「う、ん……」
目が覚める。
思い出せはしないが、随分と懐かしい夢を見た気がする。
まあ、そのことはいいか。変な時間に寝てしまったため、寝直すには妙に冴えてしまっている。とりあえずは寝汗を流すために一度、シャワーを浴びるとしますか。
そう思い立つと覚醒しきっていない身体に鞭打ちながら起き上がろうとするが、身動きが取れない。
「……え?」
一瞬、理解出来なかった。気を取り直してぐっと力を入れてみるが、うんともすんともいかない。
「っ!!」
事態を把握したのか冷水をぶっかけられたように急激に頭が冷める。むしろ冷め過ぎて嫌な感じさえする。
両手は縛られ、その縄はベッドにも繋がれていてベッドの上から離れられないようにされている。
ならばとISを展開しようとするが、私のISはご丁寧にも机の上に置かせてもらってるため展開すら出来ない。まさしく八方塞がり、相手の思う壺という訳ですか。
時計を見ると針は一時を少し過ぎたばかりだった。寝ていた時間も四時間くらいと思った以上に時間は経っていないらしい。
「さて……」
動けない以上、相手の動きを窺うしか出来ない。受け身というのは剣道のスタイル上、慣れてはいるがこうもいいようにされるがままというのも少し悔しくもある。
しばらくすると開く筈のないドアが控えめな音を立てて開く。続いて鍵をかける音が部屋に響く。
「これは一体何の真似ですかシャルル・デュノア、いえシャルロット・デュノア」
「あはは。どうして……ってやっぱり気付くよね」
息を呑むような声が聞こえたがそれも一瞬で部屋の陰からシャルル、いやシャルロットは笑みを浮かべながら姿を見せる。その笑みはどうしようもなく疲れているような雰囲気を思わせていた。
それにいつもしているコルセットか何かを外しているのだろう普段の時とは違い、身体のライン―――特に胸ががよく表れている。
私の部屋は相部屋ではなくパートナーはいない。私以外にこの部屋を自由に開け閉めできる人間なんて寮長である千冬先生くらいだ。
しかしもう一人、私のことを自由に出来る人間がいた。それが私の部屋の戸締りを頼んだシャルロットなのだ。
どうやらあの時に睡眠薬を一服盛られたらしい。だからあの時頑なに私の提案を断っていたのだ。
「それにしてもどうして僕の名前を……?」
「二年前のあの時ですよ。それだけ言えば分かるでしょう?」
「ああ、やっぱり。あの時のミステールはやっぱり仕種だったんだね」
得心がいったかのようにシャルロットはくすり、と笑う。
シャルロットとは過去に一度手合わせをしている。その試合はデュノア社が申し込んで来たのだがお互いに専用機の試験データが欲しいということで合意した上での試合だった。
お互いの名前は都合により非公開だったが私はその時相手の名前をツテで教えてもらったためシャルル・デュノア=シャルロット・デュノアの式はすぐに成り立った。
あの後、二人は会うことはなかったがそれもこの学園でISを展開した時点で私があの時の操縦者であることがバレてしまった。当然だろう、ミステールとはオルテンシアの原型でありその姿形はあまりにも似過ぎている。
それにあの時はバイザーをして顔を隠していたとはいえ、私を取り巻く環境から推測すれば正体が割れてしまうのも時間の問題だっただろう。
「その、ごめんね。こんな強引な手段で」
「だったら、せめてこれを解いて欲しいんですが……」
両腕を後ろ手に固く縛られているのを見せる。
「それは無理。僕の言い分を聞いてくれたら解いてもいいかな」
「随分と買被られたものですね。私はIS学園の一生徒に過ぎませんが」
「それでもバックについてる人物は十分に凄いと思うけどね」
その言葉には同意しかしようがない。なにせ、織斑千冬に露崎沙種、おまけにISの産みの親、篠ノ之束まで知り合いと来ている。
更に言えばヨーロッパの稀代の天才、シンリ・シュヴァリエや世界の深桜まで私のバックに付いているのだ。
これでただの生徒というのはおこがましいにも程があるだろう。こんな事件に巻き込まれるとつくづく思い知らされる。
ただ、それは同時に交渉材料にされる危険性も孕んでいる。
