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No.28792の一覧
[0] 【完結】リリカルマジック ~素敵な魔法~ (リリちゃ箱→Force)[GDI](2011/08/04 07:56)
[1] その2  気苦労多き八神司令[GDI](2011/07/14 16:44)
[2] その3  優しい時間[GDI](2011/07/17 11:24)
[3] その4  たいせつなもの[GDI](2011/07/22 14:06)
[4] その5  魔法の言葉はリリカルマジカル[GDI](2011/07/22 14:06)
[5] その6  決意、新たに[GDI](2011/07/24 13:57)
[6] その7  ただいま[GDI](2011/07/27 01:26)
[7] 番外編 高町一尉の異世界生活[GDI](2011/07/31 13:11)
[8] 番外編 花咲く頃に会いましょう[GDI](2011/08/04 08:02)
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[28792] その5  魔法の言葉はリリカルマジカル
Name: GDI◆9ddb8c33 ID:97ddd526 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/22 14:06


 その5 魔法の言葉はリリカルマジカル




 そして、高町なのはが”入れ替わった”日の翌日の正午、時空管理局の中型艦「ヴォルフラム」はついに凶悪犯罪グループ・フッケバインの移動拠点を補足した。

 2段構えの作戦の中核を担うはずだった”高町一尉”が不慮の事故のため参加していない(公式記録的には参加している)ため、本来この艦には搭乗せずに別件の捜査を行っているはずだった、ティアナ、キャロ、ザフィーラも乗艦している。

 そして高町一尉、の制服を着た高町なのは・翠屋2代目はそのザフィーラと、今1人シャマルに守られるようにブリッジに存在していた。

 これは、何かあったときにすぐになのはを守護、避難をさせるためのはやての措置である。やむを得ない状況だったとはいえ、彼女は本来民間人。ここに居させていい存在ではない。なので、最大限彼女の安全を確保するための人員配置を行ったのだ。

 なのはは緊張している。それは当然であり、していないほうがおかしい。彼女の25年間の人生において、命のやり取りを行うような場に立ったことは一度も無いのだから。

 幼いあの日、生涯の伴侶と出会ったあの不思議な日々では、確かに危険がはあったが、それは命の”危険”であり”やり取り”ではない。

 兄や姉のように剣を学び、戦うために心技体を鍛えていたわけではない、彼女はいたってごく普通の女性なのだ。

 そんなごく普通の彼女からの視点では、眼前で展開される光景は、いつかTVや映画で見たようなSF世界の”戦争”そのものだった。

 近未来を思わせる、凶悪犯罪者の艦”フッケバイン”に向けてティアナが撃つ大砲は、やはり彼女が抱いていた印象のまま、無慈悲な破壊の威力を発揮している。

 それは悪いことではない、アレらは”武器”として作られ、その単一機能を果たすべく、望まれた結果を出しているに過ぎない。だが、それを”魔法の力”と認識されていることに、どこか悲しさを覚えるなのはだった。

 魔法は、誰かを傷つけるものではなく、笑顔を取り戻すもの。幼き日に経験したあの出来事は彼女の生き方に深い影響を与えていたために、尚のこと彼女はそう思っていたから。

 悪いことじゃない、日本だって警察の人は銃を持ってるし、もっと治安の悪い国では警察の武装も強力になる。だから、これは悲しいことなんかじゃなく、当たり前のこと。

 眼前に広がる”戦い”の光景を眺めながら、そっと胸の宝石を握るなのは。そんな様子を怖がっていると捉えたのか、隣のシャマルが気遣い、「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれる。ザフィーラもまた、気遣うような目をしながら、いつ何が起こってもなのはを守るために動けるよう気を配っている。

 大丈夫です、と返事をしながら、この女の人は槙原先生に似てるな、とシャマルのことを自分が知る動物病院の先生を重ねていた。すると自然と、反対隣のザフィーラに、その夫の耕介を連想させたのは、両者の体格の相似から言っても当然というべきか。

