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No.28792の一覧
[0] 【完結】リリカルマジック ~素敵な魔法~ (リリちゃ箱→Force)[GDI](2011/08/04 07:56)
[1] その2  気苦労多き八神司令[GDI](2011/07/14 16:44)
[2] その3  優しい時間[GDI](2011/07/17 11:24)
[3] その4  たいせつなもの[GDI](2011/07/22 14:06)
[4] その5  魔法の言葉はリリカルマジカル[GDI](2011/07/22 14:06)
[5] その6  決意、新たに[GDI](2011/07/24 13:57)
[6] その7  ただいま[GDI](2011/07/27 01:26)
[7] 番外編 高町一尉の異世界生活[GDI](2011/07/31 13:11)
[8] 番外編 花咲く頃に会いましょう[GDI](2011/08/04 08:02)
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[28792] その6  決意、新たに
Name: GDI◆9ddb8c33 ID:97ddd526 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/24 13:57
 まず、お詫びを、コレ最終回じゃありません、前回嘘をつきました。自分の構想の甘さが嫌になる……


 その6  決意、新たに


 第一世界ミッドチルダ、特務六課 司令室


それから数日後、前代未聞の『エクリプス事件」の事後処理に追われていた八神司令以下特務六課のメンバーは、その膨大な量に辟易しながらも、なんとか一番忙しい段階を終えていた。とくに、前線メンバーとして招集されたメンツは、自分たちがモニターとひらめっこする日々を送るとは思っていなかったので、相当まいってしまっていた。

 そんな特務六課の八神はやてのもとへ、1人の男性がやってきた。管理局の査察官でありはやての旧知でもあるヴェロッサ・アコースだ。

 「やあ、お疲れ様、君の部隊の人たちは相当参っているようだね」

 「おー、ロッサー、わたしも参ってるでー」


 机の上にだらしなく上半身を投げ出すはやての様子に、ヴェロッサは苦笑しながら注意する。

 「おやおや、若い女性がそんなだらしない格好をしてはいけないよ。ここにいるのが僕じゃなく姉さんかシャッハだったら、なんて言われるか」

 「カリムたちかて、激務の後はこんなんなってるのと違う?」

 「否定できないところが、しまらないなあ、それはさておき、一段落ついたようだね」

 「まあなぁ、ここ数日の苦労の甲斐あって、なんとか経過報告書は纏まったわ」

 はやてたちの苦労は、まずあの”奇跡の歌”が鳴り終わった直後から始まった。そのときの事をはやては思い出す。







 歌が終わり、光が収まっていったと思うと、次の瞬間なのはは音もなく倒れこんだ。

 はやてたちは急いで駆け寄ろうとしたが、今度はモニターの向こうで異常が起こっていることを、クルーが大声で報告した。その声に応じてモニターを見ると、敵艦”フッケバイン”の高度が見る見るうちに下がっていっている。このままでは一分とかからず墜落するだろう。

 敵艦内部には突入した3人がいる。だがこれは問題ない、フェイトは飛べるし、エリオのストラーダも限定的な飛行が可能で、スバルにはウイングロードがある。しかし、内部にはそれ以外に民間人3名がいるのだ。

 そのうえ、敵艦”フッケバイン”が墜落しようとしているという事が何を意味するか、それは敵の動力が落ちているということだ。そして、その高度の下がり方は、出力が下がっている、というよりは完全に止まっている、というのが正しそうだった。

