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No.28755の一覧
[0] 【習作】迷子の赤い死神 リリカルなのは×鬼畜王ランス[丸いもの](2011/07/09 17:46)
[1] 導入部分のようなもの[丸いもの](2011/07/09 19:12)
[2] 海鳴市に旅立つ そして遭遇[丸いもの](2011/07/16 01:36)
[3] ジュエルシードを取り込んだ怪物[丸いもの](2011/07/25 18:59)
[4] VS魔人四天王、そして「ねんがんのジュエルシードをてにいれたぞ!」[丸いもの](2011/08/30 12:18)
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[28755] 海鳴市に旅立つ そして遭遇
Name: 丸いもの◆0802019c ID:c975b3ab 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/16 01:36
「なにぃぃぃ!?ヘルマン方面の軍が壊滅状態だと!?」

 ゼス方面の前線軍事基地となっているアダムの砦。
 そこで戦闘に向けて準備している人類の統一王、ランスが素っ頓狂な声を上げていた。
 その声を冷静に受け止める参謀的存在、マリスはさらに報告を読み上げる。
 
「はい、ランス王。ヘルマン方面に展開していたリーザス赤の軍、忍び部隊、親衛隊が
 ほぼ壊滅状態。援軍として赴いたカルフェナイト部隊も致命的な打撃を受けています。
 さらには軍を率いていた将軍にも戦死者が出ています」
「・・・死んだ奴は誰だ?」
「親衛隊を率いていたレイラ・グレクニー将軍です」
「レイラさんがかよ・・・くそ!!」

 ランスは怒りを紛らわす為に様々な書類が置いてあった自分の机を蹴り上げた。 
 机は勢いよく転がり、紙が空中に舞った。
 それでも怒りが収まらず魔剣カオスを抜き、手当たり次第に斬りつけた。

「おいおい心の友よ落ち着け。気持ちは分からんでもないが儂を粗末に扱うな」
「うるせえカオス!叩き折って廃棄物にするぞ!!」

 ランスはカオスを窓の外に向かってブン投げた。

「うおおーい!?いくらなんでもこの扱いは酷くね!?」

 窓ガラスは粉々に砕けてカオスは地面に落下していった。
 そこに運悪く一般兵士が通りがかりカオスに串刺しにされて絶命した。

「それに加えてリック将軍は行方不明・・・恐らく死亡している可能性が高いかと」
「・・・アイツまでか」

 ランスは少し気を取り戻して荒れた部屋の豪華な椅子に座る。
 リックとは友人と言える間柄ではないが信頼の置ける男の一人だった。
 レイラがリックを好きで付き合っていると知ったときもまぁしょうがないかと特別に許した。
 だというのに、何勝手に死んでんだよあの馬鹿は・・・

「さらに悪い知らせがあります。ゼス宮殿の奥深くに封印されていた魔人四天王の一人、カミーラが
 復活してゼス方面の軍に甚大な被害をもたらしています」
「こんな時にかよ、タイミングが悪すぎるぜ」

 泣きっ面に蜂だ。
 ヘルマン方面の魔人をなんとかしたいのにようやく戦線が安定してきたゼスの方面に
 また災厄が降り注いだ。
 
「・・・いかがいたしましょうランス王?」
「カミーラを速攻で片付けてヘルマン方面に向かう。ヘルマンで戦ってる連中にはなんとか持ち堪えろと伝えておけ」
「承知しました」

 頭を下げてマリスは退室する。
 ランスは椅子に腰掛けながら天井を眺めていた。

「今まで俺様の知り合いが死なないように作戦練って戦争やってきたのによ・・・死ぬんじゃねえよ」

 一人嘆息するランス。
 彼はかつてJAPANで出会った織田信長を思い出していた。
 織田信長という人物はランスが対等に語り合えた人間であり初めて出来た友人であった。
 だが彼は魔人となってランスと敵対して殺す事になってしまった。

 その時からだろうか。
 彼は少し、ほんの少しではあるが身内に対して甘くなり、誰かが死ぬことを嫌うようになった。
 普通の人間ならこれが至極当然の反応だがランスという傲岸不遜の鬼畜的な性格を考えると
 これはすごい人間的な成長をしたと回りの人間は思っている。
(もっとも気に入らない人間、ただの男やブスとか簡単に殺してしまうところはあまり変わってないが)
 それだけ信長の存在は大きかったのだろう。
 
「あーくそ、俺様に感傷なんざ似合わん。とっととカミーラぶっ倒してもう一回封印して観賞用の結界にぶち込む」

 後、ハイパー兵器もぶち込む。ヒィヒィ言わせてやる。
 そんな事を考えながらランスは戦闘出撃まで椅子でくつろいだ。














「うわー酷いなアンタの身体、傷だらけじゃないか。よくそんな状態でアタシ達やあの女と戦う事が出来たね」
「その傷であれだけ動き回るなんてすごい強靭的な精神力・・・私達が負けるのも頷けるかも」

 時の庭園の居住部屋の一室にて。
 フェイトやアルフが献身的になってリックの手当てをしていた。
 上半身から下半身に至るまで火傷や裂傷の傷だらけだ。
 アルフは半ば呆れたように、フェイトはおっかなびっくり男性の身体の傷に触れて薬を塗っていく。

 いつもは男に戦場の傷を治してもらってたからなにか気恥ずかしいなとリックは思った。

「治療するついでにアンタの今の状況も教えておこうか」
「リックさん・・・心の覚悟はいいでしょうか?」

 包帯を巻きながらそんなことを言われた。
 心の覚悟か。
 今までの戦争の激戦やあの魔人との戦闘で死ぬ覚悟とかそういうのはいつでも出来ていた。
 彼女達の言葉を聞いてもそんなにショックは受けないと思う。

「直球で言うとアンタは迷子だね、次元漂流者」
「その言葉はプレシア殿からも聞きましたね。どういう意味でしょうか?」
「文字通りです。本来自分がいるべき世界から離れてしまって次元間を漂流して元の世界に帰れなくなって
 しまった人のことを指します」
「・・・本来自分がいるべき世界?元の世界に帰れなくなった?」
「リーザス王国とか自由都市地帯とか喋ってたけどアタシ達にはさっぱり分からない地名だ。まぁ要するに」

