side:???
「ふうん、ここがそうなんだあ……」
IS学園の正面ゲートに着くと感慨深げに思わず呟く。まあ、世界で唯一ISの専門教育の場なんだしこれくらいのデカイ施設であって当然といえば当然か。
「えーと、受付ってどこにあるんだっけ?」
上着のポケットからくしゃくしゃになった案内用紙を取り出す。
「本校舎一階事務受付……って、だからそれがどこか聞いてんのよ」
地図の一つでも書いてくれていればすぐに分かるのだが、生憎とこの案内は不親切で多種多様な言葉で案内が書かれてるくせに肝心なところは書かれていない。
図画ほど万国共通の分かりやすいものはないのにどうしてそれをしないのよ。
「ったく自分で探せばいいんでしょ。探せばさあ」
不貞腐れながらも足を進める。考えていて辿り着く訳でもなし、とにかく動かなければ始まらない。考えるよりも動く。口よりも先に手が出る。あたしというのはそういう人間なのだ。
にしても出迎えがないってのは本当だとしてももうちょっと丁寧に扱ってくれてもいいんじゃないの?
政府の連中もこんなイタイケな女子高生を外国に一人ほっぽり出してなんとも思ってないの?
まあ、そんなことを愚痴ったとしてもあの人なら「なんだ、不満があるのなら好きに辞めてもいいんだぞ」とか言いかねない。マジで言いかねない。
あたしが以前日本で暮らしていたからいいもののこの待遇は絶対おかしいわよ、そうに決まってる。
くっ、こんなことならあの時にヘソを曲げずに素直にここに入学しておけばよかった……。
それもこれも、あのバカが……。
思考を止めるのと同時、足も止まる。
(面倒くさい……)
開始五分、早速ダレた。昼間に来たのならまだ人影もあっただろうこの通りも夜の八時になると疎らを通り越して閑古鳥だ。
うまく事が運ばないのに加え、飛行機に乗っていた疲労感の影響で今いい感じにイライラしている。
(いっそISを使って空でも飛んで……)
一瞬、それは名案だと思い浮かんだが某天気予報士が使っている電話帳の三冊分もある学園内重要規約書を思い出し止める。
流石に初日から規則を違反するのはマズイ。下手をすれば外交問題だ。それだけは勘弁してくれと政府の偉い連中が懇願していたのでしょうがなく、しょうがなく止めてやることにした。
なにせ今のあたしは国のVIPなのだ。だからその辺はあいつらの顔を立てるために自重してやらないしないといけないのだ。そう考えると少しだけ気が紛れた。
昔から『年を取っているだけで偉そうにしてしる大人』が嫌いだったあたしにすれば今の世の中は住み心地のいいものだ。
男の腕力もISにかかれば、児戯に等しいことも楽しい現実である。
(でもアイツらは違ったなあ……)
そう二人の姿を思い出す。
「元気かなあ、一夏」
なんて口にしてみたけれど、思い返せば一夏が元気じゃなかった記憶がない。
風邪すら引いたところを見たことない。馬鹿は風邪引かないというのは真実らしい。事実、馬鹿だったし。
「それよりも……」
いつも一夏とつるんでいた片割れの方が気になっていた。
アイツはちゃんと普通に風邪ひいたし……ってそれはなんか変な言い回しだな。
要するにアイツは一夏と違って人の子らしく病気も怪我もしたって言いたいのだ。
それにアイツはあたしにとって特別な人間だ。
あたしがアイツには許されないことをした。アイツはそれを許したが、あたし自身はそれを未だに許せない。
でも――――――――もう、いいや。そこで考えるのをやめた。
どれだけ思ったところで、ここで会えることもないし。
「――――――で、だな……」
遠くから人の声がする。ちょうどいいや、受付の場所聞こっと。
「だからそのイメージが掴めないんだよ」
聞きおぼえるのある声。あ、この声はひょっとすると……。
「一夏、いつになったらイメージが掴めるんだ。先週からずっと同じ所でつまづいているぞ」
「だからお前の説明が独特なんだよ。なんだよ、『くいっって感じ』って」
「……くいって感じだ」
「それが分からないって言ってるんだ……って待てって箒!」
一夏が女の子を怒らせたみたいですたすたと先にいってしまう。
(ていうか、またアイツ女侍らせて……)
幼なじみの相変わらずっぷりに思わずゲンナリする。
なにせアイツは少し優しくするだけで、笑うだけで、歩くだけで、軽く女が数十人がオチる一級フラグ建築士なのだ。
