例によって、シリアスに作ってきた空気に、私自信が耐えられませんでした。 ので、このへんで、物語とは一切関係の無い、『幕間』を入れさせてもらいます。 本編のシリアスな空気とロジックが好みの御方は、この先、無意味な、腹筋狙いの馬鹿話が続いて、雰囲気ブチコワシになるのが確実なので、見ないようにお願いします。 こちらの話は読まずとも、全く支障なく本編は続いていきます。 この幕間の与太話は、邪悪なる筆神様こと、虚淵玄御大がノベライズ化した『ブラック・ラグーン』の『シェイターネ・バーディ』、並びに『罪深き魔術師たちの哀歌』のキャラを、本家『ブラック・ラグーン』の巻末漫画とミックスさせてデッチアゲた、悪質極まりないパロディとなっております。……二次創作か三次創作なのかは、ちょっと微妙なラインなのですが……セルフパロのパロディって、どうなるんだろ? が、勿論、『魔法少年』と『魔法少女』という世界観はハズしておりません。 ……はい、ここまで説明して、嫌な予感がした方は、ここで引き返しましょう。 今ならまだ間に合います。 OK……後悔しないでくださいね。 多分……わけがわからないよ?「……ここは、ドコだ?」 気がつくと、立っていた場所は何処かの波止場だった。 ……タイあたりだろうか? 俺が銃器を買い付けに来るマーケットに、近い雰囲気がある。 巨大な岩が、湾内にそそり立つ中、夕日が沈みつつある風景。「げっ! っていうか、服っ!!」 今更ながらに、俺は今の自分の服装に気付く。 なんと、戦闘時の魔法少年姿……緑色のダンダラ羽織に『兗州(えんしゅう)虎徹』を携えた、いつものスタイルである。「やばいな、ソウルジェムの中に武器は……武器……」 無い。銃弾一発も、残って無かった。お金はあったけど。「じ、冗談だろ……」 状況的に、冷や汗が止まらない。 そりゃあ、剣術に自信はある。 あるが『兗州(えんしゅう)虎徹』での戦闘は、あくまで奥の手なのだ。銃器を使って倒せる相手ならば面倒は無いし、それに越したことは無い。 快速を誇る俺だが、何も常時接近戦を挑みたい、というワケではないのだ。 と……「ラジカール☆レヴィちゃーん♪ 参っっっ上っっっ! 突発的かつ唐突なイベントで悪いけど、御剣颯太クン、君にお願いがあるの!」 ひらひらとフリルのついた衣装。パフのついた袖部分。パステルカラーを基調にしたその姿は、確かに魔法少女のモノだ。 が……露出した首筋から右ひじにかけてのトライバル柄のタトゥだとか、手に嵌めてるのが銃器を扱うためのグローブとか。 ガワの部分は兎も角、明らかに『魔法』の概念で喧嘩する気の無い姿に、もー、ヤヴァ気な雰囲気が、ぷんっぷんである。正味、暁美ほむらよりヤヴァい予感がしてならない。「…………………お家に帰らせてもらいます」「君に、このヘストン・ワールドを救ってもらいたいの! ラジカル☆レヴィちゃん、一生のお願い!!」「ご自分でどうぞ。私は自分の妹の面倒が忙しいので、帰らせていただきます」 関わってはならない。 本能がそう告げている。 第一、魔法少女という存在と関わって、個人的にロクな目に遭った記憶が無い。 冴子姐さんや沙紀然り。暁美ほむら然りである。 そして、目の前に存在するのは、一見しただけでも、どー考えてもそれらの上を行く厄ネタを抱えた『魔法少女』。 関わり合いになろうとするほーが、頭オカシイ。 が……壮絶な殺気を感じ、俺はとっさに『兗州(えんしゅう)虎徹』を抜刀。 振り向きざまに、飛んできた銃弾を一刀両断し、油断なく構える。「なっ……何すんだ、アンタ!!」「んもぉ、颯太君のイ☆ケ☆ズ♪ にしても、面白い事するねぇ……アンタで二人目だよ」 ぞっとなる深淵を瞳にのぞかせながら、何故かべレッタの二丁拳銃を抜いて、迫って来る『ラジカル☆レヴィ』。 ……やばい。 闘うとか闘わないとか以前に、存在そのものに関わりたくない。 俺の本能が、そう告げている。「きっ、気に行ってもらえたのなら嬉しいよ……帰っていい?」「そう言うなよ。なぁ、もういっぺん……『ソイツ』を見せてくれよ。