 そういってさっきの戦闘で頭を痛めてたアルフは適当に自分の頭を包帯で縛り止血、言葉を続ける。

「アンタにとってここは別世界だってことさ。文化も違えば言葉も違う。不思議なことに言葉は通用してるけど」
「別世界・・・ですか」

 確かに私達の扱う魔法とは別に独特に発展した魔法をこの人たちは披露してくれた。
 戦闘においての戦術もフェイト殿やアルフ殿、そしてプレシア殿も様々で私達とは違った手を使ってきた。
 魔法によって作られた異空間とも違う感じがするし。
 彼女達の言っていることは本当なのかな。

「ここが私の住んでいる世界ではないというのなら元の世界に戻りたいのですが」
「無理」
「即答ですか」
「先程もいった通りリックさんは迷子なんです。元の世界に戻そうにも私達の力では。リックさんの住んでいた世界の場所も分かりませんし」
「むぅ・・・」

 困った事態になったぞ。 
 早くリーザスに帰還して戦線復帰したいのに帰れないとは。
 今は一人でも戦力が欲しい状況だ。
 こんなところで足踏みをしていられない。

「・・・でも母さんならなんとかできるかも」
「本当ですか?」
「げっ、あの人に頼み事かい。アタシ達のいう事なんて聞かないよ絶対」
「今のところリックさんを戻せる方法は私達は知らないし母さんに頼るしかないよアルフ」
「でもなー言っちゃ悪いけどこいつにそこまでする義理があたし達にあるかな」
「私達はリックさんを殺しかけたんだよ、それなのに償いをしないなんて許されないと思う」
「う・・・そうだった」

 ごめん、と頭を下げてくるアルフ。
 まぁアルフ殿の意見も間違っては無い。
 これは余所者である私自身の問題だ、その問題にこの二人を巻き込むのは気が引ける。
 彼女達は彼女達であのプレシアという問題を抱えているのだから。

 参ったな、元の世界に帰れたら帰れたでプレシアをとっちめることが出来ないじゃないか。

「ほい、手当て終了ー。後で食事持ってくるからそれ食ったら今日の所は寝て体力を回復させときな」
「リックさんの着ていた鎧と衣類はズタズタになってますね、鎧は無理ですが衣類の方は持ってきますね」
「重ね重ね申し訳ありません。感謝します」
「どういたしまして」

 アルフは手をヒラヒラさせて、フェイトは頭を下げて部屋から退出する。
 それを確認するとリックはベッドに身体を預けて溜息をついた。

 迷子か。
 自慢ではあるが赤い死神と武名を諸国に轟かせていた自分が迷子なんて間抜けすぎるな。
 戦っていた相手が魔人だから仕方ないもののそれにしたって格好が悪い。
 知り合いに聞かれたらなんと思われるだろう?
 
「・・・レイラさん」

 最愛の人。
 自分が命を賭けて守るべきだった人。
 あの時、ボクはどんな行動をしていれば彼女は救われたのだろうか。
 ・・・何も出来なかった自分こそが死ぬべきだったんじゃないか?

「くそ!!」

 強く握り締められた拳が壁に叩きつけられた。
 叩きつけられた拳から血が滲み出てベッドのシーツを汚した。

「リックさんどうしましたか!?」
「おおい!?なんかでっかい衝撃が部屋越しに伝わってきたよ!?」

 フェイトとアルフがそれぞれ衣類と食事を持って大急ぎで部屋に駆け込んできた
 しまったと罰が悪そうにリックは頭を垂れていた。

「すみません、過去の事を思い出していたらつい身体が・・・」
「・・・何があったか分からないけど自傷行為はやめなよ。見ているこっちが堪らない」
「はい・・・」
「あの、食事を置いておきますから食べてゆっくり休んでくださいね」

 そういって二人は深くは追求せず部屋を出ることにした。
 取り残されたリックは用意された食事に黙々と口にする。

 まずいな。
 魔人やレイラさんを思い出しただけで興奮して冷静になれなくなる。
 この二つはボクの心に深く刻み付けられている。
 時間が経てばある程度感情のコントロールが出来るようになるだろうが・・・
 とりあえずこの世界にいる間は抑えないと。

 そういってパンを裂いてスープにつけて口にいれた。
 長い戦争のおかげでまともな食事を取れる事が少なくなっていたなぁ。
 疲れてるせいもあってか非常に美味かった。










「アルフ」
「ん~なんだいフェイト」

 二人はリックの部屋を退出してフェイトの部屋へ戻ろうと廊下を歩いていた。
 冷たい無機質な石の床が二人の姿を薄っすらと映す。

「さっきのリックさん、少しだけど目から涙を浮かべてた」
「え?嘘、気づかなかった。よく気づいたね」
「私も最初は気づかなかったけど偶然目が合ってそれで気づいた。あの人、ここにくるまでに何かあったのかな?」
「そりゃあ・・・次元漂流者はなんらかのトラブルでどこかの世界に放り出される訳だしそれが原因じゃないかい?」
「・・・」

 その答えに無言になりフェイトは思考を巡らせる。

 トラブルか。
 事故でここに飛ばされて悲観的になっているのかな。
 でも今までの会話を思い出してみるとそれとはちょっと違う感じだ。
 私達を敗退させるほど強い人が涙を流す理由って一体何だろう?
 何か、大切なものでも失ったのかな。

 ふと気がつくとアルフがフェイトの顔を覗き込んでニヤニヤしていた。

「おや~フェイト、何考えてるんだい?」
「何でもないよ、何でも」
「そう?なんかあの男の事考えてそうな顔だったなぁ~」
「え?」
「ん~そうかそうか、意外と面食いだったんだねぇ。確かに腕っ節も強いしあの女にも対抗できる存在だしね。
 童顔な顔立ちでしかも精神的に脆くて支えてあげたいって感じがフェイトの好みに的中したと」
「バルディッシュ」
『yes sir』
「冗談だから怒らないでおくれよ。無表情でバルディッシュ振りかぶるの怖いって」

