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No.28579の一覧
[0] 惚れ薬パニック![シウス](2011/06/27 23:43)
[1] 1[シウス](2011/06/28 21:41)
[2] 2[シウス](2011/06/28 21:41)
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[28579] 1
Name: シウス◆60293ed9 ID:11df283b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/28 21:41
 交易都市ペターニ。
 その名の通りゲート大陸で最も物資の集まる町である。
 ある者は自分の店の野菜が新鮮だと叫び、またある者は、別の通りで自分の店の武器は天下一品だと、店の前で叫んでいる。
 賑やかながらも平和な日常がそこにはあった。だがこの日、この町の工房で開発されていたものら、とんでもないことが引き起こされるとは誰も……予想していなかった。 
 
 
 
 木でできた机の上に、所狭しと並べられたガラス製の器具類。
 その中で唯一の開いているスペースで、一人の老人が何かしらの実験を行なっていた。
 老人の名はゴッサム。町の―――とくに若い娘達から嫌われているセクハラ爺(じじい)である。
 彼は左手に持った深い緑色の液体の入った試験管を眺めながら、右手に持ったホールピペット(ガラス製の精密な器具。ちなみに本編に登場する実験器具は正しい扱い方を無視してるので、化学が苦手な人でも気にせずに読んでください)で何かの液体を試験管の中にゆっくりと、慎重に滴下していた。
 1滴でも多く入りすぎると、今までの苦労が水の泡になってしまう。オーナー(フェイトのこと)に何度も頭を下げて、やっとのことで手に入れて来てもらった材料だ。『レプリケーター』とかいうものを使って手に入れて来た物らしいが、細かいことはどうでもいい。早い話が『この惑星では絶対に手に入らない素材』だそうだ。長年、追い求めてきた薬が今ようやく手に入ろうとしている。失敗は許されない。
「え~と、次は……試薬Cじゃったな」
 そう呟いて試験管から目を離さず、スポイトを持った右腕を『C』と書かれたラベルの貼ってあるビーカーへと伸ばす。だがスポイトはそのビーカーの横を素通りし、『B』と書かれたラベルの貼ってあるビーカーの中へと突っ込まれる。試験管しか見ていないゴッサムは何も気付かなかった。そして『B』の液体を試験管に注ぎ、そして――――!!
「ついに……ついに完成したぞ! 長年追い求めてきた惚れ薬がついに―――ん?」
 そこで右手に持ったスポイトから立ち上る異臭に、ふと気が付いた。『C』のビーカーの液体なら無臭のはず。なのにスポイトから漂ってくる臭いは『B』のビーカーの液体の臭いと同じ――――
「し、しまった!!」
 そこでゴッサムは自分が犯したミスに気が付いた。苦労して手に入れた材料で慎重に惚れ薬を作っていたのに、こともあろうことか薬品を間違えて失敗してしまったということに。
「おおお~! なんということじゃ……。ワシとしたことが、何を勘違いな産物を……。せっかく……せっかく手に入れた材料じゃったのに……ん?」
 悲嘆にくれて嘆いていて、ふと気付く。失敗したはずの試験管の中の薬品から香水のような―――いや、60年以上の人生の中で何度か嗅いだことのある香り。これは―――
「これは―――最高級並みの香水の香りがするぞ!?」
 そう、それは香水の香りだった。それも半端じゃないほど高価なもの。それこそ大貴族の令嬢が使うような、一瓶だけで数十万フォルはくだらないくらい高価なものの香りだ。
「そうじゃ、せっかくじゃからワシが香水代わりに使おう。これほどの香りじゃ。きっとおなご達にモテモテに……グフフフフ」
 いかがわしい考えが脳裏をよぎる。たかだか香水をつけたくらいで何が変わるというのだろうか?
「何かコレを入れておく入れ物は無いかの~……お?」
 ちょうどいいところ――――食器棚のこと――――に最適な入れ物があった。からっぽになったバニラエッセンスの瓶である。ゴッサムは早速その瓶に香水のようなものを流し込んだ。
 するとその時。
 
ピーゴロゴロゴロゴロッ!!
 
