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No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
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[27923] 幕間:「御剣家の人々」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/16 10:25
※参考:Fate/hollow ataraxia『間桐家の人々』/他、諸々

 ――唐突な疑問なのですが。
 佐倉杏子と斜太チカという二人の不良魔法少女は、身寄りのない他の魔法少女の面倒を見ながら、一体、どうやって日々の生活を賄っているのでしょうか?



「というか……二人とも、颯太さんの世話にもならず、普段、何をして食べているのですか? 二人で窃盗とか?」
「あはははは。アポ無しでやって来るなり、『神の家』で暮らす人たちに随分な質問をするね、このお客さんは。
 以前、世話んなって無けりゃ、縛り首にしてる所だよ」

 にっこりと笑いながら、教会に居たチカさんが、額にカンシャク筋を浮かべて破顔一笑。
 普段、颯太さんと組まない時に、色々と組んでいる相方の佐倉杏子は、どっかに行ってるらしい。
 ……しかし、失言だった。『悪の道』から更生した魔法少女なだけに、そういう部分には敏感だ。

「……で、本当のところは何なのさ? そんなどうでもいい事、聞きに来たワケじゃ無いだろ?」
「どうでも良くはありません。一応、魔法少女の先輩として、何か無茶をしていないか心配になっただけです」

 何しろ、佐倉杏子よりも『悪の道』に精通した彼女の事である。
 颯太さんや私が見ていない所で、何をしているかすらも分からないというのは、正直不安なのだ。

「ああ、そういう事。颯太と一緒で、相変わらず余分な所にだけは気が回るね」

 はっ、とシニカルな笑いを浮かべるチカさん。

「別に、あたしも杏子も、もう悪い事はしちゃいないよ。……『いい事』とも言えないけど」
「どんな?」
「麻薬や銃なんかの密売や違法取引の現場に踏み込んで、悪さしてる連中とっちめるついでに、現金だけ『チョロッと』……ね」

 頭痛がした。
 ……確かに、颯太さん……いや、その師匠である西方慶二郎氏が、やっていた事に限りなく近い。
 というか、話を聞く限り、そのまんまだ。

 『俺のお師匠様にソックリだ』などと言う、颯太さんの言葉が、脳裏をよぎった。

「そ、その……危険ではありませんか、颯太さんと組んでる時なら兎も角」
「あ? あー、大丈夫大丈夫。あーいう連中のあーいう取引って、絶対表沙汰に出来ないし。
 ヤクザだって、一応、シャブは御法度っていう掟というか『建前』はあるし。……あくまで『建前』だけどね。
 それに……」

 と……その時だった。

 キキキーッ、という車の停車する音。

 何事かと思い、教会から出ると、教会の前まで続く裏道からの車道を通って、黒塗りの車が複数台、止まっていた。

「あの、何か御用で……」

 私が声をかけようとした次の瞬間……バンッ、という音と共に、車から、問答無用で一発。
 教会の建物に向かって、威嚇射撃が繰り出された。

「っ!!」
『ヘィ! ミスター・リー! ここはあんたらの国じゃないんだ! 気軽に銃を振りまわすのは止めてくれ!!
 それに、ここは、あんたの知るような街じゃ無いと、何度も……』
『海老原……ガキンチョに舐められちゃ、たまんねぇんだよ。ココに犯人が逃げて行ったのは分かってんだ。
 ちょいと調べたが、廃教会に身寄りのないガキ共が集まってるダケだろ? 全員締め上げて人相聞きだした後に、まとめて山の中に埋めちまえば、誰にも分かりゃしねぇよ』

 英語で叫ぶヤクザらしき人も意に介さず、東洋系の外国人……マフィアと思しき人たちは、銃を構えて行く。
 っ……何て、人たちっ!!

『ちょっとあなた方!! 一体何なんなんですか! ここは教会ですよ!』
『あー? 英語話せるのか、お嬢ちゃん。そらご愁傷様だったな。まあ不幸な事故って奴だ。
 一緒に中のガキ共と埋めてやるから……』

 っ!! この……この人たちは……

 何と無く。
 颯太さんが『ドブさらい』をチカさんと続ける理由が、分かった気がした。

 ……こいつら……魔獣よりタチが悪過ぎる!!

『おい、なんて言ってんだ?』
『どうも、あなたたちの『ドブさらい』の後始末みたいですよ……』

 そう言って、チカさんに、彼らが話してた内容を、テレパシーで伝え……彼女の感情も、一気に沸点に達した。
 そして……
 
「ふっざけないでよ! 事故もヘッタクレもあるもんですかっ!! このクサレ××××!!」
「その通りだ、この小便野郎共!! 『神の家』に鉛玉ブチクレといて、タダで帰れると思ってんじゃネェだろうなぁっ!!」

 変身、そして発砲!

 私とチカさんのマスケット銃……ライフルと短銃の差はあれど、それがマフィアやヤクザ屋さんを次々と撃ち抜く。
 ……一応、私も、チカさんも『死人は出しては居ない』。無論、颯太さんが言う所の『死んだ方がマシ』というレベルにしか、手加減はしていないが。

「!”#$#%&%&’’((())??」
「)’&&$%#”!!!」
「!”#$&&’(’()))」

 私には聞き取れない、恐らくは……何か、中国語か韓国語あたりだろうか?
 そういった東洋系のイントネーションの叫びが、教会前で絶叫となって木霊する。
 ……いい気味。

 更に……

「アネさん! 巴マミ! 何だか知らないけど、加勢に来たよ!! っていうか、あたしン家に何て事しやがるこいつら!」
「だから人前でアネさんとか言うな杏子! 気にしてんだぞチクショウ!!」

