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No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
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[27923] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/26 23:06
 深夜。
 二階で寝てる、お兄ちゃんの寝息と、悪夢にうなされるいつもの寝言を聞きながら、私……御剣沙紀は、布団から起き上がった。

(……ごめんね、お兄ちゃん)

 私は、忍び足で玄関の靴を取ってくると、ベランダの扉の鍵を静かに開け、魔法少女の姿に変身し、外に飛び出した。
 一歩間違えれば。
 私は冗談では無く、裏切りとしてお兄ちゃんに殺されるだろう。
 もしくは、マミお姉ちゃん、美樹さんに裏切られれば。あるいは、目標地点のマミお姉ちゃんの家に辿り着く途中で、魔女なり、他の魔法少女に不意を打たれれば、それまでだ。
 
 だが、行かねばならない。
 行って、全てを説明して、協力してもらわねば『お兄ちゃんを、死の希望から救う』なんて、出来はしない。

 そう、これは博打。『魔法少女』たる御剣沙紀が、例え命をスッてしまったとしても張らねばならない博打。

 『魔法少年(つかわれる者)を使う魔法少女(つかう者)は、魔法少年(つかわれる者)より先に、死ぬ覚悟を持たねばならない』

 かつて、お姉ちゃん……御剣冴子に、そう教わった、魔法少年を使う上での、魔法少女の心得。
 それが魔法少年……お兄ちゃんを使いながら、共に生き永らえ続けた上での、私の覚悟。
 だからこそ、私は絶対に、お兄ちゃんを救わねばならない……例え、お兄ちゃんに裏切りと謗られて殺される事になったとしても、私は、お兄ちゃんの『死』という間違った希望から、お兄ちゃんを救わねばならないのだ。
 でなければ、魔法少女として私が生きる意味も、生きてきた意味も、無くなってしまう!
 だって……たった一人、この世に残された『人間』の家族なんだから。



『表情を変えないで。特にお兄ちゃんに悟られないで』

 上条さんの病室で。
 私は『美樹さんを弟子にして』宣言でショックを受けてパニックになり、呆然としてるお兄ちゃんに気付かれないよう、マミお姉ちゃんと美樹さんにテレパシーを送る。
 この状態なら、魔法少女の内緒話を、お兄ちゃんに聞かれる心配は、無い。

『『魔法少女だけ』の、大事な話があります……今夜、どこか、三人で落ちあえる場所、ありませんか?』
『……沙紀ちゃん?』
『顔色を変えないで、マミお姉ちゃん! 特に、お兄ちゃんに感づかれたら終わりよ! 今のお兄ちゃんは放心状態だけど、それでも、こういう所は凄く鋭いんだから!』
『分かりました。では、夜、私の家に。
 でも……大丈夫ですか? 私が迎えに』
『ダメ! お兄ちゃんには、絶対気付かれちゃいけない話だから!
 何とか私が、夜、家から抜け出して、マミお姉ちゃんの家に行きます!』
『危険です! あなたは戦えないんですよ!』
『百も承知! それでもやらなきゃいけない事なの!
 ……お兄ちゃんが寝た隙を見計らって、家を出る。睡眠剤とか精神安定剤とか飲んで寝てるから、多分、大丈夫……だと、思う』
『思う?』
『薬を飲んで寝てても、他の魔法少女の『殺気』とか『気配』に気付いて、起きちゃうみたいなの。
 魔法少女の夜襲受けた時に、私が寝てる間に私のソウルジェム使って『戦闘』したりとかもあったみたい。だから『迎えに』とかは、本当に危ないから来ないで』
『うわ……本当に達人なんだ、師匠。ねぇねぇ』
『以上、通信終わり!』

 余計な話に発展する前に、私はテレパシーを打ち切る。
 美樹さんとのおしゃべりは、私が今夜打つ『最初の賭け』に勝つまで、封印だ。
 もっとも……その『最初の賭け』すらが、五分五分なのだが。



「じゃあ、ね」
「おう、また、な……」

 見滝原総合病院からお兄ちゃんと二人で出た時は、もう夜中に近かった。
 私の苦し紛れの言葉にショックを受けたのか、本当に『どうしてこうなった』という表情で、ふらふらと歩くお兄ちゃん。

