【注意事項】
・転生モノです
・たくさんいます
・神さまもでます
『さあ、目覚めたまえ』
脳に直接響くような、そのくせ耳障りでもなく大音量でもないそのコトバに僕の意識は覚醒する。
目を開けると、地面に横たわる僕を形容しがたい誰かが覗き込んでいた。
『おめでとう、君は二度目の生を受ける権利を手に入れた』
誰かは、目を覚ました僕にどこかで聞いたような台詞を綴る。
「僕は……死んだのか?」
『左様、中々話が早いな。いや、だいたいこのようなものか』
誰か、いやもう『神』でいいだろう。
ちがうか、これは『神さま』か。
よりによって『神さま転生』か?
例によって僕もこの『神さま』のミスとやらで死んだのだろうか?
『ふむ、比較的冷静であるな。肯定すると喚きながら殴りかかってくる輩も少なくないのだが』
ああ、やはりそういう『転生モノ』か。
そういうのは大概『神さま』がへいこらするものだが。
「そいつらに説教でもされたのか?」
気になった僕はそのお約束をした連中のことを尋ねる。
ほんとうに何気ない質問であったが、僕の現状を正しく認識するのに必要な質問であったことに後々息をつくことになる。
『いや、私に触れた瞬間魂ごとズタズタに消し飛んだだけだ』
予想外の台詞が返ってくる。
なんだそれは?
『神さま』のミスで死んだとかではないのか?
『皆、大体同じ表情をするな。そもそも君たちの世界で所謂神が観測されたことがあるのかね』
どういうことだ?
わけがわからない。
『私はただ次元の狭間から転生を望む死者の魂をこの場に召喚しているに過ぎない。君たちの死に私は何の関与もしていないよ』
僕は何で死んだ?
あれ?
なんだ、思い出せない?
『ああ、死のフラッシュバックで発狂することもあるから君らの記憶から消去してある。安心してくれたまえ』
なんだ?
心を読めるのか?
『ちなみに読心とかではないよ。多くが君と同じ反応をするからね、表情から模範解答を話しているだけだ』
『神』は淡々と言葉を紡ぐ。
僕は改めて、正しく『神』の前にいるのだと理解する。
『ああ、幾許か理性的だと助かるね。魂の召喚に仮初の肉体を作るのもタダではないのだから』
と、途端に生々しい内容が出てくる。
「ただ?」
『そう、この場に君らを呼ぶのにも力を使うのさ。先ほど言った面々のような真似をされると力が無駄になる。もっともそんな無駄、許すわけは無いのだけれど』
『神』は淡々と言い放つが、幾許かの揺れが混じったように感じる。
「……その、ズタズタになった連中は?」
消滅したのか? と、聞きたかったのだが。
『ふふ、そこにいるだろう。私は無駄が嫌いだからね、せめてこの場の明かり程度には成って貰わないと割が合わない』
そう言うと、『神』は天上の光源を見上げる。
その青白い光を放ちながら揺ら揺らと揺らぐそれは、時折人間の顔のような形を作りながら、耳障りな不協和音のように聞こえる呻き声のようなものを発していた。
僕はあれがこの場で最悪な選択をしたモノの末路と正しく認識する。
どうやら死してなお、碌でもない場所に来てしまったようだった。
「それで、無駄を嫌う貴方は僕に何をさせるつもりですか?」
そう口にした直後に背筋が凍る。
何をも糞も、転生と言っていたじゃないか。
これは『転生モノ』なんてぬるい事態なんかじゃない。
この『神』の機嫌を損ねたら、アレの仲間入りじゃないか。
『最初に言っただろう、二度目の生を受ける権利を得たと。私の創生した世界に転生してもらう』
そんな僕を尻目に、『神』は普通に質問に答えてくれた。
無駄を嫌うという割には、説明は苦になるわけではないらしい。
そんなことを考えながら、僕は地雷をわざわざ踏みにいった自分を殺してやりたくなる。
あの末路だけはゴメンだろうが!
