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No.28755の一覧
[0] 【習作】迷子の赤い死神 リリカルなのは×鬼畜王ランス[丸いもの](2011/07/09 17:46)
[1] 導入部分のようなもの[丸いもの](2011/07/09 19:12)
[2] 海鳴市に旅立つ そして遭遇[丸いもの](2011/07/16 01:36)
[3] ジュエルシードを取り込んだ怪物[丸いもの](2011/07/25 18:59)
[4] VS魔人四天王、そして「ねんがんのジュエルシードをてにいれたぞ!」[丸いもの](2011/08/30 12:18)
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[28755] ジュエルシードを取り込んだ怪物
Name: 丸いもの◆0802019c ID:c975b3ab 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/25 18:59
「グォォォォォ!!」

 怪物は咆哮を上げて怒っていた。
 どうやら獲物を捕らえて捕食しようとしたのを邪魔されて御立腹のようだ。

 リックはバイ・ロードを正眼に構えつつも冷や汗をながしていた。
 気のせいか手元が時折震えている。
 目の前にいる怪物を目を逸らさないで見ているが目が恐怖の色を帯びていた。
 大量に分泌される唾を何度も飲み込んでいる。
 この状況にリックは不運を嘆かずにはいられなかった。

 まいった、石を探り当てられるかと思ったら魔物を探り当ててしまった。
 だがそれのおかげで目の前の少女が死ぬのを回避することが出来たが・・・次はどうすればいい?
 恐怖を振り払うためにさっき虚勢を張り上げたもののその効果は薄かった。
 やはりアルフ殿に反対されようと赤将の兜を持って来るべきだった。
 そうすればこんな思いをしなくてすんだのに。

「こ、怖い・・・」
「立って!今は逃げるんだ!!」
「でも足が竦んで」

 目の前の少女が地面を這いずるように逃げようとしていた。
 立ちあがろうと何度も実行するが上手くいかない。
 完全に魔物の存在感に飲まれていた。
 それを見てリックは決断する。
 今、一番恐怖に包み込まれているのはあの少女だ。
 少女が体験している恐怖に比べれば私の恐怖など些細なものだ。
 この程度の威圧に飲み込まれて何が騎士だ。
 こんなのに負けているようでは共に戦ってきた戦友達に顔向けが出来ない・・・!!

「はぁぁぁぁ!!」

 雄叫び。
 それが辺り一帯に広がると共に目立つ赤色の剣が壊れて荒れ果てた路上の上に薄い赤の光を残して魔物の懐に飛び込んでいった。
 一閃、怪物は切り裂かれ体液を撒き散らし斬られた体組織は切断されてバラバラになって飛ぶ。
 だが。

「なに!?」

 不気味なことにバラバラになった体組織は魔物の身体から伸びる触手のようなもに掻き集められて怪物の元に集まり体液も吸収されて元通りになっていく。
 攻撃して無効化されたこっちを嘲笑うかのように怪物は口元を歪めていた。
 これにリックは舌打ちした。

 再生能力持ちか。
 しかも回復速度が異常に速い。
 一気に攻撃を叩き込まなければ打ち倒すことは不可能だ。

 反撃として怪物は飛び上がり遥か頭上から長い触手を多数伸ばしてくる。

「くっ」

 硬化している触手が地面を貫き電柱を薙ぎ倒す。
 リックは兜無しでの慣れない戦闘、回避運動に苦戦しながらもなんとかこなしていく。
 無事切り抜けたが攻撃をかすめていたのか身に着けているジャケットに切込みが入っていった。

「これでは服はズタボロ決定だ・・・アルフ殿に叱られるぞ」

 だが、そんなことを考えている場合ではない。
 今の私ではこの程度の魔物にも苦戦しており、下手をすれば命を落とすかもしれない。
 気を引き締めてかからねば。

 震えていた両手はいつのまにか治まっていた。
 恐怖が宿っていた赤の瞳に闘志が宿り剣士は邪悪を打ち払うべく立ち向かっていった。







「す、すごーい・・・」
「何者なんだ・・・魔法も使わずにあの怪物と渡り合えるなんて」

 少女達は遠巻きに男の奮戦を眺めて驚嘆の声を上げていた。
 男の動きは速い。とにかく速いのだ。
 触手に貫かれて、やられた!と思ったらいつのまにか魔物の側面に回りこんで斬り倒す。
 体当たりを仕掛けようとした魔物をカウンターで空に打ち上げ無防備になった所へ瞬時に飛び上がり叩き落とす。
 漫画みたいな光景だった。
 持っている剣もそこら辺にあるようなものじゃない、某ロボットのビームサーベルみたいでかっこいい。
 お兄ちゃんやお姉ちゃん、そしてお父さんを上回る剣士はいないと心密かに思っていたがその考えが目の前の男を
 見ていると覆されてしまいそうであった。
 それに見た目も若い、お兄ちゃん?いや、お姉ちゃんぐらいかな。
 どうやったらあの若さであんな無茶苦茶な強さを手に入れたのだろう。

「ねぇ、このままだったらあの人が悪い怪物をやっつけてくれるんじゃないかな?」
「・・・いや、その考えは甘いようだ。見て」

 フェレットが冷静に状況分析をする。
 なのはは言われてみて男の姿を見るが特になにも変わってないように見える。
 互角の勝負だ。
 このままいけば勝利を手にするんじゃないだろうか。

「よく分からない。見たところ対等の勝負をしていている感じだけど・・・駄目なの?」
「対等じゃ駄目なんだ。このままじゃ遅かれ早かれあの人の体力は消耗して不利になって負けてしまう。
 それに引き換え怪物の体力は石の力によってほぼ無尽蔵に近い」
「そ、それじゃあ・・・」

 そういってる矢先だった。
 リックがほんの一瞬足元をふらつかせて無防備になった。
 精神力の消耗のしすぎのせいだった。
 兜をかけてないのに無理矢理恐怖を押さえつけて戦ってきたのだから限界が近づいてきていたのだ。
 その隙を怪物は見逃さなかった。
 怪物は無数の触手を伸ばしてリックに迫る。
 リックはとっさに地面を転がるが触手の一本が左腕を貫いた。

「ぐぅ・・・!!」

 痛みを噛み殺す声がなのは達にもちょっとだけ聞こえた。
思わずなのはは目を塞いだ。
 残った右腕で左腕を貫いた触手を魔物から斬り離し、刺さっている触手を引っこ抜いて道端に捨てる。
 捨てられた触手は切り離されてもなおビチビチと跳ねて気色悪い。
 だらりと動かなくなった左腕から血が流れ路上を汚していく。
 リックは左腕を押さえてうずくまり、ピンピンしている目の前の怪物を見ながら毒づく。

「くそ、決定打が生まれない!!」

 なにせいくら斬りつけても斬りつけてもすぐに再生する。
 このままじゃあの魔物の餌食になってしまう。
 どうすればいい?どうすれば奴を一気に片をつけることができるんだ?
 
 そう考えているうちにも魔物は猛攻を続ける。
 加速をつけて体当たりをしてきた。

「くおおおお!!」

 片手しか扱えなくなった状態で体当たりを受け止める。
 本来なら回避を取るべきだったのだがそう考える思考の余裕がなくなってきている。
 このままでは魔物に潰される。
 焦りが生まれてより一層余裕が消えていく。

 その男の姿をなのはは黙って見ていられなかった。
 なんとかしたい。
 なんとかして助けてあげたい。
 私の命を救ってくれたんだ、今度はこっちの番。
 でも一体どうすれば・・・。

「・・・ボクの力を、魔法の力を使って」
「え?」
「このままじゃあの人は嬲り殺しだ。救うのなら魔法の力を使うしかない」
「で、でもどうやって?」

 いくらなんでもおとぎ話に出てくるものを普通の人間に扱えるはずが無い。
 でも、喋るフェレットが私には資質があるって言ったから使えるかもしれないし・・・
 えーと、私いつのまに普通の人間っていう括りじゃなくなったのかな?

「これを」

 そういってフェレットは自分の首に吊るしてあった赤い宝石をなのはに差し出した。
 澄んでとてもきれいに輝いている宝石をなのはは手に握り締める。
 とてもあたたかい。
 まるで宝石が脈づいて活動しているかのようだ。
 

「それを手に目を閉じて心を澄ませて、ボクの言うとおりに繰り返して」
「う、うん」

 もう手段は選んでいられる状況じゃない。
 あの人を助けられるのならなんだってする。
 それが魔法なんてありえない手段でも実現できるならやってみる!

「いい、いくよ?」

 フェレットは言葉を続ける。
 宝石に眠る力を発動させるためのキーワードを。

「我、使命を受けし者なり」
「・・・我、使命を受けし者なり」

 宝石が発光する。
 言葉に反応したのかより一層あたたかくなっていく。

「契約の元、その力を解き放て」
「えと、契約の元、その力を解き放て」

 宝石が脈動した、はっきりと。
 それは少女にも伝わり自分の心臓の高鳴りのようだと錯覚してしまう。

「風は空に、星は天に」
「風は空に、星は天に」

 意識がなんだか宝石の中に取り込まれたような感じがした。
 でもとてもあたたかくて悪い感じがしない。
 まるでお母さんに抱かれているみたいだ。

「そして、不屈の心は」
「そして、不屈の心は!」
「「この胸に!!」」

 少女の心の中で光が爆散する。
 今まで命令を待っていた宝石がやっときたと言わんばかりに声を上げていた。

「「この手に魔法を!レイジングハート、セットアップ!!」
『Stand by ready.set up』

 機械的な返事が返ってくると同時に少女は光の柱に包まれていた。









「なんだ!?この光は!?」

 リックはよろよろと立ち上がりながら光の出現方向を見る。
 怪物もこの光に驚いているのか分からないが怯んでいる。
 その光を出している中心にはリックが守ろうとした少女が立ってこちらを見ている。

「少女よ何をしている!?何故こいつを引きつけているうちにここから逃げなかった!!」
「ごめんなさい!でもあなたに助けられたから今度は私が助けなきゃいけないと思って!」
「正気か!?この魔物は手強い!今からでも間に合う、早く逃げるんだ!!」
「嫌だ!あなたを絶対助ける!!」

 少女ははっきりと、強い意志をもってリックの言葉を否定した。
 くそ、想定外の事態だ。
 よりにもよって状況を読むことが出来ない頑固者の少女とは。

 やはり念話が通じない。
 こんなときフェイト殿とアルフ殿がいれば心強いというのに。
 なんとかして少女だけでも・・・いや私も一緒にここから生還しなければ。
 こんな見知らぬ土地で死んでたまるか。
 私はあの魔人に復讐しなければいけないんだ!!