 ディバイドゼロ・エクリプスではない、そうであれば自分達にも影響があるはず、では原因はなにか。思い当たることは唯一つ。

 彼女は言ったではないか、歌ったではないか、この世界から不幸の、人々から笑顔を奪う元凶となるウイルスを去らせる聖句を。

 では、敵艦が墜落しようとしている原因ははっきりとしている、敵の能力が、エクリプスウイルスが失われたのだ。おそらく永遠に。

 敵艦”フッケバイン”もまたエクリプスウェポンの一つ、だからこそ、それの使い手が感染者でなくなった今、それはただのオブジェと化す。

 さらに、そうであるならば中のフッケバインメンバーは既になんの脅威も無い、一般人と化している、この高度からの墜落の衝撃を受ければただではすまないだろう。

 原因は分かった、ならば後は対処するのみ、はやての思考は高速で回転し、指示は迅速を極めた。

 「キャロ! ちょおキツイと思うけど、今すぐヴォルテールの召喚を! アレを下から支えて」

 「はい、了解しました!」

 キャロもまたブリッジにいた。有事の際に備えて控えていたのだ。そして彼女はすぐに司令官の指示に応え、己の究極召喚の術式を組む。

 ディバイドゼロ・エクリプスの直後であることを考えれば、それは不可能であるが、彼女は奇跡の光を間近で受けた1人なので、魔力も体力も十分ある。

 そうして召喚されたヴォルテールがその巨体に相応しい膂力で艦を支え、海面に軟着水させる。それを見て一段落、と息をついたはやて以下クルーたちに、さらなる報告が寄せられた。

 【こちらザフィーラ、本艦に接近していたと思われる人影が、海に堕ちようとしているのを発見、ただちに救出に向かう】

 ティアナの応援のために甲板に上がっていたザフィーラからだった。ティアナは高速飛行が出来ないので、彼を向かわせて良かったと、はやては思う。彼がいなかったらその人物――おそらくフッケバインの1人で、ウイルスの消滅と共に、飛行能力がなくなったのだろう――は海の藻屑と消えていただろうから。

 そして、突入組は、既にただの人間となったフッケバイン一家を捕らえて敵艦内から帰還し、民間人3名も無事保護した。そこへザフィーラも帰還し、最後の1人がフッケバインの首領であることが明らかになった。

 彼らはまとめて船室に監禁し、一応の監視は置いたが、彼らは既に無力だった。その様子は、己の絶対的な力が、一瞬にして霧散した現実を、把握できていないようにも見えた。そんな中ただ1人、ステラだけはなにが起こったか分かってた様子にみえたが。

 なのはの容態もただ気を失っているだけのようだったので、一同は安堵し、全員無事にミッドチルダに向け帰還したのだった。







 
 一連のことを思い出したはやては、そこで終われば、万々歳やったんやけどなぁ、かみ締めるように思う。

 「まさか、全世界中のウイルスが消滅しとるなんてなぁ」

 「僕も聞いた時は耳を疑ったよ」

 はやてたちがフッケバイン一家にのみだと思った”奇跡の歌”の効果は、その思惑を場外まで通り越し、次元世界全てに発揮されていた。そして特務六課は、その確認のために四方奔走するハメになったのだ。

 結果として、局が既に回収していたエクリプス・ウェポンはただのステキデザインの武器となっており、その後に発見した違法研究所に捕らわれていた感染者たちも、ただの人になっていた。

 だが、そのために六課のメンツはその事後処理のためのデスクワークに四苦八苦するハメになったのである。

 「それがようやく一段落…… この数日は地獄やったわ…… 半分はロッサのせいやねんで?」

 「”おかげ”といって欲しいなぁ、一応、僕がいなければその違法研究所の場所が分からず、その元感染者の救助が間に合わなかったかもしれないのだから。まあ、だからはやてたちの仕事は増えたんだろうけどね」

 彼の固有技能である『思考捜査』。彼が触れた対象の脳内の記憶を読み取る事が出来る能力。一応これも魔導の力であるため、フッケバインメンバーには効かない筈であったが、今の彼らはただの人間。

 なのでヴェロッサは彼らの頭から知っている限りのウイルス関連の情報を引き出した。はやてたちはそれを基に行動を起こしたのだ、行動を起こした結果が、いまの書類の山となっているのだが。

 「まあ、そうなんやけど、でもほんまにきつかったわ~。こんなきつかったの機動六課設立以来やで、もうわたしはこれ以後”六課”とつけられた部隊の作戦は金輪際参加せえへん」