ああ、死因はこの思ったことを口に出してしまう軽率な性格かもしれない。
「どのような世界ですか? 所謂生前のような世界でしょうか」
そんなことを考えながら質問を続ける。
なんとなく敬語っぽくなっているだろうか?
ああ、こんなことならもっと国語を勉強しておけばよかった。
『君の、ああ君らが生まれ変わるならと望んでいた、所謂『リリカルなのは』シリーズと呼ばれる世界だ』
ああ、そういえばそんなことを考えていたかもしれない、死ぬ前に。
そして、たびたび出てくる複数形。
僕だけ、という訳ではないんだろう。
『勿論、ただの人間として転生するわけではない。君は魔導師となる』
果たして、『神』にとって僕たちを転生させることに何の意味だあるのだろうか?
生前、妄想していた『なのは世界』に転生するという機会を得たにもかかわらず、僕は全然喜べずにいた。
「どういうタイプの魔導師になるかは、ここで選べるのですか?」
もう、とにかく疑問に感じたことは全部聞こう。
もし機嫌を損ねたら謝りたおすしかないが、転生後に一切フォローが無い場合、どんな落とし穴があるか解ったもんじゃない!
『その質問は稀だね。大概はSSSランク魔導師で無限の剣製などのレアスキルと自称するものを欲しがるものだが』
『神』はそう言いながら『リリカルなのはTRPG・ルールブック』と表記された文庫サイズの本を虚空から出現させる。
突っ込みたいのを我慢しながら、ほぼ正方形に近い形状のそれを受け取る。
けっこう重い。
『詳しくはそれに書いてある。一々応対するのは飽きたのでね』
みもふたも無いことを言ってくれる。
この量で制限時間付とか洒落にならない。
『ああ、時間は無制限だ。終わったら言ってくれたまえ』
懸念の一つはクリア。
とりあえず、何もかも置いておこう。
とにかくこれから始まるであろう第二の人生を恙無く生きるためにルールを把握せねば!
僕の体感時間でおよそ2時間。
スキルなどは後回しで、とりあえず転生におけるルールを一通り把握する。
簡単に言えばポイント制のシステムということだ。
僕の知る限りではガープスが近いだろうか?
基本的な持ち点である100ポイントを消費することで先天的才能などを得る形になる。
例えると、
・空戦Sランク魔導師(50P)
・ミッドチルダ上流階級出身(30P)
・容姿:美形(20P)
こんな形で、作中のクロノ・ハラオウンとほぼ同等のスペックを得る事になる。
さて、先ほど『神』との会話でSSSランクに無限の剣製という単語が出てきたが、スキル表にしっかりと載っている。
・SSSランク魔導師(300P)
・無限の剣製(1000P)
普通に持ち点オーバーである。
これらのチートスペック、チートスキルは基本的に実装できない形式になっているが、一応2種類の抜け道が用意されている。
・単一魔法(選択したスキルの必要Pを10分の1にする)
・容姿:不細工(-20P)
所謂デメリットスキルによる必要P修正とP増加効果である。
そして基本ルールの最悪の罠が、ポイントを超過して転生した場合は寿命が減るという鬼畜仕様という点だ。
つまり、このルールを知らず、仮に1000Pのスキル選択で転生した場合、通常の10分の1の寿命しかないということになる。
ちなみに今までの最大P使用者は実に250950P、端数切捨てだろうが切り上げだろうが、およそ2500分の1!
仮に100Pで100歳まで生きれたとして、単純計算でおよそ2週間程度しか寿命が無い計算になる。
一応、原作に介入した時点からタイムカウントがされるということだが、一体どうなることやら。
さて、僕の体感時間で丸一日が経過した。
食事も睡眠も取っていないが、空腹や疲労を感じない。
つまり肉体を感じていても、実質的に魂のみということなのだろう。
さて、一通りルールブックに目を通したところ、気になっていたいくつかのことが解消された。
先ず、所謂型月魔法の数々。
この場合は魔術が正しいか?