 そしてブリッジのスクリーンに写る光景は、フェイト、スバル、エリオの3名が敵艦内に侵入し、迎撃に現れた男女3人と交戦に入ったことを示していた。

 昨夜楽しく語り合った人たちが、ひょっとしたら死んでしまうかもしれない場所に居る。そう思うだけでなのはの胸は苦しくなる。どうか無事で帰って来て欲しい、彼女が願うのはそれだけ、敵艦の撃墜や犯罪者の確保などは欠片も考えはしない。

 そうした想いを彼女が強く抱いたからだろうか、胸のレイジングハートが淡く輝きだしたのは。

 驚いたなのはが光る宝石を見つめ、隣の2人もそのことに気づいたのか、シャマルが口を開きかけたそのときだった。ソレが起こったのは。

 そのときに起こった異変は2つ、一つは大きな、もう一つはごくちいさな影響を周囲に与えていた。

 ズン、という言葉にし難い感覚が周囲全体を覆ったと思えば、次の瞬間フッケバイン、ヴォルフラム両艦のすべての搭乗員が生命活動の危機に陥った。その軽重に個人差があるが、心停止した者さえある。のみならず機械関係、艦内の機能すら大幅に減少していた。これが大きな影響を与えた異変。

 対してもう一つの異変は、ごく小さな範囲にしか現れていない。時間軸でいえば、前者が起こったコンマ数秒後に後者が起こったのだ。

 そしてその小さな異変とは、高町なのはと、その隣に居たシャマルとザフィーラの2人にその前者の影響が及ばなかったこと。

 その大きな影響、すなわち”フッケバイン”に搭乗していたトーマ・アヴェニールが無意識に放ったディバイドゼロ・エクリプスは、半ば人間を超越したフッケバイン一家のメンバーをも戦闘不能にしている、それほどに無差別で慈悲が無い、絶死の波動であった。

 しかし、ここには、高町なのはの周囲にはその波動が一切届かなかった。理由は単純、彼女の胸の宝石が強い輝きを発し、魔の手から主を守ったから。

 そしてその小さな影響は、徐々に大きな影響へと変化していった。レイジングハートの輝きが届く範囲に居た者たちの意識が戻り、肉体に起きた異常が除かれていっているのだ。

 その光景を間近で見ていたシャマルは、なかば呆然とした表情でなのはを見つめていた。紅い宝石が輝きだしたその瞬間こそ驚いていたなのはだが、”異変”が起こってからは目を閉じ、祈るような静謐さで宝石を手で包むように佇んでいた。まるで、そうすれば良いのが分かっているかのように。

 「なのはさん、あなたは…… 今いったい何が……」

 「私も、よく分からないんです」

 実際、なのはにも何が起きているか分からなかった。ただ、この宝石のもたらす光は、魔法は、皆に笑顔をもたらすもの。彼女はそれを知っていて、それだけ分かれば十分だから、彼女は宝石に強い想いをこめたのだ。

 その原理は分からないが、彼女の胸元から発せられる柔らかな輝きを浴びた者たちは生命力を回復させてゆく。

 そうしてブリッジの者達は僅かな時間で回復した。しかし、艦内すべてというわけにはいかなかったようで、その報告を受けたはやては即座にシャマルに負傷者の治療を指示するとともに、甲板のティアナの補助にザフィーラに向かわせた。

 「なのはちゃん、今、なにを」

 むろんはやてもそのことに気づいた。今の波動は一度受けたらこんな短期間で回復できるものではない、そのことは彼女の魔導師としての勘と経験の両方が言っている。

 「わかりません、でも、きっとこの子が私の気持ちに応えてくれたんです」

  ディバイドゼロ・エクリプスの波動が全体を襲ったとき、なのはを守ったのは、彼女のとっさの自己防衛にレイジングハートが反応しただけかもしれない、だが、その後の周囲の人々回復は、間違いなくなのはの想いにこの紅い宝石が応えてくれた証だ。

 それははやてが知らない”魔法”の力。それゆえに彼女は声も出せず、自分の立場とすべきことを失念していた。しかしそんな時間もごく僅かのこと、彼女はすぐに指揮官としての自分を取り戻した。いま確認することは、なのはの不思議な力ではなく、突入隊の様子だ。

