<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[27923] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/07 08:51

「御剣颯太!」
「何だぁ!?」

 轟音をあげて爆走する、ランドクルーザーの中。
 ハンドルを握りながら、俺は暁美ほむらに返す。

「どこでそんな操縦技術憶えたの!? あと、10秒でエンジン直結で動かす技術なんて、どこで!?」
「アメリカで憶えた! エンジン直結は知りあいの不良から!」

 と……

「しっ、師匠、これって犯罪……」
「金払っただろぉが! 書類の手続きがマダなだけだっ!
 ……後で全部後始末は済ませておくよ! 見滝原の人気の無い山奥に隠しておいた、ミサイル車両含めてな!」

 ご近所に生き残った、車の展示施設の中に、百万円の札束を三つばかり放り込み、俺は展示車両の中から、巻き上げウィンチのついた大型のRVを拝借。
 鍵を探してる暇が無かったので、とりあえず速攻で鍵回りを鉄拳で撃砕して、エンジン直結。この間、僅か10秒。

 とりあえず『無免許運転ではあっても、窃盗じゃない』とは、主張したい。
 ……お金って、偉大だよね……姉さん。

 本来は魔法少女の力を借りたい所なのだが、全員、沙紀まで含めて危険水域に魔力を消耗している。これ以上は変身すら危険だ。
 だが、何でも……話を聞くと、巴さんが、ワルプルギスの夜の闘いの後の事まで、色々フォローしてくれたのだそうだ。

 生き残って、消耗しきった魔法少女たちへの、グリーフシードの提供。
 証拠隠滅の手伝い。
 その他諸々……

 既に、一報を受けて、状況は動き始めている。
 ……あとは、鹿目まどかを救うだけ……というか。

「鹿目まどかの護衛に、なんで彼女たちをつけなかったかなぁ!?」
「まどかが自分で志願したのよ! 『一人でも大丈夫、絶対キュゥべえと契約なんてしない』って……。
 それに、万が一、まどかそのものを人質に取られる可能性を、危惧してたんじゃないかと思うわ。
 何しろ、あなた込みで色々彼女は周囲に白眼視されつつあったし……まさか、こんな事態なんて、想像の外だったんだわ!」
「……あー、さもありなん」

 何しろ、魔法少女たちの、俺ら兄妹への執拗な嫌がらせは、異常レベルだ。
 インキュベーターに唆されたにしたって、個人的な怨恨が絡んでるとしか思えない。
 それに巻き込んでしまったのは……巴さんを巻き込んでしまったのは、俺だ。

「巴さん……すまねぇっ!」
「お兄ちゃん、見えて来たよ!」

 既に、現場では、大勢の人間が避難しようとしていた。だが……

「火の勢いがキッツいな……おい、馬……美樹さやか! 鹿目まどかの身内は避難してきた連中の中にいるか!?
 上条さんたち一家と一緒に、まとまってるって話だったろ!?」
「えっとね……あ、居た! あそこだっ!」

 車を止めて、全員降りる。……居た、上条さんだ!

「おーい、上条さんっ!!」
「御剣さん! よかった! ……あー、その……」

 周囲の目を気にしながら、俺に闘いの結果を聞こうとする上条さん。

「心配無い。もうぶちのめした! で、鹿目まどかは!?」

 見当たらない。見当たらないのだ。
 『彼女の姿だけ』が……って……

「あ、あんた、まどかの知りあい……もしかして、君が、御剣君かい!?」
「っ!! あっ、あなたはっ!!」

 忘れようも無い。忘れられるワケが無い。
 あの時……全てに投げやりになり、絶望しかけた俺に説教をして、救ってくれた、キャリアウーマンのお姉さん。
 ……そうだ、あの時、まどかって……じゃあ、あの子は『あの時の子』だったのかっ!!

「すんません、鹿目まどかさんは、どちらに!?」
「っ……この、騒ぎの直前に……たつやを『トイレに連れて行く』って……それっきり」

『っ!!!!!!!』

 全員、絶句。

「まどかっ!」
「よせっ! 『お前ら魔法少女は絶対動くな!』
 自分たちが、限界近いって事を、憶えておけ! 避難民山盛りなこの状況下で『絶望ぶちまけたい』のか!」
『っ!!』

 そうだ。全員が、全力を振り絞った結果、最早、『魔法少女は動けない』のだ。
 だから……

「俺が行く!」
「御剣さん!?」
「無茶だ、坊や!
 もう……もう……まどかとタツヤは……」

 懇願する、恩人。
 だが……

「鹿目まどかさんのお母さんが、あなたとは露知らず……御無礼を申し上げました」
「えっ、何を……君は、何を言ってるんだい?」

 もう、分からないだろうなぁ……あの時とは体格も変わったし、声変わりもした。
 美樹さやかには『目つきまで変わっちまった』って言われてるし、髪型も当時とは違う。
 それでも……

「あの時の御恩に、説教に、報いさせて頂きます。
 一万円分くらいの信用にゃ、答えないと……御剣家の仁義がすたるってモンですよ」
「……もしかして……君は……」

 そう言うと、俺は全員に告げる。

「絶対俺は『鹿目まどかを連れて』生きて帰る! これは『俺にしか出来ない仕事』だっ!
 ……努力と根性で起こした『奇跡』ってのはなぁ、『嘘はつかない』んだぜ!」
「そんな、無茶です!」
「安心しろ! 御剣家ぁ、元々、臥煙の頭(かしら)の家系だ! 鉄火場なんざぁ、お手のモンなんだヨ!!
 それに『生身で火事場に飛び込んだ』なんてのは、一度や二度じゃねぇんだ!」

 炎上するヤクザの事務所の中にヤクザごと馬鹿師匠に取り残されたり。お隣さんを助けに飛び込んだり。
 だから。

「行って来る! みんな!
 すまない……御剣の血を、名前を……『魔法少年』を信じて、待っててくれ! 今は一分一秒が惜しい!」
「っ……任せたわ、御剣颯太!
 ……悔しいけど、お願い!」

 暁美ほむらが頷く。

「ところで、師匠、『臥煙』って何です!?」
「火事場人足! 町火消しだよ! 暴れん○将軍のサブちゃんの役どころだ!」



「来るんじゃ無かったぜ、チクショウ……かっこつけすぎた」

 避難所の建物の周囲にある水道で水をひっかぶり、濡れタオルで口元を覆いながら、俺はちょっと後悔していた。

 ランドクルーザーで強行突入して、大体のトイレの位置を聞いておいたのだが……それでも、ちょっとこの避難所は広過ぎた。

「さってと……」

 聞いておいたケータイの番号を鳴らす。鹿目まどかの持ってるケータイの着信音で、大体の位置を探るのだ。
 ……さっきから、親御さんがかけまくったそうだが、全然出なかったらしい。位置を確認するために、絶対鳴らさないでくれと念を押して、俺は、燃え盛る避難所の中で、鹿目まどかを探す。
 ……おそらく、意識を失ってるか、それとも……いや、それは考えるまい。
 例えそうだとしても、『死体だけでも連れて帰る』。そして、その責めを負う覚悟は、決めているのだ。

 何しろ……『俺が生きてる意味なんて、もうこの世に存在しないのだから』。

 と……

『……ぎ……さん?』
「!?」

 予想だにしない声……コールに出た!?

「おい、今どこに居る!?」
『避難所の、二階……トイレの前の階段を上って。炎から逃げてたら……追いつめられて。
 タツヤが……』
「わかった! 今行く!」

 とはいえ、物凄い業火だ……トイレ前の通路は、既に火の海となっていた。
 ここを進むのは、自殺行為だ。

 建物の構造を思い出す。
 確か、迂回できる道は、あったはず……もし、この『炎の勢い』ならば『素人はドコに逃げる?』

 考えろ、考えろ……火の無いところ、二階への階段……こっちか!?

