それから、私はセイバーと士郎の問題を解決するために一度、家に戻り、セイバーの不調を解決する手段が他にないか調べていた。
まどかが家を吹き飛ばしたことを責められたくないから逃げたのではない決して。
だが、特に収穫もなく、衛宮邸に戻り……士郎が誘拐されたのを知った。
たく! あのバカ!!
「あの、士郎さんはいったい誰に……」
と、まどかが聞いてくる。
「魔力の残滓からこれは……イリヤスフィールね」
よりにもよってあいつのところか……どうする?
たぶん、士郎は無事ね。なんか、イリヤはずいぶんあいつにご執心みたいだし、いきなり命を奪ったりはしないだろう。
でも、対してこちらは救出するとはいえ、セイバーは限界だし、まどかもキャスター戦の消耗から完全に癒えているとは言えない。
「お願いします、リン、マドカ、図々しい頼みとはわかっていますが、どうか士郎を救う力を貸してください!」
と、セイバーが頭を下げてくる。そして、
「凛さん私からもお願いします!」
まどかまでそんなことを言い出した。
あー、たく、仕方ないか。どうせ、バーサーカーとはいつか戦わなくちゃいけないんだし……腹を括るしかないわね。
「ええ、士郎を助けに行きましょう」
そうして私たちはイリヤの本拠地である城のある森に訪れ、彼女が城から出た隙に城の中に潜入した。
この森と城はなんでも第一次聖杯戦争の時にアインツベルンの当主が当時の遠坂の当主の協力で丸ごと買い取ったらしく、文字通りイリヤスフィールのテリトリーと言って良いだろう。
慎重にいかないとね。
そして、士郎の居所を探って行って、
「動くな!」
なんて人影が飛び出したのと、セイバーが、
「士郎!」
と、その相手、士郎がセイバーに押し倒されたのは、ちょっと笑うと同時に安心した。
そして、私たちは城から脱出しようとして、イリヤスフィールとバーサーカーにお出迎えされることになってしまった。
出て行ったのはフェイク。実際はとっくに私たちの潜入がばれて待ち構えられていたのだ。
あー、うん、イリヤの言うとおり、本拠地だったらそういった備えがあるでしょうね。細心の注意は払っていたつもりだけど、イリヤの方が上手だったわね。
しかし、どうすればいい? 先も言った通り、セイバーは現界してるだけで精一杯。まどかもあの矢をバーサーカーに撃ちこめるかどうか……
私は必死に頭を回してこの状況を打破する方法を考えて、まどかが私達の前に出た。
「まどか?」
「凛さん、私の宝具を使って時間稼ぎをします。その間に脱出を」
なっ?!
「あんた、まさか」
私達を逃がすための犠牲に、
「大丈夫です」
そして、まどかに、いや、その前の空間に魔力が集まる。それは、どこかサーヴァントの召喚に似たものを私は感じた。
いったい?
「来て、『私の最高の友達』(ほむらちゃん)!」
まどかの呼びかけとともに、彼女は現れた。
黒く長い髪の鋭利な美貌を持った少女。何度も夢に現れた彼女は、
「暁美、ほむら」
私は自然と彼女の名前を呼んでいた。
彼女は髪をかきあげながらバーサーカーを睨む。
「あいつを倒せばいいのねまどか」
どこからともなく拳銃を取り出しながら自分の役目を尋ねるほむら。
「倒せなくても、みんなが脱出できればいいかな」
と、まどかは答える。
「わかったわ。なら、早く行きなさい」
ほむらの言葉にまどかは頷く。
「いきましょう凛さん」
そうね。この子がどれだけの実力の持ち主かは話を聞いただけでわからないけど、まどかが足止めできるって言うなら、信じよう。
「鹿目いいのか! 友達なんだろ?!」
だが、士郎がそんなことを言い出した。
たく、こいつは。
「あのね士郎」
「余計な心配よ。邪魔だからさっさと行きなさい」
私が士郎に言う前にほむらが言い放った。
「だけど、バーサーカーは」
「知ったことじゃないわ」
なお士郎が言い募ろうとしたが、ほむらはばっさり切り捨てる。
「いつまで言い争ってるの?」
イリヤが私達を睨む。
「誰も逃がさないんだから、行きなさいバーサーカー!」
イリヤの指示にバーサーカーが雄叫びを上げて、突撃しようとして、その足元で爆発が起きた。
爆発自体ではダメージを受けたようには見えなかったが、足元にできた窪みに足を取られバーサーカーが勢いよく倒れる。
「行きなさい!」
その言葉に弾かれるように私達は士郎を引っ張り走り出した。
城からだいぶ離れたが、いまだに幾度も響く爆発音。
相当派手にやってるみたいだけど、いったいどんな戦いかたを?
