現れたのは、四人の魔法少女と一匹の獣。
「まどか、お待たせ」
さっきとは違う、リボンで髪を結び、その手にまどかと似た弓を携えたほむらが小さく笑う。
その肩にはあのキュゥべえという白い生き物。
「助けに来たよまどか」
青い髪の少女、さやかが剣を片手ににかっと笑う。
「鹿目さん、今度は私が助ける番ね」
黄色い髪の大人びた少女、マミがマスケット銃を片手に優雅に微笑む。
「はっ、そんなの関係ないね。友達だから助けるんだろ?」
と、槍を担いだ赤い髪の少女、杏子がポッキーを咥えながら笑う。
それを、まどかは嬉しそうに笑う。
「ほむらちゃん、さやかちゃん、杏子ちゃん、マミさん、みんな、来てくれてありがとう!」
それからキュゥべえがほむらの肩から降りる。
はあ、なんとかなったわ。
なんとか、踏ん張ろうと足を踏み直す。足元の砕けた宝石の残骸がじゃりっと音を立てる。
ソウルジェムの濁りはある程度私も肩代わりできる。
だから、事前に宝石を使いブースト。その魔力でできる限りまどかの宝具使用をアシストした。
たく、お陰で取って置きの宝石もストックがだいぶ少なくなってしまった。
まあ、でも、これを切り抜けられるなら十分な代償ね!
「って、キュゥべえは?」
なんて、マミが呟いて思い出した。
なんでか、あのどぐされなんちゃって使い魔もいたけど、どこに……あ、いた。
イリヤの目の前に。
「やあ、僕はキュゥべえ。僕と契約して魔法少女に、きゅっぷい!!」
ぐしゃっと、バーサーカーに踏み砕かれていた。
バーサーカーが足を上げると、そこにぐちゃぐちゃになったキュゥべえ。
「まったく、僕を殺すなんてどうかしてるよ。無意味に潰されるのは困るんだよね。勿体ないじゃないか」
そして、どこからかもう一匹のキュゥべえが現れてその死骸を食べた。
話には聞いてたけど、実際見るとあれだなあ。
まどかたちは慣れているのか、それを無視して武器を構える。
「行こう、みんな!」
「ええ」
「りょーかい!」
「おう!」
「ええ!」
五人の魔法少女がそれぞれの武器を片手に駆け出した。
「はあ!」
「せえい!」
さやかと杏子が一気にバーサーカーに迫り、剣と槍を振るう。
杏子は持ち前の身のこなしを活かしてひらひらと、対しさやかはギリギリでの回避。
まどかもそうだけど、二人とも訓練を受けたように見えない。それでも、バーサーカーの攻撃を避け、攻め込めるのは、彼女たちも数多くの修羅場を潜り抜けてきたからだろう。
そこにマミがマスケット銃による援護。
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。弾切れになった銃はすぐに投げ捨て、次々とそばに突き刺した装填済みの銃を取り、撃ちこむ。
それらは、狙いたがわずバーサーカーに突き刺さるが、堪えた様子はない。やっぱり、バーサーカーの守りは強力か。
ほむらもまどかに似た弓を射るが、それもだ。
「はあ!」
そこにセイバーが切り込む。
援護があるお陰か、先よりも深く踏み込んでいるように見える。より重さの増した斬撃にバーサーカーの巨体も少しだけ揺らめく。
そして、セイバーに意識を向ければ、さやかと杏子の攻撃に曝され、そっちに意識を向ければ、マミやほむらの援護が突き刺さる。
取り敢えず、互角に戦えている。でも、これからどうなるのか。
「やあ! と、うわ!!」
そう考えたとき、さやかが飛び出し、深く踏み込んで斬りかかる。
が、バーサーカーの体に剣が弾かれ、逆に体勢を崩してしまった。
「さやか!」
杏子とマミの援護が入るが、それを一顧だにせず、バーサーカーはさやかに斧剣を振るう。
そして、なんとか回避しようとしていたさやかの右の腕と足を斧剣がぐしゃぐしゃに引き裂いた。
「な、大丈夫か!?」
その光景に士郎が飛び出そうとして、ってあんた!
「止めなさい!!」
なんとかそれを私と、魔力を温存していたまどかが押し留める。
「あんた死ぬつもり?!」
「でも、あの子が!」
そんなこと言って状況をまったくわかってない!