「はうっ!?」
 突然の腹痛がゴッサムを襲う。大変キタナイ話だが、どうやら腹を壊したようだ。人間、歳をとれば身体は勿論、胃腸も弱ってくるものである。この老人もまた然り。
 残念なことに、ここの工房にはトイレがない。他のクリエイターなら工房の裏にあるクリエイター専用のアパートで用を済ませるのだが、ゴッサムはこの町に家を持つため、わざわざそこまで帰らなくてはならないのだ。
 
ピーゴロゴロゴロゴロッ!!!!
 
「むぅおおおお! や、やばい! やばすぎるぞいっ!!」
 叫ぶや否やゴッサムは腹を押さえながら、よろよろと工房から出て行った。
 
 
 
――――数分後――――
「本当にありがとうございます、ソフィアさん」
「いいんだってば、マユさん。私も食べたいから手伝うだけなんだから。だって最近ずっと甘いもの食べてないんだもん」
 大きな買い物袋を持った二人の少女が工房に入ってきた。会話の内容から察するに、どうやらお菓子作りをするらしい。
 だが入ってきてすぐに、机の上に散らかったガラスの器具を見て二人の少女は顔をしかめた。
「あー……ゴッサムさんったら、また物を出しっぱなしにして……。またトイレにでも行ったのな?」
 マユが溜息をつきながら言った。
「仕方ないよね、年齢が年齢だし。あの年になるとお腹壊しやすくなるものなんだから。悪いけど、マユちゃん一人でそっちの準備しといてくれない? こっちの方はどう見ても実験とか終わってそうだから、私が片付けて置くし」
「そんな、悪いですよ。私も片付けるのお手伝いしますから」
「ううん、いいの。それにこういうのは食器と違って大事に扱わないといけないんだから。私が地球にいた頃はこういうのはしょっちゅう触ってたし、こういうのは慣れてるから……」
 ソフィアは地球に居た頃、科学関係の学校に通っていた。だからこそ、この手の器具の扱いには慣れているのである。
「そうですか~、すみません。じゃあ、そっちの方はお任せしますね」
 そう言ってマユは早速お菓子作りの準備に取りかかった。
 食器を棚から取り出し、買ってきた食材を机の上に並べる。いつもと変わらない、平和な日常。異なるところがあるとすれば、今日はソフィアが仕事場に居るという事だ。ふとマユは口を開いた。
「……平和ですね」
 基本的には静かだが、外からは人々の雑踏やらが聞こえてくる。
 マユは続けた。
「町のみんなは魔物がいなくなった事だけに驚いて、その間に何があったのか知りもしないんですからね」
 それを聞いて、ソフィアも片づけをしながら口を開く。
 
 
「―――私達が昨日、『創造主を倒した』なんて誰も考えられないもんね。私だってこんなに穏やかに暮らしてたら、創造主なんて倒さなくても何も変わらないんじゃないかって、何度も思ったもん」
 
