「■■■■■■ーーーー!!」
バーサーカーが斧剣を振るう。
「はあっ!」
大気を切り裂き、凄まじい破壊力の籠った一撃をセイバーが不可視の剣を持って弾く。
いくらセイバーの技量を持っても、斧剣を弾けるとは思えない。他にもなんらかの力、おそらくは剣のなにかが働いているのだろう。
さらにバーサーカーが斧剣を振るう。それは狂戦士の名の通り、技もなにもないただの暴力。
しかし、同時にその攻撃は、いかなるものも粉砕せしめる力だった。
だが、その猛威に臆することなくセイバーは立ち向かう。
その表情に焦りも恐れもない。その可憐な姿でバーサーカーに一歩も怯まない姿は美しく、そして、恐ろしかった。
あまりに、非現実的な光景に私と衛宮くんは動けなかった。それは神話の戦い。ただの人間にはとてもじゃないが、割り込む余地はなかった。
そこに数条の光の矢が走り、バーサーカーに突き刺さる。
アーチャーの援護。
絶大な魔力が込められた攻撃は、しかしバーサーカーを傷つけられない。
すると、アーチャーはバーサーカーの足元を攻撃した。足に矢が突き刺さり、地面を破壊する。バーサーカーの体勢が若干乱れる。
そうか、攻撃が効かないなら体勢を崩したのね。
その僅かな乱れを見逃すセイバーではない。
乱れた剣先を避け、セイバーはバーサーカーの懐に入る。あそこまで近づかれたら、バーサーカーは反撃できない!
「はああああっ!」
「お願い!」
セイバーの渾身の一撃が、バーサーカーを切り裂き、アーチャーの先程より強い輝きの矢が射抜く。
やったと、私は震える手を握りしめる。あれなら、倒せないまでも、きっと!
だが、それは私の儚い願望だった。
並みのサーヴァントならきっと倒れている二撃を喰らいながら、バーサーカーは倒れなかった。僅かに揺らいだだけ、その身に小さな傷を与えただけ。
「そんな!」
あまりの現実にそう洩らしてしまったのに対して余裕の笑みでイリヤは笑う。
「当然よ。バーサーカーは無敵なんだから」
イリヤの言葉には絶大な自信と信頼がこもっていた。
「■■■■■ーーーー!!!」
そして、それに答えるようにバーサーカーが、最も近く、渾身の一撃の隙を突かれたセイバーに斧剣を振るう。
「セイバーさん!」
咄嗟にアーチャーが弓を射る。それは、バーサーカーではなくその斧剣を射抜く。
うまい、本体に効かないなら武器を。先の足元への攻撃といいアーチャーは冷静だった。
振るわれた斧剣がぶれるが、その勢いは凄まじく、私たちまで風圧が届く。
「ぐうっ!」
なんとかセイバーは直撃を避けたものの、バーサーカーの力で十数メートルもセイバーは吹き飛ばされる。
直撃を避けたって言うのになんという馬鹿力。
「セイバーさん、大丈夫ですか?!」
「ええ、戦闘に支障はありませんアーチャー」
アーチャーが駆け寄り、セイバーは立ち上がる。
「あの、セイバーさん……」
そして、何事か相談する二人。
その間にもバーサーカーが迫る。
「ええ、わかりました」
そう答えてセイバーはバーサーカーに突っ込む。アーチャーは数射援護してから、距離を一定に離す。
いくらセイバーといえど一人ではバーサーカーの猛攻を捌ききれるものじゃない。これまで拮抗できたのは即席とはいえ、二人のコンビネーションが上手くいってたためだ。
それを止め、いったいなにをするかと思い、アーチャーは弓の弦を引き絞る。だが、そこに込められた魔力も、アーチャーの雰囲気も全然違う。
まさか、宝具を使うつもり?!
