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No.28792の一覧
[0] 【完結】リリカルマジック ~素敵な魔法~ (リリちゃ箱→Force)[GDI](2011/08/04 07:56)
[1] その2  気苦労多き八神司令[GDI](2011/07/14 16:44)
[2] その3  優しい時間[GDI](2011/07/17 11:24)
[3] その4  たいせつなもの[GDI](2011/07/22 14:06)
[4] その5  魔法の言葉はリリカルマジカル[GDI](2011/07/22 14:06)
[5] その6  決意、新たに[GDI](2011/07/24 13:57)
[6] その7  ただいま[GDI](2011/07/27 01:26)
[7] 番外編 高町一尉の異世界生活[GDI](2011/07/31 13:11)
[8] 番外編 花咲く頃に会いましょう[GDI](2011/08/04 08:02)
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[28792] その2  気苦労多き八神司令
Name: GDI◆9ddb8c33 ID:97ddd526 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/14 16:44
 
リリカルマジック ~素敵な魔法~

その2  気苦労多き八神司令


 第一世界ミッドチルダ 特務六課 司令室


 対フッケバイン対策部隊である特務六課の司令官、八神はやては気分を沈ませていた。たった今彼女の元に入った情報は、とても気分を楽しませるものではなかったからだ。

 その情報とは、彼女の家族である、守護騎士のリーダー、烈火の将と呼ばれるシグナムが、フッケバイン一家の1人と交戦し、瀕死の重傷を負ってしまったことを知らせるものだった。

 ただでさえ厄介な存在であるフッケバインに対し、本格的に作戦を始める前に主戦力の1人であるシグナムが戦線離脱してしまったのだから、今後の作戦の支障をきたす恐れもある。

 とりあえずはシグナムのことは当分戦力とは数えられない…… そう考えた所で、はやては嫌気がさした。

 それは対策を考えることに対してではなく、大切な家族が重体だというのに、それを”戦力が減った”と認識している己の思考に対してだ。

 無論自分は司令官である。この先さらに部隊から負傷者を出さないとためにも、作戦は慎重に考え、現状はきちんと把握していなければならない。

 公人としての自分と私人としての自分はきちんと分けなくてはならない。だが、今自分はそうした葛藤をせずに公人としての自分であり続けていた。

 それは果たして良いことなのだろうか? 「指揮官」としては良いことだろう、だが「家族」としては……

 そこまで考えてはやては頭を振った。やめよう、今はそんなことを考えている時じゃない。この先なのはやヴィータたちをシグナムのような目に逢わさないようにするのが仕事だ。今は仕事を優先させなければいけいない。

 しかし、そもそもにおいてこの特務六課の部隊運営は初めから頭を痛ませるものだった。最初に任命されたと時は一瞬何を言われたのか分からなかったほどだ。

 ”未曾有の事件であったJ・S事件を解決した元機動六課のメンバーで、フッケバイン一家の捜査、逮捕にあたれ”

 その内容を聞いたとき、はやてのなかで怒涛のごとくツッコミが沸き起こった。

 確かに機動六課は若き日の自分の夢であったし、その日々は充実したものだったと思っている。

 しかし、全てが上手くいったわけではない、確かにJ・S事件を解決したことで六課の設立理由であった”緊急時専門の部隊”としての成果はあがった。しかしその後の半年間はさしたる事件も無く、5人以上もの局内屈指の高ランク魔導師を、悪く言えば”遊ばせてしまった”結果も残っている。

 つまり1年間の実験期間のうち、リミッターをつけてまで高ランク魔導師を常駐させた成果はあったのか、コストに見合ったリターンはあったのかといわれれば、よくて5分5分だろう。

 頼りになる先輩であるクロノ曰く「六課はあくまで実験部隊だった。やってみて初めて良い点と悪い点が浮き上がる、だから君達の努力を生かすためには、これからの上層部の対策次第になるということさ。僕も、出来るだけ力を尽くすつもりだ”とのことだった。そして残念ながら、まだそうしたスクランブルの体制は整っているとはいえない。

 だが何よりも、かつての六課は”地上本部、ひいては首都クラナガンにおいて大規模テロが起こるのを防ぐ”という点を重視されて作られた組織なのだ。それ故に陸と海の連携が重要ということで、あのような少々歪な部隊となり、そして自分たちはその点では上手く出来なかったと反省している。本当はもっと辞を低くして地上と接するべきだった。

