教会のそばの外人墓地に私たちは来ている。確か、綺礼の教えてくれた場所は……あった。
私は見つけた隠し扉のスイッチを押す。と、そばにあった墓が動き、隠し階段が現れた。
「教会にこんなものがあるんですか」
まどかが驚いたように呟く。
「ま、私たちのような人間なら当然の用心よ」
私も最初、綺礼に教えられたときは流石に驚いたけど。
そして、私たちは隠し階段から教会へと急ぐ。
さすがにまだここはばれてないとは思うけど、気を付けないと。
そして、地下から教会に侵入した私たちは慎重に中を探索する。
その途中、なぜか白いドレスを纏ったセイバーが倒れてるのを見つけた。
「セイバー!!」
「セイバーさん!!」
途端にまどかと士郎が弾かれるように飛び出した。
たく、罠かもしれないってのに!
だけど仕方ない。私もセイバーに駆け寄る。そっとセイバーを見る。かなり弱ってるみたいだけど……
「気絶してるだけみたいね。でも、よかったわ。なら敵はキャスターだけ」
「私がどうしたのかしらお嬢ちゃん?」
!?
膨大な魔力が込められた魔術が私たちに迫る。
咄嗟に私は宝石でブーストした防御魔術を発動させる。
ぐ! 想像以上に重い!! だけど……
宝石が砕けると同時になんとか、キャスターの魔術を相殺した。
「あら、驚いた。宝石に貯めた魔力で一時的にブーストしたのね。格下らしいやり方だけど、神代の魔術を防ぐなんて、褒めてあげるわよ」
と、嘲るようにキャスターが影から現れる。
は、格下ね。確かに、私の魔術ではキャスターに敵わないでしょうね。
「ずいぶん年寄り臭いこと言うわねお、ば、さ、ん?」
「おば!!」
私の言葉にキャスターが憤る。
と、そしたら、袖を引っ張られた。
「凛さん、さすがにおばさんって言うのは……」
と、難色を示すまどか。あのねえ……
「ふん、サーヴァントの方が礼儀を弁えてるわね」
どこか嬉しそうにキャスターがまどかに同意する。
はあ、まあいい。
「さあ、決着をつけましょうか、キャスター?」
私の言葉にまどかが弓を構え、士郎が木刀を構える。
すると、もう一人、影から現れた。え?
「ふむ……まさか衛宮と遠坂がマスターだったとはな」
現れたのはスーツを着た男。私と士郎にとっては学校で毎日見ていたその姿。私の担任である葛木宗一郎。
士郎もそうだけど、私も驚きを隠せない。まさか、他にも魔術師でない人間がマスターだなんて……しかも、またうちの学園の関係者。
聖杯戦争の舞台にあるとはいえ、なんかあるんじゃないのあの学校。
そして、葛木が構える。中国拳法をかじっている私だけど、まるで見たことのない構え。
武闘派教師とは呼ばれていたけど、その実力をこんな形で見ることになるなんてね……
「キャスター、衛宮は私が相手をする。お前はアーチャーを」
「はい、宗一郎様」
それを合図に動いた。
葛木は士郎に。対して私とまどかはキャスターに。
頼んだわよ士郎。まどかが宝具を使うまで葛木を足止めしといて。
「さてと、お嬢ちゃん、一応聞いてみるけど、あなた、私のものにならない?」
なんて、キャスターがいいだした。
は?
「バーサーカーを四回も殺す力を失うのは正直惜しいわ。こちらにこないかしら?」
なんてキャスターが言い出す。だけど、
「お断りします。私のマスターは凛さんです」
まどかはそう返した。嬉しいことを言ってくれるじゃない。
「そう、残念だ、わ!」
キャスターが攻撃魔術を使う。それを私が防御魔術で相殺する。
私たちの策は単純。まどかの宝具が発動するまで、私が宝石を使ってキャスターの魔術を防いで時間稼ぎをする。
でも、宝石だって限りがある。まどか早く!
