<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[27923] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/14 11:55
「わたしのしょうらいのゆめ いちねん2くみ 斜太チカ

 わたしのしょうらいのゆめは、かっこいいせいぎのヒーローの、およめさんになることです。
 わるいひとたちをばったばったとたおしていく、そんなせいぎのヒーローと、しろいウエディングドレスをきて、およめさんになって、つかれてかえってきただんなさまに、おいしいごはんをたべて、もっとげんきになって、がんばってもらいたいです」



 あの頃まで。
 私は……そんな夢を、ただ、無邪気に思っていた。



「セリカちゃん……どうしたの?」
「ん、お父さんが、事業に失敗したみたい……白女(がっこう)、辞めなきゃいけないんだって」
「っ!! そっかぁ……残念だなぁ。せっかく友達になれたのに……」
「うん。だから、明日から引っ越しの準備。東京の親戚、頼って行く事になりそうなんだ」
「そっか。じゃあさ……私、明日、手伝うよ、セリカちゃん」



 そして……中学一年の『その日』。
 『引っ越し』という『夜逃げ』の場に現れた、マサや梶、テツの姿に……私は。自分の生まれが、血塗られたモノだという、全てを知る事となった。



 全てが、虚飾。その真実は、暴力と血。
 そんな血塗られた世界で、私は、滑稽にも純白のドレスを着た、お姫様の夢を見てしまった。
 手前ぇが触ったら、全部が真っ赤に染まっちまうってぇのに……そんな、馬鹿な……女。



 『おまえのためなんだぞ』。



 要らないよ、そんな血まみれの贅沢な暮らしなんて……私はただ、普通に綺麗なモンが欲しい。
 要らない! 要らない! こんな汚い世界も、汚い体も!
 だったらもう……何がどうなったって、構うもんか!!



 酒を持ち歩き、暴力に身を投じ、タバコをふかし……処女なんて簡単に捨てられた。
 親の前ではテキトーにイイ顔だけして、ドラッグにまで手を出した。
 盗みもやった、暴れもした。白女(がっこう)の裏で、気に入らない奴をボコって……あたしは白女(がっこう)の裏番だった。

 成績も、一年の頃はトップクラスだったけど。
 そうやってワルのドブに漬かって世間を知る度に、比例するように学校の成績はどんどん馬鹿になっていった。
 入学したての頃は、生徒会長やろうかなんて思ってたけど、きょーみなんて、とっくに失せていた。

 ああ、こうやって人間は、ドブの底に堕ちて行くんだ、と……世間を笑いながら、世間を呪って、自分を笑って、自分を呪った。



 『一応』程度の勉強をして……まあ、色々と親父だの何だのが動いたおかげで、あたしは見滝原高校へと進学出来た。
 そして、そこで、あたしは……『運命』に出会った。

 一目惚れ?
 馬鹿馬鹿しい。
 そう思いながらも、アイツの顔が……頭を離れない。
 気になって、あいつの事を調べてる内に、あたしは……どんどん恥ずかしくなった。

 両親が新興宗教に入れ上げた末、一家無理心中に、やむなく抵抗する形で二人を殺害。
 運よく、宝くじに当たって生活費は賄えたモノの、彼の姉も苦労をかけたそうで、旅行先で心不全を起こして死んだらしい。
 それでも、家事炊事洗濯を頑張って、スポーツ万能、成績優秀の優等生で……茶道部ってのが、ちょっとアレだけど、まあ、余裕が無いのだろう。

 要するに……『親が間違ってる時に、命を賭けてでも、逆らえたかどうか』。
 結局、あたしが自棄になって暴れてたのは、『親に甘えていたダケなんだ』と。

 そう悟った時には。

 もうあたしは、自分自身ですらどうしようも無いほど、手のつけられない『ワル』に成り果てていた。
 そう、どんなに好きな人が出来ても、告白すら出来ない体に。



 そして、高校に進学して日も浅い、ある日の路地裏。
 あたしは……その胡散臭い生き物と出会った。
 キュゥべえと名乗るソイツは、『僕と契約して、魔法少女になってよ』などと言っていた。

 そんで一通り、説明を聞き……直感的に、あたしはタバコをふかしながら、鼻で笑って一度、断った。

「馬鹿馬鹿しい。
 第一、見ての通り、あたしはもう『少女』なんかじゃないよ。……処女なんてとっくに割っちまってんだぜ?」

『そんな事は無いよ。僕が見えるって事は、君には『素質がある』って事さ』

「……素質、ねぇ?
 あんた、そりゃ『魔法少女』って外面で呼びならわした、別の『何か』なんじゃねぇの?」

『そうとも言える。
 何しろ、宇宙から着た僕らインキュベーターには、他に適切な表現の単語が、見当たらなかったからね』

「なるほど、ね……だから『魔法少女』か。馬鹿馬鹿しい。
 そりゃ典型的な『ペテン屋の理屈』だよ……どんな裏があるんだか知らないけど、お断り……」

 と。
 あたしの心の中に、ふと。イタズラ心が浮かんだ。

「じゃあさ、『御剣颯太って男と、恋人になりたい』っつったら。あんた叶えられるのか?」

 その言葉に……キュゥべえは、首を横に振った。

『申し訳ないけど、その願いはかなえられない。
 君のその願いは、エントロピーを凌駕していないんだ』

「はっ! 『何でも願いを叶える』なんて言っておいて、早速、不可能な事が出てきやがった」

『流石の僕や魔法少女も、『神との契約者』に、そう簡単に干渉したりするのは不可能だ。
 彼は、僕らより遥かに上位の存在と魂の契約を交わした、一種の超越者(オーバーテイカー)なんだ』