 俺は避難所の別の階段から二階へと昇る。
 幅の広い、キャットウォークのような、気取ったデザインの通路が、そこに張り巡らされていた。
 最新建築だけあって、有毒ガスだの何だのが発生しにくく、燃えにくい建築素材で作られている分ありがたいが、それでも、この熱で長居はしていられない。

「鹿目まどかーっ! どこだーっ!!」

 ケータイを再度、コール……すると……

「……ぎ……さん?」
「っっっっっ!」

 そこには……体の半分が酷い火傷に覆われた、鹿目まどかが居た。
 よく見ると、ケータイもまるこげだ。よくコール出来たものだ。

「まろかぁ、まろかぁ……」

 泣き叫ぶ三歳くらいの男の子。この子が、こいつの弟か!?
 彼が無傷な所を見ると、おそらく……

「おい、しっかりしやがれ!」
「え、えへへ……あのね、今もそこに、キュゥべえが居るんだけど……契約、しなかったよ」
「っ……バカヤロウ!!」

 どいつもこいつも……本当に、俺も含めて、救いようのない馬鹿ばっかだ。

「行くぞ! こっちから逃げられる! 生きるんだ!」
「……あたし……生きられるのかな? 生きてて……いいのかな? 最悪の、魔女の元なのに……」
「うるせぇ! お前は生きるんだよ! 人殺しの俺なんぞより、よっぽど救いがあるんだ、お前は!」
「……そう……かな?」
「頼むよ、生きてくれ! でないと、お前のオフクロさんに、俺は死んでも顔向けが出来ねぇんだよ!」

 彼女と子供、二人揃って小脇に抱えて、来た道を戻る。

 ……間に合う。まだ間に合うんだ!

 ……帰れるんだよ……彼女は……帰れる家族がいるんだよ! 俺はどーなってもいいから……神様! どこの神様でもいい! 俺の命と引き換えに、この二人助けてやってくれよ!

 熱でイッちまいそうになる体を叱咤しながら、俺は歩き出す。
 階段……ここから、一階に……ちくしょう!

「ここもダメか……となると……」

 壁を蹴り破るか……窓を破るか。なに、どの道、二階だ。
 受身を取れば……いや、俺の体が二人のクッションになれば『彼女たちは骨折くらいで済む』。

「ちょっと待ってろ! こいつぶち破るからな!」

 彼女たちを待たせながら、俺は傍に遭った消火器をハンマー代わりに、ガラスで出来た窓を割ろうとする……が。

 固い。
 
 想像以上に固い、強化ガラスに、俺はかなり手こずっていた。

「くそっ、このぉっ!!」

 ヒビは入る。だが、それが広がらないのだ。
 無駄に頑丈な新素材のせいか、ガラスにありがちな『パリン』という感触が無く、プラスチックのように『粘る』。

「っがああああああああああっ!!」

 バンッ!!

 ようやっと、人間一人が通れそうな穴が開いた時には、もう既に火の手が回り始めていた。

「よし、行くぞ……鹿目まどか、ガキンチョ!」
「……御剣……さん?」
「飛ぶぜ。しっかり気を持てよ……おおああああああああっ!!」

 二人を腹側に抱きかかえながら……コンクリートの地面に、『彼らを守るため、受身を取らず』に俺は空中へとダイブし……

「がっ……!」

 ……これで……これでいい……

 背中と背後に伝わる衝撃に、俺は意識を手放した。




『あのさ、アンタ馬鹿だろ?』
「………………ああ、そうだな」

 真っ暗闇の世界。
 俺は、佐倉杏子の残留思念と対話していた。

『あの子を助けようとして、あんたが死んでどうすんだい?』
「別に? なんか俺も彼女と一緒で『最悪のモト』ではあるみたいだし?
 それに、色々殺し過ぎたからな……まあ、いい頃合いだったのさ」
『……はぁ……そうやって、あんたは他人に、『生き残ってしまった』罪を背負わせるつもりかい?』
「知るかよ。単に、『なーんも無くなっちまった』俺自身が、色々耐えらんなくなったダケさ。
 お前への復讐を果たした。ワルプルギスの夜も潰した。沙紀も馬鹿弟子も、一丁前になった。
 そしたら『なーんも無くなっちまった』。そんだけだ……」

 誰かを助けるだけ助けて……俺の手に残ったのは、殺した罪と助けられなかった罪だけ。
 ま、いいさ。男なんて、そんなもんだろーしな。覚悟の上さ。

 などと考え、ふと、思う。

「なあ、地獄ってどんなとこなんだろーな」
『知るかよ。行けば分かるんじゃないの?』
「そっか。道案内はお前か? いかにも『らしい』ぜ……」

 何しろ、赤い悪魔だ。地獄なんてよーく分かってるだろーし。
 ……だが。

『そうかい、あんた、死んで楽になりたかったんだな?
 だったら『運が悪かったね』、御剣颯太』
「……あん?」
『あのね……あんたは自覚が無いかもしれないけど。『死んでる人間は』、あたしと対話なんて出来やしないんだよ!』
「……っ!?」

 ちょっと待て!? それはつまり!?

『神の思し召しって奴か、それとも『神様にも嫌われたか』……ま、どっちでもいいんじゃない?
 『生きて苦しめ』って奴みたいだし、あんたの場合、さ』
「なん……だと!?」
『とっとと起きたほうがいいよ、あんた……でないと、本当に殺されそうな勢いだよ?』
「おい、ちょっと待て!」

 どういう事だよ、と問い正そうとする間もなく。
 俺は佐倉杏子に蹴りを喰らって、この精神世界から追い出された。



「っ……!?」

 目が覚める。……全身に激痛。
 ……白い天井……憶えがある。『見滝原総合病院』。

「なんで……生きてるんだよ、俺……」

 ごんっ!

 誰かに殴られた。

「馬鹿兄……」
「……沙紀?」

 ごんっ!

 誰かに殴られた。

「馬鹿師匠」
「……馬鹿弟子?」

 ごんっ!

 誰かに殴られた。

「…………これはお礼よ」
「暁美ほむら?」

 体を起こそうとする。全身を覆う激痛が酷い。

「沙紀……その」
「全治一カ月。大人しく寝てなさい、馬鹿兄……あたしも美樹さんも、治さないからね」

 何だろうか。全員、無言で冷たい。

「そっか……生き残っちまったか。
 そいや鹿目まどかさんは? あのガキンチョはどうなった?」

 とりあえず、彼女たちの安否を気遣う。と……

「……タツヤ君は、無事だった。
 でも……まどかは……」

 っ!!

「あの後、お兄ちゃん含めて、全員救急車で三人とも運ばれたの。
 でも、まどかは救急車の車内で……火傷が酷くて『誰にも手の施しようが無かった』」
「っ!!!!!」

 なんだよ……俺は……俺は、俺を立たせてくれた、恩人に報いる事が、出来なかったのかよ……チクショウ!! チクショウ!! チクショウ!! チクショウ!!

「チクショウ!! チクショウ!! チクショウ!! チクショウ!! チクショウ!!」

 俺が、怒りに目を眩ませなければ。あの時、ぐっと佐倉杏子への怒りをこらえて、ワルプルギスの夜に挑めば……俺は、恩人の子を殺さずに済んだ。
 全員……少なくとも、この人数よりも、多く生き残れた。

「こんなの……ありかよ。
 俺個人の復讐のために、家族救ってくれた恩人の娘を、見殺しにして……尊敬する女を見殺しにして……
 何なんだよ、俺……一体なんなんだよ……『俺は何様なんだよ!?』
 もっと、もっと、冷静になってりゃあ……俺はもっと、キレててもクールだったハズだろ? キレる程、冷めるタイプだったハズだろ!?」

 ああ、分かってる。

 ……人を呪わば穴二つ。

 俺は、佐倉杏子を呪ったがために、鹿目まどかと、巴さんを穴に落としてしまったのだ。
 だが……本来、穴に落ちるべきは、俺だったんじゃないのか!? 何で俺が生きているんだ!?