ともかく、代表的な『無限の剣製』であるが、属性として固有結界という個人の内面世界が肝となるモノである。
これを原点そのままで使えるのかが疑問であったのだが、回答は実に力技であった。
なんと、英霊エミヤの『無限の剣製』そのものを使用者の魔力で無理やり具現させているだけの代物である。
そのほかの固有結界や、それに類似する宝具のようなものも同様の方式で再現しているとのこと。
ちなみに2番人気らしい『王の財宝』は必要Pを10000要する。
とりあえず、人気1、2位の二つを例に挙げたが、基本的に『なのは』世界の魔法体系でないものは必要Pが多くなる形式となっている。
この正方形に近いルールブックの実に8割がスキル解説であるのが、この先の人生を大いに不安にさせられる。
『神』の発言からも伺えたが、間違いなく僕以外の転生者がいる。それも複数。
一体何人目から質問されるのが飽きたのかは不明だが、少なくとも10人以上いると考えていいだろう。
更に言えば、さほど積極的に原作面子に関わっていくほどの勇気も無い。
特に、ニコポ(100P)、ナデポ(80P)、SEKKYOU(250P)辺りがヤバイ。
スキル特性に転生者無効の洗脳タイプの永続魔法とか表記されてる。
一応、使用者死亡と同時に正気に戻るとも表記されているが、焼け石に水である。
しかも上書きタイプとか……ヒロインたちを巡ってのニコポ・SEKKYOU合戦が簡単に想像できる。
結局、僕は大した冒険をせずにどちらかというと後ろ向きのスキルを選択した。
・総合Aランク魔導師(5P)
・Sランク結界魔導師(25P)
・マルチタスクLv5(15P)
・転生者一覧Lv1(50P)
・身長:185cm(3P)
・体型:標準+2(2P)
容姿を伴わない体格に必要なPは総じて低めであり、結界魔導師も戦闘魔導師の半分ぐらいだ。
マルチタスクもLv1で2本、Lvがあがるごとに3Pづつ増えていくだけだ。
僕的に選択スキルの一番の肝は転生者一覧を取ったことだろう。
このスキルは転生者の情報をLvごとにリストアップする優れものだが、その分必要Pも多くチキンな僕は最低Lvしか選択できなかった。
それでも出会った(すれ違った場合でも可)転生者の能力をリストアップし、死者は自動でリストに表記されるという僕的にはチートスキルと確信できるものだ。(最大Lv5でLv2から転生者の名前、容姿・スキル・現在地・残り寿命の順で最初から表記されている)
そして最大の利点は、この一覧が魔法であり自分以外には確認できないことにある。
目立つ容姿でなければ、このスキルにより他の転生者に比べ圧倒的アドバンテージを得れる!
このときは僕はそう信じていた。
まあ、そんな甘い話があるわけないと気づくのは転生後、物心つくころになってからだ。
ああ、この世界、
・全記憶保持Lv5(100P)
を持っていない限り、生まれたときから全記憶を持てず、5歳になるまで順次記憶がインストールされるような仕様になっている。
あと、
・0歳行動可(500P)
のようなスキルがないと知識はあっても年齢相応の行動しかできなかったりする。
そして、出身地選択もかなり重要になってくる。
簡単に言えば、原作キャラに近い原作に出てこない人物はほぼ100%の確立で転生者だってことだ。
これでもしっかり考えてスキル選択はしたつもりだったんだけどね。
そんなことを、僕こと、高町勇治(5)は三つ子の姉妹であるなのは(5)とゆきの(5)を見ながら考えていた。
きっと、ゆきのさんも同じことを考えていただろうけどね。
《転生者一覧が更新されました》
【高町ゆきの】
年齢:5歳(/100歳)
・空戦Sランク魔導師(50P)
・マルチタスクLv10(30P)
・容姿:美形(20P)
・男運:悪い(-30P)
・恋愛:特定(5P)
・恋愛:一目惚れ(15P)