「超越者ぁ?」

『君たちに『魔法少女』という素質があるように。
 彼は『魔法少年』として、神と契約してこの世に生まれ落ちた。
 そして、共に魔獣と闘ってくれている。言わば、『魔法少女』と共同戦線を張る存在なんだよ』

「……なんだそりゃあ? ますます話が胡散臭くなっていくね?」

『彼は一種のボランティアだよ。
 家族が魔法少女と言うだけで、契約の対価も無しに、魔獣と闘ってくれているワケだし。
 僕からしても、本当に『謎の存在』なのさ。彼自身は『魔法少年』って名乗っているから、便宜上、そう呼んでいるけどね」

「ちょい待て。アイツの家族が?」

『うん。彼の姉と妹。両方とも、魔法少女だ』

「……つまり、この間、高校の入学直前に死んだっつーあいつの姉貴は……」

『戦死だよ。
 彼女の願いは『家族を救うための大金』。魔獣との闘いに敗れてね……その場に彼も居たんだ。
 その時になって初めて、僕も彼自身も、『極めつけのイレギュラー』だと知ったのさ」

 胡散臭さが加速して、頭痛がした。
 だが……『宝くじが当たった』云々の話よりは、確かに、まだ納得のいく内容だ。

「つまり……『それ以外の願いを考えろ』って事かい?」

『そういう事になる。
 申し訳ないけど、その願いを叶えるにあたっては、君自身が抱えた因果の絶対量が、全く足りて無いんだ』

 そうは言っても。

 あたしは、あたし自身の人生に、とっくの昔に、もう絶望し切っていた。
 今のあたしは……あたしにとって、夢とか、希望とかって……『あいつ』くらいなモンだ。

 まあいい。丁度イイ、暇つぶしだし。
 どうせ騙されたって、『命を含めて、失うような大事なモン』も、特に無さそうだ。

 考えろ。
 チャンスは一度きり。
 ならば、命を賭けて、何を願う?

「なあ、魔法少女ってのは……『夢と希望を振り撒く存在だ』って、言ってたよな?」
『そうだよ』
「今、あたしはさ。あたし自身に絶望し切ってるんだけどさ。
 こんなあたしでも、誰かに……人間様の世間に、夢や希望を振り撒くなんて、出来るモンかね?」
『それは君次第とも言えるね。
 現に、願いをかなえたあとに孤児になって、窃盗で生活を賄っている魔法少女だっているし』
「なるほどね……」

 つまり、重要なのは。
 究極的には『自分を変えなくてはいけない』って事か。

 ……何と無く、地獄に降りた一本の蜘蛛の糸の話を、思い出してしまう。
 この細い一本の糸を……どう手繰っていくか。

 考えろ。
 今、この世で一番、嫌いなモノ。それは……薄汚いワルのドブ泥にドス黒く染まった、あたし自身だ。
 この嫌いなアタシが好きになれるようにすれば……そう。綺麗な体になりさえすれば。

 ……少なくとも、『彼に思いを伝える資格は』得られるのではないか?

 だが。
 あたしの周囲は。あたしの世界は。ドス黒いワルのドブ泥で真っ黒だ。
 親父やオフクロが……いや、それだけじゃない。もっと色々な所に絡みがあって、結局、ヤクザというのは、簡単には抜けだせないようになっている。
 あたし自身『だけ』が一度、真っ白になった所で……また、ドブ泥に染まって、ドス黒く汚れちまうのが、目に見えている。

 それに……何だかんだと、父さんも、母さんも。
 いや、それだけじゃない、マサも梶もテツも……何だかんだと『あたしにだけは』優しかったんだ。
 ワルのドブ泥の中でも、必死にあたしを諫めてくれていた……ただ、『自分が見えて無かった』、『それしか生きる術が無かった』だけで。

 だから……

「OK、決まった……あたしの願いはね。

 『『斜太興業の全員を』カタギにしてほしい。
 世間様に何恥じる事の無い仕事に就いて、真っ当な稼ぎでメシを喰って家族を養っていける、『あたしも含めた全員が』カタギの好きな人に告白できる『綺麗な体』になりたい!』