 「ハハハ、まあ、気持ちは分かるよ。君らほどでなくとも、僕ら方もけっこう忙しかったから。事件が事件なので、僕もこうして駆り出されたくらいだからね」

 「まあ、後方支援組はともかく、前線メンバーとして召集したスバルたちは、もっときつかったやろなぁ。というかひょっとするとまだ終わってへんかもしれへん」

 「元々畑違いだしね、でも大丈夫じゃないかな、さっきランスターのお嬢さんとすれ違ったし」

 「ああ、ティアナが来たんなら、大丈夫やな、ふー、それにしても疲れたわ……」

 そうして再び机に突っ伏すはやて、ヴェロッサはやれやれ、という表情で彼女に近づき、治癒魔法をかけてやった。

 おおきに~と突っ伏した体制のまま、気の抜けた声を出すはやてに、手のかかる妹分だ、と思いつつ魔法を掛けるヴェロッサだった。





 特務六課 隊員オフィス


 特務六課の通常隊員たちが事務仕事を行うオフィスでは、2人の陸士が疲れた身体に鞭打って、モニターと向き合って手を動かしていた。

 エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ。この両名とてデスクワークを行っていないわけではない。ただ、辺境自然保護隊での内容と全く異なる形式の書類に、散々手こずらされていたのだ。

 同じ組織とはいえ、部署は違えば様式も全く違う。まして管理局は次元世界屈指の大きい組織だ、その差異も当然大きい。

 そんな訳で、彼ら2人は終わらぬ書類仕事に心身ともに疲れきっていた。自然保護区で身体を動かしたときの心地よい疲労ではなく、頭に鈍痛が走るようなそんな重い疲労。

 「ああ、この事件が起こらなければ、今頃はきっとアシタカさんやシュナさんたちと一緒に、ヤックルにのってエスタフの草原を走り回っていれたんだろうなぁ……」

 自然保護部隊も、その勤務内容は多岐に渡る。希少種の観測、密猟者の摘発、生態系の異変の調査などなど。中には保護区内の先住民族との交流なども職務に含まれる。

 そして保護区自体も多くの次元世界に点在しているので、一つの固定された世界で長年勤務している者もあれば、多くの世界を渡り歩いて調査を行う者もいる。

 エリオとキャロはどちらかいうと前者で、キャロは行く先々の動植物と意思疎通でも出来ているかのように自然の様子を察する事が得意で、エリオは、その人柄のよさからか、先住民族との交流がなにより得意だった。

 今エリオが思い浮かべているのは、その先住民族の青年達と、彼等の家畜に跨り草原を駆けている自分。一年前に体験したアレは、実に爽快だったし、遊牧民である彼等の生き方も素朴で素敵なものだった。彼らと再び会うことを楽しみにしていたのだが、今回の召集でお流れとなってしまった。残念でならない。

 そんなエリオを励ますように、キャロが彼女自身も楽しみにしている話題をだす。

 「でも、この仕事ももうすぐ終わるし、そうすればちょうどアスベルさんが来てくれる頃だよ」

 次元世界を巡る冒険者の中には、嘱託魔導師として保護隊に協力してくれている人たちもいる。キャロが名を出した青年もその1人で、自然が多い所を旅しては、行く先々の様子を保護隊に提供してくれるのだ。とりわけその青年はしっかりとしたデータを作っていてくれるので、保護隊の中で人気がある。

 「そうか、そうだね、うん、アスベルさんとも久しぶりだ、また手合わせお願いしたいな」

 「わたしはカイやクイに会うのが楽しみ、2人ともわたしのこと覚えてるかなぁ。前にひょっとしたらお師匠様も一緒に来てくれるかも、って言ってたから、その人と会うのも待ち遠しいね」