 
 創造主の討伐。人によっては『神殺し』と表現するだろう。その『神』というのは、より正確にはこの世界をコンピューター・ゲームの中に作ってしまった、とある会社の社長のことだ。
 そしてこの世界に生きる全ての生き物はAIであり、同時に、この世界に住む誰もが皆、自分達の住む世界がプログラムで構成されている事実を知らない。
 マユは、ソフィアの言葉に対し、
「そんなことないですよ」
 穏やかな口調で言った。
「ソフィアさん達みんなが居なかったら、この世界は滅んでいたんだもの。ソフィアさん達は平和な世界を、この何気ない日常を勝ち取ったんですよ」
「だったらそれは私達だけのしたことじゃないよ。ルシファーが居る空間へのゲートを開くのに使ったら消えてしまうと分かってて、それでもセフィラを使っていいと言ってくれた女王様も、アルベルさんに魔剣を譲ってくれた王様も、自らを犠牲にフェイトの命を護ってくれたロキシおじさんも、ディプロのみんなも……。
 それからクリエイターのみんな……強力なフェイズガンを作ってくれた人がいたし、強い爆弾を作ってくれた人もいた。マユさんだって、ブルーべりーとブラックベリーの濃縮したエキスを、あんなに沢山作ってくれたじゃない。
 ルシファーと戦ってて、回復系の道具とか精神力とかがなくなったとき、あのエキスが無かったら私……ううん、私達は誰一人としてココに帰ってこれなかった。マユさんだって英雄なんだよ?」
 ちなみにそのエキスを使い、ルシファーとの闘いの最後で、ソフィアが特大の必殺技・メテオスォームを炸裂させることで勝利を収められたのだ。
 ようやく片づけが終わり、マユも準備が整って二人でお菓子作りを始める。マユは顔を赤くしながら言った。
「そ、そんな。……あ、でもそういうのも結構いいかも……」
「そうだよ。普通なら『宇宙を救った英雄』なんて絶対になれないんだから。銀河連邦が始まって以来、英雄になった人だなんて『12人の英雄』だけだだよ? 何十兆人もいる人々のうちの、たったの12人。その中にマユさんの名前を入れられるんだから遠慮無く入れておくべきだよ。ちょっと恥ずかしいけど……」
 はっきり言って、未開惑星保護条約など何処吹く風のような会話だ。しかもこの星の住人は大昔にグリーテンが出した『世界球体説』というのを知っており、わかりやすく説明したら宇宙のことについての深い理解力を示しているときたもんだ。そのうえ創造主のことなど、話してはならないことまで教えたソフィア……もといソフィア達は、連邦にバレれば、恐らくはかなりの重罪になることだろう。
 そのようなやりとりをしながらも、お菓子作りは手際よく進んでいく。
 二人ともそれぞれ、ボウルに入ったカスタードクリームを混ぜていた。マユの方が慣れているらしく、混ぜる速度が速い。
「あとはバニラエッセンスだけど……」
「………マユさん何でそんなに速いの?」
 バニラエッセンスを探すマユを見ながら、ソフィアは自分のボウルを混ぜながら一人ごちた。
「あれっ? 確かココに置いといたハズなんだけどな~」
「あっ、バニラエッセンスなら、なぜか机の上に置いてあったからそのままにしておいたよ」
「えっ? なんでだろう? ゴッサムさん、使ったのかな?」
 いったい何に使うのだろう? 
 そう思いながらもマユは、バニラエッセンスをカスタードクリームにかけた。地球にある物と違い、この惑星のバニラエッセンスは『におい』が少ない。そのためにドバドバとかける。あっという間に瓶の中は空っぽになった。
「あっ、ソフィアさん。こっちの瓶、からっぽになっちゃいました。さっき買ってきた袋の中から新しいバニラエッセンスを使って下さいね」
「はーい」
 ソフィアがクリームを混ぜながら答える。
「さてと、後はクリームを生地の中に詰めるだけね」
 今回のメニューはシュークリーム。地球などの工場で大量生産される物と違い、手作りのシュークリームは焼きあがった生地がクッキーのような固さと食感を持っている。
 早速クリームを中に詰め始めるマユ。その時ようやくソフィアもその作業に追いつき、二人で同じ作業を行ない始めた。
 やがてクリームも詰め終わり、詰め終わった物を全てオーブンの上に置いた。
「さあ、後は焼くだけですね……」
 
 
 
―――数十分後―――
「わぁ~! おいしそうな匂いがしてる!!」
 出来上がったシュークリームを見て、ソフィアは感嘆の声を上げた。
「ソフィアさん、まだ食べちゃダメですよ。これからコレをみんなで分けるんですから」
 そう、分けるのだ。今まで旅を続けてきた仲間達と今日、お別れする。そのための餞別として作っているのだ。
 と、その時。
「やあ、ソフィア!!」
「よお、マユ。元気か?」
 二人の人物が工房の入り口に現れた。
 前者の声はフェイトの声、言っていることは普通だ。ただし、後者の声に、フェイトとソフィアは……
「ええぇ!?」
 とソフィア。
「ど、どうしたんだよっ? アルベル!?」
 とフェイト。名前で呼ばれた男、アルベル・ノックスの額に青筋が浮かび上がる。
 再びソフィアが震えながら口を開く。
「ア、アルベルさん、熱でもあるのですか? 怪我人を心配するならまだしも……その……『元気か?』だなんて………」
 フェイトもソフィアに続いて言う。額の青筋の数が一気に三つになる。
「アルベル、お前どこかで頭打ったんだろ!? いや、むしろ拾い食いしたんだろ!? だから拾い食いはやめろって言っ―――」
 とうとう我慢の限界が訪れ、顔中を青筋だらけにしたアルベルは遂にキレた。
「いい加減にしろ阿呆クソ虫共ッ!! 俺が何を言ったってんだ!?」
 アルベルの一括で二人は静かになったが、それでもまだ疑惑の表情を見せている。
「俺はただ気になったことを尋ねただけであって……」
「お兄ちゃん、お帰りなさい」
 とりあえず言い訳をしようとしたアルベルの考えを、マユの穏やかな声が粉砕した。
 
