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No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
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[27923] 終幕:「御剣家の乱 その1」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/30 20:58
「胃壁は鉄で出来ている。

 胃液は炎で、中身は底なし。

 幾度の食卓を超えて不敗。
 ただ一度の満腹も無く。
 ただ一度の食べ残しも無し。

 喰らい手はここに孤(ひと)り、茶碗片手に箸を持つ。

 されば我が食前に酒は不要(イラ)ず。

 この胃袋は、無限の食欲で出来ていたっ!!」



「……………ま、ちゃんと俺が作ったメシ喰ってくれるんなら、いいけどヨ」

 最近、好き嫌いでワガママ言う事が減った沙紀の奴が、大嫌いなピーマンを前に、なんかどっかの腹ペコ王を憑依召喚させる呪文っつーか暗示っつーか……そんなのを唱えながら、気合いを入れてモリモリ食して行く姿を見つつ。
 俺は、沙紀の好物のデザートの和菓子を用意しながら、何と無く、色んな事を考えていた。



「なあ、沙紀。
 ……俺にさ。『家族を増やす』資格とか力とかって……あると、思うか?」

 デザートの和菓子と緑茶をつまみながら。
 俺は真剣に、沙紀に問いかけた。

「かぞ……く? 何?」
「うん。ちょっと……悩んでてな、チカの事。このままで、いいのか? って……」

「え?」

「俺さ。親殺しだし……姉さんも守れなかったし。
 そんな俺がさ……その、幸せになれる資格とかって、あるのかな、って。

 分かってるんだよ。
 魔法少女や、魔法少年なんて稼業、何時までも続けられない。
 実際、櫛の歯を落とすように、昔からの知り合いの魔法少女は、どんどん魔獣との闘いに敗れて、減って行ってて。
 そのたびにキュゥべえが新しい仲間を増やして行く。

 ……いつかは結論を出さなきゃいけない。命賭けの稼業だから、それは早い方がいい。
 それは分かってる。

 だけどな……どうしても。
 俺の手には……殺しちまった父さんや母さんの感触や、救えなかった姉さんの事とか……いや、そんだけじゃねぇ。
 共同戦線を張り続けて、結局守り切れなかった魔法少女だとか、もうあと十秒、現場に急行すりゃ助けられた人とかの、悲鳴や叫びがさ、染みついて離れないんだ。

 魔法少年だ、ザ・ワンだ何だっつった所で、俺ぁ神様なんかじゃねぇ……救えるモンも助けられるモンも限られちまう事は、よーっく身に染みて分かってる。……キュゥべえの奴に『俺が居ると、魔法少女の損耗率が減る』って言われてる分、まだ救いがあるのは、理解してる。

 だけどヨ。こんな、何も守れなかった男が……『一家を背負って立てるのか?』、って考えるとな。
 チカの思いに、答えてやれる自信が、全然無いんだ」

「お兄ちゃん?」

「結局よ、『俺が一番信じられないモノ』って……自分自身なんだな、って。
 だから、俺は『現実』からでしか判断して来なかった。見えるモノ、確定してるモノ、確かなモノ。
 『それだけ』が俺の土台だった。逆を言えば……『土台固め』に腐心し過ぎて、どんな家を建てるのか、設計図がまるで見えて無かったんだな。

 『愛は金で買える』って誰かが言ってたし、確かにそれは、ある意味正しい。姉さんが残した金庫の金ハタけば、幾らでも女なんて寄って来るだろうさ。

 ……でもな、俺にとって『家族』は……家族って『信頼』はな、金じゃ買えないんだよ」

「……」

「人間はさ、『自分自身の全てを見る』って事が、出来ないんだ。だから俺は最終的に、一番、自分を信じて無いんだよ。
 そして、数多の闘いの中で、そうやって俺は生き延びてきた。生き続けてきた。

 だからこそ、俺は何かこう……常に俺は、盛大な見落としをしてるんじゃないか? 間違ってるんじゃないか? って。
 不安なのさ。
 こう……チカに告白されて以降、アイツに関しても分からない事だらけで、結局、一歩が踏み出せないんだ。