「ひでぇよ……こんなのあんまりだぜ、ワケが分からねぇよ!!」

 と、その時だった。

「御剣颯太。
 最後に、一言。『やり直す前』に、礼を言うわ。
 あなたは、まどかを……私の友達を救おうと、必死になってくれた。
 最悪の魔女の元だと知りながら、それでも彼女を『人間として救おうと』してくれた。
 だから……『ありがとう』。それだけを言いたかった」

 暁美ほむらの言葉に、目を見開く。

「おい、俺を……俺や沙紀を殺すんじゃないのかよ? 『俺はお前の大事な友達を守れなかった』んだぜ?」
「そうね。でも少なくとも……『友達』の兄を殺したいとは、思わないわ」
「っ!?」
「それに、この事態は元々、ある程度予測されていた事よ。私は佐倉杏子とあなたの関係を、知ってて黙っていたのだから。
 それを知りながら、騙し通せると思いこんだ……私の傲慢が、今回の失敗の原因でもあるわ。
 あなたが復讐鬼だという前提を、私は見誤っていた。
 あなたが……その……巴マミや、美樹さやかに見せる表情からは、あまりにも『復讐』という概念からは、遠い表情をしていたのだから」

 表情? どういう事なのやら。

「暁美ほむら……おめぇ……」
「『今度は上手くやる』わ。……大丈夫。もう迷ったりはしないから」
「今度は? ああ、そうだ、時間遡行者だったな、お前?」
「ええ。私は繰り返す……また、時を」

 ふと、思いなおす。
 そうか……彼女は……彼女は『こんな結末をひっくり返したくて』あんな願いを頼んだのか。

 あの、挨拶をしても、気弱にオドオドとするばかりだった、彼女が……どれほどの修練を繰り返して、ここにまで至ったのか?
 正直、想像がつかない。

 ……だったら、俺に出来る事は……『魔法少年として』、この哀れな魔法少女に出来る事は……

「待ってくれ! 暁美ほむら!」
「!?」
「沙紀、俺のズボンはあるか? 家の鍵が入ってただろ? 取ってくれ!」
「お兄ちゃん!?」

 そう言って、暁美ほむらに、『俺の家の鍵を手渡した』。

「持って行け。俺の家の鍵だ。
 それと地下の金庫の開け方は知ってるだろうが、その奥にはさらに隠し金庫がある。入口から見て、左側の角の隅の棚の裏に、隠しパネルがある。そこに家の鍵を差し込んで、パスコードを入力しろ。コードはローマ字で『KONNAKOTOMOAROUKATO』。
 スペア含めて沙紀と俺としか持ってない『この世に二つしかない』鍵だし、パスコードは家を建てて以降、変えて無い。
 『変える必要が無かった』からな。
 こいつを見せて『誠意を持って話をすれば』……まあ、殺されない限り、多分、ぎりぎり話は聞いてもらえると思うぜ?
 ワルプルギスの夜への復讐は、俺の悲願『だったから』な……」

「っ……!?」

「少なくとも。そこらの自衛隊基地に盗みに入るよっか、対魔女、対魔法少女用の、マシな武装が揃っているハズだ。
 ……お前も見たかもしれないが、一応、『お前が扱い慣れた』自衛隊の装備も『無いわけじゃないし』な……」
「そういえば、出て来たわね。あれ、どこから手に入れたの!?」

 その言葉に、俺は目をそらしながら……

「以前、自衛隊の武器がミリタリー系のサープラスショップに出てたのを、海外で調達したパーツ足して修理して使えるようにしたのとか、結構あったりすんだな。これが。
 あとはまぁ……違法流出した奴を買い取ったりとか……まあ、コネだのツテだの使って、色々とね。
 他にも、今回、俺がワルプルギスの夜に『ぶちかます予定だった』罠だの何だのの計画書だとかが、家の中にある。
 ……ちょっと見滝原の町を灰にしかねない代物だけど、ま、今のお前なら、悪用する事はあるめぇよ。最終手段だとでも、思ってくれ。ただし、鹿目まどかを助けるためだけに、『見滝原の町全部で、テロを起こして廃墟に変える』なんて悪用は、絶対すんなよ!?

 他の魔法少女や、『もしかしたら生きてるかもしれない』俺とかと、『今度こそ』上手く連携を取んな。
 お前さん、繰り返し過ぎて余裕が無くて『脇が見えてネェ』部分が、結構ある。人間はパターン通りに動ける生きモンじゃねぇ。想定と違った行動を取る事もあるだろう。
 そういう場合は自分の目線じゃなくて、『良く知ってる誰かの目線ならどう考えるか』って事も、案外参考になったりするもんだぜ?

 あとヨ……ボウリング場の一件で知ったんだが。
 お前は『魔法少女殺し』を、まだやった事が無いンだろうが……

 『もし鹿目まどかに危機が迫ったら』、『魔法少女が鹿目まどかを襲うような事態になったら』。
 『躊躇なく相手のソウルジェム目がけて、引き金を引け!』『獲物を前に舌舐めずりしてっと、絶対失敗するぞ!』。

 殺意を向けて来る魔法少女を……『人間』を甘く見るな!
 完全にトドメを刺さないと、思わぬどんでん返しを喰らうぞ!?
 ……俺が佐倉杏子と戦った時みたいに、な。
 アイツとの闘いは、正味、『アイツの甘さ』に救われ続けたようなモンだ。運が良かったダケだぜ、本当に。

 『たった一つ、大切なモノを守れりゃそれでいい』

 ……俺は守った。『ただの人間の俺ですら、守りぬけた』んだ。
 お前程の魔法少女なら、出来るさ……必ず。いつか、な。

 だから、その……すまない! 本当に、悪かった! トチ狂って、佐倉杏子につっかけるなんて真似して、すまなかった!
 だから、そのカギが……『俺の家に蓄え続けた武器一式が』詫び代わりだ!
 『俺の武器があれば』少しは、鹿目まどかを……『俺の恩人の娘』を助ける事が、出来るんだろう!?」

「あなたは……あなたは、まどかと、どんな関係なの?」

「……あいつのオフクロさんに、な。『俺が死なせちまった一般人』の母親に、デカーい借りがあんのさ。
 とてもとても、俺如きじゃ返せないような、本当にデカーいデカーい借りが……な」

「そう。意外ね」

「ああ、あの人が居なければ……俺は、今頃、本当に魂の底までドブみたいに腐って、本当にどーしょーもない人間になってたハズなんだ。あの人の言葉が、ギリギリ俺を『人間』ってモンに、留まらせてくれたのさ。

 ……まあ、それでも、人殺しだけどよ……殺す相手くらいは選びたいっつーか……『降りかかる火の粉を払うだけ』に、しておきてぇんだよ。佐倉杏子のような復讐劇は……もう御免なのさ。
 ……復讐ってのはヨ、やってる時はカッカカッカと燃えてんだけど。終わっちまうと灰しか残らないんだよ。

 『どんな理由が合っても、どんな金持ちでも、どんな貧乏人でも。……それを理由に、『他人を不幸にしていい』理由にはならない。でないと、自分も周囲も不幸になっていくぜ』

 『復讐鬼の魔法少女』と出会うって事は滅多に無いだろうが……何しろ、ソウルジェムが濁るしな。
 もし、そんな奴と出会ったら、あまり関わり合いになろうとすんな? もし関わろうとするなら、復讐の対象に巻き込まれるような事は避けろ?
 俺みたいに……『ターゲットだけを滅ぼそうとする』奴ばっかじゃねぇ。中には、復讐を理由に『全てを巻き込む事に躊躇が無い奴』もいる。
 特に、世間が見えて無いガキンチョなんかはそうだ。
 『自分が正しければ何をやってもいい』。そう思い込んでるガキは、腐るほどいる。
 だから……気をつけな。お前さん自身が、『そうならないためにも』……でないと、不幸が不幸を呼んじまうぜ」

