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No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
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[27923] 幕間:「特異点の視野」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/31 06:22
「……来たわね」

 とあるビルの屋上。
 時間遡行の知識通りに現れたインキュベーターに、私は声をかけた。
 この時間軸において、インキュベーターの数……というより『密度』は意外と少ない。あくまで『意外と』レベルではあるが、始終『素質のある少女の周囲にはびこっている』という程ではない。
 その原因は……おそらく、私も知る『どこかの誰か』が、執拗なまでにインキュベーターを狩り続けた結果だろう。そして、少なくとも『無限に存在するインキュベーターと根競べ』が出来る執念深さを持つ人物を、私は一人しか知らない。

「……ご愁傷様だったわね、インキュベーター」
『暁美ほむら……こんな所で、何の用だい?』

 私は、『奴』に薄く嘲笑しながら、つぶやいた。

「御剣颯太の事、よ」
『……………』

切り出した私に、沈黙で答えるインキュベーター。

「インキュベーター。あなたにとって、御剣颯太という存在は、想像以上に厄介だったんじゃないかしら?」
『否定はしないよ。
 あそこまで執念深くてしぶとい人間なんて、見た事が無い。わけがわからないよ』
「そうね。だからこそ、『彼に魔法少女を殺させるように仕向けた』。
 恐らく、あなたは彼を、『何か』の目的に利用するつもりで、そのために生かしておく必要があった。
 だけど、魔女と魔法少女の真実を知ってしまった彼を、生かし続けておくのは危険だった事が一つ。
 もうひとつは、彼らが扱う、『魔女の釜』のシステムを用いた『共存』の可能性を、あなたは見出してた。
 そして最後に、彼の『魔法少年』という特性の問題」

 気付いた事、気付かされた事。それらの要素を、順序良く、並べて行く。

『……何が言いたいんだい?』
「巴マミもそう、美樹さやかもそう。彼の肉親である御剣姉妹も、おそらくそう。
 御剣颯太に……いえ、『魔法少年』に支えられた魔法少女は、本来持つ性質を超えた驚くべき安定性とパフォーマンスを発揮する。そういう意味で、美樹さやかの支えになると誓った、この時間軸の上条恭介も、また『魔法少年』の素質があると言えるわね。
 そして、宇宙を維持するエネルギーを、希望から絶望という感情の落差で回収しようとするあなたには……人間の少女を『使い捨ての燃料』にするあなたには、それが不都合だった。拳銃の排莢不良を起こさせるも同然だから。
 だからこそ、『魔法少年』と『魔法少女』の連携を断つ必要があった。彼自身を『絶望』という存在に堕としめる事によって、『希望』を司る魔法少女と、相容れない存在にする。
 それが、御剣颯太が『魔法少女殺し』の伝説を広める事になった、一番の原因」

 そう。
 それに気付いたのは『罠』の存在。『罠』というのは、知らないからこそ引っかかるもの。私が斜太チカとの闘いで、無様を見せてしまったように。
 逆を言えば、その存在を知っていれば、基本的に回避できる。
 だというのに、彼を襲った魔法少女たちは、馬鹿正直に引っかかって行った。そして、インキュベーターは、それを知らないわけではない。
 おそらく基本的に『捨てても惜しく無い』魔法少女ばかりを、彼に襲わせていたのだろう(無論、彼の罠の配置や仕掛けの巧みさもあっただろう。おそらく、魔法少女にとっては完全な『初見殺し』だったに違いない)。

