「参ったね、ドーモ……」 放課後。 天を仰ぎながら、俺は溜息をついた。 結局、あの後。 『また』見滝原とそのご近所全部の魔法少女+キュゥべえ総がかりで、街中全部、山狩りを喰らった挙句。 佐倉杏子にしがみついた沙紀の時間停止で追いつかれて結界を組まれ、さらに『否定』で解除しよーとした所で、巴さんとチカのリボンと鎖でトッ掴まり。 『一週間以内に、お返事をさせて頂きます』、と、土下座する羽目になりまして。 いやその。 圧倒的に使い慣れて手に馴染んだ『魔力を伝える媒体』である、兗州虎徹抜きでは、どーしょーもありませんでした。 なんというか……『剣に拘る者は、剣に足元を掬われる』という、師の教えを、最近、もー身に染みて理解しまして。「それに……新しい武器、どーしよ」 消滅してしまった兗州虎徹の代わりを探さねばならないのだが、スペアに用意してあった兗州虎徹を手にしても、どうも『イマイチ』なのだ。 二刀にするとか色々考えてみたのだが、やはりシックリ来ない。納得がいかない。 やむを得ず、魔獣狩りの時は、二刀流(それ)で代用しているが……四年も実戦で使いこんだ、愛刀だしなぁ。 そりゃ、『代わり』なんて『それ以上』じゃ無けりゃ勤まらないし、握る意味も無い、か。 思えば。 あの刀は、魔法少年として、今の今まで、駆け抜けて生き抜いてきた俺の証だった。 兗州虎徹。 元は平凡なタダの自動車部品であるリーフスプリングを、鍛え抜き、叩き上げた一刀。 大陸での戦争中、自らを護るための武器を欲した、武器を持てぬ者が叩きあげた護身の刃。 その在り方そのものに、共感を感じて居たからこそ、俺はその刃に命を託す意味を、見出していたのかもしれない。 だが……今。 俺は、『自分が何者か』、知ってしまった。「『ザ・ワン』……か」 並行世界でただ一つ。唯一無二の『己』だと……いや、まだ『候補生』だけどさ。 そして、俺は……巴さんかチカか。 どっちかにとっての『特別』にならねばならないのだ。「人間なんて誰だって、『とっても普通』で。 だけど……だからこそ、『出会い』は何時だって『奇跡(トクベツ)』なんだよな……」 今まで、『特別』の意味を……俺は『平凡』の中から見出していた。 だが、俺は……もう、ここまで来ては、認めざるを得ない。 俺はやはり……どっか『基本から普通じゃなかった』のだろう。 どこだ? 俺は、何が他人と違う? 考えに、考えた末に、出た結論。それは……「ああ、そうかぁ。 俺は……こんな大量に奇跡や魔法を見せつけられて、それに依って自分でも使っておきながら。 それでも今の今まで、『普通で在ろうとした事そのもの』が、そもそも普通じゃなかったのか」 そもそも、『普通』なんて……どこにも無い幻想だ。 みんなみんな、一人の個人であり、元々は独立したバラバラの砂粒だ。 だから、『平均値』としての『普通』はあっても。 『全てが平均』などという人間が居たら……それはそれで逆に『一つの個性』である。「沙紀の奴なんか、正にソレだよなぁ……」 一個一個の能力は、凡庸、もしくはそれ以下のモノしか持ち合わせておらず。 だけど、大量に展開する事によって、運用と応用で生き延びる。 その究極が……「『願望混成(ウィッシュ・オブ・マッシュアップ)』……か。大したモンだ、全く」 あまつさえ、俺の結界を利用して、神様二つ分の力を混ぜて、ドッカンである。 そういえば……「アイツなら、話さえ通じれば、殺しに来た敵とも、あっさり友達になりそーだよなぁ……」 とある合気道の達人の遺したお言葉だが。 闘いにおける最強技は『殺しに来た相手と友達になる』事だそーである。 アイツは魔法少女の間では、正にそれを地で行ってるとしか思えないしなぁ……誰とでもアッサリ友達になっちゃうし。 ……俺とは大違いである。色んな意味で。 今思えば……魔法少女としての『付き合い』に関しては、殆ど沙紀と巴さん任せである。 