 教会に帰って来た佐倉杏子まで加わった所で、戦況は完全にこちらに傾いた。
 そのまま、自動車を叩き壊し、森に逃げ込んだヤクザたちを叩きのめして行く。

「もしかして斜太の……チカか! すまん、手違いなんだ、銃を収めてくれ!」

 ヤクザ屋さんが叫ぶも、時すでに遅し。

「ふざけんじゃねぇぞ、このタコ共がぁぁあぁぁぁぁっ!!」

 巨大な鎖で、あたりを薙ぎ払うチカさん。

「ああ、神様……やっぱダメだ……ヤバいもん怒らせてもうた」

 嘆くヤクザ屋さん。
 そして、更に更に……。

「……おいおいおいおい、チカぁ? 『教会で酒を飲むな』って何度言えば分かるんだ?
 みんなが真似たらどうすんだ!?」
『颯太さん!?』

 気がつくと、空の一升瓶を手にした颯太さんが、教会の中から沙紀ちゃんと一緒にやって来た。

「あ、あの……き、聞いてました?」
「何をさ?
 いや、チカに頼まれた荷物届けに、佐倉杏子(あいつ)と顔合わせないように裏口の道から回って来た所なんだが……まあ、話は後だ。
 沙紀」
「うん」

 そう言って、沙紀ちゃんと一緒になって『変身』する颯太さん。

「とりあえず、魔法少女の皆さんや。
 この不信人者どもを『ベテシメシ』の連中と同じ目に遭わせてやる必要がありそうだと思うんだが……どうヨ?」
「同感だぜ」
「アタリメェよ!」
「是非、そうしましょう!」

 そして……彼らは全員、魔法少女と魔法少年の四人(+α)の手によって、颯太さんが言う所の『不幸に』なっていった。



「やれやれ、後始末の手間ばっか増えて行くなぁ……ココの修繕費用は誰持ちだよ、オイ?」

 遠い目をしながらボヤく颯太さん。

 結局、全員、死なない程度に……というより、むしろ『生きているダケ』という状態まで痛めつけた後。
 鉛玉でボコボコになった教会から、ひょっこりと顔をのぞかせてくる、後輩たち。

「あっ、あの……何が……」
「一体……」
「こ、これ……何事ですか?」

 成田ゆかり、臼井ひみか、津田八千代、船橋志津、千歳ゆま……この教会で寝泊まりしている『帰る家の無い魔法少女たち』が、ようやっと恐る恐る顔を出してきた。

「何でも無ぇよ」
「そーそー、なんか、いきなり喧嘩売ってきたんだよ」
「危ないから、こーいうのは俺たちが相手するから。絶対関わっちゃダメだぞ?」

 本当は鬼より怖い、三人の魔法少女&魔法少年たちが、皆に微笑む。

「さ。佐倉さんも一緒に、みんなで中でお茶にしましょう。
 ……颯太さん、チカさん『後は専門家コンビにお任せします』!」
『了解!』

 『好きにして良し』という許可のもと、ギラリと無駄に頼もしい、鮫のような二人の笑顔。

 ……ああ、きっと。
 彼ら二人が居る限り、この見滝原で、こういう『悪い大人たち』は、みんな『絶対幸せにはなれない』んだろうなー。
 などと、漠然とそんな事を思いながら、私はみんなと一緒にお茶にするため、教会に入って行きました。

 ……ちなみに、沙紀ちゃんがその中に居ないのに気付いたのは、暫く後の事でした……



『たーだいまー♪』

 教会の扉を開けて帰って来た、沙紀ちゃんも含めた三人を迎えた私は……その、軽く紅茶を吹いてしまいました。

「早っ……二時間も経ってませんよ?」

 驚愕する私に、三人が笑う。

「いや、何。沙紀ちゃんが読心術使ってくれたから、拷も……もとい『尋問』の手間が省けて早い早い♪」
「ほーんと、馬鹿だよねー。黙ってても無駄なのに……外国語の聞き取りは、手間だったけど、お兄ちゃんが居たから翻訳してもらったし」

 そういえば颯太さん、何でか知らないけど、私以上のマルチリンガルでした。
 流石、ザ・ワン……もとい『ザ・ワン候補生』って所でしょうか。

「まっ、以前、佐倉杏子とチカの奴と、現場で鉢合わせになった一件の後始末だしな……
 ……っていうかな、俺と沙紀で動いてると思ったら、現場にお前ら二人が居たのは、本当に驚いたんだからな?
 お陰で計算狂って、こんな事になっちまったんだから……今度『やる時は』俺を混ぜるか、せめてやる前に報告はしろよ?」
「へいへい、分かったよ。何度もしつこいよ、あんたは」

 そう言って、チカさんはボリボリと頭を掻いた。

「あ、あの……颯太さん、チカさん。
 あの人たち……どうなったんですか?」

 教会に寝泊まりしてる魔法少女の一人……臼井ひみかの質問に、二人は笑いながら。

「ん? 何でも無いよ。世は全て事も無し」
「そうそう。『因果応報』って言葉を体現してもらっただけ♪」
「……は、はぁ……」

 うん、きっと……
 あの外国マフィアの人たちは、ヤクザ屋さん含めて、絶対『とても不幸になった』んだろうなぁ……と。
 少なくとも、私はその結末を、詳しくは聞こうとも思わないし、聞きたくも無いのですが、それだけはしっかりと確信出来ました。

 ……いえ、正直な話、この二人はとても『頼もしすぎて』時々ホントに怖かったりするので……はい。
 以前、『私を菩薩に、仁王が二人』と颯太さんが言ってくださいましたが、どちらかというと『地獄の閻魔様が二人』に思えてしまうのは、私だけでしょうか?

