「っ……!!」 絶句。 それ以外の言葉が出てこない『映像』に、美国織莉子は嘆息した。「そうか……そういう事……か」 彼女の未来から見た映像。 それは、一個の狂戦士(バーサーカー)が、魔女も魔法少女もインキュベーターすらをも。 『魔に関わる全て』を滅ぼして行く、未来の映像(ヴィジョン)。 そして、『魔』の存在しない、他の星と交流を果たしていく、人類の未来。「確かに……彼もまた『救世を成す者』……か」 このまま行けば、確実に御剣颯太は『世界を救う救世主』たる存在になる。 だが……「個人的な怨嗟と愛情で動く者が、『結果として』救世を成し遂げる……正に、『奇禍』としか言いようが無い存在。 ……御剣颯太……『魔法少年』。一体、何者なのかしら?」 接してみたい。対話を試みたい。 だが……「御剣沙紀……『全願望の図書館(オールウィシュ・オブ・ライブラリー)』の使い手。 魔法少女の『究極の理解者にして贋能者』……恐ろしい子」 二人で一つの魔法少年。そのもう一つの部分が、織莉子にとって厄介極まる存在だった。 救世。 それこそが、今の美国織莉子の願い。 だが……「もし、御剣沙紀が、彼の未来を知ったら……」 まず、個人の動機で動いている二人は、方針を翻してしまうだろう。未来が大幅に変化する可能性を、否定出来ない。 彼らの強さは『不確定な未来を信じ、可能性の限界まで足掻く事』から来ているのだ。 そういう意味で、御剣兄妹と美国織莉子との相性は、ある意味、佐倉杏子よりも最悪と言っていい。 かたや『未来を知る者』、かたや『未来を信じる者』。心構えにおいて決定的な差が、そこにあるのだ。 故に、接触する事は許されない。 だからこそ、考えるしかない。 美国織莉子にとって、彼ら御剣兄妹については『考えて、推察するしか手が無い』のだ。「そうか。 それが……それこそが『一個の存在が、結果として救世を成し遂げる原動力』……か」 再度、嘆息しながら織莉子はつぶやく。 彼ら自身は、決して『世界を救う』だのと、大それた事を望んでいない。 『家族が大切で』『仲間が大切で』『知らない誰かを信じたい』。そして『許せないモノは許せない』 『魔法少年』たる御剣颯太の動機面での原動力は、『信頼』であり『信じる』事。 彼個人の『祈り』とは別に、その生き方そのものが既に、魔法少女の相棒(マスコット)そのものなのだ。 故に。 その魂は、道を示す標抜きには語れない。 彼の魂を真に輝かせるには、『道を示す者』が必須であり、故に、魔法少年という従卒(サーヴァント)なのだ。 荒ぶる魂に『彼が信ずるに足る』、明確な方向性を示す事が出来る存在……「それを示す者……『偉大なる無能者、御剣沙紀』……か」 最初は何も持たない、文字通り『無能』としか言いようのない能力。 それを……『他者を理解する事』により、成長させて行く力。 彼女が御剣颯太という、狂気すら孕んだ存在に、明確な指針を与えて行く。「なるほど……『世界を救う』わけだわ……」 かたや、『魔』の否定者。かたや、『魔』の理解者。 その矛盾した要素が合致したとき……それは、『限りなく正解に近い答え』を、導き出して行けるのだろう。 それこそが『御剣兄妹の願望混成(ウィッシュ・オブ・マッシュアップ)』とも言える。 美国織莉子の『未来視』は、未来を知る。 だが、御剣兄妹の『組み合わせ』は、未来を切り開くモノなのだ。 結果だけを導き出す美国織莉子。 結果に至る方程式を無数に試みる御剣兄妹。 それこそが、彼らと自分の決定的な『差』なのだろう。故に……「悲しい、人……」 悲劇の結末を見た美国織莉子は涙を流した。 答えを出さずにはいられない。答えを問わずにはいられない。疑わずにはいられない。真実と結果を求めざるを得ない。 何故なら、それは『信じる』事の裏返しなのだから。 人は『信じたいから疑う』のだ。「キリカ」「んー、なんだい織莉子?」「御剣沙紀と接触して、キリカの力を見せてあげて。 ……それくらいしか、私には彼らに『未来を示す事が出来ない』から……」 救世を成し遂げるためなら、何でもするつもりだった。 だが。 ただ、家族が大切であるがために、無数の人殺しを重ね、非道と非業の罪を背負いながら、結局、彼自身が破滅する事を前提とした救世に便乗しておいて。 何も手助けや手を差し伸べようとしない程、美国織莉子は非情にはなれなかった。 『結果論から言えば』御剣颯太の殺人の罪は、本来『そう望んだ』自分が背負うべき罪では無いのだろうか? そう思えてくる程に、彼は魔女も魔法少女もインキュベーターも。『自分やキリカも含めて』殺して、殺して、殺し続けて行くのだ。 ならばせめて……彼に殺される前に『一縷の可能性』を、彼が最も愛する存在……御剣沙紀に、残しておいてやるべきではないか?「ん、わかった。でも……織莉子、何で泣いてるの?」「え?」「織莉子を泣かせる奴、誰?」 その狂気すら孕んだ眼差しに、織莉子は首を横に振った。「何でも無いのよ。眼にゴミが入っただけ。 そして、能力を見せたら、ここに帰ってきて。お茶にしましょう。キリカの好きそうなクッキーとか、作っておくわね」「わーい♪ やっぱり愛は無限に有限だー♪」 そう言いながら、飛び出していく呉キリカに、寂しそうな笑顔を見せながら、美国織莉子はつぶやいた。「ごめんなさい、御剣颯太。あなたに……私の救世を託します」