※参考:ドリフ大爆笑より『剣の修行』「……師匠、そろそろ、『剣の修行』をさせていただけないでしょうか?」 ワルプルギスの夜戦以降。 縄張りの引き継ぎだの何だかんだとあって、ひと段落ついて以降。 俺は、縄張りの巡回ついでに、ひょっこり訪ねて来る美樹さやかを相手に、『修行』と称して、炊事洗濯や学校の勉強等を教え込んでいたのだが……どーもそれが、いたく不満だったらしい。「剣の修行だ? ……もう教える事なんて、特に無いぞ?」 何しろ、俺の剣は殺人剣である。 正味、正義の魔法少女には相応しく無い。「いやさ、もっとこう、ほら……ありそうじゃないですか、色々と……こーズババーンとか、ドカーンとか、気の利いた技とか!」 ……はぁ……「『剣の修行』の前に、まず『精神の修行』をしろ。馬鹿者が」 ポコン! と小豆を煮てるオタマで、美樹さやかの脳天をひっぱたく。「炊事洗濯掃除に勉強。それが完璧に出来て初めて『魔法少女』よ。 『剣の修行』以前に、そんな事では『一人前の魔法少女』にはなれぬわ、馬鹿めが……目玉焼きの半熟か否かは、上条さんのよーな男の男心を左右する、最重要要素と知れぃ」 どっかの師匠っぽく、しっかりとお説教。「ううううう……!! 沙紀ちゃんだって、家事全然できないのに、魔法少女じゃないですか」「あれは諦めた。俺にも手に負えん……マジで」 はっきり言って、沙紀の料理の腕は、姉さんより始末が悪かった。色んな意味で。 っつーか……いくらあいつの真の能力が『願望混成(ウィッシュ・オブ・マッシュアップ)』だからって、何でもかんでも混ぜりゃいいってもんじゃない! なんというか、こう『カルピスを牛丼にぶっかけるような真似』を、兵器……もとい、平気でやるから、おっかないのだ! 『素材の持ち味を活かす』という概念から、まずは教え込んで行かんと……あいつはチャレンジャー過ぎる!!「じっ、じゃあ、師匠! こうしません? 今から今日一日、晩御飯まで、私が不意打ちで撃ち込み続けるから、それで師匠から一本取れたら『何か教え込む』って事で」「あ?」「師匠は『達人』ですよね? だったら、私の不意打ちくらい、かわせるハズです!」 なんだその……本当に、漫画みてーな『剣の修行』ちっくなのは……「……はぁ。ま、いいか。 ちょっと待ってろ、兗州(えんしゅう)虎徹持ってくる。あれが無いと、俺は対抗しようが無いからな」 とりあえず、こいつの攻撃、全部回避しきる自信あるし。「……さっ、隙あらば、何時でも来い」「はい……てりゃあああっ!!」 ていっ! 兗州(えんしゅう)虎徹を鞘におさめたまま、斬撃を回避しつつ……美樹さやかの『足の小指』に向かって、ゴスン、と鞘の先端で一撃。「うにゃあああああああっ、しっ、しっ、師匠……地味に痛いッス、その一撃」「安心しろ。『否定の魔力』は手加減してやってるから……最近、調整が効くようになってきてな」「こっ、こっ、こっ、小指、小指の爪が割れてる……地味にキッツい……などと言いつつとぉっ!!」「色んな意味で『甘い』」 そう言って、お玉で掬っておいた『煮えてるアンコ』を、美樹さやかの顔面にぶっかける。「あじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ!! こ、こっ、これ、魔法少女じゃなかったら顔面大火傷ですよ!」「何言ってるんだ? 昔は、船乗りたちの武器に『煮え立ったお粥』が使われてたんだぞ?」 これ、ほんとの話。なにしろ、海の上でもろ肌脱いだ連中には、こーいう攻撃がかなり有効だったのだ。 ……海に飛び込んで火傷冷やすにしても、海水って塩水だし、洒落にならなかったろうなぁ。「教えてやるよ。『剣に拘る者は、剣に足元を掬われる』ってな。 俺から一本取りたければ、まず剣を捨てる事から考えた方が早いぜ? さ、馬鹿な事やめて、ぐちゃぐちゃにした台所とか、綺麗にしておけよ」 と……何でか意地になっちまったのか。「っ……分かりました! でも『一本取るまで』諦めませんからね!」「……いいけど、後片付けはお前がやれよ? 全部?」 そう言って、美樹さやかが台所から立ち去って行った。「くらえーっ!!」「あ?」 投擲するような剣の弾丸を、あっさり回避し……って!「うわああああああああっ!!」 