 ……もっとシッカリしないとなぁ……私も。

 と。

「あれ、俺にだ」

 ケータイの音が鳴り、颯太さんが電話に出る。

「はい、もしもし? あ、藤森先生……え? ……はあ? いや、俺でよければ構いませんが……ええ、でも、いいんですか、俺なんかが?
 ……はぁ、そこまで言ってくださるなら、是非も無いんですが……はい、じゃあ、今から伺いますけど、そのー……バイク、使っていいですか? 今、少し妹と買い物ついでに遠出してまして、場所的に電車とかバスだと、間に合わないんですけど。
 ええ、ええ……分かりました。じゃあ、妹置いて、今から学校のほうに、直接伺います」

 そう言って、颯太さんが、無駄に頑丈そうな愛用のケータイを閉じた。

「誰からだい? 颯太」
「ああ? ほら、毎年、学校の先生やお偉いさん集めて、パーティやるってんで、そこで料理研究会が腕前披露してるじゃん?
 アレに顧問の藤森先生直々のご指名で、助っ人として呼ばれた。一人、緊急の法事で来れなくなって、テンテコマイだそうだ」
「なんだ、また助っ人かい? 颯太……程々にしなよ」

 人のいい颯太さんに、あきれ顔のチカさん。

 何でも……聞くところによると、颯太さんは複数の部活から、いざという時のピンチヒッターとして引っ張りダコらしい。
 中には、本格的に入部してほしいと頼まれたりもしてるそうだが、本人は『俺、茶道部なんで』と、頑として拒否しているそうな。
 ちなみに、茶道部の部員は、颯太さん含めて一年と二年は三人しか居ないそうで、来年以降、同好会に格下げされるのは、ほぼ確定だとか。

 それはともかく……

「んじゃ行ってくるワ。先生公認っつーか『黙認』で、バイクの使用許可も下りた事だしな。
 ……沙紀の面倒、よろしくな!」
「あいよー」
「分かりました」
「行ってらっしゃーい!」

 そして、バイクの音と共に、颯太さんは立ち去っていきました。



「……そういえばさー、颯太の奴、最近、またエロ本積み増してるみたいなんだよ」

 お茶会がお開きになって、家に帰る途中。
 何故か同道してるチカさんの言葉に、私は耳を傾けた。

「え? あれ、全部処分したとかって話じゃ」
「甘いよ。
 エロ本っつー男のエントロピー(無秩序度)ってのは、『誰か』で発散しない限り、無限に増え続けるように出来てんのさ。
 そいつは颯太だって例外じゃない。
 そのくせ、人目につかないように処分するには、色々手間がかかる代物ときてる」
「はぁ……そんなモノ、なのでしょうか?」 
「そういうモノなのさ。
 そして、それを知りながらも、積み上げて行っちまうのが『男のサガ』って奴らしいよ?
 ……知り合いのオッサンに聞いたんだけど、さ」

 何というか。
 男性の人と、そういう風にザックバランな会話が出来るチカさんの人柄は、物凄く貴重だと思う。
 ……色々な意味で。

「だからさ、もういっぺん見に行かないか、颯太のエロ本。今度はどんなの買ってきたか、興味無ぇか?」
「ちょっ……それは、やめておいたほうが」

 あの騒ぎの後。
 『右腕の治療』と称して、病院に入院してしまった颯太さんの態度は、もうその……なんというか、いたたまれないというか。
 全員で幾ら謝っても、ふてくされて顔も見せてくれず、結局、退院するまでロクに挨拶すらしてくれませんでした。

「いいえ、私も賛成します!」

 そこで、更に沙紀ちゃんまでもが追い打ちをかけに来た。

「ちょっ、沙紀ちゃん!?」
「お兄ちゃん、私がピーマン嫌いなの知ってて、こないだお徳用ピーマンの大袋入りの奴買ってきたんだよ?
 もーね、何て言うか……これは魔法少女に対する、魔法少年の許されざる反逆行為だと思うの。
 っていうわけで、もういっぺん、死ぬがよい♪」
「いや、それは……単に沙紀ちゃんの好き嫌いが多いだけでは?」

 颯太さんの料理は、普通に……というか、かなり美味しいし、アレルギーや宗教上の理由があれば避けてくれるが、食わず嫌いや好き嫌いに関しては、かなり容赦が無い。
 実際、何度かチカさんや佐倉さんの二人が料理出来ない時に、教会で鍋を振るっていたりするみたいだが、あそこで暮らす全員に好評で、チカさん曰く『みんなの食べ物の好き嫌いが減った』という高評価を得ている。
 そういう意味で、沙紀ちゃんのソレは、100%ワガママの部類に入る態度だ。

「いーんだもーんだ。魔法少女の相棒(マスコット)たる魔法少年が、魔法少女に逆らった結果どんな目に遭うか。
 今度こそイッパツ痛い目見せてやるんだから」
「そう言って、いつも痛い目見てるの、沙紀ちゃんじゃありません?」

 トムとジェリーよろしく、仲は良くても兄妹喧嘩の絶えない二人だが、大体は颯太さんの勝利で終わるのが常だ。
 何しろ、純粋な腕力や戦闘技術で勝てるわけも無く。魔力量も魔法の相性も颯太さんのほうが上。ついでに、喧嘩の内容は、大体が沙紀ちゃんのワガママを颯太さんが叱る事が発端だ。

 言うなれば、もう沙紀ちゃんのほうが『闘う前から負けている』状態である。

 ……まあ、あんなパーフェクトなお兄ちゃんに頭抑えられては、それはそれで面白くは無いだろうけど……

「いいんだもん!
 あんな恨みこんな恨みその他諸々を含めて、纏めて倍返しにしてやるんだから。
 御剣の家の人間はね、恩には恩で、恨みには恨みで報いるのよ!?」
「……逆恨みもいい所だと思うけど……色々な意味で」

 むしろ、あれだけ実の兄に生活面全て世話になっておいて逆恨みするあたりが、沙紀ちゃんまだまだ子供だよなぁ、と。

「むーっ! マミお姉ちゃんは、御剣家の二人の食卓を知らないから、そんな事が言えるんだよ!」
「……と、言うと?」
「何て言うかね、こう……絶対零度? 視線が刺さる、みたいな?
 サラダ残すと文句言うし、焼き魚食べる時にグチャグチャにしちゃうとガッカリされるし、後片付け手伝わないと文句言うし」
「それは、沙紀ちゃんが悪いでしょう? 少なくとも、食べた後の洗い物くらいはするのが普通でしょうに?」

 何だかんだと、私やチカさんその他の魔法少女が来た時には、話題が持たないので接客を沙紀ちゃんに任せて、洗い場に引き籠ってしまう颯太さんだが。
 その必要が無い二人だけならば、それは手伝うのが筋というモノである。

