「……で、どうしてこうなった?」 我が家のソファーだの何だので、思いっきり寝こける魔法少女共(含む、沙紀)。 あの後。 とりあえず、昨日からメシがマダだった事を思い出した俺が、冷蔵庫の残りで、適当にデッチアゲた飯を全員に振る舞った直後。 まず、沙紀の奴がコックリコックリとフネを漕ぎ始め。続いて、『寝て構わんぞ』の言葉に巴マミと暁美ほむらが寝入り初め。ンで最後に美樹さやかも『あたしもー』、と、呑気に寝てしまったのである。 ……考えてもみれば、昨日から戦闘と緊張の連続で、寝てない状態のままで、空腹を満たした瞬間である。 寝ないほうが、おかしい。 まして、沙紀の奴は、旅行帰り→拉致→帰還の強行軍だ。 とはいえ、一応、俺……魔法少女の殺し屋で、しかも野郎なんですけどね? まあ、俺は、文字通りの修羅場開けの徹夜なんて『慣れてるし』。 それに、『最優先で』やらなきゃならん事がある。「……さってっと」 まずは、警察の知り合いに電話。「……あ、もしもし、永江さんですか? ご無沙汰してます、御剣です」『おお、御剣君か。元気だったか?』「ええ。それで、永江さんを見込んでですね。 斜太興業絡みの事で、ちょっと一般人から匿名のタレコミって事で、お耳に入れたい事があるんですが」『ほう、どんなだ?』「えっとですね。……昨日、沙紀が誘拐されまして」『なんだと!?』「いえ、それは、相手が指定してきた場所に行って、力ずくで奪還したんですよ』『奪還、って……君は!』「時間が無かったんです! ……連中がクスリキメてるって噂は知ってたんで、沙紀が『漬け』られる前に、取り返す必要があったんですよ! 本当に、時間との勝負だったんです。警察に通報してる余裕も無くて」『そうか……いや、そういう状況だったら仕方なかったのかも知れんが、二度とそんな軽率な事はしてはダメだよ!?』「はい。ですけど、それだけじゃないんです。 その……沙紀をさらった斜太チカとか初め、俺の知る限り三人、クスリのオーバードースで死んでるんです」『なん……だと!?』「すいません! 間に合わなかったんです……沙紀を助ける事で、精一杯で」『いや、君に責任は無いよ。 ……よく知らせてくれた、後は任せたまえ。場所は?』「いえ、話は終わってません、永江さん! その場に居た少女たち、全員、仲間が死んだの見て逃げちゃったんですけど……話を聞く限り、彼女たちは、本当に何も知らなかったみたいなんです」『っ! ……だとしてもなぁ……薬物使用に誘拐って、重犯罪どころじゃないぞ!?』「永江さん。沙紀をさらった主犯は斜太チカです。そして彼女は死んじゃってるんですよ。 ……流石に、何も知らなった彼女たちに、共同責任を負わせるのも気の毒なんで、厳重注意に済ませてもらえませんか!?」『……』「お願いします! でなければ、場所、教えられません!!」『罪を憎んで、人を憎まず、か。相変わらず君らしいね……分かった。任せたまえ。 斜太興業については、マルボウにも話を通しておくよ』『ありがとうございます。場所は、郊外の潰れたウロブチボウルです』 ブツッ。 さて。次に、使い捨てのプリペイド式のケータイに換えて、ボイスチェンジャーを使って、と……「……あ、もしもし。○○組の親分さんですか? お宅が杯下ろした、斜太興業さんの事で、ちょいと耳に入れたい事が……」『いい加減、悪ふざけはやめや。御剣のボンじゃろ、お前? このケータイの電話番号知ってて、素性隠してワシに繋ぎつけてくる奴なんぞ、一人しかおらんわい』「……相変わらず、怖い人ですね、親分さん」『当たり前じゃ。