 クックックと両手を挙げながら笑うアルフ。
 謝っている姿勢を見せているがそれがまた自分をからかっているようで釈然としなかった。

「まぁ私のフェイトに手を出すんならこのアタシを倒してからにしないと許さないけどね」
「アルフはリックさんにもう倒されてるじゃない」
「フッ・・・アタシは後二段階変身を残しているのさ」

 そういって腕を曲げて力コブを作るアルフ。
 おかしいな、アルフの性格ってこんなだったかな?漫画の読みすぎでちょっと曲がったのかな。

「まぁ、あれさ。今はあの男の事を気にしてもどうにもならないよ。
 それに私達はあの女の指示でジュエルシードっていうのを集めないといけないみたいだし」
「そうだね」
「そういうわけでフェイト、とっとと寝よう。夜更かしは肌に良くないからね」

 二人はそのまま廊下の闇へと歩いていく。
 足音が無人の空間に響いては消えていった。









「ふーん、あの男なかなかいい物を持ち込んでくれたわね」

 部屋全体を明るく照らすには光量が足りない薄暗い研究室にて。  
 プレシア・テスタロッサはリックから取り上げたバイ・ロードの解析に勤しんでいた。 
 時折暗い科学者特有の笑みを浮かべて嬉しさを表に出す。

「仕組みは分かったけどこの剣を発動するには魔力ではなく使い手の意思の力が必要というのはユニークね」

 バイ・ロードを手に取り抜き放つ。
 今度はショートソードではなく一般的な長さの剣に伸びる。

「フフ、意思の力で制御か。もしかしたらこの剣の原理を応用すれば私の目的に近道が出来そうね」

 パネルを叩く音が黙々と続く。
 モニターに表示されたバイ・ロードの図面のようなものが回転したり縦に立てられたりする。
 さらにはリックが戦ったフェイトやプレシアの交戦光景が映し出され剣の特性を調べ上げていく。
 半ば狂気に魅入られている科学者は不眠不休で研究対象にのめり込んでいた。


 ・・・身体の状態が良くないと知らせる咳をしながら。















「・・・朝か?」

 食事をとって就寝、そして目覚めたリック。
 だが時間帯を確認しようにも空は真っ暗だ。
 感覚が狂ってしまったのかな、こんな夜に目覚めるなんて。

 いや、元々狂っていたか。
 元の世界では四六時中戦闘態勢で寝る時間はあんまり取れなかった。
 昼夜問わず魔物は襲撃してくるから休む暇も無い。
 常人は精神が狂い、薬に溺れるか自殺を図る人間は沢山いた。
 そのなかで発狂せず精神を健康的に保てるというのはある意味壊れている人間かもしれない。

 とりあえず用意された服に着替えて外に出てみるか。

「サイズが合っている・・・よく用意することが出来たな」

 黒のトレーナーの上にレッドジャケットを身につけ、そして青のジーンズに足を通す。
 なんだか若返った気分がする、気持ち的に。
将軍という職についてからこういう服を着るのはめっきり減ったな。

「おっと、これを忘れてはいけない」

 棚の上に置かれていた赤将の兜を脇に抱える。
 キングのダンジョン肝試しツアーによっていくらか心は鍛えられたがやっぱりこれがないと少々不安になる。
 ・・・いつか私もキングにお返しとしてビックリ作戦でもやってみようかな。後が怖いけど。

 下らないことを考えつつもリックは部屋を出ようとしてドアノブを捻る。
 そのまま外に出ようとするとなにか障害物にぶつかった。

「きゃう!?」
「む」

 可愛らしい声が聞こえた。
 衝突した物体を確認するとフェイトがリックに跳ね飛ばされて尻餅をついていた。
 おでこを強く打ったのかフェイトはそこを手でさすっていた。
 
「すみませんフェイト殿、私の不注意でした」
「あ、いえ、気にしないで下さい。こちらこそ気をつけてなくてすみません」

 両者とも一様に頭を下げる。
 お互い謝りあった後、フェイトはリックの容態を気遣う。

「身体は大丈夫ですか?昨日の手当てじゃ完全に治せない部分もあったので」
「その点はお気遣い無く。元々私の身体は頑丈に出来ていますし昨日の戦闘で飲んだ幼迷腫の効果がまだ残っていたようで傷は塞がっています」
「幼迷腫?」
「私の世界の薬です。特製中の特製らしく傷を負い生命力が低下した人間を復活させる薬とのことです。劇薬みたいですけどね」
「リックさんの世界にはすごい薬が存在するんですね」
「私にとってはこちらの世界も凄い物ばかりが存在してると思っていますよ」
「おーい、二人とも朝から何謙遜し合ってるんだよ」

 アルフがバタバタと二人の間に入ってくる。
 もう怪我が治ったのか頭に巻かれた包帯は解かれていて犬耳をピンと伸ばしている。
 尻尾もゆらゆらと動いて元気であることをアピールしていた。

 フサフサして気持ちよさそうな尻尾だ。ちょっと触ってみたいかも。

「朝っぱらからあの女から呼び出し食らっているんだ、急がないと何されるか分かったもんじゃないよ」
「うん、分かったアルフ」
「呼び出しですか・・・二人ともお気をつけて」
「何いってんだ、アンタも来るんだよ」
「え?」

 何故私も?
 と思ったがよく考えれば昨日までプレシアと敵対していたのだ。
 用が済んでしまえば私は殺されるかここから追放される身だ。
 その処分を下すつもりだろうか。

「大丈夫ですよリックさん、私がいる限りあなたの身の安全は保障します」
「・・・考えが顔に出てましたか?」
「まぁ、派手にドンパチやったからねぇ。そんな風に考えられても仕方ないよ」
「ははは・・・」

 苦笑いする。
 殺し合いをしてどちらかが死ぬ一歩手前までいったのだ。
 私の懸念する事など二人にはお見通しなのだろう。

「しかし、フェイト殿は何故そこまで私を庇うのです?昨日も言いましたがあなたの母親を殺しかけたのですよ」
「繰り返しますが私の好きなようにしたいという理由では駄目でしょうか?」
「駄目ではありませんが。それで私の命を保てるというのなら。でもあなたの理由は人を納得させるには弱すぎる」
「横からの意見だけどいい?」