「分かったわ、イレギュラー。心配してくれて、ありがとう」

「なに、これも魔法少年としての務めさ……魔法少年ってのはな、魔法少女の相棒(マスコット)なんだぜ?
 闘う魔法少女へのアドバイスなんざぁ、お手のモノってワケさ。
 少なくとも……キュゥべえよっか、気が利いてるつもりでは、居るんだがね」

「そうね。悪辣さは上を行くと思うけど、その分、頼もしさも上だわ。
 『信用し合えれば』最高の相棒(マスコット)ね」

「光栄だね、あの宇宙悪魔と同レベルたぁ……本人、そんな自覚、無いんだけどな」
「いいえ。いつか……この時間軸で、あなたは『インキュベーターを滅ぼす』。何と無く、そんな気がするわ」
「まさか。
 俺には想像もつかねぇよ。宇宙人退治の方法なんて。だからせめて、自分が払える限りは払った上で、後世にツケを残して行こうかと、思ってんのさ。『俺はやるだけやった』。後は知るか、ってなもんだ」

 笑う。本当に笑う。空っぽの笑顔で。
 せめて、送り出すくらいは……最悪の相性ではあったが。

「そうかしら? 案外……いえ、あなたの『やるべき事』は、まだ残ってるのかもしれないわよ?」
「あるわけねーだろ。も、疲れたよ、俺は……この二週間そこそこの間で、無茶繰り返し過ぎた。
 もー、何も残って無ぇよ……行きな。アドバイスはこれまでだ。あとは自分で考えな」
「そうね、そうさせてもらうわ。イレギュラー」

 そう言って、暁美ほむらの盾が、回転を始め……

「そうだ。イレギュラー」
「なんだ?」
「……ありがとう。頑張ってみるわ」

 消えつつある彼女の笑顔。それに俺は……

「……キモいツラだな、やっぱ」
「……やっぱあなたは最悪だわ」

 そう言って、彼女は病室から消えてしまった。

「……さってっと……」

 これから、どうしたものやら……自殺? 自殺か……それは面白くない。
 どうせなら、こんな外道の死に方は、見せしめにして有効活用するに限るのだ。

 と……

「あの、失礼します……」

「っ!!」

 病室に入ってきたのは、見覚えのある顔だった。
 斜太チカの時に、ボウリング場に居た、魔法少女……の、ひとり。
 他にも、ぞろそろと何人か……憶えのあるの、無いの……たくさん。全員、魔法少女だ。

 ……そっか、年貢の納め時、か。

「……あのさ、この二人は。
 御剣沙紀と、美樹さやかだけは、せめて、見逃してくれないか?」
『え?』

 彼女たちの何人かの表情に、俺は溜息をつく。

「好きにしなよ。俺はこのザマだ。
 バラでもミンチでも、好きにして、気の済むまで袋叩きにすりゃあいい。その後、山にきっちり埋めておいてくれ」
『……………』
「やりたい放題生きて来たんだ。もー後悔なんて無いんだよ。
 ワルプルギスの夜に対する復讐も終わったし、両親の仇討も済ませて、あとは沙紀と馬鹿弟子も一丁前になった。
 だから、好きにしていいぞ。……まっ、今の俺は、殺す価値も無い『抜けがら』だけどな……」

 ざまぁ見ろ、馬鹿共め♪

 と……

「あのさ……あたしたち、その……巴さんから、色々、あんたの事、聞いて……」
「最初は、信じられなかったけど……よくよく考えたら、本当に酷い事してたな、って……」
「あの……その……信じてもらえないかもしれないけど。
 あなたが殺してきた魔法少女って、あなたの事が好きな子が、結構居たんです」

「は?」

「最初、『好意を持ってる相手を、殺すなんて』って思ったけど……」
「本当は、沙紀ちゃんの癒しの力だって、そんなに強く無いから、あなたが闘ってきてたのに」
「それに、『沙紀ちゃんのガードが固い』し……だから、かっとなって、みんないじめちゃったんだって知って……」
「モーションかけても、全然反応してくれないから、ホモだって噂もあったんですよ?」

「な、なんだそりゃあ……?」

 呆然。
 ……なに、あの命乞いが、マジだったとか? 有り得ないだろ、それ?

「あのさ、お前たち魔法少女ってさ?
 『そんな程度の理由で』人を殺人寸前まで痛めつけてヘラヘラ笑えるの?
 人の妹を虐待しておいて、その人に『好きなんです』なんて……何で言えるの?
 好きな人に『殺したくも無い人殺しをさせておいて』、『殺し屋伝説』なんて背負わせておいて。
 ごめんなさいとか、誤解だったんですだとか……『そんな一言で、済まそう』っていうの?」

『っ……それは、その』

「出てけーっ!! 二度とツラも見たくネェ!! 見たらブッ殺すぞ、コンチクショウ!! ざけんじゃねぇバカヤロウ!!
 俺がっ……俺がどんだけ苦しんだと思ってんだ!!
 魔法少年を……男を舐めるのも大概にしやがれ!
 俺はテメーらのお人形でも玩具でもアイドルでも何でもネェんだぞ!!
 アイドル相手にマスかきたきゃ、ジャニー○でも何でも、そーいうののコンサートに行けってんだバカヤロウ!!
 俺は、アカの他人の女相手に、気の利いたナンパトークなんぞ出来るほど、器用に出来ちゃいねぇんだ、タコがっ!!」

『すっ、すいませんでした!』

「すいませんで済むかバカども痛っ……つつつ……失せろ……マジで傷に響くから、消えろ!
 二度と顔見せんな!! 
 何が『よくよく考えたら』だ! 考えるまでも無く、お前らがやったのは『弱い者いじめ』だろうが!
 それにキレて牙剥いた人間に、『殺し屋伝説』背負わせておいて、何が魔法少女だクソッタレがっ!
 お前ら最低だ! 最悪の存在だ! 二度と信用なんてしねぇ……失せろ!!」

『あ、あの……』

「消えろタコがぁっ! おめーらのツラ見てるだけで、マジでヘドが出るわぁっ!
 とりあえず、町で合っても『狩る』のは勘弁してやるから、二度と俺の前に……妹の縄張りにツラぁ見せるな……失せろっ!
 ……マジで呆れ返って、モノも言えねぇよ、このクソッタレ共が!」

 腹が立つのを通り越して、呆れ返ってしまった。

 ……何なんだ? こいつら魔法少女って……本当に頭オカシイんじゃないのか!?
 好きな相手の気を引くため、妹いじめたって……ガキ通り越してんぞ、こいつら!?
 しかも洒落にならない、人死にが出るような奇跡や魔法、ぶん回して……ナントカに刃物どころじゃねぇよ!

 と……

「どうしよう、キュゥべえに言われたとおりにならないよ?」
「あんた、まだあんなの信じてるの!?」
「だって、彼は元々正義の味方だから、多分、『話は聞いてくれるって』」
「それって、話聞いた後に殺されるかどうかは、別問題って事じゃ…………あ」

 ピキピキピキピキ……

「そうか……そう言う事か……失せろーっ!!!!!!!」

『はいいいいいいいいいっ!!』

 俺の絶叫に、端っこでひそひそ話を繰り広げ始めた魔法少女たちが、全員、尻に帆をかけて逃げ出す。

 ……OKOK,キュゥべえ……俺に背負わせた『殺し屋伝説の黒幕が誰なんだか』よーっく分かったぜ。
 やってくれるじゃねぇか。要するにお前は『信用』を攻撃したんだな、俺個人の?