『よく分かったね』
「元々、彼が特異な存在だという事は、私は知っていたから。
 あの時、当初、美樹さやか単独での襲撃が予定されていたけど、そこに危険だという事で巴マミが共同で当たる事になった。それを知った私が協力を申し出た事に、あなたは相当焦ったハズよ。
 御剣颯太というイレギュラーと、暁美ほむらというイレギュラーの接触。……まあ、あの時の彼は、妹以外の魔法少女という存在全てを憎んでいて、私も身の危険を感じていたからこそ、あなたの思惑通りに動いてしまった。
 巴マミが彼と素直に接触出来たのは、どういう状況であれ『彼女が一番、御剣颯太を殺す確率が高かったから』。奇しくも、その時点で私とインキュベーター……あなたの利害は一致していた。
 思惑がズレ始めたのは、元来、誰かを守るために動いていた……言いかえれば『受動的だった』彼が、ワルプルギスの夜の襲来を知り、かつ『積極的に』彼がワルプルギスの夜に挑む姿勢を示し、さらに極端な現実主義者で、巴マミすらも半ば騙す形で仲間に引き入れてしまった事。
 それが、次の段階……佐倉杏子の再襲撃から、御剣颯太の命を救う事になる」
『あれは本当に、ワケが分からなかったよ。
 正義の味方が、なんで殺し屋を救うのか……最初、理解が出来なかった。
 魔女化前の暗殺契約なんて、正に『死』という絶望そのものを逆手に取った、『殺し屋』にしか出来ない手法だよ』

 それはそうだろう。私にだって、想像もつかない手段だった。

「入院中の彼を襲わせようにも、既に彼は巴マミの保護下に入ってしまった。何より、あなたに誤誘導された新人単独で襲うには、彼は既に危険過ぎる存在に成り果てていた。
 しかも、彼はそこで、美樹さやか……いえ、この場合、狂わせたのは『上条恭介の運命』と言ったほうがいいかもしれないわね。
 あの二人の運命を『結果的に』狂わせて、それが美樹さやかを救う事になる。
 あの一件を、あなたがどう判断したかは分からないけど、何れにせよ、これ以上の不確定要素の放置は危険。
 そう判断したあなたは、入念に、彼を抹殺する計画を立てた。

 その白羽の矢が立ったのは、斜太チカ。
 動員できる限りの魔法少女を斜太チカのもとに動員し、ドラッグを用いてまで一気に抹殺を図る。
 彼ならば、『兵法で言うなら『クラウゼヴィッツ式』の思考だ』とでも言うでしょうね。

 だけど、事態は益々、あなたの予想とは狂って行く事になる。
 圧倒的、かつ絶望的な不利な状況を、彼は……彼と、美樹さやかと、巴マミと、私は、見事に覆してみせた。
 『魔法少女相手の心理戦に長けた御剣颯太』、『それを補い、支えた巴マミ』、『彼らを師として、愚直に信じた美樹さやか』、『時を止める能力を持つ私』。誰ひとり欠けず、全員が全力で立ち向かった結果、あなたの思惑は完全に狂ってしまった。
 しかも、その結果、『魔法少女の真実』が、魔法少女の世界に分散しようとしている。
 まさか『魔女化より恐ろしい『死神』としての自分』を演出する事で、『魔女化に怯えながら生きる方がマシ』『魔女になる前に、ソウルジェムを砕けばいいだけ』とまで言わしめるとはね……彼らしい滅茶苦茶な荒療治だわ。
 その結果。あなたの意のままに動く手駒は、相当減ってしまったんじゃないかしら?」
『……………』

 沈黙するインキュベーター。普段は饒舌なこの悪辣な宇宙人にしては、珍しい事だ。

「そして、インキュベーター。私には、あなたの次の手が分かっている。
 ……佐倉杏子。御剣颯太との遭遇戦での傷が癒えた、彼女を使うつもりね?」
『そして、君はそれを阻止するために動く。
 ……時間遡行者を敵に回して、しかも手を読まれていては、流石の僕らも分が悪いね』
「そうね。
 でも、あなたは御剣颯太の排除のために、それに挑まざるを得ない。そういう意味では、あなたも非常に『あきらめが悪い』と言えるわ。
 ワルプルギスの夜を利用して絶望を撒き散らし、それを補うために『希望を抱く魔法少女を量産する』。
 それを防ぐためのキーマンは……御剣颯太。
 彼の冷酷な程の戦闘分析力と、諦めない執念深さは、他の魔法少女には無い物だわ。強いて言うなら、この時間軸の巴マミが近いけど、それは彼女が一番、御剣颯太……いえ、御剣兄妹に影響を受けた存在だからに過ぎない。
 彼の脱落による『パーティ全体の戦力の低下』を、あなたが狙うのは当然」
『……………』
「させないわ。
 佐倉杏子、巴マミ、美樹さやか、御剣颯太、御剣沙紀、そして私。
 全員そろって、ワルプルギスの夜を迎え撃つ。そして……私は、まどかを救って見せる。
 そのためなら、どんなペテンもイカサマも厭わない……例え、彼を騙す事になったとしても」