 ザ・ワンだ何だとか……色々言った所で、俺自身、タダの男でしか無い。ちょっと変わった芸が出来るだけの男なのさ。
 増してや、俺は親殺しだ。もしかしたら、タダの男以下かもしれねぇ。そんな男に……あの気風のいい、チカの奴が、何で惚れたのかすらも、理解出来ねぇんだ」

 とりあえず、一番身近な『女性』に、悩みを告白して聞いてもらう事にする。
 何だかんだと、一番、一緒に暮らしてきた間だし、闘いも共にくぐり抜けている。
 そんな関係だからこそ、俺は沙紀に相談を持ちかけたのだ。

「……あのさ。お兄ちゃん? お兄ちゃんってさ……本当に馬鹿だよね」
「まあな。この年齢になって、女心の一つも分からん。その……『少し』朴念仁かもしれないなぁ? ってのは自分でも分かってる」
「…………………少し…………………」

 何というか、もう『救いようのないモン』を見るような目線を向けて来る妹様。
 ……何だよ?

「あのさ……何で女の子が、お化粧とかすると思う?」
「綺麗に見せたいから、だろ?
 ……まあ、野郎とかにもあるみたいだが、俺には無縁だな。
 虚飾を全て否定したりはしないけど……ゴテゴテした厚化粧とか不気味で不潔だし、清潔にしてりゃいいダケだと思うんだけどなぁ?
 俺はそういうの、基本、御免だよ」

 何しろ、『変装』以外で、化粧とかした事無いし。清潔であればいい、くらいなノリだしなぁ。
 ……あの、宴会の時の『女装』とか……よそう。もうあれは記憶から消し去りたい。

「はぁ……あのさ、お兄ちゃんってさ……『与えられた問題』には物凄く強いけど、自分から問題を解決しようとは思わないタイプだよね?
 こう、『やらなきゃいけないこと』『何とかしなきゃいけない事』には、物凄く強い。『何とかしてやろう』『ケリつけてやる』みたいな。『正解が無い問題だ』って思ってるような事にも、問題の前提ごとひっくり返して、無理矢理答えを叩き出しちゃう、『叩き出せちゃう』。

 ヤクザに追いつめられて殺されそうになった人に対して、ヤクザを殺して山に埋めちゃうなんて典型例じゃない? 『最低限、人殺す覚悟が無きゃ勤まらない仕事なら、殺される覚悟くらいは持つべきだろ?』って……あっさりと。
 フツーは出来ないよ。そんな風には。

 そんなお兄ちゃんだからこそ、他の魔法少女たちは、お兄ちゃんを頼もしく思って、アドバイスに従ってくれるんだよ?
 『それでも颯太さんなら……颯太さんなら、きっと何とかしてくれる』って感じで」

「あ、ああ。チカにも、そんな事、言われたよ」

「でもさ、それってさ……『絶対に正解の出せない問題と、向き合ってこなかった』って事にならない?」
「そんな事あるもんか! 俺が父さん母さん殺して、どんだけ」
「苦しんでるのは分かるよ。でも、それは『答えを出した問題』の『答え』に苦しんでるだけであって。
 『問題そのものに』苦しみ続けた経験って、お兄ちゃん、意外と薄いんじゃないかな?」

「……………」

 言われて、俺は戸惑う。
 確かに……そう、かもしれない。

「お兄ちゃんってさ……自分自身をマシーンみたいに思ってる部分がある、って。言ってたよね?」
「ああ?」
「……だったら、その『マシーンの部分』が、ぶっ壊れちゃうような事、言ってもいいかな?」
「なんだよ? 言ってみろよ?」

 戸惑いながら、沙紀の言葉を聞く。

「マミお姉ちゃんの事」
「は?」

 意外な角度から切り込まれて、俺は戸惑った。

「あのさ、マミお姉ちゃんも、お兄ちゃんの事、好きなんだよ?」
「なんだそりゃ?」

 一瞬、意味が分からなかった。

「いや、俺も嫌いじゃ無いっつーか、尊敬はしてっけど?」
「だからお兄ちゃんは朴念仁だって言ってるんだよ。
 マミお姉ちゃんも、お兄ちゃんの事を、異性として意識してて、好きなんだよ、って事!」