 片手を上げて発言したいと意思表示をするアルフ。
 フェイトの心を代弁するかのように発言を始める。

「多分さ、フェイトは自分の母親に真っ向から意見を発言出来る人が欲しかったからアンタを庇うんじゃないか?」
「あ、アルフ・・・」
「昨日の戦いのときリック、アンタはあの女に恐怖を見せず母親としての行為を批判し真正面から闘いを挑んだ。
 結果としてはあの女はいう事を聞きゃしなかったけどこれって私達からすれば凄い事なんだよ。
 私達は基本的に逆らう事が出来ないから。それにアンタは殺されずに生き残った。
 何か理由があるかもしんないけどこれも凄い事だ、滅茶苦茶強くて悪運あるのはアタシには羨ましいよ。
 あの女に口を挟むことが出来る実力があるってわけだから」

 アルフの発言を聞いてフェイトは肩を落としていた。
 遠からず当たりらしい。
 何か申し訳なさそうにリックを見つめていた。

「ごめんなさい、大体アルフの言うとおりです。母さん、身体が弱いのに私が休んでって言っても
 今まで聞き入れてくれなかった・・・それでリックさんならなんとかしてくれるかもしれないって思ったんです」

 利用しようとしてごめんなさいと頭を下げるフェイト。
 ・・・事情はどうあれこの子はあの母親を一心に慕っている。
 その母親がなんであんな性格なのか分からないが純真な少女の願いを無下にする事もできない。
 お互い利用しつつされつつだ。
 とりあえずフェイト殿の考えに乗るのは悪くない今のところは。命を保障してくれる訳だし。

「別に謝る必要はありませんよ。逆に役に立つというなら喜んであなたの為に働きましょう」
「り、リックさんそんな跪く真似しなくても・・・恥ずかしい」
「おー流石騎士様だ、あの騎士鎧を着てればもっと様になるんだろうねぇ」

 私にもやってくんない?とリックにねだってくるアルフ。
 断る理由もないからやってみたら気分がよさそうに喜んでいた
 顔がにやけている。
 欲求に忠実な人だなぁ。

「おおっと、あの女が呼んでいるのを忘れた。行こうフェイト、リック」

 そういって三人は廊下を駆け出す。
 後を追うリックは二人の走って流れていく長い髪が綺麗だなと見とれていた。
 そういえば・・・いつのまにかアルフ殿にリックと呼び捨てにされるようになったな。










「早くも無くかといって遅くもなく・・・中途半端にやってきたわね」

 昨日の戦闘の傷跡がまだ残る広間にて。
 到着したフェイトとアルフは膝をつき頭を垂れる。
 リックも今はフェイトの家臣のようなものだから二人と同じ姿勢をとる。
 プレシアは不機嫌なのか分からないような顔をしていたがリックの姿を見つけると表情を変えていた。

「あら・・・随分若い顔立ちなのね騎士よ。赤い色の服装が似合うわねあなた」
「元の世界では赤の騎士鎧を着込んだ姿がトレードマークだったからその影響かも知れません」
「そう、それにしてもなかなか可愛い顔」
「そんなふうに言われるのはあんまり好きじゃないんですけどね」
「もったいない事をいうわね、それも一つの個性よ」

 何か機嫌よさそうに笑みを浮かべるプレシア。
 それをみていたフェイトとアルフはヒソヒソ話を始めていた。

(え、なに?あの女、リックの容姿が自分の好みに直撃したのか?)
(母さんのあんな顔、初めてみた・・・)
(流石親子、好みは似ているのか)
(アルフ)
(分かってるって、冗談だよ。それにしたってありえない反応で気持ち悪い)

「さて、あなた達を呼んだ本題に入りましょうか。二人にはすでに言ってあるけどジュエルシード、
 これを集めにいってもらうわ」
「ジュエルシード?なんですかそれは?」

 リックが疑問の声を上げた。
 二人に目配せするが顔を振っており詳しくは知らないようだ。

「そうね・・・強いて言うなら願いを叶える石といったところね」
「それは大層な代物ですね」

 リックはジュエルシードという物に疑問を抱く。
 願いを叶えるか。
 微妙にぼやかされたような答え方をされて信用しづらい。
 私の世界にも膨大な魔力を使って不老不死、億万長者等様々な願いを叶えることが出来たと言う話を
 知人の女性から聞いたが・・・その手の話は眉唾物だ。
 死者蘇生の話ならキングから聞いたことがあるので信用できるのだが。

「疑っている顔ねその顔は。仕方ないといえば仕方ないけれど」
「願いを叶えるという事事態が胡散臭いものですが。貴女は何をその石に願うんです?」
「・・・知る必要はないわ、その発言はちょっとだけ私に踏み込もうとしているから気をつけなさい」

 そういうとやや気怠く溜息をつくプレシア。
 何か重い物を背中に背負って人生を歩いてきたような表情だ。
 この女は女で深い事情でもあるのだろうか?
 願いを叶えるというその胡散臭い石にまで頼って何をしようというのだろう?
 多分、ろくでもない願いだとは思うが。

「質問はないわね?三人とも探索に向かいなさい」

 そう言い放つと大魔導師は席を立つ。
 そのまま奥へ消えようとしたがふと思い出したかのようにこちらに振り向いた。

「忘れるところだったわ。騎士よ、返すわよ。これがないとまともに活動出来ないでしょう」

 そういってプレシアの手元に長い長剣――バイ・ロードが転送されて姿を現した。
 わざわざ歩み寄ってリックの愛剣を返す。
 その行為に少々驚いた。
 まさか投げて渡すではなく丁寧に自分自身の手で譲り渡したのだ。
 自分の相棒の一つである剣を礼儀よく返された事に嬉しさを覚える。

「丁重に扱っていただきありがとうございます。しかしいいのですか?これを手にしたからにはまたあなたに刃向かうかもしれませんよ?」
「二度も遅れを取るほど私は間抜けではないわよ。それにあの子の手前、それはやりづらいんじゃないかしら?」