 
 
『な……なにいいいぃぃぃ!?』
 フェイトとソフィアの声が、見事に重なった。フェイトならまだしも、ソフィアまでもが男言葉で『なにぃ!?』と叫ぶというのは、滅多にあることではない。
「マ、マユさん。本名、何ていうんですか?」
 ソフィアが震える声で尋ねる。質問に対してマユは満面の笑みを浮かべ、とんでもないことをサラリと答えた。
「マユ・ノックスです」
 しばらくの間、辺りを静寂が支配した。やがて沈黙に耐えかねたかのように、フェイトが口を開いた。
「……何ていうか、その……『アドレーさんが実はクレアさんのお父さんだった!!』っていうのを知ったときくらいの衝撃を覚えたよ……」
「……偶然かな、フェイト。私も今、同じ事を考えてた……」
「誰があんな筋肉ダルマと一緒にしろって言ったんだ!? このクソ虫共!!」
 アルベルから強烈な殺気がほとばしり、二人は沈黙した。変わりにマユが口を開く。
「たしかに似ていないところだらけですけどね、これでもれっきとした兄妹なんです」
「……マユ、頼むから今度からヨソでは『団長』って言え」
 このアルベルから『頼む』という単語が出てきたことに、再びフェイトとソフィアが驚くが、今度は無視された。
「そういえばお兄ちゃん、何しにここへ来たの?」
「………ああ、いろいろと世話になった奴らに礼を言って帰ろうと思ってな。最後にお前に会おうとしてここへ来たというわけだ。お前、まだクリエイターの仕事を続けるんだろ?」
 普段のアルベルなら絶対に言わないほど優しい言葉だ。『阿呆』とか『クソ虫』という単語が一つも入っていない。
「うん、まだ続けていようと思ってるの。お兄ちゃんは修練所に帰るの?」
 『お兄ちゃん』という単語に、再びアルベルの顔が引きつったが、今度は何もツッコミを入れようとはしなかった。
「……ああ」
「だったらコレを……」
 マユはそう言い、出来立てのシュークリームを手近にあった厚紙の箱に二個詰め込んだ。
「みんなにあげようと思って作ったの。美味しいわよ」
 シュークリームを詰め込んだ箱をアルベルに渡す。受け取ったアルベルはただ一言『ありがとう』と、これまた普段なら絶対に言わないことを言い残して立ち去って行った。
 
 
 
「……あのアルベルも妹には弱いんだな」
 どこか拍子抜けした表情でフェイトは呟いた。
「いいえ、性格が丸くなったんですよ。フェイトさん達のおかげで……」
 穏やかな微笑を浮かべながら、マユが言った。
「それよりも早く、みんなでシュークリームを食べましょう! 今が一番美味しいんですから!!」
 マユのその言葉に、放心状態だったフェイトとソフィアは現実に引き戻された。フェイトは勿論、ソフィアも『手作り』のシュークリームを食べるのは初めてだった。
「へぇ~、美味しそうだね」
「勿論よ! だって私とマユさんが心を込めて作ったんだから!!」
「あっ!一人につき二個ですからね。他の人の分も焼いてますので勝手に取らないでくださいね」
 マユが二人に軽く注意し、3人が自分の皿にシュークリームを二個づつとって椅子に座る。
『いっただっきま~す!!』
 
 
 
