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No.28792の一覧
[0] 【完結】リリカルマジック ~素敵な魔法~ (リリちゃ箱→Force)[GDI](2011/08/04 07:56)
[1] その2  気苦労多き八神司令[GDI](2011/07/14 16:44)
[2] その3  優しい時間[GDI](2011/07/17 11:24)
[3] その4  たいせつなもの[GDI](2011/07/22 14:06)
[4] その5  魔法の言葉はリリカルマジカル[GDI](2011/07/22 14:06)
[5] その6  決意、新たに[GDI](2011/07/24 13:57)
[6] その7  ただいま[GDI](2011/07/27 01:26)
[7] 番外編 高町一尉の異世界生活[GDI](2011/07/31 13:11)
[8] 番外編 花咲く頃に会いましょう[GDI](2011/08/04 08:02)
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[28792] その4  たいせつなもの
Name: GDI◆9ddb8c33 ID:97ddd526 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/22 14:06
その4 たいせつなもの




次元空間、LS級航空艦 ヴォルフラム内部


 凶悪犯を追跡中の次元航空艦の室内とは思えない和やかさで談笑していたなのはたち4人、気がつけば既に時計は10時を回っていた。

 「すごいなぁ、いつの間にこんなに時間がたったんだろう」

 「楽しい時間ってあっという間に過ぎていくね」
 
 時計を見て驚いたスバルの呟きになのはが応じる。他の2人も同意だと言わんばかりに首を縦に振る。

 4人はそれぞれ飲料のコップを手にしていたり傍らに置いたりしている、途中でエリオが食堂から持ってきたものだ。なのはは思いの外味が良かったことに驚いていた。こういうところの飲食物はもっと素っ気無い味かな、とイメージしていたのだ。

 「ところで、皆はこのあと何かお仕事あったりするの?」

 もしあるのであれば長々と引き止めて悪い事にしたことになる、なんだか今更だが、なのははふと気がついたことを確認してみた。

 「いいえ、僕は明日の朝に武装の調整と、その後に作戦の最終確認があるだけですので、今夜はもう休むだけです」

 「わたしも、このあとはもう眠るだけです」

 「あたしたちはこの部隊では前線メンバーなので、日勤、夜勤のシフトはありません。緊急出動はありそうですど」

 順番にエリオ、キャロ、スバルの回りで答える。

 「そうなんだ、やっぱり大変なんだね、凄いなぁ、皆私より年下なのに」

 「でも、喫茶店だってやっぱり大変ですよね?」

 ちょっと照れた様子でキャロが言うと、なのはは少し考える様子を見せた後、困ったような笑いを浮かべて答える。

 「そうだね、お昼のピーク時とかに『いちごパイ3つとチョコシューとバナナパイ、オールセットでアイスミルクティ・ダージリン・コーヒー各2つとアールグレイ! ランチパスタ6つで3つがデザートセット。コーラ2つにアイスコーヒー2つ、レモンティーにオレンジジュース! あ、アップルパイ焼き立てをお持ち帰りで!』 なんてやってると流石に大変かな」

 そのなのはの言葉に、聞いていた3人の時が止まった、はっきりいって、おそらくお店のメニューを言っていたのだろう、ということしか分からなかったし、その内容は覚えていない。それを淀みなく言えるなのはは、ひょっとして魔導師以上にマルチタスクを持っているのでは?と疑ってしまうのも無理からん事だった。

 しかし、人気の喫茶店の店長(代理)たるもの、これくらい出来なくて話にならない。母の桃子はこの2倍のオーダーにしっかりと対応しているのだから。

 と、そこへ3度目の訪いを告げる声が掛かった。スバルがおそらくティアだろう、と言ったので、部屋に入るように促がす。

 既にティアナのことはこの2時間で聞いている、彼女もまた”自分”の教え子の1人であり、スバルの話ではもっとも高町一尉の技術を吸収した努力の人との事だ。

 果たして入ってきたのはやはりティアナ・ランスターだった。

 「お邪魔します、ってアンタたちも来てたのね、久しぶり、エリオとキャロ」

 「はい、お久しぶりです」
 
 代表してエリオが答え、キャロも無言で頭を下げる。

 「そしてはじめまして高町なのはさん、ティアナ・ランスターと言います。どうぞよろしくお願いします」

 こちらこそ、といって握手をかわす2人。なのははティアナの一連の動きが凄く洗練された動きであるように感じ、改めてティアナのことを観察する。

 黒い女性用のスーツをピシッと着こなしている様子は、”できる女”という印象がしっくり来る。スーツに皺一つないのは、おそらく彼女の妥協を許さない性格が現れているのだろう。