「まだ…戦える………まだ!!」

 血塗れの左腕をジャケットの袖を長く切り取って傷口に縛り付ける。
 意識はまだ朦朧としてないのが救いだがいつ倒れるか分からない。
 なんとしてでもこいつを倒さなければ。







「落ち着いてイメージして!君の魔法を制御する、魔法の杖の姿を!そして、君を守る強い衣服の姿を!!」

 そんな、急に言われても・・・ってそんな場合じゃない!
 今は一刻も争うんだ。
 こんなことを考えている間だけでもあの人は怪物の凶刃に倒れてしまうかもしれない。
 イメージ、イメージ・・・。

 そう考えていると白い服とステッキが脳裏に浮かんだ。

「と、とりあえずこれで!」

 そう言ってイメージが決まった途端、拡散していた光が少女の身体に収束して包んでいった。
 光が少女の平服を変化させ、胸元の赤いリボンが特徴の白い衣装に身を包んでいく。靴も同様に。
 手には同じく白い色のステッキが握られていた。
 それを回転させて杖を怪物に向けて決めポーズを取っていた。

「・・・成功だ!!」

 フェレットは完璧と言わんばかりに声を上げていた。
 当のなのはは少々困惑していたがそうしてる場合ではない。
 早く助けないと。
 そう思うと同時に地を蹴っていた。

「あ!?ちょっと、まだ魔法の使い方も教えてないのに行っちゃ駄目だ!!」

 あわててフェレットも追うが時すでに遅し。 
 なのはは剣士と怪物の殺界に飛び込んでいた。

「今助けます!待ってて下さい!!」
「馬鹿な!?どうして飛び込んできたんだ!!」

 リックはなのはを追い出そうしたがその隙を狙われて怪物の体当たりをモロに受けた。
 あまりの衝撃に身体全体が痺れて視界が揺らめく感覚に襲われた。
 これでは受身の取り様が無かった。
 吹っ飛ばされた先にはあの少女がいる。
 このままでは私の体重の相乗効果もあって押し潰してしまう。

「きゃっ!?」

 思わずなのはは手にしたあの魔法の白い杖を盾にしてぶつかる衝撃に備えた。
 すると――

『protection...』

「ぬああああああ!?」
「きゃあああああ!?」

 女性のような機械音声と共に少女の前面に桜色の結界が展開された。
 その結果、さらにリックは吹っ飛ばされて近くの塀に身体をめり込ませる事になってしまった。
少女は予想外の事態にパニックに陥っていた。
 いきなり魔法が勝手に発動して助けようとした人物を逆に弾いて攻撃を加えたようなものだから仕方ないかもしれない。
 ・・・何故こうなる?いや、少女が助かったのだからいいんだが。

「すごい・・・自己防衛で防御魔法が勝手に働いた。あなたとレイジングハートの相性は思った以上に良いのかも知れない」
「そんなこと言っている場合じゃないよ!あの、大丈夫ですか!?」
「はい、なんとか・・・手荒いですが気付けにはちょうどいい」

 がらがらと塀の瓦礫を身体から落としながらリックは溜息をついた。
 その様子になのはは動転して何度もごめんなさいと謝っていた。。
 全く、あの指揮官鎧がないとダメージの蓄積が早すぎる。
 戦争や冒険のときにいかにあの鎧に助けられてきたかを身に沁みて感じる。
 頑丈で軽量の両方の機能を持ち合わせた鎧。
 かつて大陸最強と謳われたヘルマン帝国の屈強な兵士に対抗するためには優れた金属の鎧を初めとしてヘルマンより
 機能が上回った装備で軍団を充実させなければならなかった。
 それでも苦戦を強いられたがこの優れた装備がなければ勝利するのは難しかっただろう。
 そしてそれはこっちに初めて来たとき、フェイトやプレシアとの闘いでも役立っている。

「また来る!後ろに下がってて下さい!!」
「不安ではありますが・・・さっきの防御結界もある。あなたの言葉に従いましょう」

 そういってリックは少女の後ろに下がる。
 万が一、結界を破られてもいいように少女を抱えて回避する態勢を取りながら。

「っ・・・!」
『protection』
「グォォォォォ!?」

 怪物が突貫、そしてリックが吹っ飛ばされてきたときと同様に吹っ飛ばされた。
 体組織が結界にぶつかった衝撃で周囲に弾丸のように飛び散って物に突き刺さった。
 えげつない。
 結界魔法とはいえ攻撃力も備えているのかこれは?
 私が結界にぶつかった時は加減されていたのだろうか・・・。

 そう考えているとなのはは喜びの声をあげていた。

「見ましたか!?私だってやれます、あなたの助けになれます!!」
「お見事です。ですが問題が」
「ふぇ?」
「あの怪物を一撃で止めを刺す手段が我々に無い、このまま防御に徹しても勝ち目がありません」
「あ・・・」

 そういってしょんぼりするなのは。
 肝心の部分を失念していたのでがっかりしているようだ。
 とはいえあの怪物相手なのだから目先の部分にとらわれても仕方ないのだが。

 しかしあの再生力は驚異的だ、色んな技を試したものの残念ながら無駄に終わった。
 今の私の状態では技の力を100%引き出せず、中途半端な威力だったせいもあるが。
 どうする?
 未だに周囲の住民が騒ぎ出してないのが不思議であるがそれは救いでもある。
 第三者が介入して被害を出さない内に決着をつけないと。

「・・・あの怪物を仕留める手段はあります」
「え、ホント!?」
「その言葉は信用できますか?えーと、なんの妖怪ですかあなたは?」
「よ、妖怪じゃないよ!?ボクはスクライアっていう部族の出身!!ってそんな話は今はどうでもいい、
 とにかくあれを何とかすることが出来ます」

 フェレットが二人を見上げて言う。
 嘘か本当かどうかは分からない。 
 もし、この妖怪の提案が失敗すれば二人と一匹はお陀仏だ。
 どれほどの自信があるかは分からないが今の状態では賭けに近い。
 勝算の低い方法は取りたくないのだが・・・。

「ただこれを成功させるには条件と言うか問題が・・・」
「問題とは?」
「先程まであなたが戦っていたとおりあの魔物はとても素早い、魔法で捉えて封印するには難しいです。
 なんとか足を止めて魔法を打ち込まないと成功しない」
「確かに、あの怪物を捕捉して食い止めるのは難があるな・・・」
「魔法で捉えて封印って・・・何気に私が重要ポジション!?」

 そうこう言っているうちに魔物が立ち直りこちらに視線を向けてきた。
 いかん、もう話し合う時間が無い。
 すぐにでも奴は襲ってくる、結界に弾かれた痛みのせいなのかさらに鼻息を荒くしている。
 
「くっ、もう時間が無い!お願いです、ボクの言葉を信じて下さい!アレを封印する方法はありますから貴方に・・・」
「囮になって足止めをしろということだな」
「は、はい!」
「・・・君の言葉が嘘でないことを祈る」

 バイ・ロードを片手で持ち地面につける。
 仕方が無い、やってやるしかないか。
 失敗したらしたでこの少女達を連れて一目散に逃げよう。
 騎士道に反するが命あっての物種だ。自分の理念に少女達まで付き合わせるべき行動ではない。
 失敗して逃走を図り付近の住民の命を失ってしまうかもしれない外道行為を取ることになるか、
 それとも成功してこの場所に平和をもたらすことになるのか・・・。
 なんにせよ今は全力を尽くす。

 魔物が突撃してくる。
 その速度は今までのものとは比べ物にならない、本気のようだ。
 とっさにリックは路上に落ちていたアスファルトの大きめな破片を蹴り飛ばした。
 それは魔物の片目に命中してわずかに動きを鈍らせた。
 すかさず近寄り斬り上げ、袈裟懸け、横薙ぎと流れるような三段斬り。
 怯んだところに頭部らしき所へ剣を突き刺した。
 加速した体当たりが徐々に速度を落としていく。
 体当たりを食い止める為に踏ん張っている両足から摩擦熱によって靴から煙が出ていた。
 そして少女達の一歩手前、ギリギリで何とか停止した。

 少女達はここから少し離れた。
 恐らくは魔法を撃つための距離を取ろうとしたのだろう。

「ぐっ・・・!後は頼みます!!」

 剣は貫通して地面に突き刺さっていた。
 それから逃れようと暴れる魔物をリックは必死に押さえ込む作業に入る。
 お互いが苦悶の声を上げる。
 魔物が封印されるのが先か、騎士が倒れるのが先か―――







「それでどうするの!?急がないとあの人が死んじゃう!!」
「落ち着いてボクの言葉を聞いて」

 落ち着いてと言っても落ち着けられる状況じゃなかった。
 怪物はあの人が食い止めているがいつ競り負けて殺されるか気が気でならなかった。
 あの剣士は無茶な要求を呑んでそれを見事実現させた。
 今度はこっちの番、絶対に期待に答えてみせる!

「さっきみたいに攻撃や防御魔法等の基本魔法は心に願うだけで発動するけどより大きな魔法を発動するには呪文が必要なんだ」
「呪文?」

 よくある長い詠唱の末に唱えるものかな。
 でもあまりに長すぎると困る。
 出来れば手短に発動できるのがいい・・・。
 そうでないと助けに入ることが出来ない。

「心を澄ませて、心の中にあなたの呪文が浮かぶはずです」

 言われる通りにしてみる。
 心を澄ませるっていうのがよく分からないけど多分純粋に呪文がどういうものかそれを想像すればいいのかな。

 なのはは目を閉じて精神集中して早く呪文を浮かべようとする。
 そこへ。

「しまった!!」

 リックが失敗したというような声を上げていた。
 見ればリックは振り落とされるようになのは達の近くに振り飛ばされていた。
 魔物がなのはの姿を捉える。
 どうやらターゲットを変更したようだ。
 飛んで空から鋭利な触手を伸ばして少女を串刺しにしようと襲い掛かる。

「まずい!!」

 フェレットが絶望の声を上げた。
なのはは目を閉ざしたまま思いふけっていた。

 呪文、呪文、私の呪文・・・
 一体何の呪文?
 敵をやっつける為の?それとも自分の身を守るため?
 ・・・いや、違う。 
 あの人を守るために、そしてその元凶を打ち払う為の呪文を!
 私の思い浮かべる魔法は人を助ける為の魔法!!

『protection』

 少女の目が開く。
 目の前に防御結界が展開され怪物の攻撃を打ち消した。
 これに驚いたか怪物は一時後退を始めた。
 フェレットはほっとする。
 少女は開眼したかのように呪文をすらすらと唱え始めていた。

「リリカル、マジカル―――」
「封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシード!!」

 なのははさらに呪文を唱えようとするが続かない。
 原因は魔物が素早く動き回り狙いが定まらないからだ。
 まずい、このままじゃ詠唱を邪魔されて振出しに戻っちゃう。

「グォォォォ!?」

 そこに突然魔物の悲鳴が聞こえた。
 原因はいつのまにか魔物を攻撃範囲内に捉えるように移動していたリックが剣で魔物の身体を串刺しにしていたのだ。
 魔物にしがみつき呪詛のような声がリックから漏れる。

「この野郎・・・!化け物は黙って人間に退治されていろ!!」

 突き刺さった剣元から魔物の体液が漏れてリックの服を汚していく。
 怪物の足が止まった!
 今がチャンス!ここしかない。
 なのはは祈祷するように呪文を唱えた。

「ジュエルシード、封印!!」
『sealing mode set up.』

 レイジングハートが光り、光の翼のようなものが現れる。
 宝石から多数の光の帯が伸び怪物を包み込んでいく。
 
『stand by ready.』
「リリカル、マジカル、ジュエルシードシリアル21、封印!!」
『sealing.』

 さらに光の帯が包み込んでいく。
 耐え切れないのか怪物は光に身体を撃ち抜かれていく。
 最終的に大量の光を発して徐々に怪物の身体は消えていった。

「・・・やったー!!」
「うん!すごいや、こんな短期間で封印の魔法を覚えることが出来るなんて!!」

 なのははフェレットを持ち上げて歓喜の声を上げてくるくる回っていた。
 リックも一仕事を終えたと思ってバイ・ロードの刀身を消して懐へしまう。
 地面に座り込もうとしたがある言葉が気になって立っていた。
 
 ジュエルシード・・・確かに少女とスクライアという妖怪は呪文詠唱の際そう言っていた。
 あの子達はジュエルシードの事を知っているのか?
 そしてこの怪物はジュエルシードに関連するものだというのか?
 リックは消え去った怪物の場所へ近寄る。

「む」

 地面に光る青い石が落ちていた。
 プレシア殿の言っていることが本当であれば間違いない、ジュエルシードだ。
 それを拾い上げ空にかざして眺めてみるとうっすらと数字のような物が見える。

 これが願いを叶える石か。
 あの怪物はこの石に何を願ったか分からないが確かに持ち主に効果をもたらすようだ。
 しかもその効果は計り知れない。
 これを取り込んでいた怪物は尋常ではない強さを発揮してこちらを大いに苦しめた。
 あの大魔導師が欲しがるのも分かる気がする。
 ・・・ひょっとしたら今、私もこれに願えば元の世界に帰れるんじゃないか?

