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No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
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[27923] 終幕:「御剣家の乱 その3」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/30 20:59
「……くそ、何なんだ……一体」

 イラつく。腹が立つ。ムカつく。
 それは良くないと分かっていても……止められない。

「本当の自分と、向き合えって……出来るワケねぇだろ」

 何しろ、俺は……人殺し、親殺しだ。しかも、家族を護れない、タダの男以下の存在。
 俺個人に、生きてる価値なんて、ありはしない。

 ……ああ、本当は分かってたさ。
 他の魔法少女だって……それなりに、好意的な目線で見てたのくらい。
 でも、男なんて、幾らでも居る。たまたま俺が『闘いの場に居た』、『闘う事が出来た』。
 それだけだ。

 だから、誰よりも、俺は……心を鈍くさせながら。
 その『雑音』から耳を背けていたのだ。

 そのツケを……俺は、払わねばならない時が、来たのかもしれない。
 だが……

「誰も……他人を本当に、理解できるワケなんて、無いんだよ」

 幸福なんて自己陶酔で、不幸なんて被害妄想だ。
 だから、見据えるモノは、現実のみ。
 そして、その現実は……今、俺に向かって、変な角度から牙を剥こうとしている。

「あの二人は……どうして俺なんぞを」

 チカの奴は……まあ、分かりやすい。
 ……魔法少女という現実を前にしても、躊躇無く、全てを知って、この世界に飛び込んで来た。
 俺がチカに惹かれるのは……『奇跡も魔法も関係なく』、俺という個人に向かって、真っすぐな目を向けてくれていた事。
 その心意気だ。

 巴さんは……長い付き合いだ。
 お互いに、敬意を抱きあう関係であり、色々と知り尽している。
 更に、姉さん亡き後、魔法少女として沙紀や俺の面倒を見て貰っていたという、恩義もある。
 だが俺は……彼女に一度たりとて、俺自身が恋愛感情を抱かなかったと、断言出来るだろうか?

「……どうすれば、いい……」

 いっそ、死ぬべきだろうか? 俺みたいな男は。
 ……だが……

「沙紀……
 馬鹿な。あいつが、俺を超えて行く?」

 誰かの陰で、おどおどしてるしか出来ない。
 共に並ぶ事は出来ても、前に出て立つ覚悟を見せた事の無い、アイツが?

 ……だが……もし、アイツに、それが出来るのならば……俺が、生きて、『魔獣との闘いの場に立つ理由は?』
 って……

「なんだよ……結局、俺は……闘いが好きなのか?」

 俺は……俺が求めてきたのは、『安らぎ』だけだったハズだ。
 敗北の現実を知って、誰かを失う痛みを知って……そこから逃げ出したかったハズ。
 なのに……

 ふと、思う。

 じゃあ、どっちか。
 巴さんが死んだら?
 チカが死んだら?
 俺は、それに……耐えられるだろうか?

「嫌だ……どっちも、失えるワケが、無い。
 誰も、もう失いたくなんて……無い」

 だが……二年後には、確実に、チカの奴は旅に出る。確かにあいつは、一か所に留まれるタマじゃない。
 一方で、巴さんは責任感が強い。何より、今では、この見滝原の魔法少女たちの、顔役同然だ。

 考えてもみれば。
 あんな凄い二人が、この見滝原って街に留まっている状況そのものが、奇跡と言ってもいいのではあるまいか?
 それに、俺は甘え過ぎて居なかったか? 『都合のいい現実』に染まり過ぎていなかっただろうか?

 と……

「よっ、お兄さん。何、黄昏てんの?」

 腰かけたベンチから顔を上げると。
 そこに、美樹さやかの姿があった。



「……上条恭介は、どんな塩梅だ?」

 俺の質問に、彼女は笑いながら答える。

「ん、凄いペースで回復してる。……無茶なリハビリが利いたんだろうね。もう、杖無しで歩けるようにすらなってね。
 左手は相変わらず動かないけど、完全に神経が死んでるのは肘から先の部分だからっていうんで、職人さんに頼んで『左右逆のバイオリン』特注したの。
 バイオリンの弓、動かない左手に縛り付けて……さ。
 毎日、そのバイオリン相手に、必死になってる」
「ほ、考えたな」

 苦笑する。

「うん。音とかね……もうガチャガチャなんだけどさ。それでも、少しずつ良くなっていってるんだ。
 元の恭介のバイオリンは、もう聞けないけど……なんていうのかな。こう、『新しい上条恭介の境地』を、切り開こうとしている感じ?
 バイオリン弾いてる時に、あんな必死な顔の恭介、初めて見た。一番簡単な『キラキラ星』から、やり直してるんだよ? あの恭介が」
「そっか。良かったな」
「彼がね。『僕の尊敬するバイオリンの先生は、基本を大事にしていた』って。『だったらもう一度、基本からやり直すダケだ』って……」
「ま、そうだな。剣術でも剣道でも、基本は大切だしな」