なぁ」「たっ、短気は良くないと思うよ。それに、願い事があるんじゃなかったっけ?」「あっ、そうだった☆♪ テヘ、レヴィちゃん失敗♪」 とりあえず、緊張をほぐす事は出来たが、彼女の指はトリガーにかかったまま。 ……殺る気だ……こいつ、返答次第で、マジで殺る気だっ!!「……で、何だ? ダークタワーからお姫様救いたいなら、自分で行ったほうが早いんじゃないか?」「あのね、今、ヘストンワールドでは、深刻な病気が流行ってるの。 亀になっちゃう魔法の毒が入ったピザを食べて発症する、ニンジャタートル・シンドロームって病気でね。そのピザを作って配ってる悪い魔術師とニンジャを捕まえてほしいの!」「……ご自分でどうぞ。私は見滝原に帰らせてもらいます。ってか喰うなよ、ピザ」 バキューン!! 斬!!「っ……はぁっ……はぁっ……あんた、なぁ! 気軽に人に銃口向けて発砲すんなよ!!」 本日、二度めの銃弾斬りをカマしつつ、俺は絶叫した。「ラジカル☆レヴィ一生のお願い☆ 御剣颯太君! 君に、このヘストンワールドの運命を預けます!」「勝手に預けんなよ、オイ! 話聞けって!!」 バキューン!! 斬!! バキューン!! 斬!!「お願い♪」「へ、ヘストンワールドってなぁ、こんな世界なのか?」「うん、銃が一杯あってもね、銃が人を殺すんじゃなくて、人が人を殺す世界だから、争いごとも家族争議も無い、平和な世界だったの♪ それが、悪い魔術師とニンジャの魔の手が迫ってから、みんながピザを貪る亀になっちゃって、レヴィちゃん困ってるの。 だからお願い、御剣颯太君! 魔法少女のマスコットとして、このヘストンワールドを救ってほしいの!」「フツーは魔法少女自身が世界を救うモンだろーが!? マスコットはあくまでお伴だろーよ!!」「だってメンドクサイんだもーん♪」 ぶっちゃけやがったよ、この女。「……あー、とりあえずな、暁美ほむらって魔法少女に頼め。彼女が一番の適任だ」「彼女はあなたが適任だって言ってたけど?」 ちょっ、ふざけんなあの女ーっ! お前だって一応、世界に希望振り撒く魔法少女だろーが! っつーか、マスコットに自分の仕事丸投げする魔法少女なんて、お前ら纏めて前代未聞だーっ!!「そういうワケで、がんばって悪い魔術師とニンジャを捕まえてね! 御剣颯太君♪」「……あの、ですから妹の面倒があるので、お断りしたいのですが……」 バキューン!! 斬!! バキューン!! 斬!! バキューン!! 斬!!「大丈夫、君ならできるヨ♪」「……ドコの虫姫様でつか、アンタは……」「さあ、いざ!! ポン刀一丁で、弾幕祭りのヘストンワールドへっ!!」「おい話聞けーっ!! 嫌ぁぁぁぁぁっ、殺ス弾幕で真・火蜂なケ●ヴ仕様は無理ぃぃぃぃぃっ!! せめてパターン化可能な芸術弾幕の東●にしてぇぇぇぇぇっ!! っていうか、武器も無しに日本刀一丁で無茶言うなぁあああああっ!」「ンもー、ワガママだなー。お金、持ってる?」「……に、日本円なら……」 先程、ソウルジェムを探った時に、札束だけは何故かあったと記憶している。「よーし! じゃあ、まずは武器の調達に行こー♪」「いや、だから俺、見滝原に帰るって……おわ、放して、放してぇえええええええっ! カンベンしてください! お金払いますからお家に帰してぇぇぇぇぇ!」 むんず、と、妖しいステッキから伸びた手にトッ掴まえられた俺は、ラジカル☆レヴィに引っ張られ、俺はヘストンワールドの深淵へと連行されてしまった。「リリカール☆チアシスター♪ エダちゃん参上!!」 ……何というか。 もーこれ以上、根本的に関わり合いになりたくない存在に、ワラワラと湧き出された俺は、本格的に頭痛が止まらなくなっていた。 目の前の鋭角なグラサンかけた……何というか、尼僧服とチアリーダーを足して、魔法少女という要素で割ったような、曰く説明し難い衣装を着た存在に、教会で出迎えられているこの状況。 もう、正直、おなかいっぱいである。