 それがおそらく。私が、彼からこの時間軸で学んだ事。
 執念深さ。
 『まどかを救うために、まどかを見捨て続けた』私を肯定するように。
 彼は、実の妹を救うために、数多の魔法少女を、文字通り斬って捨てた。
 殺人者として苦悩しながらも、前に進み続ける彼に、私も知らずに影響を受けていたのだろう。

『出来るのかい、君に? ……時を繰り返し、まともな人間らしい『心』を摩耗させ尽くしたように見える、君に』
「してみせるわ。
 そして、幾つかの疑問に答えてもらうわ、インキュベーター。
 まず、御剣颯太を『どんな目的に利用するつもり』だったの?」
『彼の素質だよ。
 男性という不利な点を差し引いても、彼の背負い込んだ『因果』の総量は異常だ。二年前の段階で、既に鹿目まどかを凌駕していた。そして今では、最早、手がつけられない漠大なモノになっている。
 さらに、彼の素質が伸び続けるのと同調するように、彼が『人間としては』、超人的な技能や知能、身体能力を得ていった。
 ……そう。完全に比例していっているんだ。『彼の能力の増大と、魔法少年としての素質の増加』が……』
「待って。まどかは普通の少女よ? なのに、御剣颯太は何故ああも『人間としては』超人的な存在なの?」
『分からないんだ。鹿目まどかも謎だけど、御剣颯太はもっと謎だ。
 何より、鹿目まどかの魔法少女としての素質は、現時点で増えていないけど、『御剣颯太の素質は『ある条件を満たす』度に、現在進行形で伸び続けている』。
 結論として、彼らがどうして、あそこまで破格の素質を持つに至ったかについては、それぞれ別個の原因があると見るほうが、妥当だろうね』
「なるほど。
 ……次に尋ねるわ。
 その膨大な素質を持つ彼は、本当に『何も願わなかった』というの?
 私の知る限り、彼の人生は過酷で、文字通り『悲惨』の一言に尽きるわ。
 だというのに、インキュベーターに一度も願いもせず、縋りもしなかったとは、幾ら彼が超人じみた人間だからって、考えにくい。
 そして、そんな膨大な素質の持ち主に、あなたが甘言を弄さないわけがない。なのに、彼は一度も願いをかなえていない。
 ……何故?」
『彼の願いが、僕らインキュベーターにとって、許容し難いモノだったからさ。
 彼が願ったのはね、『全ての宇宙、全ての世界、あらゆる時間軸における、過去から未来まで全ての、全インキュベーターの消滅』。
 ……確かに、地球上の端末が一つ二つ潰されるのはどうって事はない。せいぜい『勿体ない』くらいだけど、種全体を引き換えにしろと言われてはね……しかも、それが可能だったりするからタチが悪いんだ。流石の僕らも、彼との取引は危険だと、判断せざるを得なかったんだよ』
「!? ……なるほど。あなたたちが『そもそも存在すらしなければ』魔女も魔法少女も、この世界……いえ、宇宙から消えて無くなるどころか『存在すらしなかった事になる』。
 彼らしい悪辣さね。お気の毒さまと、言わざるを得ないわ」

 このインキュベーターをして『タチが悪い』と言わしめる男、御剣颯太。
 ……本当に、何者なのだろうか?