「まどか、本当によかったの?」
つい、私は聞いてしまった。
あの子はまどかにとって大切な友達のはずなのに。
「大丈夫です。ほむらちゃんは強いですから!」
と、まどかは心配のかけらもない笑顔で答えた。
ほむらは愛銃の弾を全弾バーサーカーに撃ちこむ。が、欠片の傷もバーサーカーにはつかない。
すぐに拳銃をしまうと、続いて機関銃を取り出し、イリヤと軸線を合わせ乱射した。
が、当然のようにバーサーカーは割って入る。もちろんほむらもそれは予想済みではあった。
神秘の欠片もない現代兵器ではバーサーカーの守りは突破できないが、マスターを守らせることで少しでもバーサーカーの動きを制限するためだった。
だが、バーサーカーはそれを意に介さずほむらに迫る。
「■■■■■―――!!!」
迫る斧剣を避けるが、代わりに機関銃をバーサーカーに粉砕されてしまう。
だが、その直後にほむらは彼女だけに許された力、時間停止の魔法を使用。
止まった時の中で、彼女だけ動く。
まず、バーサーカーを包囲するように爆弾を設置。それから、バーサーカーから距離を取ってから時を動かす。
動き始めた時間、バーサーカーの足元の爆弾が同時に爆発した。
その爆発ではバーサーカーにダメージは与えられない。だが、彼女の策は別にあった。
床が破壊され、バーサーカーが階下に落ちかける。
咄嗟になんとか淵に掴まるバーサーカー。
そんなバーサーカーに容赦なくほむらはバズーカで追撃をかけ、ダメージはなくともその爆発でバーサーカーは下に落ちた。
「まだよ」
そう呟き、ほむらはその孔からバーサーカーを追った。
いったいどれだけ戦っただろうか、朝日が差し出した頃には、かつて城だったものは無惨な瓦礫の山と化していた。
そして、そんな惨状を作った片割れであるほむらは、息を切らしながらバーサーカーを睨み対峙していた。
あれから、彼女は一度だってバーサーカーの命を削ることはかなわなかった。神秘を持たない現代兵器ではバーサーカーを殺すことは不可能であった。
しかし、RPGの弾幕、仕掛け罠、時には閃光手榴弾というバーサーカーにダメージを与えることのできないはずの現代兵器を駆使し、最狂と謳われた彼相手にここまで戦った事実は驚嘆に値する。
だが、その彼女もすでに限界に達していた。
時間停止の多用で魔力は残り少なく、ほぼ全ての武器を使いきり、あとは切り札を一枚残すのみ。
「ふん、なかなかやるわねあなた。まさか、そんなものでバーサーカーをここまで足止めできるなんて思いもしなかったわ」
イリヤも純粋に目の前の少女に感心していた。
「でも、遊びはもう終わり。やりなさいバーサーカー!」
満身創痍のほむらにバーサーカーが迫る。
対し、ほむらは切り札を切った。
ほむらの意思に従い、それが威容を顕にする。
「タンクローリーよ」
ほむらの意思に従い走り出すタンクローリーはその質量を武器にバーサーカーへと突貫する。
「■■■■■■■―――――!!!!」
バーサーカーはそれを真っ正面から受け止めた。
だが、ほむらにとって、止められることはすでに折り込み済み。
本当の目的は、
爆発するタンクローリー。
大きな火柱が上がる。
それでもバーサーカーを傷つけることは敵わない。だが、すでに目的を達していたほむらはその爆発を目眩ましに、まどかの待つ場所へと全速で向かうのだった。
なんとか、事前に逃げ込む予定だった廃屋で、限界となったセイバーを助けるために、士郎の魔術回路を移植することになった。
それは、私が考えていた最後の手段。下手すれば士郎の魔術師としての人生が終わる。
だが、士郎は躊躇なくそれを選択した。ここを生き残るためだと言って。
そして、回路の移植のための準備をしていたら、まどかは真赤になって廃屋の外に逃げ出してしまった。
あー、あの子には少し刺激が強すぎたかしらね。
結果だけ言えば士郎の魔術回路はセイバーへ宿った。それは同時に士郎の魔術師としての力を失ったということだったが、本人はあまり思いつめた様子はなかった。
意外と大物なのかしらね。そして、
「まどか」
私たちが隠れている廃墟にあの子、暁美ほむらが現れた。
「ほむらちゃん!!」
まどかが駆け寄る。
その彼女はぼろぼろだった。大きくはないが、決して小さくない傷が体中に残っている。
バーサーカー相手にここまで時間稼ぎしてくれたなんて……とんでもない少女ね。
「ありがとうほむらちゃん」
「私からも礼を言うわほむら」
するとほむらはぷいっとそっぽを向く。
「別に、どうってことないわ」
照れてるのかしら? なら、冷めてるように見えて意外とかわいいところがあるのね。
「じゃあ、また」
と、まどかが手を差し出す。
「ええ、また」
そういってほむらがまどかの手を取るとほむらは光となって消えた。
「さてと、最低限準備は整った。バーサーカーを迎え撃つわよ」
「はい!」
「ああ!」
「ええ」
そこで、私たちはバーサーカーを迎え撃つこととなった。
そして、イリヤとバーサーカーが現れた。
「ふーん、逃げるのやめたんだ」
と、イリヤが小ばかにするように笑う。
「ああ、ここで決着をつけようイリヤ」
士郎が答える。
セイバーが剣をバーサーカーに向ける。
宝具は無理でも戦えるだけ回復してくれて助かったわ。まどかだけじゃ勝てるかどうかわからないし。
「そう、なら……行きなさい、バーサーカー!!」
バーサーカーが迫る。セイバーが飛び出す。
対し、まどかはじっと動かない。 集中しているのだ。宝具を使うために。
セイバーの剣とバーサーカーの斧剣が幾度も交差する。あまりに強大なバーサーカーの暴風を掻い潜り、なんとか、セイバーは命を繋いでいる。
一つでも手を誤れば容易くその力はセイバーを、そして、後ろにいる私たちの命を奪うだろう。
まだ、まだなのまどか!
そして、
「行きます。これが、私の宝具『魔法少女連合』(マギカ・カルテット)!!」
真名解放、そして、まどかの後ろに、私たちの知る術式とは全く異なる魔法陣が展開される。
そこから、五つの影が現れた。
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バーサーカー戦です。
ほむらって能力値は低くても、絶対最強クラスです。だから、ここまでバーサーカーを足止めしていただきました。
次回、魔法少女連合による巻き返しが始まります。