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No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
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[27923] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/19 10:46
「上条さん、すまねぇな。ちょっと大事な話があるんだ」

 上条恭介の病室に入ったのは、もう退室時間も過ぎてからだったが、それでも志筑仁美は上条恭介に付添ったままだった。……いいのだろうか、彼女もイイトコのお嬢様じゃなかったっけか?

「御剣さん……」
「美樹さやかの事について、だ」
「さやかの……?」
「本人が言いにくそうだから、俺が代言を預かってるんだが……どうする? 彼女の命にかかわる話なんだが」
「!?」

 俺の言葉に、上条恭介と志筑仁美が姿勢を糺した。

「さやかの、命、ですか……伺いましょう。御剣さん」

 と……

「ごめん、師匠!! やっぱり、自分で話す!」
『!?』

 ガラッ、と……病室の扉を開けて、入ってきた美樹さやかの姿は、魔法少女のソレだった。

「さっ、さやか……?」
「あのね、恭介。
 今からあたしが話すのは、突拍子もない話かもしれないけど、本当の事なんだ」

 そう言って、彼女は自ら、上条恭介に自分自身の身の上を話し始めた。
 魔女との事。魔法少女の事。その祈りについて。そして……魔法少女の真実まで。

「……そんな! じゃあ、さやかは!」
「うん。いずれ私も、魔女になっちゃう。もうね、これは変えようのない、運命みたいなモノなんだ」
「そんな……そんな事も知らずに……僕は……」

 今更ながらに。
 愕然とした上条恭介の顔色は、蒼白を通り越していた。

「さやか! 僕は……」
「ストップ!
 恭介。あたしはね、あなたのバイオリン、好きだよ。
 だから、あたしのために左手を使ってひっぱたくなんて、本気であたしに怒ってくれたんだね?
 ……ありがとう。確かに、あの場所で間違ってたのは、あたしだった。師匠にも、ちゃんと謝った。
 そんで……ごめんね、恭介。あたし、何も恭介の事、分かって無かった。見てられないからって、恭介の腕は、恭介のモノだもんね。本当に、余計なおせっかい、しちゃったみたい。
 ごめんね」
「違う! さやか! 違うんだ! 僕は……」
「だからね、恭介の腕が無事……ってわけでもないけど。ちゃんと治る事に、ほっとしてるの。
 それで、あたしは満足だよ。後悔なんて、あるわけない。
 ……だから仁美。恭介の事、よろしくね?」
「そんな……私……そんなつもりじゃ」

 同じように、愕然とした志筑仁美に、美樹さやかが笑いかける。

「いいんだよ! 誰かを守るために、あたしは魔法少女になったんだから!
 これからは、あたしが魔女から仁美も、恭介も、みんなを守ってあげるんだから!
 恭介に振り向いて欲しいなんてワガママ、もう言わない。子供じゃないんだから。……だから、時々、バイオリン聞かせて欲しいな。それだけは、お願いして、いいかな?」
「さやか……っ!!」

 戸惑い、言葉も無く、うつむく上条恭介。
 ……やがて、一つの決心をしたように、顔を上げる。

「さやか。もしよかったら、貰って欲しいモノがあるんだ」

 そう言って、上条恭介が取りだしたのは……あれは、確か……

「僕が生まれて初めて、オーディエンスから貰ったモノだ。
 この五百円玉の『半分』を、『さやかがくれた、僕の左腕の証明に』、貰ってくれないか?」

『っ!?』

 上条恭介の申し出に、その場に居た全員が凍りつく。

「上条恭介は、志筑仁美のモノだけど。『上条恭介のバイオリン』は、さやかの……美樹さやかのモノだ。
 ……志筑さん。ごめん。今の僕には、こんな答えしか出せないんだ。
 ……不誠実だとは分かってる。本当にごめん」
「ううん。いいよ、上……恭介さん。さやかさんになら、その権利、あるから」
「……恭介……っ!!」