無鉄砲で人助けが趣味とは理解してたけど、ここまで考えなしだなんて思ってなかったわよ!
「足手まといのあんたが割って入っても犬死によ!」
それだけじゃない。こいつを庇って他の子やセイバーまで危機に陥る可能性だってあるのだ。
それすらわからないの!?
すると、セイバーたちを援護していたほむらがこっちに来た。そして……士郎の頬を叩く。
「な、なにするんだ!?」
そんな士郎を刺すような目でほむらは睨む。
「あなた、いい加減にしなさい。命を懸けるのと命を捨てるのはまったく違うわよ」
見た目は私たちよりも年下だけど、トーンを落とした声は十分な迫力があった。
士郎もぐっと息を詰まらせる。
「それに、さやかちゃんは大丈夫です!」
と、まどかが訴えると同時に、
「うおりゃあ!!」
倒れ伏していたはずのさやかが飛び出す。
その半身は傷一つなくなっていた。まどかよりも再生が早い!
「さやかちゃんはその祈りでどんな怪我もすぐに治せるんです!」
そして、膨大な魔力を帯びた巨大な剣がバーサーカーを両断する!
「■■■■■ーーー!!」
バーサーカーはすぐにその傷を治癒してしまうけど、これで一回削った!
しかし、命を失ったことにすら頓着せずにバーサーカーはさやかに向かって斧剣を振るう。
だが、今度はその身を黄色いリボンと鎖ががんじがらめに拘束する。
マミと杏子だ。
あっさりとバーサーカーはその拘束を引き千切るが、さやかが離脱する時間は稼げた。
だが、それだけで止まらない。
マミが巨大な大砲を呼び出し、両手で構える。
「まだよ、ティロ・フィナーレ!!」
それが火を吹き、バーサーカーの顔面を噴き飛ばす。
二回目、残りは六!
ここだ、ここで押し切るしか勝機はない!!
「お次はこいつだ!」
そう叫んで、祈るように両手を合わせた杏子の後ろから巨大な、バーサーカーも上回る大きさの槍が現れる。
それが、龍のように鎌首をもたげて、顎を開く。その上に杏子は乗って、槍を構える。
「行けえ!!」
龍が走る。
それをバーサーカーが真正面から斧剣で迎撃しようとして、
「はあ!」
セイバーの一撃に体勢を崩され、さらに、マミのリボンが斧剣を縛り上げる。 そのまま、龍は無防備なバーサーカーの胸を貫いた。
これで、三!
バーサーカーが胸を貫く槍を引き抜き、捨てる。
「なにをやってるのバーサーカー! もういいわ、遊びは終わりよ! 狂いなさい!!」
「■■■ぉ■o■■――――――!!!!!」
なっ!? あれだけの力で今まで狂化してなかったっていうの?!
私たちはバーサーカー、いや、ヘラクレスという英雄の強大さは理解していたつもりだった。
だが、一つ大きく見誤っていた。
その強大さ故に、すでに彼は理性を失うのを引き換えに強大な力を奮っていると。だけど、違った。そう誤解してしまうほど、ヘラクレスは強大だった。
そして、その言葉は正しくバーサーカーの動きは、より鋭く激しさを増した。
変わらず技術の欠片もないただの暴力。だが、圧倒的な力の前に技術なんて無意味と突きつけられる。そう、どれだけ力を持とうとも人間が災害になすすべがないのと同じように。
その暴力の前にすでに、さやかと杏子は近づくことも叶わない。
ただ、セイバーだけは立ち向かう。強大な敵に立ち向かう彼女の姿はまさに英雄に相応しい姿だ。
古今東西、多くの英雄たちは自らより強大な敵に立ち向かった。ただ、一度のチャンスに己が全てをかけて。
まさに、これは神話の再現……いえ、違う。そうだ、私達は、その神話を越える!
そして、その時は来た。
膨大な魔力を編んだ矢をまどかとほむらが構える。
今日、三度目の宝具解放! 倒れそうになるのを必死に耐える。正直、これ以上はまどかもだが、私ももたない。
決めなさいよまどか、ほむら!!
バーサーカーが雄叫びを上げながらまどかたちに迫る。自らの命を脅かすものに感づいたのね。
だが、再びマミと杏子の拘束がバーサーカーを押し留めようとする。しかし、それも狂化したバーサーカーにまるで意味をなさない。
それでも、
「行かせないわ!!」
マミの背後に現れた大量のマスケット銃が一切に火を噴く。
「やらせるかよ!」
距離を開けながらも杏子が多節棍やフレイルでバーサーカーを打ちすえ、
「うりゃあ!」
さやかが呼び出した剣を投げつける。って、それ形状からして黒鍵みたいに使うもんじゃないでしょ!