 管制官や通信室、操舵官のルキノに連絡をいれてみるが、返答は思わしくなかった。原因は分かっているが、とりあえず被害は深刻のようだ、突入隊の安否が気がかりでならない。バイタルサインだけはあるから、とりあえずは生きてはいるのだろうが。

 そこへ、”フッケバイン”から”ヴォルフラム”に通信が入る。相手は敵艦の操舵主件管制責任者とのことであったが、その声が子供のものであったことに、はやては驚きの念を禁じえなかった。

 その子供の言う内容、というより要求は簡単に纏めると

 突入隊3名と民間人2名がおり、5名とも生きている。

 今から5分後に敵艦は機能回復するので、その間の人質としておくので、攻撃を仕掛けないこと。

 機能回復したら、艦から排出すること。

 ということであった。この件については問題ない。その5名を無事回収できれば勝負は振り出しということだ。ただ、こうした場合を想定して用意していた「フォートレス」が使用不可である以上、今回はここで失敗かもしれない。と、はやては思う。

 だが、それ以上に、その後に続く通信の内容に、はやては強く反応した。
 
 『わたし達は少なくともここ数年、管理世界では大きな事件とかは起こしてないから! ”ちゃんと”管理外世界(おそと)でやってるんだから、わざわざ面倒な手続き踏んで追ってくるより、他にもっとやることあるでしょ』

 『そりゃもちろん管理世界(そっち)でもちょっとした犯罪行為くらいはしてるけど、わざわざ損害出しながらわたし達を襲うより、もっと安全な犯罪排除とかしてればいいじゃない、これ以上追ってくるならフッケバインだって本気出すよ』

 そう言われては、法の守り手である管理局の者として反論しないわけにはいかないし、はやて個人としても彼等の行為を見過ごすことは出来ない。

 それに、このままフッケバインを放置すれば、管理世界すべてに”管理局はフッケバインになす術がなく、彼らの前に膝を屈した”と知らしめるようなものだ。そうなれば、管理局を甘く見る連中が増え、犯罪が増加するし、”フッケバイン”の名前が管理局に対する魔よけの札のように使われるようになり、第2、第3のフッケバインが現れることになるだろう。現に、そうした兆候が現れているという情報も入っている。

 だから、公人としても私人としても彼等の行為を認めるわけにはいかない。その旨を伝えると、返ってきた言葉は反感に満ちたものだった。

 『単純な足し算引き算も出来ないひとと話すことはありません!』

 そうして5分後にハッチから5名を排出することを言い、通信が切られようとするそのときだった。誰も予想しなかった人物から声が発せられたのは。


 「待って」

 








 その瞬間、ヴォルフラムのブリッジの空気が凍結していた、すなわち誰も動くことも声を発することも出来なかったのだ。そう、まるで魔法に掛けられたかのように。

 「待って、貴女に聞きたい事があるの」

 声の主はなのはだった。それはこの艦にもっともそぐわない筈の人物、だが、いま舞台の中心にいるのは彼女だった。

 いつからそうだったかは、まさしく今この瞬間、彼女が声を発したこの時。だが、その声は、周りの発言を封じるような雰囲気を有している。

 それは威圧感や覇気といったものではなく、なにか神聖なものをか侵してしまうような禁忌感に近い、少なくとも周囲の者達が感じていたのは、そうした不思議な印象だった。


 「貴女は今、”ちゃんと”お外でやってるって言ったよね。ちゃんと、何をしているの?」

 彼女の口を、いや心を動かしたのは、その内容を語ったのが幼い少女のものだったからかもしれない。もしこれが生粋の戦闘狂や快楽殺人者から発せられた言葉であれば、なのはの心境は今のものにはなっていなかっただろう。

 『あ、貴方は誰?』

 なのはの声に高圧的な感じはまるで無い、ただ一点の曇りも無い静謐な声は、通信の声の主であるステラ・アーバインを怯ませるに足るものであった。

 「高町なのはといいます。ごく普通のお菓子職人です」

 その内容はステラにとっては冗談としか思えない、高町なのはが、エースオブエースがなにを言い出すのか、と。それはステラの横のフォルティスも同様だったが、相手の声に嘘を感じられない。

