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No.27923の一覧
[0] 続・殺戮のハヤたん-地獄の魔法少年-(オリキャラチート主人公視点・まどか☆マギカ二次創作SS)[闇憑](2011/07/22 09:26)
[1] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:22)
[2] 第二話:「マズった」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[3] 第一話:「もう、キュゥべえなんかの言葉に、耳を貸しちゃダメだぞ」[闇憑](2011/05/22 06:27)
[4] 第三話:「…………………………いっそ、殺せ…………………………」[闇憑](2011/09/03 11:27)
[5] 第四話:「待って! 報酬ならある」[闇憑](2011/05/22 14:38)
[6] 第五話:「お前は、信じるかい?」(修正版)[闇憑](2011/06/12 13:42)
[7] 第六話:「一人ぼっちは、寂しいんだもん」(微修正版)[闇憑](2011/09/03 11:16)
[8] 第七話:「頼む! 沙紀のダチになってやってくれ! この通りだ!!」[闇憑](2011/09/03 11:19)
[9] 幕間『元ネタパロディ集』(注:キャラ崩壊[闇憑](2011/05/22 16:31)
[10] 第八話:「今宵の虎徹は『正義』に餓えているらしい」[闇憑](2011/05/29 09:50)
[11] 第九話:「私を、弟子にしてください! 師匠!!」[闇憑](2011/05/24 03:00)
[12] 第十話:「魔法少女は、何で強いと思う?」[闇憑](2011/05/29 09:51)
[13] 第十一話:「……くそ、くら、え」(微修正版)[闇憑](2011/07/03 00:29)
[14] 第十二話:「ゆっくり休んで……お兄ちゃん」(修正版)[闇憑](2011/07/03 00:31)
[15] 第十三話:「……俺、知ーらね、っと♪」[闇憑](2011/05/29 02:56)
[16] 第十四話:「……どうしてこうなった?」[闇憑](2011/05/29 12:51)
[17] 第十五話:「後悔、したくなかったの」[闇憑](2011/05/30 09:02)
[18] 第十六話:「そうやってな、人間は夢見て幸せに死んで行くんだ」[闇憑](2011/05/31 05:06)
[19] 第十七話:「……私って、ほんと馬鹿……」[闇憑](2011/06/04 00:21)
[20] 第十八話:「……ひょっとして、褒めてんのか?」[闇憑](2012/03/03 01:24)
[21] 第十九話:「なに、魔法少年から、魔法少女へのタダの苦情だよ」[闇憑](2011/06/06 19:26)
[22] 第二十話:「まさか……あなたの考え過ぎよ」[闇憑](2011/09/07 17:50)
[23] 第二十一話:「『もう手遅れな』俺が、全部やってやる!」[闇憑](2012/03/03 01:28)
[24] 第二十二話:「……あなたは最悪よ、御剣颯太!!」[闇憑](2011/07/07 07:27)
[25] 幕間「魔術師(バカ)とニンジャと魔法少年」[闇憑](2011/06/15 03:50)
[26] 第二十三話:「これで……昨日の演奏分、って所かな?」[闇憑](2011/06/17 04:56)
[27] 第二十四話:「未来なんて誰にも分かるもんかい!!」[闇憑](2011/06/17 17:05)
[28] 第二十五話:「……ぐしゃっ……」(微修正版)[闇憑](2011/06/18 20:28)
[29] 第二十六話:「忘れてください!!」[闇憑](2011/06/18 23:20)
[30] 第二十七話:「だから私は『御剣詐欺』に育っちゃったんじゃないの!」[闇憑](2011/06/19 10:46)
[31] 第二十八話:「……奇跡も、魔法も、クソッタレだぜ」[闇憑](2011/06/19 22:52)
[32] 第二十九話:「……『借り』ねぇ」[闇憑](2011/06/21 19:13)
[33] 第三十話:「決まりですね。颯太さん、よろしくお願いします」[闇憑](2011/06/23 05:46)
[34] 第三十一話:「……しかし、本当、おかしな成り行きですね」[闇憑](2011/07/29 02:55)
[35] 第三十二話:「だから、地獄に落ちる馬鹿な俺の行動を……せめて、天国で笑ってください」[闇憑](2011/06/26 08:41)
[36] 幕間:「~ミッドナイト・ティー・パーティ~ 御剣沙紀の三度の博打」[闇憑](2011/06/26 23:06)
[37] 幕間:「魔法少年の作り方 その1」[闇憑](2011/07/20 17:03)
[38] 幕間:「ボーイ・ミーツ・ボーイ……上条恭介の場合 その1」[闇憑](2011/07/04 08:52)
[39] 第三十三話:「そうか……読めてきたぞ」[闇憑](2011/07/05 00:13)
[40] 第三十四話:「誰かが、赦してくれるンならね……それも良かったんでしょーや」[闇憑](2011/07/05 20:11)
[41] 第三十五話:「さあ、小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いキメる覚悟完了、OK!?」[闇憑](2011/12/30 17:53)
[42] 第三十六話:「ねぇ、お兄ちゃん? ……私ね、お兄ちゃんに、感謝してるんだよ?」[闇憑](2011/07/08 18:43)
[43] 第三十七話:「泣いたり笑ったり出来なくしてやるぞ♪」[闇憑](2011/07/12 21:14)
[44] 第三十八話:「……なんか、最近、余裕が出てきてから、自分の根性がネジ曲がって悪くなっていった気がするなぁ」[闇憑](2011/07/13 08:26)
[45] 第三十九話:「『死ぬよりマシ』か『死んだ方がマシ』かは、あいつら次第ですがね♪」[闇憑](2011/07/18 14:42)
[46] 第四十話:『……し、師匠は優しいです、ハイ……』[闇憑](2011/07/23 11:00)
[47] 第四十一話:「まだ共に歩める可能性があるのなら! 『感傷なんて無駄な残骸では無い』というのなら! 是非、それを証明したい!」[闇憑](2011/07/22 00:51)
[48] 第四十二話:「……ありがとう、巴さん。今日の御恩は忘れません。本当に、感謝しています」[闇憑](2011/07/26 10:15)
[49] 第四十三話:「お兄ちゃんひとりだけで闘うなんて、そんなの不可能に決まってるじゃないの」[闇憑](2011/07/25 23:58)
[50] 幕間:「特異点の視野」[闇憑](2011/07/31 06:22)
[51] 幕間:「教会での遭遇」[闇憑](2011/07/27 12:16)
[52] 第四十四話:「……少し……二人で考えさせてくれ」[闇憑](2011/07/29 05:28)
[53] 第四十五話:「営業遅ぇんだよ、キュゥべえ……とっくの昔に、俺はもう『魔法少年』なんだよ……」[闇憑](2011/07/31 11:24)
[54] 幕間:「御剣沙紀、最大の博打」[闇憑](2011/07/31 18:28)
[55] 四十六話:「来いよ、佐倉杏子(ワガママ娘)……お前の全てを、否定してやる」[闇憑](2011/08/01 00:14)
[56] 第四十七話:「いや、付き合ってもらうぜ……あたしと一緒になぁっ!!」[闇憑](2011/08/01 12:45)
[57] 第四十八話:「問おう。あなたが私の、魔法少女か?」[闇憑](2011/08/04 00:58)
[58] 第四十九話:「俺の妹は最強だ!」[闇憑](2011/08/06 07:59)
[59] 第五十話:「さあって、反撃開始だ! 魔法少年の……魔法少女の相棒(マスコット)の『喧嘩』は、魔法少女よりもエグいぜぇ……」[闇憑](2011/08/07 08:51)
[60] 幕間:「特異点の視野、その2」[闇憑](2011/08/09 18:08)
[61] 終幕?:「無意味な概念」[闇憑](2011/08/14 21:37)
[62] 幕間:「神々の会話」[闇憑](2011/08/09 04:55)
[63] 幕間:「師弟の会話、その1」[闇憑](2011/08/10 08:12)
[64] 幕間:「師弟の会話、その2」[闇憑](2011/08/11 14:22)
[65] 終幕:「阿修羅の如く その1」[闇憑](2011/08/13 21:46)
[66] 終幕:「阿修羅の如く、その2」[闇憑](2011/08/14 17:37)
[67] 終幕:「阿修羅の如く その3」[闇憑](2011/08/16 06:33)
[68] 終幕:「阿修羅の如く その4」[闇憑](2011/09/04 08:25)
[69] 幕間:「特異点の視野 その3」[闇憑](2011/08/21 10:17)
[70] 終幕:「阿修羅の如く その5」(修正版)[闇憑](2011/09/03 20:17)
[71] 幕間:「御剣家の人々」[闇憑](2011/09/16 10:25)
[72] 嘘CM[闇憑](2011/09/08 09:26)
[73] 終幕:「御剣家の乱 その1」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[74] 幕間:「御剣沙紀のちょっとした博打」[闇憑](2011/09/11 01:58)
[75] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練」[闇憑](2011/09/11 23:14)
[76] 幕間:「御剣冴子の憂鬱」[闇憑](2011/09/16 20:12)
[77] 幕間:「御剣家の人々 その2」[闇憑](2011/09/17 06:53)
[78] 終幕:「御剣家の乱 その2」[闇憑](2011/09/30 20:58)
[79] 終幕:「御剣家の乱 その3」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[80] 幕間:「御剣沙紀、最大の試練 その2」[闇憑](2011/09/22 20:36)
[81] お笑い[闇憑](2011/09/25 09:22)
[82] 終幕:「御剣家の乱 その4」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[83] 幕間:「作戦会議――御剣家の乱・決戦前夜」[闇憑](2011/09/30 20:59)
[84] 終幕:「御剣家の乱 その5」[闇憑](2011/10/01 09:05)
[85] 終幕:「御剣家の乱 その6」[闇憑](2011/10/21 09:25)
[86] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その1」[闇憑](2011/10/04 08:23)
[87] 終幕:「水曜どーしよぉ…… その2」[闇憑](2012/01/12 14:53)
[88] 幕間:「斜太チカの初恋 その1」[闇憑](2011/10/14 11:55)
[89] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」[闇憑](2011/10/19 20:20)
[90] 幕間:「斜太チカの初恋 その3」[闇憑](2011/10/30 03:00)
[91] 幕間:「斜太チカの初恋 その4」[闇憑](2011/11/07 04:25)
[92] 幕間:「斜太チカの初恋 その5」[闇憑](2011/11/13 18:04)
[93] 終幕:「水曜どーしよぉ…… 3」[闇憑](2011/11/21 04:06)
[94] 終幕:「最後に残った、道しるべ」[闇憑](2012/01/10 07:40)
[95] 終幕:「奥様は魔女」[闇憑](2012/01/10 07:39)
[96] 幕間:「神々の会話 その2」[闇憑](2012/03/11 00:41)
[97] 最終話:「パパはゴッド・ファーザー」[闇憑](2012/01/16 17:17)
[98] あとがき[闇憑](2012/01/16 17:51)
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[27923] 幕間:「斜太チカの初恋 その2」
Name: 闇憑◆27c607b4 ID:cb2385d9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/19 20:20
「あの、斜太さん……料理、出来たんですね」
「ん、まあね。
 中学一年までは、真面目に女の子やってたし。……三年間で、かなり馬鹿になったけどさ。
 ……その頃の写真見たら、多分、ギョッとなると思うぜ?」