 あの頃は若かったなぁ、血気盛んやった、とはやては述懐する。

 ちなみに、そのJ・S事件は”民間人に1人も死者が出なかった”ことでも大規模テロとして未曾有の事件である。管理世界の中心であるクラナガンで起きた事件にもかかわらず、民間人に負傷者すらほとんど出なかった。

 むろん局員には多くの負傷者は出たが、それでも重体となったのはごく一部で、死者は指で数えるほどしか出ていない。死者が出たということは痛ましいことではあるが、事件の規模を考えれば、ほぼ有り得ない話だ。

 その以前でも、スカリエッティに関わって死んだ者は、局の武装隊以外には居なかったし、しかもそれは最高評議会の指示だったとも言われている。

 その点を、首謀者であるジェイル・スカリエッティに取調べの際に聞いたところ、以下のような返答が返ってきた。


 「無闇に流血と破壊を見るのは私の美学に反するのでね。強大な武力を盾に、弱者を無為に蹂躙する、そんなことは力さえあれば誰でもできることだよ。スマートではないし無粋だ、なにより美しくない。私の娘達が舞う晴れの舞台の演出を、そんな野暮なものに出来るはずが無いだろう。もっと優美で、洗練されたものでなければならないのだから、殺人など以ての外だよ」


 取調べを担当した局員は、改めて目の前の科学者が人格破綻者であることを認識したらしい。

 それに比べればフッケバイン一家はある意味”まっとう”だ。彼等の能力の特殊性はともかく、やっていることを列挙してみれば「ありふれた犯罪集団の行動」でしかない。

 言い方を変えれば、彼らは肉体は超人だが、精神は常人なのだ。

 しかし、その精神健常者であるフッケバインは無辜の民に殺戮を振りまき、狂人であるスカリエッティ博士が愉快犯的思考とはいえ殺人を禁忌としていた、というのは一体何の皮肉か。

 そのフッケバインは複数の次元世界を股に掛ける集団で、その対処は完全に”海”の領分だ、地上で活動することを前提とした機動六課のメンバーを”以前成果を挙げたから”という理由で再編成するという考えは、あまりにも短絡的すぎないか。

 そしてその召集したメンバーも問題だ。

 もともとフッケバインを追っていた執務官のフェイトとティアナ、これは問題ない。本局航空武装隊のシグナム、海上警備部捜査隊のザフィーラ、医務官のシャマルも同じく。

 しかし戦技教導隊のなのは、ヴィータ、この2人は少々問題がある。そもそも教導隊は百人に満たず、そのうち半数近くが他の部隊との兼任だ。専任は少ない。

 その少ない専任教導官を一気に2人も引き抜いたのだ、教導隊のトップが不動明王の如き表情をしているであろうことは、想像に難しくない。

 それでもここまではいい、教導官はそういう召集がかかる事があるというのは前提である一面もあるのだから(やはり一度に2人は少ないが)、しかし問題はこの後だ。

 港湾特別救助隊の防災士長であるスバル、そして辺境自然保護隊のエリオとキャロ、この3人の仕事は本来こうした事件の緊急要請とは無縁で、何より3人は”陸士”だ。

 彼らは今まで次元航空艦に乗ったことすらほとんどない、それがたいした訓練も無くいきなりの実戦である。

 司令部の同僚に、元六課メンバーであることと個人名を伏せて、所属先だけ見せてこの部隊をどう思う? と聞いたところ。

 「見事な寄せ集めだな」

 との貴重な意見が返ってきた。

 そのうえ、六課解散から6年以上が経っている、急に連携をとれといわれても、ろくな訓練期間もなしにはできるものではない。ただでさえスバルたちは畑違いなのに。

 そこまで考えて、はやての脳裏に1人の人物が浮かんだ。

 (レジアス中将………)

 彼が生きていれば、今回のようなスバルたちへの召集に対し、

 「完全に領分違いだ! 防災士長に犯罪者を追わせるなど何を考えている! 災害が起きた際に彼女の能力を必要とする被災者がどれほどいると思っているのだ、理不尽な引き抜きも大概にしろ!!」

 と怒鳴り付けているだろう、そして彼の主張は正しいのだ。レスキュー隊員にさせる仕事ではない。

 亡くしてしまって初めて故人の偉大さが分かる。生前彼とは対立関係あったはやてだが、彼が生きていればじっくりと教えを乞いたい、と今では思っている。虫がいいのは自覚してるが、年をとれば見えてくるものが変わるのだ。

 しかし、なにはともあれやるしかなかった。ここで必要なことは開き直りで、与えられた人員を最大限に活かせる作戦を考えなくていけないと、開き直った頭で考えた結果、そのスバルともう1人なのはを「切り札」にしなければならなかったことは、はやてとしても苦渋の決断だったが。