 ……無理も無い。

 というか、私のほうが、今度の事はショックだった。
 最初は、お兄ちゃんの言うとおり、美樹さんを説得するための方便なのかと思っていたが、お兄ちゃんはあの時、本気で涙を流していた。
 思えば、お兄ちゃんは必要な嘘はつくけど、無意味な嘘はつかない人だ。さらに、苦し紛れに吐いた私の無茶苦茶な提案を、目を白黒させながらも、無理矢理泥を飲むように飲みこんだ事で、それは確信に変わる。

 ……お兄ちゃんは『お兄ちゃんが気付いた方法で』私が闘えるようになったら、本当に死ぬつもりなのだ。

 そして、それを吹き込んだのは、お兄ちゃんの言葉にもあった、あの時間遡行者。

 ……暁美ほむら……あなた、本当に余計な事をしてくれた!!
 無論、私も、このままではいけないとは、分かってはいた。けど、だからと言って、精神的に追いつめられてるお兄ちゃんに用意した『希望』としては最悪だ! あんた、私のお兄ちゃんに、なんて事をしてくれたの!!

 ……OK、この場に居ない魔法少女に愚痴っても仕方ない。
 むしろ、このピンチは、積極的にチャンスに換えるべきだ。幸い、状況が以前とは違う!
 何より、『死』という絶望と、『復讐』という妄執に向かってとはいえ、お兄ちゃん自身が『自分のために』積極的な活動に出てる事そのものが、私にとっては凄く稀有な状況なのだ。

 ……だが、私はそのために、今晩、幾つの鋼の命を用意して、BETし続けねばならないのだろうか?
 気が遠くなる。
 闘う事が出来ない、我が身が恨めしい。
 だが、泣き言を言ってなど、いられない。
 私が成し得る技能と知識と魂、全てを動員して、私はこの『賭け』に挑まねばならないのだ。
 何故なら私は……『魔法少年』御剣颯太の妹であり、『魔法少女』でもある御剣沙紀だからだ!!



「っ……はっ、はっ……」

 身体強化の能力をもってしても、私はか弱い。
 限界まで鍛え抜いた人間で、生身のお兄ちゃんに、殴り合いのケンカで負けてしまうくらいだ。

「あと、少し……」

 時刻は、もうすぐ深夜0時。魔女や魔法少女が跳梁する時間。
 さて、ここまで来て。
 目の前に、二本の道。片方は遠回りだが、マミお姉ちゃんの縄張りの中を通る、安全な道。
 もうひとつは、佐倉杏子とマミお姉ちゃんの『緩衝帯』になっている場所。最速最短で、マミお姉ちゃんの所に行ける。
 どちらを選ぶかって? 当然、今の私には『是非も無し』!!
 そう決心して、最短ルートの選ぶ。
 だが、閉店間際のゲームセンターの前を通り過ぎようとし……私はそこで、ゲームセンターから出てきた『最悪』と遭遇してしまった。

『っ!!!!!』

 顔をあわせ、お互いに絶句する。
 佐倉杏子。なんて……こと。

「きっ、奇遇ね……」

 OK、落ち着け私。まだ慌てるような時間じゃ無い。
 人気の多い通りで、ドンパチやるほど彼女も非常識ではあるまい。

「……何やってんだ、お前。こんな人通りの多い場所で『そんな格好』で?」
「へ? ……っ!!」

 今更ながらに……私は『魔法少女の格好のまま人気のある路上を突っ走り続けてた』事に気付き、真っ赤になった。
 だっ……だが、引かぬ、媚びぬ、省みぬ!! 私は御剣沙紀だ、バカヤロー!! お兄ちゃんの温もりのためなら、この身朽ち果てても構わぬわっ!!