おのれの師匠にゃ、散々、『痛い目もイイ目も』見せられとるんじゃい』「ですよね……『師匠に関わって生きてられた』ヤクザって、親分さんくらいですもんね」『おだてたって、何も出ぇへんぞ。 ……で、今度は何の用じゃい、御剣のボン。師匠と違ってオノレとの取引は、そう悪いモンばっかやなかったしな』「斜太興業の事です」『……おう、あのチンピラ共の事か、何じゃい?』「連中がサバいたシャブで、死人が出たんですよ。そっからケーサツが動いてます」『なんじゃい、そんな事かい……もちっと気の利いた話をもってこんか』「親分さん、本音吐きましょうよ。 今日び、ロクに稼ぎの無い武闘派なんて、使いどころ無くて困ってたんでしょ? 挙句、アシがつくような雑なやり方で、カタギにシャブ捌いてサツに目ぇつけられるような馬鹿共ですぜ? 破門すんのに、イイ口実じゃねぇですかい?」『……話が見えネェな。お前さんのメリットは何だ』「その馬鹿共がね、こっちの身内を拉致ってシャブに『漬け』ようとしてくれたんですよ。 証拠は、斜太の親分の娘のチカが、シャブのキメ過ぎて死体で転がってます。あと、ツマむ加減知らなくて逝っちまったカタギが二人……まあ、誘拐なんてトラブルのネタ、残すわけにゃいきませんから、その辺は垂れこんだサツに、伏せてますけど。 けど、『確実にサツの捜査が斜太興業に入る』のは事実ですぜ。そこから、ドコまで芋づる式に上に登って行くかまでは、ちょいとコッチじゃ判りかねますがね」『……そうかい、御剣のボン。 つまりは、『斜太の連中への復讐』って事かい?』「幾ら俺がカタギだからってね……だからこそ、『筋は通しておきたい』んですよ。親分さん」『分かった。サツの動きはこっちで裏を取るから、それが確認取れたら、連中を破門にする。 ……いっそ、『赤札』つけてやってもいいかもな。あの馬鹿共、『誰に喧嘩売ったか』分かっちゃいねぇだろうし』「流石、親分、分かってらっしゃる! ……それじゃ、失礼します!」『おう。だがな、御剣のボンよ。おめーとこんな話をするたびに何度も繰り返すがな……カタギがヤクザ、舐めとったら、あかんでぇ?』「そいつはもう、肝に銘じておきます。じゃ、失礼します!」 そう言って、ケータイを切る。……あー、マジ、おっかなかった。 正直、背筋が凍るどころじゃない。『奴ら』は俺なんぞ及びもつかない『実戦心理術』の達人なのだから。しかも、『何してくるか分からない』という意味では、絶対敵に回したくないのだ。 いや、やるしかないなら、腹括ってヤルだけなんだけどさ。少なくとも、斜太興業みたいに、こっちに害が来ない限り、あまり積極的に敵に回したくはない。 っつーか、怖いの通り越して面倒過ぎるし。マジで。 と、まぁ……とりあえず、こんな具合に『かるーく不幸になってもらう』下地は作っておいて、と♪「さってっと。『本格的に』不幸になって貰いましょうか」 とりあえず、斜太興業を『襲う』ための計画と道具を用意せね……ば? ふと。 寝入ってる暁美ほむらの表情。それと、さっきのテープ芸に……何かこう『どこかで彼女を見たんじゃないか?』という既視感が、頭をよぎった。 あれは、そう。確か、沙紀を入院させた、病院で……「……………」 変装用に使う、フレームの四角い素通しの眼鏡を持ってきて、彼女に近づけ……「何をしようとしたの?」「……なんだ、起きてんじゃねぇか」 って事は……「馬鹿弟子共。お前ら全員、揃って俺を試そうとしやがったな? 