 ……なんというか。呆れ果てた。

「はぁ……沙紀? いい加減な事を言うもんじゃないぞ?
 俺と巴さんは、そーいう関係じゃないのは……」
「だから、お兄ちゃんは朴念仁だって言ってるんだ、馬鹿ーっ!!」

 ばしゃっ、と茶をかけられる……

「熱っちゃっちゃ! てめー! 喰いもん粗末にしてんじゃねぇ!」
「うるさい、この朴念仁のコンコンチキがーっ!!」
「やかましゃあ! てめーこそテキトーな事言ってんじゃねぇーっ!! アリエネー寝言吐いた上に、兄貴に茶ぁぶっかけるたぁ何事だ!」
「テキトーじゃ無いモン! 嘘じゃ無いモン!! マミお姉ちゃんがどんだけ悩んでるかも知らない癖にーっ!!」
「っ……!!
 ……OK、沙紀。まあ、男と女が居れば、そーなっちまう可能性だってゼロとは言えないわなぁ?
 だが、そんな事とか、一言も言われた覚えは無いぞ?」

 ベベレケに酔っぱらった時の戯言はあるが。
 あれをカウントしろというのは、幾らなんでも酷というモノだろう。
 人間でも魔法少女でも魔法少年でも、酔えば誰だって酔っ払いだ。

 もっとも、俺は酒に酔った事が無いが。……いや、飲めないわけでは無く、その逆で。
 『飲んでも全然変わらない』上に、チカの奴を遥かに超えて『ザル』だし、特に美味いと感じる事も無いので、付き合いで飲む事はあっても、飲んでて楽しいモノだとは思えないのだ。
 東京居た時のガキの頃、ジュースだと思って料理用の焼酎まるまる一リットル飲み干した後で、ふつーに学校に行って、酒臭さに気付いた担任の教師によって、大騒ぎになったくらいである。

「……あのさ。マミお姉ちゃんが、何で我が家でお酒飲んでたと思う?」
「んー、魔獣に対しての警戒だろ? 信じられる人間がいれば、休む事も出来るわけだし?
 一人暮らしの隙を突かれたら、って思えば……」

 とりあえず、俺の出した答えに、沙紀が本気で頭を抱えてた。 

「……………馬鹿過ぎる……………マミお姉ちゃんの事が、この人全く分かって無い」
「なんだよ!
 あの最強魔法少女が、どんな猛者だって事かくらい、俺だって……いや、誰だって知ってらぁ!」
「だから何も分かって無いって言ってるんだ! だから……だから貴様は、馬鹿兄なのだぁぁぁぁぁっ!!」
「へぼぶぅっ!!」

 妹様の鉄拳制裁……って、チカの能力のコピーか、おい!?
 なんか珍しいパターンだな? よし、『御剣家流』で、付き合ってやろう!

「てっ、てっ……てめぇ……兄貴に手を上げるとは何事だ、この馬鹿妹がーっ!!」

 ぼこぉっ!!

「五月蠅い、この馬鹿兄がーっ!! 疑うくらいだったら、直接聞いてこいーっ!!」

 どかぁっ!!

「出来るか馬鹿ーっ! そんな有り得ない妄想話のカンチガイに恥ずかしい真似、生き恥じゃーっ!!」

 どごぉっ!!

「だからマミお姉ちゃんは、お酒飲んで告白したんじゃないか、馬鹿ーっ!!」

 ズッギャーン!!

「ンなわきゃあるか馬鹿がーっ! 俺が知る巴さんなら、面と向かって告白するくらいの度胸あるわい!!
 彼女程、頭がキレて肝の据わった魔法少女、見た事無いわい!」

 メメタァッ!!