 ベッドに腰かける上条恭介に跪くように。
 美樹さやかはその場に泣き崩れながら、『半分』の五百円玉を押し戴くように受け取った。

 あたかもそれは。
 『騎士』が王に対し、永遠の忠誠を誓うように。
 上条恭介のバイオリンに、美樹さやかは魔法少女としての『永遠』を誓ったのだろう。

「……はぁ……」

 溜息が出る。何とか……これで、何とかなった、の、だろうか? 成り行き任せにも程がある、ヒヤヒヤの綱渡りだったが……
 さて、と……沙紀と一緒に、暁美ほむらをとっちめに行かねば。
 ……っと?

「沙紀?」

 ひょっこりと顔を覗かせた沙紀の姿に、何か嫌~な予感がしてきた。何かを企んでる時の沙紀の笑顔は、色々とそのヤバい雰囲気で……実際、突拍子もない事を考えてたりするのだ。

「か・み・じょ・う・さ・ん♪」
「あっ、やっ……やあ、沙紀ちゃん」

 どーも、例の一件の告白騒ぎ以降、苦手のタネになりつつあるらしい沙紀の姿に、やや退いて構える上条さん。

「おい、沙紀! 何考えてる!?」
「え? 『確実に勝てそうな博打』が目の前にあるじゃない♪」

 っ……まさかっ!!

「沙紀! おまえ、まさか癒しの力で上条さんの左腕を……」
「うん。治してあげるから、その五百円玉の半割れ、私にも欲しいなーって……」

『なっ!!』

 と……沙紀の奴までが、珍しく『変身』してのける。

「御剣さん。見ての通り、私も魔法少女です。そして、御剣さんのバイオリンの、大ファンです!
 だから、もう一度。二度めの奇跡の代わりに、その五百円玉の半分、私にもください!」
「こン、おバカーっ!!」

 本気拳骨、第三弾。沙紀の脳天に、全力全開で拳骨を叩きこんだ。

「うにゃーっ! 痛ーっ!!」
「馬鹿かテメェはっ!! いつからお前は自分の能力で、そんなインキュベーター並みに泥棒猫みたいな真似するようになりやがった! お兄ちゃんは悲しいぞ!!」
「だってだってだってぇーっ!! 癒しの力なんて、私はお兄ちゃんに散々使ってんのに、美樹さんは一回だけで上条さんからあんなモノ貰って……ずるいずるいずるーい!!」
「アホかこのトンチキがーっ!! 欲しけりゃ幾らでも俺が作ってやるから、この場は諦めろーっ!」
「えっ、あれお兄ちゃんが作ったの!?」
「そーだよ、文句あっか!?」
「そんじゃいらな……あ、でも上条さんのモノなら欲しいー……ううううう、あの五百円玉の薄切りスライスが、これほど悩ましいモノとはー。っていうか、お兄ちゃん、日ごろからお金大事にしろって」
「やかましい! 黙れーっ!!」

 もー、兄妹漫才で色んなモンが、ぶち壊しである。
 ……ほんと、沙紀についての教育方針、真剣に考えた方がよさそうだ。

 と……

「ぷっ……はっはっはっはっは! いいじゃない、恭介! この子にも、残り、あげちゃいなよ?」

 美樹さやかが、指さして笑っていた。

「さっ、さやか?」
「あたしはさ、この半分をくれるって言ってくれた時の、恭介の気持ちだけで十分だよ。
 それに、恭介が早く怪我を治して、バイオリンを弾けるようになるほうが、大事でしょ?」
「ほっ、本当に……いいのかい? だって……奇跡も魔法も、タダじゃないんだろ?」
「いいっていいって、あたしはこれで十分なんだから、あとは恭介自身の怪我を治すほうが、先決だよ!
 だから恭介、あたしに遠慮なんかしないで、渡しちゃいな!」