なんとか、私はキャスターの魔術を防ぎ続ける。どんどん削れていく虎の子の宝石。
士郎も、なんとか葛木を足止めしてるようだけど、正直、そっちまで気をやれる余裕がこっちにもない。
そして、
「凛さん!!」
まどかの合図。どうやら、宝具の準備を終えたようだ。
振り向けば、強い輝きを放つ矢。相当な魔力が込められてるのはわかるけど、バーサーカーに使ったのと差がないように感じるんだけど……
「ふうん、バーサーカーを殺した矢ね。それで、私を倒すつもりかしら?」
キャスターが嗤う。
確かに、先の言葉からこれをすでに見ている。だとしたらすでに対策が立てられてる可能性もある。だけど、
「はい、キャスターさん……いえ、メディアさん」
「な、なぜその名を?!」
キャスターが初めて驚きをあらわにする。
まあ、真名を言い当てられれば当然ね。
「知っています。私が看取ったんですから。ここじゃない何処かで、いまじゃない何時かで」
静かにまどかは答える。看取った?
対し、キャスターが今までで最大まで魔力を籠めた魔術を発動しようとする。あ、あれは私じゃ防げないどころか、この教会が吹き飛びかねない!!
「消えなさい!!」
キャスターが叫び、魔術が起動する。
「円環の(マドカ)――――」
対し、静かにまどかはキャスターを狙う。そして、
「理(マギカ)!!」
真名を解放し、まどかが矢を放つ。走る一条の弓、それが、膨大な魔力の渦に触れた途端、キャスターの魔術が霧散した。
まるでなかったかのように。
「な?!」
慌ててキャスターが防御魔術を使うが、それもまどかの矢は無視し、キャスターに吸い込まれるように貫いた。
やったと思うと同時に、私の意識が引っ張られた。ここじゃない何処か、今じゃない何時かに。
ここはどこだろう。曖昧な意識の中で考えて、気づく。
視界の中で、紫のローブを纏った一人の女が泣いていた。それが誰なのか、私はすぐに気づいた。
キャスター、いえ、メディア。
彼女を意識した途端に私の中に情報が流れ込んできた。
なぜ彼女が泣いているのか、なぜ、絶望しているのか、胸を引き裂くような悲しみと絶望とともに。
な、によ、これ。
どこが裏切りの魔女だ。裏切られてるのは、裏切られたのは彼女自身じゃないか。
なんて……救われない。そう思ってしまう。だけど、
メディアの前にあの子が、まどかが慈愛に満ちた微笑みを浮かべて現れた。
――もう、いいんだよ。泣かなくて。あなたの思いは全部、私が受け止めるから。
不思議そうに自分を見るメディアをあの子は優しく抱き締める。
――あなたは、私を裏切らないでくれるの?
メディアの問いにまどかが頷くと、メディアはまるで母に抱かれた子供のように安らいだ顔になる。
私も自然と微笑みを浮かべていた。
――ありがとう……
それを見届けた直後に私は意識が薄れる。ああ、戻るんだとすぐに理解でき……
そして、気づけば私はまどかと並んで崩壊した衛宮邸の前に戻っていた。
え? なんで、ここに?
突然すぎて理解が追いつかない。
「ま、まどか、今起きたのっていったい……」
声をかけようとして、
「遠坂、鹿目!!」
士郎が家から飛び出してきた。
「せ、セイバーが!!」
セイバー?!
そして、まだ原型を保っている奥の道場でセイバーは寝ていた。
「気づけばここにいたんだ。令呪も戻っている」
士郎が腕の令呪を見せてくる。確かに失ったはずの令呪が刻み込まれていた。
なんだ、まるでキャスターがいなかったかのような……でも、家は吹き飛んだままだし。
「まどか、説明してくれるわね?」
私の言葉にまどかは頷いた。
そして、まだ寝なければならないはずのセイバーを含め、私たちはまどかの話を聞くこととなった。
「凛さん、ごめんなさい。私は一つ凛さんに嘘をついていました」
嘘?
「私の英霊としての真名は確かに名無しです。でも、一応存在します」
まどかは目を閉じる。そして、
「私の真名は『円環の理』、鹿目まどかという少女が全ての宇宙、過去と未来に存在する全ての魔女を生まれる前に自分の手で消し去りたいという祈りから生まれた存在です」
再び開いたまどかの瞳は金色に輝いていた。
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キャスター編終了、と同時にまどか正体晴らしです。
さて、円環の理の説明どうしよう?