 彼女のことを見て、なんとなく神咲那美の姉で、神咲一灯流の達人でもある神咲薫を連想した。間違いなく自分に厳しいタイプだろうと推察。

 「というか、流石にこの人数はちょっと多くない? スバル、アンタいつからお邪魔してるのよ」

 「えーと、多分2時間前くらい」

 もともと艦内であり、士官用の部屋とはいえ、通常の家よりはつくりは狭い。そこに大人5人は少々人口密度が高いだろう。

 「別にいいと思うな、私はなんだか学生時代にやってたパジャマパーティみたいで楽しいよ」

 この部屋の主(厳密には同一存在)がそう言えば、ティアナもそれ以上は言わない。元々思ったことを口に出しただけで、文句を言うつもりはなかった。

 そこへ、ぐ~、というやや気の抜けた音がした。発信源を辿ってみるとスバルのようだ、厳密に言うとスバルのお腹のようだ。

 「アハ、アハハは、夕飯早めだったから、もう燃料切れ起こしちゃった……」

 顔を紅くしながら照れ笑いする親友の様子に、ティアナは怒る気にもなれず、アンタねぇ……と呆れるのみ。

 「あ、もしここにキッチンがあって使ってもいいなら、私がなにか作ってこようか?」
 
 そこへなのはが提案をだす。こういうときこそ喫茶店の看板娘兼店長(代理)の腕の見せ所、というかここに居て自分に出来ることといったらそれくらいしか思いつかない。

 そしてその言葉を聞いたスバルは一瞬にして目を輝かせた。

 「でも、なのはさんはお客さまみたいなものですから、そういうことをさせるのは……」

 キャロがそういうと、意外な所から反論がきた、ティアナである。

 「う~ん、そうね、あたしは別にいいかな、と思うわ。軟禁してるわけじゃないし、八神司令もその辺は了承済みだと思うし」

 「そうですね、僕もいいかと思います」

 エリオも賛同し、とりあえずなのはの夜食つくりが決定した。


 艦内 厨房

 艦内には食堂があり、大型艦の場合はもっと大きいが、ヴォルフラムは中型艦なので、それほど大きくはない。けれど翠屋の厨房ほどの大きさのキッチンだったので、なのはにとってはこのくらいの大きさがもっとも使いやすい。

 スバル、ティアナ、エリオの3人を部屋に残し、キャロを連れて食堂にやってきたなのはは、早速キャロに機器類の使い方を教えてもらい、調理を開始した。

 ちなみにキャロを連れてきたのはなのはのご指名である。よほどキャロが気に入ったようだ、子供好きの高町の血のなせる業か。

 そのキャロは、たった一度、しかも自分でも上手とは思えないたどたどしい説明を聞いただけで、調理器具の使い方を覚えてしまったなのはに、畏敬の眼差しを送っていた。しかもその調理の早さが並ではない、ほとんど立ち止まる事がないのだ、全くと言っていいほど無駄のない動きだった。

 なのはは尊敬する女性であるし、彼女の料理がおいしいことも知っていたキャロだが、ここまでの凄さはなかったように思える、やはりプロとアマの違いか。

 もう夜なので、消化の良いものがいいだろうということで、なのはが作ったのはスパゲティ・プッタネスカ、今春の翠屋の新メニューである。量はスバルの胃のことを考慮して10人分作った。

 「よーし完成、じゃあお皿に盛り付けて持っていこう、っていっても量が多いから2回に分けないとダメかな?」

 「あ、それだったらエリオ君にも来て貰いましょう【エリオ君、ちょっと量が多いから、運ぶの手伝ってくれる?】」

 「今ひょっとして”念話”っていうのをしたの?」

 「あ、ハイ、エリオ君とはどんな時でも通信が繋がるようにしてるので」

 「ラブラブなんだ」

 「そ、そういうわけでは……あってほしいです」

 最後のほうはゴニョゴニョとした声になってしまったが、無論なのはにはしっかり聞こえている。真っ赤になって俯いているキャロが可愛くて仕方がないが、この場で抱きつくことは自制した。