 俺を殺し屋に仕立て上げて、自分は人畜無害なマスコット面で、他の魔法少女に取り入り続けた、ってか?
 上等だ、上等だ、上等じゃねぇか……キュゥべえ……

 ふと、脳裏に浮かぶ、『キュゥべえ』への復讐絵図。
 あいつらが全滅……とまでは行かずとも『かなり困った事になる』ハズだ。

 ……ふ、ふ、ふ、ふ、ふ……ふふふふふふふ……そうだよ。

 俺、もともと悪役(ヒール)じゃねぇか……こういう『場外乱闘』こそが本領だってのに、何、ミサイルだの鉄砲だの剣術だのに拘ってんだ!? 『あらゆるものを使い、生き延びろ。剣に拘る者は、剣に足元を掬われるぞ』って……師匠に教わったじゃねぇか!
 そうだよ、武力『だけ』で立ち向かおうとした、俺が馬鹿だったのさ。

 ああ、そうさ。
 『金』ってのはなぁ……『信用』ってのは、本当に、真剣に、『個人の命より重い』んだよ。
 そこを失うと、俺みたいに地獄を這いまわる羽目になるのさ。

 万引きみたいなケチな盗みやチンケな窃盗が原因で、店の人間が首吊るなんて、洒落にならないオチをつける事だってあるし、それで『得られる収入』と『失う信用(金)』ってのは、世間の天秤にかけてみれば、とてもとても釣り合うモンじゃない。
 泥棒ってのは、本当に『割に合わない経済活動』なのさ。
 増して、『俺に人殺しをさせて、俺の信用を棄損した事によって被った損害』というのは、色々な意味で洒落で済む話ではない。

 だからな、キュゥべえ……お前がやった事に習って。『俺は、俺にしか出来ない手段で、お前の信用を崩壊させてやるよ!』

「……ったく。これだから、馬鹿な魔法少女は嫌なんだ……」
「……女心を欠片も分かんない、お兄ちゃんも問題だと思うけどね」
「知るかよ!
 いきなり知らない人間に、『好きなんです』なんて言われて、ほいほい喰いつく馬鹿じゃねぇよ、俺は!
 大体、もしそんなのが男全部一般的に通じると思ってンだったら、男舐め過ぎだタコが!
 ……そんな馬鹿女が、悪徳ホストに金貢いで犬みたいに躾けられた挙句、尻尾振るようになって捨てられちまうんじゃねぇの!?
 そんな馬鹿なんぞ、どー救えっつーんだ!? 知るかボケ! 勝手に死ね!!」

 つっこむ沙紀に、俺は怒り狂ったまま叫ぶ。

「……うわ、男女の出会いから否定してるよ、この人……」
「うるせぇ!
 目ぇ潤ませて『好きなんです』なんて言われたって、その裏に何考えてるかなんて知れたもんじゃネェだろうが、女なんて!
 運命の出会い? 一目ぼれ? あるかい、そんな都合のいいもん!
 あったとしたって『出会いは出会い』で、『始まりですらない』んだ!
 『ただ顔合わせただけで告白OK』なんて、頭オカシイんじゃねぇの? 沸いてんじゃね?
 少なくとも『俺はそーいう男じゃねぇよ』!!」

 信用と実績。それが俺の判断基準の全てで、それは『命より重い』。
 だからこそ……『俺の信用を破壊し、攻撃し続けてきた』インキュベーターの手口は、度し難いを通り越している。

 ……OKOK、インキュベーター。因果応報って言葉を教え込んでやる。
 『人の信用を攻撃する者は、自分の信用を無くして行く』って事を。
 そして『契約』のために地球に来てるおまえらが、『どんだけの事をやらかしてしまったか』。
 お前はそれを、『身を持って』理解してもらう事にしよう。

 ……なーに、自衛隊に裏で手をまわしてミサイル買ったりするよっか、安い安い♪ 問題は、『コネ』のほうなんだが……さて、どーしたものやら。

 と……

「ごめん、失礼するよ」
「っ!!!」

 再度、病室に入ってきた人物に、絶句。
 復讐絵図にカッカしてきた頭に、冷や水が浴びせられる。

 ……忘れてた……俺は……馬鹿だ。

 どんな理由があれ、俺は鹿目まどかを……恩人の娘を、救えなかったんだ。
 そして、魔法少女たちを……殺し続けてきて、しまったんだ。

「あっ、あの……あっ……あっ……」
「……思い出したよ。
 あの時、駅前の路地裏で、強盗をしようとして出来なくて泣いてた子供だね?
 あたしが一万円、くれてやった」
「っ……はっ……はい!
 その……申し訳ありませんでした!! お嬢様を救えず、面目ございません!」

 ベッドから降りて、俺は彼女に土下座する。

「……あのさ、顔をあげなよ……」
「はい……」

 そして、顔を上げた瞬間……俺は、彼女に頬を張り倒された。

「っ……申し訳、ありません!」
「あのさ、あんた、あたしが怒ってる意味を『勘違い』してるよ。
 あの時は、自信満々に『生きて帰る』なんて言い切るアンタをウッカリ信じちゃって、実際、アンタは二人を助け出そうとしてくれたけどさ。
 『何でアンタは、自分が死んでもいい』なんて、考えてたんだい?」
「っ……それはっ……それはっ……」
「あのね、あたしはね。
 幾ら自分の娘や息子が可愛いからって、アカの他人の子供に、命捨ててまで我が子を救って欲しいって思うほど、落ちぶれちゃいないよ!
 ……いや、ごめん……思ってはいたとしても。『実際にそうしてほしいと』かは思わないし『そうなるんだったら、意地でも止めた』さ!」

 っ……!!

「まどかから聞いてたよ。
 御剣君、あんたさ……もう妹と、二人暮らしなんだろ?
 それでも、親の遺産使ってるにしても、必死になって、妹支えて生きてきたんだろ?
 もしあんたが死んだら、あんたの妹に、あたしゃ何て言いわけすりゃよかったんだい!? 残された人間の事を、考えてたのかい!」

 その言葉に……その何も知らない優しさに、俺は……俺の心の方が、限界に達してしまった。

「っ……違うんです……違うんです……俺は……俺は、人殺しなんです!
 あれから、もっと、いっぱいいっぱい、人殺しに手を染める事になっちゃったんです!! 嵌められたとはいえ……俺は、俺は……馬鹿な俺は……だから」
「だから、『死んでもいい』なんて思ったのかい? 甘ったれんな!!」

 さらに、ひっぱたかれる。

「違うんです! 俺が……俺が冷静ならば、鹿目まどかさんは……お嬢さんは、死なずに済んだんです」
「っ……! どうやら、まーたワケありのようだね。話してごらん。何があったんだい?」

 真剣な目で迫って来る、鹿目まどかの母親に、俺は戸惑った。

「あっ……そっ、それは……その……突拍子も無い話ばかりで……その……」
「ひょっとして、さやかちゃんが、避難所を抜けだしたのと、何か関係があるのかい?」
「っ……」
「あの時、アンタ、車運転してたよね? あんた、年齢幾つだい?」
「……その、16です」
「うん、無免許運転だね。で、あの車は?」
「……『買いました』……一応、ですが」
「? 盗んだんじゃなくて?」
「お金は、あるんです……お金『だけ』は……。
 だから『無理矢理買いました』、非常時だったので」

 目をそらしながら、俺は、可能な限り頭を働かせて誤魔化そうとするが……鹿目まどかの母親は、真剣に斬り込んでくる。

「……話が見えないね……最初から、話してくれないか?」
「っ……それは、その、とても信じてもらえないような、突拍子も無い話なので」

 と……

「信じるよ。信じるさ……あんたが命捨てたいとか、まどかが生きてたかもしれないとか。
 あんた自身の行動が『それを証明しちまってる』んだ」
「そっ、それは……」
「少なくとも、あんたは……あんたみたいな『真っ直ぐな子』は。命がけの行動に、嘘なんて混ぜないよ。
 ……話してごらん。どんな突拍子も無い話でも、信じてあげるから」