あの時もそうだ。私が露崎沙種の姉妹故に、あの日々は始まったのだ。それは織斑一夏が織斑千冬の弟であるのと同じように、篠ノ之箒が篠ノ之束の妹であるのと同じように。
そして今回もそうであるが故にこうした事態になっている。
「それで、何の用ですか? 代表候補生を使ってまで私に要求を呑ませたいということはフランスは余程、行き詰まってると見えますが」
一瞬、言葉に詰まったがシャルロットは口を開く。
「簡単なことだよ。シンリ・シュヴァリエ博士に会わせて。僕はあの人をフランスに連れ帰るように言われてるんだ」
確かにシンリさんの持つ高い技術は第三世代兵器の開発には必要なものだ。事実、シンリさんは私と出会う前まで第三世代兵器の開発に携わっていたのだ。
『イメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装』
これは第三世代の謳い文句である。
イギリスのブルー・ティアーズ、中国の甲龍、ドイツのシュヴァルツェア・レーゲン。いずれにおいても操縦者のイメージ、感覚的な物を重点に置いて兵器を組み込んだISである。
しかしそのどれもが誰にでも乗りこなせるものではない。ブルー・ティアーズに至ってはBTを運用するに当たっての特別な資質が必要だ。
だから各国は互いに牽制し合いながら、稼働実績をあげるため第三世代兵器を開発しているヨーロッパ諸国の代表候補生が次々とIS学園に送られて来たのだ。
「…………」
確かにフランス政府が彼女を欲しがる理由も納得できる。彼女の技術力ならフランスの硬直している第三世代兵器の開発現状を打破する力になるかもしれない。
しかし、理解出来ないのは何故今更になって彼女をフランスに呼び戻そうと考えたのだろう。彼女があそこを辞める時に引き留めようと思えば可能だった筈だ。
フランスの勅命として第三世代開発を命令すれば一介の技術者に過ぎないシンリさんを繋ぎ止めておくには非常に容易い。
しかしその疑問はすぐに氷解した―――出来なかったのだ。
あの事件の余波で新型の開発にまで手が回す余裕が当時のフランス政府にはなく、各国への弁明と国内の鎮静化に手一杯だったのだ。
結果、事後処理に追われてごたついているフランスを離れ、シンリさんは深桜重工のスカウトを受けた。
それにシンリさんが第三世代開発に加わったところで望み薄だろう。あの人ほどの頭脳を持つ人が第三世代開発に携わっていたのにも関わらず進展していなかったのがいい証拠だ。
その上、遅れに遅れてようやく第二世代兵器―――ラファール・リヴァイヴの開発だ。矢継ぎ早に第三世代兵器の話なんてコンセプトも方向性も何も定まっていないのに無理な話だ。
「一応、聞いておきますがノーと言った場合、どうなるんですか?」
そう聞くとシャルロットが目を伏せる。
シンリさんも企業の人間だ。深桜の開発主任を任されている彼女がその立場を投げ出してフランスへ帰るといって帰れるような立場ではない。それに開発環境が深桜の方がいいため、フランスに帰ったところでなんのメリットもない。
しばらく俯いていたシャルロットだが、意を決したかのように上着のチャックに手をかける。
「……え」
こちらが驚く様子にもろともせずにジッパーを下ろしていく。
ジャージの下にあったのはブラジャーに隠された二つの膨らみだった。
それらは主張しすぎることもなく、かといって控えめという訳でもなく。シャルロットの性格を表したかのようなほどよい大きさ。
何をしているのか分からない訳はない。止めないといけない筈なのにそれを止めることが出来ない、いやその光景に見惚れていたのだろうか。
そんな間にもシャルロットは僅かに躊躇ったがズボンにも手をかける。
「ちょっと、シャルロット……!」
こちらの停止の声が逆にスイッチになったのか、私の声を振り切ってズボンも脱いで床に落とす。
全てを取り払ったシャルロットの姿は見間違えようもなく女だった。そのシルエットは華奢ながら、均整のとれたラインで金髪によく映える陶磁器のような白い肌は綺麗、としか形容出来ない。
そのシャルロットの顔は羞恥によるものか頬が若干赤い。
「その時はその時、絶対にイエスって言わせて見せるよ。……僕の身体を使ってでも」