 ともあれ、これでフッケバインの足どりは掴めた。なのはやヴィータたちの武装は最終チェックの段階に入っているし、明日の朝にでも作戦を開始させれるだろう。相手は神出鬼没の凶悪犯、足どりがつかめているうちに対処しなくては。

 そうして気持ちを切り替え、武装の最終チェックを行っていたなのはにスクランブルの連絡を入れようとした時、逆に彼女が居るCW社の機器試験場から通信が入った。

 ちょうどいい、早速現状をしらせようと思い回線を開いたはやてだが、向こうからの知らせを受けて、その内容に10秒間以上放心することになった。

 ただでさえ頭の痛い部隊運営に、さらにもう一つ頭を痛ませる要因が増えたのだ。





 第3世界ヴァイセン CW社機器試験場



 高町なのはは驚きのあまり声もだせない状態にあった。

 ついさっきまで自分の家の寝室に居たのに、あの鏡から発せられた光に包まれたと思ったら、一面無機質な金属の壁に覆われた、なにかの実験室のような場所に居たのだから。

 周りを見渡すとなにやら大掛かりな機材が並んでおり、そのどれ一つとしてなのはは一度も見かけたことは無いものだ。これでも自分は機械類には明るく、最新のものでもわかるつもりで居たが、全く知らないものばかりだ。もしかしたら義姉の月村忍ならこういうものも知っているかもしれないが。

 そして何より、自分の足元に転がる、大きな剣のような、バズーカのような、そんな物々しい”武器”。自分では両手で抱えても持てるかどうか分からない、そんな物騒な代物。

 いったいここはどこだろうか。あの鏡をくれたレンの話が真実だとするならば、自分は並行世界の自分と入れ替わったということになるのだろうか。

 並行世界という概念は、夫のクロノから聞き知っている、他ならぬクロノ自身がその並行世界の出身なのだから。だけど彼曰く”今のミッドチルダの技術では、類似した世界にはいけない”ということだった。つまりアレは彼の世界には無い不思議な器物ということなのか。

 世界には不思議な事が一杯あることは知っていた、知っているつもりだった。

 友達のくーちゃんこと久遠の存在や、その主である神咲那美の力など最たる例だし、フィアッセや医師のフィリス先生も変わった”能力”を持っているのだと何年か前に聞いていた。それに若干自分の兄姉もその領域に片足を突っ込んでいる気がしないでもない。

 なんと言っても、自分自身が十数年前は”魔法少女”だったのだ、世の中どんなおかしなことが起きたって不思議ではない。

 とはいえ、流石にこの状況は驚きだ。何よりもなのはを驚かせているのは、もしレンがいったように、あの鏡の力が”別の世界の自分と入れ替わる”ものだったというなら、その”別の世界の自分”がこのような場所に立っていたのか、ということだった。

 そしてこの”兵器”が足元に落ちているということは、”自分”はこれを持っていたという事だろうか? こんなものを”自分”が?

 そうしてさまざまな疑問や思考でなのはの頭が錯綜している所へ、彼女をさらに混乱させる事態が発生した。即ち、モニターしていた技師達からこ声がかけられたのだ。

 『高町一尉! 大丈夫ですか? 今の光は!? それと…… どうしてバリアジャケットを解除したんですか?』

 ばりあじゃけっと? いちい? なのはには何のことだか分からない。だが、人が居るのならまずは話を聞かなくてはならない。まず、ここはどこか知らないといけないし、自分は誰かを知らせないといけない。 

 なので彼女は声がした方を見た、見上げる高さにあるそこには、ガラス張りの窓というにはあまりにも大きな囲いの向こうに、何人かの白衣やどこかの制服を着た人たちが立っている。そして皆一様に驚いた顔をしている。

 人が居ることに安堵し、そしてなのはは彼らに聞こえるように大きな声で話かけた(室内の通信がONになっているのでそんな必要は無いが、彼女に分かるはずも無い)

 「あの! ここはどこでしょうか!?}





 なのはの話を聞いた技師や局員は、その内容に目を剥いていた。

 とても信じられる話ではないが、確かに外見は高町一等空尉だが、性格は別物のようだ。不安そうに自分たちの顔を見たり、落ち付かない様子で周囲を伺う姿は、とてもあの「エース・オブ・エース」とは思えない。

 彼らも管理局員、この広大な次元世界には、人知の及ばぬ力を発揮するロストロギアなるものが多く存在するのだ、その中にはまだ管理局が知らぬ効果を持つものもあることだろう、という考えを持つことができている。