大方、沙紀あたりがテレパシーで連絡取ったろ?」「……う、バレました?」 引きつった顔で起きて来る、美樹さやか。「ったく! 沙紀や巴さんならともかく、お前が寝る理由が無ぇからな……。 それより、暁美ほむら。 なんかさ……俺、お前をどこかで見た気がするんだ」「気のせいよ」「いや、多分、気のせいじゃネェ。確認させてもらいたいんだが」「不要よ」「……まあいいや。じゃ、写真取らせてくんね?」 そういうと、俺はケータイを取り出して、暁美ほむらの顔に向ける。「何故?」「違和感を放っておけネェんだよ。どうも気になって気になって、仕方ねぇんだ」 カシャリ。「ちょっとパソコンに画像落として、加工してみるわ。 ……多分……」「はぁ……貸しなさい、その眼鏡」 そう言って、暁美ほむらが、四角いフレームの眼鏡をかけ、更に髪の毛をみつあみに……って。「これでいい?」「あーっ、やっぱり! 前に沙紀の病室の隣に、入院した子だーっ!!」「ほへ?」 呆然とする美樹さやかを放っておいて、俺は納得するやら呆れるやら。「どーも雰囲気とかイメージが、ゼンッゼン噛み合わなかったっつーか。 あの挨拶しても目ぇ背けてた、気弱な眼鏡っ子がドコをどーやったら……あー、でも、退院は沙紀のほうが早かったから、お前さんは沙紀が魔法少女になって退院した後に、魔法少女になったのか?」「この時間軸的には、そうなるわね。 正確には、あなたと会ったのは、『私が何度か繰り返した、入退院のうちの一回』に、当たるけど」「そーっか、そーっか! あの眼鏡でおさげの気弱っ子が……くっくっくっくっくっくっく、あはははははははははは! いや、スゲェスゲェ! 幾ら、女が化けるっつったって、化け過ぎっつーか『劇的ビフォー→アフター』だよ! マジで奇跡も魔法もあるとは知ってたけどよ! こんな奇跡や魔法なんて、見た事ねぇよ、あーっはっはっはっはっは!! ……ってーか、あんた、ひょっとして……くっくっく……こっちには気付いてた?」「気付いたのは、あなたが佐倉杏子に襲われて入院した後よ……正直、あなたも面影すら無かったし」「そーっか、そーっか! なーんだ一言言ってくれりゃ……ぶっ……だめだ、すまん、マジ腹筋崩壊……あっはっはっはっはっはっは!! 腹が、腹が痛ぇ……お前が、あの眼鏡っ子だったって……アリエネェー! あっはっはっはっは!!」 完全に腹筋崩壊して笑い転げる俺を、暁美ほむらが射殺したそうな目で俺を睨み続けていたが、最早、関係無い。 何しろ、こっちは向こうの過去の弱みを握ったのである。 後は色々とこれをネタに…… ゴッ! ……後頭部に衝撃を感じ、俺の意識は闇へと落ちた。「んっ……んー? ……おい、なんだよこれ?」 気がつくと。俺の体は黄色いリボンで拘束されていた。 って……「とっ、とっ、とっ、巴さん!? っていうか、お前ら、何やってやがる!?」「んー? 御剣颯太師匠の、成長ダイアリー観察?」 ニヨニヨしながら、馬鹿弟子が……いや、『魔法少女共(含む、沙紀)』が、車座になってテーブルでめくっているのは……あろうことか、俺の幼少期のアルバム!!「うわー、なんか師匠の子供の頃の周りの風景って、本当に『東京の下町』って感じ。こち亀みたい」「へぇ、ここらへんから、見滝原時代になるのねー」「……うわ、これがお姉さんと師匠? っていうか、師匠、今と目つきも髪形も全然違う! 髪の毛もスポーツ刈りっぽく短いし、なんかこう、目がキラキラしてて真っ直ぐで、本当に二人とも『魔法少女』と『魔法少年』って感じ!」