そう考えた瞬間、体から力が抜けていく。
一気に魔力がラインを通じてアーチャーへと奪われていくのがわかる。折れそうになる膝を必死に立たせる。
「お、おい遠坂!」
心配そうに声をかけてくる衛宮くんを手で制する。弱みを見せるわけにはいかない。
「バーサーカー!」
アーチャーの意図に気づいたのか、初めてイリヤの声に自信以外の感情が籠った声を上げる。
その指示によるものか、はたまた本能的に自身を倒しうる力と感じたのか、バーサーカーはアーチャーへと向かう。
「させませんっ!!」
バーサーカーを足止めしようとセイバーが割って入るが、その表情には若干の焦りが浮かび、動きに余裕がなくなりつつあった。
二人でやっと拮抗してたというのに、一人で足止めをしないとならないのだから当然だった。
アーチャー早く!
そして、
「セイバーさん!」
アーチャーの声にセイバーはバーサーカーの足を切る。
傷は負わせられなかったものの、バーサーカーの体勢を崩すのに成功し、離脱するセイバー。
そして、アーチャーが弓を解き放ち、桃色の光が一直線にバーサーカーへと迫る。
バーサーカーはなんとか斧剣で受けるが……弾かれ、その無防備になった胸にアーチャーの矢が突き刺さった。
一気に莫大な魔力が解き放たれ、巨大な、天すらをも貫く光の柱が上がる。
それは必殺の一撃のはずなのに温かく、優しい光。呆然と私は……いや、私だけでなく隣にいる衛宮くんも、セイバーも、イリヤですらその光に目を奪われていた。
そして、光が収まると、崩れ落ちたバーサーカーが現れる。
今度こそやったと思った。今のバーサーカーは骸だと。
ぎりっとイリヤが歯ぎし、こちらを睨んでから、笑みを浮かべる。
「すごいわねリン、あなたのサーヴァント」
負け惜しみをと私は笑おうとして、
「まさかバーサーカーを四回も殺すなんて」
な、に?
骸になったはずのバーサーカーを見る。サーヴァントが死んだなら、消滅するはず……だが、違った。
アーチャーの一撃でぼろぼろになった体がゆっくりと逆再生のように元に戻っていく。な、なんで!!
再生、その上四回殺した? どういう意味?!
誰もかれもが動揺を隠せない。
「教えてあげるリン。バーサーカーの真名はヘラクレス。十二回殺さなければ死なないの」
イリヤの言葉に、バーサーカーの正体に愕然とする。
先も述べたけど、本来バーサーカーは弱い英霊を強化するためのクラス。ヘラクレスなんていう存在をバーサーカーとして召喚した? でたらめにもほどがある。
「大英雄ヘラクレスは神に与えられた十二の試練を乗り越えて不死の権利を得た。そして、バーサーカーは乗り越えた死の数だけ命のストックがある。それがバーサーカーの宝具『十二の試練』」
サーヴァントの肉体そのものが宝具だなんて……
もしその言葉が本当なら、単純計算あと二回今の攻撃を与えないとならない。しかし、一度食らった攻撃をそう何度も食らうことはないだろう。
なにより、その前に私が先に倒れる。そう言えるだけの魔力を持って行かれてしまった。現に今にも膝を付きそうなのだ。
だが、そんなことはしない。屈しそうになる膝に活を入れ、背筋を伸ばし、こちらの弱みを見せつけないようにする。
「ねえ、リン。本当はあなたのことなんてどうでもよかったけど、少し興味がわいたから今回は見逃してあげる」
「なんですって?」
この場に不釣り合いなまでに無邪気な笑み。だが、そこに込められたのは絶対的な自信。
たとえここで見逃し、こっちが対策を立てたとしてもいつだって私たちを殺せるという自信だ。
「それじゃあまた遊ぼうね」
そう言い残してイリヤは完全に元に戻ったバーサーカーとともに姿を消した。
それを見送り、力が一気に抜ける。それは衛宮くんも同じで嫌な汗をかいている。
一矢報いることはできたけど、ほとんど完敗に近い結果。
見逃されるという、こちらの自尊心を粉々に打ち砕かれ、でも、それに安心した自分がいて、なお悔しかった。
~~~~
バーサーカー戦終了、ちょっと強力すぎる気もしないでもないですが、ワルプルギスの夜を一撃で倒したことを考え、これくらいかなあと。
あと、テンプレというご指摘もありましたが、甘んじて受け止めます。
基本まどかが要所要所で介入する以外、本編とさほど変わらないプロットなので。
ちょっと見直ししておこうかな。