 ということは、この目の前の女性は、先ほどまで自分たちが接していた高町なのはでなく、次元漂流者ということになるのか。ならば自分たちの手に負えることでない、と皆で相談した後、彼らはロビーのソファになのはを座らせ、司令官であるはやてや、この建物内に居るヴィータに連絡をいれる事にした。



 そうしてヴィータを待っていたなのはと局員達だが、その両方とも落ち着かない様子であった。

 一応の説明を受け、今は彼等の”上位の人物”を待っているのだが、やはりその内容が今一飲み込めず、やはりここが何処なのか分からないことも不安だし、それ以上になのはを落ち着かせない原因がある。

 受けた説明のうち、ここは新開発された”魔導端末”の試験場であるとのことだが、何よりもその事実がなのはを驚愕させた。

 あの物々しい”兵器”が、この世界の魔法の力ということらしい。首から下げているレイジングハートを見つめ、この宝石とあの兵器が同じ”魔法”の力を持つ物とは思えなかった。

 自分の世界とこの世界とでは、魔法というものに大きな隔たりがあるように感じられる。だって、あの大きな剣のような大砲のようなものが、周りの人たちに笑顔をもたらせるものだと思う事が、なのはには出来なかった。あれは、きっと誰かを傷つけるものだ。

 そうしたさまざまな事実が一度に頭に入ってきたので、まだなのはは上手く頭の中を整理する事が出来ないでいる。

 そしてもう一方の局員達、とりわけ男性局員もかなりの困惑の中にあった。

 どうやら彼女は次元漂流者で、自分たちが知る”高町なのは”とは同一人物でありながら別存在のようだ。そのことには一応の納得はした。

 だから彼らの精神を騒がせているのは、彼女が何者かという事実ではなく、その”高町なのは”の様子そのものだった。

 高町なのはの容姿は一言で言えば美人だ。だが、そのエースオブエ-スという称号や、彼らが知るなのはから常に感じられるオーラのようなもので、彼女を美しいと思うよりも先に「ああ、この人はどんな時でも慌てないで構えてられるんだろうな」という一種畏敬のような念を抱いていたのだ。

 それは無論彼女が屈指のエースである、という先入観も手伝っているのだろうが、それを踏まえても彼らが知るなのはには、ある種の貫禄があり、それゆえに彼女を”綺麗な女性”としてみる事が無かった。

 しかし、目の前に居る女性は、不安げな瞳で、迷子のような頼りなさが感じられる。そのうえ、今の彼女は彼らが知るエースとは違い、白いワンピースのような夜着で、サイドに纏めている髪も解かれている。その姿は男性でなくても”守ってあげないと”という気分にさせるに十分なものだ。

 それゆえに困惑した、まさかあの高町なのはに、そんな感情を抱くことになるとは、と。

 そうしてほとんど会話も無く時間が過ぎているうちに、知らせを聞いたヴィータが現れた。






 ヴィータは知らせを聞いたとき、無論仰天した。一体何の冗談だ、怒鳴りつけたくなるほどに。しかしそんなことをしても意味が無いことを彼女の理性は知っていたので、自分を抑えることが出来た。

 そして移動してるうちに何とか気を落ち着け、次元漂流者である”高町なのは”に対応しようと思っていた。

 だが、なのはが居るロビーに入って彼女を見たとき、彼女の脳内は再び驚愕で埋まってしまった。

 「えっ、桃子、さん? なのはのかーちゃんの……」

 と思っていたことをつい無意識に声に出してしまうほどに。

 「あなたは、お母さんのに会った事があるの?」

 ヴィータの言葉になのはも驚いたが、常日頃から「母にそっくり」と言われていたことから、母に間違われることは慣れている。

 そして、待っていた”上位の人物”が小学生程度の少女であったことも驚いたが、この短時間のうちになのはもいくらか腹を括った。脅えているだけでは何もよくならない、しっかりと自分を持たなくては、と自分を奮い立たせることにしたのだ。彼女もまた、不屈の心の主であるが故に。

 なので、ヴィータの姿を見ても、この少女が”上位の人物”であることに疑問を持つことはしなかった。久遠という見かけと年齢に天地の差がある存在を知悉していることも、すんなりと受け入れる一因になっていたかもしれない。