「そうね……私もあまり言えないけど、ドコをどうやったら、こんな純真そうな少年が、ここまで悪辣な生き物になるのかしら? これこそ本当に、『劇的ビフォー→アフター』だわ」「うーん、環境の変化って、恐ろしいなぁ。 っていうか、煙管咥えたこの人が師匠の師匠? なんかホントにこう……うさんくさーいオッサン、って感じで、今現在の師匠に通じるものがある気がする」「おい、やめろてめーらーっ! 一体なんなんだーっ!」 流石に過去の恥を晒されて、ジダジダと暴れるも。「え、だってお兄ちゃん。暁美さんを、色々脅すつもりだったんでしょ?」 にっこり微笑む沙紀に、俺は目をそらしながら。「!! ……ソンナコトハナイヨ」「するんです。お兄ちゃんは。『魔法少女相手には容赦なく』。 だから、しっかりお兄ちゃんの弱みもオープンにしておかないと、信頼関係にヒビが入るでしょ?」「いや、巴さんや馬鹿弟子ならともかく、これ無理だから! 油断とか信頼とか、無条件で出来るわけねーだろ!」「安心なさい。私はこの事は誰にも言うつもりは無いわ。 そう。誰にも、ね……」 なんというか。『にまぁ』っといった感じの悪辣な笑顔。魔法少女らしからぬイビルスマイルに、俺は戦慄した。 ……こっ、このアマっ!「私たち、ワルプルギスの夜を超えるまでは、『対等の同盟関係』よね?」 そう言って俺の肩を、ポム、と叩く暁美ほむら。 ……チクショウ。どうしてこうなった!?「……あー、その……師匠、機嫌治して」「颯太さん、その……悪気は無かったんです」「オマエラナンカ、ゼッコウダ……」 体育座りで凹んでる俺を他所に、暁美ほむらが俺の後ろで、沙紀から銃器を受け取っていた。 と……「御剣颯太……その、一つ聞きたいんだけど、不可解なモノが出てきたんだけど。『これは何?』」 そう言って、暁美ほむらが示したのは……八九式自動小銃。そう、『自衛隊の制式装備』である。 そして、自衛隊の装備品というのは、普通、一般に流布することは決してない。自衛隊用のレーションの類も、あれは原則『民間の紹介用』に作られたモノで、自衛隊員が現役で食べているモノとは、若干違う。 まして、武器類は国産品が多く、海外に流出するのも、よっぽど特異な例がなければありえないのだ。「ん? むしろそれが何かってのは、お前のほうがよく理解出来るんじゃないのか?」「いえ、だからよ。『何で私が見慣れた装備が、海外で武器を調達しに行った、御剣沙紀のソウルジェムから出てきたのかしら?』」「それなんだがなぁ……俺も本当に不可解なんだが、おそらく、こういう事なんじゃねぇかと思うんだ」 そう言って、俺の推論を述べる。「あのへんに、確か一年くらい前、PKOだか何だかで、自衛隊が行っただろ? テレビでニュースになったじゃねぇか?」「ええ。それが? まさか、彼らが置いてったって事?」「置いてったっつーのはアリエネェよ。何度も言うが、自衛隊ってのは武器の管理に凄く厳しい。それは現地でも変わらない。 つまり……『武器を放棄せざるをえない状況に陥った、隊員が居た』って考えるのが、妥当なんじゃねぇのかな?」「……どういう事?」「考えたくもネェんだが……例えば、だぞ? 自衛隊員が、現地で武装勢力に拉致された。そして、密かに日本政府と交渉でもした。 その結果がどーなったかまでは知らんが、とりあえずその隊員さんが武装したまま換金……もとい、監禁されてたとは、考えにくい。 当然、隊員さんの武装や装備は、解除された。そして、そういう装備品は、普通、証拠品なんだが、下っぱが金に困ってマーケットに流しちゃったとか、考えられないかな?」