 「答えて欲しいな、ちゃんと、何をしているの?」

 『そ、それは』

 「人を、殺しているの?」

 重い、なぜかなのはの言葉を聞いたステラとフォルティスのはそう感じた。今まで散々「人殺し」と叫ばれてきた、呪詛の念を、憎悪の咆哮を浴びてきた。それがどうした、自分達はそういうものだと思ってきていたはずなのに、なのはの言葉がやけに響く、心に。

 一方のなのはも、深く自分の心と向き合っていた。本当は怖い、怖くて今すぐ座りこみたい、でも、なぜか自分の気持ちがそれをさせなかった。この子に、この子達に聞きたい事があるのだから、と。

 昨夜、フェイトたちとの会話が終わったあと、1人になると色々な事が頭に浮かんできた。その一つがこのフッケバインについて。

 フッケバインは皆超人とも思える能力を持ち、通常の人間ではなす術がないほどの力を持っている、それに常人が対抗するのはまさに蟻が象に挑むようなものだ。そして管理局の魔導師たちの魔法も通じない、そういう特性を持っている。その力を背景に多数の世界を渡り歩き、強盗、建物破壊、そして大量殺人を行っているとのことだ。

 殺人、そのことについて彼女は深く考えていた。人が、死ぬ。傷つけられて、命を奪われる。

 命がなくなることの辛さを、彼女はよく知っている、脳裏によぎるのは、あの勝気で何でも知っていて、寂しがりやな女の子。小さい頃たいせつな友達だった少女、今もなのはの心の中ではたいせつな友達であり続けている少女。

 死は、重い。

 魔法少女として夜の街をくーちゃんとリンディさんと一緒に駆けていたあの日々の中、大本の元凶は人をたくさん傷つける可能性を持つものだったが、人の命を奪うことは起こらなかった。

 でも、人にとって大事なものを奪っていくものだった、それは、想い出。想い出があるから、人は生きていける、優しくなれる、なのははそう思っている。

 それは自分が恵まれた環境にあったから抱ける、甘い幻想かもしれない。だけど、だからといって悪いことだとは思わない、思ってはいけない気がする。

 人から記憶が奪われる、たとえそれが悲しい記憶であっても、それがその人の”今”を作ってる大事なもの。たとえ大事な人を亡くした記憶でも、無くしてしまうことは、その人との日々を無くしてしまうことになるから。

 楽しさも、悲しさもすべて合わせて想い出にする。人はそうして悲劇を乗り越えていける強さを持っている。誰かの支えが必要な人もいるし、中々乗り越えられない人ももちろんいるだろう、でも、誰もが心の奥にそうした強さがあるはずだ。

 記憶という、その人を形付ける要素でさえ、無くすのはとても悲しいこと、なら、そのなくすものが命なら?

 「皆、誰もがそれぞれの夢を持っている、それぞれに大切なものがあって、一生懸命生きている」

 善い人、悪い人、優しい人、厳しい人、賢い人、強い人、実に多種多様。でもその数だけ夢があり、人生がある。それを奪うということは、その人の夢も目標も、その全てを無くしてしまうということ。

 「でも、死んでしまえば、それが全部終わってまうんだよ……」

 死が全てを奪うわけではない、その人の心を受け継ぐものがあれば、その人の人生には立派に意味があるし、受け継いだ人の心に、その人は生き続ける。母や兄のなかに父がいまでも生きているように。

 それでも、唐突に訪れる死に、対処できる人がどれほどいるだろうか、父のように、自分の死後のことを家族と話す人がどれほどいるのだろうか?

 「人の命は、大事なものだよ。それなのに貴方は”ちゃんと”と言えるの?」

 その声はあくまで静謐、怒鳴り散らすわけでもなく、強い憎しみや敵意が篭もっているわけでもない。それゆえに応じている2人を困惑させる。

 『わ、わたし達にはわたし達の理由があるんだから!』

 「うん、それは、なんとなく分かるよ、なにか理由があるんだなってそう思ったから」

 そう思った理由はステラの声。少女の声は、”自分達の家を荒らされた”怒りが篭もっていたから。それは”人”の感情で、彼女達が人間とは思考が違う怪物では無いことを示している。

