「まどか、大丈夫?」
ランサーとの死闘を終えたまどかをおぶさり、衛宮邸に向かう。
「はい、だいじょうぶ、です」
切れ切れにまどかは答えてくれる。
ランサー戦の消耗は酷く、ソウルジェムはかなり、三分の二以上が濁っているという。
もし、今他のサーヴァントに襲われたら……故に一番の傷である心臓回りを止血し、すぐにその場を離れた。
「でも、あなたにそんな秘密があったなんてね」
ソウルジェムが本体だなんて、突然過ぎて驚いた。
「ごめんなさい。まるでゾンビみたいだから話したくなかったんです」
いいのよ、謝らなくて。
しかし、少しこの子の、いや、魔法少女への認識を改めないとね。
きらびやかな名前の裏にそんな秘密があったなんて。
そして、やっと見えてきた衛宮邸に不穏な魔力が漂っていた。
まさか?!
「凛さん!」
背中のまどかが変身し、私の背中から降りて駆け出す。私もそれに続く。
うっかりしてた……弱っている方を襲うなんて常識じゃない!!
「まどか、ソウルジェムの状態は?」
「……バーサーカーさんの命を削るほどは無理です」
当然だけど、この短時間でそこまで回復はしないか。
でも、見逃すわけにもいかない!
「士郎とセイバーに合流したら、すぐ撤退、いいわね!」
「はい!」
私たちは衛宮邸に突入した。
居間に向かえば、なぜか士郎に剣を向けるセイバーがいた。
そして、その奥に莫大な魔力を放つローブを纏った女。やっぱりサーヴァントの襲撃!
残りのクラスからキャスターかアサシンね。
「士郎さん!」
まどかは躊躇わず士郎に剣を向けているセイバーに矢を射る。
セイバーがその矢を切り払い、その隙に私は士郎の腕を掴み、逃げる。
「遠坂、鹿目!?」
「逃げるわよ!」
振り向く士郎を無理やり引っ張る。
「でも、セイバーが!」
やっぱり、なんらかの方法でセイバーをあのサーヴァントが奪ったのだろう。
あのセイバーが士郎に剣を向けるなんて、令呪に相当する強制力ね。
「諦めなさい! ああなったらどうしようもないわ!!」
今の状況であのサーヴァントからセイバーを取り返すのは容易ならざるを得ないだろう。
私たちは衛宮邸から飛び出す。
と、同時に、
「まどか、矢の雨!!」
「え、は、はい!!」
一瞬、士郎を申し訳なさそうに見てからまどかは天に向かって矢を射る。
「待ちなさいお嬢ちゃ」
と、先のサーヴァントが飛び出そうとして、
天から降り注ぐ矢に阻まれた。
吹き飛ぶ玄関、舞い踊る瓦や破片。
「お、俺の家があぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲痛な士郎の悲鳴が響く。ごめん、でも、今は生き延びることが優先よ!
「掴まってください!」
まどかがキャスターに背を向けて翼を広げる。
私達がまどかの手を取った瞬間、急激な加速に襲われ、一瞬で空高く舞い上がる。
そうして、なんとか私達はキャスターから逃げられたのだった。
「逃げられたかしら?」
まどかの右腕に掴まりながら私は後ろを向く。とりあえず、追ってくる気配はないけど……
と、思った瞬間、がくんと、失速した。
「まどか?!」
まどかを見れば、その背の光の翼が霧散していた。
まさか、もう限界?!
見る見るうちに高度が落ちていく。
ちょ、不味い! この高度から地面に落ちたら!!
慌てて重力軽減魔術や、物理保護を重ね掛けする。ま、間に合え!!