 「そ、それはそうと、これなんていうお料理なんですか? 割と見たこと無いスパゲティですけど」

 ケッパー、ブラックオリーブ、それにアンチョビなどが冷蔵庫にあったので、なのはが作ったのはイタリアでは割と定番のパスタだが、キャロには馴染みがなかったようだ。

 「これはね、プッタネスカっていうんだ。意味はたしか”娼婦風スパゲティ”」

 なのはの返事におおッっという表情になったキャロだったが、すぐに冗談っぽく質問した。

 「じゃあ、なのはさんは一晩おいくらなんですか?」

 なかなかおしゃま(なのは的には)なキャロの言葉になのはは一瞬驚いた風だったが、彼女だってもう16歳だ、ということを思い出しすぐに笑顔で答える。

 「んー、10万でどうかな♪」

 通貨単位は異なるが、幸いなことにミッドと日本の貨幣価値は同等だったので、互いに冗談が通じた。尚、おそらくここにノリがいい司令官がいたら「買うた!」と即座に言っていることだろう。

 「キャロちゃんなら、タダでもいいよ、だから今夜一緒に寝ない?」

 言葉どおり捉えるならなにやら妖しい雰囲気の言葉になるが、無論性的な意味合いは全く無いことはキャロにも分かったので、う~んと考えた後、今日は止めておきます、作戦が終わったらいいですけど、と返事をした。

 必ずだよ、となのはが言ったとき、エリオがキッチンに入ってきたので、3人で料理を持って部屋に戻ることにした。


 

 「おいしいー!」

 到着した料理を口にするなり、スバルが感動の声を上げる。そんなスバルを嗜めながらティアナも料理を口にし、おお、これは、とスバル同様に料理の味に満足しているようだ。

 「すごいですね、短い時間でこんなにおいしいものを作れるなんて」

 「うん、すごいかっこよかったんだよ、エリオ君にも見せてあげたっかたな」

 「アハハ、そんなにたいしたものじゃないよ。でもティアナさんやスバルちゃんにも気に入ってもらってよかった」

 そうして和気合い合いと料理を食べていく5人。その様子はやはり出撃中の前線メンバーには思えない。

 「こうしておいしい料理を食べて寛いでると、なんだか疲れが出て来ちゃったな……」
 
 食後少し経った時、ティアナがそう言いながらすこし体性を崩す(椅子が足りなくなったので、なのはが料理を作って理間にスバルが厚手のカーペットを持ってきたので全員床に座ってる)、その顔にはたしかに疲労の色が見えた。

 「よかったら、ベッドに横になりますか?」

 「いえ、そこまでさせてもらうわけにはいきませんし、まずくなったら自室にもどりますよ。……それと、どうしてあたしには「さん」付けなんでしょうか、しかも敬語まで……」

 「え、なんとなくですけど、ダメでした? なんだかティアナさんは年下のような感じがしなくて」

 「ああいえ、別に構いませんけど、やっぱりどうも違和感が」

 「無理言ったらダメだよティア、ここは妥協しよう」

 「そうね、わかりました、そのうち慣れる……かもしれませんし。大丈夫です」

 「ありがとうございます、ティアナさん」

 そうなのはに礼を言われると、余計に戸惑うティアナだった。まさか自分があのなのはに敬語+さん付けされるとは夢にも思わなかったのだから。

 「あの、ティアさん、疲れてるのでしたら、わたし治しますよ?」

 「うん、キャロのヒーリンング、久しぶりにお願いするかな」

 キャロはティアナの側まで移動し、ケリュケリオンを起動させてティアナの治療を開始する。キャロの手から発せられる柔らかな光がティアナの身体にあたり、そうすると、お゛お゛お、きくぅ~、と乙女らしからぬ声がティアナの口から漏れる。

 そんな様子を見たなのは感心し、そのことをエリオに伝える。

 「すごいねキャロちゃん、本当に魔法使いさんなんだ」

 「キャロはフルバックですから、ああいう補助や治療が得意なんです。一言で魔法といっても、攻撃、移動、通信、治療と幅広いですけど、キャロは本来召還師ですが、結構なんでも出来ますよ」

 一通りそれぞれの得意分野やこの世界の魔法のことを、今までの2時間で聞いていたなのはだが、やはり百聞は一見、聞いた感じではこの世界では魔法=技術のような印象だったが、目の前の光景は、彼女がよく知る”魔法”の姿だった。キャロのケリュケイオンの光は、レイジングハートの光に通じるものがある。