頑固で偏屈で、闘いの事以外は、殆ど女性と口を開かない。無骨者の俺を、フォローしてきてくれたのは、彼女たちだ。「その差……か。良き『師』に恵まれたな。沙紀」 俺にとって、愛情を注いでくれた父さん母さんとは別に、あのヘベレケ師匠が、厳しい現実を教えてくれたように。 沙紀にとっては、厳しい俺から優しく庇ってくれて、愛とか優しさとかを教えてくれる師匠が、巴さんだったのだろう。 いや……巴さんだけではない。チカも、暁美ほむらも、佐倉杏子も。 『全願望の図書館(オールウィッシュ・オブ・ライブラリー)』を能力に持つ沙紀にとっては、『全ての魔法少女が師』なのだ。 だからこそ。「もう、安心して良さそうだな」 俺の背中を飛び超えた沙紀には。 それでも、何人も無数の『追うべき魔法少女の背中』が、きちんと見えているハズである。 と。 ケータイから鳴り響く音。通知画面からは、公衆電話からと出ていた。 ……誰だ?「はい、もしもし」『もしもし、御剣さんですか?』「お? おーっ、上条さんか! なんでぇ、今時分、藪から棒に? っていうか、よくこの番号が分かったな?」 コールの声の持ち主は、意外な人物だった。『いえ、その……ケータイの番号、さやかから聞いたんです。 ……明日の午後、退院なんですよ、僕』「ほー、そりゃ目出てぇな? おめっとさん!」『ええ。 で、その……『例のアレ』に関してですね。どう処分したモノかと……』「いや、好きに捨ててくれて構わねぇぞ? アレ?」『だ、だから、その……捨てる場所とかに困ってるから、言ってるんであって。 その……虫が良い話だとは思うのですが、明日、退院の時に、引き取りに来て頂けるとありがたいのですが』 暫し……沈黙。「……気に入ったのとか、持って帰る気、無ぇか?」『そ、そりゃあ……だ、だとしても、段ボール一つ分は無理ですよ』「いや、そこをこう……半分くらい、紙袋か何かに隠してだなぁ」『だとしても、僕、左手が動かないんですけど!? これでも細心の注意を払ってたんですから! ……流石に、父さん母さんや……増して、さやかにバレたら……ちょっと、その……』 うん。確かに生き恥だ。「分かった。預かっててくれたダケ、アリガテェしな。 今日は無理でも、俺が明日の午後、退院前に引き取りに行くよ。幸い、祝日で学校休みだしな」『あ、ありがとうございます。 それで……その……隠して持って帰れそうな何冊かは……』「うん、持ってって構わねぇよ……もともと捨てるつもりで、お前さんに回したモンだし。 ……確かに、要らない分は、俺が持って帰るのはスジってもんだしな」『あ、ありがとうございます、御剣さん! それじゃ、失礼します』「おう、じゃあなー♪」 そう言って、ケータイを切った。 さて。 話は少しさかのぼる。 あの騒動の時に、入院はしたものの。 あの生き恥さらしたエロ本を、そのまま放置しておいては、からかわれる種にしかならないと思った俺は、入院に際して、ダンボールに入れて蓋をして、病室に持ち込んだわけだが。 その時に、暁美ほむらに相談を受けたわけである。『美樹さやかと、上条恭介をくっつけるには、どうすればいいのか?』 聞くところによると……恐ろしい事に、あれだけハタから見てればラブラブな関係の上条恭介と美樹さやかは、暁美ほむらの辿ったループ全てにおいて、カップルとしてのハッピーエンドを迎えておらず。 ことごとく破局か、諦めるか、魔女になるか……まあ、美樹さやか自身が、魔法少女になるかどうかに関わらず、ロクな末路を辿らなかったらしい。 そして、上条恭介と『一番マシ』だと思われる関係。 即ち『友人として、志筑仁美と上条恭介を祝福しながら、彼らと付き合い続ける』事を選び、更に魔法少女として闘い続けてワルプルギスの夜を超えて生き抜いた。 ……などというオチを迎えたのは、どーも俺が生存して生きていた、ループのみだったそーで。