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No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
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[27923] 終幕:「御剣家の乱 その5」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/01 09:05
「どっ、どういう事だよ、こりゃあ!?」

 決闘。
 その覚悟を以って、装備その他を整え、その場に臨んだのは、いい。

 だが……

「わー、来たーっ!!」
「へぇ、あれが……『魔法少年』?」
「悪く無いなぁ、巴さんが惚れたの、分かる気がする」
「良くも悪くも、骨っぽいよねー」
「一昔前のタイプだけど、イケメンではあるよねぇ」

 ……なんだよ、おい?
 教会組の観客くらいは覚悟してたけど、知ってるの知らないの含めて、異常な人数の魔法少女が集まってるのは……一体、どういうこった!?

「沙紀……これはどういうこった!?」
「えへへー、みーんなあたしの、『お友達』だよ!」

 ますます、ワケが分からない。というか……

「おせんにー、キャラメルー、ピーナッツは如何ですかー♪」
「はい、ジュース150円です。まいどー」

 ……その『観客』相手に商売してる、教会組の面子は、なんなんでしょーか!?。

「……沙紀。日を変えるぞ。どーも決闘だとか、そーいった空気じゃない」
「ん? 逃げるの? お兄ちゃん。
 じゃ、私の不戦勝ねー、わーい♪ お兄ちゃんに初勝利ーっ!!」

 喜ぶ沙紀。さらに……

「そうだそうだー」
「逃げるな馬鹿親父ー」
「むしろ逃げちゃえ馬鹿親父ー」

 観客からのブーイング。って……

「やかましゃあああああっ! 大体、家庭の喧嘩だぞ、これ!!」
「だから?
 どっちにしろ、ここに来たって事は、『今日、この場で決着をつける』って、双方合意してるって事だよね?」
「……いや、だから、って……」

 どっちかというと、これ、家庭の恥の問題である。
 それを衆人環視の中で解決する程、俺は恥知らずではない。

 って……

「そうか……沙紀、そういう事か。
 『皆が見てる前だから、無茶はしないだろう』とか……甘い事考えてるんじゃ無いだろぉなぁ?」

 と……

「違うよ。
 今から、お兄ちゃんはコテンパンに負けて、その生き証人に、みんなになってもらうんだから!
 あ、この勝負、キュゥべえ通じて、全世界の魔法少女に中継されてると思ったほうがいいよ?」

 ピキピキピキピキピキ……

「上等切ったな、馬鹿が……!!」

 と……

「ハイハイハイハイ、試合前にヒートアップすんのはそこまで!
 開始のゴングは守ってね」

 沙紀と俺との間に割り込んだのは、チカだった。

「チカ……そうか、この筋書き書いたのは、テメェか!?」

 何だかんだと。
 お互い、前線で剣を振るいながら、ドブさらい等で手の内を知り尽くした同士である。
 そして、こんな筋書きを描ける魔法少女っつったら……コイツ以外、思いつかない。

「提案はした、かな。
 何て言うか……アンタが『今、敵に回してるモノが何か』って事くらいは理解してもらいたいな、って」
「あ!?」

 おかしい。
 俺は今夜、沙紀との決闘に臨んだ。それだけのハズだというのに。

「……ま、せいぜい足掻いてみな、『魔法少年』。
 最強のアンタは、今日、この場に……『あんたにとっての最弱に』負けるのさ」
「ケッ、ぬかせ!
 男はなぁ……増してや『親父』や『兄貴』ってモンは!
 どんな時だろうが、『家族の前では最強じゃなきゃ』勤まンネェんだよ!!」

 そう。
 誰かに俺個人が負けるのはいい。
 だが、自分に負けるのは認めない。家族を守れない自分は認めない。

 それが例え、一人で無理をしてでも立とうとする、沙紀(かぞく)だとしても。
 それを安易に認めてしまえば……結局、不幸になるのは沙紀自身だ。

「……だから、沙紀。お前こそ降参すんなら今の内だぜ!
 俺の兗州虎徹(えもの)は刃引きなんざぁしちゃいねぇ……ここまでやった以上、ガチで叩っ斬られる覚悟だきゃあ、キメておくんだな!」
「上等だよ、馬鹿兄貴!
 ……ゴングが鳴った瞬間、宇宙の彼方まで『消し飛ぶ』覚悟くらいしておいてね……」