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ!! 恐ろしい事に、我が家の武器庫から持ってきた拳銃……ベレッタ92Fを、俺に向かって暁美ほむら張りに発砲する、美樹さやか。 しかも、彼女と違って、握りが『剣の握り』だからガク引きしまくってて、普通に銃口を向けられるよりも、別の意味でエラい危険である!「これっ!」 兗州(えんしゅう)虎徹で、ベレッタを吹っ飛ばして、馬鹿弟子の脳天に峰打ちを叩きこむ。「うにゃあああああっ!! 痛ったぁ……」「なーんでいきなし、リアル銃器持ちだすかなぁ? 正直、俺じゃ無ければ回避どころか、死んでたぞ!」「うーっ……だって一本でも『撃ち込んで』みろって言ったじゃないですかー!」「どこでそんなトンチキな言葉遊び覚えやがったテメェ!! いいか、教えてやる! 『魔法少女道』第二十三条に『リアル銃器を使ってはならぬ』とあるわ!」 とりあえず、テキトーにでっち上げた理屈で、馬鹿弟子を説き伏せてみる。「なんなんですか、その『魔法少女道』って」「良い子の夢と希望をブッ壊さないための、お約束って奴だよ! みんなの夢と希望を叶えるのが、魔法少女って奴だ!」「……暁美ほむらや師匠は使ってたってのに……」「やかましい! そういうのは俺や奴みたいな、外道の使う武器だ!」「はーい……」 そう言いながら、美樹さやか……というか、馬鹿弟子は立ち去って行った。 ……いーかげん、諦めたかな…… そう思ってた、次の瞬間だった。「ぐぼぁはああああああっ!!」 唐突に『出現した』馬鹿弟子のブン回した『金属バット』に俺は吹き飛ばされた。 ……はい、スピードスターの俺ですが、その分、装甲は紙装甲でございまして。 金属バット程度でも、魔法少女の攻撃の直撃喰らったら、こんなもんである。 しっ、しかし、何が……あっ! 薄れゆく意識の中、ハイタッチする馬鹿弟子と沙紀。 んで、沙紀の手には『暁美ほむらの使ってた盾』……そこまでやるかっ!!「やだ、お兄ちゃんがチアノーゼになってる!」「やばい、ちょっとイイ角度で入り過ぎた! 治さないと!」 ピピ○ピルピルピピ○ピー、なんぞと悪ふざけしながら、良い笑顔で俺の傷を治して行く馬鹿弟子共。 こっ、こっ、こいつら……「おい、馬鹿弟子よ……お前に一言言っておく。 『魔法少女道』第六十八条にな『金属バットで撲殺しておいて回復魔法で復活させるな』と書いてあるわ!」「だから、なんですか、その『魔法少女道』って……」「やかましい! 幾ら虚淵ワールドだからって、みんなの夢と希望をこんな形でブッ壊しまくるんじゃない! 『時間停止から金属バット』なんて、そんな不意打ちで喰らったら、俺だって避けられるか! 馬鹿者が!」「あ、やっぱり師匠、暁美ほむらの能力って苦手なんですね?」「……あいつ個人の性格的に、色々分かりやすくて御しやすいがな」 などとぼやきつつ、俺は馬鹿弟子共をリビングから追い出した。「……………」 もう、俺はピリッピリと警戒していた。 沙紀の能力との相性からして、暁美ほむらの時間停止の能力は、そう長くは続かない。ので、時間稼ぎの柵を作っておいて、防衛戦に徹する覚悟を決めたのである。 一体、なにをやっているのか、などとは問うてはならない。 ここまで本気にさせた以上、この勝負、馬鹿弟子に負けるわけにはいかない。 と……「師匠、勝負です!」 堂々と、入ってきた馬鹿弟子が、沙紀を背後に連れて俺の前に立つ。 ……何でか、沙紀までペアで俺に突っかかって来る話になっちまったらしい……「いいとも、何時でも来い!」「とりゃああっ!!」 と、次の瞬間。「えいっ!!」 無数のマスケットが展開。巴さんの能力で、沙紀が俺に一斉射撃……だが、甘い! そのまま、回避した……と、思いきや。「なっ!!」 するすると着弾したリボンが俺に巻き付き、動きを止めに来る。とはいえ、止まったのは一瞬だった。 兗州(えんしゅう)虎徹でリボンを斬り払いながら……その動きに合わせた馬鹿弟子が、『俺の目の前に現れる』や、剣を握る俺の左腕を掴み……「とぉぉぉぉぉっ!!」「ごっ!!」 両足で顔面を挟むように蹴り上げられると同時に、腕を逆関節に捻り上げられたまま……思いっきり二人分の体重をかけて、顔面から地面にブッ潰された。