「いっ、行かなきゃいけない所が、あるのよ!」
「こんな時間に、その格好で、か?」
「そうよ、悪い!?」

 真剣な目で、睨みつける。もうそれしか出来ない。
 足が震える。手が震える。それでも、目線だけは外すわけにはいかない。
 『喧嘩の基本にして極意』として、お兄ちゃんからガンのつけかたは教わってるのだ! ……やると、みんな可愛いって笑うけど。

「どこだよ?」
「あんたには関係ない!」
「……そうかよ」

 そう言うと、彼女は口にしていたクレープを、私に差しだした。

「喰うかい?」



「……ここらへんで、いいな?」

 結局。マミお姉ちゃんの家の近くまで、佐倉杏子は送ってくれた。

「とりあえず。ありがとう、って言っておく。
 でも、どういう風の吹きまわし?」
「……別に……あたしの敵は、御剣颯太で、あんたじゃない」
「お兄ちゃんの敵ならば、私はあなたの敵だよ?」
「……なんだ、今、ここでやるつもりか?」
「っ!! ……………」

 お互いに睨みつける。そんな中、目をそらしたのは……意外にも、佐倉杏子のほうだった。

「何にピリピリしてんのか知らないけど、無駄に命を捨てるのと、必要があって命を張るのとは違うよ。
 ……そんな事も、あんたのお兄ちゃんは教えてくんなかったのかい? 無茶もほどほどにしな、ガキ」
「……忠告、感謝するわ」

 そうだ、冷静に。冷静にならないと。交渉の鉄則は『くーる・あず・きゅーく』ってお兄ちゃん言ってた。
 ……どんな単語の綴りかは知らないけど。

「別に、あたしは……あんたら兄妹に、感謝なんてされる筋は、無いんだよ……」

 それだけ言うと、佐倉杏子は何もせず、黙って立ち去って行った。



「ごめんなさい、遅くなっちゃった!!」
「いえ、お待ちしていましたわ」

 マミお姉ちゃんが、紅茶とケーキで迎えてくれる。

 と、

「沙紀ちゃん。いえ、御剣沙紀師匠。さっきは、ありがとうございました!」

 深々と頭を下げる美樹さんに、私は手を横に振った。

「ううん、感謝なんてするいわれは無いの。むしろ、私の方が美樹さんを利用しちゃったんだから」
「……ほへ?」
「お兄ちゃんが、本気かどうかの確認。
 ……美樹さんも、聞いたでしょ? お兄ちゃんが『死ねるかもしれない』って言葉」
「え? あれって、私を説得するための、方便じゃ無かったの?」

 ……はぁ……

「あのさ、美樹さん。
 もしあの言葉が、全部が全部、方便だとしたら、私の説得程度で、『あのお兄ちゃんが』美樹さんの入門を許可……というか、破門を解いたりすると思う?」
『……………!!!!!』
「お兄ちゃんはね、必要な嘘ならいくらでもつくけど。だからこそ『必要のない嘘はつかない人』だよ?」
「じゃあ、あの説得は……」
「ほとんど、本気で本音だと思う。少なくとも私はそう感じた。
 それにお兄ちゃん、美樹さんの事を『感だけは鋭くて論理通り越して嘘を見抜いてくる、やりにくい馬鹿』って言ってたから、極力嘘は混ぜてないと思う。
 ……だから、美樹さんの一件で最終確認したの。お兄ちゃんは……『私に戦い方を教えたら死ぬつもりだ』って」
「そんな!!」

 いきり立つ、美樹さんを、私は片手で制する。

「本当に……追いつめられてるのか、師匠は」
「お兄ちゃん、人前では、どんな辛くてもあの馬鹿笑いしかしない人だし。泣きだすなんて、よっぽどの事だよ
 私だって……お兄ちゃんが泣いてるのなんて、殆ど見た事が無いし」
「っ……何とか、ならないのかよ!」

 拳を叩きつける美樹さんに、私は冷静に告げる。

「……昔、私が魔女の真実を知って、自棄になってた時、お兄ちゃん、言ってた。
 『俺はお前の魔法少年だ。 タラワだろうがアラモだろうが、守ってやる自信はある!
 でもな、くたばりたくてたまらねぇ奴は、どんなにしたって守りようがネェんだよ、このアンポンタン!!』って……襟首掴まれて大激怒されたの。
 ……悲しいけど。今のお兄ちゃんは、その時の私とは、全く逆の立場に陥っちゃってる。
 そして……私じゃお兄ちゃんを救えない。せいぜい、お兄ちゃんの修行を不真面目に聞いて、ダラダラと時間を稼ぐくらい」