「うーん。なんかマユさんの方が出来がいいんだよね」
「そんなこと無いさ。僕はソフィアが作ったほうも美味しいと思うよ」
 出来上がったシュークリームの形を見比べながら、ソフィアがやや落ち込むのをフェイトが軽く元気付ける。まだ午前11時だというのに紅茶を楽しみながらシュークリームを頬張る彼らは一枚の肖像画のような光景だった。
 だが、突然の訪問者が現れた。
「ほう。美味そうなものを食っておるじゃないか」
「あっ! ゴッサムさん。また机の上を散らかしたままお出かけですか?」
「おお、すまんのぉ。トイレに行っただけじゃったんじゃが、そのままここへ戻るのを忘れておってのう。まさかもうボケてしまうとは情けない話じゃ。それより机の上が片付いているということは……」
「あっ、はい。私が片付けました。結局、あのバニラエッセンスの瓶、何に使ったんですか?」
 聞かれたとたんにギクりと、ゴッサムの肩が揺れた。まさか『惚れ薬を作ってました』などと言えたものではない。何とかしてごまかなくては……!!
「あ、ああ……実はじゃな。いまワシは香水について様々な研究をしておってな。まずは臭いについての研究のためのサンプルとして使っただけじゃよ」
 何とか言い切った。ゴッサムがほっと胸をなでおろす。だが次のマユの言葉を聞き、彼の心臓は止まりかけた。
「そうだったんですか。すみません。そのバニラエッセンスならさっき、このシュークリームを作るのに使い切ってしまいまして………って、どうしたんですか、ゴッサムさん? 何故か顔色が悪いようですけど」
 見る人が見れば、それは『顔色が悪い』どころではない。生気というものが全く感じられないその顔は、もはや死相と呼ぶに相応しい。
(なんということをしてくれたんじゃ!! 失敗作とはいえ、仮にも惚れ薬に必要な様々な材料が使われておるのじゃぞ!? 周りの者がどんな精神異常を起こすのやら……!!)
 過ぎたことを今更気にしても仕方が無い。とにかく分かるのは、失敗作をフェイト達が食したということだけだ。ゴッサムは逃げることにした。
「お…おお! そういえばフェイトさんにソフィアさん。あんたらは今日帰るんじゃったな。今まで大変世話になった。心から礼を言うぞい!!」
「そんな世話だなんて……。貴方の実験に必要な物をレプリケーターで手に入れてきたりしただけじゃないですか」
「いいや、普通ならあんな物、この惑星では手に入らない物じゃ。フェイトさんの助けが無ければ出来んかった発明もたくさんある。本当に世話になった。ではワシは急いでおるのでな!! またこの星に遊びに来なさい!!」
 そう言ってゴッサムは勢い良く、工房を飛び出して行った。
 何となく逃げようとしているなと、フェイトは会話の流れからそう感じた。




「それじゃマユさん、今までお世話になりました」
 フェイトが工房の扉をくぐりながら言った。ソフィアと見送りに来たマユも後に続く。
「マユさん、またね! またいつかここへ来るから!!」
「ええ、フェイトさんもソフィアさんも、いつでもこの星にいらしてください。出来れば他の人も連れて」
「他の人? クリフ達とか? それは難しいですよマユさん。僕達はそれぞれ違う道に進むのですから。みんなが揃うときなんてそうそうありませんよ」
「誰もクリフさんやマリアさんのことだとは言ってませんよ? 今度はあなたたち子連れで来てください」
『えっ!?』
 突然のマユの発言に、二人は顔を赤くしながら驚きの声を上げた。
「マリアさんから聞きました。この大陸では花束を送るのが普通ですが、何でも地球では指輪をプロポーズする女性に送るのが普通みたいですね」
 そう言って、マユは二人の指に目をやった。二人揃って銀の指輪をはめている。
 これは数日前に、フェイトがソフィアにプレゼントしたものなのだ。この戦いが終わったら二人で暮らそう、という意味を込めて……
 もっとも、地球に帰ってからすぐに結婚するというわけではない。フェイトは勿論、ソフィアにいたっては16歳……まだ高校生なのだ。正式に結婚するのは数年後になる。マユ達のような未開惑星の住人は、平均寿命が短いため、早いめの結婚や出産は当たり前なのだ。現に細工のクリエイターであるエヴィアは、16歳の時にはすでに子供(アクア)が出来ていた。現在18歳のマユは、実は生き遅れなのである。
 それはともかく。フェイトとソフィアは何となく恥ずかしかったので、正式な結婚や出産についてのことは、マユには伏せておくことにした。下手にアレコレと聞かれたくはないからだ。
「フフ。マリアさんったら、見てないようでしっかり私たちのこと見ていたのね」
「いいえ」
 ソフィアの言葉を、マユはやんわりと否定した。
「私はただ、マリアさんが指輪をしていたから尋ねてみただけなんです」
 
 
 