「マミお姉ちゃんは、あの空気を知らないから言えるんだよ……みんなが来た時はもう無駄に団欒っていうかアットホームなんだけど、二人だけになると、もうなんていうか、チンしないレトルトのほうがマシって感じの氷点下っぷりっていうか……あ、そうだ」

 ぽんっ、と手を打つ沙紀ちゃん。

「お兄ちゃん、日記もつけてるみたいなんだ。ちょっと見かけたの。
 でも、自室を漁っても無い所を見ると、Hな本と一緒に金庫の中に収納してあると思うんだ」
「沙紀ちゃん。その……」

 いくら兄妹とはいえ、兄の部屋を無断で漁るとか、どうかと思う。

「だって、弱みの一つ二つ握らないと、お兄ちゃんにいいように振りまわされっぱなしだし。
 それに、私の部屋だって、勝手に漁るし」
「それは沙紀ちゃんが自分で掃除をしないからじゃないかしら? ポテトチップの食べかすとか、そのまんまだし」
「いいの! とにかく、一発妹として、ガツンと痛い目に遭わせてやらなきゃいけないんだから。
 ……ってわけで、マミお姉ちゃんも、一緒に行こ!」
「えっ! ちょっ……」

 がしっ、と確保されてしまう。

「それに、お兄ちゃんの日記を見れば、魔法少年のお兄ちゃんが、日ごろ私たち魔法少女を、どー思ってるか分かるじゃない?」
「っ……それは……」
「そうだよなぁ……あたしは前にちゃんと告白したし、あんただって酒飲んだ勢いで告白したんだし?」

 そうだ。
 チカさんに勧められた『アルコールで酔った勢いで告白作戦』の結果も、うやむやで分かって無いのである。
 というか、あの人、チカさんにしても私にしても、何ら態度を変えて無いのだ。

 ……大体、朴念仁にも程が無さ過ぎやしないだろうか? というか、本当に伝わっているのだろうか? 魔法少女の気持ちとか。
 確かに戦闘者としては超一流ではあっても、恋愛対象の異性としては、かなりダメダメ過ぎである。あの人。

 いや、まさか……ひょっとして、チカさんと両天秤にかけて、二股とかされていたりとかしていないだろうか?
 颯太さんに限って、そんなことは無い……とは、思うのだが……

「そ、そうね……行きましょうか」

 とりあえず、乙女の重大事の結果を、誤魔化し続けてる魔法少年に対して、これは正当な調査だと自分に言い聞かせつつ。
 『日記を見る』などという蛮行も、あの優しい颯太さんならば、きっと大目に見てくれる……はず、です、よ、ねぇ?



 御剣家の地下に繋がる隠し扉の前。
 そこに立つ沙紀ちゃんの表情は芳しく無い。
 隠し扉そのものを開ける鍵は、沙紀ちゃんも持ってる家の鍵と一緒なのだが……

「あ、一ついい忘れたんだけど……」
「何か?」

 沈黙を破って、沙紀ちゃんが口にした言葉。

「あの事件以降、お兄ちゃん、センサーだとか何だとか、色々設置したみたい」
「ああ、あたしの能力じゃ、『存在感を消す』事は出来ても『機械の目』はごまかせないし、足音や体温や臭いなんかの存在そのものを完全に隠せるワケじゃないからな。
 幸い、時間的に、例のパーティが終わるまで、あいつはギャルソンしているハズだ。となれば、あと一時間は猶予があるハズなんだ」

 はい? ……ちょっと待った。
 つまり、忌引きした部員というのは、まさか……

「我が計画に抜かり無し……と言いたい所なんだけど、相手はあの颯太だ」
「そういう事。だから、共犯がマミお姉ちゃんならば、うっかりバレたとしても、強く出る事は出来ないんじゃないかなーって。
 丁度よかったし」
「ちょっ、ちょっとぉぉぉぉぉっ!!」

 だが、この二人は全然、これっぽっちも分かって無い。
 普段は温厚で優しい颯太さんは、実際のところ相手が誰であろうが……それこそ、総理大臣だろうが国連事務総長だろうが天皇陛下だろうがインキュベーターだろうが……そして愛する妹だろうが恩人の私だろうが、怒る時は断固として怒る人であり、その鉄槌に一切の容赦は無い。
 もしかして……いや、もしかしなくても、この場合、この二人と行動を共にしてしまった事は、取り返しのつかない過ちだったのでは無いでしょぉか!?

「幸い、この三人全員、応用力に長けた魔法を幾つも持っている……となれば」
「お兄ちゃんの仕掛けた『機械の目』を誤魔化しながら、潜入して調査を完了すると言う事も可能なわけで」
「ちょっ、待った。私は帰ります!」
「今更遅い!」

 そう言って、沙紀ちゃんは隠し扉のカギ穴にキーを入れて、扉を開いた。



「……って、あれ? 何か……今までと殆ど変って無いよぉな……」

 沙紀ちゃんの『全願望の図書館(オールウィッシュ・ライブラリー)』から、色んな能力を引き出して、色んなものを誤魔化しながら。
 それなりに三人ひと固まりになって慎重に進んで行くのですが、やはり……

「ちぇっ、なんだ拍子抜けだな……もっと早く忍び込むべきだったか?」
「ちょっ……多分、颯太さんにバレてますよ!? 鍵穴を開けた段階で、普通は通報とか行きそうだと思いません?」
「だとしても、あいつは基本、生真面目だ。ギャルソンの仕事を放棄してまで、こっちに来るとは思えない。
 多分、見えない所に監視装置がたくさんついてるから、それを利用して犯人特定して、後で問い詰める事を考えるだろうさ。
 その間に、ホトボリ冷めるまで逃げ続けてりゃいい」
「……チカさん、あなたに必要なのは、用心深さだとか想像力だとか、そういったモノだと思います」

 時間が無いのだ。
 少なくとも、沙紀ちゃんがこの部屋に踏み込んだ事そのものは、颯太さんにはバレているだろう。
 あとは、颯太さんが帰って来る前に、御剣家から完全に撤退して、私のアリバイを作らねばならない。

