「……どーも。で、どんな御用で?」 「この間の『虚淵』がどうとかという、ジョークについて。 あれ、元はニーチェですね? 『wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein.(汝が久しく深淵を見入るとき、深淵もまた汝を見入るのである)』。 ……ところで、『虚淵』って何ですか?」 「日本に数多住まう八百万の神々の中でも、最も邪悪な神の一人で、恐怖と絶望と絶叫の物語を描かせたら、右に出る者のない筆神様です。 信者を公言すると色々と人格的なナニかをSUN(正気度)チェックされる程に邪悪な存在ですが、その魔性に魅入られて密かに信仰する者も少なくありません」
……実は、俺もその一人だったりします。というのは内緒だ。
「……ま、まあ、いいでしょう。 重要なのはその前の一節。『Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird.(怪物と戦う者は、みずからも怪物とならぬように心せよ)』 あの場面で、私たち、魔法少女に投げかけるには、あまりにも重い意味の一言です。だから、あなたはオブラートに包んで次の一節を、更にパロディにして弄って口にした。違いますか?」 「……頭いいですね、原語でサラッと出るなんて。尊敬しますよ」 「からかわないでください。 あの状況で、あなたのような言葉をとっさに出せるセンスは、私にはありません」 「最強無敵の『正義の味方』からすりゃ、俺はタダの小悪党ですからね。 生き意地汚く悪足掻いてきたんで、余計な小知恵も回るってダケの話ですよ。で、本題は何ですか?」