ハニートラップとはよくいったものだ。まさかこんなにも身近で遭遇することになるんなんて。
「切羽詰まってますね」
「それくらいに彼女の技術力が必要なんだ。フランスのためにも」
ひたひたとシャルロットが近づいてくる。
「それに僕は知ってるんだよ? 仕種の身体のこと」
今度は自分が息を呑んだ。
「どうして、そのこと……」
「さあね。でもこのことをバラされたら仕種は困るよね。だって、一人部屋にしてまでバレたくないんだから」
その通りだ。ただでさえ面倒事をかかえている身としてはこれ以上バレる人間が増えるのは御免被りたい。
「それでも駄目なら僕が……してあげてもいいよ」
「……っ!?」
拙い、それは非常に拙い。今のシャルロットならそれすらやりかねない。それくらいに彼女は追い詰められているのだ。
「だから、お願い。シュヴァリエ博士に口添えして帰るようにお願いして」
シャルロットの手が伸びて……、
「はあ、仕方ないですね。分かりましたよ……」
私のスカートに触れる前に止まる。これ以上はお互いのためにならないためこちらが折れることにした。
「ホントに……?」
「ええ。私のことをバラされて面倒事を増やされるのは御免願いたいですし、」
「じゃあ……!」
シャルロットの顔にようやく光明の光が灯った……、
「それに、こんなことをしなくても私はシンリさんに貴方を会わせるくらいなら出来ますしね」
「…………ふぇ?」
ような気はしなかった。あまりにも間の抜けた声がシャルルの口から零れ落ちる。
それは今の今までの行動が何もかもが台無しになりそうな、シリアス全開な空気が一瞬で吹っ飛んでしまいそうなそれはそれはあまりに間抜けな声だった。
「ええ。フランスの代表候補生と企業の技術者を会わせるだけなら何の問題もないでしょうしね。まあ、彼女がフランスに帰るかどうかは別問題ですが」
そうだ、よくよく考えればシャルロットとシンリさんが接触するだけでは何ら問題もない。
シャルロットがデュノア社の令嬢というのがネックになるかもしれないがシンリさんにとったらそれくらいは瑣末な問題であろう。それにフランスのカスタム機が見れるとか嬉々としそうな気がします。
「そ、それじゃあ僕のやってきたことって……」
「あんまり意味ないですね」
「そんなはっきり言わないでよ!! 僕のこれまでのドキドキとか返してよ!! 僕、物凄く罪悪感感じてたんだからね!?」
「自分で勝手にしてたんでしょうに。私の知ったことじゃないです」
シャルロットの抗議の声を涼しく受け流す。だってそうでしょう、人並みには感情の機微は読み取れるつもりですがそれはそれ。今回のは事情をある程度理解出来ますが、加害者の内情まで深く察しろってのも無理な話です。
「酷いよ仕種! ちゃんと責任取ってよ!?」
……段々となんかヘンな方向に向かっているような。これって他の人が聞けば絶対に誤解を招くような言い方じゃないでしょうか。
「こうなったら……」
「ちょ、待ちなさい、シャルロット。そのままじゃ倒れ……!?」
「きゃあああっ!?」
そう言い切る前にシャルロットがバランスを崩してベッドに倒れ込む。
「いたたたた……大丈夫ですか? シャルロッ、ト!?」
次の瞬間に私から言葉は失われた。
二人距離はほぼゼロ、つまりはシャルロットが私に覆い被さるような形で折り重なった状態という訳で。しかも先程シャルロットは腹を脱いでしまっため向こうは下着姿。服の生地越しでも相手の肌の感触が嫌でも分かってしまうのだ。
お、落ち着け、私。これは事故だ、故意じゃない。アクシデントだ。そうだ、そうに違いない、そうに決まっている、そうでない訳がない。
これがもし狙って起こしたことだとしたらシャルロット、恐ろしい娘……!と戦慄を覚えることになるだろう。
「あ、あの、えーと……?」
こっちがなんて言おうか戸惑っているとき、向こうは何を思ったのかきゅっと抱きついてくる。
「!?!?!?」
あまりの驚愕で声にならずに口を金魚のようにパクパクさせるだけ。
心臓の鼓動は煩いくらいにバクバクとスピードを上げていく。こんな姿をしているとはいえ心は女になりきれていないのだから当然と言えば当然だ。