「むん!」

 試しに元の世界に帰りたいと願ったが石は特に反応を起こさなかった。
 願う力が足りないのか?
 リックは力の限り右手に石を握り締めて叫んでいた。

「うおおおおお!!」
「きゃっ!?」
「あ、あの、何をしているんですかあなたは?」

 二人に思いっきり不審がられた。
 スクライア妖怪の表情はいささか読み取れないが少女には怖がられていた。

 駄目だ、いくら思いを込めても発動しない。
 何か条件があるのか?それとも石一つだけでは足りない?

「あ、その石は・・・」
「どうしたの?」
「あの、その石をレイジングハートに近づけさせてくれませんか?
「え、うん、分かった」

 そういってなのはがリックの元に近寄り石にレイジングハートを寄せた。
 すると石が浮き上がり、レイジングハートの宝石の部分に吸収されていった。

『receipt number XXI.』
「あ!?ちょっとお待ち下さい!!!」
「え、どうしたんですか?えーと・・・お名前は」
「リック・アディスンと申します」
「はい!私は高町なのはです!!さっきは皆と力を合わせて倒すことが出来たからとても嬉しいです!!」
「そうだね、相手が強敵だった分その気持ちがよく噛み締められるよ。ちなみにボクはユーノ・スクライア」
「確かにそうですね。で、話は戻りますがなのは殿。その石を私にくれませんか?」
「え、何か危険な代物っぽいですからこのままレイジングハートに入れたほうがいいんじゃ?」
「それについては私も身をもって知りました。ですがその石を私に下さい、お願いします」
「石を出そうにも・・・レイジングハートが反応してくれない。どうしよう?」

 そんなことを言っていると突如なのはが光の渦に包まれる。
 戦闘危険区域から脱したとレイジングハートは判断したのかなのはが今まで来ていた服、
 バリアジャケットが解除されて平服に戻る。
 レイジングハート自身も杖から小さな赤い宝石へと変化していく。

「わわ!元に戻っちゃった!!」
「魔法少女ですね、似たような女の子モンスターがいたから分かります」
「女の子もんすたー?」
「気にしないで下さい。それでなのは殿、どうにかして石を・・・」

 迫るリックになのはは思わずたじろぐ。
 こんな石を欲しがるなんてどうしてだろう?
 何か特殊な石であることは分かるんだけどこの人は知っているのかな?

 その事でなのははリックに問いかけようとしたその時だった。
 突然なのはの頭に声が響いていた。

(なのはさん、彼に石を渡しちゃ駄目だ)

「と、突然頭の中でユーノ君の声が!?」
「む?」

 リックが怪訝そうな顔をした。
 念話か?
 確かになのは殿は魔法が使えるから出来るのも納得だがあのユーノという妖怪も使えるのか。
 見る限りでは内緒話をしているようだが・・・。

(落ち着いてなのはさん、これは念話といってテレパシーのようなものだよ)
(あはは、そうなんだ・・・なんだかどんどん人間離れしていく私)
(さっきの話に戻るよ、繰り返すが彼に石を渡しちゃいけない)
(え?どうして?見る限り優しそうなお兄さんだから渡してもいいかなーと思っているんだけど。
 私を守ってくれて一緒に怪物を倒したんだし)
(それとこれとは別問題なんだ。あの青い石、ジュエルシードはボク達スクライア達を初めとする一部の人間しか知らないはずなんだ。
 なのにあの男、リックという人はそれを知っている感じだ)
(えーと・・・ユーノ君は何を警戒しているの?)
(どうしてあの人はジュエルシードを欲しがるんだ?っていうことなんだよ。あんな危険な石を。
 それにジュエルシードは然るべき場所に保管されるはずだったが謎の事故か人為的災害で石はこの地域に散らばった。
 石がこの地域に散らばったのはボク以外には知られてなかったはずなのにあの人はこれを欲しがってたから
 この地域に散らばっているのを知っている可能性が高い。謎の事故に関わっていて石を狙っていた線も否定出来ないかも)
(え、じゃあこの人は悪い人なの?)
(分からない、この人がジュエルシードをどう使うか分からないけど・・・何か黒い部分がある事を否めない)
(そんな・・・)

 先程までの戦闘の経緯を見る限りそれはないのでは?となのはは思った。
 確かにジュエルシードの存在やその在りかを知っていて欲しがるのはおかしいと思う。
 だけどそれとは別にリックという人は命を賭けてまで私を怪物の魔の手から救おうとしていた。
 ジュエルシードだけが目的なら彼はそんな危険をおかすはずがないと思う。
 なんだろう、矛盾して頭が混乱する。

「なのはどの?」
「ええ!?は、はい!!」
「どうかしましたか、顔色が悪いようですが」
「あの、さっきとの怪物でちょっと」
「無理も無い、普通の少女があれとやりあうには刺激が強すぎる。休んだほうがいいですね」
「はい・・・」

 そういって地面にペタンと座るなのは。
 路上に座るのなんて行儀が悪いが疲労困憊だ。
 それに私達以外に誰も見ていないからいいかな?

 再びなのはにユーノの念話が届く。

(なのはさん、あの人がなんと言おうとあの石を渡しちゃ駄目だよ)
(納得しきれない部分もあるけど・・・分かった)

 その念話を皮切りにユーノとの内緒話が終わった。
 だがなのはと同じく疲れていたのかユーノは路上に倒れこんだ。

「ユーノ君!?大丈夫!?」

 思わずなのはは立ち上がりユーノを抱え込んだ。
 それと同時に周囲にサイレンの音が響き渡り、今まで時が止まっていたのが動き出したかのように
 周囲の住民が騒ぎ始めた。

「今頃になって異常に気づいたのか?だが、なんにせよ被害は出ずにすんでよかった」
「物理的損害は酷いですけどねー・・・」

 特に院長先生の病院、大丈夫かなー。
 院長先生、ショックのあまり倒れたりしないかな・・・。
 なのはは荒れ果てた周囲の悲惨な光景を見て溜息をついた。

「動くな!警察の者だ!!」

 いきなりパトカーが数台走り込んできてリック達の前で止まった。
 車から数人の警察官が降りてきて取り囲んできた。
 リックは無表情であったがなのははやばそうな顔をして真っ青にしてた。

「これは・・・滅茶苦茶だ、なんなんだ?」
「むぅ、君達一体ここで何が起こったのか知っているのなら話してくれないかね?」

 紳士的な中年が深刻そうに話しかけてくる。
 これになのはは頭を痛める。
 どうやったって説明できるはすが無い。
 仮に説明したところで信用される事もないだろう。
 それ以前に未成年がこんな夜中に見知らぬ異国の人間と一緒にいる自体怪しまれる。
 どうしよう、どうしたらいいんだろう。

(なのは殿)
(ふぇ!?り、リックさんも念話が使える事が出来たんですか!?)
(ちょっとしたアクセサリーのおかげで少しだけなら。それよりなのは殿)
(はい?)
(逃げますよ、どうみてもこれは収拾がつかないでしょう)

 そこでリックは念話を切るとなのはを抱きかかえこんでいた。

「はにゃ!?」
「舌を噛まないようにして下さい。それとそのスクライア妖怪を落とさないように」

 そう言うや否やリックは警察の取り囲みをジャンプして乗り越え着地、そして全速力でこの場所から脱出、逃走に成功していた。

「うわ!はぇぇ!!すごい勢いで遠ざかっていくぞ!!」
「そんなことより幼女が誘拐されたぞ!追え追え!!」
「ここの状況検分はどうするんです!?」
「後からやってくる人間に任せる!皆車に乗り込め!!」

 車のドアが閉められる音が複数。
 エンジンがかかり、逃亡者を追いかけようとパトカーは走り出していった。










「何とか振り切ったか」
「うぇぇ、気持ち悪いよー・・・」

 リック達はある公園のベンチに座って休憩していた
 なのははグロッキー状態になってベンチに横になっていた。

 酷かった。
 走っている体感速度が物凄く、その上障害物を飛び越えまくるものだから身体が揺さぶられて堪らなかった。
 特にジャンプしたときにかかる重力が酷い、思わず吐きそうになった。
 F1レーサーや戦闘機パイロットとかは巨大なGに耐えて活動しているというらしいからその人達を尊敬する気になってしまう。

「り、リックさんに抱きかかえられて逃げるというのは勘弁したいですね・・・」

 すでに意識を取り戻していたのかユーノがなのはの懐から顔を出す。
 なのはと同じく顔を青くしていた。

「申し訳ありません、本気で逃げていたのであなた達を気遣う事を怠っていました」
「き、気にしなくていいですよ。あれは不可抗力ですし・・・」
「それより気になるのはリックさんの腕の怪我なんですが」
「む」

 そういって自分の左腕を見る。血は少量であるが未だに流れ続けている。
 貫通する攻撃を受けた腕はしばらく使い物にならないだろう。何とかして治癒魔法を受けたいところなのだが。
 いかんな、腕を見た途端激痛が襲ってきたぞ。血の流しすぎで意識もフラフラし始めてるしさっきの全力疾走だ。
 少々無茶をしすぎたか。

「どうしよう、早く病院にいかないと」
「それはご勘弁を。訳あって公共機関にはいけないんですよ」
「・・・ひょっとして不法滞在者?」
「誤解ですなのは殿」

 身分証明書とか事前に色々アルフ殿から渡されたんだがさっきの闘いで紛失してしまったような・・・。
 また叱られる要因を作ってしまった。

「あの、ボクが治療しますよ」
「え、ユーノ君が?」
「妖怪に治療できるのですか?」
「だから妖怪じゃないって!まぁそれはともかく」

 ユーノは自分に巻かれていた包帯を脱ぐ。
 今まで自分の怪我の治療に集中してたのだ。
 フェレットもどきはなのはから離れてリックの左手の手の平に乗った。

「怪我を見せてください、傷口を縛っている服の袖をほどいて」

 言われるがままにリックは傷口を見せた。
 今まで縛るのに使っていた服の袖は血を吸って重たく黒く変色していた。それが重い音を立てて地に落ちる。
 傷の部分も周囲が血で染まってそこから流れるように手元へ血が流出して地面を濡らしていた。
 思わずなのはは目を背けてしまう。
 そしてユーノは手を怪我に向かって伸ばすと光が放たれた。

「これは・・・?」
「フィジカルヒール、怪我を治療する為の魔法で即効性です。しばらく時間をかければ治るかと」
「こちらの世界にも回復魔法の使い手はいるんですね。当たり前かもしれませんが」
「え?ひょっとしてリックさんもこの世界じゃないところからやってきたんですか」
「あ・・・」

