でなぜか士郎が待ち構えていて、
「俺が慎二と決着をつける」
私達を出迎えて、いの一番に告げた。
えっ?
「いきなりなによ?」
あんだけ、慎二と戦いたくないって言ってたのに。
「鹿目にも言ったろ。あいつが間違えたら俺が止めるって」
なにがあったのか知らない。
ただ、その眼を見れば、腹を括ったことだけは理解できる。
「わかった、ライダーはあんたに譲る。まどかもいい?」
「はい。士郎さん、頑張ってください!」
まどかの応援に、士郎が笑みを浮かべる。
「ああ!」
……いつの間にこの二人は仲良くなったのだろう? まどかのマスターは私なんだけどな。
翌日の早朝、士郎とセイバーは間桐邸前で慎二と接触、冬木の山で決着をつけることになった。
一方私達は、
「桜さん、お話があります」
「鹿目さん?」
桜を待ち伏せていた。
「あの、なんですか? 部活の朝練もあるので、できたら手短に」
ちらっと私を伺う桜。
悪いけど、私じゃどうしようもないわ。この子が強引に決めたことだから。
「桜さん、正直に答えてください。メデューサさんを召喚したのは桜さんですか?」
なっ!?
それは、私も一度考えた。だけど、そんなはずはないと切り捨てた答え。
「い、いったいなんのことですか? 私がライダーを召喚したって」
そ、そうよ、この子が……待ちなさい。
「桜さん、なんでメデューサさんのクラスを知っているんですか?」
はっと桜は自分の失敗に気づく。
「い、家にいますからだから」
しだいに、桜の声は小さくなっていく。たぶん、まどかの目に隠し事に意味はないと悟ったのだろう。
「は、い。私が兄さんのかわりにライダーを召喚しました……」
顔を伏せて答えた。私が一番欲しくない答えを。
そうですかとまどかは頷いてから、
「桜さん、お願いがあります。士郎さんと一緒に慎二さんを救ってあげてください」
……なんですって?
~~~~
桜の正体をまどかが言い当てるの回です。
次回ライダー編終了です。今回はまどかの夢を見るのはなしっす。
まどかさんが何を考えてるのかも次回で説明。