『『僕ら』の中でも相当に迷ったのさ。このまま彼を生かしておくべきか、それとも抹殺するべきか。
 結果、原因が分からないとはいえ、彼の素質が増大し続けてる事実を顧みて、彼を『生かさず殺さず』の状態に保つ事に、決定したんだよ。
 彼程の知性の持ち主ならば、いずれ僕らとの共存が必要だと理解できるようになるハズだ。僕らと敵対する事に対する『利益』なんて、彼には元々無いからね。だから、その時を慎重に待てばいい。
 『魔女の釜』を持っている以上、御剣沙紀の脱落の可能性は薄いだろうし、素質そのものは伸び続けてるのだから、それがベストだろう。
 君たちと接触するまでは、そう思っていた』

 その言葉に……私は、本当に心の底から笑った。
 いや、哂った? 嗤った? はっきり言おう。嘲笑うと言っていい笑いを、私は誰はばかる事なく、大声を上げて笑った。
 笑ってしまった。本当におかしい。滑稽だ。
 彼にかかると、あの悪辣なインキュベーターが、こんな滑稽な存在に成り果てるなんて。

『……何がおかしいんだい?』
「あ、あ、あの……あの御剣颯太が、あなたたちインキュベーター相手に『本気で手を組む』とでも思ってるの?
 あなたは1%も、ひと欠片も彼を理解していない。彼の怒りと悲しみを全く理解していない。本当の意味で、人間の感情を理解できないからこそなんでしょうけど。
 だからこそ、あなたの言葉は……彼を少しでも知る者からすれば、『本当に笑える冗談にしか、聞こえなかった』のよ」
『ありえない。そう言いたいのかい?』
「ええ。
 それこそ、外れた後のノストラダムスの予言より、アテにならない寝言にしか聞こえなかったわ、私には。
 今まで、何度も時を繰り返してきたけど、インキュベーター。『あなたの言葉で、ココまで笑ったのは初めて』だわ」
『時間遡行者にまで、そこまで言わしめるとはね。……本当に、彼は何者なんだろう?』
「さあ? 彼自身は『タダの男』と言ってたけど?」

 少なくとも。彼は彼自身の特異性について、全く自覚が無いのである。
 実際、彼自身『努力と根性で何とかしてきた』と嘯いてるあたり、実際に苦労もしているのだろう。まして、インキュベーターに唆された魔法少女たち相手に、生き地獄と言っていい環境で過ごしているのだ。苦労していないワケが無い。
 元々、努力家であり、なおかつ才能もあったのは事実だろうが……だからこそ、際立つのは彼の異常性である。
 少なくとも分かった事は、『直感的な技術』……たとえば、バイオリン等『先天的な感性や才能等が大きく関わる技術』に関しては、才能が限定されているが、継続的な『努力でマスター出来る技術に関して』の習得の速さは群を抜いてる。異常といってもいい。

 察するに。
 彼は元々『万能の天才では無い』のではないだろうか?
 それが、何らかの原因……『因果という素質が増大する』に連れて、異常ともいえる速度で『体験を経験として吸収していった』結果ではなかろうか?
 ゲームに例えるなら、常人がモンスターを倒して10の経験値を貰うところを、100とか1000とかの経験値をもらって、成長した結果が今の御剣颯太なのではなかろうか?
 そして、あえてそんな彼の『天才』を、強いて挙げるならば……料理、ことに和菓子作りだろうか? あとは、剣術? だが、『ソレだけ』であるとも言える。少なくとも、その二つのみでは、今の彼の『万能超人』ぶりとは程遠い。
 恐らく、本来の彼の『天性』は、その二つのみ。それ以外の技能は『増えた素質に任せた努力の結果』では無かろうか?