 その言葉に、俺は……

「少し、長い話に……なります。そして、本当に突拍子も無い話です。
 よろしいですか?」
「ああ、いいさ。話してごらん」

 そして、俺は……あの日、大金を手にした所から、ワルプルギスの夜の直前までの事を、鹿目まどかさんの母親に、語り始めた。
 大金を手にしてからの事、姉さんの死と魔法少女の真実。真実を広めようとして失敗し、結局、妹を守るため、皆を手に欠ける事になった事。そこからの地獄絵図。そして……暁美ほむらとの出会い。鹿目まどかさんの抱え込んでたもの。巴さんとの出会い、佐倉杏子に美樹さやか、鹿目まどかとの遭遇。病院での出来事。美樹さやか絡みの事件。巴さんとの約束。斜太チカの一件。兗州虎徹の真実。

 さらに、美樹さやかや、沙紀の奴がその場で変身してみせてくれて、ようやっと彼女は納得してくれた。

 そして……

「そんで……俺の家族を、滅茶苦茶にした奴が、目の前に居るって知って……完全に復讐に、目がくらんじゃったんです。
 しかもそいつは、盗みとか、人殺しを見逃したりとか、そういったのを、本当に躊躇わない奴で……反省するならまだしも、『自分が食物連鎖のトップだ』なんて嘯くような奴で……どうしても、許せなかったんです」

「それは……そうだろうよ。あたしだってぶん殴ってるさ、そんな子が居たら」

「その場で暗殺しようとして……失敗して。結局、何だかんだあって、結局、両者合い討ちになっちゃったんです。
 そのせいで、ワルプルギスの夜相手の戦力計算が、大幅に狂っちゃったんです。
 そのせいで……巴さんまで……世話になった人まで、死んで……お嬢さんまで……あの子、自分が助かるだけなら契約すればよかったのに、最後まで……最後までタツヤ君を庇って。
 本当に……本当に申し訳ありませんでした!!」

 涙を流し、頭を下げる。……もう、それしか出来ない。

 やがて……

「まず、言っておく。御剣君。君は生きるべきだ」
「っ……そん、な……だって、だって、俺! 殺しちゃったんですよ!?
 誤解とか、すれ違いとはいえ、人、殺しちゃったんですよ!?」
「じゃあ、聞くよ? 『君に救われた人間は、どれだけ居ると思ってるんだい?』」
「っ!!」
「『どんな理由があろうとも、誰かを不幸にしていい権利は無い』だったね?
 それってね。逆を言えば……『どんな理由があろうとも、誰かを『幸福にしていい権利も無い』って事に、なっちゃうよ?」
「そっ、そんな! だって……だって俺……一人じゃ何も出来なくって、本当に誰かに世話になりっぱなしなのに、ちっとも恩を返せて無くて……俺に『生きてる価値なんて』ドコにあるっていうんですか!?」

 と……

「少なくとも。君は、命を賭けて、タツヤを救ってくれた。それは間違いのない事実だよ。
 そして、御剣颯太君……君は同じような事を、以前もしてるね?」
「え?」
「○×県某市……そこの災害現場で、君のお姉さんと一緒に、必死になって助けた小学生ね。
 ……あたしは雑誌の編集者なんてやってるから、知ったんだけど『消防士さんか自衛官になるんだ』って……頑張ってるそうだよ」
「っ……!! でも、でもその何倍も見捨ててるんです! 救えなかったんです!」

 と……

「御剣君。今の君の状態を、何て言うか知ってるかい?」
「……?」
「『サバイバーズ・ギルト』、もしくは『サバイバー症候群』って言うんだよ。頑張り過ぎな『正義の味方』が陥りやすい症状さ。
 御剣君。君の行動は、典型的な……いや、『動機そのものは』典型的なモノさ。
 君の不幸はね、それを『何とか出来る立場に居た』『何とか出来てしまった』事が、本当の不幸だったのさ」
「っ……そんな……俺は、もう……」
「カルネアデスの板、って知ってるかい? 少なくとも……私が君から聞く限り、佐倉杏子ちゃん、だっけか? その話以外は、全て殆どが緊急避難と正当防衛にあたる部類だ。……まあ、過剰防衛かどうかは、微妙な所だけどね。
 そしてね……佐倉杏子ちゃんの一件に関しては、あたしは君を責める事はできない。もし、君の立場で、あたしの一家が、そういう目に遭ったら……あたしだって、同じ事をしていたさ」
「やめてください! 俺は……俺は、もう、限界なんです!
 俺が、俺個人が生きてきた動機なんて、復讐と家族可愛さだけです。そのために、大勢の人を手にかけて……」
「そして、大勢の人を救った。
 ……君の話が本当なら、ワルプルギスの夜を放置しておけば。そしてまどかが契約していれば、あたしたちは全員、死んでいた。
 違うかい?」
「っ……そんな……そんな! 俺は、そんな事、ちっとも……ただ、色んな人に世話になってるから、迷惑かけたくなくて」

 そう言うと、鹿目まどかの母親は……俺に指をつきつけた。

「結果論……まどかから聞いたけど、君は、そう言っていたね?

 『正義の味方なんて、なるもんじゃない』って……言ってたとも聞いている。それはね、正しいよ。

 でもね、誰かが……『それが出来る誰かが、誰かのために正義の味方』を、背負わなきゃ行けない場面も、確かにあるんだ。

 正義の味方ってのは、祝福じゃない。周囲は祝福してるつもりでも、本人にとっては『呪い』なんだ、って……君はよく知ってるハズだ。
 その……巴マミって子も、苦悩してたんじゃないのか?
 だから、多分、彼女は……最後まで、君に救われてたハズだよ」

「っ……!?」

「御剣君……君は。『君個人にとっては、残念なことに』、その魔法少女たちにとって、正義の味方に『なってしまった』んだよ。
 少なくとも、ワルプルギスの夜を倒した、っていう事は……『あの災害を退治して』二度と起き無くしたって事は。
 知ってる人からすれば、君は英雄で、正義の味方なんだ。意味は、分かるね?」
「それはっ……そんなのってアリかよ! 俺は家族が……沙紀が大事だったダケなのに!? ヒデェよ! そんなのあんまりだよ!」
「誰かを不幸にすれば、自分が不幸になる。
 じゃあ、君が『幸せにしてきた』人間の『幸せ』の行き先は、本人が受け取り拒否しちまったら、ドコに行けばいいんだい?
 だから、あたしは君を許すよ。『娘を君に殺されて、息子を救ってくれた』君を……あたしは許すよ。
 強いてあたしが悪かったとすれば……あの時、『まどかの分まで、もう一万、君に投資すべきだった事』……かな?」

 その言葉に……俺は、もう……

「うっ……うっ……っ……ううっ……うううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 大泣きしながら、俺は……鹿目まどかの母親に、謝罪し続けた。



「……あの時……父さんと母さん、止めようと思えば、止められる『実力』は、あったんです。
 師匠の教えてくれた剣術は、一般人がどーこーできるような、そんな甘いもんじゃない」

 俺は、ぽつり、ぽつりと話す。

「でも、本当に……家族に殺されそうになるなんて考えてもいなくて、怖くなって……ヤクザやチンピラなんて、もー怖く無かったのに……完全にパニックになっちゃって……何でなんだろう、どうして……そんな風になっちゃったんだろう?
 『正義の味方』? 大量殺人鬼の俺が? そんなもん、とっくの昔に犬に食わせて来たっつーのに……なんで今更になって、そんなカンバン背負わなきゃならないんですか、俺が……ワケが分からないよ」
「御剣君……」
「分かってます! 分かってるんです! 『理屈の上では分かってる』!
 知っていようがいるまいが、『やっちまった事の責任』は、人間、否応なく背負わなきゃいけない! 人殺しでも、盗みでも、人命救助でも!
 でも、それが……何で『正義の味方』なんてモンになっちまうのか、本当にワケが分からないんです!」