 ほほう……能力の相性(ダイヤグラム)的に9:1な割に、いい度胸である。

「OK、沙紀。
 ここまでオメーがお膳立て整えたんだ、乗ってやろうじゃねぇか!」

 十中八九、罠だと悟りながらも。
 俺はあえて、兄として、父として、『小賢しい罠ごと踏み砕く』覚悟を決めて、俺はそれに踏み込んだ。



「……冷静なあんたらしくないね。ここまで露骨な挑発に、あえて乗るなんて」

 臨時に割り当てられた、控室……に、居たのは、佐倉杏子だった。

「なんだ、アンタがココに居るのも、沙紀の作戦の内か?」
「まあね。そーいう事」

 ここまで徹底していれば、むしろ『見え透き過ぎて』笑えてしまう。

「観客利用した『アウェー効果』全開で、精神的動揺を誘う、か……まあ、作戦としちゃあ悪くは無いさ。
 確かに俺は、観客の前で闘うために、見世物として積んだ技や剣なんて持っちゃいない。『体を鍛える趣味はあっても、バトルマニアじゃあない』しな。
 なるほど、こーいう経験は……こういう『実戦』は、生まれて初めてだ」

「その割には、格闘技とか銃器とかに詳しいよね」

「『武器を知る』のは重要さ。
 どんなスペックで、何が出来て、何が可能なのか。
 闘いの場で、下手な幻想は命取りだ。
 妄想と想像は、紙一重だしな。それを分けるのが『知識』と『経験』なのさ」

「じゃあさ。
 アンタはこの場合、『闘う前から負けてる』事に、ならないか?」

「かもな。
 孫子の兵法持ち出すまでも無く、『作戦としては』『この場に現れた段階で俺の負け』だ。

 だがな、世の中は、そして人間は、作戦通りにコトが運ぶワケじゃねぇ。実戦じゃ、何がどー転がるかなんて、分かりゃしない。
 ……沙紀の奴は、その辺の判断力や作戦立案の能力は、悪いモンは持って無いが……まだまだ『実戦』てモンが分かっちゃいない。
 正味、理詰めで思考出来る部分は七割から八割だ。残りの三割とか二割はな……最前線で修羅場を潜んなきゃ、絶っ対ぇ見えて来ねぇんだヨ。
 あんたも実戦派なら、それくらい分かるだろ?」

「まあ、ね……確かに、あの子は色々と凄いよ。『未完の大器』だってのは、あたしも認めるさ」

「ああ。
 だからこそ、俺っつー保護者無しに、闘いの場に出すのは、まだ十年早い。
 世間ってのは……世界はトコトン不条理で理不尽だ。
 そんでな、親ってのはそれから守るために、その『理不尽』で『不条理』な存在で無けりゃならないのさ。

 子供にとって、一番の『世間』ってのは、『世界』ってのは、やっぱ『親』なんだよ。
 だからこそ、時として『不条理と理不尽を教える事』もまた、愛情の内なのさ……」

「っ……あんたは……」

「元から憎まれるのは覚悟の上さ。
 俺は……元々、不器用だからヨ。こーいう愛情くらいしか、示してやる事が出来ねぇんだ。
 これで俺を超えて行けばよし。超えられなければ『ソレマデ』って事だ」

 その言葉に、佐倉杏子は黙り込む。

「そっか……『それもまた、優しさの内』って事かい?」
「まあ、俺は……男だからな。
 沙紀みたいに、他人の……まして女の心の襞を読み取って、誰かに優しく接してやるなんて、到底出来っこ無ぇのさ」

 何だかんだと。
 結局、俺が……俺みたいな不器用な朴念仁に出来るのは、示せるのは……それくらいである。

「……馬鹿だね、アンタ。伝わらない優しさに、何の意味が在るんだい?」
「知るかよ。それ以外に、出来ねぇモンは出来ねぇんだ……
 第一、『理屈や言葉じゃ伝えられないモン』を、『無理矢理伝えよう』っつーんだ。
 だったら、態度で、行動で、『示す』以外無ぇだろーが」

「っ……ほんと、馬鹿だね、アンタ。
 そんだけ頭いいのに、何で……」

「だから言ってるだろ?
 愛情だ何だってのは、理屈じゃ無い。それは元々『不条理』で『理不尽』なモノなのさ。……だからな……それが『全部正しく伝わる』なんて事を期待する方が、そもそも基本的に間違ってるんだヨ。
 仮に、親の愛や言葉を、全く疑いも無く『鵜呑みにしか出来ないイイ子ちゃん』な子供が居たとしたら……そいつは文字通り、『親のデッドコピー』にしかならないし、最終的に親よりも『不幸』になっちまうしか無いんだよ」

「っ……!」

「親ってのは、師匠ってのは、世間ってのは……『他人の言葉ってのは、まず疑って自分で考えて、噛み砕いて飲み下してナンボ』だ。
 テレビ見てるみたいに、鵜呑みにして聞き流してズルズル行ったら、最終的には魂をフォアグラにして取られる、文字通り『カモ』にしかならねぇ。
 そーやって疑って疑って、最終的に残った『自分が信じられるモン』を、自分の中に、自分なりにカスタマイズして組み上げて行って、初めて人間ってのは、世間を渡って行く『自分』が出来るよーになるのさ。