それともそういうことも計算済みでこのフランス娘は動いてるとでもいうのか!? やはりシャルロット恐ろしい……、
「今日はごめん。ちゃんと手順を踏んで話せばこんなことにならなかったのに」
ぽつりと耳元でそう漏らす。それは自分のして来たことの謝罪であり静かな後悔だった。こんな異国の地に一人、しかも本当の性別を隠してまで任務に就かされていたら心細くもなる。
それを聞き、今までパニックで軽くぶっ飛んでいた思考が落ち着きを取り戻す。
「別にいいですよ、気にしてないです。フランスだってあの事件以降、汚名を晴らそうと躍起になってるんでしょう?」
「……うん、そうみたい」
あやすような私の問いかけにシャルロットは小さくそう頷く。本当だったら頭の一つでも撫でてやりたいが、こうやって縛られてるためそれが出来ないのが少々歯痒い。
一昔前、フランスでとある事件が発覚した。
それは発覚すると同時、すぐに情報の規制がかけられて被害者は誰であったのかは伏せられたが、それでも抜け道はいくらかあってフランスの上層部の一部の人間には知れ渡った。
その被害者が誰でもない、この露崎仕種であるということを。
この事件は一人の人間の思惑によって私は巻き込まれた。
その始まりにあったのはどんな感情だったのだろうかなんて知りはしないし、知りたくもない。
ただそのせいでフランスは頂点を知り、英雄を失い、信頼を無くした。私にとってこれらの事実だけで充分だ。
今回のこともそいつの思惑によってシャルロット・デュノアもその渦中に巻き込まれただけ。
「それに、対象は私だけじゃないんでしょう?」
「……仕種には敵わないなあ」
男装であれば私に近づきやすい。男子が女子に近づくのは別に普通のことだから。それは学生生活であれば尚更だ。
そして同じ特異なケースである織斑一夏にも接触しやすいのだ。それに男一人で今まで暮らして来た一夏は何のアピールをせずとも向こうからやってきてくれる。男同士の方が気楽なのだから。
「ただ、着替えまで強要しなくてもいいのに……」
日常生活では何の問題もないが唯一、そこに困ってるらしい。まあ、一緒に着替えでもすれば一発でシャルルが女であることがバレてしまうし仕方のない話だがそんなに一人で着替えたくないのか、無駄に女子思考ですね。
もしかして今の今まで女性に興味を持たなかったのはや・ら・な・い・かの化身だったからかもしれない。そうなるとシャルロットの貞操が危ない……!
「シャルロット、一夏が無理矢理近づいてきたらパイルバンカーでもなんでも撃ち込んでやればいいんですよ。そうすれば多少は懲りるでしょうから」
「え、ええ!? で、でも」
「シャルロット、貴女自身を守るためです。これは仕方がない犠牲なのですよ」
「う、うん。最後の手段として頭に置いておくね……」
私に気圧されて一応、考慮しておくらしい。一夏なら近いうちにやらかしそうな気がするんですけど……まあ、ご愁傷様。
「それでその、シャルロット。さっきから胸当たってるんですが」
抱きつかれれば必然的にお互いの胸が接触する訳で――――。
「~~~~っ!?」
その言葉に意識したのか声にならない悲鳴を上げてすごいスピードで胸を隠すように飛び退く。
「し、仕種のえっち!」
「言いがかりはよしてください。こんな恰好をする貴女も充分に変態だと思いますけどね。いや、自分から脱ぎ出したから淫乱か」
「い、いんら……!?」
聞き慣れない言葉にシャルロットは赤面する。流石に花の十五歳に淫乱はキツ過ぎたか。
「淫乱は淫乱ですよ。もしかしてシャルロットも少し期待してた?」
「い、言わないで……! あれはもう充分に反省してるから!」
「ならよろしいです。さっさと服を着て下さい」
シャルロットは言い負かされて色んな意味でしな垂れていた。
「うぅ、仕種が虐めるよぉ……」
「シャルロット程度で口で勝てると思わないで下さい。ていうか、そういう誤解される言い方は控えなさい!!」
結論、やはりシャルロットは恐ろしい娘だった。
シャルロットは私の縄を解いて部屋を後にした。とりあえず上にシンリさんの接触出来ることを報告するらしい。律儀なことだ。