弾がモテない男の敵だとか言っていたのが遠目から観察してみればよく分かる。
それにアイツと付き合おうと思えばその前に立ちはだかるのが世界最強。
うん、無理だ。あまりにも壁が大き過ぎる。
あの人を認めさせるなんて幾千、幾万の策を弄したとしても全て捻じ伏せられてしまう。かといって正面突破できるような相手じゃないし。
それにあいつの好きなタイプが千冬さんみたいな大人……っていうか年上タイプだし。あたしとまるっきり逆のタイプだし。
そもそもあたしはどうしてかあの人のことが苦手だ。理由なんてない。苦手なものは苦手なのだ。
あ、女も先に行ったみたいだしちょうどいいや。今のうちに受け付けの場所を聞いて―――――――。
「分かんねえよ。箒の説明、あれで理解出来たか?」
「あれで分かる方が希少というか……やっぱ私には無理ですね。一夏、ふぁいとです」
「……お前は理解できなくとも、動かせるから楽でいいよなあ」
苦笑交じりで隣の女の子が一夏に話しかける。
一夏の隣を歩く女の子に妙な既視感を覚える。
知っている。あの顔、あの髪、あの目、あの口調。全てあたしはあの女のことを知っている。
けれどそれはあり得ない。とても似ているがあれがアイツである訳がない。
だって、アイツは……。
我に返ると、一人暗闇に取り残されていた。一夏たちも寮に帰ってしまったらしくまた人影はなくなってしまう。
それからすぐ、アリーナの方へ歩いていくとアリーナの裏に総合受付を見つける。
「はい、じゃあ以上で手続きは終了です。ようこそIS学園へ、凰鈴音さん」
明るい声がするが、残念と受け付けの声はあたしの耳に届いていない。心はここあらずだ。
「織斑一夏って何組ですか?」
「ああ噂のコ? 織斑くん一組よ。凰さんは二組だからお隣ね。そうそうあの子一組のクラス代表になったんですって。やっぱり織斑先生の弟さんなだけはあるわね」
聞いてもないのに次々と情報が送られてくる。噂好きは女の性とは言うが目の前の女性はまさにそれだった。
同じクラスではないと聞いて少し残念な気持ちになったが、気持ちの切り替えは早かった。
(ま、いっか。クラス変えになったら一緒になれるかもしれないし)
それよりも、この女性には聞きたいことがあった。
「あ、あともう一つ聞きたいんですけど。露崎仕種ってこの学園にいますか?」
それは希望。そんな筈はない、目を覚ませと自分に言い聞かせるような一筋の願い。
「いるわよ。沙種さんの妹さんでしょう? 露崎さんも一組よ」
そんな希望すらあっさりと一言で打ち砕かれた。
じゃあ、あの場所で一夏と話してたのってやっぱり――――――――。
(仕種なんだ)
気がつけば、部屋に入っていた。
考えながら歩いていたらしい。自分の無意識の行動に少し戸惑いを覚えるが、今はそんなことも気にならなかった。
「―――――――、―――――――、――――――」
同室の女子に声をかけられているみたいだが、心は別のところにあるみたいで一つも耳に入ってこない。
「ごめん、疲れたから自己紹介とか明日にして」
これ以上は相手に悪いので素っ気なくそれだけ言ってベッドに身体を横たえると途端に疲労感と虚脱感から強烈な眠気襲う。
今日は色々あり過ぎた。身体は睡眠を欲している。あたしもそれに抗うことが出来ない。
(露崎さん、か……)
そこまでで思考停止。お風呂は……まあ明日でいいや。たまには朝風呂というのも優雅なものかもしれない。
意識は眠気に勝てずにブラックアウトした。
side:露崎仕種
「ねーねー、転校生の噂って知ってる?」
クラスメイトが朝一番に一夏に声をかけていた。相変わらず物珍しさというのは中々抜けないようで今朝も今朝で一夏の周りに女子が集まっていた。
「転校生? 今の時期に?」
一夏が興味を示したのか話を始めた女の子に聞き返す。
「そうそう、なんでも中国の代表候補生らしいよ」
代表候補生、ね。それにしてもどうしてこの時期なんでしょうか。入るのなら一学期の最初から入ってしまった方が学校としても本人としてもその方がいい筈なんですが。
「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」
ずいと、一夏の横に現れるセシリア。いや、それはないですから。どうしてそういう風に考えられるんでしょうか。超ポジティブ思考?