 ……と言ってもまぁ……俺みたいに無垢なヒナ鳥の段階で、ヒデェ目見て生き残っちまった人間ってのは、やっぱどっか捻くれちまうから、やり過ぎても、あんまイイ事じゃねぇんだけどな」

 笑う。

「沙紀の奴が、どんな効果期待したんだか知らんが……逆効果だぜ。
 あんがとよ、佐倉杏子。
 これで安心して、あの馬鹿をぶちのめす事が出来る、ってもんさ。
 ……それにな、この闘いに『備えをして来た』のは、沙紀だけじゃないんだぜ?」

 そう言って、俺は……腰の紐に通して提げた、五円玉の束を見せる。その数、おおよそ、30枚弱。

「……なんだそりゃ? 五円玉?」
「『指弾』とか『羅漢銭』……って、聞いた事、ネェか?」

 そう言って、俺は、先端を団子にして括った紐から、二枚、五円玉を手の中に送り込む。

「つまりは、こういう事さ」

 そう言って、五円玉を一枚、指ではじく。
 ガンッ!! と……転がっていたジュースの缶に、穴が開いた。

「単純な威力なら、凡そ、九パラの拳銃くらいの威力と射程かな……遠距離戦用に、飛び道具の一つくらいは用意してきた、って事さ。
 コイツを軸に、『否定の魔力』を使って、色々、小技の練習だって、してきたんだぜ?」

 不敵に笑いながら、俺は五円玉を吊った『弾倉』を、腰に戻す。

「人間、どんな『手札』を握って、オフクロの腹から生まれ落ちるかなんざぁ、運次第だ。
 そして、魔法少年として……魔法少女たる御剣沙紀の『親代わり』として、俺に持ち合せて示せる『魔法』の手札は、生憎と『否定』っつー、こんな単純(シンプル)で原始的なモンしか無くってヨ。
 ……だから、『そいつを使って何が出来るか』……考え抜いて生き延びてきた。それが『魔法少年』としての、俺の全てだ。
 だからな……」

 そう言って、俺は壁に貼ってあるポスターに向かって、もう一枚、五円玉を叩きこむ。
 破れたポスターの裏側に、小細工じみた魔法陣……恐らくは、監視か何かの魔法だろう。

「分かっただろ? 小細工は無駄だぜ……沙紀。お前を『罠ごと徹底的に、叩きのめす!!』」

 もう一か所のポスターに向かって、俺は不敵に笑った。

「アンタは……沙紀ちゃんにとっては本当に『オッカナイ親父』だね。
 それを不幸と見るか、幸せと見るか……女のあたしにゃ、少し理解に苦しむなぁ」
「だから、それ以外に『愛の示し方』を知らないダケだっつの……不器用なダケさ」

 そう言って、俺は立ち上がる。
 そろそろ時間だ。

「そうやって『家族の為に最強』を張り倒す。……そんな滅茶苦茶な生き方、どんだけアンタ、続けるつもりだい?」

 佐倉杏子から俺への問いに、決然と返す。

「『無論、死ぬまで』って奴さ。佐倉杏子。
 少なくとも、俺の師匠は、お前の『師匠』と違って、こと『剣に関しては、死ぬまで最強だった』からな。
 『それだけは、あの人を信じられる』。
 だったら俺も……そう征(ゆ)くまでだ!」

 そう言って、物理攻撃対策にゲプラー繊維や鎖帷子を仕込んだ、黒いトレンチコートを改めて羽織りなおすと、スタングレネード等『物理的フラッシュ』対策のために、黒いグラサンをつける。コートの襟は大き目に作ってあり、催涙ガスを防ぐ事も出来る。
 無論、防刃、防弾スリーブをズボンその他、各所に装備。……爆弾でも至近距離で爆発しない限りは、多分、大丈夫だ。

 ちなみに、総重量20キロなり。
 ……少し動きは鈍くなるが……ま、問題は無いレベルだ。

「あ……あんた、その格好さ! ……ちょっと待ってくんねぇか?」
「あ?」

 と。
 佐倉杏子の奴が、部屋を出ると、何か黒いカウボーイハットを持って帰って来た。

「そこの景品コーナーのガラクタの山にあったのを思い出したんだ。なんとなく思ったんだけど……似合うと思うぜ?」
「言わんとする所は、大体読めたけどヨ……コスプレの心算は無かったんだがね」

 苦い笑顔が浮かぶ。

「ま、いいさ……ここまで沙紀とチカが舞台整えたんだ。ンで、プロレスなら『演出』も必要だしな。
 ああ、そうそう……このキャラの登場の台詞回し、なんだったっけ、確か……」

 ゲームのキャラの台詞を思い出しながら、頭を巡らせること、暫し。

「えーっと……『どうなっても知らんぞ!!』だっけ……か?」
「『瞬きする暇は無いぜ』、だよ」
「だっけ……か?
 スマネェな。四年もゲーセンにご無沙汰だと、好きなキャラの台詞回しも、忘れちまっててな。
 そうだな……この勝負っつー馬鹿騒ぎが終わったら。
 沙紀と、チカと、巴さんと……ついでにお前さんも、見知った連中連れて、ゲーセンやカラオケにでも行くか」