 と……

「あとね、彼が言ってた。
 『御剣さんに会ったら、伝えてくれ』って。『ありがとう』だそうだよ?」
「別に、大したこっちゃないよ」
「あー、そうかもね。……なんか恭介、ちょっと高所恐怖症になっちゃったし。
 聞いたよ。屋上から放り出したんだって?」
「死ぬよっかマシじゃね? 怖いの知ってるって事は、危険から避けられるって事だし。
 少なくとも、屋上から飛び降り自殺する心配は、もう無かろうさ」

 そう嘯く俺に、彼女が苦笑した。

「酷い人だなあ、お兄さん……ほんと、荒療治なんだから」
「はっ、だから言ったろ?
 野郎はな、傷なんざ後生大事に抱えてるよっか、気合い入れて前に進む覚悟キメねーと、前にゃ進めねぇんだよ。
 痛いだとか、苦しいだとか。現実に挫折する前に、己に鞭入れて、困難に立ち向かわなきゃいけねーのさ」

 と、

「その割には……お兄さん、なんか、悩んでるように見えたけど?」
「……まあ、な。予想もしない困難に、直面しちまってな」

 考えてもみれば。
 彼女は、現時点では魔法少女とは関係ない、普通の女の子なワケで。
 そういう要素を排した、女性の心理を聞くには、丁度いい存在かもしれない。

「告白されたんだ」
「え? あの……斜太チカって人から? また?」
「いや、巴マミっていう、別の人だよ」

 と……

「えっ……マミさんが?」
「なんだ、知り合いか?」
「いや、同じ中学だし……魔法少女の事について、色々と聞いておかないとなぁ、って思ってたから」

 その言葉に、俺は眉をひそめる。

「なんだお前、契約する気か!? 絶対やめておけ、ロクな事に……」
「知ってるよ。
 でもさ……例えば、恭介が魔獣に襲われて、死にそうになったりとかしたら。
 多分、あたしは契約しちゃうと思う」
「それでも、やめておけ。
 それが報われる保障なんて、ドコにも無いぜ?」

 何しろ、俺は……

「迷ってんだ……どっちも大切で、どっちも無碍になんて、出来るわけが無い。
 本当に、真っ直ぐに俺を見ていてくれる仲間と……俺や沙紀が散々世話になってきた人。
 どっちかを選ばなきゃいけないんだ。
 っていうかなあ……お前、上条恭介が好きな女が、自分だけだと思ってるのか?」

「えっ?」

 何も考えて無かった。
 そんな風な表情に、俺は苦笑する。

「あーいうイイ男にゃ、勝手に女が寄って来ちまうんだよ。男のダチと過ごして居りゃ分かる。
 モテる男ってのは、女の幻想を勝手に煽っちまう奴の事なのさ。ウチの妹の沙紀なんかは、引っかかったその典型例だな。
 アイツのファンだったそーだぜ?
 まあ、よ……俺も魔法少女の世界なんて、女所帯の中で過ごしてて、分かったんだけどさ。女ってなぁ、究極的に、基本、自分中心に都合のいい事しか考えちゃいない生き物なんだなー、って。
 何と無く、分かっちまったのさ」

「うわ、酷い事言うなぁ……っていうか、自慢?」

「いや。単に『ショッパい焦げたクッキーを、喜んで喰ってくれる男ばっかじゃねーぞ』って事さ。
 そういう意味で、自分の都合のいい幻想しか押しつけてこない女ってのは、俺は嫌いでな。
 ただな……」
「ただ?」
「問題は、あいつらは『真剣に他人の事を、考えられる魔法少女だ』って事だ。
 やり方は全然違うけどよ……
 幸せにしてやれるなら、どっちも幸せにしてやりたい。でも……俺はどっちかしか選べない。
 迷いっぱなしだよ」

 その言葉に、彼女は首をかしげる。

「……で、お兄さんは、本当はどっちが好きなの?」
「『どっちが好きか』……って……俺にそんな『選ぶ資格』なんて、無いのさ。
 ……人殺しなんだよ。俺は……」

 遠い目をして、俺は溜息をつく。

「人殺し……って」
「父さんと母さん。
 新興宗教に入れ上げた挙句、教祖様の後追いで無理心中しようとして、抵抗して……殺した。
 家族を護るために、習っていたハズの剣術で……俺は、家族を殺しちまったんだ。
 そして、冴子姉さんも護れなかった。護れなかった仲間も、何人も居る。助けられなかった人も。
 ……だから、俺は、人殺しなのさ」

「…………………」

「俺の気持ちとかさ、俺の意思とかそーいうのって……結局、誰かを不幸にしていくしかない。
 だから俺は、出来るだけ『気に食わない奴を不幸にして行く』事にしているのさ。
 ……ハリネズミのジレンマって奴だよ」

「じゃあさ、あんたの妹の沙紀ちゃんは、どうなのさ? あんたが必死に守ってきたんじゃないのか?」

「一杯不幸にしてるぜ?
 大嫌いなピーマン食わせたり、ムカつく悪さしたらケツ叩いたり。もー四六時中、大喧嘩さ。
 あまつさえな……出来もしない事を、今になって、背負わせちまった」

「出来も、しない事?」

「『一丁前に、魔法少女として立って見せろ。俺を超えろ』って……な。
 ……力比べ以前に、能力の相性的に、無理なんだよ。じゃんけんで言うなら、グーとチョキみたいなもんで……俺っつーグーに、沙紀っつーチョキは、絶対勝てない相性なんだ。
 それを知って居ながら……俺は、カッとなって沙紀に無茶を振っちまったんだ」