 居候のままじゃ心苦しいので、とりあえず、軽く何か作ると宣言し、キッチンを借りて料理を作る。

「にしても、少し珍しい能力ですね。『魔法を使っての収納能力』、沙紀ちゃん並みの収納量じゃありません?」
「ああ、まあ……多分、『奥の手』に絡んでるんじゃないかな?」
「……奥の手?」
「んー、あたしの最終奥義?
 なんとなくこう……魔法少女として生まれ変わった瞬間、『ああ、これだ』って思えるモノだったから。
 ……ただ、今の段階じゃ、多分、自爆技にしかならない」

 その言葉に、沙紀ちゃんが水を向けてきた。

「なんか……あたしと一緒ですね。
 能力だけが先行してて、それをコントロールする魔力や実力が、ついて来ないタイプ」
「かもね。だから今のところ、あたしに使えるのは『鎖』、あとは『コレ』かな」

 そう言って、あたしは作った料理を皿に盛り付けると……一つの力を発動させる。

『?』

「はい、お待たせ」

 出来あがったカレーライスを、食卓に並べ始め……ぎょっとなる二人。

「チカさん、今、台所で料理してましたよね?」
「ああ。ついでに、ちゃんと二人とも『あたしを見えては居た』よ。ただ『存在感や気配』が『極度に薄くなる』のさ。
 ……ほら、あたし……図体デカいじゃん? 大女だメスゴリラだ何だって色々言われてたから、そのへんも絡んでるのかもね」

 ちなみに、身長は174センチ、スリーサイズは……まあ、秘密だ(悪い方では無いと自負してはいる)。

「ま、人間や魔法少女相手の、不意打ちとかストーキングとかにしか使いようが無いけどね。……ローグスタイルの戦い方にはもってこいかもだけど、あんまりイイ使い道のある魔法じゃないよ」