「別にこのクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」
先程自分の席にいた箒もいつの間にか一夏の横に立っていた。
それにしても中国、ね。随分と懐かしい人物を連想させる。
「今のお前に女子を気にしている余裕はあるのか?来月にはクラス対抗戦があるというのだぞ?」
「そう、そうですわ、一夏さん! クラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をしましょう。ああ、相手ならこのわたくしセシリア・オルコットが務めさせていただきますわ!」
クラス対抗戦とは読んで字の如く、クラス同士のリーグマッチだ。スタート時点の実力指標を測るためにやるのだとか。
ただ練習量からすると今の一夏なら機体性能抜きでも一回、二回くらいなら順当に勝ち上がれると思うが。
「まあ、やれるだけやってみなさい一夏」
「おう、そうする仕種」
「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝っていただきませんと!」
「そうだぞ。男子たるものそんな弱気でどうする」
「織斑くんが勝つとみんなが幸せなんだよ~」
ちなみにみんなが幸せという意味は優勝クラスには学食のデザート半年間フリーパスが与えられる。甘味は女の味方であり、女の敵であることは彼女たちは知っている。
「というわけで織斑くん、頑張ってねー」
「フリーパスのためにもね!」
「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから余裕だよ」
へー。四組にもいるんですか。後で情報収集しておこう。ていうかこのクラスに専用機持ちが三人もいる時点で異様なんですけどね。
「その情報、古いよ」
聞き覚えのある声が入り口から聞こえた。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝は出来ないんだから」
「鈴……? お前、鈴か?」
一同が唖然とする中、一夏がおそるおそる尋ねる。
「そうよ。中国の代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たって訳」
ツインテールが小さく揺れる。どやっと言わんばかりに勝ち誇ったいい表情をしている。
「なに格好つけてんだよ、すげえ似合ってねえぞ」
「な!? なんてこと言うのよ一夏! あんたって相変わらずデリカシーの欠片もないわね!!」
一夏の一言に破顔すると同時フシャーッ!と猫の威嚇みたいにツインテールを逆立てる。実際に立ってる訳じゃないけど、こっちの方が鈴らしい。
「おい」
「なによ!?」
バシン! 世界最強 が現れた!
千冬先生 の先制攻撃!
鈴 はダメージを受けた!
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん」
「学校では織斑先生と呼べ。あと入り口を塞ぐな。邪魔だ」
「す、すみません……」
すごすごと退く鈴。千冬先生が苦手なのも相変わらずか。
「また後で来るから! 逃げないでよ一夏!」
そう捨て台詞を残して、鈴は自分のクラスに帰って行った。
「ていうかアイツIS操縦者だったのか。初めて知った」
私も初めて知りましたよ。中国と聞いて、予感はしていましたがまさか本当に鈴が来ることになるとは。人の縁とは面白いものです。
「一夏。今のは誰だ? 知り合いか? 随分と親しそうだったな」
「い、一夏さん!? あの子とはいったいどういう関係で――――――」
その他のクラスメイトも一斉に一夏の席に詰め寄る。ああ、馬鹿。
「さっさと席につけ、馬鹿ども」
バシンバシンバシンっ!!