 「ああ、そうか、なのはだよな、うん、ちゃんと見ればなのはだ…… えと、あたしはヴィータだ、はじめまして、になるんだよな、なんか変な感じだ……」

 「うん、ヴィータ……さんでいいのかな? 高町なのはです、はじめまして」

 そう答えられてヴィータはなんともいえない表情になる。まさかなのはから「さん」付けで呼ばれる日が来るとは夢にも思えなかった。

 「ああ~、いや、別に強要無しないけど、イヤじゃなければ「さん」じゃなくて「ちゃん」付けでたのむ、なんつーか落ち着けねぇんだ」

 「うん、それじゃ、よろしくお願いします、ヴィータちゃん」

 「できれば敬語も…… まあ、それはいっか、とりあえず、何度も悪いけど話を聞かせてくれ」

 「はい、わかりました」

 そして幾分落ち着きを取り戻し、気を持ち直したなのはは、局員たちへの説明の時より明瞭且つ無駄なくここに現れた経緯を説明した。それを真剣な表情で聞いたヴィータは、これははやてのところに行くしかねーな、と判断を下し、なのはと一緒に転送ポートに行くことにしたのだった。




 第1世界ミッドチルダ 特務六課 司令室


 ヴィータに説明を終えた後、なのははヴィータに連れられ、なにかの機械の上に立ったと思えば、次のに瞬間にはこの世界に来た時のような感じの光に包まれて、また目を開けたときは別の場所に居た。

 しかし、今回はその機械によるものだという事が分かっていたので、驚くというよりは感心してしまった。凄く文明が発達した世界なのだと。

 (なんか、魔法の世界というより、近未来SFの世界みたい)

 周囲の風景は”魔法”という単語から連想されるファンタジーな世界、というよりは、海外ドラマなどに出てくるサイバーパンクの世界のような雰囲気だ。

 そんな感想を抱きながらヴィータについて歩いていくうちに、一つのドアの前で停止した。そのドアも、彼女がよく触れるノブが付いているものではなく、プシュー、という音とともに横に開く近未来的なものだった。

 そしてヴィータに促がされ部屋の中に入ったなのはだが、そこで待っていた女性の顔をみて、小さいがはっきりとした驚きの声を上げてしまう。

 「レンちゃん……?」

 「へっ?」

 部屋で待っていた女性の雰囲気が家族に似ていたので思わず言ってしまったなのはだが、きちんと見れば髪の毛も茶色だし、長さも違う。

 「あ、ごめんなさい、貴女が家族と似てたので、つい変なこと言っちゃいました」

 「いえ、そんな、謝らなくてもええですよ」

 慌てて謝罪するなのはに、若干戸惑いながらはやても答える。と同時になのはの家族に「レン」なる人物は居なかったはずなので、どうやら本当に目の前のなのは(実ははやても桃子かと一瞬思った)が違う存在だと認識していた。

 (言葉遣いもレンちゃんと同じだ……)

 一方のなのはは、はやての返事からそんな印象を受けていた。もしかしたらこの世界でのレンちゃんなのかもしれない、という考えも若干抱いている。

 「とりあえず自己紹介しますね。わたしは八神はやて、時空管理局の特務六課司令で、階級は二佐です。よろしくお願いします。それで何度も申し訳ないんやけど、事情を説明してくれますか? 貴女の言葉で聞いておきたいので」

 公式の場であるので、はやては言葉使いを整えて自己紹介し手を差し出す。それに対してなのはも背筋を伸ばし、差し出された手を握り挨拶する。

 「はじめまして高町なのはです。肩書きとかなんにもない、ただのお菓子職人ですけど」

 そういって笑うなのはは、たしかにはやてが知ってるなのはの笑顔だが、やはり自分が知るなのはより「桃子さんに似てる」という印象を受ける。

 「いや、肩書きなんてたいしたことあらへんよ、いやありませんよ。いかんなぁ、どうしてもなのはちゃんと話してる感じになってまう」

 「構いませんよ、私も、友達に対していきなり敬語で話せ、て言われても無理だと思いますから」

 「そんならお言葉に…… いやいやそういう訳にもいきません、今は仕事中ですから」

 「でも、言いづらかったらいつでも変えてもらってイイですからね?」

 そうしてまた笑うなのは。少し前の不安な様子とは違い、彼女は心境を変えていた。ヴィータに案内されてここに来るまでに、一つの決心というか、自身に誓いを立てていたのだ。

 ここが何処かはまだ今一理解できていないし、元の世界に無事帰れるかどうかも分からないけど、もう戸惑うのはよそう。そして例え何が起こっても、絶対愛する夫と子供の元へかえるのだ、と。