 もう、気風の良い笑顔で、バシバシと上条恭介の背中をたたく、美樹さやか。
 ……『カッコイイ女になれ』ってアドバイスはしたけど、ここまで割り切れって教えた憶えは無いんだがなぁ……

「……あー、ごほんっ! はい、沙紀ちゃん」
「わーい! ありがとうございます、上条さんっ!」

 そう言うと、癒しの力を発動させ、上条恭介の左手を治して行く沙紀。そして……完治まで、ほぼ十秒。
 ……苦痛に顔を歪めないようになったあたり、本当に修羅場慣れし始めやがった。
 ……この自分の能力を餌に博打に出るクソ度胸といい、インキュベーター並みの悪辣さといい、ほんっと誰に似たんだか。

「はい、治りましたよー♪ やったー、上条さんから、貰った貰ったーっ♪ 上条さんの左腕、あたしもゲットー♪」
「……沙紀、あのさ、言いにくい事を言わせてもらうが」

 ふと、ある事実に気付き……ごほん、と咳払いをして、俺は『沙紀の仕掛けた詐欺の理屈』をひっくり返しにかかった。

「コインて裏表あるの、知ってるか?」
「………?」
「……つまりな、そのコインのスライスは、元は一緒でも『美樹さやかが持ってるモノ』とは別の意味を持つモノだって事だ。
 沙紀の持ってるのは、さしずめ……とろけるチーズを剥いた後のセロファンって所だな……OK?」

 俺の分かりやすくも曲解じみた解釈に、沙紀の顔が凍りつき、周囲の面子がポカーンとした後、クスクスと笑い始める。

「美樹さん、交換してっ!!」
「やだ」

 流石に、拒否する美樹さやか。
 その周囲の表情に、愕然とした沙紀は、そのまま涙目になる。

「にゃあああ、ひどいよ、こんなのあんまりだよ!! これはインキュベーターの陰謀じゃよーっ!! ぎゃわーっ!!」
「どこのモテモテ国王様だよ! おめーが勝手に自爆したんだろーが!!」

 というか、自爆するような解釈を、俺が後付けで付与したんだけどね。
 流石に、こんなインキュベーター並みに詐欺まがいで悪辣な行為を、兄として見過ごすわけには行かないし。
 ……マジで誰に似たんだろーか、ほんっと……

「は、ははは……ごめんね、沙紀ちゃん。
 でも、感謝はしてる。本当だよ。だから……三番目に、僕のバイオリンを聞きにきてほしいな」

 こーんな悪辣な罠を仕掛けた沙紀に対しても、ちゃんと三番目のポジションを用意してあげる上条さん。
 ……いや、ほんと出来た人だよ。マジデ。

「うっ、うっ、うっ……うにゃあああああああああああ!! 『日本じゃ三番目』とか、なによそれーっ! 二番目ですらないなんて、嫌ーっ!!
 ……はっ! ……っていうか、お兄ちゃんが、余計な事を言わなければ!」
「やかましい! おめーがインキュベーター並みの悪さをしようとしたから、止めただけじゃーい!!」

 本気拳骨、第四弾。

「沙紀! いつも言ってるだろ、『博打に負けても後悔しない! 張るなら悔いのない博打を張れ!!』って。
 『確実に勝てそうな博打』だからって、ホイホイ乗ったおめーの負けだよ、沙紀! 後悔するより反省しやがれ!!
 さもないと今度からおめー、上条さんに御剣沙紀じゃなくて『御剣詐欺』って呼ばれるようになっちまうぞ!」
「うっ、うっ、うにゅううううううう……」
「っ……たく! ほんっとーに誰に似たんだか! お兄ちゃんは、インキュベーターを手本に育てなんて、言った覚え無いぞ」