情け容赦一切無用の出席簿が立っていた見舞われた。
ついでに記しておくと、今朝のことが原因で授業でぼーっとしてたため箒とセシリアは何度も叩かれていた。
「お前のせいだ!」
「貴方のせいですわよ!」
「なんでだよ……」
昼休み開始早々二人は一夏に食ってかかっていた。っていうか二人とも、それはあまりに理不尽な怒りでしょう。恋患いで勉強に手がつかないといっても相手に当たるのは拙い……一夏だからいっか。
「まあ、話ならメシを食いながら聞くから、学食に行こうぜ」
「む、それもそうだな……。お前がそこまで言うのならそうしよう」
「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」
この程度の話題転換で宥められるって何か、子供か。恋する乙女とは分からないものです。
一夏が学食に向かう道に何人かのクラスメイトがぞろぞろと着いてくる。この光景も慣れたものだ。人間、異様なものでも何度も見ていれば抗体が出来るんだな……。
「待ってたわよ、一夏!」
どーんという効果音と共に鈴が待っていた。いや、実際しませんよ。そんな感じがしたというだけです。
それになんで先に買って待ってるんですか、麺がのびるでしょう。一夏が来てから一緒に並べばいいものを……。
「まあ、とりあえずそこをどいてくれ。食券を出せないし、普通に通行の邪魔だ」
「う、うるさいわね! 分かってるわよ」
悪態づきながらも丼を持ったまま一夏の横につける。
「それにしても久しぶりか。丸一年か。お前がISの操縦者なんて初めて知ったぞ。いつ代表候補生になったんだよ」
「それはこっちのセリフよ。テレビ見てたらアンタが出てくるんだからびっくりしたじゃない。あんたもたまには怪我病気しなさいよ」
「どんな希望だよそりゃ……」
そんなふうに鈴と一夏は他愛もない話をしながら、席に移動する。
箒とセシリアの表情が険しい。ていうか、嫉妬オーラをこれ以上出さないでください。他の女子もなんか修羅場か何かと興味示しちゃってるじゃないですか。
「一夏、そろそろ説明して欲しいんだが」
「そうですわ! もしかしてこの方とつっつつつつ付き合って……!」
「別にそんなんじゃないわよ。こいつが人の好意に気付いて彼女作れるタマだと思う?」
「酷い言い草だな鈴……。つーか箒、セシリア、仕種うんうんって頷くな!」
え? 鈴の言うことその通りなんですけど何か文句でも?
「はあ……。見ての通り、ただの幼なじみだよ」
「幼なじみ……?」
ぴくりと、箒が反応を示す。流石に幼なじみと聞いて黙ってられませんか。
「あーそういや箒とは入れ違いだっけ。箒が引っ越していったのが小四の終わりだろ? で、鈴が転校してきたのは小五の初め。そんで中二の終わりに中国に帰ったから一年振りってこと」
「前に話しただろ? 篠ノ之箒、俺のファースト幼なじみだよ」
「ファースト……」
いや箒、そこ喜ぶところじゃないですから。
「で、鈴がセカンド幼なじみ」
「ふーん。そこはあんたバカあ?って言っとけばいいの?」
感心なさそうに麺を啜る鈴。鈴その言葉は拙いです、モロ被りです。性格とか髪型とか立ち位置とか。
「んンンっ! 幼なじみがどうかは知りませんが、わたくしも忘れてもらっては困りますわ?」
「何、このコロネヘア?」
「人の髪型の悪口を言わないでくださる!? わたくしはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ! まさかご存じでありませんの!?」
「うん。悪いけど興味ないし」
悪びれる様子もなく、鈴はけろっと言い放つ。
「い、言ってくれますわね……! 日本といい、中国といいアジア人はイギリス情勢を何一つ知りませんの……!? 言っておきますけど、わたくしは貴方にだけは負けませんことよ!?」
「言ってればー、あたし悪いけど強いし」
きしし、と笑う鈴。何か確信があるのか嫌味を含んでいない。あれが素でそう思っている分、尚更に性質が悪い。