 どうだい、出来っこネェだろ!?」

 この願いを叶えられないのなら、もー用済み。この『遊び』はお終いだ。
 だが……あにはからんや。

『その願いなら可能だよ。それでいいんだね?』

 あたしの考えて考えて考え抜いた、一番の願いは……あっさりと肯定された。

「はぁっ!?
 おい……そんな事が……本当に、可能なのかよ?
 い、いいのかよ、おい? 男一人モノにするよっか、トンデモネェ願いだぜ!?」

『少なくとも、『御剣颯太に直接干渉するよりは』難度の低い願いさ……本当に、いいんだね?』

「あっ……ああ! 構わない!
 そんな事が本当に可能ならば、薄汚いあたしの命なんざぁ、幾らでもくれてやる!!」

 その言葉に、キュゥべえが笑う。
 何と無く……嫌な笑顔だなと思った。

『契約は成立だ。
 君の願いは、エントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん、君の力を』

 そう言った途端。……胸の奥から、強烈な激痛が走り……

「っ……ぐっ……ああああああああああああああああああああっ!!!」

 琥珀色の宝石(ソウルジェム)を生み出し……あたしは、その日、人間を辞めて『魔法少女』になった。



「『魔法少女』斜太チカ……か。ぞっとしないねぇ……」

 手の中のソウルジェムを弄びながら、溜息をつく。

 あの裏路地で気絶して、置き上がった時には、びっくりした。
 染めた髪の毛は綺麗な黒に戻ってるし、ドラッグの副作用のむかつきや偏頭痛、それにニコチンを欲する『乾き』も無い。
 あまつさえ、親に内緒で背中に入れた、トライバル柄のタトゥーまで『綺麗になって』やがった上に、もしやと思って……その……トイレで確認したら、アソコが処女に戻ってやがったのには、もう呆れ返ってしまった。

 ……いや、確かに『綺麗な体になりたい』とは願ったけどさぁ……

「……へっ、ま、いっか。
 どーせ、『親父たちがカタギになってる』だなんて、有り得るワケが無ぇんだもんな」

 そう言って、あたしはフラッと『斜太興業』ってカンバンが掛ったビルの事務所に足を運び……

「よう、親父……って、どうした? みんな?」

 組員全員、神妙なツラを提げて、親父の部屋に集まっていたのだ。

「おう、チカか……その、何だ。
 全員、杯、返してな……組、解散することになった」
「はぁ!?」
「色々とヤクザ続けてく上で、締め付けがキビしくなってな……幸い、全員、小さいながら、それぞれカタギの会社に就職先が決まったんだ。
 この渡世、シノいで行くにゃ、俺らみたいな武闘派ヤクザは、邪魔にしかなんねぇみてぇだしな。
 ……丁度いい、頃合いだったのさ」

 目が点になるアタシの目の前で、マサや梶、ヤスまでもが、男泣きに泣きやがる。

「よし、改めて伝える。
 本日、午前零時を以って、斜太組……もとい、斜太興業は解散とする!
 既に解散届も警察に出してある!
 ……全員、カタギになっても、しっかり家族やオンナのために食い扶持稼げよ!」

「オヤッサン!」
「親父!」
「泣くんじゃねぇよ、マサ……全員、目出てぇ、門出じゃねぇか……」
「叔父貴ぃぃぃぃぃ!」

 やがて、時計がボーンボーンと、十二時の鐘を鳴らす。

「解散っ!!」

 その言葉と共に。
 全員が、斜太興業のビルから、出て行った。

「……ウソ?」

 ぼーぜんとなりながら。
 あたしはその場で、立ち尽くしていた。



 その後、予想されるよーなトラブルも何も無く、アッサリと。
 あの頃から夢見ていた『カタギの女』に、あたしはなる事が出来た。



「ほ、ほんとに……叶っちまった……のか、なあ?」

 その割には……

「タバコもドラッグも辞められたのに……酒(こいつ)だけは、何度飲んでも『美味い!!』としか思えねぇんだよなぁ」

 ワイルド・ターキーをグラスに注いで、チビリ、チビリと開けて行く。
 元々、小学校の頃から、何だかんだと他人の眼の盗んで、色々お酒は嗜んできたが、中学過ぎる頃には、既にそこらの大人より飲んでいた気がする。……いや、凄く美味しいし。お酒。
 だが……

「いや……何時からだったかな。酒が『本当に美味い』と思えなくなったのは」

 思いなおせば、ただ、惰性で飲んでいた。そんな気がするのだ。
 少なくとも……今、口にしてる酒のように、心の底から『美味い!!』とは思えないモノだった気がする。

「……『酒』、か」

 どうも、それに……何か、あたしが魔法少女になった、重要な意味があるのではないか?
 そう思い、あたしは考え込んだ。

 人は、何故、酒を飲むのか。
 暫し、考え……

「そっか。夢とか、希望とか、正義とか……大人って『そういったのに酔えないから』、つい酒を飲んじまうのか」

 そして、子供には……夢とか、希望とか、正義ってモノを見て、教え込んでいかないと行けない。何故なら、それは『人間として生きる基本』だからだ。
 それを消費し尽くして消耗した果てに……現実の痛みに耐えるために、『酒』という麻酔に手を出す。出さざるを得なくなる。

 あたかもそれは、ドブの底に居た時に、あたしがドラッグに手を出したように。
 あたしは、他人より速く、そーいったのを見ちまったのかもしれない。

「だったら……」

 何でも、生活のために窃盗をしてる魔法少女まで、いると言う。
 そういう、『半端なワルを気取って生きる魔法少女』を、ワルの道から引きずり上げてやることが、あたしの使命なんじゃなかろうか?