 と……

「私がこんな育ち方したのは、お兄ちゃんが原因じゃない」
「なっ!? おめー、言うに事欠いて!!」
「私知ってるんだよ! 魔法少女に追いつめられた時、土壇場で口先一つで逆に相手を破滅に追い込んだりしてるの!
 さっきの美樹さんに対しての言葉だって、殆ど計算ずくで、どこまで本気だったか分かったもんじゃないじゃない!
 お兄ちゃんって、本当にインキュベーター並みの『口先の魔術師』なんだから!」
「ばっ、よせっ! 上条さんが見てる! みんな見てるんだから!!」

 っていうか、俺か!? 俺のせいなのか!?
 いっ、いや、俺は少なくとも、一般人に対してココまで悪辣かつ露骨な馬鹿はやってない! やってない……はず、多分。

「っ……くっくっくっく」
「ぷっ……はははは」
「は、はははははは」
「う、あ……いや、その……ほんとごめんなさい、はい、すんません!!」

 沙紀の頭を拳骨でひっぱたきつつ。俺はひたすらに、頭を下げ続ける。

 ……あ、そういえば。ひとつ、重大な事を忘れてた。

「……あー、そうだ。美樹さやか」
「はい? 何でしょうか、師匠?」
「うん。あのな、とりあえず、成り行きとはいえ、正式に『御剣流』に入門を許可した上で、な……美樹さやか。お前は『破門』だ」

 俺の言った言葉に、凍りつく美樹さやか。

「……は? 破門?」
「つまり、もう弟子でも何でもないって事。『だから、俺はお前に剣術を教える事はない』……以上だ!」

 はっきりと筋を通した上で。
 おれはきっぱりと言い切る。

「なっ、なっ……何よそれぇっ!! どうしてあたしが破門なんですか!」
「あー? 理由を言えば納得するのかー? ンじゃ『お前さんのソウルジェムの色が気に入らない』とでも言っておくかねー?」
「っ……あ、あんた、ハナっから剣術教えるつもりなんて、無かったのねっ!!
 最初っから、あたしを説得するためだけに……」
「あったりまえだろーが、このトンチキ! 俺が気安くホイホイ教えるわきゃねーだろーがタコ!」
「っ……っくーっ!! こっ、この詐欺師! ペテン師! いかさま師! インキュベーター! 御剣詐欺!」
「あー? 何とでも言いたまへ、元弟子♪」

 へらへら笑いながら、耳をほぢほぢしてると……

「お兄ちゃん……だから私が『御剣詐欺』に育っちゃったって、分かってやってる?」
「詐欺なもんかよ?
 かなりな部分、成り行き任せだったとはいえ、美樹さやか救って、上条さんとも何とか丸くおさまって。後は、俺みたいな外道から悪影響受けないように、関係をバッサリ断てば完璧じゃねーか?
 ……それより沙紀! おめーも俺を騙してたんだろーが?」
「うっ!!」

 俺の言葉に、沙紀の奴が押し黙る。

「沙紀のソウルジェムの収納能力を以ってすれば、『俺みたいに』、既存の武器に魔力を付与する事で、闘う事は可能なんだろ?
 ……もうこれ以上は、我慢ならん。この兄が、お前に、キッチリと炊事洗濯から戦闘技術まで。我が身のスキルの全てを叩きこんでやるから、覚悟しやがれ!!」

 沙紀の脳天にアイアンクローをかまして持ち上げながら、ギラリ、と笑う。
 ……が……

「あっ、あの……おっ、お兄ちゃん……わ、分かった! 悪かった。だから、放して。放して」
「………本当に分かったんだな? あ!?」
「うん、分かった、分かったから!!」

 ぽいっ、と……沙紀を手放す。

「さっ、行くぞ、沙紀! もうココに用は無ぇ!」
「待った、お兄ちゃん! まだ『用は終わって無い』!」
「……あん?」

 気付くと……沙紀の奴が、また例の悪辣な笑顔を浮かべてやがった。
 ……なんだ? 俺は……何か見落としてたのか?