 と、

「そんな事無いよ」
「沙紀ちゃん?」
「私、分かるよ……魔法少女の願いって、力って、全部、万人共通の願いだもん。
 ただ、『誰かの願いって、誰かの呪い』なだけで……何て言うのかな、それを飲み下して、ちゃんと使いこなす事が、求められるんじゃないかな?」
「そう……かな?」
「そうだよ。きっとその力だって、役に立つ日が来るよ!」

 その言葉に、あたしは苦笑いをした。

「……なるほど、これもまた、『正義』という名の『酒』か」
「え?」
「ん? あたしの信念(ポリシー)でね……『正義』も『酒』も一緒のモノ。適量用いれば百薬の長なれど、飲める量を間違えたら、破滅あるのみ。
 だから、保護者が居る子供の頃に、ちゃーんと正しい事を教え込んで、うんと夢を見て、うんと失敗して……そんで、人間は大人になって行くんじゃないかな、って。
 そんでまあ……チョットだけ。将来、『酒』とか『正義』に溺れないよう、ワクチン代わりにかるーく『悪い事』を教え込む奴が、稀に居る。なーんとなく、そう思ってんだ」

 と……

「あの、お酒って……」
「あー。あたしねー、子供の頃からずっと影で飲んでたりしてたんだ。中学超えたくらいからは、もう立派に酒豪でさー。
 そこらの大人よっか、飲んでたと思うよ?」

 そう言って、あたしは『カティー・サーク』のボトルを取り出す。

「どぉ? カレー喰う前だけど、軽く一杯、飲る?」



「……飲ますンじゃ無かった……」

 あの後。
 カレーを平らげて、沙紀ちゃんは帰ったものの。

 何だかんだと勧めて飲み始めてる内に、巴さんも付き合うように、もぉ一杯、もぉ一杯と、杯を重ね始め……まあ、彼女も見た目通り生真面目な分、溜めこんでるモンが多いと言うかなんというか。

 酷く『絡む』のである。いや、ホントに。

 ……何と無く、沙紀ちゃんの感の良さを、あたしは垣間見た気がした。
 きっと『危ない』と思って撤退したのだろう。

「まあ、でも、何だかんだと颯太の事、好きなんじゃないか、この子も」

 きっと真面目な分、あいつの死んだ姉さんの遺言を、後生守って言いだせなかった部分もあるのだろう。
 だったら……

「おーい、起きろー。風邪ひくぞー」
「ん? ……あれ? 私……?」
「完全に酔っぱらって潰れちまったんだよ……あー、アンタにゃウィスキーはまだ早かったね。
 とりあえず、ビールから始めたほうがいい。あと、飲み過ぎには注意しな」

 と……

「その、チカさん……この事は、颯太さんに言わないでくださいね?」
「あ? 言わないよ。
 ……むしろ、あんたの口から言うほうが、いいんじゃないか?」
「え?」
「颯太(あいつ)がどんだけの朴念仁か、もー切々と説明してくれたじゃないか。酔っぱらって」
「えええええええっと……その、記憶が……」

 ……やっぱりか。

「いいんじゃないの? 正義の味方だって、酒呑むくらい。
 あたしら魔法少女なんて、魔獣との勝負で命がけの日々を送ってんだし、こう、パーっと、さ♪」
「は、はぁ……お酒って、恐ろしいですね」
「まあ、確かに、酒は魔物だから上手く付き合う必要はあるけどさ……それでも、上手く付き合えれば、これほど頼もしい味方は無いよ。
 それと、なんていうか……あんたさ、いっぺん『間違えて』みたらどうだい?」

 その言葉に、首をかしげる巴さん。

「『間違える』?」
「そ。
 何っつーか……自分が『先輩として立たなきゃいけない、シッカリしなきゃイケナイ』ってのは分かるけど。
 好きな人の前で、隙を見せて甘えるくらいは、してみたらどうだい?」
「そう……です、けど。その……何て言うか、やっぱりほら、作ってきた立場というか、そういったのって……」
「なーに、心配しなさんな。そーいう時のために、『酒(こいつ)』がある♪」

 そう言って、あたしは『シーバス・リーガル』のボトルを、ドン、と置く。

「少なくとも、酔っぱらった女を介抱するくらいの甲斐性は、男なら誰にだってあるハズだしね。
 そうやって、間違える事の出来ない立場の人間が、『正しく間違えて転ぶために』酒(こいつ)はあるんだよ」
「はぁ……」
「大丈夫! どんな聖人君子だろうが魔法少女だろうが、酔えば誰だって酔っ払いだ♪ そんで、『正義』も『酒』も、『自分が飲める範囲を知っておくこと』も、また、正しい事だよ。
 そして、それが分かったのなら、あいつに軽く、酒(こいつ)の力を借りて甘えてみたらいい。……案外、面白い方向に話が転がって行くかもしれないぜ?」
「そう、ですね……今度、試してみます」

 あたしの言葉に、巴さんはうなずいてくれた。



 その後、その酔っぱらった巴さんの行動と告白が、『どう面白い方向に転がった』かは、別の話。
 ええ、ええ……面白すぎて、ションベンチビるくらい『怖い目』と『痛い目』を、巴さんもあたしも見てしまいましたとも。クワバラクワバラ。



「ほほう、中々面白い動かし方してくるね、沙紀ちゃん」
「えへへへー」

 ある日の事。
 『魔獣狩り』の前に颯太の家に集まり、買い物に行ってる颯太を待ってる間。
 あたしと沙紀ちゃんは、『アドミラブル大戦略Ⅵ』をガチャガチャとプレイしていた。

 実は……こと、ゲームに関しては、あたしはアクションやシューティングよりも、RPGやSLG、あと、トレカ系なんぞにも、ちょろちょろと手を出してる。ついでに将棋はアマチュアの段位持ってたり。
 こー、何というか、激しいアクションや弾幕を避けるよりも、ストーリーを追ったりロジックで構成された盤面に没頭するのが、実は好きだったりするのだが……この図体と数々の喧嘩の逸話のせいで、そーいう趣味とは無縁の人と思われてしまうのが、悲しかったり。

 そういう意味で、沙紀ちゃんが振ってきたSLGゲームの対戦プレイの話しは、願っても無い申し出だった。
 そして……彼女がコマを動かす『筋』は、未熟ながら非情にユニークに富んでいて、面白味があった。