そして、私たちは中央公園に不時着した。
なんとか、あの落下から軽傷で済んだ私たちは私の家に逃げ込んだ。
「いったいなにがあったの士郎」
無理をさせ過ぎたまどかを寝かせながら士郎に聞く。今は少しでも情報が欲しい。
「実は……」
そして、士郎は話し出した。
あのサーヴァントはキャスターで、藤村先生を人質に衛宮邸を襲撃し、セイバーの令呪の譲渡を迫ったらしい。
もちろん士郎は断ったが、宝具の使用で魔力が枯渇し、弱体化したセイバーはキャスターに捕らえられ、妙な形をした短剣を突き刺されたらしい。
すると、令呪が士郎の手から喪われ、キャスターの腕に刻み込まれたという。
他者の契約を無効にする力……おそらくそれがキャスターの宝具ね。
「しかし、不味いわね」
まさか、そんな方法で他人のサーヴァントを奪うなんて。
どうしたものか。
「セイバー、俺がしっかりしていれば!」
悔しそうに士郎は拳を握りしめる。
正直、セイバーが敵に回ったのは痛い。まどかじゃ接近戦でセイバーに敵わない。
飛行魔術でアウトレンジからって手はあるけど、そしたら今度はキャスターの出番。
魔術師なら遠距離戦はお手のものだろうし、こんな風に行動を起こしたというなら、隠し玉がいくつかあるだろう。
はあ、情報が足りないわ。
「とりあえず、今は休むしかないわ。キャスターと戦うにしても、まどかが回復しないと話にならないし」
ランサー戦の直後にこれだ。しばらく戦えないだろう。
「そういえば、鹿目は大丈夫なのか?」
心配そうにまどかを見る士郎。
「大丈夫よ。少し無理させたけど、休めば回復するわ」
そう信じたいけど、ソウルジェムの回復に関してはまったくわからないのよね。
「そうか……」
と、士郎も納得してくれる。
とりあえず、私も休みたいし、士郎には客間あたりを使わせるかしらね。
翌日、まどかは昼に目を覚ました。
「心配かけてごめんなさい。それに、途中で墜落しちゃって……」
と、まどかは謝ってくる。
「いいのよ、あんな状況じゃ仕方ないわ。で、ソウルジェムの状態は?」
はい、とまどかはソウルジェムを取り出す。まだ、結構穢れが溜まっている。
「たぶん、夜までにはある程度回復すると思います」
そっか、まだ万全じゃないんだ。
「なあ、遠坂、ソウルジェムってなんだ?」
なんて、士郎が聞いてくる。
しまった。こいつがいたんだ。
「この子の宝具よ。それ以上は言えないわ」
一から十まで説明するつもりはない。なにせ、これからの作戦しだいでは、こいつはまたセイバーのマスターになるのだから。
わかったと士郎は頷く。
「それじゃあ始めましょうか。キャスターをどうするか。まどか、キャスターの正体に心当たりある?」
ライダーの正体を看破したこの子ならなにか知ってるんじゃないか期待して聞いてみたんだけど、
「はい、たぶん、メディアさんです」
やっぱりすぐ出たわね。
「メディアって?」
「コルキスの魔女、別名裏切りの魔女よ」
別名の通り、相当な人間を裏切ったらしい。それこそ実の弟ですらその身を引き裂いて捨て、追っ手を撒いたなんていう逸話もあるほどだ。
でも、裏切りか。なら、例の宝具は裏切りの象徴といったところかしら。
そして、私達は対キャスター戦の作戦を練り始める。
その最初で、
「キャスターさんは私に任せていただけませんか?」
と、まどかが言い出した。
「最初からそのつもりだったけど、どうしたのよ?」
元々、そのつもり、というか選択肢はそれしかないんだけど。
「私の宝具なら確実にキャスターさんを倒せます」
毅然とした顔でまどかは言い切る。
まさか、この子がここまではっきりと言い切るなんて思わなかった。
ランサーの時も「倒せる」じゃなくて「ゲイボルグならなんとかなります」だったし。
「それって、例のバーサーカーに使うつもりだった?」
私が尋ねるとまどかはふるふる首を振った。
「あ、いえ、それとは別のメディアさんが『魔女』だから効く方法です」
ああ、そういえばこの子が戦ってたのは魔女だっけ。
「なら、任すわ」
「え? 鹿目だけで、大丈夫なのか? こういうと、悪いけど、あのキャスターもとんでもない強さだろ?」
なんて、士郎が言ってくるが、私達には別の役がある。
「大丈夫よ。この子、こう見えても魔女狩りのプロフェッショナルなんだから」
嘘は言ってない。ただ、その魔女は士郎の想像と少し違うだろうけど。
「でも、セイバーさんは」
ああ、そのこと。
「大丈夫よ。セイバーは私と士郎が足止めするから」
と、私は士郎の話を聞いてからずっと考えていた秘策を語った。
『えっ?!』
士郎の話ではセイバーは元のマスターである士郎を斬ることを躊躇ったと言う。
なら、それを利用する。まどかがキャスターと決着をつけるまで、私達で足止めをする。
躊躇いのある剣なら、私達でも対処することができると思う。思いたい。
そして、私達は敵の本拠地であろう、柳洞寺に向かおうとしたんだけど、
「あ、すいません、遠坂凛さんですか?」
と、家を出た途端に声をかけられて振り向く。
そこに、金色の髪と端正な顔立ちをした美少年が立っていた。
「そうだけど、なに?」
いったい何者か。もしかしたら、キャスターに操られてるなんてことはないでしょうね?
「あ、僕、そこで変な人に伝言を頼まれたんです」
伝言?
いったいなんだ?
「『教会にキャスター』だそうです」
な!
「いったいどういうことよ!!」
気づけば私はその少年に掴みがかっていた。
「い、痛! し、知りませんよ。僕は伝言を頼まれただけなんですから!!」
「あ、ごめんなさい……」
慌てて手を離して謝ると少年はそれではと去って行った。
しかし、いったい誰が伝言を……まあ、今はいい。とりあえず、今はキャスターをどうにかしないと。
僕は角からこっそりと三人の様子を窺う。どうやら柳洞寺ではなく教会に向かうようだ。
よかった演技をしたかいがあった。
「まったく、大人の僕や言峰も、なんでこんなめんどくさいことを僕にさせるのかなあ」
~~~~
キャスター編です。セイバー√を中心に凛√を組み込めたらなあと思っています。
でも、まどかは裏切りませんよw