 今日一日でいったい何度驚いたのだろうか? 少なくとも今のところ、これが一番驚いた。
『え、えええええぇぇぇぇぇ!?』
 短い沈黙の後、絶叫に近い声で二人が叫ぶ。通りすがりの人達が何人か振り向いていく程に。
「でも、それってひょっとして……リーベルさん?」
 ソフィアは何か知っているようだ。そしてフェイトには『なぜリーベルなの?』と、驚きの余り質問すら出来なかった。
 ソフィアが説明する。
「リーベルさんね、私達がFD空間から帰ってきた時にマリアさんの部屋の前をウロウロしてた時があったでしょ? あの時フェイトとランカーさんが隠れてリーベルさんを観察してたけど、フェイトとランカーさんがその場を離れたとたんにリーベルさんったらいきなり『よし、誰もいなくなったな』って言って(彼にはバレてたようだ)、マリアさんの部屋に入って行ったのを見たの。たしかその時マリアさん、落ち込んでたでしょ? だからあの時リーベルさんはマリアさんを慰めに行ったんだと思うの」
「眺めていたの、バレてたのか……でもいくら何でも、その時にプロポーズまでは行き過ぎじゃないか?」
「別にその時じゃなくてもプロポーズするのは、いつだって出来たわけだし……。大体、指輪つけていたら、今の私達なら気が付くでしょ? 多分、あの時から付き合い始めてたんだよ!! マユさん、マリアさんが指輪をつけているのを見たのはいつのことですか?」
「昨日ですけど……」
「やっぱり……リーベルさんしかありえないよ! だって昨日、マリアさんに会いに来たんだし」
 そう、リーベルは確かに昨日、エリクールに来た。
 ルシファーを倒しに行く際、フェイト達がファイヤーウォールに入ったとたんにマリアの左腕のセットに内蔵された発信機からの反応が消え、一時、ディプロは騒然となった。フェイト達がルシファーを倒し、こちらの世界に戻ってきてから再びマリアの反応が確認されたとき、一番に駆けつけてきたのがこの青年なのだ。
「それでも……あのリーベルがねぇ……。信じられないけど、あいつも大人になったんだな~」
 まだ信じられないが、また本人の口からでも聞いてみるとするか。そう考えてフェイトとソフィアは納得することにした。
 それにしても今日はあまりにも驚くことが多すぎる。まだ正午にもなっていないのにだ。この後、まだ何かとんでもないことが起こりそうな気がする。
 
 そしてその予感が現実のものとなるまでさほど時間はかからなかった。
 
 
 
 午後1時。
 フェイトはレストランから出てきた。一応、今日この惑星を離れる予定なのだが、フェイトとソフィアを地球まで送ってくれるハズのディプロは今は準備中。機械のことなどサッパリわからない二人には手伝うことなど一つも無く、結局はこうやってその辺をブラブラするしかないのだ。
 ちなみにだが、いまソフィアは地球に帰ったときのためのお土産を買いに出かけている。
「あーあ。みんなにはもう、お別れの言葉を言ってまわったしな……。この後どうやって時間を潰そうかな~」
 何となく呟いた。本当にヒマなのだ。すると―――
 
(ヒソヒソ―――ねぇ、あの人って―――)
 
 なにやら通りすがりの人々がフェイトの方をチラチラとうかがい始めた。
(な、何なんだろう?)
 大勢の人々の視線を感じながら、フェイトは戸惑った。それも当然だろう。人々から注がれる視線のほとんどは熱いまなざし。少なくとも自分に好意を懐いているのだろう。
 だが何故いきなりこれほどもの好意を懐くことになったのだろうか? 以前から何度も足を運んでいるこの町である。『創造主ルシファーを倒し、世界を救った』というのはごく一部の人々(シーハーツ女王やアーリグリフ国王、クリエイター達)しか知らないはずだ。だから羨望のまなざしを受けることも無いはず。
 フェイトがあれこれと悩むうちに、ソフィアと同じくらいの年齢の少女がフェイトの前に出てきていきなりとんでもないことを告げた。
「あ、あの……わ、私と付き合ってくださいっ!!」
「………悪いけど僕には―――」
 ソフィアにプロポーズした自分が、今さら他の女性と付き合うわけにはいかない。そもそも初対面の人に告白されても心が動かされるフェイトではない。こういう時はハッキリと断るべきだとフェイトは思った。だが、それを言う間もなく――――
「あーーーっ! あんた、ずるいわよ!! 私が先に彼に目をつけたんだからね!!」
「何言ってんの!! アタシが先に―――!!」
「ふざけんじゃねぇ!! コイツは俺のモンだ!!」
「!!!??」
 何が起こっているのだろう? ただ確かにわかるのは、いま目の前で大勢の人々が自分を取り合っているのだということだ。先ほどの会話を聞いている限り、そう判断するしかないだろう。多少、男性の声が混じっていたのが怖いが……
「そこまでよっ!! 観念しなさい!!」
 突如、聞き覚えのある声が聞こえたと、フェイトが思ったとたん――――
 