「はあ!」
そして、セイバーの斬撃についにバーサーカーの体がぐらつく。
「いくよ、ほむらちゃん!」
「ええ、まどか」
そして、二人が申し合わせ、矢を放つ。
空中でその矢は絡み合い、バーサーカーに迫る。そして、体勢を崩したバーサーカーにその矢が突き刺さった。
弾ける魔力、光の中にバーサーカーが飲み込まれて消える。
やった!
ほむらの矢はまどかに匹敵する魔力が籠められていた。それでバーサーカーを何回殺せるかわからないけど、同時にまどかの矢も入った。
なら、バーサーカーの命を八回削りきった!!
だけど、その光の中から野太い腕が突き出された。
「ほむらちゃん!」
咄嗟にまどかはほむらを突き飛ばすが、代わりにその腕に捕まってしまった。
そう、バーサーカーの腕に。
そ、そんな。
「驚いたわ凛。まさか、あなたのサーヴァントが七回もバーサーカーを殺すだなんて」
七回、ですって?
さやか、マミ、杏子の三人が一回ずつバーサーカーを殺した。なら、まどかとほむらの攻撃はバーサーカーの命を四回しか削れてないって言うの?!
いや、四回でも十分な回数ではある。でも、まどかの矢は以前四回もバーサーカーの命を削っている。なら、四回以上のダメージがないとおかしい……
そこまで考えて一つの可能性に気づいた。まさか、そんな……
私の考えに気づいたのか、イリヤスフィールが笑う。
「気づいたようね。そうよ十二の試練は自分を殺し得た力に耐性がつくのよ。だから、アーチャーの矢はバーサーカーにはもう効かないのよ」
そんな……命のストックがある化け物なのに……
勝てない、その事実に絶望しそうになる。だけど、まだだ考えろ。バーサーカーの命は後一つのはず。なんとかしてそれを削れれば……
「それと、もう一つ、誤解があると思うから言っておくけど、そのストックも時間をおけば回復するわ。並みの魔術師なら一生分の魔力をかけて一つ程度でしょうけど、私なら一日で二つ。だから、今のバーサーカーの残りの命は一つじゃなくて五つあるの」
そ、んな……
イリヤの言葉に目の前が真っ暗になりそうな錯覚を覚える。
「じゃあ、もういいかな。正直、思った以上にあなたたちも面白かったけど、もうおしまい。潰しちゃいなさいバーサーカー」
「あ、くぅ……っ」
バーサーカーの腕に掴まれたまどかが悲鳴を上げる。
たとえ体が半分に断たれてもソウルジェムがあればまどかは死なない。
でも、その状態から回復するのに時間はかかるし、なによりもソウルジェムの濁りが……
「まどか!!」
「畜生、まどかを放せ!!」
ほむらたちがバーサーカーを攻撃するけど、まったく効いてない。イリヤの言葉が正しければすでに彼女たちの攻撃に耐性がついてしまったのだろう。
だが……突然、突風が起きた。
その源を向けば、セイバーが光り輝く剣を持っていた。まさか、宝具を使うつもり?!
でも……その顔は苦渋に染まっていた。
「ふうん、セイバーずいぶん苦しそうね。もうそうしているだけで限界かしら?」
イリヤの言うとおりだ。とてもじゃないけど、今のセイバーは宝具なんて使えない。もし撃てたとしても、セイバーはその身を維持できなくなるだろう。
「万が一撃てたとしても、それで、バーサーカーの残りの命を全部削りきれるかしら?」
「ぐっ!」
そして、セイバーが片足をつく。最期の希望も潰えた。
もう、本当に打つ手がないの?
「ばいばいアーチャー」
イリヤが残酷に笑って……
「────投影開始(トレース・オン)!!」
え?
その声に振り向こうとして、赤い外套を纏った士郎がバーサーカーへと向けて疾走する。
その手には黄金の装飾に彩られた目も眩む輝きを放つ一振りの剣が握られていた。
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バーサーカー戦中盤です。
次回、スーパープリズマシロウタイムです。
……自分で書いといてあれだけど長い名前。