 「でも、ひとつ聞かせて、貴方の仲間を、ううん、家族を、”ちゃんと”犯罪者を殺したっていう理由で正当化されたら、貴方は納得する?」

 『………』

 返答は沈黙。そしてそれはこの状況においては、納得できないということを如実に語っている。

 ああ、やっぱりとなのはは思う。昨夜考えていたときから、ずっと気になっていたのだ。

 彼らは自身をフッケバイン”一家(ファミリー)”と名乗り、自分達と同じ”エクリプスウイルス”というものに感染した人を探して仲間に加えているという。

 そのときになのはが思った、思い出したことは兄・恭也が語っていた言葉だった。いつだったか姉が所属している香港国際警防で大捕り物があり、兄がその助っ人として参加するということになった時のこと。日本を経つ前夜、縁側で話している2人の会話を偶然なのはは聞いた。

 ”いいか、美由希、敵の凶手は裏社会の水が骨の髄まで染み込んでいる者達だ。いざとなれば組織の掟に従って味方ごと殺しに掛かることも辞さない、油断はするな”
 
 そのときの兄達の敵もまた一家、とかファミリーとかそういう呼び方をしている組織だったように覚えている、そしてそれは、何百年も連綿と続いてきた裏社会のしきたりに従ったものだということも。

 ”だが、それ以上に気をつけねばならないのは、雇われの漣中だ。組織に属していようとも、チームを組んでいようとも、奴らは根本的な部分で『個人』だ。自分の意に沿わぬなら、仲間だろうが、親兄弟だろうが平気で殺す。既に常人の精神から大きく逸脱した狂人、お前も覚えているだろう、あのフィアッセを狙った奴らのような者達をこそ、最も警戒しろ”

 その兄の真剣な顔と、同じく真剣な顔で頷く姉の顔は、今でも忘れられない。

 その点で、このフッケバインはどちらなのだろう、となのはは1人ベッドの中で考えていた。そして、なんとなくどちらでもないように感じた、故に聞いてみたのだ、今この瞬間。

 その答えは出た。彼らは自分さえ良ければそれでいい、自分は1人で生きていける自負があり、他人を必要としないから、平気で他人を踏みにじる。そんな狂人ではない。

 だが、裏社会の掟に生きている、そういう矜持も感じない。兄たちは言っていた。彼らは基本的に堅気には手を出さない、今回は一部が暴走したようだが、必要以上の血は流さない、御神の剣は裏から表を守るが故の裏の剣なのだから、と言っていた。そうした”悪人の仁義”というものを彼らからは感じなかったし、少女の言葉もそれを裏付けるものだった。

 「そうか、貴方達は、怖いんだね」

 では彼らはなんだろう、そう考えて直感的に思ったのはそれだった。

 自分の力に絶対の自信があるのなら、狂人達のように絶対的な個人主義者になるはず、でも彼らは”家族”として仲間を大切にしているフシがある。そのうえ、自分達と同じ仲間を増やそうとしている。

 それはなぜか? 自分に置き換えて考えてみると答えは簡単に出た。寂しいから、1人では生きていけないからだ。

 1人ではいられないから仲間を、家族を求める、それはごく普通の人と同じこと。

 ではなぜ、彼らは人を殺める? それは分からない、でもなんとなくだが分かる事がある。

 きっと、本当に憶測に過ぎないが、彼らは最初被害者だったのだ、おそらく、エクリプスウイルスというもののだろう。そして、被害者であった彼らは何らかの方法で加害者になった。

 それゆえに怖いのだ、再び被害者に戻る事が。故に仲間を作る、自分達を脅かすものがないようにする。

 『ど、どうしてそんな風にいえるの!?』

 なのはの言葉にたいして返ってきた声は、若干動揺の色が含まれていた。なのはの言葉は自分の気持ちを真っ直ぐに伝えたものだったから、その分真っ直ぐに彼等の心に響いたのかもしれない。