「……出来た、虎王完了! って、ああああ、師匠!?」「美樹さん、やりすぎ! お兄ちゃん脆いんだから!」 再度、ぴくん、ぴくんと痙攣しながら、悶絶する俺を、馬鹿弟子と沙紀が治療していく。「……馬鹿弟子よ。お前に一言いっておく。 『魔法少女道』第六十八条……もとい、八十六条にな! 『魔法少女が関節技(サブミッション)を使ってはならぬ』と書いてあるわ!」「自分が不意打ち喰らったもんだからって、それは無いでしょー」「やかましいわ! 第一、『魔女相手に』どうやって関節技極めるんだよ! しかもいきなり『か弱い人間』に魔法少女が二人がかりとか、ありうるか馬鹿者が! 本気で夢も希望もありゃせんわい! 色々ぶち壊しじゃ! 沙紀! お前今後一切、手出し無し! っていうか、関節技かける直前に時間停止、また使っただろ!? 絶対手伝うんじゃないぞ!」「ぶーっ!!」 ぶんぶくれる沙紀。 ……しかし、何だかんだと、こいつら恐ろしいコンビだな、おい。 正味アレは、狭い屋内じゃ回避しようが無かったぞ。「……………………」 俺は、特に念入りに警戒していた。今の俺には、奴の立ち位置まで読める。 壁の向こうか……だが、問題無い。 兗州(えんしゅう)虎徹の届く距離じゃないが、正味、圏内に入ったら、ガチで叩き斬ってやる心算でいた。 もー、これ以上舐められてたまるか。 と……何か、蒼い蛍のようなモノが飛んでいる。 ……なんだ、まさか……「見切ったぁっ!!」 これはっ……まさか、『エリアサーチ』!? って事は!!「つぇりゃあああああっ!!」 バキャバキャバキャバキャバキャバキャ!!!「どわあああああああああああああっ!!」 体捨一閃……巨大化した馬鹿弟子の刃が『家の壁をぶち抜いて』刺突で俺に迫るのを、必死になって『否定の魔力』を込めた兗州(えんしゅう)虎徹で受け止める!!「チッ……惜しい!!」 などと嘯く、馬鹿弟子様。 こっ、こっ、こっ、こやつは……こやつはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!「こんの、馬鹿弟子がぁっ!!」 速攻で馬鹿弟子の脳天に、兗州(えんしゅう)虎徹の峰打ちを十発ばかりぶち込むと、脳天踏みしだいてぐりぐりと踏みにじる。 勿論、『否定の魔力』全開で。死にはせんが、酷く痛いハズだ。「『魔法少女道』第123条にな……『あたりの迷惑顧みず、エリアサーチからの壁抜きをしてはならぬ』とあるわ! だから貴様は馬鹿弟子なのだ、この愚か者が愚か者が愚か者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」「痛くなければ憶えませぬ!! 誰が修理すっと思ってんだ、この家っ! マジで弁償させるぞ、この馬鹿弟子がーっ!!」 怒声混じりに、俺は馬鹿弟子にグリグリ踏み踏みと蹴りを入れまくった。「師匠」「……」 キレ倒しながら、俺は和菓子作りに没頭する。 ……もー相手しない、相手してやんない。こいつ。「師匠に頼まれた、おまんじゅうを作るための小麦粉を、倉庫から持ってきます」「……行って来い」 そう言って、追い出す。 ……やっと、どっか行ったか……ん? 馬鹿弟子の気配が、二階に上がって行く。 ……小麦粉、小麦粉ねぇ……ああ、要するに、『コントのオチをつけてやろう』って魂胆か? ここまでブッ壊した家を、さらにブッ壊そうってか? 上等だ。 案の定、天井で、何やら、ごそごそと動く気配。 そこに向かって、俺は弓を引き絞るように兗州(えんしゅう)虎徹を構え……「そこだぁっ!!」 牙突一閃! 天井に向かって、兗州(えんしゅう)虎徹をぶちかました瞬間…… みしっ……バキバキバキバキバキィ!!「っ!! なっ、うおおおおおおおっ!!」 さっきの馬鹿弟子の一撃で、家のヘンな所が切断されてしまったのか。 牙突で台所の天井どついたら『天井丸ごと底が抜け始めた』『うわああああああああああっ!!』『きゃああああああああああああああああっ!!』 ガットーン!!!! 豪快に、もうもうと舞い上がる小麦粉と共に、天井が崩壊。 そこに押しつぶされながら、辛うじて息のある俺は思った。 魔法少女なんて……弟子にするモンじゃねぇな……と。