それからまどかは話し始めた。彼女がいったい何なのかを。
「私が死んだこと、それがすべての始まりでした」
始まり?
まどかの死後、暁美ほむらはキュゥべえと契約し、まどかと出会う前までに時間を巻き戻したという。
また魔法に等しき現象ね。キュゥべえっての魔術師から見れば喉から手が出るような存在ね。
そして、時間を巻き戻したほむらと共に魔法少女連合を組み、ワルプルギスの夜に挑み、なんとかワルプルギスの夜を街から撃退したものの、マミは意識不明の重態で、まどかもほむらもボロボロだったという。
でも、生き残れたと喜ぼうとした直後、まどかは苦しみだしたという。
魔力を使いはたし真っ黒に染まったソウルジェム。それを見た時、まどかは理解したのだという、魔法少女が最期になにに成り果てるのか……
「魔力を使い果たし、極限まで濁ったソウルジェムは、グリーフシードになるんです」
な?! グリーフシードになる、それって、つまり……魔女になるということ。
「あ、あんた、消滅するって言ってたじゃない!!」
まさか、この子は私に嘘を言ってたって言うの?
それが、ちょっとだけショックだった。
「あ、いえ、嘘ではないんですけど、半分嘘というか……うう、私もキュゥべえみたい」
なんてまどかは悩みだす。
「とりあえず、話を続けますね……ほむらちゃんは私が魔女になった直後にまた時間を遡りました。そして、その世界で私たちに魔法少女が行きつく先を訴えました」
しかし、その訴えは届かなかったらしい。
それはそうだろう。いきなり自分がそんなものにいずれなるなんて信じられないし、信じたくないだろう。
だが、運命は残酷だった。その世界では魔法少女になっていた美樹さやかが魔女へと変貌したという。
必死に呼びかける仲間たち。だが、叫びは届かず、さやかはほむらに倒されたという。
結果的に仲間のせいでほむらの言葉が真実だと知り、マミが錯乱、仲間の一人杏子のソウルジェムを撃ち抜いたという。
ソウルジェムは魔法少女の魂。撃ち抜かれた杏子は当然死亡した。そして、次の標的となってしまったほむら。まどかはほむらを助けるために、マミのソウルジェムを射抜いた。
この子、セイバーの時といい結構シビアな選択ができるのね。
そして、真実を知ったまどかももう嫌だと諦めたが、ほむらに説得され、ワルプルギスの夜に挑んだ。
結果、ワルプルギスの夜を退けたものの、二人ともソウルジェムは濁りきったらしい。
だけど、まどかは最後にひとつだけとってあったグリーフシードで、ほむらのソウルジェムを回復させ、二つの願い事をしたのだ。
「過去に戻り、自分がキュウべぇと契約する前に止めてくれ」と。そして、魔女になりたくないから自分を殺してくれるようにと。
それからほむらはまどかとの約束のために、この子が魔法少女にならないよう時間を遡ったという。
時にはまどかが大切なものを助けるためにほむらの静止を振り切って契約をしたり、魔女に殺されたり、最悪の魔女になることを知った魔法少女に殺害されたこともあったという。そのたびにほむらは再び時間を何度もやり直したという。
その過程で彼女は知ってしまった。キュゥべえの目的を。
キュゥべえの本当の名前をインキュベーター、外宇宙からやってきた生命体だったという。
その目的は、宇宙の寿命を延ばすために熱力学第二法則に縛られないエネルギーを採取するためであり、自分たちが発明した「感情をエネルギーに変える技術」を用いることで、第二次性徴期の少女たちが絶望し魔女となる際に発生する、莫大なエネルギーを回収するという魔法少女のシステムを作り上げたという。
なんて、おぞましい……
士郎はくそっと悪態をつき、セイバーも怒りを露わにしている。でも、まだ途中だ。
「それで、結局どうなったの?」
そして、まどかは続けた。最後にほむらのたどり着いた世界でなにがあったのかを。
今までと同じように消えていく仲間たち。そして、聞かされた魔法少女の真実。
「全てを知った私は、ずっとずっと考えて、叶えたい願いを見つけました」
叶えたい望み……それが、全てに関わるんでしょうね。
「最期に私が願ったのは、全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を生まれる前にこの手で消し去ることです」
……なんですって?
もし、もしもそんな願いが叶ったのなら、その意味を理解し私はぞっとした。
私は……なんていうものを召喚したんだ?!