 天を仰ぐ。

「そんで、俺からすりゃあな。
 意図して無かったにせよ、あんなスゲェ二人に告白されるなんて、想像もしちゃいなかった。
 考えてもいなかったんだ。
 俺の中身とか本性の部分は、多分、もードロドロの醜いモンでさ……正直、そんなモテていいよーな男じゃネェんだよ、俺は。
 ……世の中、『幸せになるべきじゃない』馬鹿ってのは、居るモンなんだぜ?」

 と……

「はぁ……あのさ。
 あたし、男の人の事はよく分かんないけど……それでも、あんたが女ナメてるのは、よーく分かったよ」
「あ!?」
「そんな、『自分だけ不幸背負いこんで、独りで行こう』とするワガママ男をさ……増して、そいつに惚れた女が、何の覚悟も無しに『好きだ』とか、言うと思う?
 妹さんだって、多分、アンタの重荷になりたくないから、必死になって、転校生の所に転がり込んだんじゃない?」

「あ、ああ、まあ……って、待て。何で沙紀の事まで知っている!?」
「女同士のネットワークを甘く見ないことだね。特に、魔法少女関係のはキュゥべえまで居るんだから」

 初耳である。
 っていうか……あのオシャベリ悪魔め……

「ついでにね。アンタの恋の顛末は、色んな意味で、魔法少女たちの注目の的らしいよ?」
「おいおいおいおい、嫌だぞ俺は! 芸能人じゃあるめぇに!
 大体、こんな下世話な事、好きで悩んでんじゃネェんだ!」

 絶叫するが、彼女……美樹さやかは、チッチッチ、と指を振り。

「ショーガナイだろ?
 あんたは魔法少女の世界の中じゃ、黒一点の存在なんだし。女の子からすりゃ、マジで頼りがいのあるナイト様なんだ。
 ……中には、マミさんやチカさんに嫉妬してる子も、結構いるって話だぞー?」
「うわ、嫌だなー……そんな女。関わりたくないし、相手したくもねぇー」

 嫉妬に狂った人間程、頭おかしい行動に出るのは、人間も魔法少女も変わらない。

「それとさ。あんた、自分が『人殺しだ』って言うけど……本当に、好きで人を殺したの?」
「……いや。でも、直接手を下したのは……俺だ」
「でもそれってさ、『誰かを守るため』じゃ、無かったのか?」

 その言葉に。
 俺は深々と溜息をついた。

「それがな……正直、その……取り押さえようと思えば、取り押さえられる実力は、あったんだ。
 でも流石に……実の父親と母親が、俺ら兄妹を殺しに来るなんて想定外もいい所で、完全にパニックになっちまってさ。
 そんで、気がついたら……俺は、両親を殺していた。木刀持っててさ、『どう殺したかすらも』分からないんだ……」

「………………」

「どうやって殺したのか、何を考えて殺しちまったのか、どうして殺したのか。
 その『殺す過程』だけが、スッポリ抜け落ちててヨ。
 気がついたら、階段の下で、両親が脳天カチ割られて、俺が血まみれの木刀引っ提げて構えてて……後ろで、沙紀と姉さんが、ガタガタ震えてて。
 そこまでに至る、前の記憶『だけ』が、完全にブランクの彼方だ。

 それがな……たまらなく、恐ろしいんだ。

 確かに、『結果的に』俺は、両親を殺すことで、沙紀や姉さんを救えた。
 でも『殺す時に何を考えて殺したのか』。その過程が分からネェんだ。
 俺は……家族を守るために、剣を習っていたハズなのに、なんで両親を殺しちまったんだろう、って。
 そこん所の答えがな……どうしても出て来ないんだよ」

 と……

「それは……知らないほうが、いいんじゃないかな?
 多分、そんな気がする」
「え?」

「人間ってさ、無意識に辛すぎる記憶とかそういったの、封印しちゃうって話、聞いた事あるんだよ。
 多分、それは……知らないほうが、幸せなんじゃないかな?」
「そういうワケには行かないよ。俺は『見えない物は信じない主義』で、さ。
 本当の自分と向き合うには……やっぱり俺自身、どうしてもソコの所の問題は、外せないんだよ」

「……そう、か。
 そういえばさ、あんた……凄腕の剣術家なんだって?」
「まあ……ソコソコかな、腕前としちゃあ。
 ……お師匠様にゃ、トンと及ばんけどな」
「あのさ、ちょっと……教えちゃくれないかな、剣術とか」

 その言葉に、俺は呆れ果てた。

「やめておけ。半端に齧った技なんぞ大怪我の元だ……俺みたいに、な」
「むー……」

 ……はぁ、しょーがねぇ。

「ケータイ、持ってるか?」
「え? うん」

 ポチポチ、とケータイを操作して、赤外線でデータを送ってやる。

「何、これ?」
「女の子向けの体力作りメニュー。
 こいつを一カ月欠かさずやったら、なんか教えてやるよ」
「ちょっと……ハードだな、これ」
「嫌なら辞めちまえ。そんで格闘技とか習おうなんて思うな。
 人間なんてなぁ危ない事に近寄らないほうが、一番なんだ。
 もし護身のつもりだったら、下手な技は逆効果にしかならん。それに……」