 そういってフェイトに視線を移して薄笑いを浮かべる。
 プレシアと目が合ったフェイトは少し身体を竦めて目を逸らす。
 ・・・確かにこの子の前で母親に向かって暴れるものなら再び私の前にフェイト殿は立ちはだかり闘いを挑んでくるだろう。
 流石にそれは勘弁したい。

「ま、それはともかくあなたにはお礼を言うわよ。あなたが持ち込んだその剣で色々データが取れたから今後の研究に役立つかもしれない」
「研究ですか、熱心なのはいいことですがお身体は大事にされたほうがいい。昨日の戦闘で貴女は咳き込み吐血していた」
「自分の身体をどう扱おうと私の勝手よ。忠告は聞いておくけど」
「・・・身体の調子が悪いときはこの薬で症状を緩和されるとよい」

 そういってリックはレッドジャケットの胸のポケットに手を突っ込み薬瓶を取り出す。
 その瓶をプレシアの手元に渡す。

「何よこれ?」
「世色癌という薬です、かなり苦いですが傷や体力等の回復に役立ちます。是非活用してください」
「本当に効くのかしらねぇ?」
「少なくとも私がこちらの薬と私の世界の薬の効き具合を比べたら私の世界の方が大分効きましたよ」
「中途半端に薬学が発展してるわねあなたの世界は、それにしても薬を送ってくれるなんてどういう風の吹き回しやら」
「目の前の人間が身体を悪くしている事実があまり気に入らないだけですよ。悪人とはいえ」
「そう」

 プレシアは世色癌の入った薬瓶をカラカラと音を立てて眺める。
 これも研究対象にいれようかしら、と呟く。
 これでフェイト殿の懸念する母親の身体の具合についてはいくらか解消されるだろう。

 さて、後は自分にとって重要な問題を聞いておこう。

「話は変わりますがプレシア殿ちょっと聞きたい事が、貴女は私が元の世界に戻れる方法があるか知りませんか?」
「知らないわよ」
「・・・」

 バッサリ斬り捨てられた。この人らしいが。
 嘘をついてるようにも見えないしこれで八方塞になってしまった。
 私はこのままこの世界に留まるしかないのか・・・?

「ただ、ジュエルシードを集めて来てくれたらなんとかなるかもしれないわねぇ」
「ジュエルシード・・・」

 願いを叶えるという胡散臭い石。
 それを集めればなんとかなるというのか?
 ・・・藁にも縋る思いだ、本気で取り組むしかないか。

「疲れたわ、昨日は不眠不休で研究をしていたし。寝させてもらうわ」

 探索頑張ってきなさいと声をかけてプレシアは奥に消えていった。
 それを確認するとアルフとフェイトはリックの元に駆け寄ってきた。

「なぁーリック、お前ってあの女の好みに入ってるんじゃないか?あんだけ会話してたのに不機嫌な顔しなかったのって初めて見たぞ」
「随分気に入られていましたね。それでその、私の願いを聞き届けてくれてありがとうございます。母さんを気遣ってくれて」

 ぺこりと頭を下げて感謝の意を表すフェイト。アルフはこんなに話がスムーズに通るなんてなんか納得いかないと頭を捻っていた。
 リック自身も予想外に好感触な感じがしたので驚きだった。
 まさか死闘の末に友情が芽生えたとか・・・うん、絶対にあり得ないな。

「フェイトー、何か意見したい時はリックを前面に出していかないか?色んな陳情通るかもしんないぞ」
「リックさんを悪用しないアルフ」

 へーいとおざなりな返事をするアルフ。
 半分本気だったらしい、陰で楽すること出来たかもしれないのにと漏らしていた。

「それではいきましょうリックさん、アルフも不貞腐れてないでこっちに来て」
「御意」
「不貞腐れてないってばー」

 二人はフェイトの近くに寄った。
 フェイトは何かブツブツと呪文らしきものを唱えると金色の魔法陣が地面に現れる。
 魔法陣の光は強まり、回転しながらフェイト達を包んでいく。

「開けいざないの扉。願いを叶える石、ジュエルシードが眠る地のもとへ」

 光が爆散した。
 三人は光の柱に包まれてしばらくすると三人の姿は消えていなくなっていた。











「妙(たえ)なる響き、光となれ! 赦されざる者を封印の輪に! 」

 鬱蒼と茂る森の中にて。
 片手から血を流している少年が謎の生物と対峙していた。
 赤い球を手にして魔法陣を前面に展開して生物を迎撃する。

「ジュエルシード、封印!」

 魔法陣に向かって謎の生物が突撃する。
 生物は魔法陣に跳ね飛ばされ周囲に体液を撒き散らしていく。
 勝てないと悟ったか生物は血のようなものを地面に残して逃げていった。

「逃がし、ちゃった・・・追いかけ、なくちゃ・・・」

 少年の方は今までの疲労と怪我が蓄積していたのかそのまま倒れこんだ。
 逃がしてはいけないと分かっているが限界だ。
 身体が全く動かなかった。

「誰か・・・僕の声を聞いて、力を貸して・・・魔法の・・・力を」

 その言葉を残して少年は気を失った。
 誰にも聞こえないはずの言葉は後にある少女に伝わり、やがて・・・














「なんと・・・すごい光景です。見たことが無い乗り物が沢山あって種類も豊富、人も沢山集まっていますね」
「なんだリック、こういう場所は初めてかい?」
「恐れながら。それに今の私の世界と比べると非常に活発でとても羨ましい」

 交差点信号前にて。
 三人はジュエルシードが眠っている地域である海鳴市にやってきていた。
 リックはこの世界の文化に圧倒されていた。
 なんとも凄まじい文化だと思う。
 聞けばフェイト殿の出身地域もこれより遥かに上回る文明をもっているらしいから
 恐ろしい話だ。
 果たしてここで上手くやっていけるかどうか心配になってきた。

「そうかそうか、ならこの世界の観光でもしてみる?アタシとフェイトがエスコートしてやるよ」
「それって立場が逆なのでは・・・?」
「二人とも、まずは本拠地となる場所に向かおう。アルフ、私達には任務がある事を忘れちゃ駄目だよ」
「はーい」
「分かりました」

 青信号になると同時に人の群れが動き出す。 
 三人は人混みにぶつからないように気をつけながら本拠地に向かって歩き出す。

 しかしここは様々な人種がいるなぁ。
 白の肌を持つ者に黒の肌を持つ人種。
 髪型も様々で服装も奇抜なものが多い。
 おかげで私みたいなものが紛れても怪しまれないですむので助かるが。

 カバン持ってくればよかったなぁ。
 脇に赤将の兜を抱えているし、バイ・ロードは刀身を発動させて長さを調節して刃が出てない状態にしてから
 首飾りみたいに吊るしている。
 剣の柄を飾りとして通すというのは無理があるが仕方ない、通常の状態では目立ちすぎる。
 その点、フェイト殿のバルディッシュは小型化できて便利だと思う。
(ちなみにアルフ殿は器用なことに耳と尻尾を隠している)

 いかん、やっぱり不審者か私は?