 この先に待つ出来事を思い起こして元気が蘇ったのか、二人とも顔を見合わせ、笑いあった後またモニターに向かいデータ処理という強大な敵に立ち向かう。

 そこへ、2人のよく知る声が、耳に入ってきた。

 「お疲れ様2人とも、はい、差し入れ、疲れた頭によく効くわよ」

 「ティアナさん」

 「いつ戻ったんですか?」

 「今よ、着いたばっかり、フェイトさんはまだ現場に残ってるけど、あとは1人で大丈夫だって」

 「そうなんですか」

 2人はティアナから受け取った栄養剤を飲み、その柑橘系の風味に頭がすっきりするのを感じながら、話を続ける。

 「じゃあ、向こうの仕事の目処も大体立ったんですね」

 「うん、今分かってる情報のところは大体終わったわ。まだまだいくつあるか分からないけど、この先は捜査官と一緒に地道にやるしかないもの」

 「じゃあ、特務六課ももうすぐ解散ですね」

 「そうね、あっという間、というか嵐のような日々だったわ。でも、全部あの人が起こしたあの”歌”がなければこうはならなかったでしょうね、きっと今でもフッケバインを追っていたと思うわ」

 「ええ、本当に、今でも毎日その事実を裏付けるデータと向き合っていますけど、まだ信じられませんよ」

 エクリプスウイルスがこの世全てからの消滅した、そしてそれを起こしたのが、たった一人の女性。

 「まさしく”奇跡”ね、まるで御伽噺の神さまみたい」

 「でも、あの時のなのはさん、本当に女神様みたいでした」

 この3人のうち、その光景をみたのはキャロ1人、あのときのなのはの美しい姿は生涯忘れないだろうと、彼女は思う。

 「僕も見てみたかったな、けど、もうそれは叶わないんだよね」

 「奇跡には代償が必要だってことかしらね。そして、そんな奇跡の力も、私達からデスクワークを除いてくれることはできなかった、と」

 ティアナは悪戯っぽく笑った。エリオとキャロもつられて笑う。

 「でも、全部が全部をなのはさんに背負ってもらうことなんかできませんし、そんなことは思っちゃいけないことです。なのはさんが頑張ってくれたんだから、僕らは、僕らの仕事を精一杯頑張らないと」