「何だよ? 俺は、彼らカップルの、キューピット・フラグなのか!?」「まあ、何と言うか……『結果的に、そうなった』みたいな部分が、かなりあったわね。 だから、彼らが、カップルとして成立するように、協力してもらいたいんだけど」 その言葉に、俺は少し顔をしかめる。「まあ、幾ら魔法少女の女神様の頼み事とはいえ……なーんで俺が、そこまでやらにゃならんのよ? ……っていうかなー、上条恭介。ありゃ正味、馬鹿だぞ」「馬鹿?」「そう、バイオリン馬鹿。ガキの頃から積み続けた己の道を究める事しか、目に無いタイプだ。 脇が見えて無いから、後ろも振り向けない。 外面や人当たりとは裏腹に、典型的な朴念仁の類だと、俺は見たね」 その言葉に、何故か……暁美ほむらが、どんよりとした目で、俺を睨んで来た。「……………相変わらず、『他人の評価は』的確ね、御剣颯太」「ま、『己の背中を誰が見てるか』理解出来て無いんじゃねーの? そーいう前しか見て無いタイプだからこそ、『目の前に現れた』女の手を握っちまうモンさ。 だから、志筑仁美とくっついちまったってぇ話は、ある意味、当然っちゃ当然だなぁ?」「……そうね。そうかもしれないわね……斜太チカに感謝しなさい」「あ? 何のこった?」「いいえ。何でも。 それで……何か、上手い手は無いかしら?」 暫し、沈黙。 そして……「思うに……あいつ、美樹さやかを『異性として認識して無い』んじゃネェのか?」「と、いうと?」「いや、だからさ。 男ってのは『ウマが合い過ぎる』相手だと、異性だとか同姓だとか関係ネェんだ。そんで、『居るのが当たり前の友人関係』って奴になっちまって、『そこから先がある』なんて想像も出来なくなっちまうんだよ。 そうだな、強いて言うなら……俺とチカの関係を見てくれてれば、分かりやすい、かな? もし、チカの奴が『告白から俺に関わらなければ』、多分、俺はチカを『親しい仲間』とは思えても『異性』とは全く認識出来なかったハズだぜ?」「……………貴重な意見だと受け止めておくわ。で、具体的な対策は? 『ザ・ワン』」 その言葉に……俺は暫し懊悩し。「要するに、まず最初に、『上条恭介に、美樹さやかは異性だ』と認識させる事のほうが、重要だと思うんだ」「つまり?」「状況的に、『上条恭介から、美樹さやかに告白させる』のが、一番のベストなんじゃねぇの? どーも、話聞くと、美樹さやかにとって、上条恭介が理想のナイト様になっちゃってるみてーだし。 だったら、美樹さやかに『お姫様』になってもらったほーが、イイんじゃね?」「なる、ほど……で、どうやって?」「うん、それなんだが……とある漫画とか小説で語られた、『深遠な真理』……らしいのだが。 高校生や中学生ってのは、ピッチピチな女の子と会い続けてるから、そーいうのが居るのが当たり前の空気と同じで、無くなって初めてその価値に気付くんだそーだ。 で、大人になっても、Hな事とかは幾らでも出来るけど、あの子と目が合ってドッキドキ……なんてのは、学生の時しか出来ネェそうだ」「……………因みに、御剣颯太。あなた自身にその経験は?」「いんや? 確かに、魔法少女なんて女所帯の中で過ごしてるけど、『そんな感情、全く経験した憶えが無ェなぁ』。 だけど、俺の周りに居る、学校での男友達の連中を見てると……『何と無くそーなんじゃねぇのかな?』とは思うんだ。 だからまぁ……まずは『美樹さやかは異性だと、上条恭介に意識させる事』のほーが、大切なんじゃねぇの? 男ってのは……ああ、特に、上条恭介みたいなタイプってのは、朴念仁なよーに見えて繊細だし。増してやあいつは、アーティスト様って奴だろ? そんで、一度、『友人』って関係になっちまった相手が、無理にゴリ押ししても、絶対イイ結果になったりはしねぇだろうしな」「……………で。具体的な方法は?」 