「あの、もう、お家に返して……」「エダちゃーん、日本からのブルジョワ様に、武器売ってあげてー♪ ……あ、紹介料に20%ね」「あははは☆ざけんじゃねーぞ♪ この万年生理不順♪ 5%に決まってんだろタコ」「15%」「7.5%」『……OK、10%って事で』 なんか俺無視して、勝手に納得してるし。「そんじゃ、日本からのお坊ちゃん、入って入って♪」「いや、その……俺、『教会』とは相性が悪いんスけど」 佐倉杏子とか、佐倉杏子とか、佐倉杏子とか……まあ、そんな感じで。「まあまあ……ウチのボスがお待ちかねだよ」「……はぁ?」 もうなんか脳みそが膿んでドロドロになった気分で、俺は教会の扉をくぐる。 そして……そこで、俺は、悪夢の存在を目にする事になる。「おやおや、わざわざ日本からなんて。ロック以外の日本人なんて、珍しいお客さんも在ったモンだねぇ…… ようこそ、マジ狩る☆バイオレンス教会へ。ここのボスの『プリティ☆ビッグシスター』ヨランダだよ」 その……何というか。 今までも描写に困る存在が多数現れたが、コイツは極めつけだった。 っていうか……80はイッてる、海賊じみたアイパッチつけた婆様が、シスター風の肌もあらわな魔法少女の衣装で、しかも『プリティ』って、何じゃそりゃああああああああああああああっ!!!「うぉっぷっ!! しっ、失礼っ!!!」 くるりと後ろを向いてダッシュで外に出ると、花壇の隅っこに向かって四つん這いになって下を向く。 ……ごめんなさい。おなかいっぱい通り越してガチでゲロ出ました。ヘストンワールドさん、もう勘弁してください!!「おやおや、悪かったね坊ちゃん。確かにこの年齢で色々無理があるとは分かってるんだけど、ヘストン・ワールドじゃ魔法少女の衣装は正装なんだよ。 ……しょうがないね、リカルド、ちょっとおいで」「ひっ、しっ、シスター、そっ、それは、それだけは勘弁を、シスター……ひいいいっ!」「我慢しな。金づるの機嫌を損ねちゃいけないよ」 なんか哀れっぽい悲鳴をあげて、ヒスパニック系の神父見習いが連れてこられる。 そして…… ぶちゅるるるるるるるる……「ひいいいいいいっ!!」 なんというか……アイパッチの婆様な魔法少女にキスをされた神父見習いが、哀れっぽい悲鳴をあげてミイラになっていくと同時に、だんだんと件の婆様の肉体年齢が、若返っていく姿は……ホントーになんかイカンものを見てる気がして、だんだん現実逃避に全開で拍車がかかってきた。 っていうか、ドコの豪●寺一族だよ、この婆様っ!! やがて『じゅるるっ……ポンッ♪』 ってな音を立てて、ミイラになった神父見習いを退場させた後に残ったのは……「ふぅ……どうだい? これなら多少、見れたモンだろ?」「……いえ、その……別の意味で、目のやり場が……」 その……BBAな魔法少女から、魔法少女なBBA(ボインボイン姐御)にクラスチェンジ(しかも金髪)って……。 何となく、『魔女の釜』をキュゥべえと一緒に悪用し続けて、『真の魔女』と化しながらン百年生きた巴マミの姿って、こんな感じになっちゃうのかなー、とか連想してしまい、内心悶絶していると、彼女……BBA(ボインボイン姐御)なプリティ☆ビッグシスター・ヨランダから、話を切りだしてくれた。「で、日本から来たお坊ちゃん。武器が欲しいんだって?」「っ……あ、そうです」 そうだ、武器だ。武器が無いと、始まらない。 俺は意識を切り替えて、言葉を切りだす。「大口径のリボルバーが欲しいんです。パイファー・ツェリスカが理想ですが、無ければトーラス・レイジングブルのモデル500かS&WのM500を。デザート・イーグルやオートマグなんかのオート系はパスしてください。 あとはオートマチックグレネードランチャー、それと調整済みスコープつきの対物ライフル。C-4と起爆信管、あとクレイモア地雷。手提げ式のガトリング砲なんかがあるとありがたいですが、無ければブローニングM2重機関銃あたりを手提げで使えるように。 あと、使い捨てのM72と、RPG-7と弾頭を……あ、当然、全ての武器の弾は、ありったけを用意して頂きたい」 俺の注文に、リリカル☆チアシスターことエダ女史が胡乱な眼で突っ込む。 