 「わあ、かなり疲れが溜まってますよティアさん、やっぱり執務官はハードなんですね」

 治療しながらキャロがティアナに問う。

 「そうね、それもあるけど、さっきまで”カノン”の調整してたから、慣れない事やってた所為ってのが大きいかも」

 「そうか、明日の主砲役はティアさんが代わることになったんでしたっけ」

 「流石に”フォートレス”は無理だけど、”カノン”ならある程度バッテリーがあれば撃てるし、複雑な術式とかも一切無いから、調整だけ終わらせれば問題無しよ」

 「つまり、”フォートレス”無しってことは、あたし達突入隊に掛かってるってことだね、頑張ろう、エリオ」

 「はい、スバルさん」

 その会話を聞きながら、ティアナが本来乗るはずではなかったここに居るのが自分の所為だと分かっており、謝罪したいが既に何度も「謝らないで下さい」と言われているので、なのはは言葉を飲み込む。

 そして会話のなかに出てくる”カノン”というのはあの最初に見た大砲のことだろうか、と思った。今目の前で行われているキャロの”魔法”と違い、アレからはこういう不思議で暖かい感じが全く無かった。

 治癒の光は暖かで、その光が発せられてる少女の手は柔らかく、触れられると心地いい。

 でも、あの大砲のメタルの光は冷たく鋭利で、固い金属の感触は重苦しいイメージしか持てない。

 しかも、今の会話から察するに、あの大砲は”バッテリー”さえあればある程度は撃てるという。それは、普通の銃とどう違うのだろうか、と彼女は疑問に思う。

 なのはがそんなことを考えていると、急にスバルが大きな声を上げた。

 「そうだ! そういえば皆が来る前に言いかけてたんだけど、なのはさんてこっちの魔法使えるのかな!?」

 「ふえ?」

 スバルのいきなりの疑問に、つい間が抜けた声を出してしまったなのは。一方でほかの3人はそのスバルの言葉に興味ありげな様子だ。

 「八神司令の話だと、魔力はあるんですよね」
 
 「確かにちょっと気になりますね」

 「もし、イヤじゃなければ、試してもらってもいいですか?」

 キャロ、エリオ、ティアナも乗り気なのか、なのはに魔法試行を勧めてくる。

 「えと、デバイスは、持ってないですよね」

 「キャロちゃんのソレみたいなの? 一応はあるけど……」

 なのははレイジングハートを胸から取りだし、4人に見せる。なお、取り出す時に胸元を開いたので、エリオは即座に視線を移した、紳士である。

 「レイジングハート…… だけどちょっと違う?」

 「セットアップとか出来るの? ねえレイジングハート?」

 赤い宝石に話しかけるティアナとスバルの様子が不思議だったのか、キョトンとした表情になったなのは。そんな空気を読んだのか、ィ今までずっと黙っていた者達が話に参加した。

 『マスター、そのレイジングハートは私たちが知る彼女とは大きく違うようです。おそらく我々インテリジェントデバイス、というよりこの世界のデバイスとは異なる存在なのでしょう』

 「!? マッハキャリバー、ほんと?」

 『ハイ、機械的な信号を一切感知しませんので』

 1人と1機(なのは視点では青い宝石)の会話に驚いた様子のなのはに、ティアナがこの世界のデバイスについての説明を行う、聞き終わったなのははかなり感心した様子でマッハキャリバーを眺めていた。

 「魔導師の特性によってデバイスの形状も大きく変わります、ね、皆」

 そういいながらティアナはクロスミラージュを展開し、スバルたちもソレに倣ってそれぞれ待機状態からもとに戻す。

 形も種類もバラバラの彼等の相棒をみて、なのははさらに感嘆の表情になる。

 「うわぁ、すごい……」

 「僕ら魔導師は、基本的にデバイスなしでは大した魔法は使えません。全く出来ないわけではありませんが、格段に性能が落ちます」

 「まあ、中にはデバイスなしで、当たり前のように魔法を使えちゃうような人もいるけどね……」

 ティアナの脳裏に浮かぶのは、無限書庫の司書長。彼女にとって彼は、ある意味なのはやはやてよりも非常識な存在であった。9歳の時に地上から惑星軌道上の艦内に、人間4人を転送したという話を聞いた時は、おもわず「ば、化け物」と呟いてしまったほどである。