 と。

「沙紀さん。その……言い方は悪いのですけど。
 『あの』颯太さんが、生きる事すら辛いって言っている以上、私たちには、もう、どうしようも無いのではありませんか?」

 マミお姉ちゃんの言葉に、私は溜息をついた。

「……分かって無い。マミお姉ちゃんも、全くもってお兄ちゃんを分かって無い!
 お兄ちゃんは、超人でもスーパーマンでも魔法少女でもない! 本質的には『ただの高校一年生の男の子』なんだよ!?
 だからこそ、背負いこんだ殺人の罪に苦しむのは当たり前だし、それに潰されようとしているのも普通の事!
 そこで重要なのは……それでも『誰かと共に生きたい』って、お兄ちゃん自身に望ませる事!」
「『誰か?』ですか……しかし、彼程の人を支え得る人なんて、それこそ沙紀さんくらいしか」

 はぁ……

「いい、お兄ちゃんが周囲の大人を馬鹿にして、私と二人で暮らしているのは、なまじ『何でも出来ちゃう』からなの。究極の実力主義者と言ってもいいくらい、お兄ちゃんは『実績と実力と行動だけ』でしか、他人を判断しない。
 大人が年齢『ダケ』を傘に着た、上から目線の忠告なんてのは最悪だし、まして、口先で『何かを成した』なら兎も角、口先だけの人間は、どんな老人や政治家だろうが絶っっっっっ対に信用しない。
 ……時々、お兄ちゃんに『社会ではどーだ』なんて言う大人がいても、そもそも『社会』なんて人間が集団で生活してる『世界』は、世の中無数に存在するんだから、忠告してる人間と受ける側の『社会』がズレてたら全く意味が無いのに、それを棚に上げて自分目線で『世間を知りなさい』なんて偉そうに言ったって、子供で、まして魔法少女の世界に首突っ込んでるお兄ちゃんに、通じるワケが無い。
 だからこそ、お兄ちゃんは『バイオリンの実力を示した』上条さんを『男』と認めて、敬意をもって友人として付き合いたい、って接してきたの。……少なくとも、お兄ちゃんがバイオリンを弾いたとしても、上条さん以上のバイオリン奏者には成り得ないからよ」

「うへぇ……つまり、恭介並みで、かつ、あの万能人間とジャンルが被らない達人じゃないと、忠告を聞き入れて救う事は、無理って事か?」

「基本、そう。
 しかも、庇護対象になっちゃったら最後、それは『下』の意見としか受け取らない。ある程度はワガママの形で聞いてはくれても、最終的な意思決定に影響は及ぼす事は無い。
 だから、私は無理だし、美樹さんも弟子志願で論外。暁美ほむらは、そもそもこの状況を作った元凶。生活のためでも魔法の力で悪さを繰り返すような佐倉杏子は、お兄ちゃんの目線からすれば超論外。
 お兄ちゃんに信用される、実績と実力、そして行動力の持ち主。……マミお姉ちゃん。私の知る限り、お兄ちゃんを救えるのは、あなたしかいないの!」
「わっ、私が!? 颯太さんを?」
「お兄ちゃん本人が言ってたでしょ? 病院で!
 誰かを守る『正義の味方』に挫折して、魔法少女殺しに手を染め続けたお兄ちゃんだからこそ、『正義の味方』を貫き続けてる、マミお姉ちゃんが眩しいんだ、って!
 ……おねがい! 滅茶苦茶なのは百も承知! 筋が通らないのは分かってる!
 だけど、マミお姉ちゃん、お兄ちゃんを救って欲しいの! お願い!!」

 そう言って、私はマミお姉ちゃんに、土下座した。

「っ……分かりました。出来るかどうかは分からないけど、頑張ってみるわ、沙紀ちゃん」
「本当!? ありがとう!!」

 言うと思った。言ってくれると思った。
 だが……『私の二番目の賭け』は、ここからが本番なのだ。

「それと……ごめんね。
 私、今、マミお姉ちゃんを、『御剣詐欺』にかけた」
「え?」
「まず、お兄ちゃんを救う上で重要なのは。『颯太お兄ちゃんに、絶対に恋しちゃだめ』って事」
『……は?』