 冗談でも何でも無く。

 そういった悪事に一度手を染めると、あとは誰かが引きあげるか引き留めるかしない限り、果てしなくドコまでも転落して行くしか無いのは、あたし自身がよーく分かっている。
 そして、ワルの気持ちは、ワルにしか分からない。……それを理解したうえで、引きとめて、救ってやれるのは……

「多分、あたししか、居ないんだ……」

 ふと。
 何かで見た、伝説級の暴走族のヘッドが改心して、社会復帰や更生などの、族の足抜けを手伝ったりとかいう逸話を思い出した。

「よし、やるぞっ!!
 って……その前に……親父とオフクロに、色々説明しねぇとなぁ……」

 どっかの小さな会社で、営業やる事になっちまった親父だが……苦労はしているモノの、何だかんだと家族三人、飯食う分くらいは稼げてはいるらしい。
 ついでに、ちょっと確認したら……御自慢の見事な唐獅子牡丹の彫り物まで、綺麗になってた。

 この調子ならば、大丈夫だろう。

 そう思って、あたしは親父とオフクロに全てを話し、更にキュゥべえにまで来てもらって……事情を説明して、最初、冗談だと笑っていた二人は、あたしがその場で変身して、事実だと理解した瞬間。

 ……ブチギレやがって、生まれて初めて、家中をひっくり返すような、ガチの大喧嘩をかまして、家を飛び出す羽目になった。

 ……もー知るもんか、あんな馬鹿親共!! 一生、ヤクザの夢見てろ!!



「さて、明日はドッチだ? ってか」

 翌日。
 とりあえず、漫画喫茶に泊まって(この時ばかりは、年齢を誤魔化せる大柄な自分の体に感謝した)、更に学校に行ったモノの。
 住む場所が無くなってしまった。

「どうやって、金、稼ぐかなぁ……」

 今更ながらに、切実な問題。
 これでは、最初の目標どころか、あたし自身が救われない。……犯罪や、昔のワル仲間の所に転がり込んだら、全く意味が無いし……
 そんな時に……ふと、『気になるアイツ』に目が行く。

 ……やばい。ドキドキする。止まんない。

 見ないように、冷静に目をそらし……その時になって、ふと思いつく。



 あいつに告白して……OK貰ったら、そのままアイツん家に転がりこんじゃえばいいんじゃね?


 
 あいつの家に……あいつの家に……うわぁ……
 悶絶しながら、頭を抱える。だが、現実的に一番な方法は、それしか無いように思えてきた。
 聞けば、魔法少女と共同戦線を張る存在だ、というし。魔獣狩りの時に借りを返す心算で行けば、問題無いだろう。

 ……最悪……

「か、体で家賃払っても……って、何考えてる、あたしゃあ……」

 教室の一番後ろの隅っこ……不良の特等席で、あたしはこっぱずかしさに、頭を抱え込んだ。



「よぉ、優等生……話が、あるんだ。部活終わったらでいいからサ、チョイ、ツラ貸してくんねぇか?」

 あいつが茶道部の活動に向かう前に。教室であたしはアイツに声をかけた。
 正味……声をかけた瞬間、『誰?』っていう目線が、露骨に突き刺さる。

「えっと……すいません、どんな御用でしょうか?」
「その、ここじゃ話せない事。魔法少女絡みの話なんだ」
「!? ……わ、分かりました。部活が終わったら、校舎裏で」

 よし、呼び出しは完璧。
 あとは……告白(こく)るダケだっ!!



「えっと、斜太……さん? その、魔法少女絡みの話って、どんな御用でしょうか?」

 人気の無い校舎裏で、あたしは待っていた。
 待ち続けていた。
 ……やばい、心臓が、止まらない……ドキドキしてる。

「あ、ああ……その前に、まず、あたしの……その、キュゥべえに頼んだ『願い』から、片づけようかと思うんだ」
「は?」
「ああ、その、なんだ……その……あっ、あっ、あっ……」

 落ち着け、あたし……度胸一番!
 ここでイモ引くなんざぁ、斜太の血がすたるぞ!!

「あたしと付き合ってくれ!!」
「……え?」

 暫し、沈黙が落ちる。

「えっと、その……え、何? 魔法少女が、どうとかって話じゃなくて……何? どうなってるの? わけがわからないよ」

 に、鈍い……これは、はっきり言わんと、伝わらんタイプと見たっ!