『……………』 俺の推論に、魔法少女たちの顔色が変わって行く。「そっ、その隊員さん、どうなっちゃったのかな?」「さあ? 殺されたか、それとも日本に帰れたか。それは分からんよ。 何れにせよ、海外派兵中にそんな事実があったとしたら大問題だ。自衛隊の上層部のクビがいくつ素っ飛ぶか、知れたもんじゃネェ。 まあ……なんだ。俺の推論が、どこまで当たってるかどうかまで分かったもんじゃないが……トドのつまり、こいつは恐らく『日本政府が絶対表沙汰に絶対出来ない、自衛隊の装備品』だと思ってくれ。 そういう意味で、暁美ほむら。 お前が使うのが、一番ふさわしい装備だと思う」「まあ、使わせて貰うけど……どうしてそんな装備品を買ってきてしまったの? あなたの嫌う、厄介事のタネじゃない?」「『闇市場に自衛隊の武器が流通してます』なんてバレたほうが、色々世間様的に最悪だろうが? それに、少なくともお前が使う限りは、もしかしたら死んでるかもしれない自衛官さんの供養にもなるかもしれんしな。 いずれにせよ、放っておくよりも、俺が買っちまったほうが悪い結果にはならんと思ったから、買ってきたんだよ」「……………」「あ? 何だよ? ……言っておくがな、窃盗っつー方法で自衛隊に忍び込んだお前は、褒められた義理じゃねぇが、ワルプルギスの夜に喧嘩売るっつー事そのものに関しちゃあ、俺はお前を評価してんだぜ? そして、目の前には『お前が扱い慣れた、好きに使って構わない装備』がある。 だったら使ってやれよ。こいつをワルプルギスの夜に、ぶちかましてやれよ。 ……多分、だけどさ。自衛隊の人だって、特殊部隊とかが表沙汰にゃ出来ない喧嘩してる事だって、いっぱいあると思うぜ? 俺らみてーに。 でもな、それでも俺は、自衛官さんとか、警官とか、消防士さんとか、結構信じてるんだ。 ……俺が最初に、ワルプルギスの夜と遭遇した時、ボロボロになって入院した俺を見舞いに来てくれた彼らは……俺が『正義の味方』として最後に吐いた言葉に従って、黙って俺を見捨てて、職務に戻ってくれた。 そんで、俺が救えなかった大勢の人を救ってくれたから、俺は『彼ら』を信じられるんだ。 お前が自衛隊からパクってきた装備ってのは。そんでお前が今持ってる武器ってのはな。『そういう人たちが扱う』モンなんだよ」「っ……私は、まどかが」「構やしねぇヨ。結果論だけでいい。 『お前がワルプルギスの夜に挑む覚悟を決めたんだったら』お前にそれを扱う資格は、あると思うぜ? 『鹿目まどかを守る』事で世界を救い、そして『ワルプルギスの夜を潰す』事で、みんなを救う。『正義の味方』なんて、なりたくてなれるモンじゃねぇし、本当は望んでなるべきじゃない。 それを俺は、痛いほど味わったからこそ、お前にゃ頑張ってもらいてぇんだよ。 いや、お前だけじゃねぇ、馬鹿弟子も、巴さんも、俺も、『個人的な動機が、結果的に世界を救う』っていうのは、なかなか無い状況なんだぜ?」『!?』 俺の言葉に、全員がハッとなる。「復讐鬼、ダチのため、魔女が気に食わない、格好つけたい。 見ろ? 俺ら全員、ワルプルギスの夜に挑む動機が、見事にバラバラじゃねーか? でもな、それでいいんだよ。 そんな『色んな動機や価値観を持った人間が、個人個人で判断してなお全員が『悪』と見做した』存在だからこそ、退治する意味があり、多様な価値観を持ちながら、なお結束できるのさ。 それが結局、最終的な『人間』の強みなんじゃねぇの?」 