 「それに、デバイスがあれば何でも出きるわけじゃないですしね、しっかりと訓練しないと危険ですし、じっくり使い込まないとこの子たちの性能をきちんと活かしてあげる事が出来ませんから」

 兄や姉の剣術のようなものだろうか、となのはは思う。あれも小太刀を持てば強くなるわけでは決して無い。毎日修練を積んで、心身ともに鍛え上げたから強いのだ。

 となれば、この世界の魔法は技術+武術のようなものなのだろうか、そして剣術同様、強くなるためにはしっかりとした練習が必要であるらしい。エリオのデバイスは槍だから、兄たちのそれとイメージを合わせやすい。

 しかし、だとしたら尚更あの”大砲”が異質に思えてくる。同じ”武器”の形をしてるのに、エリオの槍やティアナの銃には嫌な印象がないのに、アレからは冷たい印象しか持てなかった。

 それに、先ほどティアナは「バッテリーがあればある程度は撃てる」と言っていた、それはつまり、あらかじめ充電しておけば、そのエネルギー分は誰でも撃てるという事なのでは……?

 そこまで考えたが、それを自分が考えても無為だろうと思いなおし、あの大砲の存在を頭から閉め出し、再び会話に参加する。

 「じゃあ、あたしたちのデバイスでセットアップ可能かどうか試してみません?」

 「せっとあっぷ?」

 聞いた事が無い単語に首を傾げるなのはに、キャロがセットアップの概要を説明する。

 ふんふん、なるほど、と聞いているなのはに、スバルは一回見たほうが早いかも知れませんね、と言ってセットアップを開始。一瞬光ったかと思えば、そこにはバリアジャケットを纏った状態のスバルがいた。

 「これがセットアップです…… ってあの、なのはさん? どうかしました?」

 なにやらバリアジャケット姿になったスバルみて驚いたなのはだったがを、その後はじーっと食い入るようその姿を見ている。それもかなり真剣な視線だ、そんななのはの様子にスバルはちょっと怯んだ。

 自分はなにかおかしなことをしただろうか?と思っていると、なのはがやはり真剣な声でスバルに尋ねた。

 「ねえ、スバルちゃん、スバルちゃんは魔法を使うお仕事の時は、いつもこの姿なの?」

 「ええと、そういう訳じゃありませんけど、戦闘訓練や実戦とかではこの姿ですね」

 「そうですか……」

 なぜか敬語になっているなのは、そんな彼女の様子に、いつの間にか他3人も居住まいを正している。

 「いいですか、スバルちゃん」

 「はい!」

 声の感じは怒っている感じは無い、ただ真摯な雰囲気があるため、口をはさむことは誰にも出来ない。

 「女の子が、あまり人前でおへそをだすのは感心しません」

 「は、はい!」

 勢いよくスバルが返事をすると、なのははそっとスバルの腹部を撫でるように触り、表情を慈しみに溢れた表情に変え、優しい声で言い聞かせる。

 「それにね、女の子のココは、子供を育てる大事な場所なんだよ? だから、絶対に怪我なんかしちゃダメだから、ちゃんと守ってあげないと」

 わかった?という風にニッコリと笑うなのはに、スバルは首を縦に振ることしか出来なかった。その優しげで綺麗な瞳に心が吸い込まれてしまったかのように声が出てこなかったからだ。

 この作戦が終わったらバリアジャケットのデザイン、変更しよう、と誓うスバルだった。厳密に言えば腹部のバリア機能を強化させればいいのだが、彼女はそこまで気づかなかった、というか21歳でへそだしはそろそろ卒業しようかな、と思っていたこともある。

 その後、ティアナがクロスミラージュを渡してなのはにセットアップを試みさせたところ、出来ないということがわかった。

 クロスミラージュの話だと、なのはの保有する魔力は膨大だが、自分(デバイス)たちが普段扱っている魔力と質が異なるらしい。同じ電波でも、周波数が変われば全く別のものになるように。