ベッドに身体を預け、ずっと見ていた天井を再び仰ぎ見る。
詳しい事情は教えてくれなかったが、なんとなく察しはつく。今回も、アイツが動いているのだろう。
「シャルロット、貴方も踊らされているのですね。アイツに」
フランスを裏から牛耳り姉さんを引退に追い込んだ張本人―――。
「ライア・シュヴァリエ」
某所にそびえ立つ高層マンションの最上階のとある一室で男は電話で報告を受けていた。報告の内容は接収に成功、シンリ・シュヴァリエと接触出来る機会を得たとのことだ。
「そうかい。では今後とも抜かりなく頼むよ」
電話を切ると男はと笑いを堪え切れなくなり、クククと声を漏らして忍び笑いする。
「随分と楽しそうね、ライア」
ワイングラスを傾けながら部屋のソファに座る女性は電話が終わるのを待っていたかのように声をかける。
豊かな金髪に女性も羨むようなプロポーション、そして耳に光る金色のイヤリング。誰もが振りかえるような美しさとは彼女のことをいうのだろう。
「ああスコール。もうすぐ、もうすぐなんだ。もうすぐ、彼女と会えるんだ」
「そう、それは僥倖ね」
「ああ、そうさ。神の前で永遠の愛を誓い合った僕たちは何人たりとも引き離せない。全ては解けることのないメビウスの輪のように、僕と彼女とは元に鞘に戻る運命なのさ」
普段の道化な姿もさることながらテンションの吹っ切れた今のライアは普段にも増して饒舌さに磨きがかかっており、その様は狂気染みた雰囲気さえも思わせる。
スコールと呼ばれた女性はライアの話を横目にふふ、と微笑む。その笑顔には性別を問わず誰もがドキリとするだろう。
「それはそうと貴方は会えるだけでいいの? 貴方の目的はもっと先のことだと思ってたけど」
「ああ、それに関しては問題ないよ。彼女は僕の元へ戻らざるを得なくなる」
自信あり気に口元を歪めてライアは答える。かつて、とある英雄を追い込んだ時のやり口のように、そして現在を彼らを追い込んでいるやり口のように。相手の弱みに付け込んで狡猾に自身の傀儡に仕立て上げる。
前回は少しばかり事を大きくし過ぎたのとその隠れ蓑が使い物にならなくなってしまったので、取り替えるための準備期間として有名企業に潜伏していたが今回はそれが功を奏したようだ。
「さて、と。僕はもう行くよ」
「あら、もう行くの? もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「ミセスといるのも悪くないけどね。僕は最後のもう一仕上げに行かないといけないのさ」
そう言うと紳士が淑女をエスコートするかのように、はたまたどこかの騎士が王女に誓うようにスコールの手の甲にキスを落とす。
「じゃあ彼女にはよろしくね。貴女の一押しがきっと面白い事になると思うから」
ああ、と相槌を打って部屋を出て行ったライアと入れ違いで女が入って来る。
「なあスコール、なんでアイツはここにいるんだよ。紳士気取りの道化のくせによ」
「あら、普段の彼はとても紳士よオータム。ただ、そう……思い人への思いが強すぎるために道化に見えてしまうのも仕方ない話かしら」
そう言って楽しそうにスコールは愛を説く。
「あんなの私からしたら未練タラタラのキモイ野郎だぜ。その上根回しで有無も言えなくさせる、陰湿極まりねえ」
「それが彼のやり方ってものよ。言っておくけど表の人間なんてそんな連中ばかりよ?」
「それはスコールもだってことか?」
ええ、とスコールは当然のように答える。
「私の場合はそこに楽しみが加わるけど。ねえ、貴女はどうなの?」
話を振られたベッドの上に寝転ぶ女はのんびりと身体を起こす。
「教えて。貴女を貴女たらしめ、突き動かすその根本に存在する衝動を」
それを聞き届けるとふふん、と鼻で笑って口を半月のように釣り上げる。その酷く歪んだ表情は先程部屋を後にしたあの道化師を思わせる。
そして彼女は己の行動理由を短く、こう言い放つ。
愛、だと。
* * *
あとがき
どうも東湖です。
はい、シャルの暗躍回でした。
まだまだ語らせ足りない部分とかがあるのでそこはまた別の機会、ということで。
つーか、新キャラまた出たけど収拾つけられるんだろうか……。