カカッ――――!!
 
 光が視界を焼き尽くした。どうやら閃光弾―――それもスタングレネードのように一撃で大勢の人間を気絶させる強力な物―――を誰かが放ったらしい。
 奇跡的にも咄嗟に目を閉じることによって、難を逃れたフェイトが見たものはというと――――
「…………!?」
 そこらじゅうに倒れている人、人、人――――
「間に合ったわね!」
 ふと声が聞こえた方を見た。近くの建物の屋根の上に、自分の良く知った人物が立っていた。
「マリア!?」
 フェイトが思わず叫ぶ。するとマリアは屋根から飛び降り、まるで猫のように地面に着地した。
「マリア!! いったい何が起こってるん――――!?」
「フェイトオオォォ!! 逢いたかったああぁぁぁ!!」
 駆け寄って尋ねたとたん、何故かいきなり飛びつかれた。
「ちょ、ちょっとマリア!? どうしたんだよいったい―――」
「うふふふ。 もぉう離さな~い!」
 そのときフェイトは気が付いた。マリアの瞳が正気ではないことに。彼女の蒼く美しい瞳の中で、なぜか渦巻きが回っている気がした。
 フェイトは自分の胴に回されたマリアの腕を力任せに引き剥がし、とりあえず逃げることにした。このまま放っておいたら襲われかねない。
「あっ! ちょっとフェイト!? 待ちなさい!!」
 虚をついて逃げ出したのだが、仮にもマリアはクラウストロで育った身体だ。逃げ続けるフェイトとの距離を、強靭な脚力でぐんぐんと追い詰めてくる。
(まずいっ!! 追いつかれる――――!?)
 その時。
「おい、フェイト!!」
 フェイトの前方に、茶色の髪をツンツンに立てた青年が立ちはだかっていた。
「リーベル!?」
 そう、リーベルだ。どこから現れたのか、そこにはリーベルが立っていた。
 リーベルが自分を睨みつけている、フェイトはそう感じた。まあ、それも仕方の無いことだろう。リーベルが愛してる女性が、自分を追いかけ続けているのだ。それにリーベルはマリアと婚約していると聞いた。確かにリーベルの指には銀色の―――いや、白金の指輪が嵌められていた。そういえばさっき見たとき、マリアの指にも同じものが嵌められていたと思う――――今はそんなこと考えている場合では無かった。
 とりあえずフェイトはリーベルに向かって弁明した。
「待ってくれ、リーベル!! これには理由があるんだ!!」
「わかっている。お前は何も悪くは無い。今のうちに逃げろ!!」
「えっ? あ、ありがとう。助かったよ」
 やけに物分かりの良いリーベル。彼の視線はフェイトにではなく、マリアに向けられていた。
 フェイトは一瞬戸惑ったが、別に問題無いと思い、リーベルの脇を素通りしようとしたとたん、リーベルはヒップホルスターからフェイズガンを二丁抜き、マリアに向けた。一見、無造作に見えるこの動作が、実は恐ろしいほどの命中率を発揮する。命中率が伴ってこそ『早撃ちのリーベル』なのだ。
「ってちょっとリーベル!? ま、待て! 早まるな!!」
 だがフェイトの制止を聞こうとはせず、リーベルは躊躇無くトリガーを絞った。しかし――――
 
カチカチカチカチカチカチッ!!
カチカチカチカチカチカチッ!!
 