その言葉に、俺は目をそらす。「それなんだが……その方法、具体的に口にするのは、色々な意味で憚られるんだが。 ……聞きてぇか?」「……? 是非。重要な事だと思うから」「その……何だ。 『暁美ほむらには無理でも、美樹さやか、巴マミ、そして斜太チカなら可能な方法』……としか、俺に出来る事は無いか、と思ってる。 通じるかどうかは、運次第って奴だが……上条恭介が『健全な男子』である事に期待しろ」 その言葉に、暁美ほむらが、何かキョトンとした表情を一瞬浮かべ……またドンヨリとした目で俺を睨んでくる。「……なんだよ! そんな目で見るなよ! 悪かったな『健全な男子』で! とりあえず、アレだ、こう……『下心』から入って行くのも悪くネェんじゃねぇの? 相手に受け入れる用意があるんなら、ヨ! それに、男だって常時そこまでケダモノじゃねぇんだ! 恥じらいとか、そーいた部分だってちゃーんとあるんだし、自制くらい出来るっつの、普通は! それに、元々お堅い朴念仁なら、尚更だ! そーいうのは、多少砕いたほーがいいんだよ! どーせ性欲なんて、誰もが何時かは向きあわなきゃいけねぇ問題なんだから!」「……………とりあえず、入院中にお願い出来るかしら?」「あいよあいよ! ……運が良い事に、丁度『小道具』も揃ってるしな。 とりあえず、かるーく『洗脳』してみますか」 そんなやり取りがあり。 で、まぁ……我が家に置いておけない事情を説明しつつ、上条恭介に頭を下げて。 俺のエロ本が詰まったダンボールを見せつつ。「その……み、御剣さん!? ……こ、これは……」「すまんが……コレ、ちょっとの間、病室のベッドの下にでも、預かって欲しいんだ。 気に入ったら、好きなのどれでも持って行って構わんし、オカズにしても構わないから!」「いやいやいやいや、ここここここっ、こォいう本は、良く無いと思うのですが……」「だから、家族に見つかるとマズいから、預かって欲しいって、頭下げて頼んでんだよ!」 ……何と無く、手ごたえあり、だと思い。「うーん……入院中に『溜まってる』かと思ったし、『右手は動く』んだから、いい取引になるかと思ったんだが。 ちょっと、まだ『早かった』みてぇだな。……邪魔したぜ」「ちょっ……その……み、御剣さん?」「いや、確かに、悪い事頼んだのは俺だ。 ……すまんな。やっぱ、俺で何とかするわ」 と……「その……御剣さんが入院中の間、だけですよね?」「ん、まあな。何だったら、全部くれてやって構わんぞ。……どっちにしろ、もうこれ、我が家に置いておけないしな」「そ、その……ちょ、ちょっとの間だけでしたら、お、お預かりしても……」「そうか。いや、マジ助かった、サンキューな! 気に入ったのあったら、どれ持ってっても構わねぇから!」 と、まぁ……こんなやり取りがあって以降。 上条恭介の、美樹さやかを見る目が、少しは変わった……ような……気がしないでも無いような? なんか入院中、時々、無理に『幼馴染だ、幼馴染だ』と思いこんで我慢してそーな雰囲気というか、そんな感じだろうか? ま、とりあえず、下地作りはしてやったワケで……あとはもー、ナニがどー転がるかなんて、知ったこっちゃ無い話だ。 他人の色恋沙汰に首突っ込むほど、俺は野暮では無いし。 何しろ、連中は中学生で、俺は高校生だ。 退院してしまえば、魔法少女絡み以外に、接点なんて殆ど無いに等しいわけで、そっからは同級生である暁美ほむらの領分である。 ……ちょっとムッツリスケベなオッパイ星人が一人、増えちまった気がするが……ま、問題あるまい。『おっぱいこそロマン』って、どっかの人も歌ってるし、貧乳に希少価値はあっても資産価値は無いわけで。 だったら、資産価値を求めるほうが、日本という資本主義国家においては、現実的で健全な認識ってモンである。……多分。 まっ……それは兎も角。「そーいや、確かに回収して帰るの忘れてたなー。 