 ……などと、完全に舐め倒した事を考えながら……俺は控室を後にした。

 そう……ある意味俺は……この状況を、色々な意味で完全に『舐めていた』としか言いようが無かった事を、後に思い知る羽目になる。



 潰れたボウリング場のホール。
 その両端の出入り口に、青い塗装と赤い塗装が塗られ、リングサイドの代わりになっている。

 なお、戦場は、この廃ボウリング場全て。
 勝負は時間無制限一本勝負で、ギブアップか、結界を超えての逃亡。
 そこに無数に配置された、キュゥべえの奴が今回、カメラ役らしい。
 ボウリング場の外からは、無数の魔法少女たちの息を飲む様子が、手に取るように伝わって来る。

 ……全世界生中継での、兄妹喧嘩か……まったく、派手な事やりゃあがる……

『さあ、兄妹全員が奇跡と魔法の関係者という、御剣家において、因縁の一戦!

 愛ゆえに! 兄は妹の壁となり!
 愛ゆえに! 妹は兄を超えんとする!
 正に、名勝負の火ぶたが切って落とされようとしています!

 あ、申し遅れました。
 実況は私、斜太チカ。解説は、キュゥべえと、暁美ほむら。
 特設結界リングの提供は、佐倉杏子、巴マミの両名による、オクタゴンリング方式で、お送りします』

 なんか、イイ調子で、外の実況席でノリノリに観客まくしたててるチカの声が聞こえる。……お前はどこぞの古舘さんか?
 ……まあいい。そういう演出ならば、乗ってやろうじゃないか。

 やがて、流れて来るBGM……って、これは……

『青ーコーナー! 挑戦者サイドー!! 御剣ぃぃぃぃぃ沙紀ぃぃぃぃぃ!!』

 スポットライト代わりに使われた、照明の魔法の中。
 某、型月曰く、『公式処刑用BGM』とまで言われた……まあ、例の赤コートの弓兵のBGM鳴らしながら、ホール……もとい、『リング』に入って来る沙紀。

 ……まんま過ぎるぞ、おい。

 あまつさえ、魔法少女姿ではなく、赤コートなんぞ着て両手に例の夫婦剣(もちろんオモチャ)を手にして、ノリッノリでコスプレしてるアタリなんぞ、もーアレ過ぎである。 
 ……そいえば『アチャ子』ってなんかであったよーな……っていうか、お前、剣術以前に、接近戦の心得と才能、絶無だってのになぁ……ぶっちゃけ常人以下だし。

「少しは捻れよ……馬鹿……」

 ついでに言うなら、そのBGM。
 『理屈の通じないバーサーカー』相手には敗北フラグでもあるんだけどな。
 そして、俺は……今回、『この闘いに限って言うならば、理屈で闘っているワケでは無い』のだ。
 でなければ、こんな茶番に付き合う、義理も理由も無いのである。

『赤ーコーナー! チャンピオンサイドー!! 御剣ぃぃぃぃぃ颯太ぁぁぁぁぁ!!』

 で、俺に用意されていた入場曲は……何か、激しくメタルアレンジされた『ゴッド・ファーザー』のテーマだったり。
 ……流石に、ギル○ィ・ギアのサントラの用意なんかはしてねぇか。

「よう、沙紀……処刑用BGMで入場たぁ、随分ゴキゲンな演出じゃねぇか。『テメェが死ぬ覚悟はできてる』って事でいいな?」
「ふん! だ。お兄ちゃんこそ、13回くらい射殺される覚悟はあるんでしょうね!」

 手加減抜きの殺気を叩きつけて、視殺戦を繰り広げながら……俺は、内心、嬉しくなってきた。
 あの沙紀が……俺の目をまともに見て、立ち向かおうとしている、その姿に。

 だが……まだ、その目で俺を睨むのは。
 お前には、実力的に十年早い!

「ぬかせ……お前が何か、コピーした能力一発ぶっ放す間に、俺は10回は抜刀出来るぜ」
「ふん。せいぜい、届きもしない剣を振りまわしてなさい、この原始人!
 私が……奇跡と魔法の『究極』を見せてやる!」
「そうかい、俺は原始人か?
 じゃあ、俺は……奇跡と魔法の『原点』を見せてやるよ!」