 自分が居なくなってクロノは心配しているだろうし、息子の士郎は寂しがるだろう。片親であった自分は親が居ない寂しさをよく知っている。だから息子にそんな思いをさせるわけには絶対にいかない。絶対無事に帰るのだ、と、そう決意していた。

 そうしてなのはが3度目の説明をし、その後にはやてが管理局の概要と、この特務六課のことと、その中でなのはが担う役割を説明した。

 「そうなんですか、そんな大変な時期にご迷惑をかけてしまって、本当にゴメンなさい」

 「だからええですよ、なのはちゃ……なのはさんの所為やないんですから。ともあれ、一応、貴女の身柄は次元漂流者ということになりますので、こちらで保護させてもらう形になりますが、よろしいですか?」

 「ご迷惑でなければ、と言いたい所ですけど、すでにもう十分迷惑かけてしまっているので、恥を忍んでお願いしたいくらいです」

 「いえいえ、これこそ管理局のお仕事、って感じですもん。私個人としても、犯罪者追うよりは、なのはさんとお話してるほうが楽しいですし」

 「ありがとうございます」

 そうして頭をさげるなのはに、はやては若干表情と雰囲気を重くして言葉を綴る。

 「ただ…… そのですね。こちらの都合として、今回の作戦だけは、なのはさんにこれから出撃するうちらの船に乗ってもらうことになるかも知れないんです」

 はやてとしても、次元漂流者で民間人であるなのはを次元航空艦”ヴォルフラム”に搭乗させることには抵抗がある、しかし、現状では”高町なのは”には最低でも搭乗してもらわなくてはならないのだ。

 今回の召集は少々強引な所がある、教導隊の隊長たちはかなり苦々しく思っているだろう。そこへさらに「今回は高町一尉の出番はありませんでした」とは言えない。今後似たようなスクランブルの時のためにも、いまから余計な軋轢を生みたくは無い。

 既に作戦は開始されている、もう少し猶予があれば別だが、今の段階まで来てしまえば、どう展開しても”高町一尉が参加しない”状況はありえない。このなのはが別世界から来たと証明できれば良かったのだが、残念ながら難しい。その原因となっているロストロギアのような代物は、向こうの世界に存在しているのだから。

 はやてとしては、ある可能性に賭けている、それが彼女の望むとおりであれば、彼女がヴォルフラムに乗る必要はなくなるが、なんとなく”望み薄”だとも思っている。

 「もちろん貴女のことは必ず私達で守ります。どんな事が起こっても、貴女だけは守り抜くと誓います」

 かなり必死な様子のはやてを見て、なのはは申し訳なくなってくる。自分が来てしまったばかりに、この人に余計な気苦労をさせてるんだろうな、とその強い感受性で察していた。

 だから、なのはは少し冗談っぽく答えることにした。

 「わかりました、必ず守ってくださいね? 乙女の柔肌は繊細なんですから」

 そのなのはの答えに、はやてはかなりビックリした表情になった。そんな様子をみたなのはは、外したかな、と思い、言葉を続ける。

 「ご、ゴメンなさい、ふざけていいことじゃないですよね」

 なのはの様子にはやては忘我の状態から我を取り戻し、慌てて答える。

 「い、いや別に怒ったとかそういうことやないんよ、ただ、今の言い方とか表情とかが、ほんっっとうに桃子さんにそっくりやったから」

 「あ、はやてさんもお母さんのこと知ってるんですね」

 「うん、何度も会うてるで、あんな綺麗で明るい人はなかなか居ない…… と話が脱線しとるな、というかアカン、口調がまた素にもどっとる」

 「だから、構いませんよ」

 「そういうわけには…… いやもうええわ、ここまで来たら今更やな。ほんで、ほんまにええの? さっきも説明したけど、わたしらが追ってるのは殺人、強盗なんでもござれの凶悪犯なんやで、追いついたら、間違いなく戦闘になる」


 口調は砕けてるが、真剣な表情で再度問うはやて。この問題は管理局の、自分たちの都合で、それを本来被害者的な立場に居る彼女に押し付けて良いものではない。なのはがイヤだといえば、”高町なのは”の不参加の責任は負う覚悟はある。

 はやての剣幕に、なのはもまた真剣な表情になるが、返答は早かった。

 「はい、私は貴女を信じます、はやてさん」

 それは、はやてがよく知る「高町なのは」の瞳であった。真っ直な心で相手を信じる、その心がよく現れている綺麗な瞳。

 「……ありがとうな」

 「いいえ、こちらこそ迷惑をかけます」

 申し訳無さそうに笑うはやてに、相手を思いやる微笑を浮かべるなのは。出撃前の司令室だというのにどこか優しい空気がそこにあった。

 そしてなのはにある検査をしてもらうために、はやてはその準備をさせるためにリインに通信を入れ、もしかしたらなのはを危険な目に逢わせない事が出来る可能性を探るため、質問をした。