 しまった。
 うっかり口を滑らせてしまった。
 とはいえ、自分の使っている剣をこの子達は見ているんだしいずれ気づくだろう。
 正直に言うか。

「まぁ、そんなところです。ちょっとした事故で次元漂流者というのになってしまいまして」
「次元漂流者?」
「元の世界の座標が分からなくて帰れない人の事を指すそうです」
「それは大変な事じゃないですか!?よりにもよって管理外の世界からの来訪者だったなんて!!」
「・・・そうですね」

 怪我の治療を受けながらリックは夜空を見上げる。
 綺麗な星々が満天に輝いていた。
 キングは・・・そして戦友達は今もこんな夜空の元戦っているのだろう。
 メナドは無事だろうか。生きていたら多分いなくなってしまった私の席を埋めるために必死に頑張っているだろうな。
 その友人であるかなみ殿やフリーク殿達は無事脱出できたかな、あの魔人と戦ってわずかしか時間を稼げなかったが
 無事であると願いたい。
 いかんな、次々と色んな人達を思い出す。思わず涙が出てしまいそうだ。

「そんなわけですから故郷に帰りたいですね」
「リックさん・・・」
「・・・それでジュエルシードを欲しがっていたんですか?」

 治療を続けるユーノから疑問の声が上がった。
 その言葉を否定せず黙って頷いた。
 それにユーノは複雑そうな顔をして黙って治療を続けた。

「リックさん、今はどうやって暮らしているんですか?」
「とあるマンションに暮らしています。幸いにも私を拾ってくれた恩人達がいましたのでその人達と暮らしています」
「そっか、よかったです孤独じゃなくて。一人は寂しいですから」

 なのははどこか寂しそうな顔をする。
 この子はそういった経験があるのだろう、年に相応しくなく寂しさや孤独を人一倍知っているようだ。
 なんとなく空いた右手でなのはの頭に手を置いてしまった。

「な、なにするんですか?」
「失礼しました。思わず手が動いてしまって」
「・・・そんなこと言って、実はロリコンなんじゃないんですか?」
「どこぞのよーい○ろーと一緒にしないでいただきたいユーノ殿」

 よーい○ろー。
 それはロリの伝道師。
 各地に出没しては様々な男にロリの素晴らしさを説く正体不明の人間。
 かつてキングもお目にかかったらしく、その人を邪悪と判断して斬り捨てたとかないとか。
 ・・・余計な話は置いておこう。

「怪我の治療、終わりましたよ」
「すみません、ありがとうございますユーノ殿」

 ユーノはトン、と飛んで地面に落ちてなのはに近寄る。
 なのははユーノを拾い上げて大事そうに抱える

 おお、怪我の痛みも消えて腕も自由に動く!
 これならすぐに前線復帰できそうだ

「ああ、駄目ですよすぐに動かしちゃ!怪我した部分は絶対安静ですよ!!
 それに流した血までは取り戻せてないんですから下手に動かないで!!」
「む、そうだったのか。不用意でした」
「それはそうと今日はすみませんでした、あなた達をこんなことに巻き込んでしまって」

 ユーノが頭を垂れて謝罪の意を表す。
 さっきの怪物の一件だろう。
 少女はともかく私はあの手のモンスターには慣れているから気にしないのだが。

なのはは意外と精神的に強いのかユーノに対して笑顔をみせる。

「んー多分私は平気。リックさんは?」
「なのは殿と同じく。慣れていますよああいうのは」
「・・・ありがとうございます二人とも」

 再び頭を下げるユーノ。
 生真面目な妖怪だなと思う。
 多分人知れず頑張っていたんじゃないだろうか?
 恐らくはジュエルシードの探索、そして魔物の封印を。
 出来うる事なら少女も含めて敵対したくはないのだが・・・多分そうはいかなくなるだろうな。

「とりあえずユーノ君、まだ怪我が治ってないみたいだしここじゃ落ち着かないよね。とりあえず私の家にいこう」
「重ね重ねすみませんなのはさん」
「送りましょうか?少女が一人で夜道を歩くのは危険ですから」
「そ、そんな!いいですよ、私一人でも大丈夫!!」
「先程の闘いであなたはかなり消耗している。念の為、ということで」
「あ・・・はい、分かりました」

 本当に疲れていたのだろう。歩き出したものの足元がおぼつかない。
 このままでは転んで怪我をするか、建物に身体をぶつけるだろう。

「危なっかしいですね、再び失礼します」
「ふぇ!?」

 なのははまたリックに抱きかかえられることになった。
 恥ずかしいのかジタバタ暴れていた。
 その際にアッパーがリックの顎に命中。
 痛みをなんとかこらえる。

「むぅ・・・!」
「あぁ!?ごめんなさーい!!」
「い、いえ、突然抱きかかえた私が悪かったです。それでなのは殿の家はどこでしょう?」
「あ、指で行く道の方向を指しますからそれに従ってください」
(やっぱりこの人、ロリコンなんじゃないか?)

 二人と一匹は夜道に消えていく。
 涼しい夜風が闘いで火照った身体を冷やして気持ちいい。
 元の世界でもこういう風に過ごしたことがあったな、懐かしい感覚だ。
 なんだろうな、この世界にいると妙に自分の世界を思い出して心が苦しい。
 原因はなんなんだろう?








「とうちゃーく!着きましたよリックさん」
「ほう、なかなか古い建物で趣がありますね」
「そうですか?私には普通には感じますけど」

 リック達は高町家の木の扉の前に立っていた。
 なかなか大きい。
 そこらへんの住宅とは一回り違う。
 住んでいる人たちはこの少女と同じく優しい心の人達なのだろうか。

 抱きかかえていたなのはをゆっくり下ろす。
 なのははお礼を言って自宅に入ろうとしたが突然肩をリックに掴まれて動きを止められた。

「お待ちくださいなのは殿」
「え?」
「扉の向こうで待ち構えている者がいます、人数は二人」

 ?と頭の上に記号を出すなのは。
 するといきなり扉が開き、男女の二人がやってきた。

「お兄ちゃん!?お姉ちゃん!?」
「嘘・・・気配を消してたはずなのになんでばれたの?」
「お前の修行不足だ馬鹿弟子」
「そういう恭ちゃんだって存在ばれてたじゃないの~」

 その反論に無言で男のデコピンが女の額に命中する。
 女は痛みを堪えつつ恨めしそうにひどいよ~と呟いていた。

「それはそうとこんな時間にどこにお出かけだ?それと後ろにいる方は?」
「わ、私の恩人!え、えーと私が変質者に襲われていた所を助けてくれたの!!」
「愚か者」
「あぅ!?」

 男の拳が軽くなのはの頭をこづく。
 少々痛そうにこづかれた頭をさすっていた。

「皆心配していたんだぞ。しかも危険に出くわして何一つ反省の色をみせていないとはおしおきが必要だな」
「う、ごめんなさい・・・」
「あら、この動物可愛い~。ねぇなのは、ひょっとしてこの子が心配で夜中に出かけていたの?」
「・・・うん」
「恭ちゃん、なのはには悪気はなかったんだしこうして無事なんだから許してあげようよ」
「駄目だ、後で父さん母さんの説教も覚悟するように」
「はい・・・」
「厳しいなぁ・・・お姉ちゃんはなのはの味方だから安心して」
「美由希、なのはの行動に対して甘すぎるからお前も説教な」
「え~そんな!?」

 不用意な発言するんじゃなかった、と心の中で思う美由希。
 でも本当に私はなのはの味方だよ、多分父さん母さんも許してくれる。・・・と思う。

 恭ちゃんと呼ばれていた人物――高町恭也がリックの前に立つ。
 恭也はリックという人物に丁寧に頭を下げながらも威圧感を感じていた。
 
 この男は一体何者だ?
 遠目からでは分からなかったが目の前に立つと巨人と対峙しているような錯覚を思わせられる。
 一般人には少々分かりにくい感覚、鍛錬を積んだ武芸者だけが出せる威圧感を目の前の異人は大きく放っている。 
 父さんでさえこんな感覚を出すことは出来ないぞ。
 しかも若い、下手をすれば美由希ぐらいの年の顔をしている。身長は圧倒的に違うが。
 どんな修行を積んできたんだこの男は?

 少々怪しみつつも恭也はお礼の言葉を述べる。

「うちの妹が世話になったようですみません、なんとお礼を言ったらいいか」
「いえ、お気になさらずに。当然の行為をしたまでですよ」

 リックもなのはの変質者に襲われたという口裏に合わせて発言をする。
 どうやったってこの夜の一件は説明の仕様が無いからだ。
 この人達が魔導師関係者なら話は別になるのだが。

「申し訳ありませんでした。それでですがお世話になったお礼をしたいので是非家に上がって下さい」
「先程も言いましたがどうぞお気になさらず」
「いえいえ~私達の大切な家族を助けていただいだんですからせめてお茶だけでも飲んでって下さいよ~」
「あ、ちょっと・・・」

 丁寧に礼を尽くす兄、家に引っ張り込もうと手を掴んでくるその妹。
 困ったぞ・・・今夜は色々やらかして疲れたし帰りを待っているフェイト殿やアルフ殿に心配をかけたくない。
 こんなときはどうすれば・・・。
 あ、そうだ。

「あ!あんなところに空飛ぶベヘターが!!」
「は?」
「べ、ベヘター・・・ってなに?」

 チャンスだ!
 指を指した空の方向に二人の気が逸れた。
 キングとのやり取りによる経験が今ここで生かされた!!

 リックは瞬時に逃走モードへ、そして高町家の前から一気にアクセルを踏み込むように走り去っていった。

「それではさようなら!縁があったらまた会いましょう!!」
「あー逃げたー!?」
「なんという逃げ足の速さだ、見習いたいな」
「恭ちゃん妙なところで感心しないでよ」
「あ!リックさん今夜はありがとうございました!!」

 そう言っている間に三人の視界からはリックの姿はすでに消えていた。
 本当に惚れ惚れするぐらいの逃げ足だ。
 赤いジャケット着てたし某アニメの天下の大泥棒を連想させるなぁ・・・。
 年取ってなくて若いけど。

「しかし・・・色々怪しい男だったな」
「怪しい?あの人のどこが?」
「全然怪しくないよお兄ちゃん」
「お前なぁ、なのははともかく頭が平和ボケしているぞ」
「平和ボケって酷いよ?確かに最近緩んでいて気を引き締めないとって思うけど」
「暗がりでよく見えなかったかもしれんがあの男の服は所々に血が染み付いてとてつもなくボロボロだった。
 変質者と交戦して傷がついたのかもしれんがそれにしたっておかしい。あれほどの武の達人が変質者に遅れを取るとは思えん」
「え、あの人武道やっているの?すごいな恭ちゃん、すぐに見抜けるなんて」
「お前・・・あの人の近くに寄っていってプレッシャー感じなかったか?」
「ん~全然」
「明日から稽古を厳しくするか」
「あぅぅ・・・稽古頑張ります」
「後、一つ不審点だ。なのはの服の背中を見ろ」
「あ、なのはどうしたのそれ!」
「え、何・・・ってあぁー!」

 ユーノを抱きかかえて頭を撫で撫でしているなのはが思わず背中を隠すが遅かった。
 その服の背中には少量ではあるが血がべっとりとついていた。
 恐らくはリックが警察から逃げる為になのはを抱きかかえて逃走している途中に
 傷ついた腕から染み付いたのだろう。

「怪我をしているのかなのは?」
「ううん!全然してないよ!!えーとえーとこれは・・・」
「うーんなのは、何か隠し事をしてる?」
「なのは、家に入るぞ。少し話をしようか」
「うぅ、はーい・・・」