 こと、『能力の種類』に関しては、文字通り『無制限』のセンスを持つ沙紀。
 それに対抗する俺は、『無尽蔵』の魔力を持つものの、出来る事は……ただ『否定』のみ。

『やってみんかいゴラァ!!』

 そして……開始の合図のゴングが……鳴った。



「っ!」

 半身になって、何か……右腕で『盾』のようなモノを展開する沙紀。
 だが……

「遅いっ!!」

 一瞬で間合いを詰め、その『右腕の盾』が何か機能を発動する前に、切断し……

『っ!?』

 驚愕に顔が歪んだのは、双方ともだった。

 沙紀の姿が一瞬でかき消え、俺の左足と右足に、鈍痛が走る。
 一方、大きく距離を取った沙紀は……自分の撃った銃弾が効いてない事に、完全に絶句していた。

(テレポート……? にしちゃあ、妙だな)
「嘘っ、防弾装備!? 聞いてない、そんなの!」

 半身で隠した、もう一枚の『左手の盾』と、いつの間にか右手に手した拳銃……ベレッタM92Fを手に、絶句する沙紀。
 遅ぇよっ!!
 間髪入れずに、俺は沙紀の拳銃を、腰の五円玉を三枚ばかり右手で掴み取って『狙撃』!

「っ!」

 だが……

「……どういう、事だよ?」

 思わず、口にして呟いてしまう。
 確実に五円玉で弾いたハズの拳銃を、沙紀が瞬間移動して引っ掴む。
 のは……いいのだが。

 何かが、違う。

 これは……『テレポートなんぞでは、断じて無い』。
 そもそも……

(沙紀は何時、発砲した?)

 『最速』の俺の目を、スピードで誤魔化す事は出来ない。
 『幻想殺し』の目を持つ俺を、催眠術や幻惑で惑わせる事は出来ない。
 なら、沙紀のやっている魔法は……何だ?

「沙紀……その能力、『誰から借りた?』」
「っ……へーんだ! 私に勝ったら教えてあげる!!」

 再び、沙紀の姿が消え……

「ぐっ!!」

 今度は右足に集中的に、ベレッタの弾が弾着。
 全身を『否定』の魔力で覆っている状態なため、魔法的な攻撃は、ほぼキャンセル出来るものの。
 流石に、銃弾の類は、物理的な装備で防ぐ以外無い。

(……危なかったぜ。防弾装備を仕込んで来なければ、一瞬で機動力殺されてた)

 内心、冷や汗が出る。
 ……いや。

「どうした? セコい場所しか狙えないのか?」
「言ったでしょ!
 お兄ちゃんに『夢と希望』を、無理矢理でも見せつけてやるんだ、って!
 ……『殺すダケ』なら、何時だって出来るんだから!」
「それはお互い様だぜ……初太刀でソウルジェム叩っ斬られなかっただけ、ありがたく思え!!」

 そう言うと、俺は沙紀の『盾』と銃、両方目がけて、五円玉を弾く。

「っ!?」

 その弾を、左手の盾で受けて……『受けてしまった』、沙紀が絶句した。

「甘いぜ……」 

 否定の魔力を込めた五円玉が盾に食いこみ……盾が『消滅』。
 俺なりに考案した、遠距離型の『能力封じ』、『魔力封じ』だ。
 が……

「ほぅ?」

 普通は十秒かそこら程度、特殊能力が使えなくなるハズなのだが……沙紀の奴は、あっというまにもう一つ、右手に『盾』を再構築してのける。

「『万能』舐めるな、馬鹿兄貴!」
「上等!」

 そこからは、イタチゴッコの様相を呈してくる。
 五円玉の一撃で、『盾』を消去しながら間合いを詰めようとする俺。
 その盾を再構築して『謎の能力』で回避しながらも、俺の『足』を殺そうと銃弾を撃ち込んでくる沙紀。

(まただ……感覚総動員しても、『コマ落とし』としか認識出来ネェ……)

 沙紀そのものの動きは、以前と変わらず、決して早くは無い。むしろ遅い。
 だが……盾が動いた瞬間、姿がかき消え、足に銃弾が叩きこまれている。

 というか……

(ヤバいな……そろそろ、鎖帷子仕込んだ防弾スリーブとはいえ、妖しくなってきたぞ)

 なんぼ通常型の9パラ弾とはいえど。
 何発もの集中射撃を受けた、足の部分の防弾装備が、だんだんと心許なくなってきた。
 って……

(『コマ落とし』……って……まさか、沙紀の奴!)

