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No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
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[27923] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/17 04:56
「ふっ!!」

 気合いを入れて、兗州虎徹を振り抜く。
 午前五時半過ぎ。
 まだ日も昇りきらぬ内から、いつもの夢見の悪さで目が覚めてしまった俺は、病院の屋上で鍛錬……剣術の型稽古に勤しんでいた。

 朝、寝ぼけた頭が働き始め、ふと、何か忘れてるなー、と考え込み……美樹さやかとのドンパチをした時に、愛刀の『兗州虎徹』を、病院の屋上に放棄したまんまだった事を思い出したのだ。
 一応、予備の刀が家に数本あるとはいえ(実用される日本刀=消耗品)、今の一振りは、もう長い事使い続けてる一刀であり、結構、愛着もある。
 幸い、目立たない隅っこに転がっていったのと、ライトの無い屋上の暗闇に紛れたのか、美樹さやかの土竜●で駆けつけたであろう方々も見落としたらしく。(そもそも、ハンマーで抉ったような痕では、何があったかすら理解不能だったろう)。
 別の場所に転がっていた鞘も回収し、朝飯の時間まで、病室に戻ってベッドで寝て過ごすのも無駄が多かろうと思い、こうして型稽古に励んでいるのである。
 とはいっても、俺の剣術に厳密な『型』は無い。元の流儀流派のスタイルが、魔女や魔法少女相手の斬り憶えによって崩れ、それをオリジナルとして再構築し直したモノであり、どちらかというと『身体の動作確認』に近いモノがある。
 想定した相手に対し、イメージ通りに体が動くか? その動きに無駄は無いか? 心に迷いは無いか?
 真剣に考え、確認しながら動き……やがて、無心になる。
 意思とか思考を超えて、反応をする体。
 思考を置き去りにする肉体の動きは、しかしその分、どんどん無駄が削ぎ落とされ、鋭く早く、変化していく。
 最初は、太極拳のようにゆったりしていた、確認のための切っ先の動きは、だんだんと仮想敵を相手にしたように激しさを増して行き……

 ガタッ!!

「あ……」
「っ!? ……アンタ……参ったなぁ」

 屋上に現れた人影……松葉杖をついた上条恭介の姿に、俺は暫し、戸惑いを隠せなかった。



「その……御剣さん、本当に、剣術使いだったんですね」
「いや、その……まあ、うん。そんなのを、ちょっと……ね。信じちゃもらえなかったかもしれないけど」

 白鞘におさめた刀を肩に立てかけながら、屋上の縁の段差に腰かけて。
 俺は上条恭介氏と、他愛ない話をしていた。

「なんつーか、かっこ悪い所、見せちゃったなぁ。お前さんみたいにバイオリンでも弾けりゃ、様になってたんだろうけど」
「いえ、そんな事無いです。
 むしろその……すいません、気に障ったのなら謝りますが、その……すごく、綺麗だったんです。御剣さんの動きが」
「!? ……俺の、剣が?」
「はい。……失礼ですが、その『御剣』って名字からして、家に伝わる剣術とか、そういったのですか?」
「いや、ウチはそういう家じゃない。親父はタダのサラリーマンだったし、オフクロは専業主婦で、どこにでもある、フツーの家だった。
 剣術は……その、昔、俺が姉さんや沙紀と一緒に不良に絡まれてた所を、たまたま通りがかったお師匠様が、気まぐれで叩きのめしてね。その場で押しかけ弟子みたいな勢いで、お師匠様に頭下げて、無理矢理入門して習ったモンなのさ」

 ……はい。ぢつは俺も、美樹さやかを笑えなかったりします。
 今思うと、小学生四年生にして、トンでもない弟子だったなーと我ながら思ったり。っつーか、よく師匠も、ヤ●ザに喧嘩売るような物騒な剣術に、小学生を入門許可したよなー。