 と……

「多分ね、それは……御剣君に『生きて苦しめ』って……罰なんじゃないかな?」
「っ!!!!!」
「君はね、頭の回転が良すぎる。そして、その年齢にしては『モノが見え過ぎた』。
 それでいて、心の奥は子供のままだったんだよ。だから、君が苦しむのは、当たり前だ」
「そうですよ……俺は、普通の……タダの男だったハズなのに……どうしてなんですかね?」

 本当に、混乱していた。ワケが分からなかった。

「さあね? それは、君自身が考えるべき事だ……あたしは答えを知ってるけど、それは教えられない。
 ……案外、君の言ってた師匠も、そういう人だったんじゃないのか?」
「っ……はい。そんな人でした……絶対に『正しい事』なんて、教えちゃくれませんでした」
「そうかい。いまどき、凄い師匠と弟子も居たもんだね……さて、あたしは行くよ。タツヤの見舞いのついでだったからね」
「あっ、その……あのときのガ……いやさ、タツヤ君は? まさか……」

 寝たきりとか、そんなんじゃないだろうな!?

「ピンピンしてるよ。検査入院程度だからね、明日にゃ退院さ。君の方が、よっぽど重傷なんだ」
「っ……そうですか。良かった……」

 安心し……ふと、思い出す。
 雑誌の……編集者?

「あ、あの、すいません、あの……雑誌の編集者をしてるとおっしゃってましたよね?」
「ん? あ、ああ……それが、どうしたい?」
「あの、アニメとか、漫画とか……そういった業界に、コネをお持ちではありませんか?」

 その質問に、鹿目まどかの母親は、怪訝な顔をしていた。

「あ? あ、ああ……仕事の都合で、何人か居るけど……何だい、一体?」

 完全にわけが分からないって顔をしている、鹿目まどかの母親に、俺は迫って叫んだ。

「お願いがあります!! 俺に……俺に『神様を紹介してください!!』」
「はぁ?」




 そして……半年後……
 『とあるアニメ』が封切られる事になった。

 タイトルは……『まどか☆マギカ』。

 俺が見込んだ……俺が心から尊敬する『神様』たちは、本気でトンデモネェ仕事をしてくれた。
 勿論、札束山盛りに積んだのは、俺だが……最初、ちょっと設定だのキッカケだのを話しただけで、予想を超えた産物を生みだしてくれた。

 この情報過多のご時世に、一種の社会現象に近いモノになるまで『魔女と魔法少女の真実が』、『物語として』、世間に流布された結果。
 インターネットを通じて、海外でも。『QBを殺し隊』だの『QBを殴り隊』だの……まあ、奴がやらかしてきた、『吐き気のする悪』という情報が、ほぼ全世界に流布される事になる。
 そして……




「しっ、しっ……師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! なーんて事してくれたんですかぁっ!!」

 我が家に特攻してきた馬鹿弟子が、絶叫する。

 アニメが放映されて、爆発的な人気になるに従って、リアル見滝原を訪れる観光客が増えた結果。
 リアル、見滝原中学を見学に来る馬鹿も増えてしまい、なんでかコイツは注目のマトになったそーな。

「あー? ちゃーんと生き残ったお前だけ、『御剣さやか』って名前に弄ってあるだろーが?」
「だからって、だからって……何なんですか、あのアニメのオチはぁっ!? あたし魔女になって佐倉杏子と相打ちとか!?」
「いや、俺と巴さんが居なかったら、大体、あーなってたろーなーとは思ったけど? だから『制作の資金提供者(スポンサー)』としてゴーサイン出した♪」

 そう。俺がやった事。それは……『インキュベーターの真実を、世間に流布する事』。
 そのためなら、アニメだろうがニュースだろうが構わない。
 むしろ、非現実的な情報ではあるのだから、アニメに仕立て上げて社会現象になるまで『面白くしてやる』事のほうが、重要だったのだ。
 そのために、俺は……『俺の尊敬する神々』にコネをつけ、企画を持ち込み、金を提供したのだ。

「っていうか……何で師匠が出て無いんですか!? 斜太チカは!? 沙紀ちゃんは!?」
「そりゃおめー、『キュゥべえよりタチの悪い極悪人』が出てたら、キュゥべえに『世間の怒りの矛先が向かないで』分散しちまうだろうが? 
 あと、斜太チカの一件は、ドラッグとか噛んでるから、放送不可能。世間様はそーいう毒っぽいの、嫌いなんだよ。あくまで『ペテン師並みの悪い宇宙人に翻弄される、可愛そうな魔法少女の話』にしなけりゃダメなのさ。

 そーでなけりゃ、キュゥべえの『信用を攻撃する』なんて……そんなの不可能に決まってるじゃないか♪」

 にっこりと微笑みながら……俺は、俺個人が世間にカマした『御剣詐欺』の、予想以上の結果に驚いていた。
 あーんな『初見殺し』程度の詐欺に、人類が……世間が『引っ掛かり続けてた』ってのもナニだし、こんな『伝統的で簡単な手段』にどうして思い至らなかったのやら。

 『物語』ってのは……言い換えれば『高度な嘘』だ。
 そこに、現実の教訓だの何だのを混ぜ込んでおくのは、ごく基本的なものである。

 それに、ハリウッドがアメリカの宣伝機関だってのは定石だし。
 日本のアニメ産業を海外が必死になって札束はたいて買おうとしてるのは、自分の国の宣伝か、他国への攻撃に利用しようってハラなんだろうし。
 だったら……『金持ってる俺が、人類の情報網を駆使して、宇宙人の信用を攻撃する』くらいは、ごく普通の反撃手段じゃないか♪

「わっ、悪い人だ……超悪い人がココにいる……インキュベーターより根性ネジ曲がっていながら、人間心理を知り尽くしてて、無駄に大金持っていながら、超優等生の皮を被った『最悪の悪魔』がココに居る……」
「あっはっはっはっは♪ よーく分かってんじゃないか。
 美樹さやか。憶えておけ……世の中、絶対敵にまわしちゃいけない、三つの人種がいる。
 『達人』と『金持ち』と『キチガイ』さ。
 達人は、常人には反撃しようもない手段で攻撃してくるし、金持ちはそんだけ世間に信用されているって部分もある。そしてキチガイは『本当に何をしてくるか分からない』から、恐ろしいんだ」
「つっ……つっ……つまり……師匠は『その三つ全部を兼ね備えている』って事になりません!?」
「まっ、そーなるかもなー♪」

 ゲッゲッゲッゲッゲとイビルスマイルで笑いながら……気付くと、沙紀まで悪魔のよーな『イイ笑顔』を浮かべている。
 そのまま、二人で高笑いを、馬鹿弟子の前でカマしてやったり。

「さっ、最悪の兄妹だ……あたし、初めてキュゥべえに同情したくなってきた。この人は絶対に『敵にまわしちゃいけない』人だ……」
「だーから俺みたいな悪党は、『良い子のお子ちゃまが見る』アニメなんぞに出ちゃいかんのさ。『毒』がキッツ過ぎるからな♪
 その程度の自覚はあるんだヨ」

 と……

『御剣颯太……君は……君は本当に一体、何をしたんだい!?』
「あ?」

 ひょっこりと我が家に現れたキュゥべえに、俺は首を向ける。

『ノルマが……宇宙を維持するためのノルマが、全然達成出来ないんだ! 君は一体『何をやったんだい?』 御剣颯太!』
「んー? 今度は『お前のキャラクター』を、警視庁の詐欺撲滅のポスターにでも売り込もうかなーって思ってんだけど?」
『僕は詐欺なんかしていない! ちゃんと説明はしている! 『魔法少女になって、魔女と闘ってくれ』って』