「リック遅れているぞ、離れすぎて迷子になるなよ?」
「あの、私が手を握って誘導しましょうか?」
「申し出はありがたいのですが・・・恥ずかしいです」
「遠慮することはありませんよ、はい」

 そういってフェイトは手をリックに向かって差し出す。
 ・・・せっかくの好意を無駄にするわけにもいかないので手を繋いで引いてもらうことにした。
 こういうときに身体が大きいと人にぶつかりやすくて不便だな。
 大人が子供に手を引いてもらう姿を周りが笑っている気がするのは気のせいだと思いたい。
 頼りない父親がしっかりものの娘に手引きされてる感じだ。悪い気はしないが。

「ははは、しっかりしろよ年長者」
「そう言われましてもこう人の行き来が多いと」

 ふとフェイトの方を見る。
 困っている自分の顔が珍しいらしくクスクス笑っていた。

「もう少しですから頑張って下さいねリックさん」

 そういって手を離さないように強く握る。
 なんというか、こんなにほのぼのしていいのか迷ってしまうな。
 自分の世界の状況を考えると。




「さて、着いたぞ。ここが私達の本拠地となるマンションだ!驚け、でかいだろう!!金持ちが住むところだぜ!!」
「確かにでかいですね」

 目的地に辿り着いた三人。
 本拠地となる場所はとても高く広くよほどの高給取りでなければ住めないような場所だった。
 何故か建物全体が金色に発光しているがアルフ曰く身を隠す為の術と説明された。

 身を隠す・・・誰かに狙われる危険があるというのか?
 確かに願いを叶える石という情報は私達以外にも入っている可能性はあるが。
 この二人を超えるような実力者がいて私達と同じく石を狙っているかもしれない。
 プレシア殿の例もあるし世界というのは全くもって広いな。次元世界の規模となるとなおさらだ。

「それでどこの部屋を借りたんでしょうか?二人の荷物運びますよ」
「借りてませんよリックさん」
「え?それじゃあどこに住むんです?」
「一番高いところの部屋に住むぞー!眺めもいいしお日様の当りや夜景もなかなかのもんだと思うぜ!!」
「借りてないのにどうやって?」
「それはですねリックさん、事前にマンションの管理人さんを魔法で操って洗脳をですね・・・そうしたから大丈夫」
「犯罪じゃないですか!?何気に黒いことやってますねフェイト殿!?」
「え?そうなのアルフ?」
「大丈夫!ばれなきゃ犯罪じゃない!よってフェイトはセーフ!!真っ白な子だよ!!」
「良かった・・・」
「・・・良かったんですか?」

 納得いかない。
 誰だこの純真な子に真っ黒な手段を身につけさせたのは・・・
 母親か?母親なのか?それとも悪乗りしたアルフ殿か?
 どちらにしてもこの子には真っ当な道を歩んでもらわないと困る。
 人格形成が未熟な時期なのだから誰かがちゃんと指導しないと。

「といっても私では偏った性格の子に育ってしまうだろうしなぁ・・・」
「リックー何悩んでるの?」
「将来有望な子供の未来についてですよ」
「フェイトの事ならアタシがいるかぎり大丈夫だよ!任せておきなって!!」
「それもまた不安なんですけどね」
「むっ失敬な」
「二人ともそろそろマンションに入ろう」
「ほーい」
「御意」












「怪我はそんなに深くないけど随分衰弱しているみたいね。きっとずっと一人ぼっちだんじゃないかな?」

 とある動物病院の一室にて。
 ある少女達は怪我をした野生動物を持ち込み治療を頼んでいた。
 院長である槙原愛はそれを快諾して無料で治療してくれていた。

「院長先生ありがとうございます!」
「「ありがとうございます!!」」

 三人の少女は治療してくれた大らかな先生に感謝していた。
 その言葉にどういたしましてと返事を返してくれる。

「先生、これってフェレットですよね?どこかのペットなんでしょうか?」
「フェレット・・・なのかな?変わった種類だけどその首輪についているのは宝石?なのかな」

 院長がフェレットらしきものに触れようとするとフェレットは起き上がった。
 あちこちを見回しここがどこであるかを確認するような仕草を取る。

 フェレットがある少女を目にして止まった。

「なのは、見られている」
「え?あ、うん、えっと、えっと・・・」

 なのはと呼ばれた少女はためらいがちにそっと指をフェレットに近づけた。
 すると指を舐めてきてその行為になのはは感動する。

 だがしばらくするとまたぐったり倒れてしまう。

「しばらく安静にしていたほうがよさそうだからとりあえず明日まで預かっておこうか?」
「はい!お願いします!!」

 なのはと少女二人はアイコンタクトをして申し合わせたように言った。

「よかったらまた明日様子見にきてくれるかな?」
「「「はい、分かりました!」」」

 それと同時に少女達は塾の時間を思い出す。
 いそいで間に合わせようとする少女達のうち院長先生はなのはに向かって声をかける。

「なのはちゃん、この間は美味しいシュークリームありがとうね。寮の人たちも喜んでいたわ。桃子さんには後でお礼するわ」
「あはは~それはよかったです」
「それと恭也君に伝えて欲しいことが。最近那美ちゃんが恭也くんと会わないから寂しがっているみたい。できたら会ってほしいと伝えてね」
「はーい、それでは院長先生また明日来ます」」