「しかも、もう師匠の教えてくれた型とは、かなり離れて崩れちまってる。
 ……まあ、そういう意味じゃ『御剣流』と言えなくもないけど、正味グダグダな代物だよ。結局、お師匠様からは、目録どころか切り紙一つ貰ってないし」
「目録? 切り紙?」
「あー、その……剣術の段位を示す証、かな? ほら『免許皆伝』とか、よく言うだろ?
 えっと、『免許皆伝』を最高位として、『免許』『中伝』『初伝』『目録』『切り紙』……雑なうろ覚えだから間違ってるかもだが、確かこんな順番で『修行を収めましたよ』って証明を、お師匠様がくれるわけなんだけど、結局、そこまで長い間、師事出来たワケじゃないから、教えは受けても『切り紙』すら貰ってないんだよ、俺」
「その……『お師匠様』が、道場とか辞めてしまわれたんですか?」
「いや、お師匠様の寿命。
 六十近いアル中ジジィだったんだけど、死ぬ間際まで最強だったんじゃないかって思わせるほど、スゲェ強い人でね。で、ある日、いつものよーに、束収(月謝)のお酒持って家に訪ねていったら、ポックリ死んでた。
 俺の知る限り、最強の剣客にしては、呆気ない最後だったよ」

 今思いなおせば。色々遊ばれてたというか……剣術の稽古を通じて、遊んでもらっていたのかもしれない。
 それに修行そのものはキッツかったが、決して師匠の言葉は嘘もごまかしも無かった。……酒には完全に溺れてたけど。

「……凄い人だったんですね」
「凄いというか、滅茶苦茶な人だったよ、本当に。
 アル中で酔ってヤクザやチンピラに喧嘩売るのはアタリマエ。それでボコボコにしては逃げ出しちゃうんだから。
 警察に追い回された事だって、一度や二度じゃないしなー……今までよく捕まらなかったモノだよ」
「あは、あははははは……」

 イイトコのお坊ちゃんな上条氏には、想像もつかない世界の話に、引きつった笑いが止まらないらしい。

「それより、その……何でこんな時間に、屋上に? 今日、退院なんだろ、お前さんも?」
「ええ。それで、ちょっと……目が覚めたので、今まで居た場所を、見て回りたくて」
「……ああ、この屋上は、あんたの復活演奏の場所だったからな」
「えっ、ええ……それもありますが……その……死のうと、思った場所でもありますから」
「っ!!」

 上条恭介の言葉に、俺は口をつぐむ。

「みっともない八つ当たりでね。僕、さやかを傷つけちゃったんです。
 分かってたんです。この左腕は、もうどうにもならないって……だっていうのに、それを受け止めきれなくて、かっとなって……」
「……いや、すまねぇな。立ち入り難い事を、聞いた」
「いえ、いいんです。御剣さんなら、信じてますから。むしろ、聞いてもらいたくって。
 バイオリンは弾けない、幼馴染は傷つける。そんな情けない自分に、もう何もかもがどうでもよくなって、死のうとして……結局、出来なかったんです。怖くなって」
「当たり前だよ。誰だって、死ぬのは怖い。俺も怖い。それは真実だ」

 俺の脳裏に、巴マミの姿が浮かび上がる。
 彼女の願い……死にたくない、という言葉は、確かに万人共通の真実だ。

「……御剣さんでも、ですか?」
「いや、怖いって。
 でも……死ぬのも怖いんだが、殺すのも結構、怖いんだぜ」
「っ!! 御剣さんは……その……人を、殺したのですか?」
「俺の両親。
 姉さんと妹と俺と、家族全員で無理心中をしようとしてね……木刀打ち込んで、階段から蹴り落とした。
 そんで、結局色々あって、姉さんも無理が祟って、一年……もうすぐ二年になるかな? 死んじまった。
 ……俺が殺したようなモノさ」
「……すいません」
「気にしなさんな。もう慣れた話さ……まあ、気安く喋ろうって気になる内容じゃないけど、あんたなら、な。
 っていうか……お前さん、生きてて良かったじゃないか。左腕、治ったんだろ?」
「え、ええ。そうなんです。さやかが『奇跡も、魔法も、あるんだよ』って言って……そしたら、本当に、奇跡が起きちゃったんですよ。
 また、バイオリンが弾けるって……そう思うと、あの時、死ななくて良かった、って……」
「なるほど、ね……。
 だからよ、生きててよかったじゃないか。お前さんがもし死んじまったら、奇跡どころか、幼馴染傷つけたまま、謝る事すらも出来なかったんだぜ?」
「っ!! それは……そうですね、その通りです」