「それに?」

「俺に剣なんて習ってみろ。俺の運命までトレースする事に、なっちまう。
 中学生で、親殺しなんて……したかぁ無ぇだろ?」

 そう言うと、俺は立ちあがった。

「ま、とりあえず、体力作りは、無駄にゃなんねぇからな……『心を鍛えるには、まず体から』だ。
 ……サンキューな、相談に乗ってくれて。
 ちょっと暁美ほむらの所に行って、沙紀に謝って来る」

「え?」

「出来もしない事を、押しつけた。『一足飛びに独り立ちしろ』なんて、言う方が無茶だよ。
 ……あいつは、まだまだ俺が居ないとダメなんだし、な」



『その必要は無いわ』

 暁美ほむらのアパートで。
 二人揃って開口一番。俺の謝罪に帰って来た返事が、それだった。

「なっ、沙紀、お前……俺はお前を心配して言ってんだぞ!」
「訓練の邪魔。あっち行って。っていうか、見ないで」
「くっ……訓練!?」
「秘密の特訓。絶対お兄ちゃんにギャフンて言わせてやるんだから!!」

 バンッ!

「……………どうして、こうなった?」

 暫し、懊悩。
 そして……再度、扉をノック。

「……何かしら?」
「暁美ほむら、ちょっと来い……」

 そして、アパート裏に呼び出した後。

「お前、沙紀に何、吹き込んだ?」
「別に。沙紀ちゃんから志願してきたのよ。『打倒、御剣颯太』って……」

 頭痛がした。
 ……俺、そこまで何か、沙紀に悪い事、したかなぁ?

「沙紀の奴が、俺に勝てるわけが無いだろ? 能力の相性的にダイヤグラム9:1なんだから!」

 自惚れでもなく、これは事実……な、ハズなのだが。

「そうかしら? 私は……五分と見てるわよ」
「っ!」
「話はそれだけ?
 うかうかしていると、本当に妹に足元すくわれるわよ、御剣颯太」

 そう言って、スタスタと暁美ほむらの奴は去って行った。



「…………」

 何でか。
 俺は、自分の家の前で立ち止まってしまった。

 沙紀が居ない家。
 俺の……家族の居ない家は、本当にがらんどうだった。

 そこに戻って何かをする価値を見いだせず。
 俺は、そのまま、踵を返して、夜の街へと向かった。

 雑音と喧騒。そんな中、ゲームセンターへと入る。

「……久方ぶりだな、ゲーセンなんて」

 小学校から中学の頃は、剣の修行帰りに、よく小遣い握りしめて通ったモンだった。UFOキャッチャーで景品根こそぎにして、出入り禁止喰らった店もあったっけ。
 ……あの頃は、非売品系の景品を、オタグッズのショップやネットオークションで叩き売って、小遣い稼ぎ、よくしてたんだよなぁ。

「お? まだコイツ、稼働していやがるのか?」

 ふと、見ると。
 懐かしい格闘ゲームが、ゲーセンの隅っこで、現役で稼働していた。

 ……そーだな。あれから、まだ四年くらいだもんなぁ……

 四年。
 その間に、両親が首を吊り、姉さんは魔法少女になり……あとはもう、怒涛の如くだ。
 ……元々、家事炊事の手伝いは好きでやってた部分はあったが……考えてみると、俺だけだったら家事なんてする必要、無いんだよなぁ。
 恐らく、物凄く自堕落な生活を、送ってたんじゃないだろうか?

「……懐かしいし、やってみるか」

 コインを投入し、プレイ開始。
 コンコン、スココン、って感じで、懐かしい感覚がよみがえって来る。

 ……そーいえば、昔、30人抜きとかして、俺が負けた瞬間、対戦相手の集団に『バンザーイ!』とか言われたっけ。
 あれは噴き出したなぁ。

「しかし、この挑戦者粘るねぇ……」

 連コイン5枚目。
 キャラを変えて挑んでくるのを、ことごとく撃退していくのだが……まあ、いい。中々に歯ごたえのある対戦相手だし。
 昔を思い出しながら楽しませて貰うか……とか思いながらも、俺はコンパネの上を踊る指を、一切休めない。

 そして……対戦相手の吸血鬼だの鎧武者だの雪男だのを、血の池から伸びた巨大な手で引っ掴んで片っ端から『契約』してトドメ刺していく、俺の操る『冥王』に、だんだんと向こうの動きに苛立ちが混ざって来る。

 ……クックックックック、この手の格闘ゲームは、ある程度以上のレベルになると、『焦ったら負け』で『ビビったら負け』なのデスヨ。
 というか、この『冥王』様。攻め筋そのものが薄い分、ガード不能技や飛び道具で攻撃範囲を狭めて『相手の動きを固める』性能は、このゲーム屈指である。