 首をかしげる二人に、私は『お兄ちゃんの知らない、お兄ちゃんの罪』を話す。

「昔、ね……私が、別の魔法少女たちのグループに、何度か所属していたのは、知ってる?」
「え、ええ。そこで、酷い目に遭ったって」
「そう。その原因はね……実は、お兄ちゃんにも、あったの」

『へ?』

「お兄ちゃん、背が高いし、顔もそこそこイイし。真面目で優しいし、陽気じゃない?
 料理も上手で、和菓子作りが得意で、それでいてナンパじゃなくて一途だし」
「……ま、まあ」
「殺し屋、って実態知らなければ、確かに……ガラは悪いけど」
「ガラが悪いのは、あれは、魔法少女に対しての威嚇のポーズだよ。特に警戒してる相手にはね。普段はとっても大人しいし優しいんだよ?
 お兄ちゃんは、私の能力『だけ』が原因って思ってるみたいだけど……実際は、お兄ちゃん自身をめぐってのトラブルも、結構あったの。中には、本気で惚れこんじゃった子も居てね……その子が一番、私に辛く当たってた」
『!?』
「そして、そんな風に、私が苛められてる事を知ったお兄ちゃんが、何度忠告しても、そのたびに問題は抉れていって……結局、そのグループの魔法少女全員を、お兄ちゃんは手にかけざるを、得なくなっちゃったの。
 中には、殺される直前に愛の告白をした子も居たんだけど、お兄ちゃんは『ただのその場しのぎの命乞い』としか、受け取らなかった。それくらい、私自身が酷い事になっちゃって。
 ……思えば、あの時から、お兄ちゃんは、本格的に壊れ始めていたんだと思う。
 『魔女の釜』を開発したのも、その頃だったから……あとはもう、刺客として送られてくる『正義の味方』も加わってグチャクチャ。『暗殺魔法少女伝説』の完成だよ」
「そんな……」
「この話。絶対お兄ちゃんにしないで! そんな事を知ったら、ますます自分で自分を追いつめちゃうから!」

 こくこく、と二人とも頷く。
 特に、美樹さんは真剣だ。

「あたし、今なら分かるわ……物凄く。その師匠に殺された魔法少女たちの気持ちが」
「恋は盲目……ですか」

 溜息を突く、マミお姉ちゃん。

「一応、マミお姉ちゃんは、私と友人だからって事で、御剣家の敷居を跨がせているけど。
 それが無くなったら、お兄ちゃんの行動は容赦が無くなると思って」
「分かりました。でも、それだけじゃないですわよね?」
「勿論。
 次に、お兄ちゃんを救うために関わり合うって事は、『お兄ちゃんが認める対等、もしくは上の関係』って事。
 これが、マミお姉ちゃんを選んだ、もうひとつの理由」

 私の言葉に、マミお姉ちゃんが首をかしげる。

「つまり……縄張りを保護下に置いてる、今の状況が、最適って事ですか?」
「うん、でも、もうひと押し。
 颯太お兄ちゃんとマミお姉ちゃんの協力関係……理想を言うなら、利害を一致させて、お互いを認め合って、背中を預け合う仲になって欲しいの。
 慣れ合いじゃない、信頼と信用、って意味で『助け合う』関係じゃないとダメ。美樹さんは痛感してるかもだけど、決して『救ってあげる』とか『救いたい』って一方的な関係じゃ、お兄ちゃんはその手を絶対に払っちゃう」

 と……

「なんか、物凄く思い当たるというかさ……ひょっとして、あたしが恭介に振られたのって、師匠のせい?」
「どうかな? 上条さんはお兄ちゃんが認めた人だもん。
 お兄ちゃんとどっか似た性質があったとしたって、おかしくないよ?」
「うーん……釈然としないけど、まあ、分かる気がする。確かに、一方的に助けられるって、癪だもんね」