 ふと……俺は、純粋に、この上条恭介という男を、知りたくなり、質問をぶつけてみた。

「あのさ……その……アーティストのお前さんに言うのも何だっつーか。……その、物凄く無礼な質問をさせて貰いたいんだが、いいか?」
「? ……ええ、どうぞ」
「その、何だ……バイオリンってのは、二本の腕が無いと、弾けないモノなのか?」
「は?」

 何を言っているのだ、という目で見られ、俺は恥ずかしさに目線をそらす。

「いや、随分前に、路上で大道芸人のオッサンが、バイオリン……だと思うんだが、アレってサイズによって呼び方変わるらしいけど……まあ、多分、バイオリンだと思うんだ。
 そいつをな、左腕と右足で弾いてたんだ」
「右足で!?」
「ああ、そのオッサン、右腕が無くてな。
 だが、すげぇ器用に足で弾いてて、曲も陽気でみんなノリノリで、お捻り投げてた。……まあ、ああいう場所だからサクラも居たんだろうけど。俺は素直に感心して聞いてて、一緒にお捻り投げた。
 ……いや、すまない。大道芸とあんたの芸術を一緒にするのは、ものすごく悪いと思ってるんだが……そのオッサン、ノリノリでお捻り投げる観客を見て、すげぇ嬉しそうだったんだよ。ああ、この人、バイオリンが本当に好きなんだなー、って感じで。上手いとか下手とかじゃなくて、本当にそう思わせる演奏だったんだ。
 勿論、それ以外に生計(たっき)の道が無かったってのもあるんだろうけどな……
 で、そんなのをふと思い出して……お前さんにとって、バイオリンって、一体、何なのかな、って。
 本当に『好きでやってる』のか、それとも『それ以外に道が無いから』やっているのか……いや、無礼なのは分かってるんだが、もし良かったら、本当のトコ、俺に聞かせちゃくれねぇか?」

 俺の質問に、上条恭介は珍しく口ごもる。

「……ごめんなさい。考えた事もありませんでした。
 ただ、バイオリンと一緒に過ごしてきた時間が、さやかと同じくらい長かったので……あるのが当たり前みたいに思ってたんです。だから、自暴自棄になっちゃって……」
「そうか。いや、本気で無礼な質問をした。すまない、許してくれ」

 そう言って、俺はその場で上条恭介に頭を下げた。

「いっ、いえ! その……こちらこそ、御剣さんに言われるまで、考えてもいなかった事に気付かせてもらいました。
 腕が治った今だからこそ、改めて考え直してみます。
 そして、もし、答えが出せたら……お答えしたいと思います」
「そうか……いや、本当に、気に障ったんなら、謝るしかない話だからな。……ああ、そうだ」

 ふと、おもいついた事を、俺は実行してみる気になった。

「昨日の演奏。お前さんへの『お捻り』がマダだった」
「えっ、そんな……」
「まあ、なんだ。俺の『大道芸』を、ちょっと見てってくれよ」

 そう言うと、俺はポケットの財布から、五百円硬貨を取り出すと、白鞘を抜き放つ。

「よっく、見ててくれ?」

 切っ先を返して、垂直に立てた刃の上に、縦に五百円硬貨を乗せる。
 慎重に硬貨から手を放し……五百円硬貨が、兗州虎徹の上に垂直に立つ。

「わっ……凄い……」

 上条氏の言葉。
 だが、本命はココから……

「破ぁっ!」

 気合一閃。
 一気に引き斬られた五百円硬貨が『二枚になって』地面に落ちる。

「……!?」
「これで……昨日の演奏分、って所かな? 上条さん」

 『二枚』になった五百円硬貨を、呆然とする彼の手に握らせる。

「……さて、そろそろ飯時か。
 立てるかい、上条さん。良かったら、肩、貸すぜ?」
「い、いえ……っていうか、上条さんって……御剣さんの方が、年上じゃないですか」
「年齢は関係ねぇよ。お前さんが凄い人だからさ。尊敬すらしてんだぜ?」
「っ……その、ありがとう、ございます。御剣、さん」
「おう。じゃ、あの不味い病院食と、最後の闘いに行こうじゃないか。『腹が減っては戦は出来ぬ』ってな」
「あ、あははは、確かにあれは不味いですよね」

 お互いに、ちょっと引きつった笑顔を浮かべながら、俺と上条恭介は、病院の食堂へと向かっていった。


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