 そして、案の定……

「ゲッゲッゲッゲッゲ♪ 受け攻め幾つか予想しておったが……そりゃ悪手じゃろ」

 同キャラで挑んで、木端微塵のパーフェクトで完封。
 どっちかつと『冥王』様は、攻めをパターン化させないよう意識して使う必要がある上級キャラだからな……増して、同キャラじゃ読み勝負が全て。
 カッカした頭じゃあ、そりゃ完封もされるさね♪

「……あんた、ゲームも上手いんだな」
「あー? これでも、昔は雑誌(メスト)に乗ろうと必死になったし、UFOキャッチャー荒らしもよく……え?」

 俺の後ろに、さっきまでの対戦相手……佐倉杏子が、立っていた。



「……………」
「………」

 沈黙が痛い。さて、どうしたものやら。
 ……とりあえず、俺はその場で立ち上がると、目当てをつけたUFOキャッチャーのお菓子の奴に、百円玉のコインを二枚、入れる。

 一回目は、アームの強度と癖を見抜くため、捨て撃ち。だが、幸運にもゲット。
 そして、二回目……

「こんな所に、こーんな不安定な台座据えちゃってまぁ……」

 アームの先の爪を、展示部分のお菓子が乗ってる『台座そのものに』引っかけて……ガッバーン!! ってな勢いで、台座がひっくり返った挙句、『アームに振りまわされた台座そのものに』押し出されて、ザラザラとお菓子が出口から出て来る。

「必殺、『台座返し』……良い子のプレイヤーは真似すんな♪」
「ぶっ!! あ、あんた……それ、狙ってやったのか?」
「ま、ね。……慣れりゃ楽勝だぜ」

 据え付けてあるビニール袋に、景品口に山盛りになってるお菓子を、ザラザラと放り込んで回収。
 そして……

「とりあえず、一個喰うかい?」

 と、佐倉杏子に話を振ってみると……

「あの、お客様、ちょっと……」
『……………』

 こうして、俺はまた、出入り禁止のゲーセンを増やす事になった。



「あたしまで、出入り禁止になっちまったじゃないか」
「あー、その……すまん」

 ビニール袋山盛りのお菓子をほおばりながら、頭を下げる。

「思い出したよ。
 なんか昔、クレーンゲームが鬼のように上手い奴が居て、あのへんのゲーセン荒らしまわってるって『伝説』。
 ……アレ、アンタだったのか」

「いや、小遣いあんま貰えなくてさ……俺。
 だから、オタグッズだの何だの狙って、『それ系』のショップに非売品の景品叩き売って、剣術の師匠への束収(月謝)にしたり、小遣いにしてたんだよ。
 あーいう所の景品って、金で買えないレアモノが多いから、それが『お金で買える』ってなると、幾らでも金出すって『大きなお友達』、結構いたし。
 中には、その場で『取ってくれ』って友人に頼まれてホイホイ取ってたら、『大きなお友達』まで集まって来ちゃって、大騒ぎになった事もあったなぁ……」

 そーいや、ゲームソフトだって誕生日プレゼント以外は、中古で転がしたりしてたし。余程気に行ったゲームじゃない限り、絶対手元に残しておかなかったし。
 ……思えば、そんな下地があったからこそ、お金や物に関して、シビアに見る事が出来るよーになったのかもしれん……親戚たちも、かなり『アレ』な人たちが多かったしなぁ。

「だから俺、パチンコやる大人の気持ちが、分かんネェんだよなぁ……」
「え?」
「だってさー、アレ、システム的に、トータルで絶対客側が勝てないよーになってんだぜ?
 預玉のシステムとか、顔認証のシステムとかあってさー、テキトーに絞り上げられるよーになってんだよ。
 それだったら、ハナッから『損する事を前提に楽しむ』ゲーセンや、その他のゲームのほーが、まだ楽しむ余地があると思うんだけどなぁ……一日に万単位の金を、バカスカ突っ込むとかアリエネェよ」
「ゲーセンのクレーンゲームも、そうなんじゃないのか?」
「んー? まあ、そーいう台はあるけど、アームの強さや何やを見切れば、その台に近寄らないくらいはするさ。
 キャッチャーのコツは『勝てる台を選ぶ』のが重要でな……って、あんたにゃ釈迦に説法か」

 何しろ、彼女は現役のゲーマーだ。
 一方の俺は、一度、ゲーセンから卒業……というか、引退した身だし。

「それでも、さっきみたいな滅茶苦茶な取り方をした憶えは無いよ。……ああ、出入り禁止になるワケだ、アンタが」
「はっ、ゲームなんてのは、いかに『ルールの裏を掻くか』だって重要要素だぜ? そして俺は、少なくとも『ルール違反はしちゃいない』し、そーいう裏技があるから、ゲームってのは面白いんじゃねぇか。
 無論、真っ向勝負のぶつかり合いの面白さも、否定はしないけどな」
「そうかなぁ?」
「そーさ。
 増して、ゲーセンなんてなぁ、日々、金っつーチップを賭けた『子供との真剣勝負』の舞台なんだ。
 そこン所手ぇ抜けば、俺みたいな奴に痛い目見るのは当然なのさ。
 ……ま、だからといって、俺みたいな『職人』レベルがゾロゾロ居た日には、ゲーセン(狩り場)が潰れちまうワケだが、な。
 だからテキトーに加減はしてたんだぜ? 何度か出入り禁止になってからは」