 「おお、良いこと言うわねエリオ」

 「って言ってもさっきキャロに愚痴聞いてもらったばっかりなんですけどね」

 「あはは、仲の良いことでなにより」

 そこで、ティアナは不意に笑顔から真剣な顔に戻る。

 「でも、エリオの言うとおり、なのはさんが起こしてくれた”奇跡”は確かに皆を助けてくれたけど、それに頼ってちゃいけないのよね」

 「わたしは、アレは女神様がくれたプレゼントと思ってます。でも誕生日のように毎年貰えるわけじゃない、1回きりの、飛び切りのプレゼント」

 「そして、その後もこうして日常は、世界は回っていくんだから、僕らは自分の出来ること、やるべき事をやっっていかないといかないんだ」

 「なのはさんが願ったような、”人々が笑い合える”世界に少しでも近づけるためにね。そのための管理局で、そのためのあたし達」

 「ハイ! 頑張りましょう!」

 「なら、その最初としてこの書類を片付けないとね、よーし、やろうかキャロ」

 「うん」

 そうして決意新たに書類仕事に戻る2人を見て、ティアナは相変わらずイイ子たちだな、と思い、元々ココに来た目的を告げる。

 「あたしも手伝うわ、というかそのために来たんだし。海の書類はアンタ達には古代の石版みたいに難解でしょ」

 「あ、それは助かりますけどいいんですか?」

 「スバルさんの分の書類もあるんじゃ……」

 スバルは、2日前にクラナガンで起こった高層ビル火災の応援のため、一足先に元の部隊に戻っていた。そのため、スバルの分の書類はまだ結構な量がのこっていたりする。

 「あのね、あたしはこれでも執務官よ、なめてもらっちゃ困るわね」

 そういいながら席に着き、データを打ち込み書類を作っていく。その速さはエリオとキャロの倍かそれ以上だ。

 そうやって3人でしばらくデスクワークという敵を攻略していったが、不意にキャロがひとり言のように呟いた。

 「フェイトさん、ちゃんと休んでるかな……」

 それを聞き取ったティアナは、手を休めることなく応じる。

 「アンタ達よりは疲れた様子は無かったわ。大丈夫、もうすぐ帰って来るから、そのときアンタのヒーリング掛けて上げなさい」

 「はい」

 「ほら、手が止まってるわよ」

 「ああ、すみません」

 2人の会話を聞きながら、エリオもまた遠くにいるフェイトのことを思い、キャロと同じような心配をしていた。








 とある管理外世界 違法研究所跡


 遠く離れた所にいる2人の子供から無理してはいないかと心配されている女性であるところのフェイト・T・ハラオウンは、実際の所その2人より肉体的疲労も精神的疲労も感じてはいなかった。

 しかし、彼女の精神を嫌な方向で刺激するものがある、その名は疲労ではなく嫌悪。その感情は今自分の前に広がるカプセルの中にあるもの、今は”モノ”になってしまったそれらを眺めたことによりもたらされたものだ。

 彼女が嫌悪しているのはソレ自体にではない。ソレがもともとなんであったのかを知っていて、それを”こうしてしまった”者達に向けた嫌悪感だ。

 フェイトがソレから視線を外し、この施設を全て破壊するための指示を行っていくと、補佐官であるシャリオ・フィニーノが報告を持って現れた。

 「フェイトさん、向こうの区画には何人かの生存者がいました。それと、カプセルの中にも人の形をしているものがあって、生命反応もあります」

 「そう、これまでの所と同じだね」

 ここ数日フェイトが踏み込んだ施設には、まだ研究者が残っていたところがほとんどだった。そのため多くの違法研究者の逮捕が出来たが、その研究所の惨状は、歴戦の管理局員でさえ吐き気を催すものだった。

 人をモノのようにしか扱っていないということを如実に表している研究所内部の様子と、生き残った実験体にされかけた人たちからの証言。それら全てがこの研究者達が人からかけ離れた精神を持つ下衆であることを示していた。

 正直、あのスカリエッティがよほどの善人に感じてくるほどだ、思えば、あの男は狂人だったが、どこか生命に対して敬意を払っていたような気がする。

 そんな思考を振り払うかのように首を振り、フェイトはシャリオの報告を聞いていく。

 あの作戦の後、ヴェロッサによってもたらされた情報を基に、フェイトは専門部隊を連れて違法研究所の摘発を開始した。結果は上々、ほぼ全ての場所で逮捕に成功している。

 それは、ロッサが引き出した情報の正確さもあるが、部隊の行動の早さに依るところがなにより大きい、流石は歴戦のプロ達である。行動が迅速且つ的確で、足並みもしっかり揃っている。普段の訓練と経験の賜物だ。

 フェイトたちは着実に問題を解決していった。そのきっかけは、もちろん、なのはがもたらしてくれた”奇跡”が起こったからだろう。だが、その後の迅速は摘発作戦は、フェイトを初めとした部隊たちの積み重ねによるものだ。彼らでなければ、こうも簡単に次々と摘発成功にはならなかっただろう。

 「ここの施設には既に完全破壊の措置がされていました。研究員の話では、明日にはここを破棄していたとのことです」

 「そう、間一髪だったな」

 あれから数日、ウイルスが消滅したことは研究者たちも無論気づいたのだろう。その異変から自分達の危機を察して雲隠れする奴らは当然現れる、現れないほうがおかしい。

 故にフェイトは急いだ。”奇跡”の恩恵をうけてただただ喜ぶようなことはせず、自分の成すべきことを考え、そして行動したのだ。何よりも時間との勝負で、そして彼女は勝利した。