 かくして高町家の家族会議が始まることになる。
 なのはの血のついた服を見て「どこを怪我したんだなのは!?さあ今すぐ服を全部脱ぐんだ!!」と迫る父。
 すかさず笑顔で足払いをかける母。
 隠し事を言わない(というかどうやってもあの怪物は説明しきれない)なのはに容赦なくデコピンを食らわす兄。
 やりすぎだよ、と兄を制するが同じく制裁を加えられる姉。
 なのはは何度も額を押さえて説明に苦心して家族を納得させるのに頑張った。
 疑問点が幾らか残ったがそれでも仕方ないと母を始めとして皆は渋々納得することにしたようだ。
(父はしつこく服を脱ぐことを強要したがその度に母に足払いをかけられていた)
 この難儀な家族(特に兄)を説得するのになのははよく頑張ったと思う。
 頑張りすぎてボクはもう疲れたよパトラッシュ状態になるくらいに。
 というかあの闘いの後にこの家族会議は誰でもキツイであろう。

 ちなみにユーノは家族会議の最中にあっさりと飼う許可を貰えていた。








「ふぅ、何とか駅方面に出られたか」

 リックは道に迷いつつもどうにか自分の分かる道に出ていた。
 やっと迷路から脱出出来た。
 二人とも怒っているだろうなーと思いつつも今夜起こった出来事を報告しないといけなかった。
 まさか初日からジュエルシードに遭遇するとは思わなかったのだ。
 それを手に入れていないのは自分の手落ちであり痛手であった。
 さて、どう報告したものか・・・

(こんな深夜までお疲れさん)

 突然念話と同時に目の前に獣耳と尻尾を生やした人間が空から降り立った。
 この大胆な露出衣装は間違いない。

「アルフ殿、どうしてここへ?」
「聞かずとも分かってるんじゃないかい?ま、積もる話は帰ってからにしよう」

 そういってリックの手を取って飛行魔法で一緒に空に飛んだ。
 周りに人の気配がないから遠慮せず魔法を行使しているのだろう。
 しかし、空を飛べない者にとっては飛行魔法とは怖いものだな。
 街が広大に広がり、足場の無い空が恐怖を増大させる。
 落下したら死ぬんだろうな間違いなく。

「おーいリック、早く帰るからしっかり掴まってろよ」

 そういうとより一層飛ぶスピードが加速する。
 少し慌てつつも振り落とされないようにしっかりと手を握って帰路についた。









「・・・やっぱり奇妙な違和感があると思ったらジュエルシードが発動していたんですね」
「面目ありません、手に入れるのに失敗してしまいました」
「仕方ないですよ、リックさんは魔術には長けていませんから」
「つーか初日からジュエルシード探り当てるなんてすごいな、ラッキーマンかアンタ」

 今夜起こった出来事を一通り説明するリック。(魔導師と共闘していたといったらアルフに呆れられていた)
 その間にテーブルにビーフカレーを並べていくアルフ。
 香ばしい匂いがしてあの戦闘で消耗したエネルギーの補給を求める衝動が激しく動く。
 ついでに喉も渇いていたので冷蔵庫から小型のペットボトルのミネラルウォーターを取り出して一気飲みする。
 水の潤いにとても生き返る思いだ。

「しかし、魔導師がいるとはねぇ。ありえない話じゃないけど一歩先を越されたか」
「あの青い石は全部で何個あるんですか?」
「確か21個だったと思います。でもこの地域に石が散らばって日が浅いらしく
 最初から探索して見つけるのは難しい。その意味ではリックさんは幸運でしたね」
「でも現状を見る限りろくな目に遭わなかったみたいだな」
「いや全く。ジュエルシードがあんなに手強いとは思いませんでしたよ。兜があれば多少楽だったんですが」
「悪かったよ、でもそのまま持ち歩くのは怪しいからスポーツバッグかなんかに入れて持ち歩けよ」

 自分のタンスから赤将の兜を取り出してそれをリックに投げ渡す。
 やはりこれがあるとないとでは安心感が違う。

「兜のある無しで性格や強さが変わるなんてどういう人間なんだか」
「私だって気にしているんですから突っつかないで下さいよ」
「話は変わるけどさ、どうしてアンタはその魔導師からジュエルシード奪ってこなかったんだ?」
「え?」
「え?じゃないだろう。私達の目的はジュエルシードを集める事。聞くにその魔導師は怪物と戦って弱ってたんだろう?
 なら奪う絶好のチャンスじゃないか」
「それは・・・」

 あの闘いは二人と一匹が壮絶な戦いの末に勝利できたものだ。
 石はなし崩し的になのは殿のものになってしまったがそれはまあ仕方ないかもしれない。
 あの魔物を封印したという重要な功績はあの少女にあるのだから。
 その弱った少女から石を奪い取るというのは・・・罪悪感がある。
 譲ってくれと何度も頼み込んでしまったが。

「申し訳ありませんアルフ殿。ですが弱みにつけこんで石を奪い取るというのは少々・・・出来ることなら正々堂々と戦って石を勝ち取りたい」
「リック」

 無言でこちらに歩み寄ってくるアルフ。 
 そしていきなり軽くどつかれた。

「何をするんですか?」
「そう言ってる状況なのかアンタ?私達としては一刻も早く石を集めたいんだよ。あの女の思い通りになるってのは癪だけどさ。
 それに元の世界に帰りたいんだろう?ならその方法を知っているあの女の機嫌を損なう真似してていいのか」

 真剣な表情で詰め寄るアルフ。
 その言葉にはフェイトやリックを気遣う意思が込められてるように感じられた。

「私は・・・今まで培ってきた精神を捨てることはできません。例え偽善者と罵られようと」
「そうかい」

 ふぅっと溜息をついてアルフはテーブルの椅子に座る。
 何か憂鬱そうに頬杖をついて外の夜景を眺めていた。

「忠告・・・というかこれは予言だリック。この先ジュエルシードの獲得に向けて徐々に争いが激しくなっていくはずだ。
 その時アンタはその理念を保っていられるか?アタシは保てないと宣言する。それに想定外の展開もあるはずだ。
 状況は刻一刻どんどん変わっていく。多分どこかでその考えを捨てる事になるよきっと」
「・・・」

 アルフ殿の言う事はもっともだ。
 今、私が置かれている状況は厳しい。
 プレシア殿の管理下に置かれていて生かすも殺すもあの女次第。
 しかも元の世界への帰還方法は現在のところあの人しか知らないように見える。
 今の私の世界は人類の存亡をかけた激戦をしている。
 それなのに私は甘い事を考え続けていいのか?
 考え続けていいわけがない。
 でも・・・。
 今の私はこの考えを捨てきれない。

「アルフ、話はもうそれぐらいにしてあげて。リックさんにはリックさんの考えがあるんだから」
「でもフェイト」
「まだ石の争奪戦は始まったばかりだよ。まだ見えない未来を論じるのは早いと思う」
「・・・分かったよフェイト」
「すみませんフェイト殿」
「気にしないで下さいリックさん、そろそろ食事を食べないと冷めますよ」

 そうして三人は食事を開始する。
 カレーがとても暖かくて美味しい。
 今まで思考のループに陥って深みにはまっていたリックの心を癒してくれるような気がした。
 今日は疲れてまともな考え方が出来ない。
 明日にでもまた考えてみよう。

「皿洗いは私がやっとくよー。リック、お前が今日一番疲れているんだから先に入りな」
「いいんですか?」
「私達は後でいいですから。それにこういうのは男が先に入るものらしいですから」
「はぁ・・・では遠慮なく」

 浴室に入る。
 ボロボロになった衣服を捨てて裸になる。
 脱いで見ると色んなところが血で汚れていた。
 ひょっとしてアルフ殿は血の匂いを嗅ぎ取って先に私を風呂に入れさせたんじゃないだろうか?
 血を落として身体をよく洗ってから一番風呂をいただくことになった。

「いたた・・・所々身体が痛むな」

 治療してもらった左腕はうずくだけだが他の細かい傷がしみて痛い。
 だが、こんな豪華な風呂に入るのは初めてだ。
 とても広いしシャワーまでついている。
 お湯の加減もいいし思わず忘れたくない事まで忘れてしまいそうになる。

「レイラさん・・・」

 深くその言葉を心に刻み続ける。
 同時に復讐の対象も忘れないように怨念とも言える思考が脳内で飛び交った。
 暗い、呪いの灯火がリックの奥深くで静かに燃え続けていた。

「風呂から上がりましたよ」
「あいよ。じゃあ次はフェイト入って」
「うん」

 リックは自分には全く似合わないと思われる青の縞々模様の寝間着姿で浴室から出てきた。
 なんだろう、サイズはピッタリなのにしっくりこない。
 やはり服は赤色じゃないと落ち着かないな、うん。

「寝る場所はソファーだぞ。結構寒いから毛布何枚か持っていけよー」
「はい」

 広いベッドはあるがそれはフェイト専用のベッドだ。
 異性同士が寝るのにはかなり問題があるのでこうなった。
 そのベッドとは離れた部屋のソファーに全身を預けて横たわる。
 毛布を包んでゆっくりと目を閉じた。

 寝るにしても戦いの連続だったから周囲の物音に反応して寝辛いな。
 もっとも元の世界と比べれば緊張が少なく天国と言えるような環境だ。
 襲われる危険が少ない。

 あ、アルフ殿も風呂に入り始めたな。
 服を脱ぐ音が・・・って何か想像してしまいそうだ。
 いかん失礼だ、さっさと眠りに集中しよう。















 焦熱と火炎の息吹が世界を渦巻いていた。
 周囲は石の大小の破片が転がっている荒野。
 誰もいない。自分だけが一人取り残されたような世界。

「ここは・・・?」

 リックは自分の姿を見ると赤の指揮官鎧を着込んでいた。
 何故だ?私の鎧はもうとっくに使い物にならないはずなのに何故着ている?
 それにしても熱い、熱すぎる。
 以前にもこんな体験をしたような・・・どうしてだ?思い出せない。

「――――――!!」

 声にならない叫びが世界に響き渡った。
 殺意、いや悲しみの悲鳴?
 とっさのことにリックはいつのまにか握られていた剣、バイ・ロードでその声の元を切り裂いていた。

「な・・・!!」

 正体にリックは唖然とする。
 自分が切り裂いたのは自分によく忠実に従ってくれていた青いショートヘアーの副官。

「メナド!どうしてお前がここに!?しっかりしろ!!」
「ごめん・・・なさい、リック・・・将軍。私達の軍を、そしてリーザスを・・・守れませんでした」

 そう言った途端リックに抱えられていたメナドの身体は砂に変化して手の平から零れ落ち、荒野に消えていった。
 メナドの嘆きの声が辺りに広まり、それがリックの頭の中で反響する。
 それに耐え切れず頭を押さえて地面にうずくまる。

「なんだこれは・・・!?」

 突然世界が暗転する。
 するとそこはリーザスの首都でもあり最重要拠点でもあるリーザス王宮。
 王都の華々しさはなく一面が火の海、辺りに死体が多数転がっていた。
 魔物の叫び、人々の悲鳴が、焼ける匂いがあちこちから飛んでくる。