 と。

「……あんた、ホントにフツーじゃなかったんだな」
「あ? そっかぁ?」
「だって、今時、そんな事考えて実行できる子供って、何人いるんだよ?
 アンタが『伝説』作ってた頃には、あたしはそんな事、考えても居なかったぞ?」
「そりゃ、偏見っつーか……甘いんだよ見滝原(このへん)のゲーセンが。
 都内のゲーセン行ってみろ。仕掛ける側も、狩る側も……ついでに、景品買い取る側も売る側も全部、マジで『鬼』が揃ってんぞ?」

 これ、ホントの話。
 俺だって『無理だろぉ!?』っていうような、しかも素人には絶妙に取れそうに『見える』ディスプレイとか、ゴマンと作ってあるから。

「あそこは、マジでサバイバルだ……いや、ホントに」
「なるほど。そーいう所で、いっぱい痛い目見てきたから、アンタはゲームに強いのか」
「ま、ゲームに関しちゃな。
 現実(リアル)じゃあ、見滝原(ココ)以上に『痛い目見た』場所は無ぇよ……つくづく、俺は『タダのガキなんだ』って、思い知ったさ」

「っ!!」

「あ……いや、すまん。悪かった」

 迂闊な事を口走った俺は、佐倉杏子に頭を下げた。

「い、いや……いいさ……あんたら兄妹が、痛い目見たのは、よっく知ってるし」
「いや、こっちこそ悪かった。
 だって、話のスジ的に考えたら、あんたに罪の無い話じゃねぇか……子供は親を、選べねぇんだから、よ」

 だが、彼女は沈黙したままだった。
 やがて……

「あのさ、少しその……疑問に思った事があるんだけど、いいか?」
「何だよ?」
「あたしの家ってさ、そんな裕福じゃなかったんだ。信者が集まっても、自分たちの生活賄う分しか、使ってこなかった。
 特段、贅沢した憶えなんて無ぇんだよ……だってのに、何であんたの家は、破滅するよーな大金、ウチに寄付しちまったのかな、って」

 その言葉に、俺は少々呆れ……まあ、年齢を逆算すれば、無理からぬ話かと、思いなおす。

「それは多分な。……『買った』んだと思うぜ。あの教会を」
「は? ……おいおい、あたしはあそこで生まれ育ったんだぞ? あの家が誰かの借家だったってのか!?」
「ん、その……お前、本当に知りたいのか?」

 とりあえず、適当な花壇に腰かけて、次の袋の中のお菓子を奴に渡す。

「あんまり、イイ話になるとも思えネェし……お前さん自身は、今でも親父さんを尊敬してんだろ?
 それに、俺の話は、あくまで推論で……全部が全部、正しいとは思えない。
 無論、あの教会調べて行けば、その証拠も見つかるかもなのだが……正直、俺はそいつを直視する勇気がネェよ。
 もし、変なモンでも見つけちまったりしたら、ブチギレて何しでかすか、自分でも分からん」

「っ……」

「それに、昔は兎も角、今じゃあの教会は、魔法少女の孤児院状態だ。
 そいつをブッ壊してまで、俺は真実を追求したいとは、とても思えネェんだ」

 その言葉に、佐倉杏子は戸惑いながら……

「じゃ、じゃあさ……あんたの推論でいい。聞かせてくれないか?」
「……辛い話になるかもしれねぇぞ? それでもいいんだな?」
「う、うん……」

 その言葉に、俺は淡々と説明して行く。

「まずな、宗教法人ってのはな、日本って国じゃあ『公共のモノ』って位置づけられてるから、基本非課税なんだ。
 ただしそれは、宗教法人っていう『組織』に対して税金がかからないだけで、そこで働く『個人』……この場合は、お前の親父さんだな?
 それには税金がかかって来る。それはいいな?」
「う、うん」
「で、だ……普通は……まあ、本当に個人でやってる宗教法人なんかは別として。
 大規模な宗教法人の場合、大概、土地建物ってのは、『その宗教法人の持ち物』として扱われるんだ。税制面でもお手軽だしな。
 だから、お寺なんかでも、代々そこに住み続けてる一族ですら、『後継ぎが寺を継がない』ってなると、一族全員、その寺から出て行かなきゃならないのさ」
「そっ、そんな……出て行く、って! どこに出て行くのさ!?」
「そこまではドコの宗教団体だって、基本、知ったこっちゃ無い。そもそも、元の教義を広めるために、衣・食・住の内の『住』の要素を、保障しているんだから。

 っていうか、お前さんの親父さん、本部から破門されてたんだよな? だってぇのに、あんだけの信者集めてのけた技量は……まあ、大したもんだよ。それは認めてやる。
 ただな。フツーは、破門された段階で、元の教団の本部から代わりの神父なり、シスターなりが、あの教会に派遣されて来るハズなんだ。
 それが来なかったって事は……あそこの土地建物からして『元の教えと完全に縁が切れた』としか、思えねぇんだよ」

「っ!!」

「まあ、凄い親父さんだったんじゃないのか? そもそも、元の教えのカンバンがあったとはいえ『説法だけで飯が食えた』ってだけで、俺からすれば仰天モノさ。
 漫画家や小説家と一緒でな。文化的事業として国から保護されてるとはいえど、神様だけでメシが喰えるほど、世の中甘くないし。