 その証拠に、『剣術』と『和菓子作り』のセンスだけは、正に『天才』として『誰にも追いつけない領域』に突出しているように見えるが、少なくとも他の技能に関しては、『凡人が努力すれば到達できる領域』にとどまっているように思われる。

 それを確信したのは……口惜しいが、美樹さやかの一件である。

 少なくとも、私は魔法少女としては、時間停止と時間遡行の部分を除けば『並』でしかない。
 そして、もし彼が『剣』ではなく『銃』の天才で、射撃術その他、銃器の扱いを『完全に感覚的なモノ』に頼っていたとしたら、私は彼の技術を『全く』理解できなかったに違いない。
 そして、更に認めたくは無いが……美樹さやかを『剣の天才』と彼が称した事。
 さらに剣術の部分に関しては、彼自身が『天才』であり、そして、その教え方が私のような凡人には理解し難い、感覚的な部分まで、完全に彼女に伝わっているように思える所からしても。
 あながち間違った推論では無いと思うのだが、どうだろうか?
 そして、そういった『天才の技能』とは別に、『凡人の究極の技能』を『あらゆるジャンルに無数に抱えている』事が、彼が『万能の天才に見えてしまう』所以であり、故に、彼自身が『天才の自覚が絶無』な、大きな理由であろう。

 故に、彼はこう嘯くのだ。『努力すりゃ大体何とかなるもんだ』と。
 我が身の『異常』を自覚する事も無く、他人に向かって『努力不足』と……

 もっとも、その異常ともいえる『努力の習得速度』の原因が、『増え続ける魔法少年の素質』が原因だったとして……『何故、彼の素質は伸び続けて居る』のか?
 結局は謎のままだ。
 だが……少なくとも言える事は一つ。

「インキュベーター。彼はあなたを殺すかもしれない。
 あなたみたいな端末じゃなくて、あなたの星に直接乗り込んで、根本から絶滅させるかもしれないわね」

 私の脳裏に、宇宙服を着てスペースシャトルを操縦する御剣颯太が、例の日本刀を引っ提げてインキュベーターの星に殴りこむ姿が、ありありと映る。
 ……無論、ありえない冗談だとわかってはいるが、彼の場合、それが『人間に実行可能だとするならば』本気でやりかねないから、恐ろしいのだ。

 受けた恩は絶対忘れないが、恨みは百倍、一千倍にして確実に返す。
 エゲつないほどに、その生き方を徹底してきた御剣颯太の怒りが、もしインキュベーターという存在そのものに手が届いた時、どうなるか?
 ……ああ、一個の魔法少女としては、痛快な結果に終わるであろう事は、想像に難く無かった。

『まさか。不可能だ。ありえない。人類はまだ、隣の惑星にすら達していないというのに』
「少なくとも、私からすれば。
 ……いいえ、彼を知る『人間』からすれば『あなたがさっき吐いた冗談よりは』真実味がある内容として受け取れると思ったんだけど?」
『暁美ほむら。君にそこまでナンセンスな言葉を言わせるなんて……本当に、わけがわからないよ』
「分からないから、あなたは魔法少女を作り続けて、魔女を生み出し続けてるのよ。
 ……今、分かったわ。
 感情が無い生き物って本当に哀れね……『こんな面白いこと、他に無い』のに」

 安全地帯から、のうのうと弱者を嬲り続けていた、『吐き気のする悪』に下される天誅の刃。
 時代劇によくある構図が、何故、陳腐化しても『それが存在し続けているのか』。ようやっと私は分かった気がした。

 ……かつて『正義を信じてた』少年が、『殺人』という闇に堕とされてなお、彼は諦めなかった。そして個人的な動機と復讐という負の感情に突き動かされてとはいえ、その刃は確実に……ささやかな抵抗とはいえ、インキュベーターを追いつめつつあったのだ。
 かつて、インキュベーターに騙された魔法少女の一人として、これを痛快と言わずして、なんと言おうか?

「『因果応報』。彼なら、そういうでしょうね」
『それは、人類で言う『仏道』の考え方だね。
 でも知ってるかい? 仏陀という存在そのものが、僕ら……』
「ごたくはいいわ。インキュベーター。
 ……せいぜい、私も、彼と踊って『楽しませて貰うとする』わ。そのくらい、今の私は、彼に賭ける価値を見いだしてるのだから」

 無論、彼自身の人格は別として、だが。

 ……あんな酷い男、見た事が無い!!