 その事実にちょっと残念に思ったなのはだったが、自分がまた魔法を使うことがあれば、そのときはやっぱりこの子を使うんだろうな、と胸の宝石に触れた。

 そうしているうちにさらに1時間経ち、流石にそろそろお開きにしようか、というところへ最後の訪問客がやってきた。 

ティアナのときと同様に、おそらくフェイトだろう、とスバルが言ったところ、やはり入ってきたのはフェイトだった。お邪魔します、と言いながら入ってきたフェイトを見るなり、今までで一番の大声をあげるなのはだった。

 「くーちゃん!!?」

 「え、ええ?」

 果たしてフェイトの反応は「晶ちゃん!?」と呼ばれたときのスバルと同様のもの、いきなりことについていけずに混乱していた。

 「ど、どうしたんですかなのはさん、いきなり」

 そんな様子の2人にティアナが問いかける、同じく驚いた4人の中で、もっとも早く復帰したのがティアナだった。

 「あ、ごめんなさい、またやっちゃった。その、貴女が知っている友達に似ていたものですから……」

 申し訳無さそうに謝罪するなのはに、フェイトは、いいえ、気にしてません、と少々困惑気に答える、彼女もまた、なのはから敬語で呼ばれることに違和感を覚えていた。

 「でも、そんなに似ていたんですか?」

 「そうですね、綺麗な長い金髪と雰囲気がとても似てます……」

 その見間違えた久遠が狐であることは黙っていた。

 スバルはその一連の流れを眺めながら、自分のときも第3者視点ではこんな感じだったのかなー、と少々暢気に思っていた。

 そしてなのははティアナと同じ黒い執務官の制服に身を包んだフェイトを、やはり”できる女”だと推察した、なんとなくティアナが”技”で、彼女が”力”タイプのような気がする、直感したのは、父方の血によるものか。

 「改めてはじめまして、高町なのはです」

 手を差し出して微笑むなのは、親友(と同じ顔、同じ声)にはじめましてと言われることに、若干の寂しさを覚えるフェイトだが、握手に応じながら、微笑みを返し自己紹介をする。

 「フェイト・T・ハラオウンです、よろしく」

 だが、その言葉がこの人口密度がかなり高くなった部屋を、驚愕で埋め尽くす発言の呼び水になるとは、誰も予想してはいなかった。

 「え、ハラオウン?」

 「知っているんですか? なのはさん」

 今までの3時間の談笑のなかで、彼女がミッドチルダの、次元世界のことをほとんど知らないことがわかっていたスバルたちは、そのことをかなり意外に思い―――

 「うん、私の旦那さまの前の名字」

 そのなのはの爆弾発言によって、そんな”意外さ”は吹き飛び、かわりに驚愕一色に染められ、5人同時に絶叫を上げてしまったのだった。

ちなみに、なのはがクロノと出会った当事はハーヴェイと名乗っていたが、それは母、リンディ・ハラオウンと決別した際にけじめとしてハラオウンの姓を変えていたためであり、母と和解し、なのはと再会したときにはハラオウンと名乗っていた。

 そして現在時刻はPM11:00過ぎ、そんな時刻に艦内で大声を出せば当然、

 「うるせーぞテメぇら! 今何時だと思ってやがる!!」

 隣人から苦情がくるのは当たり前だ。怒りの形相で現れたのは、シャツ姿のヴィータだった。

 「だ、だってヴィータ、なのはが、結婚してて、それで」

 言葉を上手く繋げられず、何を言っているのか分からないフェイト、ヴィータにとってもココまで慌てるフェイトは久しぶりだ(執務官姿の時では初めてかもしれない)。

 「なのはさん、結婚してたんだ……」

 「それに”ハラオウン”姓の男性って言えば必然的にクロノさんって事になりますよね…」

 「でもなんとなく分かるような気もします」

 「ん? それってどういうこと?」

 「なんとなくなんですけど、こっちのなのはさんより、家庭的な雰囲気がありましたから」

 「なるほど」
 
 スバル、エリオ、キャロ、ティアナ、もう一度キャロの順に発言、そうしているうちに、フェイトはヴィータになんとか説明を終えたらしく、ヴィータもなにやら難しい顔をしている。

 「あ~~、なのはがクロノ提督と結婚してるのか、そりゃ確かに驚きだわな、ん~~、まあ、あれだ、そういうこともあんだろ。とにかく夜ももう遅えんだ、明日は多分決戦になるんだから、お前らも早く寝ろよ、話は作戦が終わったらじっくり聞けばいいだろ」