さて……どこに捨てるかなぁ……しょうがない、金庫の二層目に、また封印だな」 とりあえず、男にとっての核廃棄物の処理は、深く静かに埋めるという事で決定した。 で……「なーんでお前が、ついて来るンだよ?」「えへへ……だって、上条さんのファンだったって。お兄ちゃん、知ってるでしょ? 退院前に、『結果を聞かせてくれる』って話、回って来なかった?」 翌日。 俺は、何故かひっついてきた沙紀の奴を連れて、見滝原総合病院に向かっていた。 ……おかしいな、もう少し早く出る心算だったのだが。「んー、っつっても、アイツ、もー天才でも何でもないぞ?」 何しろ、交通事故で、完全に左腕の肘から先が死んでいるのである。 そして……ちょっとネットで齧った程度に調べたのだが。 バイオリンというのは、モノによってはトンデモネェ値段しやがる代物であり、更に、そーいう代物でないと、絶対に『良い音』というのは出せないそーだ。 ストラディバリウスだとか、クレモナだとか、デル・ジェスだとか……まあ、俺にはよー分からんが。 ああいう世界でブランドになる品というのは、それだけの価値のある楽器としての性能を認められた代物だ、という事である。 そんで、もし、仮に。 上条恭介が、どんな真剣に上を目指し続けたとしても。 その演奏技術とは別に、バイオリンという『武器の限界』にぶち当たってしまうのは、最早、宿命的なモノである。 何しろ、あんな状態で演奏する事を前提とした、ストラディバリウスなんて、この世にあるワケが無い。 ちなみに、ストラディバリウス一丁のお値段は……まあ、まちまちなモノの、高いと十二億円とか、そんな風にしやがるそぉで。 たいていは個人所有では無く、貸与の形で音楽家に貸出になるそーな。(……ウチの金庫から、ちょっと金ハタけば買えちゃうのは、とりあえず秘密だ)。「まあ、どんな頑張っても、イロモノ扱い……大道芸レベルが精々じゃないの?」「いいの! 『かつての天才の、努力の結果』を私は見てみたいの!」 その言葉に、俺は暗くなる。「沙紀。天才なんてそんなモノは、この世に存在しない。 人間はな、どんな奴だって、唯一無二の異形なんだよ……」「ほへ?」「いや、『天才だ何だなんて騒いでやるな』って事さ。 取り戻せない過去を思うのは……多分、きっと辛いハズだぜ?」 往く川の流れは絶えずして。しかも同じ元の水に非ず。 河原の石コロですら、同じ石が一つとして無いように。 巨大な原石と言えど、時を経て水に削られて丸くなり、割れて尖ったモノも、また欠けて丸くなり。 そして、川を下り切った最果てには……砂となり、泥となる。(何時かは、俺も。 ハリネズミみたいな、誰かを傷つけるしか出来ない俺も、丸くなれるのか、な?) 小さくていい。 神様なんかじゃなくていい。 ただ、穏やかに過ごしたい。 そのために、闘って、生きて、過ごして来た。 だが……俺はどうやら、神様みたいな、途方も無い力を持ってしまっているみたいなのだ。 だとしたら、案外……上条恭介は、幸せだったんじゃなかろうか? 異能というのは、望む者が全員手にして生まれるわけではない。 無能を望んでいても、異能を手にして生まれてしまった……俺や、数多の魔法少女のように。 だが……(チカ……) あいつは、自らの運命を、文字通り楽しんでるとしか思えない。 人は、ああも軽やかに自らの運命を、異能を、闘いの定めを、楽しめるモノなのだろうか? だとしたら、アイツは凄い才能だとしか思えない。「お兄ちゃん、なんか難しい顔してるよ?」「ん? ああ……最近、色々考えちゃってな」 そう言うが、沙紀は……何故か、微笑んだ。「……えへへ。お兄ちゃん、なんか少し、明るくなった」「え?」「前はさ、無理して明るくしよう、明るくしよう、って感じだったけど。 何か、こう……一個、重大な事がふっきれたみたいな、そんな自然な顔してる」「……ああ、そうだな」 罪の重さや感触は消えていないが。 