「ヘイヘイ、買い込むなぁ兄ちゃん。 それに、大口径リボルバーかよ、トンだ見栄っ張りだね」「確実に発砲できるからね。弾詰まり(ジャム)は無いし……見栄や酔狂でのチョイスじゃない、俺の流儀だ」 そう。俺がリボルバーにこだわってるのは、いくつか理由がある。 まず、オート特有の弾詰まりの事故が有り得ず、どんな変則的な体勢からも発砲可能な事(映画でよくある、銃を寝かせての横撃ちは、オートの場合、弾詰まりの元である)。 そして、俺の拳銃での戦闘スタイルが『瞬間勝負』と『精密射撃』である以上、多人数の魔法少女相手を想定せず(大勢で来たら罠で分断するのが前提)、リボルバーの玉数で通常は足りてしまう事(あの場で避けた上に、弾いてまでのけた佐倉杏子の腕前は、実際大したもんだ。奇襲が成功しなければ、正味、危なかった)。 そして、単純な単発での『精密度』はオートだが、『破壊力』では同サイズのフレームではリボルバーに軍配が挙がる事。 幾ら俺がガンマンとしては暁美ほむらを上回る技量だとしても(その証拠に、デザートイーグルって銃のチョイスからして彼女の手のサイズに全く噛み合ってない。まあ、彼女の場合は恐らく時間停止で弾を叩きこむスタイルだろうから、銃手としての技量は問題になってなかったのだろう。『撃てて使えればそれでいい』という奴だ)、ソウルジェムだけを戦闘の攻防の最中に、拳銃で精密狙撃ってのは難しい。一発目に強烈な一撃を見舞って動きを止めた所を、二発目でソウルジェムを吹き飛ばすのが、通常、最も効率的だ。(暁美ほむらに言ったような、精密射撃も『不可能』ではない。あくまで『難しい』レベルだ)。 ……まあ、一番の理由は、単発の破壊力が目当てだってのは否定しない。 美樹さやかや冴子姉さん、沙紀のような『癒しの祈り』を使う魔法少女相手だと、9パラ(9ミリパラベラム弾)程度じゃソウルジェムをクリティカルショットしない限り、通じない場合が結構あるのだ。 そして、オートで弾をばら撒かねばならない状況になる前にケリをつけるのが、俺の拳銃でのスタイルである。というか、そんな状況になったら拳銃に拘らず、別の武器(サブマシンガンあたり)を、ソウルジェムから取り出してケリをつけるほうが良い。 拳銃はあくまで、拳銃なのだ。……メンテナンスも比較的楽だし。(無論、オート系の拳銃が使えないわけではない。単に魔法少女を相手にする上での、俺なりの戦闘スタイルの問題、とだけ重ねて言っておく)。「ふむ……またトンでもないモノと量を注文するモンだね?」「モノは? 揃えられますか?」「その前に、金を見せてもらわない事には、答えられないよ」「では、私も金は見せられません」 BBA(ボインボイン姐御)なプリティ☆ビッグシスター・ヨランダと、交錯する視線。 このへんのやり取りは、武器商人相手に慣れたモンだ。「……イチゲンの日本人のワリに、とんだワガママ坊やだね。いいさ『出来る』とだけ」「今すぐに? この場で?」「厳しいねぇ、坊やも。そちらは?」「恐らく、払えます……日本円で良ければ」 とりあえず、億単位の金は常時、いざって時のために入ってるし。何とかなるんじゃないかな、と。「……ふぅ。リボルバー以外のモノは、用意できるよ。 ただ、このヘストンワールドで、リボルバーを使う人間は意外と少なくてね。弾は200発ほどあるんだが、今はこんなモノしかない」 そう言って、プリティ☆ビッグシスター・ヨランダ(ボインボイン姐御)が取りだしたのは、スタームルガー・スーパーブラックホーク。俗に『黒い鷹』と呼ばれる拳銃で、デザイン元のコルトSAA譲りのクイックドローの早さと44マグナム弾を使う破壊力のバランスが取れた、逸品である。 むしろ、魔法少女相手の実用性という意味で、文句は無い、が……「……この銃把についた血痕は?」「ああ、そいつはね、『ガンマン気取りのクソ袋』から巻き上げたモンなのさ。その時、ラジカル☆レヴィちゃんに、銃ごと腕を吹っ飛ばされてね。 今頃、ロア……もとい、ヘストンワールドの湾内で、カニの餌になってるから、安心おし」「なるほど……失礼。