「だけど、こう来るとどうするのかな?」
「うにゃっ!? チカさん、それは……」

 爆撃機を沙紀ちゃんの高射砲の死角に置いてやる。

「うー、うー、こーする!」
「ほい、じゃ、タンクをこっちに進めて、と」
「うにゃー!? ひどいよ、こんなのあんまりだよーっ!」

 はい、チェック・メイト。
 そのまま、詰将棋のよーにカタに嵌められて司令部陥落、と♪

「……チカさん、意外な趣味をお持ちですよねぇ」
「ああ。あんたとはチェスで今晩、また一指し願いたいね……西洋将棋も、悪くないモンだ」

 と……

「痛ってぇな、こんチクショウ!! 放しやがれ!」
「なーにが『放せ』だ、こん盗人が!」
「痛だだだだだっ……くそっ! あたしも焼きが回ったか……」

 玄関先に現れたのは、颯太……に、後ろ手に関節極め上げられた、知らない魔法少女が一人。

「よう、颯太、お帰り……って、コイツ、誰?」
「ん? 『スーパーの万引き犯』。で、悪いんだけどチカ、お前の『鎖』でとっ捕まえといてくんね?」
「あいよー」

 そう言って、変身して『罪科の錨鎖』で、万引き犯をとっ捕まえておく。

「テメェら、あたしが誰だか知っててやってんのか、この野郎!」
「あー? アンタが誰様だか、こちとら知ったこっちゃないけどさ。
 あんた、魔法で万引きとか、それでも魔法少女かい? 世間に対して恥ずかしいとは、思わねぇの?」
「なんだと? ……テメェみてーなメスゴリラに言われたかねぇよ!」

 ピキピキピキ……

「誰がメスゴリラだ? こんガキャあ?」
「アンタだアンタ! ……キュゥべえの奴、とうとう契約相手に事欠いて、ゴリラの少女とまで契約しやがったのか」
「はっはっは……颯太ー、こいつ、裏でシメちゃっていい?」
「逃がさなければ、好きにボコっていいぜー。ただし、殺すなよ? あと程々にな」
「了解♪」

 そう言って、鎖で締め上げたまま、片手で持ちあげる。

「うおっ!! ……なんつー馬鹿力だコイツ……放せっ、このゴリラっ!!」
「悪いなぁ。パワー『だけ』なら、巴さんや颯太のお墨付きもらってんだ、あたし」
「巴さん? あんた、マミの知り合い……って」

 その奥から、ひょっこり出て来る巴さん。

「あら……珍しいお客さんね」
「なっ、マミ! って事は……あいつが噂の『魔法少年』かよ!」
「そういう事。
 ついでに彼女は、私たちの仲間で、期待の新人。見ての通り『素質だけ』なら超一流よ」

 期待の新人、ねぇ……正味、いろんな事を教わってる段階で、自分の力の活かし方も、まだ全部分かっちゃいないんだけどね。

「巴さーん、ちょっと裏でコイツ、シメてきますねー」
「殺さないようにね、チカさん。……一応、それでも魔法少女としては、あなたより大先輩なんだから」
「了解。ま、この鎖は、知っての通り、そう簡単にゃ千切れやしませんけどね」
「うわあああああ、放しやがれ、この筋肉ゴリラ女ーっ!!」
「あっはっは……まずは年上に対しての、口の利き方から教え込もうかー?」

 完全に鎖で緊縛して身動きとれない状態にして、死なない程度にボコボコにしつつ。

 これが……あたしと杏子との、初対面だった。



「さて、どうしたモンかな、っと……」

 何だかんだとシメて説教して……彼女の事情を知ったあたしは、そこで颯太との因縁を知る事になる。
 ついでに……颯太や沙紀ちゃんが、佐倉杏子の活動範囲に行きたがらなかった理由も。

 ……まあ、そりゃぁ避けるわなぁ……インチキ新興宗教の親玉の娘と、その被害者の子供。
 どー考えても、噛み合うワケが無い。

 だが、あいつは多分、自分の父親が何をしていたのか、知らなかったのだろう。
 でなければ、あんな所で涙を流すワケが無い。だからこそ……

 『あのさ、颯太……あの子の事、あたしに任せちゃくんねぇか?』

 そう、名乗り出た。
 それに、そういう、帰る家も家族も無い『救えない奴』を『最低限の所まで』引っ張り上げてやるのは、あたしの仕事だと。
 魔法少女になったあの日、そう誓ったのだ。

 だから……

「よっ♪」

 ゲーセンで、ダンスゲームを踊ってた彼女に、気配を消して近づき。
 踊り終わった所で、思いきって声をかけた。

「っ……テメェ……」
「イキんなよ、『先輩』。……ちょっとさ、話があるんだ」
「はっ、メスゴリラが人類に、何の話があんのさ?」

 ピキピキ……

「好きでデカくなったんじゃねぇんだけどなぁ……あたしも」
「そりゃ、類人猿だからショウガネェんじゃねぇの?」

 ピキピキピキピキ……

「まあ、ゴリラでも何でもいいさ。だから……」
「失せろよ、メスゴリラ。群れに帰れ」

 ブチっ!

「上っ等だ、表出ろゴラァ!!」
「はっ! 本性現したじゃん……野ゴリラが」




「なあ、アンタさ……多分、あたしと『同類』だろ? そんな『匂い』がするんだ」
「まあ、な……」

 繁華街の路地裏で。あたしは魔法少女の大先輩と対峙した。

「分かんねぇなぁ……そんな奴が、何でイイ子ちゃんのマミと組んでやがる?」
「それ含めて、話そうかと思ってたんだけどねぇ……ま、いいさ。
 ボコられたのがムカつくってンなら喧嘩(ゴロマキ)くれぇは付き合うさ。元々、ゲンコで勝負すんのも、あたしの流儀の内だ」

 そう言って、あたしは変身し、両腕に鎖を巻く。
 完全な格闘戦(グラップル)スタイルが、今のあたしの流儀だ。

「はっ、腕力馬鹿のゴリラ女が……魔法少女の実戦を教えてやるよ」
「そうかい、よろしくご教授頼むぜ、先輩!」

 そして、あたしの魔法少女としての、初めての『喧嘩』の火ぶたが切って落とされた。



 っ……速えぇ……

 恐ろしいほどのリーチと速度に、あたしは驚愕した。
 颯太程ではないが、こいつ……恐ろしく速い!

「はっ、そんなダルマみたいになって、手も足も出無いか!?」
「……っ!」
「筋肉バカが……手玉だぜっ!」

 振りまわされる多節棍のような槍に、一方的に叩きつけられる。
 だが……元より、こちとら『無傷で勝とうなんて、思っちゃいない!』

 振りまわされる槍に叩きつけられ、突き出す先端に腕をぶち抜かれ。
 一方的にボロボロにされながらも、何とか耐え抜いて耐え抜いて耐え抜いて……

「これで……終わりだよ!!」

 トドメに振るわれる、横薙ぎの一閃。それを……あたしは強引に引っ掴んで、右手で止めた。

「なっ!!」

 更に……

「捕まえろっ!!」

 左手の錨鎖が、そのまま槍を這うように絡みつき、奴の右腕をひっ捕える。

「っ!」
「さあ、捕まえたぜぇ……ゴリラとチェーン・デスマッチだ、先輩!」
「くっ……てめぇ……ハナッからそれが狙いか!」
「そぉらぁっ!!」

 そのまま、一本釣りの要領で、振りまわしながら叩きつける。魔獣狩りの、あたしの必勝パターンに嵌めた。
 が……

(やべぇ、攻撃、喰らい過ぎた……ちょっと意識が……あっ!)