「だっ、だっ、だから……だから……あたしの! 彼氏に! なってくれって! 言ってるんだ!!」
「……はっ、はあああああ? あ、あのさ、だから、何でそれが、魔法少女がどーとかって話に、繋がるんだ!?
 マジで、ワケが分からないんだけど!?」
「っ……ああああああ、もう! こう言う事なんだよ!」

 そう言って……あたしは、自分のソウルジェムを取りだした。

「なっ! おっ、お前、まさか!」
「そうだよ! うさんくせぇとは思ったけど、あたしもキュゥべえと契約したんだ!
 だから今のあたしは魔法少女なんだよ!」

 ……目が点になるあいつ。
 なんというか……目線が『どういう事?』って感じで、あたしを見ていた。

「って……ご、ごめん……い、いきなりこんな事言われても、気持ち悪いよね、ワケが分からないよね。
 分かったよ。順を追って、話して行くよ……」
「う、うん、頼む。イキナリ生まれて初めて、告白とかされて、マジパニック」
「あっ、あのさ……あたし、あ、アンタの事が、好きだったんだ。……それは……いいか?」
「あ、ああ……まあ、その……うん。それは分かったけど、それがどう魔法少女と繋がるんだ?」

 そして、告白から話を転がして行ってる内に。
 ……あたしは、あいつの想像もしてなかった内面を、悟る事になる。

「なんていうか……あんたさ、それ寂しすぎないか?
 誰かのために一生懸命尽くして、そんで最後はポイとか。少しは『自分がこうしたい』『ああしたい』って思う事とか、無いのかい?」
「んっと……『誰かを守りたいって』のは、ダメなのか?」
「そんなんじゃないよ! もっとこう……『自分中心の願い!』『俺様がナンバーワンになってやるZE!!』みたいなトコロ!」
「『誰かの笑顔を見たい』とかじゃ、ダメなのか?」

 なんなんだ、コイツは!?
 あたしが惚れた男は……何でここまで『空っぽ』なんだ!?

 更に、話を重ねる内に……その、ゾッとするような心の虚(うろ)が、垣間見えてきた。

「はぁ……こりゃ、重傷だね! アンタさ、どっか壊れてるんだよ、多分」

「え?」

「普通の人間はさ、こう……あたしみたいに『理想の誰かが好きだーっ!』って、ワガママな部分ってのが大なり小なりあるもんなのさ! そりゃ、もう男女関係が無い! だから『みんなのアイドル』なんて虚像の稼業が、二次元でも三次元でも成立してんのさ。
 でもね、あんたは多分……その、噂は聞いてるよ。『家族を守るために家族を殺す』なんて、究極の決断を迫られて壊れちまってんだよ。自分でも知らない所が。
 そこから逃げられないから、結局『守る必要がある人のために生きなきゃいけない』って、強迫観念にトッ掴まったままなのさ。

 そーいうのをね、『サバイバーズ・ギルト』って言うんだ」

「っ!!」

「まあ、あたしもさ……そういう部分、自覚してっけどね。何しろ、あたしの祈りは『贖罪の祈り』だ。
 でも、それは多分……そのキッカケをくれたのは、キュゥべえと、そして『アンタが好きだ』ってあたしの気持ち。
 言わば、『あたし個人のワガママ』が元なんだよ。そこが、アンタとあたしの、決定的な違いなのさ」

 ダメだ……こいつは。
 こいつは、告白なんか、気軽にしちゃいけない相手だ。
 こいつには、『自分』が無い。
 行動の規範を外に置く事に『慣れ過ぎている』。

 確かに、女の子にとって『頼もしい理想のナイト様』には、なれるだろう。
 だが、それじゃあたしが魔法少女になった、意味が無い。
 あたしは……『御剣颯太』に告白したんであって、女の子が夢見るような『理想のナイト様』が欲しかったワケじゃない!

 そして、あたしの告白は……あたしの言葉は『本当の意味で』こいつに届いちゃいない!

「……わかったよ。
 アンタ自身が『自分の本当の気持ち』を『自分で理解できるようになるまで』あたしもあんたと一緒に闘う!
 そん時に、返事をくれりゃいい!」
「っ! ちょっ、そんな……」
「勘違いしなさんな!
 あたしはね、あんたや親父みたいな咎人気取った奴が放っておけないから、魔法少女になったんだよ!
 ……なんて、かっこつけて、あんたの事をあたしが好きなのは、憶えておいて欲しいけど、さ。

 まあ、今は深くは気にしなさんな。

 あんたに必要なのは、まず『アンタ自身の本当の気持ち』を、『自分で悟る』事なんだよ!
 それまではまぁ……付き合ってやるし、嫌でもつきまとってやるさ。

 あたしはアンタの事が、好きなんだから……さ」

 そう言って、あたしは、あいつに手を差し出した。

「あんたの背中を、あたしが守る。
 だから、あんたが自分の気持ちに気付いたその時に、『あたしのいる後ろが気になったら』……こっちに振り向いてくれりゃいい。
 ……なんて、ベテランのアンタには言えた義理じゃないんだけどさ。少なくとも……少しは頼りにしてほしい、かな?
 そうなれるようには、頑張るよ、あたしも」