 人類の・・・敗北だと。そんなわけがない。ここまで魔物が攻め込めるはずがない。

「こんなことがありえてたまるか!!」

 リックは立ち上がり火を避けて王宮内に入り込む。 
 目指すは自分が仕える王、ランスの元へ。
 とちゅうに魔物が徘徊していたのを斬り倒し一刻も早く。

「あ・・・」

 リックは見てはならないものを見てしまった。
 国を支える重要な人物。政治を幅広く見ることが出来る才女。
 かつて自分の憧れの対象でもあり恋焦がれていた人物。その人が倒れていた。
 リックはその人物に思わずしゃがみこみ冷たく、重くなった上半身を支え上げていた。

「マリス、様・・・」

 口元からうっすらと血を流していた。
 幸い顔には傷は無く美しさはそのままだった。
 だが、腹部には何かに貫かれたと思われる穴が開いていた。

 恋焦がれた人、そして私にレイラさんの存在を気づかせてくれた人。
 その人が無残な死を迎えていた。
 リックの目元から自然に涙が流れ出ていた

「・・・くそ!!」

 涙を振り払い王宮の奥へ。
 がむしゃらに剣を振り、王の玉座の下へ飛び込んだ。

「キング!!」

 扉を開くとそこには一面敵、敵、敵。
 魔物で支配し尽されていた。
 玉座にはこの絶望の数に奮戦している王、そしてその王が最も愛したであろう最愛の奴隷が側に横たわっていた。
 シィル・プラインの死に激昂しているのかランスは迫る敵を次々と薙ぎ払って近くに寄せ付けなかった。

「俺様は一人でも強いぞ!どっからでもかかってこい!!」
「よせ!ランス、お前さんは冷静さを失っている!!落ち着くんだ!!」
「うるさいカオス!シィルを・・・皆をぶっ殺したこいつらを許せねぇ!!」
「くそ、万事休すか!一体どこで歯車が狂ってしまったんじゃ・・・心の友よ」

 ランスは疲れを見せず敵を斬り倒す。
 カオスは諦めたのか一蓮托生、最後まで付き合う様子を見せていた。

「キング!助太刀します!!」

 リックも魔物の群れに突入しようとしたその時だった。
 また世界が暗転して別の場所に移動していた。

「うぐ、またか・・・!」

 今度は見慣れた場所であった。
 忘れられるはずの無い土地。そこはヘルマンの帝都。
 都市の面影は無く瓦礫の山と化していた。

「まさか」

 そうだ、そうに違いない。
 リックは次に起こりえるであろう事態を予測出来ていた。

「うーん、フレッシュミート。でもミーは構造上食べる事が出来ないネ」

 あの忌まわしき魔人が、
 自分の愛する人の身体をグチャグチャにしてリックの元へ投げ捨てた。

 瞬時に怒りが爆発した。

「レッドアイ!キサマァァァァァ!!」

 剣を振るおうとしてレッドアイの元へ突撃した。
 だが、途中で時が停止したかのようにリックの身体が固まって動かなくなってしまった。

 くそ!何故だ!?何故動かない!?
 動け、動くんだ!!
 あの魔人に刃を突き立てるんだ!!
 私がこの様では今まで散っていった仲間に申し訳ないじゃないか!
 奴の喉下に食い付かせろぉ!!

 声は発することは出来ず口さえ動かせない。
 レッドアイはこっちの存在を確認したのかゆっくりと指先をこっちに向けた。

「オー、まだ生き残りがいた。大したタフガイネ」

 巨大な炎の矢が飛ぶ。
 矢は命中して爆散。
 命中したそこには跡形も無く残らずリックはそこで意識が切れた。












「うあああああ!!」
「ふぎゃっ!?」

 リックは荒い息をつきながら眠りから覚醒した。
 悪夢。
 それも自分にとってこの上ない悪夢だった。
 質が悪い、誰がこんな夢をみせたんだ?
 リーザスが滅ぶ・・・ましてや人類が敗北するなどあってはならない事だ。
 少なくともキングがいるかぎり敗北などありえない。そう信じている。
 だが・・・もしこの夢が正夢だとしたら・・・。

「考えたくもないな・・・それにしても頭が痛い」
「あーそりゃーそうだろうよ。勢いよく飛び上がってアタシの顔面に向かって頭突き食らわしたんだから」
「へ?」
「うなされてたから心配して様子を見ていたのに何すんだアンタはー!!」

 パコーンとフライパンの叩く軽快な音がマンションの部屋に響いた。
 


「さっきはすみませんでしたアルフ殿」
「もういいよ。それより何の夢を見たか知らないけどすごい汗出してたぞ。シャワー浴びたら?」

 朝食はフレンチトーストにベーコンエッグ、それに野菜サラダを数種類合わせてきざんだものが置かれていた。
 ちょっと物足りないが夢にうなされて遅く起きてしまったんだし文句は言えない。
アルフは頭突きで赤くなった鼻を擦りながらリックの食事を眺めていた。

「汗びっしょりで少々気持ち悪いですね。後で浴びましょう。ところでフェイト殿の姿が見えませんが?」
「フェイトならジュエルシード探索に向かったよ。本来ならアタシも同行するとこだったんだけど
 アンタが心配だからここで残って待機してた」
「・・・感謝します」

 パンを紅茶で流し込みながら話は続く。
 アルフは何か心配そうにリックの顔を窺っていた。

「なぁリック、聞いちゃいけないかも知んないけど何の夢をみていたんだ?」
「本当に聞いちゃいけない事を聞きますね」
「ごめん、でもあんだけ苦しそうな寝顔を見せられたら気になるよ。
 出かける前のフェイトだって心配してたんだぞ」
「そうですか・・・」

 皆に心配をかけた事を反省する。
 よくよく考えれば自分の悩みを聞いてくれる相談役がここにはいなかったなぁ。
 かつては副官のメナドやかなみ殿、そして同じ将軍であるエクスやバレス様等に悩みを持ちかけていた。
 このままじゃ自分は自分自身の心に潰されてしまう。
 ・・・厚かましいとは思うがアルフ殿に相談役になってくれないかな?
 フェイト殿はまだ幼すぎるし、まだ色々と自由に話せる女性がアルフ殿だ。
 どうしよう?

「・・・自分の祖国が、そして人類が滅亡をする夢を見ていました」
「随分重い夢だなぁ、にわかには信じがたいけど世界は広いからありえるな。そんな夢を見るほどリックは今まで重要な事でもやってたのか?」
「国と民のため、そして人類の未来の為に戦ってきました。きましたが・・・」
「きましたが?」
「犠牲が多すぎたんです。その戦いの為に幾千の命が散っていたか考えると果たして私は正しい戦いをしてきたのか・・・散っていった者達の
 思いはちゃんと報われているのか分からないんです。私は将軍として上に立つ者として立派に振舞うように心掛けてきましたが
 下の人間の想いをちゃんと汲み取ってやれたのか・・・分からない」

 思いを吐き出し、紅茶を一口飲む。
 アルフも紅茶を飲み難しそうな顔をしていた。
 やはり、こんな話は他人にするべきではなかったか。

「アンタの故郷は戦争をしてたんだな・・・。アタシ達は戦争なんて体験したことがない」

 アルフはうーんとしばらく唸って気難しい顔をしていた。

「よく分かんないけどリックは実はとっても偉い人で戦争の指揮を取っていたのか。だけどその事で悩んでいるのか?
 聞いた限りじゃアンタはそれで罪悪感に悩まされているようだけどそこまで深刻に悩まなくてもいいんじゃない?
 基本的に弱気だけど兜被れば立派で勇敢な人間だ。下の人間はリックの事を尊敬してるんじゃないの?
 かくいう私だって武の力という一面においてはアンタに一目置いてる」
「その武の力しか取り得がありませんよ私は。戦争の指揮は荒削りで大切な部下をよく死なせてしまっている。
 最初に敵に突撃して突破口を開く先方部隊の担当でしたから損害が出るのは仕方ないかもしれませんが
 それでも死んでいった人間の家族に申し訳ない気がして」
「あ、もう一つ付け加えとこう。アンタは鋭い刃で敵を斬っていく鬼だが同時に気弱な分、味方には優しい。
 なんか矛盾しているけどこれも立派な性分だと思う。素人の意見だけどやっぱり悩む必要ないと思うよ。
 下っ端に慕われる要素はあると思うからリックに従って死んでいった人間は報われててアンタを恨んでるとは思わないなぁ」
「そうでしょうか・・・?」
「そう思っとけって。リック、アンタは知らないうちに心の重圧に潰されかけてるぞ。気楽に考えていかないとそのうち壊れる」
 
 座っていた椅子から立ち上がりアルフはリックの側に寄ってポンポンと両肩を叩く。
 心を落ち着かせるように且つ真剣な顔で。

「そんな考えのままだと精神が保てなくなるよ。いつかその精神は外道の道に堕ちるかもしれない」

 両肩から手を離してアルフは離れる。 
 アルフ殿の言葉は現実味が帯びてて怖い。
 あの悪夢の事もある。
 いつの日か手段を選ばずに非道とも言える行為に着手、あるいはその手の輩に手を貸すかもしれない。
 自分の世界に戻る為に。
 そんなことにはなって欲しくないと思うが今の精神は不安定すぎる。
 ・・・やっぱり相談役が必要だ。

「あのアルフ殿、話が」
「ん~何だ?」
「少しでもいいですから私の話し相手、相談役になってくれませんでしょうか?あなたの言うとおり
 私は道を踏み外してもしまうかもしれない]
「相談役なぁ、アタシには向いてない役だな」

 食べ終わった食器を洗いながら背中越しに答えてくる。
 確かにアルフ殿の性格を考えるとガラじゃないって感じだが・・・。
 ちょっとした雑談でもいい、心の落ち着きが欲しい。

「駄目でしょうか?」
「いや、駄目じゃない。それでアンタの杞憂が消えるならいいし私の不安も消えるから一石二鳥だ」
「む?あなたの不安とは?」
「プレシアに誑かされてアタシ達からあの女の味方に回ることさ。それを考えただけでもゾッとする。
 ただでさえ手をつけられない母親なのにリックまで敵に回ったらどうしようもないね」
「・・・私が裏切るとお考えなのですか?」
「可能性としてはありえるよ。だって今のところ元の世界に戻れる方法を知っているのはあの女だからね
 精神的に弱っているリックにつけこんで利用するかもしれない」
「意外と信用がなかったんですね私は」
「それは仕方ないだろ、リックも外部の人間だからね。私にとって信用出来る、そして守らなければいけないのは
 フェイトただ一人だ。あ、だからと言ってリックを全く信用してないってわけじゃないからな」

 そこんところ勘違いしないでくれよと言うアルフ。
 鼻歌を歌いながら食器を洗っていく後ろ姿を見ながらリックはアルフの言葉に思考を巡らせていた。

 裏切る、か。ありえない話ではないな。
 本当に帰れる手段があるというなら私は一目散に飛びついている。
 アルフ殿の懸念することももっともだ。
 しかし現状ではプレシアという典型的な悪人の味方につくというのはありえないのだが。
 今は仕方なく協力せざるをえないという状況だ。

「よーし皿洗い終わり、リックもシャワー浴びてジュエルシード探索に向かう準備しろって」
「御意」

 リックは椅子から立ち上がり浴室へと入っていく。
 アルフは今までの話を振り返って一人溜息をついていた。
 窓際に寄り下を流れていく車や人の光景を眺めた。

「やれやれ、生真面目で堅物だとは思っていたがその上責任感が強いか・・・よくあいつ今までの戦いで生き残ってきたな」

 戦場に立った経験はないが命の取り合い、それによって起こる精神の擦り切れ、知識としては知っていた。
 特に精神の擦り切れによって自暴自棄になってしまう人間は後を絶たないという。
 それでも精神に支障をきたさずあいつは生き残ってきた。
 普段は心が弱いけど戦場に立つと人が変わるタイプなのだろうか?あの赤将の兜の事もあるし。
 随分アンバランスな人間だ。子供の頃はどんな奴だったんだろうな。