 ふと……投げ落とす先に居た、黒い猫を庇って。
 思わずあたしは、あいつの右手にかけた鎖を、反射的に緩めてしまい……

「もらったっ!」
「やばっ!」

 解けた鎖から抜けたあいつが、そのままビルの壁面を足場にして槍をふりかぶるのを、あたしは呆然と見て居た。



「……なんで、トドメ刺さねぇんだよ?」

 体のすぐ脇にブッ刺さった槍を、呆然と眺めながら。
 あたしは佐倉杏子に問いかけた。

「あのさ、あんた……馬鹿だろ?」
「あ?」
「喧嘩の最中に、猫なんぞ庇って……何なんだよ」
「うるせぇなぁ……好きなんだよ、猫」

 何というか。
 動物以外、友達が居なかった時期とかありまして。

「……そうかい、あんたも一人ぼっちだったんだな」
「……まあ、な」

 お互い。
 ボロボロの体で、ビルの壁面にもたれかかる。

「あのさ、話しって……何だよ?」
「そりゃあ……あー、ここから近いか。ビルで話そうや」



「あんたさ、本当に好きになった男とか、居るかい?」

 『元』斜太興業の事務所があった、ビルの階段をのぼりながら。
 あたしは佐倉杏子に問いかけた。

「あ、何だよ? ……居るワケ無ぇだろ?」
「そうかい……だったら、まあ、意味の無ぇ話に聞こえちまうかもな」

 かつて、組事務所のあった階の扉を、開けて。
 あたしは中へと入った。

「……ここは?」

 かつて、組長(おやじ)の部屋だった、今は何もない空間。

「うん、何も無い……もう、誰も。ここに戻ってきてない」

 それだけで。
 あたしは胸が一杯になるくらい、満足だった。

「ここはね……あたしの親父の組事務所だった。
 あたしの親父は、ヤクザの親分やってたゴンダクレのロクデナシでね……斜太興業、知ってるかい?
 あたしの名前はね、『斜太チカ』って言うんだ」

「……………!」

「他人の事なんぞ、お構いなし。仁義も任侠もクソも無い。
 シャブさばいて、他人カタに嵌めて、人生食い物にして……そんな世間に顔向けできない事を一杯して、食い扶持稼いでるって知ったのは、あたしが中学一年の頃だったかな?
 当時、学校で出来たばかりの親友の家族を、あたしの親父たちはハメたのさ……

 ……悲しかったよ。
 それまで、ちょっと背が高いダケが悩みの、フツーの女の子だと思ってた自分がさ、全然フツーじゃなかったんだ。

 親に『カタギになってくれ』って頼んでもさ……ぶん殴られて『お前のためなんだぞ』って言われちまったら、子供としちゃあ、もう何も言えないじゃん?
 だからね……荒れた。もー滅茶苦茶に荒れたよ。
 酒、たばこ、ドラッグ、暴力、盗み、援助交際(エンコー)……悪い事は一通りやった。背中に刺青(タトゥー)まで入れて……もう何がどうなろうが、人生知ったこっちゃ無いってくらい、荒れたよ。

 そんな時にね……何とか高校に進学して、アイツと出会った。
 本気で惚れた、男と出会ったんだ。

 でも、そん時のアタシは、もう、体まで滅茶苦茶だった。
 タバコのニコチンで肺は真っ黒、ドラッグのムカつきは取れない、内臓も色々イッてたし、処女だって捨てちまった後で、背中に刺青(タトゥー)まで入れてたしね。
 そして、そんな薄汚いドブ泥の底で、カタギの血を産湯に漬かって生まれちまった……そんなあたし自身の体が、親たちが、そして何より、それに『逆らうことが出来なかった自分に』一番、我慢ができなかった。

 ―――だから、キュゥべえに頼んだんだ。

 『斜太興業の全員を』カタギにしてほしい。
 世間様に何恥じる事の無い仕事に就いて、真っ当な稼ぎでメシを喰って。あたしも含めた全員が、カタギの好きな人に告白できる『綺麗な体』になりたい!』って。

 魔獣退治が命がけだとか、そんなの知ったこっちゃない。
 『命を賭けるよりも、命を賭けられないまま腐って行く自分が』あたしゃ我慢がならなかったんだよ」

「あんた……」

「しかもさ……正直に、親父とオフクロに事情話したら、何っつったと思う?
 『誰のためにヤクザしてたと思ってんだ』とかさ、完全にトンチンカンな事ヌカすんだぜ? 誰がアンタに頼んだよ、そんな極道な生き方!
 だから、家中ひっくり返すような大喧嘩して、後ろ足で砂引っかけて、おん出てやったのさ。そんで今は、巴さん家に厄介になってる。
 もー、あんなの親じゃ無いよ。
 せっかく、カタギになって食い扶持まで稼げるよーにしておいて、何ヤクザに夢見てんだか……」

「それでも……家族だったんだろ?」

「まあね……家族だと思ってたよ。
 実の両親だけじゃない。斜太興業の組員全員、世間に蛇蝎のように忌み嫌われても、あたしにだけは優しかったしね。
 でも、もうあんなの親じゃない、親とはあたしが認めない。
 ……丁度よかったんだよ。
 極道の家庭なんて、元々どっかブッ壊れてるも同然なんだ。だったら、いっぺん、完全にブッ壊したほうがいいのさ……ざまぁ見ろだよ」

「……………」

「なぁ。アンタにどんな事情があったんだか、あたしゃ知らない。
 でもさ、この魔法少女として授かった力ってのはさ……世間様に迷惑かけるために使うモンじゃ、無いんじゃないのか?

 そうじゃなくてもさ……もしあんたが将来『好きな人が出来た』っつったら、あんた、どのツラ下げて、その人に告白するつもりだい?
 『あたしは泥棒やって生活賄ってる家なき子です』って……惚れた男に、そう堂々と言えるのか?
 そうやって、手前ぇが勝手に背負いこんだ、汚いモンまで惚れた男と分かち合えってのか? そんな自分が恥ずかしく無いのか!?