よろしいですか?」 どうぞ、と目線で進められ、俺は『黒の鷹』を手にとる。 弾が入って無いかをチェック。その上で、各部のパーツをチェック。さらに、ガンアクションを幾つか。 ……文句ない。 パイファー・ツェリスカを使い続けてる俺には軽すぎるくらいだが、むしろその分扱いやすさは遥かに上。 威力そのものは、600ニトロ・エクスプレス弾を使うパイファー・ツェリスカの十分の一以下の44マグナム弾だが、そこは『速さ』と『精密さ』と他の銃器で勝負すればいい。 シングルアクションなのも、この際、最速を目指すなら『アリ』である。 「うん、気に入りました。で、お値段は如何程?」「そうだね、ヘストン$との相場がこんなものだから……これくらいかねぇ?」 提示された金額は、予想を僅かに超えていた。「……日本円とはいえ、一括の即金で買い上げるので、もうすこし割り引けませんかね?」「おやおや、本当にこの場で現金で払う気かい? 坊や?」「ええ、今、この場。即金で」「気風がいいね、坊や。気にいったよ。用意してみせな。そうすりゃ今の値段から二割引きで売ってあげるよ」「では……」 そう言うと、俺はその場でソウルジェムから取り出した札束を、積み重ね始める。 ポカーンとする、『ラジカル☆レヴィ』や『リリカル☆チアシスター』エダを他所に、悠然と構えている『プリティ☆ビッグシスター』ヨランダ(ボインボイン姐御)。「これで、おおよそ二割引き価格、といった所ですが? いかがか?」「結構、交渉成立だよ。エダ、彼を武器庫に案内してやんな」「……はっ、はい! シスター!!」 と……その時だった。 シュイイイイン!! とか言わせて全身を光らせながら、BBA(ボインボイン姐御)の姿から、元のリアルBBAな魔法老婆(!?)に戻っていく『プリティ☆ビッグシスター』ヨランダ。 何度も言うが、80超えた老婆(しかも海賊じみたアイパッチつけた)の魔法少女姿なんぞ、俺は見たくない!!「あらあら、もう時間かい。 しょうがないねぇ……リカルドの奴も、最近枯れ始めちゃってねぇ。うんと精のつくモン喰わせてるハズなんだけど。 そうそう、お得意さんになってくれたお礼だ。あたしゃ紅茶に目が無いんだが、あんたも一杯どうだい?」「イエ、エンリョシテオキマスデス!! ハイ!!」 もー目線を合わさないようにして、俺は『リリカル☆チアシスター』エダを促して、とっとと教会の外へと逃亡した。 ……神の家なんてトンデモネェ、佐倉杏子すら生ぬるい魔女が棲む場所を『教会』と呼ぶのだ。そんな感じで『教会』という存在の中身を知った俺は、生涯二度と近寄るまい、と固く心に誓っていた。「で……その、悪い魔術師とニンジャってのは、ドコにいるんだ?」 とりあえず、買い取った武器をソウルジェムに収納し終え、俺はラジカル☆レヴィに問いかける。「んっとねー、ニンジャは兎も角『魔術師』は、大概高い所にいるよ? 馬鹿だから。」「……高い所、ねぇ……ん?」 高い所、高い所……ひょっとして……「なあ、その魔術師やニンジャとっ捕まえるのって、『生死不問(デッド・オア・アライブ)』?」「勿論♪」 その頼もしい言葉に、俺は一つの策を思いつく。……多分、引っかかってくれると思うんだが、大丈夫だろうか? とりあえず、この場所から見上げて……ここ、あそこ、んと……あっちあたりか? ソウルジェムから、買ったばかりのC-4やクレイモア地雷を取り出し、随所に仕掛け終えて……パパッと完了、と。「何やってんの?」「……いや、何。 馬鹿を狩るのって、いつもの事だったなー、って。そういえば」 そう。魔法少女の力を過信し、かつ、暗殺者としての俺の凶名を警戒すればするほど、俺が普段、自分の縄張りに仕掛けたような魔法少女専用トラップは、有効と成り得るのである。 『暗殺魔法少女』伝説の凶名は、伊達ではないのだ。……色々な意味で。「だから、君が適任だったんだよ♪」「……是非、お断りしたかったなぁ……」 色々な意味で、涙が止まらない。「それは兎も角……で、ニンジャはドコにいるんだ?」