「あんた、自分がなにを願ったのかわかってるの?!」
知らず知らず私の声は悲鳴に近くなっていた。
「お、おい遠坂どうしたんだよ?」
私の声に士郎が戸惑いの声を上げる。
こいつ、わかってないのか、いや、当然かもしれない。
「いい、士郎、今のまどかの願いはね、もう時間干渉なんてレベルじゃないわ。それこそ因果律を組み替えるのに等しい行為。そんなことが叶うなら……『自分』なんて存在を保てない。未来永劫、魔女を滅ぼす概念になるということよ」
私の言葉に士郎はえっと声を漏らす。
セイバーも目を見開いている。
「英霊の座に近い、いえ、それよりも上位かもしれない。世界の法則に、言い換えれば神そのものになるってことなのよ」
そういえば聞こえはいいけど、死の方がよっぽど生易しい。
「あんた、それでよかったの?」
私の問いに笑顔でまどかは頷く。
「はい。ただ、私はみんなに希望を信じてほしかったんです。魔女と戦ってきたみんなが、希望を信じた魔法少女には最期まで笑顔でいてほしかったんです。それを邪魔するルールなんて変えたくて、壊したくて、だから、願ったんです」
そういって笑うまどかの顔には欠片の後悔も存在しなかった。
そして、願いを叶えてからの話をまどかはしてくれた。
願いを叶えた結果、まどかはその存在が一つ上の領域にシフトし、魔法少女たちが『円環の理』と呼ぶ概念へと成り果てた。
そして、多くの魔法少女が魔女になる瞬間に現れ、彼女たちの穢れや呪いを浄化し安らかな眠りを与えて行ったという。
「私はたくさんの魔法少女を看取りました。メデューサさんも、メディアさんもそのうちの一人です」
そうか、だからあの二人を知っていたんだ。
それから、まどかはセイバーを見る。
「もちろん、アルトリアさんも」
アルトリア、それがセイバー、いえアーサー王の本当の名。
まどかの言葉にセイバーは身を強張らせる。
「あなたは、私のことも知っているのですか?」
はいと頷く。
「だから知っています。みんなの願いは尊いものでしたとってもとっても、大切なものでした」
「ですが、私は……」
セイバーがなにかを言おうとして、
「間違ってません」
きっぱりとまどかは断言した。
セイバーが驚いたようにまどかを見る。
「アルトリアさんの願いは間違っていません。誰かのために頑張れるのはすごく大切で尊いものです」
セイバーは信じられないものを見る目でまどかを見つめている。
「私の知るアルトリアさんとセイバーさんは違うかもしれません。でも、私は誇ってほしいんです。セイバーさんの選んだ道を」
それからまどかは士郎に向く。
「そして、士郎さんも考えてください」
「俺?」
「……その、士郎さんってすっごくマミさんやさやかちゃんにそっくりだって私思ってるんです」
だから、心配でってまどかはつぶやく。
ああ、確かに、話を聞く限り似ている気がする。
「士郎さん、誰かのためにがんばるのはすっごくいいことだと思うんです。でも、気を付けてください。そして、思い出してください。士郎さんが傷つけば悲しむ人がいると言うことを」
そして、話は終わった。
セイバーは再び深い眠りに落ち、士郎は悩むように顔を伏せていた。
あ、そういえば、
「なんでセイバーがここに戻ってるの?」
肝心なことを聞き忘れていた。
今ので魔女を円環の理に導いたとも取れるけど、それでは私たちの記憶が残ってたりするのは変だ。
「そういえば、なんでだ?」
と、士郎も聞いてくる。
「えっと、私の宝具『円環の理』でメディアさんは『英霊の座』に行く前に私の方に導きました。聖杯戦争は英霊の座にいる英霊をコピーして召喚しますから、円環の理にいるメディアさんは召喚されなくなります」
そうか、行先を変えることで聖杯戦争に召喚されなかったことにしたのか。それなら、キャスターの起こした行動は全部なかったことに……って、
「それじゃあ、なんで私たちの記憶があるのよ? それに、七騎揃ってないのに聖杯戦争が続いてることになってるのよ?」
その問いにまどかは悩み、
「私がいるから……でしょうか?」
はあ?
「えっと、どうも、私の起こしたことに関してはなかったことになってないみたいなんです。だから、もしかして、私を通して聖杯は「キャスターは倒された」って認識しているんじゃないでしょうか? すいません、曖昧なこと言って、こういうの初めてですからよくわかりません」
うーん、まどかにもわからないって……まあ、それで納得するしかないか。確かに衛宮邸半壊はそのままだし。
しかし、私たちは知らない。キャスターがいなくなったのに聖杯戦争が続く本当の理由を……
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いえ~、なんか説明これで大丈夫なのと思う今日この頃。
そして、セイバーや士郎も。別にした方がよかったかなあと。
でも、こういう話をするのもこのタイミングしかないですし。う~。