 そこいらの小さなお寺のお坊さんに聞いてみ? 葬式だの葬儀だのでメシが喰えるお坊さんなんて、ほんの一握り。よく、ベンツ乗りまわす金満坊主なんてのは、漫画家に例えれば、ウン千万部売り上げた超人気作家みたいなモンで、実在はするにしても、殆どアリエネェ存在なのさ。
 だから、あんたの親父さんは……例えるなら、『元の教え』っつー週刊誌でベストセラー書いてた漫画家で。それが独立して、雑誌一つ立ち上げちまったよーなモンだと思えば、分かりやすい、かな?」

「……何でそんな事に詳しいんだよ?」

「いや、俺の姉さんの願いが『大金』だったのは知ってるだろ?
 で、最初に相手にしなきゃいけなかったのは、魔獣でも何でもなくて、税務署と警察署でな……『こんな大金、どこで拾ったんだ!?』って、説明不可能なお金に、大騒ぎになっちまった。
 親戚もハイエナみたいな連中が揃ってたからな……誤魔化すのに、マジで一苦労どころじゃなかったぜ。

 っていうか、今でもオッカネェんだけどな、税務署って……税金の申告とか、全部殆ど俺がやってるし。

 で、その過程で『税金払わないでベンツ乗りまわすお坊さん』なんて話を聞いてたから、宗教法人ってモンに関して、色々調べたんだよ。
 最初は、魔法少女やってた姉さんを本尊に新興宗教でも起こしてやろうか、とか考えてたんだけどね……すぐ無理だって分かった。世の中、神様だけでメシが喰えるほど、甘くない、ってな。

 だから、お前さんの親父さんのやった事はともかく……『説法の力量は』誇っていいモンだと思うぜ?
 要するに……引っかかったうちの親父やオフクロが、馬鹿だったんだよ」

「そ、そう……なのか……?」

「ああ、そうだよ。必死になって俺が何を言って説得しても、聞く耳一つ、持ちゃしねぇ。
 挙句の果てに……ま、これ以上語るのは、野暮ってモンだな。
 俺も、お前も。お互い、馬鹿な親を持っちまった……つまりは、そーいう事さ」

「あたしの親父は……父さんは、馬鹿なんかじゃ……ない」

「……あ、すまん。そうだな……お前にとっちゃ『親』と『師匠』が一緒だもんな……悪い事した。すまねぇな。
 まあ、俺だってあのトンチキ師匠と会ってなければ、一緒になって首くくってたかもしれねぇしな……正味、今の俺が在るのは、あの人に鍛え上げられたからのよーなモンだし」

 あの、珍妙不可思議にて胡散臭さにかけては、どこぞのピコ麻呂真っ青な、トンチキ師匠を思い出す……もー、怪我の功名というか、何と言うか……

「そーいやよ、アンタの剣の師匠って……どんな人だったんだ?
 あんたに、あんなスゲェ剣術教え込んだ人物が、どんな奴だったのか……ちょっとついでに聞きてぇんだけど」

 その言葉に……俺は、腕を組んで、渋い顔をした。

「う、ううーん……いや、なぁ……それが……」
「なんだ、話したくないのか? だったら……」

「い、いや、話す分には構わないんだ。
 ただな……その……正直、俺自身にとっても、あの人が『何者だったか』なんて今でも定義不能なんだよ。
 デタラメに喧嘩が強くて、凄腕の剣術使いで、ペテンとイカサマと詐欺の達人で……アル中で、50過ぎて女抱きまくってて、安アパートでクダ巻いてるくせに、変な所と変な人物に、異様に広いコネを持ってたりする。
 本当に、『謎の人物』としか、言いようが無い人なんだ」

 俺の言葉に、佐倉杏子が呆れ果てた。

「……よくそんなのに弟子入りしようと思ったな、アンタ?」

「ああ。自分でもそー思うよ。
 その人なぁ、基本的に、嘘は言わないんだけど、やること成す事デタラメでさ。
 信じられるか? 中学一年の段階で、弟子の俺に、腹にダイナマイト巻かせて、日本刀一丁でヤクザの事務所に特攻させるんだぜ?」

「……マジ?」

「マジだよ。
 そして、そんな騒ぎの中、自分はヤクザ屋さん家の金庫開けて、中から金とかカッパラってトンズラだよ。
 正体隠しながら、全員、『死なないように』切り伏せて必死になって逃げ回ったらさー……どこぞの飲み屋にツケ全部払ったあと、オネーチャンたちと豪遊して、ベガスだか何だかに行って、スッテンテンになって帰って来た。
 も、滅茶苦茶通り越して、豪快そのものさ」

 ちなみに、そのヤクザの事務所は、何故か組織ごと『消滅』しているのだが……俺はそれに関して、詳しくは知りたくない。
 きっと、世にも恐ろしい物語が、あの人の事だから、背後で蠢いているに違いないのだ……いや、マジで。