 そうじゃなくてもね……あたしには分かるよ。

 あんたは『ホントはイイ子』って奴なんだよ。そういった半端なワルはね……あたしの親父みたいな『本当のワル』にとっちゃ、いいカモでしか無いんだ。そんで喰い物にされちまった子を、あたしはイッパイイッパイ見てきてるんだ!
 いいかい? ワルのドブってのはね、本当に底なし沼なんだ!
 あんたは今、魔法少女の力を使って、舌を出して上手く凌いでるつもりかもしれないけど、こんな暮らし続けてたら、本当に『取り返しのつかない事』に手を染めちまうよ!?
 そんな事をしちまったが最後……もう、キュゥべえと契約でもしない限り、絶対、ワルのドブから抜けだせなくなっちまうのさ。……昔のあたしみたいに、ね。

 だから、盗みなんぞ辞めて、差し伸べてくれた颯太の手に縋っておきな!
 ……それが、アンタのためだよ」

 と……

「すまねぇな。
 あたし、アンタの事……色々、誤解してたよ」
「別に、構わねぇよ。分かってくれりゃ、それでいい。
 だからさ、一時的にでも、アイツの家にでも厄介に……」

 そう切り出した。
 が……

「でも、ダメだ……アイツにだけは、世話になる事は出来ねぇ」
「何でだい!? 金もある! 住む所もある! そんな奴が手を差し伸べてくれるチャンスなんて、そうそうあるモンじゃねぇんだぞ!?
 それともナニかい? あんたの親父がやった事の負い目かい? だとしたら、チャンチャラ筋違いだよ!
 子供は親を選べないんだ! その事くらい、颯太だって……」
「違う! ……違うんだよ……アイツには。『アイツにだけは』、絶対に世話になれねぇんだ」

 どうやら、何か……複雑な事情が、あるらしい。

「何でかな……あたしとアンタと同じ魔法少女なのに……どーしてこうも、違っちまってんのかなぁ?」

 涙を流す佐倉杏子を……思わずあたしは抱きしめて、頭を撫でてやった。

「その……まあ、何だ。もう、夜も遅いからよ。今日一日、ココに泊まって行こうぜ。
 あたしは明日、学校があるけどさ……放課後になったら、アンタのほうの事情、聞いてやるよ」
「……ああ、頼む」



「どーした、チカ……ボコボコじゃねぇか」
「ん、まあ、なんつーか……滅茶苦茶強かった。負けちゃった」

 後日。
 学校で正直に、結果だけを報告する。

「だから言わんこっちゃ無い……どれ、俺が今度はアイツを」
「いや、話は聞いてもらえたんだ。今度は、あたしがアイツの話を聞く番。
 放課後に、ちょっとね……」
「本当に、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。あたしを信用しとくれ……多分、これは、あたしにしか出来ない事だ」
「……だったらいいが。
 お前、魔法少女同士の喧嘩を、甘く見るなよ? うっかりしたら、本気で殺されるぞ」
「ん、分かってる……」

 だが……何か、気になる。

 あいつの涙の意味が、あたしにはまだ、全然つかめない。
 だが、トンでもない事実が、そこに秘められているのではないか?

 そんな嫌な予感が……尾を引いて、離れなかった。



「……へぇ。なんか、イイ感じの教会じゃん?」

 廃教会。
 そんな趣の建物だったが。あたしは逆に、それが何か気に入った。
 ……神様から見捨てられて魔法少女になったよーなアタシだ。このくらいの教会で式を挙げるのが『丁度いい』とすら思ってた。

「ここはね……あたしの親父の教会だったんだ」
「ああ。そのへんの話は、颯太から聞いてる。
 その……インチキ新興宗教の教祖様で、信者から金を巻き上げてた、ってね」
「違う!
 ……って、言っても、信じちゃもらえないか。
 確かに、あの兄妹にしてみりゃ、あたしの親父は、とんだペテン師になっちまうんだろうな」
「いや、よぉ。酷い事言うようだけど……ドコをどー逆さに振るった所で、そーとしか見れないだろ?」

 むしろ、それ以外に、どういう風に見ろと言うのか?

「そうじゃねぇんだよ。
 インチキなのは親父じゃ無い。インチキをしたのは……あたしなんだ」
「あ?」
「あたしの親父は正直過ぎて優しすぎる人でさ……新聞を読んでは、『どうして世の中が良くならないんだ』って、そんな風に真剣に悩んで涙を浮かべるような人だったんだよ。
 『新しい時代には、新しい信仰が必要だ』っていうのが、親父の口癖でさ。そんである時、親父は信者に対して、教義に無い事まで説法をするようになった。
 ……当然、信者の足はバッタリ途絶え、本部からも破門された。あたしたちは一家揃って、喰うにも事欠く有様になっちまった」

 なんというか。
 颯太から聞いた『悪徳宗教家』とは、ちょっとズレたイメージの告白に、頭が混乱して来る。
 ……純粋過ぎる人?
 それがどうやったら、颯太の……いや、御剣家を破滅させるんだ?

「親父は間違った事なんて言ってなかった。だけど、誰も真面目に取り合ってくれなかった。
 悔しかった。誰もあの人を解ってくれないのが……あたしには我慢出来なかった。
 だから、あたしはキュゥべえに頼んだんだ――『みんなが親父の話を、真面目に聞いてくれますように』って」

「なっ! ……ちょっと待てっ!! それじゃあ……」

「ああ、そうだよ。
 あいつにとって……いや、あの兄妹にとって『本当の仇』は、あたしなんだ。

 そして、あたしは晴れて魔法少女の仲間入り。
 バカみたいに意気込んでたよ……親父の説法と、あたしの魔獣退治……表と裏から、世界を救うんだ、って。
 でもね……ある時、カラクリがバレた。
 魔法の力で信者が集まったって知った時、親父はブチ切れたよ。あたしの事を、人の心を惑わす魔女だって……そう罵った。

 そんで、親父は壊れちまった。
 酒に溺れて、頭がイカれて、最後は無理心中さ……あたし一人を置き去りにして、ね。

 だからあたしは、二度と『他人のために魔法を使わない』って誓ったんだ。
 奇跡ってのはタダじゃない。祈った分だけ、同等の絶望が撒き散らされる。そうやって、差し引きゼロにして、世の中は成り立っている。
 だからあたしは……その『高すぎるモン』を払っちまったツケを取り戻すために……釣銭を取り返すくらいのつもりで、生きてきたんだ」

 その言葉に。
 あたしは……腹が立った。

「何だよテメェ……それをあたしにゲロするって事は」
「そうだよ……もう、なんか。どうでも良くなっちまったんだ。
 あいつの飯、喰わされた時にさ……腹が一杯なんじゃない、胸が一杯になっちまったんだ。
 あいつさ、あんなヒデェ目を見て生きてきたってのに……一体、何であんな美味い飯を、他人に振る舞えるんだよ? ワケが分からねぇよ」

 そして……キレた。

「ふざけんなよ……アイツはタダであんたに飯を出したんじゃない!
 あんたに魔法少女として『マトモに戻って欲しい』から、カツ丼出したんだぞ!