・恋愛:ユーノ・スクライア(10P)
現在地:第97管理外世界
さて、ゆきのさんは原作介入の特定恋愛特化型だ。
ちなみにハーレム型は、既に出ているニコポかナデポ、SEKKYOUを所持した上でハーレム維持(500P)を必要とする。
なぜかと言えば、ハーレム維持のスキルを持たないと、落とした女性間の関係は自分で調整しないといけないからだ。
おそらく素でこれが可能な転生者はいないだろう、確実に修羅場になる。
話は戻って、ゆきのさん。
完全にユーノ狙いの原作はどうでもいいタイプの人と思われる。
原作介入タイプにしては、所謂無印以降に何かしようというスキルが一つもない。
恋愛系スキルは比較的少ないPで確実な効果が得られる上、一旦カップル化すると洗脳タイプのスキルを無効化するおまけもついてくる。
さらに容姿:美形は異性の興味をひきつけるスキルだが、これを男運:悪いである意味無効化している。
そして恋愛系スキルでユーノ一人を狙い撃ち、という腹積もりだ。
おそらく無印はなのはに付き合いつつ、A'sでユーノと一緒に無限書庫に引っ込みつつ原作からフェードアウト。
その後は完全に高みの見物だろう。
きっと、他の転生者がいなければその望みはかなっただろう。
僕の存在を認識した時点で相当驚愕していたからなぁ。
相当初期の人選メンバーなんだろう。
僕なんか、『神』に君で最後だとか言われたしな。
何人いるかは教えてくれなかったけど。
その代わり、とんでもないこと教えてくれたけどな!
「最後に一ついいですか?」
スキル選択を終え、『神』に君で最後といわれた僕は途中から疑問に感じていたことを尋ねる。
『何かね』
「何でこんなことしてるんですか? 力はタダではないのでしょう?」
僕の疑問、それはこの『神』に僕たちを転生させるメリットを感じないことだ。
『それを聞いてきたのは君で3人目だな』
意外そうな『神』の言葉。どうやら珍しいが僕が初めに尋ねたわけでもないらしい。
『詳しく説明しても理解できないだろう。故に簡単に言えば力を増やすためだ』
「増やす?」
今まで聞いた限りだと、その力とやらが増えるような要素が見当たらないが?
『そう、君たちに貸した力を君たちが死んだときに返してもらう。そのときに絶望や恐怖といった感情を付加させて増した力を返してもらう』
唖然とする。
予想以上にどうしようもない理由だ。
要するに僕らは高利貸しに無理やり金を押し付けられた債権者というわけか?
絶対に借り逃げのできないシステムで、利子も強制的に回収されるわけか?
『無論、これは何もなせずに死んだ場合だがね。貸した力に何らかの進化、それ以外でもその人生が世界に対し何か足跡を残せたのであれば、それは付加された力になる。そうなれば安らかな死を約束しよう』
つまり、莫大な借金をして何もなせなければ、死後も労役が課され、定額でも何もしなければ同じ。
この場に呼ばれた以上、何かを成し遂げない限り死後の安息すら許されない、と。
『さあ、君の二度目の人生。期待しているよ』
『神』の言葉に、僕の中で形にならない感情が渦を巻く。
怒りか? 絶望か? それとも恐怖か?
いや、どれも違う。
ああっ! 二度目の生がそんなに安いわけないじゃないか。
かつての僕の人生、自身の命を賭けるくらいの大きな出来事があっただろうか?
これほどまでに何かを期待された事があっただろうか?
「二度目の人生、それで既に奇跡じゃないか。もう、絶望なんて、ない!」
『いい覚悟だ。では、君の人生の終わりにまた会おう』
『神』の言葉が終わると共に、僕の視界が、全ての感覚が消失する。
絶対、利子の多さに驚かせてやると誓いながら。
「それでも、高町家はねーよ『神』さま」
一発で転生者ってわかるじゃん。
高町勇治、5歳の誕生日に前世記憶を完全に取り戻し、この先の未来に軽く絶望。