 沙紀の走る速度。それと、現れた位置関係。そこから割り出されるのは……

「時間停止かぁっ! 誰だか知らねぇが、トンデモネェ力を借りやがったな!」
「っ!」
「だが、『能力の相性的に全然』なんだろ!?
 一介の発動で止められるのは、一秒か、せいぜい二秒か?
 能力の発動時間と、同じくらいの隙があるんじゃねぇのか!?」

 でなければ、俺は一瞬で倒されているハズだ。

「くっ! このっ!! ……えっ?」

 更に。
 ガギッ……と。沙紀のベレッタが、妙な異音を立てる。

「う、嘘、ちょっと……」
「弾詰まり(ジャミング)だよ……オート系の拳銃じゃ、よくある事故さ。
 お前、考えなしにぶっ放しまくってただろ?
 弾も外れ初めてる所見ると、銃身もオーバーヒート起こしてるか何かしてユガんでんだよ。下手すりゃ暴発さ。
 ……粗悪品、掴んだな」
「っ……!!」

 絶句する沙紀。
 鉄砲を使って時間停止から叩きこめば、何とでもなるとでも思ったのだろう。

 甘いぜ。
 『武器』ってのは、メンテナンスを完璧にして、初めて十全に機能すんのさ。
 誰がセコンドに就いてのアドバイスかは、大よそ予想がつくが……武器の管理その他を甘く見過ぎだぜ。
 増してや……ズボラな沙紀に、そんな細かい事が、こなせるもんかね?

「さて、手品のトリックは? 次は何だ、沙紀?」
「くっ……! このぉっ!」

 次の瞬間……沙紀の立っていた空間に、爆弾のようなモノが置かれ……

「チッ……! 手製の閃光手榴弾(スタン・グレネード)かよ」

 誤解して、とっさに回避したモノの。
 その隙に、時間停止の能力を使って、とっとと沙紀はホールから撤退してしまった。

「建物全部を使った、潜伏戦かい……だが沙紀よ、俺から目を離したのは、とんだミステイクって奴さ。
 『俺に大技使う隙を、与えちまったんだから』な……」

 そう言うと、俺は目を閉じて集中し、瞑想する。



「土は土に(earth to earth)
 灰は灰に(ashes to ashes)
 塵は塵に( dust to dust)

 心に静寂を(serene heart)
 地に平穏を(tranquil domain)

 自然に帰れ(back to Nature)
 基本に帰れ(back to basics)

 現実は、在るがままに!!(Reality is realized!!)」



 ガンッ! と……鉄拳を建物の中心部。足元の地面に打ち込む。

 俺の大技、『現実肯定、幻想否定の結界(Reality is realized)』。
 ……味方も敵も巻き込むので、普段使っていないが……まあ、こんな状況では有効である。
 それで『リングとなる、廃ボウリング場の中全てを』覆った。

 しかも、かなり強度を上げてある。
 『並みの魔法少女だったら』、ソウルジェムと肉体のリンクが、途切れてしまうくらいに。
 そして、並みで無かったとしても、魔力の行使どころか変身すら不可能だろう。

 ……これで、終わりだ。

「沙紀。だから言っただろ? 『十年、早い』と。
 さて……生きてれば、いいんだがな」

 と……

「生きてるよ、お兄ちゃん」

 そこには、魔法少女の姿から、例の弓兵のコスプレ衣装に戻った沙紀の姿が在った。
 ……チカの『気配消去』か。なる、ほど?

「ほう? で……今度はバズーカでも持ち出すのか?」
「そんなモンじゃないよ……これを……待ってたんだよ」

「あ?」

「私は……『最弱の魔法少女』だよ。
 独りでは何も出来ない、独りでは何処にも行けない。
 お兄ちゃんが居て、冴子お姉ちゃんが居て、マミお姉ちゃんが居て……そんで、佐倉杏子が居て。『みんなが居るから、私はこの場に立てた』。
 みんなが居るから、『最強のお兄ちゃんに立ち向かえた』。

 お兄ちゃん、言ってたよね?
 『神様とか英雄ってのは、所詮、自分に都合のいいアカの他人の事だ』って。
 ……だから、『私の味方になってくれる、神様や英雄』を、今日この場に、いっぱい集まってもらったんだ……」

「だから、何だ?
 どんな神に祈ろうが『手前ェの現実に立つのは、手前ェ独り』だ!
 この状況を、理解出来ない程、馬鹿に育て上げた憶えは無ぇぞ、沙紀!
 ……降伏しろ!」

「違うよ!
 神様や英雄は……夢や希望は、人の数だけ、他人の数だけ『奇跡として存在している!』
 それを……『お兄ちゃん自身だって、誰かにとっての夢や希望だ』って証明してやるために、私はこの場に立ったんだ!」

 そう言って、沙紀の奴は……

「なっ!?」

 普段の……どう特徴を捕えてもいいのか分からない。文字通り『魔法少女』としか言いようのない、平凡な姿とは違う。
 白くドレスアップされ、頭には赤いリボン。そして、手には『魔法の弓』を持つ魔法少女に変身した、沙紀の姿。
 それは……あの時、冴子姉さんを看取った。
 そして、闘いの中、数多の魔法少女の死に際に現れた……。

「鹿目まどか……そうか、お前は『そんな力まで借りやがった』のかぁ!!」
「事業を起こすために借金する時は、借入限度額まで借りるのは、商売の基本だって……教えてくれたのはお兄ちゃんだよ!!」
「そうかい! 友達が一杯で、お兄ちゃんとしては安心だぜ、沙紀!」

 俺の『否定』の魔法は、あくまで力技だ。
 だからこそ、それより『上位の存在の力までは縛る事は出来ない』。

 正味……盲点だったとしか、言いようが無い。
 だが、それを模倣して、行使しているのは、あくまで沙紀自身。……さて、俺の『否定』は、どこまで通じるか!?