「さて、アタシも準備するか」

 アルフはエプロンを外して普段着に着替える。獣耳や尻尾を引っ込めて人間になりすます。







「アタシはフェイトと合流する為に向かうけどリック、アンタはどうする?」
「うーん、どうしたものか・・・」

 金色に発光する屋上にて。
 アルフとリックは向かい合い、今後の方針について相談していた。
 リックは昨日ボロボロになった服装を着替えて新しく赤いレッドジャケットに身を包んでいた。
 同じ服装をするのはどうよ?とアルフに突っ込まれていたがそこは自分が気に入ってしまったものとして押し切っていた。
 肩にスポーツバッグをかけてそれに兜を入れてある。
 身分証名書なども新たに持たされて準備万端だ(その際にこっぴどく叱られたが)

「昨日出会ったジュエルシードの怪物並となると私一人では対処しきれませんね」
「かといってリックも一緒にフェイトと合流しても過剰戦力だしなー。おまけにジュエルシード探索に向いた
 魔術なんて持ってないし・・・リック、分身して戦力アップ出来ないか?」
「知り合いの忍者に分身の術を使える方がいますが生憎私はその技を使うことが出来ません」
「・・・本当に分身出来る人いるんかいお前の世界、冗談で聞いたのに」
「ええ、4、5人以上に分身出来る人がいますよ」
「・・・お前の世界の方がアタシ達よりファンタジーな世界なんじゃないか?」
「そうですかね?」
「まぁ、それはともかくだ。とりあえず手分けして探そうか。今回のアンタならジュエルシードに苦戦する事も
 ないだろうしジュエルシードの怪物の強さもその状況によりけりだ。昨日みたいな事にはならないだろう。
 念話も届くように気をつけて周囲を飛び回ることにするよ」
「お手数かけます。それではお気をつけて」
「リックもな・・・って忘れるとこだった」

 アルフはズボンのポケットから財布を取り出して一万円の紙幣を数枚取り出す。
 偉人の顔がパラパラめくられて数えられ、それと一緒に小銭もリックに渡した。

「この世界の通貨だよ。腹が減ったときの食事や何かの施設に入るときに使うんだぞ」
「ふーむ、金貨ではないんですねこの世界の通貨は」
「金なんて持ち歩くには重すぎるだろうに。じゃ、私はいくからな」

 そういってアルフは空に飛び立つ。
 その姿はすぐに視界から消えてリック一人が残った。
 もらった通貨を無くさないようにとりあえず室内に戻って適当な袋に入れてバッグに入れる。
 さて、どうしたものかな?








「海か・・・お目にかかったことはあるがこうして長々と眺めるのは初めてだ」

 海鳴市の人気デートスポット、海鳴臨海公園にて。
 リックは自分の世界では滅多にお目にかかることの出来ない現象の海を眺めていた。
 青く、どこまでも広がっていく世界。
 世界の現象の違いに戸惑いつつもベンチに座り心を落ち着けていた。
 時間はすでに昼食の時間帯になっておりリックは近くに売っていたタコヤキを買って口に入れていた。
 なかなか上手くて美味しい。何パックか買って持ち帰ろうかな。
 
 多数の人が集まり、この辺り一帯で食事を取っている。
 その中にはカップルと思われる男女が仲良く談笑してお互いの口に食べ物を運んだりしていた。

「はぁ・・・」

 そのカップルを見てふと過去を思い出す。
 レイラさんと初めてデートしたときの事だ。
 ある程度公園や街を散歩した後、夜に彼女行きつけの酒場があるらしくそこに一緒にいったのだが、
 彼女は酒をガンガン飲む酒豪だった。
 おまけに調子に乗って私にも度数のキツイ酒を口に突っ込まれて咳き込んでしまった。
 そこにガラの悪い連中が絡んできて酔いが回ったレイラさんが暴れだし、酒場は騒然となった。
 さらになぜかキングが酔っ払いながら乱入してきたので喧嘩上等、乱闘状態になり店は完膚なきまでに
 破壊されてしまった。
(ランスは二人の初デートに悪戯しようと公務を放棄してこっそりつけていた。そこには悪乗りした仲間が数人いたりする)
 おかげでランス、リック、レイラはマリスからお説教を受けてしばらくの間その説教が軍内で話題になってしまったのであった。
 その際リックはエクスから「災難だったね」と慰めの言葉をかけられた。
 ・・・初デートとしては最悪だったとは思うが同時にどこかで楽しく暴れていた事を感じていたから
 内心悪いものではなかったかな。酒場の店主には申し訳なかったが。

「・・・そうか、この世界はまだリーザスが平和だった頃を思い出させてしまうんだ」

 昨日感じたこの世界にいると思い出させる感傷。
 それはこの世界が平和で、とても平和すぎてまだ魔人戦争に突入する前のリーザスを始めとする
 色んな国々やそこに暮らす人々を思い出すのだ。
 魔物が徘徊して治安がいいとは言い辛いがまだ子供や仲間等、皆に笑顔があった。
 それを思い出すからこの世界は居辛いと感じてしまう。
 ここは私がいるべき場所ではないんだ。
 本来の世界、闘争に明け暮れる戦場が私の帰る場所なんだ。

「他の場所に移動するか、ジュエルシードの反応もない」

 リックはタコヤキを数パック買って公園を後にする。
 カップルの光景に尾びれを引きつつもなんとか振り切って探索を開始した。
 一種の寂しさが死神の心に去来しつつも。









「もしかしたら山中にあるかもと思ったがそうでもないか」

 長い急な階段を登り続けるリック。
 昨日の戦闘で身体に若干異常を感じていたがそのリハビリにはちょうどいい。
 この階段を登りきったら剣術の稽古でもするか。
 戦闘が少なくなってしまっているからレベルダウンが怖い。
 それを少しでも食い止める為に稽古だ。
 あの怪物を退治したからかなりの経験地が入っているとは思うが念入りにやっておこう。
 稽古に付き合ってくれる人物がいるとなお助かるんだが。

 しばらくして階段を登りきる。
 するとそこには中規模の建物があり、入り口には朱色の不思議な形状の物体が建てられている。
 本でしか見たことがないが確か鳥居、そしてその中心となる建物は神社といったか。
 キング曰く桃源郷といったがそんな感じはしないな。
 中に入ると結構広く綺麗に掃除されている地面。
 管理人がいて毎日手入れをしているのかな?

「うん?」

 視界の端っこで何かが動いた。
 確認しようとするがその何かは素早く森の茂みに消えていった。

 多分野生動物だろう、自然が豊かでいい事だ。

「よいしょっと」

 スポーツバッグを神社の縁側の部分に置く。
 首に吊るしてあったバイ・ロードを外し剣を正眼に構える。

「ふっ!!」

 正面への振り下ろし、それに続いて身体を深く沈みこませ回転するようにして行う下段の足に対するなぎ払い、
 回転の勢いを殺さずそのまま逆袈裟懸けに斬り上げながら立ち上がり再び正眼の構え。
 剣の風圧により地面の砂が中に舞う。
 その中で次の技を繰り出そうとリックは精神を集中する

 そういえば・・・上杉謙信殿の技を真似したことがなかったな。
 以前は重武装の鎧を装備していて身軽な謙信殿の技を再現するのは不可能だったが今の軽装なら出来るかも。
 必殺技名は何だったか分からないな。本人は特に技の名前をつけてないようだったから。
 適当に技名をつけてみるか。

「・・・秘剣、車懸り――姫鶴!!」

 突風が吹き荒れた。
 リックが独楽―こまのように少し傾きながら回転して剣を横薙ぎに払いつつ境内を走り抜ける。
 カマイタチでも起きたかのように地面や木々に切り傷の痕がつけられていく。

「ぐ、お・・・!!」

 身体が軋む。痛い。 
 流石JAPAN最強と名高い軍神が使うだけの技の事がある。
 自己流に技をアレンジしてみたがそれでも数秒程度しか技が持たないだろう。
 負荷も大きいし、ここ一番の勝負でしか使えないなこれは。
 そろそろ技を止めないと身体に支障が出る。

 そう思ってリックは身体全体にブレーキをかける。
 速度は徐々に低下して嵐も治まっていくが・・・

「あれ?」

 身体が止まりかけた先には急な階段が。
 ここに登るまでに歩いた階段、それが目の前に広がっている
 見下ろすとかなりの高さだ。
 転がり落ちたらただじゃすまないかも。

「ぐぅっ!!」

 止まれ!止まるんだ!!
 ここから落ちて大怪我なんて馬鹿丸出しじゃないか!
 こんなことなら技を試すんじゃなかった!!

「うあーーー!?」

 彼の願いは虚しく階段から転がり落ちていった。





「あれ?」

 制服を着た穏やかな感じの少女が階段を登っていた。
 いつも登っている見慣れた階段、だが今日は違っていた。
 派手に階段を転がってくる赤い服の男がこちらにやってくるではないか。

「え、え、ええーーー!?」
「しまった!少女よ、何とか回避して下さい!!」
「避けてって言われましてもーー!?」

 時すでに遅し。男は少女は目の前に迫っていた。
 とっさに少女は持っていた鞄を正面に突き出して身を守ろうとしていた。
 それを見て男は一か八か転がり落ちるのに歯止めをかけようとした。

「むん!!」

 赤の刀身、バイ・ロードが無理矢理階段に突き刺さるが勢いは止まらず突き刺した剣が階段を滑るように切り裂いていく。
 それでもリックは何とか少女の目の前で停止することに成功した。
 だがその反動で不自然な姿勢で階段に横たわり何かが曲がった嫌な音が身体から聞こえた。
 滅茶苦茶痛い。

「うお、おおお、おお・・・」
「ああー!?だ、大丈夫ですかー!!」

 少女は鞄を投げ出してリックに近寄っていた。
 どこを怪我しているか確認して意識があるのか確認してくる。

「もしもし、私の声が聞こえますか・・・?」
「はい、聞こえます。そちらにお怪我はありませんか?」
「無事です、それよりあなたの怪我の手当てをしないと。歩けますか?」
「何とか」
「と、とりあえず神社の方に向かいましょう。あそこには応急処置の救急箱が置いてありますから」

 リックは身体のあちこちを打ちつけたが幸い歩行には問題はなかった。
 だが、急ブレーキに使った利き腕の肩が多少負荷がかかったので結構痛みが走っている。
 身体を支えましょうか?と少女の申し出があったがそこまでされるほど深刻な怪我じゃないので辞退した。
 二人は一緒に階段を登り、神社へと向かう。
 しかしみっともない姿だ・・・おまけに一般人を危うく巻き込んでしまうところだった。
 軍隊なら下手すれば罰則が適用されてしまう、新しい技の取り扱いには注意しよう。






「よかった~思ったより大した怪我じゃなくて。転がり落ちてから時間が短かったのが幸いでしたね」

 少女はリックに絆創膏や湿布を張って応急処置をしていく。
 リックは上半身裸になってこそばゆい気持ちになりながらもおとなしく治療を受けていた。

「それにしても珍しいですね、この神社に来訪者がやってくるなんて。しかも外国の方が」
「ちょっとした身体の鍛錬でも言いましょうか、ここは静かでいい場所だったので」
「そうですか~。私の知り合いの方もよくここに鍛錬に来ますからこの周辺は修行の場に向いてるんですね」
「実際そうだと思いますよ。心を研ぎ澄ますにはちょうどいい場所かと」
「本来はお参りする場所なのに変な話です、でも神聖な場所だからこそそうなのかな。
 こう、神様に見守られているというかなんというか」

 上手く説明出来なくて思わず笑う少女。 
 そしてちょっと待ってくださいねと彼女は神社の建物に入っていく。
 その間にリックは治療を受けるために脱いでいた服を着て彼女がやってくるのを待つ。

「おや」
「くぅーん・・・?」

 茂みから狐が顔を覗かせていた。
 こちらを警戒するようにじっと見つめてくる。
 ひょっとしてこの神社に入った時に視界の片隅に入った物体だろうか?