 ……はぁ……

「あのな、『人間と契約したいんだったら』人間の商習慣にくらい従えよ? バーカ♪
 『俺含めて人間の世間舐めてるから』そーなるんだよ……おめーのノルマがどーだとか、正味、人間様は知ったこっちゃねーんだタコ。
 ……人間はな、人類はな……『お前らの家畜でも何でもない』んだぜ、インキュベーター」
『僕らインキュベーターとの共存関係を否定するなんて……宇宙の維持を拒否するなんて、それは、宇宙で暮らす知的生命体全てに対する反逆だよ!
 君は、この地球だけで、宇宙の全てを敵に回そうと言うのかい!?』 
「知るかよ、インキュベーター! オメーが単に『俺を敵に回しただけ』だよ、ターコ!
 世間ってのは……世界ってのは、想像もしない形で繋がってんだよ。そっから『芋づる式におめーが色んなモンを敵にまわしちまった』
 そんだけの話さ。
 俺がやったのは、ほんのちょっと、それを『面白おかしくしてやるキッカケ』を与えたに過ぎないのさ」

 と……

『……御剣颯太、君は危険な存在だ』
「今更かい?」
『僕たちが間違っていた。君は全力で排除する』

 その言葉に……俺は……俺と沙紀は、本気で大爆笑した。
 笑わせる……本気で笑わせてくれる。なんなんだ、こいつ?

「あのさ、何、その……『今から本気出す』発言?
 こっちはなぁ! とっくにテメェのやらかしてきた事に、キレてんだよ! タコがっ!!」
『君は、何で罠に……』
「知るかよ、失せろ! 二度と俺の前にツラを見せんな♪
 ……っつーか、お前の弱点は『嘘が言えない』んだろ?
 ノルマだ何だっつーなら、嘘を吐ければ、もーちょっと効率が上がってたハズだ。なのにそれをしていない……」
『出来ないわけじゃなよ、だから』
「無理だな。
 『嘘』ってのは、感情から発生するモンだ。相手の心を知るからこそ、知ろうとするからこそ、そこに自己防衛としての虚偽が生じる。

 教えてやるぜ……インキュベーター。お前はな、とっくにバグってんのさ。

 ……あの時、俺が『過去から未来まで、全世界、全宇宙、全てのインキュベーターの消滅』を願った時、お前は俺に『ビビった』んだよ。
 恐怖だって、立派な感情さ。しかもそれは、生存本能から発生してるモンだから、そー簡単に消せやしない。それを消すにはな……愛だとか正義だとか、そーいった、もっと強い『別の感情で』上書きして、無理矢理乗り越えるしかないんだよ。そうやって、『人間は大きくなっていく』んだ。雪だるま転がすみてーに、な」

『そんなことは無い。君に対しては、僕たちは障害としか認識していない』

「本当か? お前は『全ての知識を共有して、全ての認識を共有している』生き物だ。
 だからこそお前は、『自分自身の存在を、他人に観察してもらった事があるのかい?』
 『客観的な視野に立った第三者の判断』ってモノを……お前は、受け止める事が出来ないだけじゃないのかい?」

『その必要性を、僕は感じないよ。感情なんて精神疾患でしか無いんだから。わけがわからないに決まってるじゃないか』

「その『ワケの分からない病気』を利用して、宇宙を維持しようとしてるお前は、何なんだい? そりゃあ、『感情を持ってる人間に、反発される』のは決まってんじゃないか。当たり前だろ?

 『自分が振りまわしてる力が、普段使っている力が、どんなものかも認識していない』

 ……補償金貰って仕事まで世話してもらった挙句、普段、日常生活でフツーに電気つかっておきながら、ご近所で原発事故が起こった瞬間にギャーギャー泣きわめいて、慌てて情報集め出すような『みっともない末路』しか、お前さんには見えないな。
 そーいう意味で、そのうちお前……魔法少女と一緒になって、身を滅ぼすぜ?
 『知らない』ってのは、本当に恐ろしい事なんだ。『わけがわからないよ』じゃ済まねぇ、トンデモネェ大火傷を負っちまう事だってあるのさ」

『僕らは、ずっと人類と共存してきたんだ。言わば、君たちをずっと客観的に観察し続けてきたんだよ?』

「それでいて『感情を理解出来ない』ってのは、本当に馬鹿なんだな、お前? 救いようが無いぜ」

『……まあいいさ。君と会話しても無駄なようだ。君は今、本当に『僕らインキュベーターの敵』になった』

「上等だボケ! テメーじゃ何も出来ないで、他人様騙しながら、宇宙の果てでシコシコマス掻いてるしかできねー奴が!
 生身で生きてる俺様を……人間を、どーこー出来ると思うなよ!? 人間は馬鹿だが、『そこまで弱い生き物』じゃねぇんだよ!!」

『……本当に、わけがわからないよ』

 そう言って、立ち去って行くインキュベーター。
 ……さってっと……

「沙紀、馬鹿弟子。
 『魔女の釜』を解禁するって……魔法少女たちに伝えてくれ」
「お、お兄ちゃん!?」
「師匠!?」

 絶句する二人。

「あの最悪悪魔を敵にまわしちまったんだ。『こっちも味方は作らんといかん』だろ?
 『俺たちに味方すれば、手に入れたグリーフシードが無料である程度再利用出来ますよー』って言えば。
 結構、味方になってくれそーな魔法少女って、居ると思わねえ?」

 悪魔の笑顔を浮かべながら、俺は二人に話を振る。

「個人の争いってのは……戦争ってのはさ、つまるところ『貧困』から発生するのさ。宗教だとか思想だとかってのは、そのキッカケに過ぎん。

 沙紀、お前が『ピーマン嫌い』って言う時、俺は絶対『アフリカの子供たちはもっと貧しいから』とか言わないだろ? アラブの王様は、もっと贅沢なご飯を食べてるハズだしな。
 それでも俺は、アラブの王様が『幸せ』だとは思えない……王族なんて、『美味い飯を食う代わりに』、国全体を富ませるっつー、物凄い義務と責任があるわけだ? 重たいぜぇ、こいつは?

 まあ、何だ。『貧困』の基準ってのをドコに置くか、ってのも、個人とか生活環境それぞれなんだけど……さ。

 それでも、魔法少女の縄張り争いってのは、結局、グリーフシードの取り合いなワケだ? そこをフォローしちまえば……魔女の数は減るし、魔法少女の数も増えない。そして争いも少なくなる。
 そして何より……『キュゥべえが困る』!! ってなもんさ、ゲッゲッゲッゲッゲ♪」

 と……

「師匠……つまり、師匠は、もしかして……」
「『グリーフシードを信用単位にして』俺はインキュベーターに挑む!
 ……経済戦争に近いかもな、これは。
 『魔女の釜』も改良を重ねて、再利用率は8割以上にあがってる……まあ、挑む価値はあるさ!」

 まったく、暁美ほむらは、偉大だったぜ。
 『信用できない』事が『信用』に繋がる……ギブ・アンド・テイクの関係が保たれている限り、魔法少女が最早、インキュベーターの側に回る可能性は薄いだろう。
 何しろ、あのアニメのせいで、奴の『信用そのものが』ガタ落ちなのだから。

 ……きっと、満○銀次郎だとか、ウシジ○くんみたいに思われそうだが……そんなのは知ったこっちゃ無い。

「さあって、反撃開始だ!
 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」

 我ながら、悪辣な笑みを浮かべて、高笑いしながら。
 俺はインキュベーターの宣戦布告を、しっかりと受け取った。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.031409025192261