「あ、ああ……よろしく、頼む」

 そう言って、あいつはぎこちなく、あたしの手を取って、握手を交わした。
 その手は……あんな繊細な和菓子を作る手は、想像以上に、ゴツゴツしていて固かった。




「押忍!
 先輩、よろしくおねがいします!」
「は、はぁ……あ、あの……こちらの方は?」

 あいつに『仲間を紹介する』と言われ、あいつの家に連れて行かれて。
 あたしは、そこで……頼もしい仲間であり、先輩であり、恋敵(ライバル)と出会う事になる。

「えっとね……その……俺の同級生で、新人の魔法少女。斜太チカさん。
 縁が合って、仲間にしてほしいって頼まれて……俺は構わないんだけど、どうする?」
「そ、そうね。……魔力もかなり高い。素質はかなり飛びぬけてイイほうじゃないかしら?」
『彼女は生まれが生まれだからね。背負い込んだ因果の量も、相当なモノさ』

 そう言って、足元をチョロチョロと動き回りながら、キュゥべえが説明していく。

『魔法少女の素質ってのは、因果の総量で決まる。
 彼女は産まれからして、本当に『因果な稼業』だったから、もってこいだったのさ』
「はぁ……あの、生まれが違うって……家は何を?」
『ヤクザの一家さ。斜太興業の娘だったんだよ』

 ぐらり、と、傾く彼女……巴さん。
 何かこう、『信じられない』というか……『チンピラを、娘に彼氏だと紹介された母親』のような。
 そんな感じの表情だった。

「はっ、はっ、颯太さんっ!? その、どういう事だか、説明して頂けませんか!?」
「あ、いや、その……」
「ごめんなさい、先輩。あたしが自分で説明します」

 そう言って、あたしは、自分の身の上を説明していった。
 ……当然、『颯太を好きだ』という事まで。

「そっ、そう……そういう、事、だった、の……」

 何かこう……『来るべき時が、来てしまった』、という。
 そして、明らかな、嫉妬と、後悔と、そんなの感じが入り混じった、そんな表情から。

 ああ、彼女も……こいつの事が、好きなんだ、と。

 分かってしまった。悟ってしまった。だから……

「ええ。それで、ですね、先輩。
 モノは相談なんですが……あたしを、『巴先輩』の家に、暫く泊めてくれませんか?」
「え? それは……どういう、事、でしょうか?」
「その……あたしが魔法少女になった事情とか、全部正直に親に説明したら、親から勘当喰らっちゃいまして……」

 そこから、昨日、我が家で起こった出来事を、説明していく。

「ぢつは、颯太にOKもらったら、颯太の家に転がりこもうとか甘い事考えてたんですが……その『フェアじゃない』と思うので。『色々と』。
 だから同じ魔法少女のよしみで、『巴さんの家に』転がりこませてもらおうかな、って……ダメでしょうか?」

 何故?
 そういった表情を浮かべたまま。
 しどろもどろに受け答えしていく、巴さん。

「は、はぁ……その、ええ。構いませんよ。私も一人暮らしですので。
 確かに、颯太さんの家で過ごすのは、『色々と問題がある』でしょうし……構いませんよ」
「そうですか。暫くの間、よろしくお願いします!」

 良かった。とりあえず、寝床は確保出来た!
 あとは……ちょっと色々、説明しないと、いけないよなぁ……何か、ワケアリっぽいし。
 でも、とりあえず、これだけは言っておかないと。

「……負けないよ」

 正々堂々。
 あたしは、巴さんにライバル宣言をした。



「あ、あの……斜太、さん?」
「チカ、でいいッスよ。巴先輩」

 巴さんの家に案内されて。
 何故か、あいつの妹までもが、くっついて来たのだった。

「そう。じゃあ……チカ、さん? その……何で、私の家に?
 颯太さんの事、好きなんでしょ?」
「いや、だから言ったじゃないですか。『フェアじゃない』って。
 確かに、色恋沙汰なんて早い者勝ちですけどね……今のアイツは、徹底的に虚ろだ。底なしのガランドウですよ。
 申し訳ないんですけど……あたしゃ、そーいう男に興味が無いんです」

 と……

「あの……それを、チカさんは……どこで、気付きましたか?」

 あいつの妹……沙紀ちゃんが、あたしに問いかけて来る。

「いえ、校舎裏で告白したんですよ。
 そこから話を転がしてっている内にね……こう、ゾッとなるっつーか、虚ろっつーか。
 あいつ、多分、『何も見ていない』んじゃないかな、って。思いまして」
「何も、見てない?」
「自分が無いんです。無さ過ぎるんです。
 だから、告白して彼氏になる事は出来たとしても、それは形だけの事で、『本当の意味で』あいつをモノにしたとは言えない。
 そのうち、多分……我慢できなくなって、破綻しちまうんじゃないかな、って。
 だから、とりあえず『仲間』って所から、始めないといけないな、って……あいつに付きまとってやれば、いつか、その空っぽの底っつっか……『本当のアイツ』が見えてくるんじゃないかな、って。