 もし仮に、もう一度、このループをやり直す事になったとしても、今回と同じ態度で最初に接触出来るとは思えない。思わず銃の引き金を引いて『無かった事』にして、いつも通りのループに挑んでしまう可能性を、私は否定できない。
 むしろ、顔を合わせるたびに『殺してしまえ』と、毎度毎度、悪魔のささやきが耳元で鳴り響くくらいだ。まどかの事が無ければ、私は彼を、即座に時間停止からの銃撃で射殺していただろう。

 ……もっとも。
 彼を『確実に殺せるか?』というと、私には自信が無い。
 何故なら、彼は本当に『何をして来るか』分からないのだ。
 最初の接触で時間停止の能力を見抜いた事といい、次の接触の段階で『対抗策』を提示してきた事といい、空恐ろしいほどの『戦闘分析力』である。もしかしたら、私が想像もしない、時間停止の技能の穴を突いてくるかもしれない。
 無論、万が一、億が一の可能性だ。
 だが、彼を敵に回した場合……不覚を取る可能性を、私は否定できない。
 少なくとも、絶望的な確率でも彼は諦めたりしないだろう。そして、その執念が知性と結びついた時……問題の『前提ごと』ちゃぶ台返しでひっくり返すような、とんでもない回答を叩き出して来るのである。

 はっきり言おう。
 敵に回すと心底恐ろしい相手ではあるが、味方にするとこれほど頼もしく信用できる者もいない。
 そういう意味で『敵に回らなくて良かった』とは思ってしまう(そういう意味では、私も彼の『魔法少女支援』の影響下なのだろうか? そうでは無い……とは思いたいが、正直自信が無い)。
 私個人の御剣颯太との人格的な相性ばかりはいかんともし難いが、こればかりは事実である。
 
『行くのかい』
「ええ、話は終わりよ、インキュベーター。だから今回は『殺さないでおいてあげる』わ。感謝しなさい」

 そう言って、私はその場を立ち去ろうとし……

「そう、忘れてた。
 もうひとつ……どうでもいい事かもしれないけど、聞きたい事があったわ」
『なんだい?』
「斜太チカ、よ。彼女は、どんな祈りを経て、魔法少女になったというの?」

 そう。彼女は新人だったという。
 だが、それにしては、あの佐倉杏子すら生ぬるいと思う程の残忍性を示してのけた。あまつさえ、魔法少女の真実を知りながらも、ドラッグを用いて集団を統率し、魔女の釜にすら手を伸ばす。
 魔法少女の祈りそのものは、あくまで『希望』である。だが、彼女の行動は絶望の化身としか思えない所業ばかりだ。
 つまり、『悪の魔法少女』という存在そのものが、矛盾の塊なのである。

『今更、死んだ魔法少女の事を気にするなんて、君らしくないね』
「勘違いしないで。ただの『保険』よ」

 もしかしたら、彼女の死や願いそのものが、御剣颯太に影響を及ぼすのではないか?
 かつて、彼に恋心を抱いてインキュベーターに唆された魔法少女たちが、彼に殺されたように。佐倉杏子の願いが、彼の家族を破滅に追いやってしまったかのように。
 もしかしたら、『彼が知らなくていい真実』というのが、彼女にも隠されているのではないか?
 漠然としたそんな予感から、私はインキュベーターに問いかけた。

『簡単な事だよ。
 ヤクザの娘だった彼女は、自分の父親の所業を恥じていた。
 と、同時に、それに愛情を受けて育てられた自分自身の存在そのものにも、罪の意識を感じて居たんだろうね。
 そして、彼女は、御剣颯太に恋愛感情を抱いていた』
「……まさか」
『彼女の願いはね、『父ちゃんをカタギにしてほしい。家族と共に世間様に恥じない真っ当な生き方をして、彼に告白するための綺麗な体になりたい』だって。
 不思議だよね、人間って。『社会と種を維持するために同族を食い物にする事に、何故、そこまで罪の意識や嫌悪感を抱けるのか』。
 挙句の果てに、娘が死んだと知って、彼女の願いの対象だった両親は、何故か首を吊ったみたいだ。自らの遺伝子情報を残すための存在を、一人失った程度で……だから、人間は、わけがわからないんだよ』
「っ!! それで……」

