同盟を結ぶということで、衛宮くんの家に聖杯戦争の期間居候することにした私達は家に荷物を取りに私は戻った。まあ、用事はそれだけじゃないけどね。
居候を言い出した時の衛宮くんの顔はよかったわ。なかなかからかいがいがありそう。
そして、着替えなど生活に必要なものと、ありったけの宝石を纏めてから、私たちは我が家のリビングで向かい合っていた。
ここなら誰にも聞かれずにすむわね。
「さてと、やっと聞けるわ……アーチャー、あなたは一体何者なの?」
それが、私の疑問の全てを現した言葉だった。
前も言ったが現代人と変わらない姿、そして、鹿目まどかという聞いたことのない真名。
これらから私は彼女が平行世界、もしくは近未来の英雄と辺りをつけている。
だが、一応ちゃんと確認しないとならない。憶測でミスをするのは御免だ。
アーチャーは頷くと、まっすぐ私を見つめる。
「多分、凛さんも気づいていると思いますが、私はこの世界の存在ではありません。平行世界から来ました」
やっぱりね。
本当に平行世界からか……第二魔法に関わる家だからあり得るかもしれないけど、やっぱり驚き。
少し調べたいけど、今は聖杯戦争の途中だからそれらは後回しか。
そして、アーチャーの説明は続く。
「私は、私の世界で魔法少女として魔女と戦っていました」
「魔法少女?」
はい、と頷くアーチャー。
「簡単に言えば、私たちの世界にいるインキュベーターという生き物との間で、願った奇跡の対価として魔女と呼ばれる怪物と戦うという契約を交わした女の子のことです」
そして、アーチャーは語った。
アーチャーはもともとは大切な家族や友達と平穏に暮らしていたらしい。
だか、インキュベータの一体、キュゥべえという生き物に出会い、彼女の運命は変わった。
魔法少女の契約を交わし、魔女と戦うことになったのだ。
みんなの平和な世界を護れる。それを誇りに、まどかは魔女と戦った。
頼りになる先輩魔法少女のマミ、大切な友達、暁美ほむらとの出会いを重ね、表向きは普通の少女、裏では人々の平和を護る魔法少女として、戦う日々。
だか、それも終わりを迎えてしまった。まどかの住む町に伝説の魔女『ワルプルギスの夜』が現れたのだ。
まどかはマミと共にワルプルギスの夜に挑んだ。
しかし、ワルプルギスの夜は圧倒的で、マミは善戦するが、殺されてしまった。
一人残ったまどかも、ほむらに別れを告げてワルプルギスの夜に立ち向かったが、最後は敗北し、死んでしまったという。
その話を聞き終え、私は頷いた。
「なるほど、まさに英雄ね」
護るもののために強大な敵と戦い死んだとは、まさに英雄の物語だ。
ただ、それを言ったらそのマミという少女を含めて、魔法少女たちの何人かがそう言える。
この子が彼女たちの代表として選ばれたのか、それとも、たまたまアーチャーに該当するのがこの子だから召喚されたのかわからない。
それに、何かが引っ掛かる。それがなんなのかもわからない。今の話には矛盾らしき話は見当たらなかったけど、どうして?
「私は、別に英雄なんなじゃありません。ただ、誰かを助けたかっただけですから」
と、アーチャーは笑う。そこで私は思考を変えた。そんなこと考察するのはまあ後でいいし、確かめる方法もないしね。
そして、アーチャーの言葉になんとなく、衛宮くんとこの子は少し似ているんじゃないかと思った。
普段の姿や、昨日からの言動から、彼も『誰かのため』になにかをするタイプだとわかった。
そのうち、アーチャーの話を聞かせてみてみようかな? 結構感動するかもしれない。まあ、話すのは聖杯戦争が終わってお互いが生きてたらだけど。
生きてたらか……一時的な同盟であって、いつかは敵になるっていうのにずいぶん情が移ったわね。
そんなことを私は自嘲して……って、あれ?
「あなた、そのキュゥべえていうのに、なにかは知らないけど願いを叶えてもらったのよね」
「はい」
アーチャーは私の問いを肯定する。なら、
「あなたは今度は聖杯になにを願うの?」
それが、今この話を聞いた私の疑問。
すでに願いを叶えたこの子が、今度はなにを願うのか。だが、
「私は聖杯に望みはありません」
きっぱりと断言して見せた。
はっ? 聖杯に願いがない?
「条理を曲げるようなことは、歪みを生んでしまいます。だから、私はもうなにも願いません」
毅然とまっすぐに私を見ながらアーチャーは断言した。情理を捻じ曲げる、ね。確かにその通りだけど、この子からそんな言葉が出るなんて。
でもなら、
「なんであなたはこの聖杯戦争に参加したの?」
聖杯になくても、なにか他に目的があるはずよね?
「呼ばれたんです」
呼ばれた?