セシリアがぐぬぬ、と拳をぷるぷるさせて箒は止めていた箸を再開する。
「で、アンタクラス代表なんですってね」
「おう、なんか成り行きでな」
ま、あれは仕組まれたものと言っても過言ではないですけどね。
「ふうん、ま。頑張れば? そこの二人に教えてもらってもあたしとの差が埋まるとは思わないけど」
「「っ……」」
箒とセシリアが顔をしかめる。自分が好いている人を貶されるのは気分のいいものではないようだ。
「ごちそうさま。お先失礼します」
そんな隣はお構いなく最後に残していた味噌汁を啜ると手を合わせて合掌し席を立つ。うん、塩サバ美味しかった。
「あ。し、仕種。話あるんだけど……」
鈴が呼びとめるが言葉はどこか歯切れの悪い。
「悪いですけど放課後で。それに急がないと次の授業に間に合わないですよ?」
時計は次の授業の開始の十分前を指していた。だというのに一夏の皿はほとんど箸が着いていない状態だ。箒たちはなんだかんだ言いながら箸を動かしてたし。
「げ! 本当だ、仕種なんでそのこと言ってくれないんだよ!?」
「いやあ久々の再開なんですし、積もる話もあるんでしょうからお小言はお節介かなあ、と」
「そういうときは言ってくれよ! 仕種の鬼! あくま!」
「はいはい、そんなことに口を動かしている暇があるんなら食べる方に動かしなさい。それと、その言葉まるっと覚えておきなさい?」
そう言って食器を返しに行くと後ろでちくしょー!とか哀れな断末魔が聞こえてくる。実にいい気味だ。常に女に囲まれてるハーレムな主人公体質はもげてしまえばいいと思います。
「仕種の一夏に対する態度も相変わらずね」
あくせくと一夏が物を食べている横でスープをごくりと飲み干して鈴はそう小さく呟いた。
放課後の第三アリーナ、そこにサムライがいた。
「し、篠ノ之さん!? どうしてここに!?」
「一夏に頼まれたからだ。それ以外に何がある?」
いつもと違うところは打鉄を展開しているところだ。
打鉄は純国産の第二世代量産型だ。安定性のあるガード型で初心者にも使いやすく多くの企業や国家、IS学園の訓練機として採用されている。
「打鉄の使用許可が下りたからな。近接戦闘が足りていないだろう、私が相手してやる」
くっ、こんなに早くに使用許可が下りるなんて……と悔しがるセシリア。
「刀を抜け、一夏」
「お、おう」
剣道のように距離を取り、剣を構える。
場を独特の緊張が包み込み、動こうとしていた時、KYも動いた。
「お待ちなさい! 一夏さんのお相手はわたくしセシリア・オルコットでしてよ!?」
割り込むように二人の間に銃弾を撃ちこむ。
「勝負の邪魔するな! 斬る!!」
「篠ノ之さんにそれが可能でして?」
切りかかった箒をあらかじめ展開しておいたインターセプターでいなすと距離を取りスターライトmkⅢで連射する。
こうして、一夏を巡る戦いが始まった。当の本人は完全に置いてけぼりだけど。
「うわ、戦闘始めちゃったよ。どうしたものかなあ仕種」
「一夏、一つ尋ねますが箒はファーストで鈴はセカンドなんですよね?」
「だからなんだよ」
「じゃあ、私は? そう言えば聞いてないですね? 私の方が、箒より付き合いが長いというのに?」
「あー……ファーストは箒だし、セカンドは鈴だろ。で、仕種は箒の前か。じゃあ仕種は幼なじみゼロだな」
「幼なじみ、ゼロ」
「おう、幼なじみゼロだ。ゼロ幼なじみだと語呂悪いだろ? だから幼なじみゼロ」
「ふっ」
「は、ははっ」
「んなコーラの商品名みたいな名前もらって誰が嬉しがると思ってるんですか? 私の敵さん?」
「神は死ん……みぎゃあああああああああああああっ!!」
一夏が言い切る前に呼び出したストレリチアを容赦なくぶっ放す。これでもかというぐらいに、これでもかというぐらいに。大事なことなので二度言いました。
結論。
一夏のネーミングセンスは非常にいただけないです、まる。