「それが、分からないのよー。ニンジャってくらいだし、目立たないのー」「……まあ、無駄に目立つニンジャが居たら、お目にかかりたいし」 忍びの極意は、基本、周囲に溶け込む事。 そして、戦闘は非常時の一手段でしかなく、目的を達するために原則、『逃げる』事を前提としている。火遁、水遁、土遁etc。皆、文字に『遁走』の遁の字が入っているのは、伊達ではない。 ……このデタラメ極まるヘストンワールドで、どの程度、俺のリアル知識が通用するかは兎も角。 俺の剣術の師匠の教えは、技術的には剣術であっても、それを扱うための『心得』は、喧嘩芸含めて忍術に近い代物だったし、そのへんは、なーんとなくは理解できるのだ(あまつさえ『正心』の理屈は、そのまんま忍者のモノだと知った時、愕然とした記憶がある……習ったのは、剣術なハズなんだがなー……)。 そういう意味で、ニンジャ相手のやりにくさというのは、想像できるだけに渋い顔にならざるを得ない。 何しろ、向こうは逃げ回って毒ピザ撒いてりゃいいわけで、コッチはそれを追いかけねばならないのだ。しかも、俺の精神衛生的に、可及的速やかに、このヘストンワールドから撤退する必要がある以上、時間が無いのはこちら側である。 ……っつーか、繁華街の街中を二足歩行で歩く、人間サイズの亀が闊歩してる時点で色々限界だよ! 助けて姉さん!!「一応、さんごーかいも、モスクワ宿も動いてるんだけどねー。姐御なんか、ツインテールにトリコロール・カラーの衣装まで用意して、『なの』とか語尾につけはじめたし。 ……姐御の馬鹿、ヘストンワールドをひっくり返すつもりかよ」「……OK、こんなイカレた世界がどーなろーが俺の知ったこっちゃないが、その『姐御ちゃん』とやらにゃ絶対関わっちゃなんねーのは、よーく分かったわ」 何というか、自然に火傷顔な砲撃冥王の姿を幻視出来てしまい、俺は悶絶し、決心する。 一刻も早く、そのニンジャとやらを見つけねばならない。 でないと、色んな意味で恐怖の存在と相対した時に、自我を保てるか自信が無い。タダでさえ、この狂い切ったシチュエーションに、色んなモノが本格的な限界に達してるというのに。「んー、今晩は泊まりねー。頼んだ手前、ウチの事務所に来てよ。 今の時間なら、電話番にロックが居るハズだから。日本人同士、話も弾むかもよ」「……是非、そうさせてもらうよ」「ドーモドーモ、ロクロー・オカジマデス」「………………………」 にほん……じん? そこに居た、露骨に妖しすぎる生物に、俺は首をかしげた。 ……このヘストンワールドじゃあ、こんな珍妙な生き物を『日本人』と認識しているのだろーか? ぶっとい首筋と張りつめた筋肉を、リクルートなワイシャツにはち切れんばかりに押し込めた末に妖しすぎる柄のネクタイを締め、首から上を白粉とセロテープでつり上げた歌舞伎メイクに七三分けにした頭髪。トドメに碧眼で、眉毛やワイシャツから覗く胸毛は金髪ときたものだ。 ……違う。これ絶対日本人ちゃう。 曲がりなりにも日本人の端くれに連なる者として『彼が日本人だ』などという主張は、全世界の日本人……否、数多の多次元宇宙に存在する、日本人という人種全ての名誉にかけて、断固として拒否せねばならない。「す、すんません。その……確認を取りたいのですが、彼はホントーに日本人なんでしょーか? こちらのヘストン・ワールドでは、日本人ってそーいう生き物って事になってるんでしょーか?」「やっだー、御剣颯太♪ どこからどー見ても、君たち日本人そのまんまじゃなーい♪」「………………」 ペッコンペッコンとお辞儀をするスタイルが、また妖しすぎる。 というか……「一つ、聞きますが。こちらのロックって方は……何か、武道とか格闘術とかの達人でございましょーか?」「え? 彼は鉄火場でのドンパチは、カラッキシよ? 銃だってマトモに撃てないんだから」「……左様ですか」 はい、この情報で偽物確定。 歩き方、重心の配分、立ち姿。 ドコをどー逆さに振るって見ても、鍛錬を積んだ『素人では有り得ない達人のソレ』が丸出しです。 ……つまり、「ニンジャみーっけっ!!」 『兗州虎徹』を抜刀し、自称ロクロー氏に斬りつける。 が……「……ほぉ?」 魔法少年化した、銃弾すら斬って捨てる俺の居合いを避けられた人間は、魔法少女も含めて、そーは居ない。「むぅ……ヘストンワールドに、若年ながらこれほどの手錬が居ようとは。 しかも忍術発祥の地、日本の出身のサムライとお見受けするが、如何か?」 いつの間にか着替えたのか、忍者装束に化けた自称ロクロー氏。 ……なんというか、避けられただけでも屈辱だってのに、余裕カマして早着替えまでしてのけるとは。 もっとも、正味、俺の居合いを避けてのけた時点で、俺は彼を舐めてかかる気は、サラサラ無くなっていた。「……さぁ、な!」 さらに、クイックドローでソウルジェムから『黒い鷹』を抜き、発砲! スポット・バースト・ショットでターゲットを捕えるが……「っ!?」 三発を発射した所で銃に嫌な感触が走り、俺は四発目のトリガーを引く前に指を止める。見ると銃のレンコン部分に、何か液体のついた吹き矢が刺さっていた。……ってか、ニトロセルロース!?「クソッ!! 待ちやがれってんデェ!!」 『黒い鷹』を放棄して兗州虎徹を掴みなおすと、俺は遁走する忍者の後を追い、窓から跳躍。 好都合だ。トラップに追いつめて仕留めるのは、俺の十八番だ。 が……「今宵、仔細あって……」 ピッ!! 何か、トラップのイイ位置に馬鹿っぽいスカした人影が居たので、とりあえず奴の足元のC-4を遠隔起爆。更に、吹き飛んだ先のクレイモアを一発、二発起爆……チッ、人間の原型、保ってやがる。「おい、ラジカル☆レヴィ! あの馬鹿がもしかして例の『悪い魔術師』か?」「……仕掛け爆弾で吹き飛ばした後で、敵かどうか確認とるなんて、アンタもヘストンワールド向きの神経してるわね」「ンな事ぁフツーに誰もがやってる事だろーが! 奴の確保頼む、俺は例のニンジャを追う!」 『ないない、フツー無い』と手を振るラジカル☆レヴィを無視して、俺は再びニンジャを追う。 ……くそっ、何て速さ。流石ニンジャ! 仕掛けの起爆に気を取られて、距離を離され過ぎた。 だが、俺も負けてられない。 曲線的な速さは兎も角、直線ならば俺が上と見た。なら……「っだりゃああああああっ!!」 ビルの上を跳躍し、路地を駆け抜ける忍者を追いつめる(今回のトラップの起爆システムは、あくまで俺自身の遠隔起爆のみなので、問題は無い)。 下を走るニンジャに対し、上を走る俺。そして……「追いつめたぜ……」 肩口に、対人用のTBG-7V弾頭を装填したRPG-7を構えながら、俺は路地に追いつめた忍者を睨みつける。 ……悪いな。恨みは無いが、とりあえず死ね。 照準、発砲。 発射筒から尾を引いて走る、市街地戦用の対人弾頭。 半径10m以内を爆圧と高熱で焼き尽くす事を目的としたサーモバリック弾頭の前では、仮にボディアーマーを着ていたとしても、全くの無意味である。 しかも、避けるにしても点で捕える銃弾とは違う、範囲攻撃! が……「チッ……路地に追いつめられて、あれを回避するかよ」「……サムライとしてだけではなく、ガンマンとしても中々の腕前。感服つかまつった」 ビルの壁面を反射跳躍を繰り返しながら、爆風を回避しつつ、アッサリとビルの屋上に立つ俺の前に現れたニンジャに対し、俺はRPG-7の発射筒を放棄して兗州虎徹を構える。 ……ここへ来て『黒い鷹』の脱落が痛い。火力重視で、接近戦用の武器のバックアップが足りなかったか……クソ。「なあ、アンタ何者だ?」「我、姿なき影故に、名乗る名もまた無し……と、言いたいところであるが。 同じ『魔法少年』ならば、名乗るべきであろう」「!!?」 なん……だと……!?「とぅっ!!」 跳躍と同時に、ニンジャが『変身』。そして……「真剣狩ル☆デスシャドー!! シャドー☆ファルコン、推参っ!!」 なんというか……基本の忍者ルックは変わらないのだが、肩口の装甲が般若のお面だったりとか、明らかに日本文化を曲解して舐め腐ったニンジャの姿に、俺は今度こそ頭を抱えた。 ……ってか、股間に天狗のお面ってのは、いろいろな意味で日本舐め過ぎだと思う。「………………か、帰りテェ……見滝原に帰りたい」 色んな意味で、己の存在意義に蹴りを喰らった気分になり、頭痛が増して行くが……何にせよ、この日本文化舐めてフザケ倒した生物(ナマモノ)が、容易ならざる敵という事実に、変わりは無い。 ……っつーか、既に、この存在そのものが徹底的に悪ふざけたニンジャ相手に、一応、剣術を収めて和菓子職人を目指してた我が身としては、色んな意味で容赦する気が失せていた。 気合を入れ直し、俺は兗州虎徹を構える。 対して、奴も背負った刀を抜く。……いや、刀じゃない。あれ……ジェラルミン刀? いわゆる、模造刀であり、俺のスプリング刀とは別の意味で、日本刀とは認められない代物だ。 それは兎も角。「!!?」 それは、およそ有り得ない構えだった。 握刀が違う、姿勢が違う、重心が違う。実戦を前提に考えた場合、何もかもが有り得ない構え方だった。 強いて言うなら、剣劇や時代劇の殺陣(たて)に近いが、アレだってここまで不可解な構えはするまい。 だが、その構えに一切の『迷い』が無い。武器が模造刀だとしても、ハッタリの産物で無い事だけは、まざまざと見てとれる。「……そう、かい」 ならば、俺が応じるべき答えは一つ。 この刃を握った時、常に、そう闘ってきた。常にそう、挑んできた。 ならば『それ』で答え続けるまで。 俺は兗州虎徹を鞘に収め、『居合い』の構えを取った。 これが俺の全力最速。相手が『何か』をする前に片手一刀で斬って捨てる。 どんな不可解な動きをしようが、どんな幻惑があろうが、最速の前に意味は無い。 空気が極限まで張り詰める。 互いに、刹那の一閃を持っているだけに、動けない。 ゆるり、と……含み足での間合いの攻防が続く。呼気ひとつ、足の指ひとつ、油断する事の出来ない『空間』が、周囲に構築されていく。 ……そんな、緊迫感あふれる世界の中……「ОСТАНОВИТЕСЬ(動くな)なの!!」『!?』 振り返ると、はるか彼方。 そこに……『この世界で絶対関わっちゃイケナイ存在』が、居た。「見つけた……人間を亀に変えるピザを撒き散らす、邪悪な魔法少年!」 ツインテールに火傷顔の、トリコロール・カラーでロシアな軍服を来た、色々混ぜ過ぎちゃってヤヴぁ過ぎる存在が、手にした魔法の杖の筒先を『俺たちに』向かって向けていた。 ……って、ちょっ……おまっ!! 言い訳ひとつ口にする間もあらばこそ。 星を軽く撃砕する閃光が、俺とニンジャを飲み込んでいった。「うわあああああああああああああっ! ……はっ、はっ、はっ……?」 何だろうか? 何か……内容は思い出せないが、とてつもなく理不尽で滅茶苦茶で出鱈目な夢を見た気がする。 ……どんな内容だったっけ……か?「……ま、夢見が悪いのは、いつもの事か」 何しろ、吹き飛ばした魔法少女の姿に、毎晩のように悪夢にうなされているのだ。 ちょっとぐらい変な夢を見ても、不思議は無い。 むしろ、夢の内容を憶えていないだけ、今回は幸せかもしれない。 ……いや……本当、ゾンビさながらで動く魔法少女の姿って、トラウマモノですよ。そんな姿が、何度夢に出てきた事か。 時間を見ると、午前五時。まだ朝食にも早い時間だ。 と……「……誰か、いるのか?」 個室で誰も居ない病室のハズだが、『何か』が居るような気配を感じ……「気のせい、か? ……ううっ、もよおしてきたな」 人間にとって性別問わず万人共通の、朝の生理現象。トイレに入って用を足し、病室に戻ってみると、何故か空いてる窓。 ……ありゃ。暁美ほむらが出て行った後に、窓、閉め忘れたっぽいな。……ん? 気付くと、ベッドの下。 足元になんか、妙にオドロオドロしくレタリングされた『O.M.C』のロゴのついた、玩具のクナイが転がっていた。「子供の玩具……誰かの落し物かな?」 とりあえず、それについて深く追求する気は無く。 俺はソレを、叫び声を聞きつけて見回りに来たナースさんに、落し物として届けると、綺麗さっぱり忘れ去って、開けっぱなしの病室の窓を閉めた。