 エネルギー切れだったようだ。フェイトはそっと胸を撫で下ろす。だが今の引き金を引く速さは尋常ではなかった。片方のフェイズガンにつき、1秒間に6回は『カチッ』と鳴っていたのだ。本来、フェイズガンという武器は半端じゃないほどの反動がある。クラウストロ人でも高い命中率をかねそろえながら、あんな射撃が出来る者などそうそう居ないだろう。スティングとこの男を除いて。もしフェイズガンにエネルギーが残っていたらと考えるとぞっとする。
「ハッ! リーベル、自分の武器は常に手入れをしておかなくちゃいけないじゃない」
 追いついてきたマリアがリーベルを鼻で笑った。そして彼女も愛用のフェイズガンを抜き、リーベルに向けて躊躇無く引き金を引く。だが―――
 
カチッ! カチッ! カチッ!
 
 乾いた音だけが虚しく響き渡る。今度はリーベルが嘲笑した。
「おいおいマリア~。人のことを言う前に自分の方どうにかしたほうがいいんじゃないか?」
「な、なあリーベル。何が起こってるんだ? いったいお前とマリアの間で何があったんだ?」
 フェイトが弱々しく質問したが、あっさりとシカトされた。
「ぐっ! どこまでもナマイキね、リーベル!! どうでもいいから、さっさと『私のフェイト』をこっちに渡しなさい!!」
「そうはいくか!! フェイトはな――――」
(何がどうなってるのか分からないけど、とにかく助かるよ、リーベル……)
「フェイトはな……俺のモンだ!!」
「(そうそう)……って、違うだろおおおぉぉぉぉ!?」
 本当に何がどうなっているのだろうか。思わずフェイトはリーベルの後方へと逃げ出した。走り去るフェイトの背中にリーベルが声をかける。
「とにかく何処かへ隠れろ!! 安全が確保できれば出てきていいからな!!」
(二度とお前なんぞの前に現れるかあぁぁ!!)
 裏路地に向かって走るフェイトの耳に、重い音が響いてきた。どうやら2人が肉弾戦を始めたようだった。自分をめぐって――――
「僕がいったい……何だっていうんだよおおぉぉぉ!!?」
 いつかどこかで叫んだような気もするフェイトの悲痛な叫び声が裏路地に響き渡った。
 
 
 
 そのころカルサア修練所。
 ここは多くの漆黒兵達が、日々の訓練をする場所である。ペターニとは違い、こちらでは雨が降っていた。かなり湿度の高い状態である。
 そんな修練所内を、アルベル・ノックスは疾走―――いや、爆走していた。
 ペターニを発った後、彼はクリフ達に頼み、ディプロの転移装置を利用させてもらってここへ帰ってきたのだ。普通に徒歩で帰ろうものなら数日を要する距離である。この時ほど、発達した文明の道具とは素晴らしいものだと思ったことは無かった。
 だが今はそのようなこと考えている余裕など無かった。
「隊長おおおぉぉぉ!!」
「待ってくださいぃぃぃ!!」
「やめんか、お前達!! 隊長は俺のものだ!!」
 背後から必死にラブコールを送る漆黒兵達。妹から貰ったシュークリームを食べてから数時間後、ずっとこの調子である。先ほどのシュークリームに惚れ薬か何かが入っていたのだろうか? いや、そもそも惚れ薬など存在するはずが無い、アルベルはそう思っていた。
 とうとう行き止まりまで追い詰められた。もう逃げ場が無い。
「追い詰めましたぜ。隊長ぉぉぉ……」
「く、来るな……何が目的なんだ?」
「何って……決まっているじゃないですかぁ……」
 下品な笑顔をアルベルに向けながら、その兵は笑った。他の兵達も同じような表情をしている。だが本来、この手の奴らがこの表情を向けるべき相手は、夜道を一人で歩く、若くて美しい女性に限られるはずだ。間違っても、男にむけるものではない……。
 頭の中で恐怖が一定の量を越え、アルベルは何かがプツンと切れる音を確かに聞いた。
「フフ……フフフ………」
 不気味な笑い声が、アルベルの口から漏れた。同時にスラッという音を立てて、愛刀である魔剣クリムゾンヘイトを鞘から抜き出すと、クリムゾンヘイト自身が『オー、アイラブ・アルベル』などとほざくが無視。
「ククク……フハハハハハッ!! 寄るな! 騒ぐな!! くたばれ阿呆ぉぉ!!!!」
 正気を失ったアルベルは、クリムゾンヘイトを片手に、漆黒兵達に向かって突っ込んでいった。


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