「なにに呼ばれたのかわかりません。でも確かに聞いたんです。悲しくて、辛い叫びを。私、叫んでいる人を受け止めてあげたいと思ったから、だからここにきました」
――――ただ、それだけで、この七組のマスターとサーヴァントによる殺しあいに参加したっていうの?
きっと、嘘じゃない。本当にこの子はそれだけでここにいる。救いを求められた。ただそれだけで。
「本当に……あなたはおかしなサーヴァントね」
私が苦笑すると、申し訳なさそうにアーチャーは頭を下げた。
そして、衛宮くんの家に荷物を運び込んだんだけど、その衛宮くんは台所で慌ただしく動き回っていた。
「どうしたのよ?」
「これから藤ねぇ、じゃなくて藤村先生が来るんだ」
ああ、そういえば、藤村先生と衛宮くんって古い仲なんだっけ。
で、その藤村先生にセイバーや私たちの説明をする前に暴れられたりしないようにしようと考えたらしい。
「とりあえず、藤ねぇを宥めるために好きなものやご馳走を用意する!」
そう言って衛宮くんは再び料理に向き合う。ちらっと見ればセイバーはじっと衛宮くんを見つめている。なんか、パタパタ動く尻尾が見えるのは気のせいかしら?
そして、藤村先生と……桜が来た。
思いを寄せてるとは思ってたけど、まさか家に来るまでとは思わなかったわ。
私たちはお互いに視線を合わせようとしない。でも、ちょこちょこと私は気づけば桜を見ていた。
「いやあ、やっぱり士郎の料理はおいしいわね! 遠坂さんとまどかちゃんもそう思うでしょ?」
「はい、士郎さん、なんかお父さんみたいです」
藤村先生の言葉にまどかがそう頷く。
見た目は外国人だからまだセーフなセイバーと違い、アーチャーの見た目は髪の色を除けば日本人。
そういうことで、しかたなく真名で呼ぶことになった。まあ、この子の名前が知られても特に困ることはないしね。なにせ正体の調べようがないんだから。
セイバーは真名で呼ぶことに少し抵抗があったみたいだけど、すぐに受け入れてくれた。
「お父さんみたい、ですか?」
「はい、私の家、お母さんが外で働いて、お父さんは家事をしてたんです」
桜の質問にまどかはそう返す。
ふーん、普通は逆よね。
「まどかちゃんも残念だったわね。せっかく来た遠坂さんの自宅が改装中だったなんて」
「あ、いえ、大丈夫です。お世話になっちゃってすいません」
まどかのバックストーリーは『事情があって遠縁の遠坂の家に尋ねてきたんだけど、うちは今改装中で仕方なく新都のホテルで寝泊まりしようとしていたら、たまたま衛宮くんが声をかけてくれた』という内容。
藤村先生もその事情という部分に反応して、多くは聞いてこなくて助かった。
「いいのいいの、士郎は困った人は見過ごせないし」
それからからからと笑う。
「なにせ、将来の夢は『正義の味方』だもんねえ」
「な! 藤ねぇ人前でそういうのやめろって、この前桜の時にも言っただろ!!」
へえ?
なんていうか、よく人助けしてるのも、そういう理由があったからなのかしらね。
また一つからかう材料が手に入ったわ。
「いいじゃない、おねえちゃんは覚えてるよ。確か、あれは……」
なんて語りだした藤村先生。それを止めにかかる衛宮くん。本当に元気ね。
と、そこで気づいた。まどかがじっと衛宮くんを見ていたのを。
その眼はどこか寂しげで、懐かしいものを見るような目で少し声をかけづらかった。
「あ、あの鹿目さん、どうしたんですか?」
戸惑い気味に桜が問いかけると、はっとしてまどかは首を振る。
「い、いえ、なんでもありません!」
明らかにただならぬ雰囲気だったけど、本人がそういうなら、そういうことにしておこうかしらね。
それから、藤村先生と桜を見送ろうとして、
「あの、桜さん!」
まどかが桜に声をかけた。
桜が振り向くと、まどかは、
「今の関係に満足しないで、勇気を出して衛宮さんを支えてあげてください」
「か、鹿目?!」
衛宮くんが狼狽する。
まどかの言葉に桜は目を丸くする。
いきなりの言葉にみんなが反応できない。ただ、桜だけは、
「ありがとうございます鹿目さん」
そう微笑んで背中を向けた。
「さっきの、なんだったの?」
桜たちがいなくなってから私はまどかに問いかける。
「その、士郎さんが友達に重なって、なんとなく桜さんなら、私みたいにならずに衛宮さんを支えられるんじゃないかなって思ったんです」
と、まどかが遠い目で答えた。
この子がなにを衛宮くんに重ね、そして、なにを思ったのかわからない。そして、それはまだ私が立ち入ってはならないことのように思えた。
そうだ、この子が反応した言葉は、
「正義の味方……か」
私はなんとなく、後ろの衛宮邸を見たのだった。
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まどか自分のことを話す&桜との邂逅。
さやかと士郎が似ていると思い、同時に桜がさやかと同じく現状に満足していることを見抜いてああいったセリフを言いました。