 容姿は幼くても彼女は歴戦の騎士、明日には何が控えていて、自分がそのためにすべきことは何かを、しっかりと把握している。そんなヴィータの言葉に、フェイトをはじめとした5人は、確かに、と局員の公人としての顔に戻り、そろそろお開きにしようか、と動き出す。

 「おうそうしろ、じゃ、また明日な。なのはもお休み」という言葉を残してヴィータは部屋に戻り、5人もまた部屋の片づけをはじめる。

 既に夜もかなり更けているので、なのはもそろそろ皆眠ったほうが良いだろうと考え、片づけを手伝う。

 だが、そこでフェイトが一つ連絡事項があったことを思い出し、その内容を話し出す。

 「そうだ、スバルに言っておく事があったんだ」

 「あたしにですか? あ! ひょっとして」

 心当たりがあるスバルは、期待と不安が入り交じった表情で、フェイトに話の続きをお願いした。

 「うん、トーマのこと。高い確率で”フッケバイン”に乗ってる」

 「そうですか……」

 思いつめたような表情になったスバルの様子を見て、ティアナに何事かと尋ねるなのは。ティアナは少し考えた後、ごく簡潔にスバルが気落ちした原因を説明した。

 スバルの弟分が、事件に何らかの形で関わっており、現在凶悪犯の移動拠点に乗っているだろう、ということを。

 聞き終えてからもう一度スバルのほうをみると、不安に押しつぶされそうな顔をしていた。そのトーマという少年が心配でならないが、もしかしたら敵になってしまうのかもしれない。もしそうなったら自分はどうすべきか、はっきりとした答えはスバルのなかでまだ出ていない。

 自分はきちんと任務を遂行する。それは出来る、そのための訓練は心身ともにしっかりやってきた自負はある。でも、もしあのかわいい弟分がひどいことになっていたり、万が一敵になったりしたら、自分はどうすべきなのだろうか。

 なるべく考えないようにしていたが、一度考え出せばきりが無くなる。なので今はトーマのことは頭から閉め出し、フッケバインを捕らえることのみに専念しようと決意しかけた、そのときだった。

 穏やかな、そして心の奥底まで響くような声が、彼女に届いたのは。

 「迷ってるんだね」

 なのはだった。その声と表情は、スバルが、そして他の4人がよく知るなのはのものであるようでありながら、やはりどこか異なる雰囲気を纏っていた。

 「スバルちゃんは、迷ってるんだね、その子と会った時に、そうであって欲しくないときに会っちゃったとき、どうしたらいいか」

 その通りだ、どうして分かったのだろう、とスバルが不思議に思ってると

 「そんな迷子のような顔してたら、すぐに分かるよ」

 と、子供をあやす母親のような表情で、そっとスバルの前まで移動し、スバルの目をジッと見つめながら、さらに言葉をつむいでいく。

 「だから、そんなとき、そうすればいいのか教えてあげる」

 言われているスバルも、回りで見守る4人も、誰も声を出せずに、なのはの言葉の続きを待つ。今のなのはを邪魔するのは、なにか神聖なものを冒涜するような、そんな禁忌感さえ覚えていた。

 「スバルちゃんにとって、何が一番たいせつ?」

 「一番……」

 「任務を果たすこと? そのトーマ君を助けること?」

 どちらだろうか、とスバルは自分の思考に埋没する。もし、もしもトーマの救助とフッケバインの捕縛、どちらかしか出来ない状況になったら、自分はどちらを選べばいいのか。

 公人としては捕縛、私人としては救出を、それぞれ優先させるという気持ちがある、でも選べない、今選べと言われても選べない。だから、もしそういう状況になっても果たして的確な判断が出来るだろうか。

 思考の網に捕らわれている所へ、なのはの声が続く。

 「迷ってるなら、大切にするのは自分の、気持ちだよ」

 「気持ち……?」

 「うん、特に、”好き”っていう気持ち。トーマ君を助けたいのは、その子のことが好きだからだよね、”好きだな”って思えるものは皆大切になるもの。だから、その気持ちを大切にして? そうすれば、きっと迷わずにいられると、そう思うんだ」