 「ええと、ちょっともう一つ聞きたいんやけど、ええかな?」

 「ん? いいですよ、なんでも聞いてください」

 「なのはちゃ、ンン! なのはさんは魔法を使ったこととかありますか?」

 もしこのなのはが魔力を持っていなければ、この女性が「高町一尉ではない」という証明になる。いくらリミッターを掛けても、0には出来ないのだから。

 「実は…… あります。お恥ずかしい話ですが、私9歳の時に魔法少女をやってたんですよ」

 そうして舌をだして可愛らしく言うなのは。その姿は同姓から見てもとても可愛らしいものだったが、その言葉ははやての心を抉った。

 (わたし、その”魔法少女”時代から、騎士甲冑変えてへんのや……)

 そして、この世界のなのはもほとんど意匠は変わっていない。ずっと「小学生時代の制服をアレンジした」デザインである。フェイトは結構大人っぽい落ち着いたデザインになってるが。

 「そ、そうなんか。ん? 9歳の時にってことは今はどうなん?」

 「やく、わかりません。ちょっと前なら使えないって言えたんですけど……」

 そう言って、なのはネグリジェの胸元から赤い宝石を取り出す。その宝石はなのはの掌で仄かに柔らかな光を放っていた。

 「レイジングハート……」

 「やっぱり、こっちの私も持っているんですか?」

 「ああ、持っとるよ、ただ、こっちのほうがちょう大きいかな」

 「今日の昼ごろだったんです、またレイジングハートが光りだしたのは、もしかして、私がここに来たことと関係があるのでしょうか」

 「無い、とは言えへんなぁ。この案件終わったらこの子を解析させてくれるかな、なんか分かるかも知れへんし……」

 「うーん、解析ってどんなことします?」

 「不安やったら、立ち会ってもらっても構へんよ、おかしなことはせえへん、と思う」

 最後の単語に一抹の不安を感じたが、とりあえずなのはは了承した。はやての方は、やっぱりこのなのはにも魔力はあるかな、という思いが確信に近づいていた。ただ、その魔力量がこっちのなのはよりかなり少なければまだ望みはある。

 そこへなのはの検査の準備が出来たことを知らせる通信が入った。

 「なのはさん、悪いけど、ちょっとした検査受けてもらえるかな、なんも危ないこととか無い簡単な検査やから。その結果によっては艦への搭乗はせえへんでもよくなるかも知れへんから」

 「え、あ、はい、わかりました」

 はやてのお願いにも、あっさりと笑顔で受け入れるなのは。やっぱりなのはちゃんやなぁ、とつくづくはやては思う。

 「ゴメンなぁ、知らない世界に来て不安ばっかなのに」

 そうして純粋に気遣いで言ったはやてに、なのはははやてが見たこと無い種類の笑顔で返事をした。

 「確かに、ここに来たばかりの時は不安で一杯でした、でも、そんな脅えてばっかりじゃいけないって思ったんです」

 「それは、どうして?」

 「私がお母さんだからです。実は子供が一人いるんです、その子に親がいない寂しい思いをさせるわけには絶対にいかないから、私は絶対帰らないといけなくて、それには前向きじゃないといけない、そう決めたんです。子供のためなら、お母さんはどんな事でも出来ちゃうんですから」

 その表情は母の顔だった。ああ、だから自分は目の前のなのはを、桃子さんソックリと感じたのだろう。無論こっちの世界のなのはも母親だが、同時に姉のような雰囲気もある。
 
 はやてがそう感心していると、なのはの表情がすこし変わる、母の顔から、ちょっと恥ずかしげな感じの、乙女の顔、とでも表現するべき表情に。

 「それに…… もし私がなにやってもダメでも、必ず旦那様が助けに来てくれるって信じてるから……」

 流石に言うのが恥ずかしかったのだろう、はやてから視線を外して頬を紅く染めている。

 (なんや、このなのはちゃんは、こっちのなのはちゃんよりも可愛い感じやな)

 「そかー、きっと素敵な旦那様なんやね」

 はやてが割りと思ったことをストレートにいうと、なのはは目を輝かせて語りした。

 「うん、クロノ君は凄いんだよ。頭はいいし、優しいし、声が素敵だし、顔も綺麗だし、髪もさらさら出し、気配りが出来るし、表情も柔らかくて素敵だし、あと……」

 延々と自分の夫のよい所を並べだすなのは、普通なら惚気話はまた今度、と言うところだろうが、今聞き逃してはいけない単語がなかったか?

