「結局……ここに、帰ってきちゃうワケか」「はい、そういう事です」 黒いダンダラ羽織の、魔法少年姿で。 俺は、深々とため息をついた。「まったく……お前はトンだイカサマ師だ!! 結局お前がやった事は、『俺と契約して、お前が改編させた全ての並行世界に、バラバラにして放り込んだダケ』なんだから。 ……何が『殺させません』だ? お前、あの時、俺が佐倉杏子殺してたら、どーするツモリだったんだ!? いや、俺だけじゃなくて、どこか変な所でウッカリバレしたりとか、可能性考えたのかよ!?」 思いっきり睨みつける俺に、彼女はイイ笑顔でこたえる。「言ったじゃないですか。 御剣さんも、他の魔法少女も、みんな信じてましたし、それに……自信、ありましたから」「あ?」「『夢や希望を持つ事が間違ってる』なんて……そんなの、間違ってますから。 御剣さんだって、ちゃんと夢と希望……『努力と根性の果てに』叶えたじゃないですか」 頭痛がした。「まあな。 愛別離苦(あいべつりく) 怨憎会苦(おんぞうえく) 求不得苦(ぐふとくく) 五蘊盛苦(ごうんじょうく) 生きる事の意味をたっぷりと味わったさ。 だが、お前……チカの存在と行動は、完全に予想出来たのか?」「うっ、そ、それは……」 俺は、彼女の立てたプランの、一番の『大穴』に突っ込みを入れる。「アイツは本来、魔法少女にならない存在だった。 だが、『俺が存在する』というファクターによって、一番運命を狂わせたのが彼女だ。 もし俺が彼女を選んでたら……お前は、どう責任を取るつもりだったんだ?」「もちろん決まってるじゃないですか。『その時はその時です』」 さらに頭痛が加速する。 はっきり分かった。 コイツは……キュゥべえよりタチの悪いイカサマ師だ! 夢や理想をぶちあげるだけぶちあげて、その出来は他人任せとか……サイッテーだ!「お前、文句言われなかった? チカの奴に?」「いいえ、むしろ感謝されましたよ? 『ありがとう』って。 『あたしは颯太に挑戦する権利が欲しかったダケ』であって『成功をつかむか否かは、あたし個人の問題だ』って。 ……それに『ちゃんと気持ちは伝わった。それだけで十分満足だ』だそうです」「なるほど、あいつらしい……って、アイツはどこに行ったんだ?」 円環の理の下に、魂が行くとするならば。 アイツはここに現れてもおかしくないのだが……「いませんよ。ここにも、現世にも。 『斜太チカ』という魔法少女も、その人格も、魂も、すでに『ドコにも存在しません』」「なっ!? おい、どういう事だ、テメェ!!」「彼女の希望です……『責任、とってもらう』んだそうです」 ますます分からない。 いや……待てよ。鹿目まどか……つまり『円環の理』。循環する存在……まさか。「そうか、輪廻転生……だとするなら、行先は……」「本来、ちょっと反則なんですけど……まあ、御剣さんが居てくれた事によって、『本当の意味で』宇宙が救われたわけですし。 このくらいならいいかな、って」 は?「ちょっと、ついてきて下さい」 そう言って、俺は、鹿目まどかに手を引かれて、世界を飛んだ。「ここがお前が管轄する宇宙……いや、『すべての宇宙』か!?」 俺が見せられたのは、『全ての並行世界まで俯瞰した、宇宙の姿』だった。 根源を辿っていくと、巨大な大河のような太さ。そこから樹木のように、無数、無限に枝分かれした世界。 『セフィロトの樹』、という言葉が自然と連想出来る、そんな光景。 だが、いくつかの……いや、ほとんどの枝は、行き詰まり、どん詰まりを見せていた。つまり……『その宇宙はそこから進歩をせず、何らかの原因で破滅した』という事だ。 そんな中……その破滅した宇宙も含めた、すべてを横断するように連なる、細い、細い、糸のような蔓が一本。 暁美ほむら。 それが絡め取った因果が一点に集中し……鹿目まどかを生み出した。 そしてそれとは別に。途切れそうなほどか細い糸が、一点に集中している。 あれは……俺だ。「……あ」 その『俺』が集まった一点。……そしてそこを中心に、『無数の並行世界の枝が、未来へと向かって広がっていた』。「分かりますか、御剣さん。 あなたは、『夢と希望』を叶えた。そして……その夢と希望が、『次の夢と希望を創り出した』んです」「……っ!!」「多分……私だけじゃ不可能だった。『魔法少女だけじゃ不可能だった』んですよ。 魔法少年と、魔法少女……男と、女が居て、初めて開ける未来がある、世界がある、奇跡がある。 それを、証明したんです」 だが……それよりも、俺には嬉しい事が、あった。