 それは公人ではなく私人としての心情を優先するということ、それは管理局員としてはいいことだろうか。

 でも―――

 迷って何も出来ないまま終わるのだけは、一番しちゃいけない。だから、そうした時は自分の、自分の気持ちに、大切なものを守りたいという気持ちに従う。

 それでいいのだ、と微笑みながらなのはは言った。そうすればきっと上手くいくよ、と。

 「私は迷う事があると、ずっとそうしてきたんだ、だからこれは経験則。思い出も、優しさも、全部”好き”っていう自分の気持ちから始まるの」

 なのははスッとスバルの胸に手を置き、優しく語りかける。

 「あなたのココはなんて言ってるの?」

 ココ、すなわちスバルの心。立場とか、責務とか、そういうことを考えない、スバル・ナカジマという1人の女の素直な気持ちは――

 「……トーマを、助けてあげたい、また家であの子と一緒にゴハンを食べたいです」

 知らぬうちにスバルは涙を流していた、こうして状況で人前で泣くのは、いったいいつ振りだろうか。でも、この女(ひと)の前なら、自然と恥ずかしくなく、涙が出てくる。

 「そうだよね、それでいいんだよ」

 なのはは泣いているスバルを包むように抱きしめる、その様子を見ていたフェイトには、その姿がなのはの母の桃子と重なった。そして、自分の義母であるリンディとも。

 高町一尉はどんな時でも皆を勇気付ける、まさに不屈の心をもつエース。空を己のものの様に自由に舞うその姿は、周囲のものを奮い立たせる戦乙女の如くだ。

 だけど、今目の前に居る女性は、悲しいことも辛いことも、全てを包み込んで安らぎを与えてくれるような、そんな天使のような雰囲気を漂わせている。

 しばらくその光景を眺めていたフェイトだが、スバルの涙が止まり、なのはの包容から離れた時に、思っていることを口にした。

 「素敵な考えだね」

 短いけど、心からの彼女の言葉、なのはの言うとおりの、自分の気持ちをそのままにした言葉。

 その言葉を受け取ったなのはは、片目をつぶってウインクしながら、お日様のような笑顔で

 「……ナイスでしょ?」

 と答えた。










 その後、スバルを連れてティアナが部屋を辞して、エリオとキャロもお休みなさいと挨拶して、自分たちの部屋に戻っていった。

 そのあと30分ほどなのははフェイトと話していた。その内容は高町一尉の私生活に関するもので、フェイトと同居していること、ヴィヴィオという少女を引き取って娘にしていることなどのことがほとんど。なのはは是非その少女に会いたいと思った。

 その際、なのはも自分にも子供が居ることを話すと、フェイトはああ、となにやら納得した表情になった。

 このなのはは正真正銘の”母”なのだ、自分のお腹に子供を宿し、育て、この世に産み落とした。なにかの本で読んだが、女性は出産を経験すると、”女”から”母”になるという。

 自分が感じた差異は、それに起因するのかもしれない、という思いを抱いた。たしかに、エリオとキャロは自分のことを”母”ではなく”姉”として接しているように感じられる。

 ヴィヴィオはどうかな、母と思ってくれているだろうが、同時に姉としても思っているような、そんな風に思えてくる。


 そのあたりをもっとなのはと話したいと思ったが、時刻は既に日付が変わろうとしていたので、就寝することにした。なのはもまたフェイトともっとおしゃべりしたかった、明日のことを考えるとそう無理を言うわけにはいかないと自制した。

 ヴィータの言うように、作戦が終われば、じっくりと話すこともできるのだから。



 そうして新鮮な驚きに溢れた日が終わり、いよいよ明日は対フッケバインの作戦が開始されることとなる。

 
  
 
 
あとがき

 おかしい、話がどん(ry

 ソレはさておき次回が最終回です。今回の話もこんなに長くなるはずではなかったんですけど、いつのまにか前話と同じくらいの長さになってますね。次もどうなることやら、今考えてる段階では短いんですが……
 向こうのなのはさんについては、本編終わったあとにおまけ的な話を書こうと思ってますので、それにて。ただ、私は基本的にこういう話しか書けないので、皆さんのご期待のものとは違うものになる可能性が高そうですが、ソレでよければ読んでやってください。
 なんとか本編は今週中に書き上げたい。


 クロノの姓について指摘があったので加筆しました。
 なのはWikiにも
「原作でのクロノは、ミッドチルダに迫る危機のために母と決別し、クロノ・ハーヴェイと名を変え自ら記憶の一部を捨て、イデアシード散布計画を強行した。」
 とあるので、おそらくハーヴェイは偽名だと思います。 


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