 すかさずそのことを聞き質そう、と声をだしたはやてだったが―――

 「ちょっと待って、いまクロ「お待たせしましたー、なのはさん、こちらへどうぞですぅ」

 かなり狙ったようなタイミングでリィンが入ってきたので、はやての質問は遮られてしまった。

 「あ、わかりました。ええと、この子、いえこの方についていけばいいんですか?」

 「あ、ああ、うん、リィン案内お願いな」

 「はい、分かりましたです。はじめましてなのはさん、リンフォースツヴァイです、リィンって呼んでくださいです」

 「もう知っているし、貴女は”私”を知っているとは思うけど、高町なのはです、よろしくお願いします」

 「敬語はいらないですよ~、なのはさんにそうな風に言われると、なんだかこそばゆいです」

 「そう? それじゃあ、うん、そうさせてもらっていいかな」

 「ハイ! そうしてくださいです」

 「それじゃ、よろしくね、リィン」

 そうしてはやてにお辞儀をしてから、なのはとリィンは部屋の外へ出て行った。実はその際なのはは「この子、なんとなくフィリス先生に似てるかも」と思っていたりしていた。

 一方部屋に残されたはやては、なのはが言った言葉について深く考えていた。

 (えええ! 向こうの世界のなのはちゃんの旦那さまってクロノ君なん!? エイミィさんはどうしたんやろ? というかあの惚気のうちにクロノ君に該当しない項目があったような気もするし、クロノ君がいるならフェイトちゃんとかもいるんやろか? ああ、もうわからへん!)

 と、かなり混乱した状態にあったが、その直後入ったオペレーターから入った通信によって、自分がしなければならない仕事を思い出し、頭を切り替えることにした。

 この問題は、作戦が終わった後になのはちゃんからきっちり聞き出そう、と誓いながら。

 

 




 そうしてしばらく経った後、リィンがなのはの検査結果をもってやってきた。そして、その表情には困惑が浮かんでいるのがよく分かる。

 その表情を見て、はやてはどうやら結果は芳しくなかったか、と心の中でため息をついた。

 「なのはさんの結果なんですけど……」

 「やっぱり魔力はあったんやね」

 「……はい」

 まあ、そのことは確実だとは思っていた、ただ、その数値が低ければいい、と思っていただけだ。

 「それで、だいたいどのくらいなん? 個人的希望としてはこっちのなのはちゃんの1/3くらいやったら嬉しかったんけど」

 「そ、それが……」

 リィンの様子が少しおかしい、なにやら信じられないものを見たあとのような感じだ。

 「おんなじくらいだったとかかな」

 なのはの魔力保有量は管理局でも指折りだ。それと同等というのは、同質の存在であっても、やはり驚きだろう。だがリィンの表情はそんなくらいの驚きではない。となると

 「もしかして200万近いとか、フェイとちゃんとおんなじくらい?」

 フェイトの平均魔力量は206万、単純な魔力量で200万を越すとなると、次元世界でも指折りだ。

 そうはやては思ったが―――

 「平均で329万です」

 「はえ?」

 その考えは甘かったようである。たっぷり10秒間リィンの言葉を咀嚼し、ようやく頭まで届いたらしく大声を上げる・

 「ななな、なんやて! 329万? そんなんこっちのなのはちゃんの177万の2倍近いやないか!!」

 「はい、そうなんです!、わたしもはやてちゃんの250万以上の人なんて初めてみました!」

 ちなみに、6年前までなのはとフェイトは同等だったのだが、J・S事件の際になのはは限界以上の魔力を使い、その後遺症でリンカーコアの出力がそのまでより下がっていた。

 「いったい何者なんや、あのなのはちゃんは……」

 「わかりませんです、でも、これでやっぱり艦に乗ってもらわないといけなくなりましたね……」

 「そうやねー とりあえずそのこと伝えといてや……」

 ただでさえ気苦労が多い八神司令に、さらなる気苦労の種が追加されてしまった瞬間だった。
 


 
 

 


あとがき

なんか説明だらけになってしまいました。まことに読みづらいとは思いますが、温かい目で勘弁してやってください。
次回は、他の六課メンバーと顔合わせになると思います、たぶんそんなに長くはならないかなーと。
ついでに、今回出した魔力値は遊び心です。元ネタわかる人いるかな~、でもそこまでかけ離れていないのでは、とも思ったり。 

 


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