「くらえっ!」

 この結界の中では、俺自身も『否定』以外の奇跡や魔法の類……例えば『最速』の幻想は一切使えない。
 だが……沙紀の奴は、『鹿目まどかの力を借りる事で』それを行使出来ている。
 かといって、この結界を解除しては……全願望の図書館(オールウィッシュ・オブ・ライブラリー)で、やりたい放題になった沙紀の手によって、もっと不利になるのは目に見えている!

「くっ……! このっ!」

 兗州虎徹で、飛来した矢を切断。……派手な火花を散らして、斬った手ごたえを感じる事に、絶句。
 俺の『否定の魔法』は、触れた瞬間に対象の魔法が『消滅』する。
 それを手ごたえがある……つまり、『物理的に反動を感じる』という段階で、相当に『相性が悪い』のだ。

 ……そういえば、暁美ほむらに撃たれた時も、大けがをする羽目になったな。迂闊だったぜ!

(これは……下手に何発も斬り払ったら、兗州虎徹(こいつ)と言えど、折れちまうな)

 事、ここに至っては手加減は出来ない……沙紀。悪いが、大けがを覚悟してもらおう。

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「このおおおおおおおおおおおおっ!!」

 乱れ撃ちでぶっ放される矢を、奇跡も魔法も関係無く、ただ鍛え上げた己の技と肉体のみで、回避し、時に斬り伏せ、時に五円玉の羅漢銭で相殺し、沙紀との距離を削って行く。
 だが……

「っ!!」
 
 先程の足もとへの集中射撃は、特製の防弾防刃スリーブの上からでも、相当のダメージを俺の足に与えていっていた。あまつさえ……一発だけ、微妙に肉に食いこんで離れない弾がひとつ。さらに、装備の重さがそれに加わる。

 だからこそ、俺は大技で勝負に出たのだが……ここに来て、裏目と出たか!

 微妙にイメージについていかない『足』にもどかしさを感じ……それが焦りへと変わる。
 くそっ! 落ち着け、冷静になれ……迷うな。この程度の危機は、何度もあった!

 そして……幾合もの剣閃が、矢を斬り払って火花を散らしながら……

『もらったぁっ!!』

 叫んだのは同時で……驚愕したのは、俺の方。
 沙紀の奴……恐ろしい事に至近距離で、『俺の右足目がけて、弓をぶっ放した』のだ。

「っ!?」

 体勢を崩した斬撃は沙紀を掠めるだけに留まり……俺は、その場に、膝を突いた。
 ……なんの……まだだ。
 まだ、五円玉のストックは二発残ってるし、兗州虎徹を投げてもいい。

「やっと止まった……『最速を止めた』よ、お兄ちゃん」

「抜かせ! ……まだ武器はある!」

 否定の魔力を込めた羅漢銭を、沙紀の弓が撃ち払う。さらに、もう一発、払われ……そして、距離を取られる。
 ……くそっ……
 もうこの距離だと、兗州虎徹を投げても、当たらないだろう。

 と……

「お兄ちゃん。『御剣沙紀を見せつけてみろ』って……お兄ちゃん、言ってたよね?
 だから、見せてあげる。これが……『ここからが、私のオリジナル!』『私の本当の力だ』ぁあああああっ!!」

 弓を握った左手を上に、右手を下に。
 空手で言う、天地上下の構えを取りながら……沙紀の右手に、刀が生まれる。
 あれは……俺の、兗州虎徹!?

「願望混成(ウィッシュ・オブ・マッシュアップ)……審判(ジャッジメント)!!」
「なっ!!」

 一瞬。
 沙紀の背中から、白と黒。二色一対の翼が伸びて、力強く羽ばたく。その圧力に、俺は立ち上がる事すら、出来ない。
 
 ……そうか! 沙紀の奴……『結界を展開した、俺の力を利用して』いるのか!?
 そのキッカケは……恐らく、魔法少女の女神、鹿目まどかの力!

 全く、この期に及んで……裏目に出るにも程があるぞ、チクショウ!