 ってな感じの、御剣家式家族会議(肉体言語込み)の真っ最中。
 ……不意に。沙紀の馬鹿が動きを止めた。

「よし! そんだけ信じられないのなら、今、この場にマミお姉ちゃん呼んでやる!
 ……どーなっても知らないんだから!!」
「あーあ、やってみんかい! そんな確率論的にありえねー寝言を真に受けるほど、俺は馬鹿じゃねぇよ!」

 売り言葉に買い言葉。
 それが、どれほど高くつくモノか……この時俺は、想像もしていなかった。



「好きですよ。私も」

 ……え?

「……あの、巴さん? もしかして、また酒……」
「飲んでませんよ。シラフです」

 ……OK、落ち着け、俺。まだ慌てる時間じゃ無い。

「えっと、その……お友達とか、頼れる仲間とか」
「いいえ。チカさんと一緒で、異性として颯太さんを見てます」
「え、あー……その、何時から?」
「いつの間にか、です。一緒に戦って、過ごしてきて……気がついたら、好きになってました」
「……そ、そうッスか……」

 参った……参っちゃったぞ、これ?

「……イスラム教徒って、確か嫁さん4人まで持てたよなぁ?」
「お・に・い・ちゃ・ん?」
「は・や・た・さ・ん?」

 にっこりと微笑みながらも、ティロ・フィナーレな銃口を向けて来る、巴さんと沙紀。

「いや、『神』なんて大体が人間の都合でデッチアゲた代物なんだから、こう『自分に都合のいい神様』を、臨機応変に拝んで行こうかなーってのが、俺の流儀だし」

 ……ま、イスラム教徒は戒律厳しすぎるか。フリーダムな今みたいには行きそうに無いし。
 それに……断食月(ラマダン)とか、俺的にアリエネェし……

「私はチカさんに颯太さんを譲るつもりはありません。
 チカさんも、私に颯太さんを譲るつもりはありません。
 ただ、チカさんもそうですし、私もそうですが、颯太さんの『弱み』に付け込むような、卑怯な真似だけはしたくない。
 だから、どちらを颯太さんが選ぼうが、それは颯太さんの判断にお任せしようと思ってます」
「俺の……弱み?」

 深々と巴さんは溜息をつく。

「率直に言います。
 颯太さん、あなたは……私もそうですし、チカさんもそうですが『サバイバーズ・ギルト』という原罪を背負っています。

 『他人を食い物にして、育ってきてしまったチカさん』
 『交通事故で自分だけ助かる祈りをしてしまった私』
 そして……『両親を殺してまで、自分と愛する人を守ろうとした颯太さん』

 ……チカさんは言ってました。

 『他人の傷に付け込んで、モノにするのは簡単な事だ』って。

 でも、こうも言ってました。

 『そんな恋愛関係は『本当の男』をモノにしたい場合、絶対長続きしない。恋人ってのは、いずれその男の嫁になり、そいつの子供を産んで妻になる。
 その幾つかあるステップの、ほんの一段階に過ぎない。
 あたしは颯太と『ずっと一緒に居たい』以上、『恋人』って立場だけで満足できるワケが無いんだ』って……」

「チカが……そんな事を?」

「ええ、ですから、チカさんと引き合わされたあの時、不思議に思ったんです。
 『先を越されてしまった』って……だというのに、彼女は私の家に転がり込んだ。
 『何故か』と問い詰めて帰って来た答えが……それでした」

「そう、ですか……あの、強欲なチカが、そんな謙虚な事を」

 思わず、つぶやく。
 だが……

「謙虚? そう思えますか? 私には……物凄い強欲に思えますが?」

「え?」

「あの人は『安っぽい男』や『安っぽい愛』に、興味なんて無いんだそうです。
 『女(あたし)が欲しければ、男(アイツ)の全てと引き換えだ』って……言ってましたし。
 あの人は、『ザ・ワン』たる颯太さんの『全部』を手に入れるつもりです。

 というか、『本当の颯太さん』が手に入るなら、あの人は傷に付け込んででも何でも、手に入れたでしょう。
 でも、あなたは、魔法少女には『誰にでも』優しいですから……『本当の颯太さん』を手に入れるには、こんな正攻法以外、有り得ないって思ったんじゃないでしょうか?
 あの人の海賊風の魔法少女の姿は、まさに的確ですね……魔法少女の中でも一番の『大物目当て』の、悪党だと思いますよ」