 そう言って、美樹さんは納得してくれた。

「それでね、お兄ちゃんが『魔法少年』をやるにあたって、私に誓った言葉を教えてあげる。
 『魔法少年が信頼する魔法少女に信頼されている限り、その魔法少年は決して魔法少女を裏切らない。
 魔法少女を傷つけてでも魔法少女の命を救い、魔法少女を欺いてでも魔法少女の心を救う。あらゆる手を尽くし、己の命を度外視して』
 そして、現時点で、私以外で颯太お兄ちゃんの『信頼』を、今、一番得ているのは……マミお姉ちゃんが、今のところトップよ」

 ちなみに、最下位は、勿論、ブッチギリで佐倉杏子。
 ……まあ、それは仕方ないだろう。彼女の日ごろの行動が行動だ。

「……なる、ほど。
 つまり、颯太さんが魔法少年で在る限り、魔法少女との約束は破る事はない、という意味ですわね?」
「お兄ちゃんに信頼されていれば、って条件がつくけどね。
 ……言っておくけど『裏切られた』とお兄ちゃんが認識した時の行動は……妹の私でも、背筋が凍ってソウルジェムが濁るような、凄まじいモノだよ。
 勿論、一度、本格的な信用を得たら、そう簡単には見限らない甘さもあるけど」
「なる、ほど……」

 と、美樹さんが、おずおずと手を上げた。

「あの、さ。一つ、疑問に思ったんだけど、いいかな?」
「何?」
「師匠を救えるのが、マミさんだとして。
 逆にさ? マミさんに師匠が惚れちゃったら、どうなるのかな?」
「……………へ?」

 想像だにして無かった質問に、私は目が点になった。

「……美樹さん、もう一度。りぴーと・わんすもあ」
「だからさ、マミさんに師匠が惚れちゃったら? あの時は言葉の綾だ、って言ってたけど。
 可能性としては、低いもんじゃないんじゃない?」
「その場合は……その場合は……どうなるんだろう? っていうか、どうなっちゃうんだろう?」

 少なくとも。
 恋愛沙汰にウツツを抜かすお兄ちゃんの姿なんぞ、銀河の彼方の出来事としか思えない。
 あの朴念仁のお兄ちゃんが、家族以外の誰かに恋愛するなんて、考えてもいなかった。

「本気で分かんない……考えてもいなかったし、想像の銀河の外だった。
 っていうか……『男の人』って、どうやったら女の人を好きになるんだろう?」
「いや『どうやって好きになるか』じゃなくて。『好きになったらどうなるか』って意味なんだけど」
「……えっと、えっと……もしかしたら、なんだけど。
 うっかりすると、魔法少年、やめてくれるかもしれない」

 私の言葉に、二人が『は?』って顔になる。

「お兄ちゃんが、魔法少年やるに当たって、『正心』ってのを掲げてるんだけど。
 その中の禁止事項に、酒と、欲、色……つまり、色恋沙汰は禁止っていう部分かあるのね。
 それを自分から破っちゃうわけだから……」
「そっか、自分の中のルールを破る、って事は」
「うん。でも、可能性の問題だし、本気でどうなるかなんて分かんない。
 ……もしかしたら、マミお姉ちゃんの魔法少年になっちゃうかもしれない。本当にごめん、分かんないとしか、答えようがない。
 というか、そんなお兄ちゃん、想像の外だった」

 と、私の言葉に、美樹さんとマミお姉ちゃんが、笑いだす。

「……何?」
「なんかさ、沙紀ちゃん。今、『お兄ちゃん取られちゃうー!!』って顔してたよ?」
「そうですわね」
「!!!!!」

 指摘されて。ようやっと分かってしまった。

「……わ、私、ブラコンだったのかな?」
『何をいまさら』
「うっ、嘘だーっ!! だってお兄ちゃん、最近足臭いし、ごろごろしてる時だらしないし、ピーマン山盛りとかやるし、拳骨いっぱい降らせるし、最近はオシオキにプロレス技とか使って来るんだよ!?」
「その全部含めて『お兄ちゃん大好き』って言ってるように聞こえますけど?」
「そっ、そんな……」

 否定したい。だが、否定できない自分が居る。

「わ、私がブラコンだったなんて……そんな、馬鹿な……」
「そもそもさー、ブラコンじゃなければ、『お兄ちゃん助けて』なんて、マミさんに頼むわけないと思うんだけど?」