 ちょっと好奇心が湧いたので呼び寄せようとした。

「怖くないぞ、こっちへこい」
「・・・」

 手招きする。
 だが狐はじっとしてこちらを警戒したまま動かない。
 それはそうか、野生動物がいきなり懐いたら苦労しない。
 スポーツバッグから買ったタコヤキのパックが入った袋を取り出す。
 その袋からパックを取り出しタコヤキ一つを狐に見せびらかせる。

 狐ってタコヤキ食うんだろうか?まあいいか。

「ほれ、これ食わないか?美味いぞ」
「・・・」

 やはり反応しない、駄目か。
 どうしたもんかなーと悩んでいると神社の建物から少女が出てきた。
 巫女装束と呼ばれるものに着替えて。

「お待たせしましたー」
「その姿は?ええと、お名前は何でしょう」
「那美っていいます。神咲那美、ここの神社の嘱託管理人兼アルバイトをやっています」
「なるほど道理で。私はリック・アディスンと申します、ええと、観光のようなものでこの地にやってきました」
「そうですかー。海鳴市はとてもいい所ですから楽しんでください。それにしてもなんだかロボット戦記物に出てきそうな名前ですね。
 さっきあなたが使っていた剣もそれっぽいですし」
「・・・私の剣に疑問を抱かないのですか?」
「世の中には不思議なことがいっぱいあります。似たようなオーバーテクノロジーは知り合いの家で見た事あるし
 最近の科学の発展もすごいですからビームサーベルがあっても不思議では無いとおもいます」
「そ、そうですか」

 ・・・何か少々ずれている子だ。
 オーバーテクノロジーを持っているという知人も気になるところだし。
 私の正体に疑問を抱かれないのは助かるけど。

「ところでリックさん、そのタコヤキで何をしているんですか?」
「あ、ちょっと餌で動物を釣ろうとしているんですが」

 那美の視線がリックの見ている方向に向く。
 そこには相変わらず警戒している狐の姿があった。

「久遠!くおーーん!!怖くないからこっちにおいで」

 那美が名前らしきものを呼びかけると狐は茂みを抜け出しこちらに向かって走り出す。
 こっちに到着すると那美の足元に駆け寄り少女はその狐を抱え上げて頭を撫でた。

「なんと、手強かった狐が那美殿に呼びかけられたらあっさりと・・・」
「ごめんなさい、この子人見知りが激しいから初対面の人間にはまず懐かないんです」
「あなたのペットなんですか?」
「ペットっていうより・・・今は親友かな、仕事で色々助けられてるし」
「ふむ」

 親友か・・・私に親友と呼ぶべき人間っていたかな?
 キングやバレス様等は尊敬の対象であって親友と呼ぶ間柄ではない。
 友人と呼べるものならエクスかな。
 こうして考えると私は親友・友人が少ないなぁ。

 それにしても種族を超えた友情か。
 この子と狐がその友情を築くまでにどれくらいかかったのだろうな。
 人間同士でも友情というものを作るのは容易いことではない。
 人の性格にもよるがちょっとした心のすれ違いで喧嘩や心の悩みというものは簡単に生まれてしまうものだ。
 真の友情というのは長い時間をかけて葛藤の連続の末に出来上がると個人的に思っている。
 那美殿や久遠も最初は簡単には上手くは行かなかったんじゃないかな?

「久遠、リックさんからせっかく美味しい食べ物をくれるっていうんだから好意に素直に従いなさい」
「くぅん」

 久遠は那美の手元から離れて恐る恐るリックの手元にあるタコヤキに近づく。
 匂いを嗅いでしばらくするとタコヤキを口にくわえてすぐに那美の後ろ側に回り込んだ。
 そして食事にありつく。

「ご、ごめんなさい。この子本当に臆病ですから」
「いえいえ、単なる好奇心から出た私の行動を受け入れてくれただけでも嬉しいですよ」
「そういって頂けると助かります」

 リックと那美は一緒に神社の縁側に座って広く見渡せる海鳴市や空、森を眺めて静かな風の流れを受け止めていた。
 時折那美が持ってきたお茶をもらって飲み、リックはお礼にタコヤキを一パックあげて那美はタコヤキを頬張る。
 仕事行くときに歯に青海苔ついてたら恥ずかしいな~と照れながら。
 久遠はまたタコヤキが欲しいのか隙を窺ってはタコヤキを奪い取り食べていく。

「そういえば知っていますか?」
「何です?」
「昨日私の知人の動物病院が何者かに襲撃されて破壊されたんです。幸い動物達には怪我はありませんでしたが
 それでその、知人が病院壊された~!って泣いちゃって」
「それは私の耳にも入ってましたがまさか那美殿の知り合いだったとは、災難でしたね」
「はい・・・」

 声を低めに落として知人を心配している那美。
 それを見てリックはちょっと罪悪感を感じていた。

 まさか当事者が目の前にいるなんて言えないよなぁ・・・。
 なのは殿を守るためにやってしまった行為とはいえ申し訳ない気持ちだ。

「その他にも広範囲に渡って道路や塀がありえないくらいに破壊されてて・・・怪獣が出たんじゃないかって噂まで出ちゃって」
「怪獣、か。その表現はあながち間違いではないかもしれません」

 実際は怪獣というか球体上の化け物だった。
 あの時、なのは殿がいなければ私は死んでいただろうか?
 逃げれば生き延びただろうがそんな事をしてしまえば付近の住民の命は無かっただろう。
 そして多分、なのは殿も命を落としてたかもしれない。
 そう考えると私が逃げずに二人と一匹で共闘したのは間違ってなかったかも。
 ジュエルシードを奪わずにそのまま帰ってきたのは怒られたが弱みにつけこんで
 奪うのはよくないと再度思う。

 ただ、この考えはアルフ殿の言うとおり破綻するかもしれない。
 もしジュエルシードのほとんどがあの少女の手に渡ったら私は正攻法で勝負をつけるだろうか?
 多分だが・・・邪道をとってあの青い石を奪うかもしれない。
 考えたくはないがありえる。

「まさか自分の信じていた騎士の道が頭を悩ませる種になるとはな」
「?リックさん、どうかしましたか。深刻そうな顔をして」
「ああ、すみません。お茶のおかわりもらえますか」
「は~い」

 給湯ポットから急須にお湯が注がれ、そして湯飲みにお茶が注がれる。
 それを一口飲んでふぅっと息をつく。

 考えるほどなんか頭が老け込んでいく気がするなぁ。
 悩みすぎると禿げるってこういう心理状態からくるんだろうか。

 そんなことを考えていると突然若い女性の悲鳴が神社内に響き渡った。

「何だ!?」

 リックはスポーツバッグから赤将の兜を取り出し、木製の鞘に包まれていたバイ・ロードを手に取る。
 那美も短刀のようなものを鞘に入れて何事かと手に握り締めた。
 久遠は那美の肩に上がっていたが何かを警戒しているのか毛を逆立てていた。
 二人は縁側から降りて悲鳴の元へ向かう。

 悲鳴を出したと思われる女性が這いずる様に境内へ逃げ込んできた。

「どうしたんです!?」
「しっかりしてください!大丈夫ですか!?」
「私の飼っていた犬が・・・突然変異して・・・」

 その言葉を残して女性は気絶した。
 何があったのか分からないがその答えはすぐに出た。
 リック達の周囲を素早く駆け巡る黒い大きな物体が飛び回っていたのだ。

「きゃっ!?」

 黒い物体が那美に飛びかかってきた。
 このまま体当たりを受けると思われたがそれはリックの拳にぶん殴られて防がれた。
 すぐさま那美はリックの背中に回りこんで恐る恐る自分を襲った正体を見る。

「グルルルル・・・・」

 それは犬の形をした獣だった。
 両目合わせて四つある真紅の瞳。
 牙が所々むき出しになり角が生えている。
 背中には鱗のようなものも生えて尻尾も細く長い。
 これは果たしてこの世界に存在する獣なのか?

 胸元を確認すると三日月の金色のペンダントが光っている。
 ということは・・・!!

「ジュエルシードの怪物か!!」

 再び獣が突撃をかけてくる。
 リックは動じずゆっくりと兜を被る。
 木製の鞘に包まれていたバイ・ロードが揺らめき赤い刀身へと変化していく。
 剣は昨日より一際強く輝き、見るものの目を吸い込むような美しい色をしていた。
 バイ・ロードが魔物に向かって振るわれた。
 常人には見えない剣閃は赤い残像となって空間に残りそれが初めて剣が動いていたという事を認識させた。
 魔物は硬い装甲のようであったがそれを斬り裂き血しぶきを上げて地面を濡らした。
 那美は目の前で起きた現象に驚愕する。

「り、リックさん!?今の太刀筋は一体!?」
「下がってて下さい那美殿。その女性を連れて安全な場所へ」
「は、はい!!」

 リックと獣の一対一の勝負になる。
 獣は傷がついた刀傷を舐めてこちらをじっくりと眺める。
 よく見ると傷が徐々に塞がっていくのが見えた。

 こいつも再生能力持ちか。
 だが昨日の奴と比べると再生速度が遅い。
 これなら一人でもなんとかなるかもしれない。
 だが念の為だ。念話で連絡を取っておこう。

(フェイト殿、アルフ殿、聞こえますか?聞こえたら返事をして下さい)
(おや?リック、どうしたんだい?)
(よかった通じた。フェイト殿は?)
(んーちょっとアタシと別行動して石を探索している。・・・ひょっとしてジュエルシード見つけたか?)
(今、それに取り付かれた怪物と交戦中です。一人でも何とかなるかもしれませんが出来れば援護を)
(了解、大急ぎで向かうがかなり距離があるな。到着するのに時間かかるがそこは勘弁してくれ)
(大丈夫ですよ、簡単にやられるほど私は弱くありません)
(違いない、フェイトは石探索に夢中で合流できないけどアンタとアタシならなんとかなるさ。健闘を祈るぞ)

 念話が途切れる。
 大体の用件を済ましたリックは剣を構えて臨戦態勢。
 先手を打って獣に斬りかかった。

「いざ、参る!!」


















 後書き

 ゲスト出演の神咲那美ちゃんと久遠ちゃん。
 とらハ3では一番お気に入りのコンビだったから登場させたかった。
 仮にこの話がリリカルなのはA'sまで続けば八束神社(と思われる場所)が重要拠点となって
 この二人が活躍するかも。
 ちゃんとこの話を上手く完結させないと無理な話ですが。
 しかし今回の話は難産だった・・・。でも面白いかどうかと聞かれると分からない。
 自分なりに楽しんで書いてるのですが。

 それにしてもアニメの美由希は可愛いなぁ。
 兄と一緒にもっと動いてる場面がもっと見たかった。






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