「ごめんね。お兄ちゃん……確かに私、お兄ちゃんに甘え過ぎてた」
「よく分かってんじゃねぇか」
「うん。お兄ちゃんの訓練は、ちゃんと受ける」
「おう、ミッチリしごいてやるから、覚悟しとけよ?」
「うん、だから『美樹さやかさんと一緒に』、あたしをしごいてね!!」

『!!!!!!!!?????????』
 そ、そ、そ、そう来たかっ!?
 予想だにしなかった沙紀の言葉に、俺はパニックになった。

「私、まず最初に剣術教えて欲しいなぁー、お兄ちゃん♪」
「がっ、ぐっ、がっ……ちょ、ちょっと待て、沙紀!! お前、何を言ってるのか、分かってんのか!? 今までお前が、他の魔法少女たちにどんな目に」
「だって、美樹さんだって癒しの祈りの使い手なんでしょ? だったら自分の傷は自分で治せるわけじゃない?」
「……あっ!」

 そ、そう来たか?
 さらに、沙紀の追いうちがかかる。

「それに、『私がお兄ちゃんの技をマスターしないと』、お兄ちゃんはいつまでも引退出来ないんだよね?
 あと、いざとなったら、美樹さんにお兄ちゃんから習った事、全部私が教えて行けばいいんだし」
「ちょっ、ちょっと待てぇぇぇぇぇい!! お前、本気で何考えてやがる!!」
「私は本気だよ、お兄ちゃん!
 『私に全てを伝える』条件に、美樹さやかさんにも剣術を教える事! これが絶対条件!」

 はっ、嵌められた……沙紀に……沙紀の奴にっ!!
 ……そんな、馬鹿な……

「私、知ってるよ! お兄ちゃんだって、元々は『正義の味方』だったんだから! だから、美樹さんに教えられる事なんて、いっぱいあるハズだよ!」
「そっ、それとコレとは別問題だっ! 今の俺は」
「だったら反面教師にでもしてもらえばいいじゃない! マミお姉ちゃんだっているんだから、二人で美樹さんを教え込んでかけ持ちさせれば、お兄ちゃんみたいに道を間違う事だって無いよ!」
「なんだそりゃあ? 滅茶苦茶だぞ、お前!!」
「滅茶苦茶上等だよ!
 お兄ちゃんだってよくやってるじゃない、こんな事!! だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」
「っ……………」
「お兄ちゃん……私、正義の魔法少女として頑張る美樹さんを見てる、上条さんの笑顔が見たいなぁ~♪」


 生まれて初めて。
 おれは沙紀にチェックメイトを喰らった事を、悟った。

「……………あー、その……美樹、さやか……さん」
「何でしょうか、元師匠?」

 にこやかに『イイ笑顔』で笑う、美樹さやかに対し、俺は頭を下げる。

「えっと、その……破門をとくから、戻ってきてください」
「頭の角度が足りないなぁ~。っていうか、御剣さんって背が高いから、頭が高い気がするなぁ~♪」
「……もっ、もっ……戻って、きてください。おねがい……しま、す」

 屈辱の土下座を、俺は美樹さやかにする事になり……結局、俺は、自分の一番の望みを叶えるために、美樹さやかを弟子にする羽目になってしまった。

「あ、手を抜いて美樹さんにだけインチキ教え無いようにね? ちゃんと私と美樹さんで、教えてくれた内容、相互チェックするから。あと、最初にお兄ちゃんから習うのは『剣術だけ』だからね♪」
「っ!! おっ……おま……」
「弟子同士がお互いに高め合うのは、当然でしょ? ね、『師匠』。
 あ、当然、病室の外にいる、マミお姉ちゃんが証人ね♪ 変な事したら、マスケットの弾が飛んでくると思ったほうがいいよ?」

 さらに、極太の釘までブスリ、と刺されてしまった。
 ……チクショウ!
 どこで……どこで俺は、沙紀の教育方針、間違えちまったんだろうか……とーほーほー。


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