 愕然とする私に、美樹さんまでが追い打ちをかけてくる。
 もう私は、その場にがっくりと膝を突いて、カーペットを見るしか無かった。

「つまり、ブラコン妹を適度にあしらいつつ? 師匠……お兄ちゃんと良好な協力関係を保ち? かつ、師匠を死の願望から救える人物?
 マミさんしかいないじゃない、やっぱり」
「……大任ね。私に務まるかしら?」

 と、アッサリと美樹さんが答える。

「案外、普通に勤まりそうだと思うんだけど、マミさん。以前、師匠の武器庫漁った時の、エッチな本とか見たでしょ?」
「えっ!? あれ?」
「うん。外見は、負けてないし。あとは、蒼いカラーコンタクトでもつけて、そのおっぱい強調して迫ってみたら?」
『美樹さん!!!』

 思わず、私はマミお姉ちゃんと一緒に、叫んでしまった。

「っ……ははははは、ほらね?
 『お兄ちゃんキャラ』をターゲットにする上での、最大の障害である『ブラコン妹』が、既にこっち側の味方なんだよ? というか、カモが葱背負ってやってきたみたいなモンじゃない。
 あとは、いかに師匠を攻略するか、って所じゃないの?」
『っ!!』

 美樹さんの指摘は、なんというか……岡目八目と言うべきか。
 流石、恋愛がらみで魔法少女になった末に、魔女化の真実を知ってなお、魔法少女な人の言う事は、違う!

「そうか……それしか、お兄ちゃんを救う手が無いのなら。
 マミお姉ちゃん、改めて、よろしくお願いします! 私も、サポートしますから! お兄ちゃんに好きなだけ、色仕掛けしてアタックしてあげてください!」
「はっ、はい……」

 こうして……私は『二つ目の賭け』に勝った事を、悟った。



「さて、と……問題は、ここから、私が『どんな理由をつけて』どうやって帰るか、ね」
「え? 私が送りましょうか?」
「言ったでしょ? これは極秘会談。そして、私が外に出た事に『お兄ちゃんはとっくに気がついてる』」

 その言葉に、マミお姉ちゃんが一笑に伏そうとする。

「まさか……寝てたんでしょ? まだ二時ですわよ?」
「甘い! お兄ちゃんが私が居ない事に、気付かないわけがない!
 きっと、玄関口で『鬼いちゃん』と化して、仁王立ちしてるに決まってるんだから!」
「買い被りすぎじゃない? 幾ら師匠でも……」

 美樹さんの言葉に、私は深刻に沈痛な表情で。

「私のイタズラや秘密ってね……最終的に、お兄ちゃんにバレなかった事、無いの」
『……………』
「つまり、『戦えない魔法少女が、夜中、家を脱走して何をしていたか』って理由が必要なの。この極秘会談を、徹底的に誤魔化すための。
 だから何か……何か、無いかな!」

 と……

「あのさ、沙紀ちゃん? 『魔法少女』っていうんじゃなくて『御剣沙紀のワガママ』って事なら、幾らでも理由つけられない?」
「ほへ?」
「例えば……夜中、どうしてもアイスが食べたくなった、とか」
「アイスかぁ……でも、分かんないなぁ。
 お家の冷蔵庫、基本的に中が分からないから、迂闊には……」

 と……マミさんの家の外。
 焼き芋屋さんの車が、営業を終えて、突っ走って行くのが見えた。

『あれだーっ!!』



「……で? 窓の外から見えた焼き芋屋さんの車を追って? 巴マミの縄張りまで行っちゃった、と?」

 玄関先で腕を組んで、仁王立ちしている『鬼いちゃん』が、私の抱える焼き芋の袋を見ながら。
 私は舌を出して、謝ってみた。

「てへ♪ ごめんなさい」
「こっ……のっ……大馬鹿モンがああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 怒髪天をついた『鬼いちゃん』の拳骨が、私の脳天を直撃し……私は『三つ目の賭け』に勝った事を、悟った。

「ごっ、ごめんなさい。二度としませーん!!」
「あったりまえじゃあああああああっ!!」

 ……でも痛いです、手加減してください……などという泣き事は『鬼いちゃん』は、聞いてくれませんでした。
 あううううう……『魔法少年を使う』って、楽じゃない。


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