 「どうしてだろうね、なんとなくなんだ。でも、それでも私は、人を命を奪うことはいけないことだと、そう思います」

 『貴方に何が分かるの? 偉そうなことを言わないで!』

 「そうだね、なにも分からない。だから教えて、貴方達が人の命を奪う理由を」

 それを聞かなければ前に進めない。だから彼女はその心のままに言葉をつむぐ。

 『……………聞いてどうするの?』

 「それも分からない。でも、もしかしたら何かできるかもしれない」

 『おめでたい人だね、そんなことできるなら、とっくにしてるって分からない?」

 「ごめんなさい、何も知らなくて。それでも教えてくれますか?』

 ステラは分からなかった。なのはの意図が全く分からなかった。彼女の言葉は管理局の人間が言うこととはまるで違う。ステラと同じく、フォルテスもまた、予想していた管理局の行動とはかけ離れたいまの状況に、理解が追いつかなかった。

 だがいつまでも問答してるわけにはいかない。この相手を突き放すには理由を話す事が一番早いだろう、と言うことをフォルテスは結論付け、ステラに話すように促がす。

 そしてなのはは聞いた。エクリプスウイルスのことを、殺害衝動のことを、自己対滅のことを、それらの治療法はないことを。

 それを聞いた彼女が最初に思ったことは、ああやっぱり、という納得だった。やはり彼女達は最初は被害者だったのだ、そして被害者のまま加害者になってしまった。

 「そうか、そうだったんだ」

 『これで分かったでしょ、だから……」

 「最後に一つ聞かせて? 貴方は、その病気を治したい?」

 『え………』

 ステラにとっては思いもよらない質問、横に顔を向けるとフォルティスも同様らしい。

 「その病気がなくなって、もう何かを壊すことも、人の命を奪うこともしなくていい様になれば、貴方は嬉しい?」

 『え、ええと』

 そんなこと、今まで考えたことも無かった。考えないようにしていた、だってそれは空しいだけだから。いくらそんなことも妄想しても、現実に人を殺さなければならないウイルスに、身体の芯まで侵されているのだ。

 でも、でももしもそれらが全て無くなったら―――

 「どうかな?」
 
 優しい声だった。赤子をあやす母親のようなそんな声。

 その声があまりにも心地よかったからだろうか、ステラという少女の奥底にあった小さな願いが口から漏れ出たのは。


 『………もし、無くす事が出来るなら、こんな身体でなんて、いたくない』


 聞いた、たしかに聞いた、彼女は、なのはは少女の願いを聞いたのだ。

 ならばすることは一つ、自分の気持ちをそのまま、この胸の輝きに伝えるだけ。

 魔法の力は素敵な力。みんなの顔に笑顔を戻す、不思議な力。彼等の病気を治せれば、これ以上被害者を出さなくてすむ、悲しい表情を増やさずにすむ。

 彼女は一歩前に踏みだし、自分の気持ちを、自分にとって一番大事な気持ちを、胸で輝く宝石に込める。

 自分が”好き”なのは、皆が笑顔でいること、だから私は、私の魔法はそれに答えてくれるはず。

 そんななのはの様子をみて、ようやく時の凍結から解放されたように、はやてが問いかける。

 「なのはちゃん、一体何をするつもりなん? それにレイジングハートが……」

 その問いになのははふわりと微笑んで、自信を持って答える。

 「大丈夫、私にまかせて、ね?」

 そして再び時が止まったように、周囲全ての者がなのはの行動を見守っていた。






 なのはは胸の宝石を、ネックレスにしていたレイジングハートを首から外し、両手の中に包みこむ。すると、今までとは比べ物にならないほど強い光が一面を覆う。

 だが、それはとても温かな光で、まるで母の胸に抱かれるような、そんな安心感を与えてくれるものだった。

 そんな中を、はっきりと、そして美しい旋律のような声が響き渡る。


 「我、使命を受けたもうものなり、契約の元、その力を解き放ちたまえ」

 手のひらに伝わる、魔法の不思議。この胸の中に溢れている熱い想いで、レイジングハートが輝いている。

 「風は空に、星は天に、そして、不屈の魂(こころ)はこの胸に」

 この想いを消さないで、真っ直ぐに伝える事が出来るなら、きっと。

 「この手に魔法を、レイジングハート、力を……」

 どんな願いも叶うはず。




 レイジングハートの輝きが、一層強くなり、本来ならもう目を開けていられないような強さのはずなのに、はやてたちはその光景をしっかりと見つめる事が出来ていた。

 なのはの姿は、管理局の制服から、白いワンピースのような姿に変わっていたが、その姿は神秘的で、彼女が広げた手のひらの上に浮かぶレイジングハートの光は何処までも神々しい。