 そうして少女達は病院を後にした。
 後にこの病院に暗雲が渦巻く事になるが誰が予想出来たであろうか?
 恐らくは持ち込まれたあのフェレットもどきか。
 少女、なのはの物語はここから始まることになる。












「ほうほう、流石高級マンション。ある程度のものは揃っているな」
「調度品がなかなか豪華ですね。よっぽどの重鎮でなければ住めませんよここ」
「ベッドがフカフカ、気持ちいいね」

 一番高い部屋に入室して三人がそれぞれの感想を漏らしていた。
 アルフ殿の言うとおり外の眺めは最高、他の備品も文句無しであった。
 
「さて、次はどうしましょうかフェイト殿?」
「そりゃこっちに来た目的から決まってるだろう?」
「そうだね、このままジュエルシードの探索の開始を・・・」

 と言いかけた時だった。
 小さくて可愛らしい空腹音と豪快な空腹音が部屋に響いた。
 フェイトは顔を真っ赤にして、アルフはあっはっはと笑いを上げていた。

「前言撤回、お腹減ったから買出しに行こう」
「いやー確かに空腹には叶わないもんね、そうと決まったら飯の材料や必要な調理器具、その他の買い物しよう!」
「気がつけば夕方になって夜に切り替わる時間帯ですね」

 まあ、初日ぐらいはいいだろうということで。三人は出かける準備をしていく。

 いきなり探索しても目星がついてないから見つけようがないだろうとリックは納得して装備を整える。

「おーいリック」
「何でしょうアルフ殿」
「どうしてその兜を持ち歩くのさ?途中で怪しまれるぞ」
「いや、これがないといざという時不安ですから。何かと遭遇した時の為に準備は必要です」
「ただの買い物だよ?そこらへんのチンピラが絡んできたってアンタなら楽勝だろ?」
「あーその、色々言い辛い理由がありまして・・・」

 実際言い辛い。
 この赤将の兜がないと気弱になってしまうなんて。
 アルフ殿が知ったらからかいの材料に使うに違いない、間違いなく。
 それに暗い街でお化けなんか出てきたらまともに闘い辛い。
 この傾向は以前よりマシになったがやはり兜がないと不安だ。

「まぁよく分かんないけど没収だね。そらよっと!」
「ああ!返して下さいよ!!」
「家に帰ったらちゃんと返すって。バイ・ロードぐらいなら持ってもいいからそれで我慢しなよ」
「はぁ、分かりました」

 うぅ、大丈夫かなぁ、怖いなぁ。
 これでもし他の敵対する人物と出会ったらどうしよう。
 その時は全力で逃げたいけど・・・一応騎士だから背を向けるわけにもいかないし。

「うっわ!兜取り上げただけでそんなに落ち込むなよ!?負のオーラが漂いまくってるぞ!!」
「え、そうですか?」
「そうなんだって。リック、そのままだとお前あの女と対等に渡り合ったっていう評価が落ちまくるぞ」
「うーん、そう言われましても」
「あの、リックさん。気休めですがこれを」

 そういってフェイトが懐からアクセサリーを取り出す。
 金色の三日月をあしらったペンダントで綺麗だった。
 それがリックの手に渡された。

「これをつければ魔力の無いリックさんでも念話をすることができますから少し安心できると思います」
「はて?念話とは一体なんでしょうか?」
(こういうのを念話といいます)
「うわ!?頭にフェイト殿の声が響いた!!」
(アタシも念話が出来るぞ~)
(アルフ殿もか・・・って本当だ。私も念話というものを出来ている)
(ちなみに微弱ながらジュエルシードの探索や魔力で張られた結界を感知、侵入することが出来る優れものです。
 大事にしてくださいね)
(分かりました)
(あんまり距離が離れすぎると魔力の無いお前じゃ念話出来なくなるからそこんところ気をつけてな)

 フェイトからいただいた三日月のペンダントを身に着ける。
 なんだかんだでフェイト殿にはお世話になりっぱなしだ。
 後でお礼を考えないといけないな。

「よーしそういうわけで出発!フェイト、リック、今日の晩飯はカレーライスだ!!」
「なぜカレーライスなんですか?」
「気分だよ気分!」






 そして約一時間半経過・・・

「晩飯よーし。調理器具よーし。明日のご飯の食材もよーし。一応使うかもしんないので化粧品よーし」
「服が安売りして色んなのが買えたね。私やアルフ、リックさんの予備の服はばっちり」
「髪の手入れ用品や毛並みのブラッシング、お風呂の用品も仕入れた。ふっ、完璧だ、完璧すぎる。だというのに・・・」

 アルフはこめかみをピクピクさせながら念話で叫ぶ。

(何初っ端から迷子になっているんだリックー!!)
(うわ!アルフ殿!?すみませんすみません!!)

 迷子になったリックの様子をみるに本気で平謝りをしているようだ。
 いい大人が迷子になるのってどーよ?と思ったが実際になる人もいるしましてや
 リックは初めてこの地方を訪れたのだ。迷子になっても仕方ないかなーと思う。

(それでリックさん、今どの辺りにいますか?)
(えーと、人の波に流される内にどんどん人気の無い場所へ。住宅街にいるのかな?)
(変なところに流されたな。まあそこなら特に問題になるのもないし標識見ながら帰れるんじゃないか)
(帰れるかなぁ・・・)
(帰って来い、私達は先に家に戻っているけどもし駄目なようなら念話で助けを求めて来な。迎えに行ってやる)
(出来れば今がいいんですが)
(今の私達にはビーフカレーを作るという崇高な使命がある。暖かい飯作ってやるから何とかしろー)
(崇高な使命って・・・カレーに?)
(深く気にすんな)
(リックさん、ファイトですよ!)