「んじゃ、新しいパスコードを入れないとね……えっと『SARABATIKYUUYO』と……」
「ちょ、どこから二層目の新しいパスコードを!?」
「ふっふっふー。サーチ系の魔法って、色々便利だよねー」

 もー、沙紀ちゃん自身、他の魔法少女からコピーした能力で、ナンテモアリである。
 直接的な戦闘面は相変わらず苦手とはいえ、間接的な補助、支援、回復系の魔法はどんどん長けて行く……ほんと、怖い子。

 ピーッ、という音と共に棚がズレて、二層目に侵入し……

『……うわぁ……』

 そこにあったのは……一瞬、全員が呆然となってしまうほど、非現実的な量のお札の山。
 そして……

「このへんかな? 本棚があるし。って……なんだか、変な本まで置いてあるなぁ……」

 ……………『世界の料理・パプワ島サバイバル編』
 違う。
 ……………『簡単三秒ピッキング』
 違う。
 ……………『誰にも言えない! あなたのストレス発散法!』
 違う。
 ……………『魔法少年トラップ伝説! 魔法少女はこうやって狩れ!』
 違う。
 ……………『魁!!世紀末クッキング烈伝! 衛宮ケンシロウVS剣(セイバー)桃太郎。凶羅第四食卓編』
 何か激しく違う。

 と……

「なんだ、颯太の奴、金髪の巨乳かよ、今度は……あ、巫女さんまである。
 ……おっぱい星人だとは思ってたけど、大きければ何でもいいのか? ひょっとして?」

 などと、颯太さんの秘蔵本を漁るチカさん。

 札束満載の金庫の中で、他人(しかも男性)のプライベートな秘密を漁る魔法少女三人……
 ……は、ははははは。
 もしこの現場を押さえられたら、私、正義の魔法少女なんて、もう一生名乗れないかも。

「チカさん! そんなモノより、もっと重要なのがあるでしょう?」
「え?」
「日記! 颯太さんの日記!」
「お、おお、そうだった、忘れてた……えっと、このへんかな?」

 無数のノートブックが詰め込まれてる棚から、一冊を引っ張り出し……

「「「―――――――はい?」」」

 全員の表情が凍りつく。そこにあったのは……

 『ジャプニカ暗殺帳 ふくしゅう 御剣沙紀編』と銘打たれたノートブック。
 って……

「っっっ!!!? こっ、このノートはっ!」
「ま、まさか……書いたとおりに魔法少女が暗殺されていく、噂のノートでででででっ、デスノゥーッ!!」

 恐怖のあまり、語尾がお嬢様口調になっちゃったチカさん。

「い、いや、それとはびみょーに違う気が……でも、何か、どこかで見覚えがあるような、このシリーズと展開」

 ふと、その一角を占めるノートをもう一冊取り出して見る。
 ……そこにはやはり、『ジャプニカ暗殺帳 ふくしゅう 斜太チカ編』と、銘打たれている。

「ちょ、ちょっと二冊とも見せろ。見たくないけど、見ないでいる方が、もっと怖い!」
「同感。激しく同感!」
「え、ええ……そうですね」

 ビクビクと震えながら、三人揃ってページをめくる。





 ○月○日 晴れ ☆

 今日の出来事。
 沙紀の奴が、チカと一緒になって真夜中に帰って来る。しかも少し酒臭い。
 ……今度から、夕食を作る前に、予め連絡を入れといてもらおう。

 本日の料理:適当にデッチアゲた酢豚、中華風卵スープ、水菜のサラダ、ご飯
 デザート:練り切りで作った紫陽花



 ○月×日 曇り ☆

 沙紀の奴が洗濯物を脱ぎ散らかしていた。
 ……今度から、最低限、洗濯かごの中に入れるように躾けておこう。

 本日の料理:ハンバーグ&付け合わせのニンジンやインゲンのソテー、味噌汁、ご飯
 デザート:竹ヨウカン



 ○月▽日 晴れ ☆☆

 沙紀の奴が、生活費から大目に小遣いをくすねていた。
 尻を叩いて躾けるが、反省の色が無い……本当にどうしたものやら。

 本日の料理:チンジャオロース、中華風卵スープ、ご飯。
 デザート:カルカン。





「……沙紀ちゃん?」

 じと目で睨む。

「えっあ……いや、そのー……」
「颯太さんが怒るのは当たり前です!
 そもそも、沙紀ちゃん自身の生活態度に、全ての原因があったんじゃないですか!」
「あ、あううう……」
「流石に、情状酌量の余地はありません! 今後、颯太さんと一緒に、家の事を手伝う事。
 ……家事が下手でも何でも、努力を認めない人じゃないんだから、せめて協力しようと言う姿勢くらいは見せなさい?」
「……はぁい……」

 流石に、しゅん、となる沙紀ちゃん。
 だが……

「チカ……さん?」

 ふと気付くと、幽霊でも見たような顔で、チカさんはページをめくり続けてる。

「何? チカさん、脅かしっこは無しですよ?」
「いっ……いや……その」

 『御剣沙紀編』とは違い、『斜太チカ編』を見てみると……





 ○月×日 曇り ☆☆☆

 チカの奴が、ホスト二人を鎖で繋いでバイクで引き回し、ヤクザと揉める。
 ……もう慣れたとはいえ、程々にしないと、いつか命に関わるぞ、まったく。



 ○月☆日 晴れ ☆☆☆☆

 チカの奴が、教会で佐倉杏子やその他の魔法少女と一緒になって、酒飲んで暴れてた。
 ベベレケになった魔法少女たちの狂乱の宴の後始末……とりあえず、紹介した身として、修繕費用くらいは置いてってやるか。
 ……しかし、ホント。何度、他人に酒を飲ますなと言えば、分かってもらえるのだろうか?



 ○月○日 晴れ ☆☆☆☆

 チカの奴が沙紀を連れて帰って来る。
 ……どうも沙紀に酒飲ませたらしい。
 タダでさえ沙紀の発育悪い(特に胸!)っつーのに、酒飲ませてどーするよ!?