それでも……父さんと母さんを殺した事には、自分の中で『佐倉神父との敗北』という形で『納得が出来た』のである。 何しろ、沙紀が俺を『一度でも超えてみせた』今。 俺が『最強でなければならない理由』など、もうドコにも無くなってしまったのだから。「勝って負けて、負けて勝って……どんな人間でも、百戦百勝ってのは、アリエネェんだしな。 むしろ、負けられる時に負けて、敗北から学んでおかないと、ロクな事にならねぇのかも……な」「そーだね。私、お兄ちゃんにいっぱい負けたからなぁ……」「……その割にゃ、ぜんぜん学んでネェように思えるがな」 そして、俺が一番『負けた人』っていうと……やっぱり。(師匠……俺、師匠にいっぱい負けまくったよね。 だから、守り通せたんだ。沙紀は、ちゃんと俺を超えてくれたんだ)「なあ、沙紀。 今度、ちょっと暇が出来たら……師匠の墓参りに行って来たいんだが、いいか?」「ん、いいけど……マミお姉ちゃんとチカさんへの返事、忘れないでよ?」「うっ……」 ……言わないでぇぇぇぇぇ! 考えないようにしていたのにぃぃぃぃぃ!「どうせ、考えたくも無かったから、考えて無かったんでしょ?」「いや、その……考えれば考えるほど、こんがらがってきちゃって、ちょっとこう、現実から目を」「週末には、確定するんだからね。覚悟する事!」 あううう。「沙紀、ちょっとココで待ってろ?」「ほへ?」 病室の前で。 俺は沙紀の奴を留めておく。「ちょっと、上条さんと『男と男の話』があるんだ。 女には絶対聞かせられない内容になるから、入るなよ?」「えっ……でも……」「は・い・る・な・よ?」 くわっ、と睨みつけて、黙らせる。「うっ……ううう、はぁい……チャンスだったのに……」 そう言って、病室の扉を開ける。「よっ、元気そうで何より」「あ、御剣さん……間にあって良かった」「で、ダンボールは?」「退院のためのモノはちゃんと、自分で整理してあります」「うん、よろしい。じゃ、コレは俺が持って帰るから」「はい、その……あ、ありがとうございました!」「いや、退院の時、うっかり忘れちまった俺が悪い。すまんな……」「いえ、その、正直……その……助かったといいますか、何といいますか」「そうか……あ、あははははははは」「は、はははははは」 お互い、冷や汗を流しながら、空笑い。 さて。 あとは沙紀を放っておいて、帰るだけ……「やっほー、恭介♪ 退院おめでとー♪ ……って、アレ、御剣さん?」 ガタタタタタタタッ!!! そこに入ってきたのは、美樹さやか、暁美ほむら。 更に……何故か、巴さんや、チカの奴まで、ひょっこりと。 ついでに……「ややややや、やあ、さやか!」「よよよよよ、よぉっ! ……っと?」 見慣れぬ少女の姿に、俺は戸惑う。「ああ? この子、あたしの友達の仁美」「こんにちは。志筑仁美といいます」「あ、こりゃどぉもご丁寧に……じゃ、俺、入院中に預けたモンを、受け取りに来たダケだから」 っていうか、何だ? ……退院の時間には、まだ早いんじゃねぇのか? みんな? 更に……「お兄ちゃん、お話、終わったー?」「沙紀? ……あ、ああ、まあ……な」 本当は、この状況下。 ふつーに担いで帰る事が出来ないから、出て行けないんですけど。 と……「あの、上条さん。 一つ、お尋ねしたい事があるんですけど」「君は……確か、御剣さんの……」「はじめまして。妹の、御剣沙紀といいます。 交通事故で、聞けなくなるまで、あなたのバイオリンの大ファンでした。 その……『かつての栄光』に、興味はありませんか?」「え? どういう……事だい?」 その場に居た全員が、目を点にする中、スタスタと沙紀は上条恭介に近寄っていく。「上条さん! 私が……私がその左腕を治します! 治してみせます! だから……私と付き合ってください!」