「他にも、サンタクロースの格好で『メリークリスマス』とか言いながら、ヤクザ屋さんの事務所にダイナマイト放り込んだりとか……もう、ね、色々と『神話』を創り出した、化け物でな。
 そーかと思うと、飲み屋で強盗しよーかとかフいてる若者たちと、一緒になってマジで強盗しようとしたりとかしてな……すれすれになって、その若者たちが『ヤバさ』に気付いて、ビビって逃げ出しちゃったりとか。
 こう、なんつーのかな。ペテンとイカサマと暴力の化身? でも、何でか不思議と人を救っちゃったりする人、かな?」

 その言葉に、佐倉杏子が、呆れ果てる。

「そんな怪人物の正体とか、探ろうとは思わなかったのかよ?」
「それがな。探れば探るほど、混乱して来るっつーか……皇族だとか、傭兵だったとか、新聞記者だったとか、得体のしれない嘘経歴ばかり掴まされてな……もう、二十くらいかな? ダミーの経歴に引っかかったのは。
 だから、もうあの人の正体探るの、諦めたよ……どーせ多分、ロクな経歴じゃねぇと思うし。本人見てると、さ。
 まあ、そんなトンチキ師匠でさー。
 口癖が『正しい事ほど、疑ってかかれ。自分の頭で考えろ。まして、胡散臭い大人は、よく疑え』だったしなぁ……自分が一番、胡散臭くて妖しい大人だっつーの。
 だから、こう、何と言うか……コトを疑ってかかるクセとか、そーいったのはついたなぁ」
「……スゲェ師匠だったんだな、その人」
「まあ、俺が接した、親以外の大人では……何て言ったらいいのかなぁ? 尊敬はしてるけど、信用はしてないし出来ないっていうか。
 あの人の教えてくれた中で、たった一つ信じられるのは剣術だけ。
 それ以外は、ほんと、色んな意味でダメ大人の見本みたいな人だったよ。マジで」
「そう、か」

 そう言って、黄昏る佐倉杏子に、俺は追加のお菓子を渡す。
 何だかんだと、袋山盛りのお菓子は、もう半分になろうとしていた。

「あ、そういえば……お前さ」

 ふと、こいつにも、確か妹が居たハズだよなぁ、とか思いだし……

「あ……いや、その……いいや。すまん」
「なんだよ、言いだしかけて。……気味が悪ぃな」
「いや、その……お前も、妹とか、居たよなぁ、って……沙紀の事で、ちょっと悩んでてさ。
 すまない、変な事、聞く所だった。これ、やるよ」

 そう言って、お菓子山盛りの袋を、押しつける。

「他人は他人、自分は自分だし。
 第一、俺の家って、よその家の事なんて参考になるめぇし。
 ……ウチくらいなもんじゃないか? 一家揃って、子供全員、魔法少女だの魔法少年だのやってる家は?」
「っ……そうだな。あんたの家、ちょっと特殊かもな。……特に、アンタが一番」
「うっ……」

 否定できない、自分が悲しい。

「ま、何とか向き合ってみるさ。
 沙紀の奴がさ……俺に上等切って、家飛び出しやがって。『絶対、お兄ちゃんを超えてやる』って」
「ああ、何? その相談かよ」
「うん、まあ、その……な。どう接するべきかとか悩んでいたんだが……。
 まあ、突っかかって来るなら、軽くいなして力量差見せつけて、頭でも撫でてやるさ。
 あいつはまだまだ、独り立ちには早すぎるよ」

 そう言って、俺は立ちあがった。

「じゃあな。話、聞いてくれて、ありがとな。
 ……その。普段、あんま会いたくないっつーか……ぶっちゃけ、避けてたからさ。
 やっぱ、お互い、アレだろうし」
「ああ、そうだな……」

 多分、これは今夜限りの事。
 調子を狂わせた俺が、たまたま、話し相手を欲しただけ。

「家に帰って、風呂入って寝るわ。じゃあな……」

 そう言って立ち去ろうとし……

「あのさ、あんた……沙紀ちゃん、あまり舐めないほうがイイと思うよ?」
「なんだよ? あいつの評価、みんな妙に高いんだな?」
「あの子は……何と言うか、不思議な子だよ。
 誰にも勝てないのに、何でか生き残って勝つ。一番油断できない、ビックリ箱みたいなタイプの子だよ」

 なる、ほど。佐倉杏子の評価も、もっともだ。
 だからこそ……

「だからこそ……俺は、『沙紀の壁』にならんと、いかんのかもな」
「壁?」
「子供にとって、守るべき盾であり、越えねばならぬ壁。
 子供が親を超える時ってのは、確かにあるのかもしんないけどさ。そん時に親として、壁として低すぎたら、超える意味が無くなっちまう。
 そして、俺としては、沙紀の奴に、まだまだ俺っつー壁を超えさせるつもりなんて、毛頭無いしな」

 そう。
 ならば……ならば、やるべき事は一つ!!

「……よし、覚悟は決まった!
 真正面から完膚なきまでギッタンギッタンに叩きのめして、兄の偉大さを、もう一度、その身に叩きこんでくれる!
 覚悟しろ、馬鹿妹め! 夢と希望を抱いて溺死するが良いわ……グハハハハハハ!!」

 高笑いをキメながら、俺は意気揚々と自分の家へと戻って行った。


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