 ○月×日 雨 ☆☆☆☆☆☆

 ドシャ降りの大雨なためバイクが使えず、足を使って効率悪く狩るよりも、今日はお休みにしようと判断。
 ……したはいいのだが、何故、俺の家で宴会(しかも佐倉杏子込み!)になる!?
 挙句、巴さんまでビールとフィッシュ&チップスに手を伸ばし始めるし!
 ……あああああ、なんかヤな予感しかしねぇ……

 追記:……予感は的中した。これ以上は語りたく無い。






「…………………」
「…………………」
「…………………」

 全員、何かに急かされるように二冊のノートのページをめくって行く。

 危険だ。
 この先は見るべきじゃない。見てはいけない。
 というか、今すぐこの場を放棄して逃げ出さなくてはいけないと思うのですが、ページをめくる手が止まりませーん!!





 ○月×日 晴れ ☆☆

 沙紀の奴が、オムライスをまるまる残す。
 何故と問い詰めてると、刻んで入れたピーマンが嫌いだとかいう返事しか返してこない。
 ……マジでどーすりゃいいんだよ?



 ○月△日 曇り ☆☆☆

 沙紀の奴が、夜中にラジオをジャカジャカと鳴らしまくる。
 何事かと思って起きてみると、深夜放送のリスナーだったらしい。
 『好きな曲なので、ヘッドホンじゃなくて生音で聞きたかった』だと?
 ……拳骨ブチくれて、ラジオごと沈黙させる。



 ○月☆日 晴れ ☆☆☆☆

 沙紀の奴が、せっかく作ったチンジャオロースを全部捨てやがった。
 大喧嘩の末に、全部生ごみからサルベージした奴を、漏斗噛ませて流し込んで食わせる。
 ……こいつの好き嫌い、とくにピーマン関係は異常だ。まったく!!



 ○月▲日 雨 ☆☆

 ピーマンの肉詰めを、案の定肉だけ喰ってポイしやがる。
 むかついたので、大きいピーマンと小さいピーマンを二重にして、小さい方を肉の中に仕込んで食わせる。
 ……案の定、目を白黒させて悶絶してた。ざまぁ。



 ○月▼日 晴れ ☆☆☆☆☆☆

 せっかく作った晩飯を、ちょっと部活で先生に頼まれ物をして学校に呼び出された隙に、沙紀とチカの奴が、俺に黙って全部平らげやがった。

 残ってるのは、非常食代わりの米軍レーションだけ。クソ不味い事で定評のある米軍レーション……嗚呼、せめて自衛隊の戦闘糧食が残ってれば、なぁ。
 缶飯のタクアンとか赤飯とか、全部こいつらがツマミだ何だと喰っちまったしなぁ。

 というか、魔法少女って、真剣にナニ考えて生きてんだ!?
 ……ちょっと、態度を改めるべきかもしれない。



 ○月○日 晴れ ☆×∞

 ……隠し金庫の秘蔵本を漁られる……もう何も語りたくない。
 とりあえず次は無い。最後通告だという事にしておこう。



 ○月×日 晴れ ☆☆☆☆☆☆☆☆

 退院してからと言うもの、大人しくなっていたハズのチカの奴が、早速トラブルを持ちこんでくれた。
 ……なんか、佐倉杏子と組んで、俺に黙って悪党の上前ハネて、生活賄っていたらしい。現場で遭遇してビックリだ。
 いや、しかしなぁ……悪いとは言わんし、むしろ推奨だが、手管の雑さは何とかならんのか二人とも!?

 お陰で『後始末』が大変だよ、チクショウ! 幾ら俺が魔法少女の相棒(マスコット)だからって、限度があるぞ!



 ○月○日 晴れ ☆☆☆☆☆

 最近、沙紀の奴が時間通りに帰って来る。……いい事だ。
 相変わらずピーマンを残す。
 ……許せない。



 ○月○日 晴れ ☆☆☆☆☆☆☆

 チカの奴が、相変わらず酒を飲んでる。
 ……許せない。



 ○月○日 曇り ☆☆☆☆☆☆

 沙紀の奴が、ごちそうさまを言い忘れる。
 ……許せない。



 ○月○日 晴れ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 チカの奴が、また他人に酒を飲まそうとしてる
 ……許せない。



 ○月×日 晴れ ☆☆☆☆☆☆☆☆

 相変わらず沙紀がサラダを残す。
 ……許せない。


 今日のチカ(許せない)
 今日の沙紀(許せない)
 今日のチカ(許せない)
 今日の沙紀(許せない)
 今日のチカ(許せない)
 今日の沙紀(許せない)

 ………………




「――前提として。
 お二人の生活態度その他諸々が、全ての元凶だと思われるのですが……」

 ノートを閉じて、元の場所に戻し、私は深呼吸をひとつ。

「なっ、なんだよ……巴の?」
「マミお姉ちゃん?」

 真剣な表情で、私は二人を見て、断言。

「『颯太さんが怖い』という沙紀ちゃんは正しいです! もう私にできる事なんてありません!!」
「ちょっ! 汚いぞ巴の!? ここまで来たらアンタも仲間だ!」
「お願い、マミお姉ちゃん! 一緒にお兄ちゃんをなだめる方法を考えてぇぇぇぇぇぇ!」
「ごめんなさい。幾ら魔法少女でも私でも、無理なモノは無理です!
 あと、御剣家の事に、部外者が口出しするのもどうかと思うので……あら?」

 次の瞬間……全員が魔法少女から『普段の姿』に戻る。
 そして……

 ヴィーッ、ヴィーッ、ヴィーッ!!