 なんだかよく分からないがフェイト殿にガッツポーズをされたような気がした。想像できないが。
 しかしカレーか・・・元の世界での激薄味のカレーを作ってたあの人を思い出すな。
 あの味のカレーを好む奇特な兵士もいたが私は正直簡便したい。

 って感傷に浸っている場合ではない。
 早く家に帰らないと。





 さらに一時間経過・・・

「・・・何故さらに迷っているんだ私は?」

 ますます分からない場所に迷い込んでしまったリック。
 おかしいな、ちゃんと標識を見て駅前に出るはすだったのだが・・・。
 古い方の道を歩いている訳でもなし、こんなに方向音痴だったかなボクは。

 まいったな、念話も通じなくなっている。このままじゃ路上で一晩明かす事になるかもしれない。

「・・・あれ?」

 ふと胸の間をみると光が漏れていた。
 調べてみるとフェイト殿がくれたペンダントが輝いていた。

「まさかな・・・いきなりビンゴというわけではないだろうし」

 そう思いつつもリックは歩みを止めずペンダントの光が強くなる方向へ歩いていく。
 さて、鬼が出るか蛇がでるか・・・。










「はぁはぁはぁ・・・!」

 少女、なのはは走っていた。
 街灯が照らす薄暗い路上の上を必死に。

 自分を呼んだあの声は何だろう?
 誰にも聞こえない自分だけが聞こえる声。
 幻聴とも思ったが学校の帰り道にも同じ声が聞こえたので気のせいとは言い辛い。
 幻聴だったら自分は病院にかからなければなさそうだけど・・・。

 そうして辿り着いたのは夕方訪れた槙原動物病院。
 病院の敷地内に一歩入ろうとすると突然強い波動が襲ってきた。

「っ・・・!またこの音!!」

 周囲の空気が変わる。
 木の枝が擦れ合って激しく音を立てて風が出てくる。
 波動はまだ発されておりなのははたまらず頭を押さえる。
 何かが響いて頭の中で反響する。
 冷や汗を流しつつも何とかそれをこらえる。

「・・・あっ」

 発されていた波動が消えた。
 ・・・消えたが代わりに不気味な叫び声が聞こえてくる。
 それと同時に建物が破壊される音が聞こえた

 思わず病院の敷地に侵入する。
 再び破壊音。

「あれは!?」

 なのはが見たもの。
 それは夕方助けた野生動物、フェレットが正体不明の者に襲われている姿だった。
 空に巻き上げられたフェレットはなのはの姿を見つけるとそこへ飛び込んでいく。
 それをなのはは上手くキャッチ、勢い余って倒れこむ。

「なになに!?一体何!?」

 目の前で蠢いている生物を凝視する。
 明らかに見たことが無い生物だ。
 いや、そもそもあれは生物なのだろうか?
 身体の形とか色々変わっていてこの世の生物とは思えない。

「来て・・・くれたの?」

 突然声が聞こえた。
 ものすごい近く?と見回すと目の前にいるのはフェレット。
 ということは・・・・

「喋った!?」

 だが、それに驚いてる場合ではない。
 あの怪物が目標をこちらに見据えたようだ。
 急いでなのはは病院内から脱出して逃げ出す。

「う、その、何が何だかよく分かんないけど一体なんなの!?何が起きているの!?」
「君には資質がある。お願い、少しだけボクに力を貸して!」
「資質?」
「ボクはある探し物のためにここではない世界から来ました。ボク一人の力では思いを遂げられないかもしれない。
 だから、迷惑とは分かっているんですが資質を持った人に協力してほしくて。
 お礼はします。必ずします!ボクの持っている力をあなたに使ってほしいんです、ボクの力を、魔法の力を!!」
「魔法・・・?」

 少女は困惑する。
 あまりにも突然すぎる事態の上にフェレットは喋って別世界からやってきたと言うし。
 しかも何の因果か訳の分からない生物に追い回されて人生最大のピンチ。
 そこに魔法を使ってくれと来た。
 こんな分からないことを一気に叩き込まれたので脳味噌に散弾銃をぶち込まれた気分だ。
 なんでこんな事に・・・
 なのはは自分の不運を嘆かざるを得なかった。

 そんなところに突然空中に黒い雲のようなものが渦巻きそれがあの生物となって襲い掛かってきた。

「あ!?」
「しまった!?」

 とっさに逃げ出そうとしたがつまづいて路上に突っ伏す。
 これではあの生物の攻撃を回避のしようがない。
 それ以前に少女の足であの素早い動きをする魔物から逃げるというのが無理があった。

「ああ・・・」

 少女は目の前に迫ってくる魔物の動きがスローモーションとなって近づいてくるのを感知した。

 私、死ぬのかな?こんな訳の分かんない所で。
 もっとやりたいことがあったはずなのに・・・。
 お父さん、お母さん、ごめんなさい。なのはは親不孝者です。
 お兄ちゃんやお姉ちゃんもごめんなさい。我侭ばっかりいって困らせて。
 アリサちゃんやすずかちゃん・・・私が死んだら泣くかな?

 なのははゆっくりと目を閉じようとしたその時だった。




「弐武豪翔破!!」

 一つの衝撃波が走った。
 その衝撃波はなのはを押し潰そうとした生物に命中して吹っ飛ばした。
 いきなり目の前のものが吹っ飛ばされてどう反応していいものか困っていた。
 死を覚悟してそれを受け入れようとしたらいきなり助かった。
 今日は一体どういう日なんだろう?

「誰だ・・・あの人は?」
「え?」

 フェレットが魔物が吹っ飛ばされた逆方向を凝視する。
 なのはも釣られて見る。
 すると路上に赤のジャケットに赤く光輝く刀身の長剣・・・赤が目立つそれらを持った男が立っていた。

「民を脅かす邪悪な魔物よ!貴様の相手はこっちだ!!」

 一喝、それを切り口に男は謎の生物に斬りかかっていった。














 後書き

 キャラの性格がかなり改変というか変なことになっちゃってる。
 特にフェイト、原作と比べて明るくなってる。元は暗い感じなのに。
 とらいあんぐるハート3もちょっと絡めてみたいなと思って槙原さんにそれっぽい事言わせてみたけど
 槙原さん、高町家とはちょっと縁が薄いから違和感あるな~。
 ・・・実はとらハ2・3しかやったことがないのであった。(しかも2は半分しか攻略してない)
 こんな書き手ですみません。
 ちなみにリックさんは兜を脱いでる為、弱体化中。しばらく酷い目にあいます。

 うーん、それにしてもアリスソフト的なノリが面白く書けない。
 もっと推敲しないと駄目か。







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