 そんで……言わせて貰うよ。
 『家族の事を分かって欲しい』っつー、あんたの祈りは間違っちゃいない……間違ったのは、『子供の祈りに答えられなかった』あんたの親父だ!」

「っ……違う、親父は、間違った事は言ってなかった」

「バカ言ってんじゃないよ! 家族を養う食い扶持も稼げネェ奴が、何が『新しい時代の新しい信仰』だい!! 何が『人の心を惑わす魔女』だ!!
 第一、テメェの説法が『絶対正しい』っつーなら、テメェの教えを広める手助けをしたアンタが、『どーして魔女になんなきゃなんないんだ!?』。『そうあれかし』って祈ったのは、テメェじゃねぇか!

 祈るのが宗教家の仕事なら『テメェの祈りにくらい責任持ちやがれ』ってんだよ!!

 純粋過ぎる人!? ふざけんじゃないよ!
 家族養う力も無いくせに、ガキみたいな夢見てるガキみたいな大人がガキを作ったら、そりゃ一家纏めて不幸になるに決まってんじゃないか!」

「それは……」

「言ってる事は確かに間違ってなかったのかもしんないけどね……あんたの親父が『やっちまった事は』トコトン間違ってるよ!!
 大体、自分も救えない奴が、どうして他人を救えるんだい!?
 世の中を良くするには、まず自分から糺して行かなきゃ、世の中なんて良くなるわけが無いだろ! 『自分』だって突き詰めていけば世の中の一部なんだよ!?

 『アレが悪い』『これが悪い』『あいつが悪い』『こいつが悪い』。口先だけの正しい事なら、誰だって言えるんだ!
 そうやって外野から罵詈雑言の石投げて、野球やってる選手の邪魔して潰したとしても、野球が面白くなるワケが無いし、増してや世の中が良くなるわきゃ無いんだよ!

 大体、世の中、口先だけの奴が信用してもらえるワケ無いだろ!?
 言葉や理屈ってのは、後から馬車でついてくるモンで、人間、まず最初に行動ありきなんだよ! あんたの親父は、その『行動』の段階で間違っちまってんだ!
 そりゃ誰も関わろうとはしねぇさ、小奇麗な理想を掲げた『殉教』なんてモンに誰が憧れる!?

 そんでアンタさ、多分、その……『親』と『教師』がゴッチャになってないか?
 そりゃ『何が間違ってるか』なんて見抜けるわけが無いよ……子供にとっちゃ、両方とも絶対のモンだ。
 その『両方』が同じように間違っちまったら、子供としちゃ、どんなペテンにかけられようが、お手上げだよ。比較対照のしようが無いんだもん。
 っていうか……あんたさ、ホントに『イイ子ちゃん』だったんだな? 親に逆らったりとか、疑問を持ったりとか、ワガママ言ったりとか、無かったのかい?」

「……………」

「あのね、『夢や希望』ってのは本来、子供の特権なんだ。
 それをあんたの親父は、家族を犠牲にして、他人を犠牲にしてまで、『自分じゃ絶対飲みきれない量の正義』っつー夢を見ちまったんだ。
 酒に溺れて頭がイカレて? 所詮、正義も酒も一緒のモンだよ!
 『器を超えた飲めない正義』に手を出して飲めば、そりゃ頭がイカレるのはアタリマエの話だっ!!



 ……あたしの好きなマンガに、こんなのがあるんだけどね。



 あるとき、街にやってきたある男が、説法を始めた。
 「世の中が良くなるように」
 そう言って、男は毎日説法を続けた。
 最初は皆、耳を傾けた。共に戦おうという者も居た。だが――皆はまた、興味を失って行った。
 連中にとっちゃ、世の中がどうなろうと、知ったこっちゃ無かったんだ。

 だが、男はやめなかった。年を食い、誰ひとり聞く者が居なくなっても、男は説法を続けた。

 ある時、そこを通りかかった子供が、男に聞いた。

「どうして誰も聞いてないのに、説法を続けるのか」と。

 男は答えた。

「最初は、皆を変えられると思っていた。そして今では叶わぬ夢だとも知っている。
 だが俺が説法をやめないのは……あの頃の俺は、『生きてるって事を、こいつに懸けてた』んだ。
 それを嘘にしたくネェからだよ」

 そう言いながら、男は説法を続け、闘い続け……最後の最後にはね、テロリストっつー『公共の敵』に成り下がっちまった。世の中を『悪くする側』に、回っちまったんだ。



 ……アンタは、アンタの親父を『嘘にしたくなかった』んだろ?
 だけどね……間違ってるモンは、やっぱドコまで行っても間違ってんだ。そいつから目を背け続けても、絶対に、ロクな事になりゃしないんだよ! 最後にゃあんた、ホントにテロリストになっちまうよ!」

「だからって……今のあたしに、どうしろってんだよ!! 窃盗(それ)しか生き方を……やり方を知らねぇんだよ!!」

「ああ、そうだよ!
 あたしにだって、あんたの告白受けて、どーしていいか分かったモンじゃないよ!

 だけど忘れたのかい、アンタ? どうしてあたしが魔法少女をやっているかを?
 あたしの親父たちはね、神妙なツラしてあたしのダチの家族を切り捨てた。はした金と……『自分たちを食わせる居場所を護るために』。

 あたしがアンタに拘ってんのはね。
 あたしをそんな生き方から抜け出させてくれた、巴さんや、沙紀ちゃんや、颯太や……そんな魔法少女って存在(モン)が、『あたしの親父たちと同じ理屈で同じ事をやってやがる』。
 そいつがあたしにゃ……我慢なんねぇんだ!!」

「っ……………」

「沙紀ちゃんが言ってた事の意味が、あたしにゃようやっとわかった。
 『誰かの願いは、他の誰かには呪いだ』って……そのまんまじゃないか、この状況!
 道理で、魔獣が絶えないワケだよ……『人の世に願いが在る限り、また同じだけの呪いも増え続ける』道理さ。

 あの子の能力は、究極のコピー能力だ。
 ……他人の傷を、心を、願いを、誰よりわかってやれる、優しいあの子だからこその能力なんだろうね……共感能力が強すぎるんだよ。
 だから、他人に回復系の力を使うと、本人よりも強烈な痛みを伴っちまうんだ。

 でもね、そんな子でも、必死になって自分の力を使いこなそうとしてる。
 いいかい? 他人の力を、願いを、思いを、『自分のモノにする』ってのは、そりゃ物凄い覚悟と努力が要る。
 でもね……そうやって『誰かの願いっつー呪いを飲み下して』初めて子供ってのは、人間ってのは成長出来るんだ!