「そんな……俺、そんな男じゃあ。
 俺はタダの……」

 そこに、びしっ、と指を突きつけられる。

「颯太さん……颯太さんは、いつも『タダの男』と、ご自分を評価なさってますね?
 では、言わせてもらいます。どこが『タダの男』なんですか?」

「え? だって……風呂入るし、飯食うし、悩んだりするし、クソだってするし」

「少なくとも……『タダの男』は、魔法少女と肩を並べて魔獣を狩ったりしません!」

「っ……………だけど、普通でしょ?
 たまたま俺は、そんな能力を持っていただけで、持っていれば誰だって」

「誰だって? 本当に? じゃあ、何で沙紀ちゃんが殆ど一人前になった今でも、魔獣を狩っているのですか?」

「一人前? こいつが? 俺から言わせりゃマダマダです」

「では、颯太さんが沙紀ちゃんを一人前と認めるには、どうすれば?」

 その言葉に、俺は迷い無く断言する。

「無論、この俺を『超えて』行く事です!」

「『ザ・ワン』を超えろ、と!? 一介の魔法少女に!?
 颯太さん……今、自分がどれだけ無理難題を言っているか、分かってますか?」

「はっ! それこそ、お笑い草です!
 そこで膝を折っちまうような奴が……『繋ぎで闘ってる』俺程度、踏み越えられなくて、何が魔法少女ですか!」

 と……

「分かった。超えてやる!」

「沙紀ちゃん!?」

「お兄ちゃん……私、今まで『二人で一つの魔法少年』だって思ってた。
 でも、これは……こればかりは、絶対に違う!
 お兄ちゃんも私も……一人立ちしなきゃいけない時が、来たんだよ」

「っ……沙紀?」

「誰にでも優しい、機械みたいな『空っぽ』のお兄ちゃんに……奇跡や魔法を否定して『現実しか見て無い』お兄ちゃんに……意地でも、夢と希望を見せつけてやる!
 それが魔法少女としての、私の務めだっ!!」

「空っぽだと?
 ……沙紀、それは、お前にダケは言われたく無ぇな」

「なんでよ!」

「お前の力は、全部、借り物だ。自前で手にした力なんて、ひとっ欠片も存在してねぇ……分かるか? 贋能者(フェイカー)。

 確かに、運用、応用次第で戦闘には勝てる。問題を解決する事は出来る。
 だが……そこのドコに『御剣沙紀』が存在している? おめぇこそ、『誰かの夢や希望に安易に乗っかってるダケ』としか思えねぇぜ?
 そんな力しか持たない魔法少女が!? 一体全体、俺に何を『示す』っつーんだ? あ?」

「っ……!!」

「よし、課題だ。
 テメェが一丁前だと言うなら……『御剣沙紀』を、俺に……兄貴に。御剣颯太に、見せつけてみせろ。
 でなけりゃ、俺は納得なんか、しねぇぜ?」

「上等、受けて立ってやる!
 ……後悔すんな、馬鹿兄貴!!」

 そう言って、ドカン! と乱暴に扉を蹴り開けて……沙紀の奴は、家を飛び出して行った。



 沙紀が出て行った後に、沈黙の落ちるリビング。

「その、なんつーか……俺ぁ、分かんネェ事だらけで、知らねぇ事だらけだったンッスね」
「そうですね」

 天を仰ぐ。
 ……本当に、俺は……

「どうすりゃイイんだ……」

 沙紀にああ啖呵を切ったモノの……改めて『空っぽの自分』ってモノに、気付かされて、俺は溜息をついた。

「何でも出来るって事は……何も出来ないって事と≒(ニアリー・イコール)なんですね」

「え?」

「いや、俺はね……俺なりに挫折や何やを繰り返して、現実見据えて、必死に自分を鍛え上げて生きてたつもりだったんですけど。
 夢とか、希望とか……『俺自身のそういったモノ』が、全く見えて無かったんですね。
 その分まで……俺は沙紀に押し付けちまったのかもしれないな、って」
「颯太、さん?」