 鳴り響く『各種センサーに引っかかったサイレンの音』。
 ま、まさか……

「げっ……も、もしかして……」
「お兄ちゃんの……『魔法否定の結界っ!?』」
「そっ……そうか、この中の本を、颯太さん以外が手に取った瞬間、結界が起動するように、トリガーが仕込まれてたんだわ!」

 更に、『ガション!』と、金庫の一層目に続く隠し扉がスライドし、封鎖。
 魔力も魔法も使えない状況下で、多層型の金庫の底に閉じ込められる。……チェック・メイトだ。

『ふ……ふふふふふふふふ、『二度と入るな』と言っておいたトップシークレットのスペースに、再度、無断侵入するなんて。
 幾ら魔法少年が魔法少女の相棒(マスコット)だからって……許せないなぁ……生き恥だなぁ……幾ら親友や恩人や妹の魔法少女でも、ちょーっと見過ごせないなぁ~♪』

 デンジャー、デンジャー。
 何か、前の世界でマミった時の話よりも、恐ろしい予感がもうバリバリと……

「はっ、颯太!? 一体、どこに!?」
「チカさん、こんな所にマイクとテレビが!」

 ザーッ、と砂嵐だけ映してたと思ったTVの画像は、ケータイカメラからだろうか?
 画質の荒い画像を映すが、そこでギャルソンの服を着ている人物が誰であるかは、一目瞭然だ。
 もう、何と言うか……魔眼とかそういった能力なんじゃないかと思わせるほど、強烈な眼光がTV越しに睨みつけてくる。

『それにしても……沙紀やチカだけなら兎も角、巴さんまで『また』混ざってたとは、意外でした……』
「い、いえ、その、颯太さん!? これには色々と前置きがありまして!」
『悲しいです。正義の味方だって信じてたのに……信じてたのになぁ……』

 きゃーっ、聞いてないぃぃぃぃぃ!!!

『あのさあ、皆。幾ら俺が魔法少年で、魔法少女の相棒(マスコット)だとしても……男として、そーいうモノが隠されてるプライベートスペースに、二度と入らないでね、って……言っておいたよねぇ?』
「あ、いや、その、どうかなー、私、聞き逃しちゃったかもしれないなぁ~♪」

 精神的恐怖が勝ったのか、もうガクガクブルブルと震える沙紀ちゃん。

『うん、ノート見たなら分かるよね? 思い出したよね? 思い出してくれてたよね?
 ……ってぇか、忘れたとかヌカすつもりじゃねぇだろうな、ゴルァ?』

 かっ、完全に目つきがキレてる……ヤクザ屋さんたちを相手にしてる時の、『ドブさらい』してる時の颯太さんの目だぁぁぁぁぁ!

「う、うん。思い出したよ! お兄ちゃん!
 で、でも酷いんだよ、私は止めようって言ったのに、チカさんがまた秘蔵本調べようって聞かなくって~♪」
「ちょぉっ!! この期に及んで、斜太シールドはやめようよ、沙紀ちゃん! むしろこの場合は、日記を見たいっつった巴さんに非があるんじゃないのか!?」

 ちょっ、そこで巴シールドは無しでしょぉっ!? チカさんんんんんっ!!

「やめてください! これ以上私を巻き込まないでぇぇぇぇぇ!!
 もう何て言うか、怒られます! 私は素直に怒られますから、とりあえず沙紀ちゃんとチカさんは、今までの生活態度その他諸々の悪行の精算は、御自分でなさってください!
 私の罪は、好奇心に駆られて、また踏みこんでしまった事だけですから、これは本当に素直に謝罪しますし怒られますから!」
「そんな冷たい事言わないで! マミお姉ちゃん! 友達でしょぉ! むしろ、心の友じゃないのーっ!!」
「こっ、心の友と言われては無碍には出来ませんが、罪の所在は明らかです!
 私の罪は、好奇心に駆られて二人に唆されて踏みこんでしまった事だけです!
 もうこれは後で事情を説明した後、しっかり怒られますから、お二人ともキッチリと御自分の罪の精算は、御自分でなさってください!!
 颯太さんだって、二人が憎いわけじゃなくて、ちゃんと更生して欲しいだけですから、『命を取る』とか『死んだ方がましな状態にする』とかは、多分ありえませんから!」

 と……

『ええ、その通りです巴さん。命を取ったりなんてしませんし、俺はちゃーんと皆、真面目に暮らして欲しいなぁ、と思ってるだけです。
 じゃ、『全員』俺が帰るまでに覚悟決めておいてくださいね?』
「え゛? ちょっと……全員? 颯太さん、私にそんな罪咎には心当たりが……」
『あるんです。実は。
 ノートを収めてる棚、『今まで俺が組んだり関わってきた、魔法少女全員の素行が記録されていますから』……一度、全部見てみたらどうでしょうか?』
「は、颯太さん、それは暗殺帳というより、最早、『閻魔帳』では!?」

 私の叫びも意に介さず、ぶつっ、と画像が切れる。

「わ、私……颯太さんに、何しちゃったのかなぁ?」

 恐る恐る、暗殺帳……を、通り越した、閻魔帳の棚を探ってみる。

 案の定、出てきた……『ジャプニカ暗殺帳 ふくしゅう 巴マミ編』。
 
 ごくり……

 一ページ目を開ける。
 ……日付からして、ごく最近のモノのようだが……っ!!!!!





 ○月×日 晴れ ☆

 巴さんが、チカの馬鹿に教わったお酒……ビールと共に、フィッシュ&チップスをつまみながら。、我が家で飲み始める。
 ……まあ、正義の味方なんて、鬱憤溜まる事が多いんだろうしなぁ……大目に見るか。



 ○月○日 曇り ☆☆

 我が家に来ては、飲んで行く巴さん……いや、その、『好きだ』とか言われてもねぇ?
 正直、完全な『絡み酒』なのは勘弁してほしい。
 まあ、酔っ払いの戯言だろう。正義の味方だろうが剣の師匠だろうが、酒飲めば誰だって酔っ払いだ。



 ○月○日 晴れ ☆☆☆

 巴さんの酒量が増えてるのが、心配になる。チカの奴……だからあれほど他人に酒を教えるな、と!
 完全に爛れた目つきで、『どーしてこっち向いてくれないんですか!? 颯太さん』って言われても……ねぇ?
 自覚無いのかなぁ? 酒癖悪過ぎですよ、巴さん……



 ○月○日 晴れ ☆☆☆☆

 酔っぱらった巴さんに、危うくティロ・フィナーレされかける。
 ……正直、怖すぎる。勘弁してもらいたいんだけど……さて、どういえば分かってくれるのかなぁ?