 だからこそ。
 彼女は魔法少女の真実にも、現実にも耐えられた。
 何故なら、それは彼女が生きて見続けた世界と、酷似した世界だから。
 そして、御剣颯太が『魔法少女の殺し屋』だと知って、絶対に実らない恋だと知って絶望しながらも。
 彼女は彼女の流儀で、ありとあらゆる禁忌に手を染めてでも、彼を求めてしまったのだろう。彼の愛する家族……御剣沙紀を破滅させてでも、彼を独占したかった。

 と、同時に……彼女もまた、御剣颯太が存在する事で、運命を狂わせた者とも言えよう。
 おそらく、『社会の汚さ』を嫌というほど熟知した彼女が、インキュベーターに安易に騙されるとは思えない。
 仮に、インキュベーターが見えたとしても『胡散臭い戯言』として放置するであろう。
 ただ、この時間軸においては、御剣颯太が存在した事によって、彼女の運命は、完全に魔法少女の側に狂ってしまった。

 無論、御剣颯太個人には何の罪も無い。
 彼自身、彼女の事情を知ったとしても、あそこまでやられてしまっては、完全に鼻で笑って斬って捨てるだろう。彼とその妹が、暴走した彼女の完全な被害者なのは、間違いない事実だ。
 だが……時間遡行者として、皮肉過ぎる運命を垣間見てしまったが故に、思わず何か、彼に一言いいたくなってしまう気持ちは、私が女性だからであろうか?

『彼女なら魔女の釜を利用して、僕らと共存できる。
 しかも、『御剣沙紀と共存し続けた御剣颯太と同じように、斜太チカが御剣颯太を独占する事により』、御剣颯太の魔法少年としての力を限定させて利用する。そして、彼もいつか利益が無い事に気付いて『気が変わる』。
 僕らインキュベーターにとって、彼女とは理想的な共生関係が築ける。
 そう思ったからこそ、彼女に白羽の矢を立てたんだけど……まさか、あれだけの戦力を揃えて、失敗するとは思わなかったよ。完全な計算違いだ』

 計算違い。
 そういうインキュベーターだが、果たしてそれだけだろうか?
 何にせよ、確実に私が言える事は、一つ。

「そうね。
 博打が過ぎたんじゃないかしら? インキュベーター」
『博打じゃない。
 僕の見立てでは、御剣颯太を除いて君たちが全滅するほうが、可能性として遥かに高かった。完全に偶発的な結果に過ぎない。
 御剣颯太が生き延び続けてきた事だって、僕らインキュベーターが、手加減を続けてきたからだ』
「そうね、私もそう思う。
 だからこそ、あなたたちは御剣颯太に『負け続けた』んじゃないかしら?
 『確実に勝てる博打』程、裏に潜んだ罠がある。……インキュベーター、あなたのやってきた事よ?」
『……どういう意味だい?』
「そういう意味よ。
 確率論で考えれば、確かにあなたは正しいのかもしれない。でも、確立を論じて居る段階では、結果はまだ出ていない。
 ……インキュベーター。あなたは『確率』というラプラスの悪魔に、完全に踊らされたのよ」
『……』
「あなたたちなら、分かるはずよ。御剣颯太は『トコトン喰えない奴』だという事が。
 どんな風に煮ても焼いても、あの男を『喰えるワケが無い』。……彼の妹の料理と一緒ね。
 だからせいぜい、ラプラスの悪魔と踊り続けなさい、『マクスウェルの悪魔』。……所詮、人間の感情を理解できないあなたには、『それしか出来ないのだから』」

 そう言って、私は今度こそ。
 このビルの屋上から、立ち去った。


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