「考えてみればね……沙紀の能力も、俺の能力も『他の誰か』が居ないと、意味が無い能力なんですよ。

 『仲間』が居ないと成長する事すら出来ない、沙紀の『コピー能力』。
 『敵』が居ないと、存在すら証明不可能な、俺の『魔力否定の能力』。

 ……変な所で、バランスが取れてたんですね。色んな意味で」

 と……

「そうでしょうか? 少なくとも……颯太さんの能力を、証明する方法、ありますよ?」
「え?」
「速さ。魔法少女は、誰もが追いつけない、見滝原最速のスピードスターじゃないですか?」
「っ……まあ、確かに。でも、『ソレダケ』ですよ? 早いだけじゃ何の意味も……」
「そう。最速で間違いを否定する。そして即断即決……どんな状況でも、その行動に『迷い』が無い。
 だからこそ、みんな信頼しているんですよ、颯太さんを」

「俺は……その……そんなんじゃ、無いです。
 今、俺は、迷いっぱなしです。どっちかなんて選べるわけが無い。
 巴さんも好きだし、チカも好きだし……なんというか、『自分の意思で、選ばなきゃいけない』って状況に、初めて置かれた気分です。
 こればかりは……『速さ』で解決できない。
 どっちも『否定』なんて、出来るわけがない。多分……絶対に、後悔が残る問題です」

 と……

「……くす。ごめんなさい。その……珍しいモノが見れたな、って」
「え?」
「真剣に『悩み続けてる』颯太さんなんて……初めて見ました。
 考えてもみれば、颯太さんて『どーしようかな』の人で『どうすりゃいいんだ?』なんて言葉、初めて聞いた気がします」

「それは、何が違うってんですか?」

「『どーしようかな』って事は……幾つか解決方法が思いついてる、って事じゃないですか?
 でも『どうすりゃいいんだ?』なんて言葉は、答えに皆目見当がついていない。
 そんな言葉は、颯太さんからは、初めて聞いた気がします」

「買い被り過ぎです。
 何せ、俺自身が決めろって言われても……俺を一番信じていないのは、俺自身なんですから」
「あれだけ、自信満々の颯太さんが?」
「そう見えるように、見せてるようにしてるだけです。本当は、一番自分を信じてませんから、俺自身が、俺を」

 そう言って、悩む俺に……更に、巴さんが、追い打ちをかけてきた。

「チカさんね……高校を卒業したら、旅に出たいそうですよ?」
「え!?」
「『ドブの底からじゃなくて、魔法少女の翼で、広い世界を見て回りたい』って。
 あの人の『祈り』は、颯太さんと一緒で複合型ですからね。贖罪と……そして『旅立ち』の祈り。
 新天地(エルスウェア)への渇望が、誰よりも激しい人なんです。
 そう言う意味で、『否定し、守り続ける』事を誓った、颯太さんとは間逆なんですよ」
「そんな……!」
「きっと、行く先々で、トラブルを起こしては解決して……そんな暮らしを続けるのが、目に見える気がします。
 だから、颯太さんに『ついてきて欲しい』っていうのは……決して楽な選択肢では無いでしょうね」
「っ……あいつは……そんな事を」

 軽く、頭を抱える。

「そういう意味でも……『どちらか』を、颯太さんは選ばなきゃいけません。
 チカさんとの旅立ちか、見滝原に留まるか。
 『後悔の無い選択』なんて……今度こそ、ありませんよ?」

 道明寺を平らげ、緑茶を飲みほした、巴さんが立ちあがる。

「颯太さん……私も、チカさんも、颯太さんを愛しています。だからこそ、今度こそ……真剣に、ご自分と向き合ってください。
 夢や、希望や、欲望や、そういった『颯太さん自身のワガママな部分』と、真剣に。嘘も、誤魔化しも無く。
 私たちは『正しい答え』ではなく……『颯太さんの答え』を、待っているのですから」

 そう言って、巴さんは……俺に言い残して、御剣家を立ち去っていった。


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