 何て言うか……他人の傷に付け込んで、モノにするのは簡単なんです。

 ただ、そんな恋愛関係は、あいつみたいな『本当の男』をモノにしたい場合、絶対長続きしない。
 恋人ってのは、いずれその男の嫁になり、そいつの子供を産んで妻になる、その幾つかあるステップの、ほんの一段階に過ぎないワケですし。
 あたしは颯太と『ずっと一緒に居たい』以上、『恋人』って立場だけで、満足できるワケが無いんですから」

 あたしのその言葉に、二人が顔を見合わせる。

「驚いた……初めてだわ」
「こんな的確に、初対面でお兄ちゃんを見通せる人が居たって」

 何というか、感心したというか、驚愕したというか。
 そんな感じの目線で、あたしを見つめられた。

「沙紀ちゃん、どう思う?」
「うん……悪くは無いと思うけど、でもマミお姉ちゃん、本当にいいの!?」
「私は……その、颯太さんが幸せになれるなら」

 その言葉に、あたしは一言。

「ちょっと待った。なんか、話が見えないんですけどね。
 とりあえず、あたしゃ泥棒猫の真似事だけは、するつもりはありませんよ?」
『え?』
「巴先輩……いや、はっきり言わせてください。
 巴さん、あんたもアイツの事、好きなんでしょ?」

 その言葉に……二人が、沈黙した。

「その……何か、あったんですか?」

「お姉ちゃんの、遺言があるんです」
「『巴さんならば、颯太が自分自身の傷と向き合う時間を稼いでくれる。沙紀が一人前になる時間を、稼いでくれる。
 恋心を抱かず、保護者として接することが出来る。だから、私に何かあった時は、お願いします』って。
 だから、チカさん。どうか颯太さんを」

 ブチッ!!

「ふっざけんなーっ!! 何だそりゃあ!!
 兄妹でも家族でも無い、男と女が一緒に居て『恋心を抱くな』なんて、何無茶な事頼んでんだ、あいつの死んだ姉貴はーっ!!」

「ちょっ……チカさん!?」

「巴さん、安心していい! あたしは告白はしたけど、OKは貰ってない! あんたにだって、まだチャンスはある!
 っつーか、こんな状況で、『空っぽなアイツ』を彼氏にしたって、あたしは嬉しくもなんともないし、アンタだって横からかっ浚われたみたいで、面白くないだろ!?」
「っ……それは……」
「正直に、あいつに『好きだ』って伝えなよ! あんたには、その資格は十分にあるんだよ!
 その上で、あいつに決めて貰おうよ! っつーか、アイツにはその義務がある!!」

 と……

「それが出来れば、苦労は無いんだよ……」
「あ? 何、どういう事?」

 沙紀ちゃんの言葉に、あたしは耳を傾ける。

「私たち、『魔法少女の体の事』です。正直、ショッキングな話になりますが、聞きますか?」
「は? 体が……どうかしたって?」
「その……滅多に起こる事でもありませんし、私たちも沙紀ちゃんの『訓練』の時に、初めて気付いた程なので。
 ただ、この話を聞いた子は、全員、その事実に耐えられず……颯太さんへの告白を、諦めてしまいました」
「正直、その、『魔法少女がお兄ちゃんに好意を抱く』っていうケースは多々あったけど。
 『お兄ちゃんに好意を抱いた子が、魔法少女になる』なんて、初めての話しだから……話していいかどうか、迷っちゃって」

 はて。
 魔法少女になるって事に、どんなリスクが存在するんでしょーか?

「とりあえず、お兄ちゃんは『ンなモン気にすんな』って笑ってたけど、やっぱりね……」
「確かに、『生きてるだけ丸儲け』って言葉を考えれば、そうかもしれませんけど」
「えっと……どーいう事?」

 首をかしげるあたしに、沙紀ちゃんが自分のソウルジェムをテーブルに置く。

「これ。何だと思います?」
「『何』って……あんたのソウルジェムだろ?」
「うん。そしてね、これは『私自身』なんだよ」
「は?」

 何を言ってるんでしょうか、この子は?

「率直に言うなら、私たち魔法少女の『魂』なんです。このソウルジェムは。
 だから……マミお姉ちゃん、ちょっと見せてあげて」
「はい。チカさん。よく沙紀ちゃんを見ていてください」

 そう言って、沙紀ちゃんのソウルジェムを持って、巴さんは部屋を出て行く。
 ……?