 そういう意味で、全部が全部、純粋なまま大きくなれる奴なんて居ない!
 もし、そうなっちまったとしたら……そいつは大人の皮を被ったガキでしか無いんだよ! そんなのがマトモに社会で暮らしていけるワケが無いじゃないか!

 あんたとあたしの違いは……『何に反抗したか』さ。『親』か、『世間』か、どっちが正しいか。
 それを『見抜きようも無い』アンタの立場で、魔法少女なんて素質を持っちまったあんたが……あたしにゃ哀れでならないよ。っていうか……はっきり言っちまえば、元々、あたしらみたいなガキが、こんな力を持っちまう方が、どっか基本的に間違ってんだ。
 今のアンタは『魔法少女の力に、生き方そのものを』振りまわされてるようにしか、思えネェ。力ってのは、振りまわすもんで……振りまわされるモンじゃ、無いだろ?」

「だったら、あたしに……どうしろってんだよ。
 死ねとでも、言うのかよ? どう償えってンだよ!」

「馬鹿言うな! だから、考えろよ! あたしも一緒に考えてやる! そんで、行動するんだ!
 さっきも言ったけど、言葉や理屈なんてモンはね、後から馬車でやって来るんだよ! あんたン所の教祖様だって、磔台によじ登った後に奇跡を示したから、教祖様になれたんじゃないか!

 ともかく……こんな事実、颯太や沙紀ちゃんに、話せるわけが無い……特に、颯太の奴には、ね。
 みんなアイツを、タダのお人よしの飯炊き男くらいに思ってるかもしれないけど、本性は誰より恐ろしい男だよ……あたしでさえ、本気で怒ったアイツとは、絶対に関わり合いになりたく無いくらいだ。
 そんなアイツが、こんな事実を知ったら……あいつ怒り狂って、あんた殺した後に、本格的にぶっ壊れちまうよ」

「壊れる?」

「ああ、そうさ。アイツはね、両親を殺したあの日から、自分の心を殺して、少しずつ壊れながら生き続けてきたんだ
 あたしら魔法少女が、夢や希望を振り撒くように、あいつはタダひたすらに現実だけを見て。御剣冴子や御剣沙紀っつー夢や希望を振り撒く、魔法少女の盾になり続けてきたんだ。
 ……本当は、子供として本格的に、色んな夢を見るべき分までね。

 そうやって、あいつは『自分』っつー心を殺して殺して殺して……『家族』以外の夢が、見れなくなっちまってんだよ。
 だからさ……とりあえず、何やっていいか分かんないから、あいつのためにも、家出者同士、『基本』から始め直そうぜ?」

「基本?」

「衣・食・住。人間の基本だよ!
 食のほうは……まあ、あたしが何とかする。こう見えて、料理の腕には少し自信がある。
 だから、あんたは住のほうを、あたしに貸してくれ」
「あたしにゃ、もう家なんて……」
「何言ってるんだい? 『ここ』だよ! この教会は『あんたの家』じゃないのか!?」
「っ……! それは……」
「どんなに辛かろうが、目を背けたかろうが! あんたの家は『ここ』以外無いんだよ!
 大体、世のトーチャンカーチャンが、自分の持ち家を買うために、どんだけ必死に働いてると思ってんだい!?
 世間に迷惑かけず、住み続けるとしたら……もう、この教会以外に、あんたに場所なんて残されちゃいないよ!」

「……」

「大丈夫だ、あたしも手伝う。……この問題に、とことん付き合ってやる!
 そんで、二人で何とかしよう……あたしも馬鹿だから、どーしていいか分かりゃしないけど。とにかく何とかするんだ!
 でないと、あたしが本気で惚れた男が壊れちまうし、アンタだって放っておけない。
 希望で始まり、絶望で終わるなんて……そんなの、あたしが許さない! 許すもんか!」

 その言葉に、彼女は涙を流した。

「……すまねぇ……アネサン」

「いいさ……元々、あたしの祈りは『贖罪の祈り』だ。
 あたしが救える奴は、あたしが救う。あたしが救えない奴を、救ったそいつが救ってやれば、それでいい。
 ……人間の社会ってさ、そーやって出来てんじゃないの?
 警察官は犯罪者を捕まえるのがお仕事で、医者は病気を治すのが仕事だ。
 だから間違っても、医者は犯罪者を捕まえたりしないし、警官は病人の面倒を見たりはしない。その代り、警官が病気になったら医者が面倒みるし、医者の家に泥棒が入れば警察が捕まえるんだよ。

 あんたの親父は宗教家だったのかもしれないけど……宗教家が救えるのって、『人間の心』だけで『人間の現実』は救えないんだよ。
 世界を救う絵図面を描くのは政治家の仕事で、それを実行すんのは現実の現場で働く人間の仕事だ。

 そこンところを……多分、あんたの親父さんは、色々間違えて、履き違えちまったんだ。
 アンタが釣銭を取り返すべきなのは、世間に対してじゃ無い。無茶な事を振ってアンタを潰した、親父に対してだよ!

 そんで……もし、出来るのならばでいい。
 釣銭を取り返すなんてセコい事言わず、札束叩きつけて『グダクダぬかすな、これで満足だろう』って、死んだ親父に啖呵切ってやるような生き方、目指しなよ。
 ロビンフッドが居ないってベソかいて嘆いてた情けネェ親父に、アンタ自身がロビンフッドになって、見せつけてやりゃいいんだよ!
 この見滝原っつーシャーウッドの森で!

 ……あと、アネサンってのは辞めてくれ……昔を思い出して、吐き気がしやがる。
 チカでいいよ」

 と……

「ダメか? どー考えてもアンタ……アネサンって感じにしか、思えないよ」
「だから、やめとくれ! 第一、あんたのほうが魔法少女としちゃ先輩だろうが!
 ……むしろ、こっちが色々と、魔獣との実戦面で教えを請わなきゃいけない立場なんだし!」
「分かったよ、ア・ネ・サ・ン」

 にたぁ、とか笑いながら、からかってくる杏子。

「だーっ、やめてーっ!! アネサンとか言うなーっ!! マジでやめとくれーっ!
 あたしゃもう、カタギで魔法少女なんだーっ!!」
「いや、もうイイ具合にシメられたんで、これからはアネサンと呼ぼうかと……」
「アンタがあれで反省するタマかーっ!! やめろーっ!! アネサンとか言うなーっ!!」

 涙目で追いかけるあたしを、ひょいひょいと翻弄する杏子。
 そして……

「も、アネサンで……イイデス」

 こっちがぐったりするまで、追いかけっこをする羽目になり、あたしは降参した。
 ……どうしてこうなった!?


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