 ○月×日 雨 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ドシャ降りの雨の中、狩りが中止になり、チカのせいで宴会となってしまった……いや、料理作るの手伝ってくれたのは嬉しいんだけど、お酒は……巴さん、お酒はぁぁああああああっ!!!

 ……この後どうなったかは、もう書きたくない。生き恥だ……



 ○月○日 晴れ ☆×∞

 ……隠し金庫の秘蔵本を漁られる……もう何も語りたくない。
 とりあえず次は無い。最後通告だという事にしておこう。





「うっ、うっ……嘘おおおおおおおっ!?」

 自分でも知らなかった自分の本性に、ビックリ。

「あー、そーいやアンタ、寂しいからなのかねぇ?
 酷く『絡む』んだよ。酒飲むと……どうやら、シラフで告白しないと颯太には効果無いみたいだね」
「そういえば、お兄ちゃんの師匠も、『いつも酔っぱらってる人』だったからなぁ……酔っ払いの言葉は、大体スルーしてもおかしくないかも。
 それに、好きとか言われても、こんな淡白な反応しか無い所を見ると……もしかして『異性として好意を持たれてる』なんて、想像もして無いんじゃない? チカさんの時みたいに?」
「ちょっ、チカさんんんんんっ!! 沙紀ちゃんんんんんっ!!」

 誤解ですぅぅぅぅぅっ!! と泣き叫んでも、時すでに遅し。
 というか……

「何でここまでしてるのに分かってくれないんですか、あの人は!
 朴念仁通り越してますよ! 何か間違ってません!?」
「それがお兄ちゃんなんだよ。
 多分、チカさんの時みたいに、今でも『誰か異性に好意を持たれる』って事を、想像もして無い……というか『出来ない』んだと思う。
 だから、はっきりと真正面から言わないと、伝わらないと思われ……」
「そ、そんな……幾ら『現実肯定、幻想否定』の魔力の持ち主だからって、そこまで『誰かの思い』とか『願い』とかに鈍感ですかぁっ!?」

 何と言うか、もう本当に……どうしたらいいんでしょうか!?

 ……というか……

「ふ、ふ……ふふふふふふふ、上条さんといい、颯太さんといい、どうしてこう男の人って……男の人って……」
「まっ、マミお姉ちゃん?」
「と、巴の!?」

 なんか自分でも『イイ笑顔』になっていくのが、止められません。

「いい機会です!
 乙女心が分からないくせに魔法少年なんてやってる大馬鹿者に、一発痛い目を見せましょう!!」
「え!?」
「ちょ! どうやって!?」
「決まってます! もう一度、病院送りにしてあげます!」



 三人が出入口近く、一か所に固まる。
 チカさんに渡して貰ったのは……催涙スプレー。そう、前回、颯太さんを倒した時と同じである。

 この金庫の出入り口は一か所。そこを通らねば、この部屋には入れない。
 幸い、三人×二丁=六丁分の催涙スプレーをチカさんは持っていた。ので、それをこっそり構えておく。

 ドシン、ドシン、ドシン!!

 大地を揺るがす、怒りの足音が近づいてくる。
 だが、問題は無い。

 この結界の中では、私たちも彼も、奇跡も魔法も関係ない存在だ。故に、現実兵器での奇襲が、一番有効な手段である。

 やがて……ピーッ、という音と共に、オープンになる扉。そして……

『くらえーっ!!』

 人影を確認した瞬間、全員一斉に催涙スプレーを噴射、というより乱射。
 扉の正面が、濛々と濃い催涙ガスの霧で覆われる。

「……やった?」
「よし!」

 だが、この時、私は忘れていた。
 ……そう。爆風に巻き込んで『倒した』と思った相手は、大概生きている事が、『お約束』だと言う事を……

 コーホーッ、コーホーッ、コーホーッ……

「ま、まさか……」

 そこには……防毒マスクを装備して、左手に木刀を引っ提げた、颯太さんの姿がっ!!
 そ、そ、そう来ますかぁぁぁぁぁぁっ!!

 木刀が一閃。三人全員が両手で持っていた、催涙スプレーが手から弾き飛ばされる。

「あっ、あっ……あの、あの……颯太」
「お、お兄ちゃん?」
「は、颯太さん、その……」

 防毒マスクを外す颯太さん。
 その仮面の下から現れたのは、全ての魔法少女に対する、憤怒と断罪の阿修羅。
 なんというか、こう……クパァ、とウォーズマン・スマイルを浮かべ、ジャック・ニコルソン顔負けの狂気を伴い……

「死ね(ダーイ)!」

 木刀を片手に……魔法少年が、跳躍した。



 それから、私たちに降りかかった、天罰というか災厄については、私は語りたくも無いし、ここに居る全員、口にしたくも無い。
 ただ、はっきり言えることは。

 沙紀ちゃんは食べ物の好き嫌いに関して、以前ほどワガママを言わなくなり。
 チカさんは他人に無理に酒を勧めたり、大っぴらに飲む事を辞め。
 私もアルコールの力に頼って告白する事をやめた、という事。

 そして……

「んっ……あ? 何事だこれ? 家ん中が滅茶苦茶じゃねぇか!?
 おい、チカ? 巴さん? 沙紀……一体、何があったんだ? まさかチカ……また飲んだのか?」
『チガイマスチガイマスチガイマス!!』
「? ……ま、いいや。とりあえず後始末しちまおうか。……魔法少女が起こした騒動なんて、深く考えても、ロクなことが無いしな」
『はいいいいいいっ!!』

 ガクガクと震える私たちにカマした強烈な『お仕置き』の事なんぞ、綺麗さっぱり忘れ去って。
 憤怒と断罪の神はその『お怒り』を解かれ、『いつもの颯太さん』に戻ってくれたという事だった。

 ……とほほほほ……颯太さんの、バカ。


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