と……「……なんか、やっぱ師匠だな、うん」「何だよ? おい」 きらきらした目で、俺を見る、美樹さやか。「ついていきます! 私! 師匠に!」「おお、そうか♪ 丁度よかった! 今からちょうど、沙紀のソウルジェム借りて、行く所があったんだ!」「どこですか!? 魔女退治?」「ん? 斜太興業へのカチコミ♪」 俺の言葉に、美樹さやかの目が点になり……そして、顔面が蒼白になる。「あ、あの、ヤクザの事務所に……カチコミって?」「なーに、魔法少女なんだから、正体隠して殴りこめば、軽い軽い。俺だって『生身のまま中学一年生で』通った道だぞ」「ちっ、中学一年で、って……あの、もしもし」「懐かしいなぁ……師匠に、腹にダイナマイト巻かされて、日本刀一本でヤクザの事務所に特攻させられたっけ」「ちょっ!! あの、もしもし、師匠!?」「なーに、魔法少女ならトカレフで弾かれた程度じゃ、死にはすめぇ? 安心しろ、お前に腹マイトやれとまでは言わねぇよ」「いや、それは断固拒否します! っていうか、魔法少女の力を一般人に使わないって……」「あー? 魔女だろうが魔法少女だろうがヤクザだろうが、カタギに迷惑かけるクズ共に、そんな遠慮を、俺がすると思ってるのかね?」 最早、酸欠の金魚みたいに口をパクパク言わせる美樹さやか。「わ、悪い人だ……悪い人がここにいる……魔法少女の力を借りながら、人格破綻してて、キュゥべえ並みの言いくるめ能力を持つ、品行方正な優等生の皮を被った、超危険人物が!!」「今更遅いぞ、馬鹿弟子が! それに、俺の弟子を名乗るんだったら、ヤクザの事務所くらいでビビってちゃあ勤まらんぞぉ? ゲッゲッゲッゲッゲ♪ さあ、『御剣流剣法』の実地訓練の始まりだっ!!」「いっ、いっ……嫌ああああああああああああああああああっ! 助けてマミさーん!! 沙紀ちゃーん!! 恭介ーっ!!」 と……「頑張ってー、美樹さーん♪ お兄ちゃんの弟子なら、そのくらい普通だよー」「……あ、あの……流石に」「ダメ、マミお姉ちゃん。美樹さんが選んだ道なんだから、今更撤回させるのはどうかと思うよ? それに、美樹さんはお兄ちゃんとマミお姉ちゃんの弟子でしょ? なら、ここは救うための『菩薩』の出番じゃなくて、千尋の谷に突き落とす『修羅』の出番だと思うよ」「っ……そうね。颯太さん」「なんじゃい?」「彼女をよろしくお願いします」「任せろ! 魔女相手の喧嘩じゃねぇから『死にはしない事は』保障してやる。……学校の立場とかの『それ以外』の部分に関しては、コイツ次第だがな……グケケケケケケ♪」「嫌あああああっ!! スパルタンにも程がありますってば、師匠ーっ!」「わっはっは、泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」 泣き叫ぶ美樹さやかをふんじばって、用意を整えると、俺は彼女ごと荷物をバイクに乗せて、斜太興業へと突っ走らせた。 追記: 翌日の新聞『……通報を受けて現場に急行した警官隊は、そこで斜太興業が入っていたビルそのものが崩壊した瓦礫の上に、全員、命に別条は無いものの重傷を負った組員たちが並べられているのを発見。更に、麻薬や覚せい剤、銃器の全ての証拠が、彼ら組員たちと共に並べられていた。 警察の取り調べに対し、組員全員『魔法少女が……』という謎の言葉を発するのみで、監視カメラのテープその他、映像記録全てが瓦礫の中に埋もれており、警察ではこれら一連の『恐るべき所業』を成し遂げた者について調査を進めると共に、目撃者、ならびに関係者の捜索にあたっている』