「そうか……宇宙は、続くのか。そして、そこに、俺の子孫が……『家族』が居るんだな?」「ええ、御剣さん。 あなたが『人間として駆け抜けた』人生という旅は終わりました。 でも、あなたが願い、切り拓いた『日々』は終わりません。 タフで、ハードで、厳しくて。でも優しくて、楽しくて、愉快な……努力と根性と奇跡と魔法に満ちた日々は……」「そっか。 俺は……俺は、手に入れたんだ。『家族』を……こんなにたくさんたくさんたくさん、手にする事が出来たんだ!」 涙が……止まらない。「だから、御剣さん。 あなたは魔法少年として『始まりの一(ザ・ワン)』なんですよ?」「ああ。そして、俺は……『全ての俺は』あの師匠から……こういう条件で『力を受け取った』んだ」 涙をぬぐい、振り返る。 そこに居たのは、隻腕の憤怒神。 『かつての俺自身』。全ての魔女と魔法少女とキュゥべえを惨殺し、己も含めた全ての破滅を前提とした存在。 それに向かって。 俺はマミから……愛する妻から受け取った力を振い、一丁のライフルへと仕立て上げる。 ただしそれは、フリントロック式のマスケットではなく『リボルバー式の』、そして『兗州虎徹』を銃剣にした俺の武器。 俺が、戦いと努力の果てに手にした銃剣。俺の……本当の奇跡。 『家族を守れる、正義の味方で在りたい!!』 槍と成した銃剣を『両手で』突き立て、右手で引き金を引く。 魔神は抵抗する事も無く。穏やかな笑顔を浮かべて、消えていった。自らの望み通りに。永遠に、俺の中に……「『家族』ってのは、そこに『俺自身も含まれる』……つまりはそういう事だろ、鹿目まどか?」「正解です♪」 そして、俺は……深々とため息をつく。「まったく……女ってのは、ほんと強欲だ。 無茶でワガママで自分勝手で……どっかに手綱つけておかねーと、夢ばっか見て現実見ねーで好き勝手に暴走すっからなぁ。 ……俺なんか、ほんとイイ面の皮だぜ」「でも、あなたが居たから、冴子さんや沙希ちゃん。 そして、他のみんなの魔法少女は、安心して、夢と希望を『求め続ける事が出来た』んですよ?」「男の都合やプライド、ロクに考えもしねぇで……な」「あら、御剣さんこそ、女性の思いを分かって無いじゃないですか」 その言葉に、俺はバッサリと。「知るかボケ。 だいたいチチも尻も無い幼児体型が恋とか愛とか、『そんなの不可能に決まってるじゃないか』。 経験上、沙紀みたいな貧乳女ほどコンプレックスまみれで、ワガママでメンドクセー存在だってのは分かり切ってるし、そんなのに付き合って人生振りまわされた男の身にもなってみろってんだ。 やっぱり女ってのはこー、胸がぼいんぼいーんのおぱーいが……え? ちょっと……」 ……そこに。 にっこりと微笑みながら、それでも夜叉の形相でカンシャク筋を浮かべて、俺に向かって弓を引いた、鹿目まどかの姿が……「御剣さん。 言っておきますけど……『ここはキッチンではありません』。 そして、『私は御剣沙紀(デッドコピー)ではありませんよ?』」「ちょい待て! お、俺はただ、俺の個人的な体験上の見解をだなぁ……」 ずざざざざ、と後ずさりながら。 俺は射線から逃れようとするが、彼女は弓を引いたまま、ピタリと俺に照準を合わせて逃がしてくれそうにない。「いいんです。分かってるんです。 私も『素敵な恋とかしてみたいなー』って思ったりもしてましたし……体型的に叶わないんだろうなー、って分かってましたから」「なんだ、分かってんじゃねーか。だったら素直に諦めろよ。 ……言っておくが俺は嫌だぞ? 確かにあんたを護るとは言ったし、円環の理を護るっつー義理は果たすけど。 もー嫁さんいるんだし面倒な貧乳に興味無いっつーか、沙紀だけでおなかイッパイイッパイだっつーの」 ぶちっ……と。 何かが切れた音がした。「ほんとに救いよーがない男の人(バカ)って……案外、いるもんですね」「……な、ナンデサ!?」「御剣さん、その喧嘩、買いました♪」「え? いや、俺は喧嘩売った覚えは無……って、んぎゃああああああああああ!!!」 愚か者に鉄槌が下り、神々の世界に絶叫が響き渡る。 それでも、確かに。 そこには……未来に繋がる、夢も希望も、あった。「たたたたた、助けてくれーっ!! 女神に、鹿目まどかに殺されるー!!」「死んでも治らない馬鹿なら、治るまで殺してあげます!!」「だーっ! これだから貧乳は面倒なんだーっ!!」「一番面倒なのはあなたでしょーが、この朴念仁ーっ!!」「んっぎゃあああああ、わけが分からないよーっ!!」 ……の、だろう……多分。おそらく……