「言ったでしょう!
 私一人じゃ、何も出来ない! 私一人じゃ生きて行く事すら出来ない!
 だから『お兄ちゃんも含めた、みんなの力を借りる事しか、私には出来ない!!』
 みんな大切で……お兄ちゃんだって、大好きなんだから!!」

 ゆっくりと、大極図を描くように、弓と刃を持つ沙紀の両手が周り、そのまま、射法八節を描く。
 弓と刃が一体となって解けて交わり、一本のエネルギーの塊のような『光の矢』へと変化する。

「うっ……おっ……おおあああああああ!」

 悪足掻きと悟りながらも。
 俺は、兗州虎徹を盾に構え、全力で否定の魔力を使い、防御に回る。
 が……

「だから……だから……いい加減、悪夢(ゆめ)から目を覚ませ、馬鹿兄貴ーっ!!!!!」

 『そんなものは関係ない』とばかりに。
 問答無用の光の矢が、俺を飲みこんでいった。




 あの日。
 大雨が降っていた、あの日。

 俺は……父さんと母さんと、話をしていたんだ。

『ああいう風に間違ってしまったら、もう家族が根気よく、言葉で説き伏せる以外に無いぞ』。

 一応、曲がりなりにも師匠だった人の言葉の勧めに従って、俺は……色んなインチキ宗教から抜けだした人たちの意見や言葉を聞き、さらに自分なりに神父様の言葉を解釈して、徹底的に頑張ったんだ。

『切支丹はどーだか知らんが、仏門には『法戦』と言うてな……まあ、ディベートっちゅーか、朝まで生テレビっちゅーか。
 そんなノリの結構激しい、言葉のぶつけあいとぶつかりあいがあるんじゃよ。
 お前の家、一応、仏教徒じゃろ? なら一丁、試練だと思って、頑張ってみ?』

 酒飲んでクダ巻きながら、例によってベベレケ師匠のドーでも良さげな、虚実ないまぜの与太話の寝言をアテにして。
 父さんと母さんの、『俺なりに間違ってる』と思った事を、毎日のように、淡々と説いていったんだ。

『やめようよ』
『まだやり直せるよ』
『一緒に行こうよ』
『家族なんだから、さ』

 俺の言葉に、沙紀や姉さんは、納得してくれた。
 けど……父さんと母さんは……最後には、俺の言葉すら、聞いてくれなくなっていた。

 それでも、俺は……頑張って。
 『家族なんだから、いつか言葉は届く』と信じて。
 必死に説得を続けた。

 やがて、例の神父様が発狂して……父さんと母さんが、途方に暮れて。
 それをチャンスだと思って、今度こそ力を入れて、必死に説得したんだ。

『騙されたんだよ』
『しょうがないよ』
『間違ったなら間違ったで、やり直せばいいじゃないか』

 でも……後で知ったんだけど、その時にもう、ウチは返すに返せない借金を、していたんだ。

 親戚の人たちも、もう我が家を相手にしなくなっていた。
 そして……父さんと母さんは。
 最後には『何も信じられなくなっちゃった』んだ。

 そして、それを知って。
 あの日、俺も……ついに、膝を折った。
 父さんが、泣きながら……俺の首に手をかけて来るのを『もー、しょうがないか』と。黙って受け入れようとしていた。
 そして、意識が白くなって……その時に、声が……したんだ。

 『助けて』。

 沙紀だったか。姉さんだったか。……多分、沙紀だったんじゃないかな?
 その声に、言葉に……俺は改めて、怖くなった。

 『死にたくない』

 そして、初めて。
 馬鹿な父さんと母さんに……『家族に、怒った』んだ。

 『なんで俺たちが、死ななきゃいけないんだ?』

 もう、付き合いきれない。
 『これは家族なんかじゃない! 別の『何か』だ』って。

 そして、『敵』として認識してからは、行動が早かった。
 父さんと母さんを突き飛ばし、沙紀と姉さんを二階に避難させ。
 そして、ゾンビのようにすがってくる、父さんと母さんの脳天に、木刀を叩きこみ……俺は、階段から蹴り落としたんだ。

 自分の頭で考える事を放棄して、『誰か』に盲従するしかない……『あれは最早、両親の姿をした、ゾンビ同然なんだ』と。



 なーんだ。
 あの日、俺は……ちゃーんと『俺が信じられる家族を、選んではいた』んじゃないか。



 『たった一つ……大切な家族(もの)を守り通せれば、それでいい』

 ……まあ、つまり。

 俺は、『言葉の闘いで佐倉神父に負けて』、父さんと母さんを失い。
 魔獣に負けて、冴子姉さんを失った。

 つまりは……『それだけ』だったのだ。

 負ければ、死ぬ。
 弱肉強食は、世界の当たり前の法則だ。
 そんな世界の法則から、子供の盾になるのは、やはり……保護者であり、大人の仕事だ。
 その盾が無ければ、弱い子供は、死ぬしかない。

 そして……だからこそ。

「強くなったな……沙紀」

 嗚呼。
 これだけ友達が居て、みんなと笑いながら過ごせるなら。
 もう俺が居なくても、あいつは一人で生きて行ける。魔法少女として……最後まで、ずっと。

 そして。
 走馬灯のように駆け巡る、俺の意識は。
 それでも何とか、ギリギリ『役目を果たした事に』満足しながら。

 今度こそ、完全に、ブラックアウトした。


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