 レイジングハートは宝石のままだった。はやてたち知る、バスターモードでも、エクセリオンモードでも、ブラスターモードでもない。

 だが、次なる変化はすぐに起こった。なのはの詠唱はまだ続いていたのだ。


 「レイデン…… イリカル…… クロルフル……」

 レイジングハートの起動の正式な詠唱は、はやても知っていた、以前なのはに教えてもらった。けれど、この詠唱は聞いた事が無い。

 「我、誓約を以って命ずるものなり……」

 それはなのはの最も大切な人の、人たちとの繋がりの証、この場でこれお使うことは、なのはにとっては当然のこと。だって、レイジングハートとこの杖の2つで、あの時の”ヒドゥン”を退けたのだから。

 「貴方の歌を響かせて…… Song To You」

 レイジングハートの白い光とは別の光が、なのはの手のひらに現れた。

 それはカード、しかしそれを見たはやては知っていた。そして思い出した、彼女の夫が誰なのか、どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 そして、なのはの手の平の上で浮いていたその2つが、2つの光が融合し、一振り杖となっていた。

 その姿ははやてに見覚えがある。幼い頃クロノに見せてもらったS2Uの姿だ。だが、色が違う。その杖の色は彼女が知る黒ではなく白、そして中央の水晶体の色が蒼から赤に変わっている。

 それはつまり、レイジングハートとS2Uが融合した姿であると言うことだろう。そして、白い杖を掲げるなのはからは、物語に出てくる天使や女神のような美しさを感じられる。

 なのはが持つ白いS2Uに蒼と白の光が螺旋状に取り巻いていくと、驚きに声も出せないはやてを初めとした周囲の人たちをさらに驚かせる事が起こる。だがそれは驚愕というより感嘆の感情のほうが強いかもしれない。




 「リリカル、マジカル、あの子達の病気を治してあげて」



 そう、なのはが魔法の言葉をつむいだ瞬間。

 歌。

 歌だった。S2Uからメロディーが流れている。

 そしてなのはもそのメロディーに合わせて歌を歌っている。その手に持つSong To You(歌を、貴方に)の意味そのままに。
  
 光に包まれ、心を暖めてくれるような歌声で歌う女性。その姿はやはり神々しい。

 だからだろう、それを見ていたはやてたちは、その”変化”には全く驚かず、むしろ当然の出来事のように受け入れられたのは。

 歌を歌うなのはに、いつのまにか輝く羽が生えていた。それはなにも驚くことではない、天使に羽があるのは当たり前だ、誰もがそう思えてしまうほど、今のなのはは美しかった。

 その羽根もまた、彼女の心が形になったもの、”歌を通して願いを伝える”というイメージの際、なのはに浮かんだのは一人の女性。

 光の歌姫、フィアッセ・クリステラ。

 何度か見せてもらった彼女の美しい羽根、それを連想したからか、なのはにもまた輝く羽根が生えていた。

 そして、フィアッセの歌が世界中に届くものであるように、今のなのはの歌もまた、世界中に響いていたのだ。

 この日、この時、管理世界、管理外世界の区別なく、すべての次元世界のエクリプスウイルス感染者、エクリプスウェポン保持者、その他ウイルスに関連したあらゆるもののもとに、この歌声は響き渡った。

 癒しの願いが込められた、優しい歌声が。

 



 そうして、永遠とも思われる時間響いていたその歌声が止まった頃には、次元世界に存在するエクリプスウイルスは、ことごとく、はじめから存在していなかったかのように消滅した。

 



 あとがき

毎度妄言を吐いてしまって申し訳ない、次回で最終回です。いや、書いてるうちにどんどん長くなるんですよ、不思議なことに。
今回のコンセプト、というかこの話のコンセプトは『なのちゃん、マジ天使』です。なのでマジに天使にしちゃいました。
この展開が受け入れてもらえるか、正直ビクビクしています、気に入ってもらえたら嬉しいです。


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