「そろそろ、かな?」

 沙紀ちゃんが言った、次の瞬間。
 バタッ、と……沙紀ちゃんがその場で倒れ伏した。

「……おい? 沙紀ちゃん? おーい?」

 突いてみる。反応が無い。

「『返事が無い、タダの屍のよぉだ』……っていうか、本当に屍にしちゃうぞ、おい?」

 突いてみても、全く反応が無い……って、おい、まさか?
 脈を取って見る。……って、マジで動いてない!!

「……ちょっ、沙紀ちゃん?」

 いい加減、ビビろうかなぁ……とか思っていると。

「……ぷはぁっ!!」
「うわあああああっ! お、驚かすなよ!!」
「ん、ごめんなさい。
 私は、ソウルジェムと肉体が分離されてる状態に、慣れてるから……ある程度は何とかなるけど。
 つまり、そういう事なんです」
「え?」

 どういう事かと疑問に思っていると、部屋に戻ってきた巴さんが話を続けてくれた。

「つまり、私たちの魂そのものなんです。このソウルジェムは。
 私たちの元の肉体というのは、外付けのハードウェアに過ぎない……言わば、ロボットやゾンビのようなモノなんです」
「っ……マジかよ……」

 その言葉に、あたしは、暫し、絶句しながら沈黙し……

「キュゥべえ。一個だけ聞きたい。生き延び続けた魔法少女は、子供を産む事は出来るのか?」
『ん? 一応、女性としての身体機能に影響は無いよ。歴史上、そうやって子孫を残した魔法少女も居たしね』
「あ、そっか。なら問題ないや♪」

 あっさりと言い切ったあたしに、二人の方が目を丸くしていた。

「……何さ?
 言っておくけど、元々のあたしの体はね、ドラッグとタバコと酒とで、かなりボロボロだったんだよ? ついでに刺青まで背負ってたしね……それ考えたら、こんな『綺麗な体』、他に無いよ。
 少なくとも、あたしゃ『魂の在り処』に拘るよっか、『魂の在り方』に拘りたいモンだ……それ考えたら、元の体よっか、魔法少女の体のほーが、百億倍マシだね」

『……………』

「ついでに言っておくけどさ。あたしの体はあたしのモンで、あんたらの体はあんたらのモンだ。
 そんで、アイツは、そんな魂の在り処にいちいち拘るような、せせこましい男だと思うか?
 そーだとしたら、あたしから願い下げだよ、そんな奴」

 唖然、呆然。
 そんな感じで二人とも、ぽかーん。

「そ、その……強い、ですね」
「あ? 何さ? あたしゃ当たり前の話をしたツモリなんだけどね?
 むしろ、ヤクザのドブの底に生まれちまったあたしにしてみりゃ、魔法少女の素質があった事のほーが、よっぽどラッキーだと思ってるよ。
 所詮、人間なんて『命も体も、道具』だよ。
 そりゃ大事にするのは当たり前だけどさ、問題はその道具を使って『何が出来るか』って事さ。後生大事に傷つくのを恐れてたって、何にも出来やしない。
 だったら、気合い入れて足腰踏ん張って、『なんかカマしてやろう』って思うべきじゃねーの?」

 あたしの言葉に、二人の目が輝き始める。

「な、なんというか……凄い人だなぁ。マミお姉ちゃん、ちょっと負けてられないよ?」
「え?」
「だってさー、結果的にとはいえ。
 あたしたち、魔法少女の真実利用して、お兄ちゃんに近づく他の魔法少女、蹴り落としてたようなモノじゃない?」
「……………そ、その……確かに、そう、です……ね」

 その巴さんの表情に、ふと……

「もしかして巴さん……あんた、意図的に、そうやってライバル蹴落としてたとか?」
「え?」

 ぢーっ、と……あたしは巴さんを見る。
 その頬には、どこかこう……たらーり、と一滴の汗が。

「ちょっ、それは……ご、誤解ですよ、誤解。あは、あははははは」

 その言葉に、更に。

「そういえば、マミお姉ちゃんへの遺言に『お兄ちゃんがマミお姉ちゃんを好きになったら?』って聞いたら、『勿論構いませんとも』って言ってたもんねぇ……冴子お姉ちゃん」
「やっぱりか、この確信犯……」

 二人揃って、ジト目で睨む。

「まー、でも……あんたがやってきた事は、確かに正しいよ。こんなチンケな事にも耐えられん奴に、あいつは任せられない。
 本当の自分とも向き合えない奴に、『底なしに空っぽ』のあいつと、向き合えるワケが無い。
 ……一緒に居るとしても、それはタダ、甘えてるだけだ。

 で、巴さん。とりあえず、恋敵同士ではあるけど、さ。
 あいつ自身を何とか壊れないよう、前に進めるように治してやるほうが、先だと思うんだ。
 その、なんだ……色恋沙汰で競い合うのは、後にして、さ。
 何とか一緒に、魔法少女、やって行こうと思うんだ……よろしく、頼む」

 そう言って、あたしは右手を差し出した。

「そ、そうですね……よろしく、お願いします」


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.065497875213623