 「やはり、ここでも自己対滅したものは……?」

 フェイトの問いに、シャリオの表情が曇る。やはり向き合いづらい現実というものはあるのだ。

 「ここには自己対滅後の被験者が127人いました。そのうち生命活動を続けていた7名は人の形を取り戻していて、医療班の話では意識も戻るとのことです」

 「そうか…… なによりだ」

 仕事中のフェイトは、プライベートの時とは別人に思えるほど表情が厳しく、口調も固い、その姿は義理の兄であるクロノを髣髴させるものがある。今の彼女は敏腕の執務官以外の何者でもない。

 ここ以外で4箇所、違法研究所を回ったが、そこにいた生存者と、”あった”死者の数は圧倒的に後者の方が多い。その死者達はそうと知らないものが見れば、死者であることすらわからないほど、姿形を変えられていた。

 自己対滅した者のなかで、まだ生命活動を続けていた者は人のかたちに戻れていたが、多くのものはその変わり果てた姿で死んでいたのだ。

 ”奇跡”はたしかに起きた、たが、間に合わなかった者もいる、それが現実。そして自分達はその現実に立ち向かわなくてはならない。

 その瞳に強い輝きを宿し、フェイトは思う。この広い世界には、こうした人を人と思わずにいる者達がまだまだいる、ここで捕らえたのは氷山の一角にすぎない、自分達の戦いは、管理局の戦いはこれからも続いていく。

 ただ、鬼を倒すためには鬼にならなければいけない、という考え方はダメだ、とも思う。それではいつの間にか自分達の敵と同じになってしまう。今回のことで、そのことも改めて認識した。

 AEC装備の先にあるのは、多分そういうものだろう、今までのデバイスとは違う、”武器”としての能力しかもたず、しかもシグナムたちの剣のように長い修練を必要とせずに誰でも使える”兵器”は。

 彼女のものとは違うけど、彼女のように奇跡をもたらすことは出来ないけれど、自分達にも魔法がある。それも人を傷つけることがないように、先人達が改良してきた技術だ、それは偉大なことだと思う。

 だから、私達は私達の魔法で、彼女の奇跡のように、罪無き人に笑顔をもたらすことをしていこう。

 ちょうど、フェイトの子供2人と同じような決意を、彼女もまた抱くのだった。そのことを隣のシャリオに告げる。

 「ねえ、シャーリイ」

 「はい、なんでしょうフェイトさん」

 「あのなのはが起こしてくれた奇跡は、これ以上エクリプスウイルスで苦しむ人が出ないようにしてくれた」

 「はい」

 「でも、すでにエクリプスウイルスによって苦しんでいた人、辛い目にあった人を助けることは、私達の仕事だ、そうでしょ?」

 「はい、ここで救出した人たちや、フッケバインによって殺された人の身内の方々への援助は成されなければなりません」

 「そうだ、それこそが、秩序の、平和の守り手である管理局の仕事だ。頑張ろう、これからも忙しくなるから、頼りにしてるよ」

 「もちろん、このシャリオ・フィニーノ、非才なる身の全力をもって頑張ります!」

 うん、と頷いて彼女は研究所の外に出て、吹き込んできた風を全身に受けた。澱んだ空気の研究所内にいた彼女には、それは自分に向けられたエールのように感じられた。

 シャリオと並んで歩きながら、彼女は既に赤くなった空に気づいた。それがまるで空が燃えているように見えたからか、そういえば火災現場に向かったというスバルはどうしているだろうか、という思いを抱いた。




 第1世界 ミッドチルダ 首都クラナガン
 

 2日前に起こった高層ビル火災現場、そこでスバル・ナカジマは妹であり同僚でもあるノーヴェ・ナカジマと最終確認を行っていた。

 型式が古いビルだったからか、火災が起こった場所が運悪くビルのメインシステムの近くであり、緊急時の際に全てのシャッターが閉じた後メインシステムがダウンし、地下の階にいた人々が閉じ込められてしまったため、その救助ために日を跨いだ救助作戦となった。

 ビルの消火が完全に鎮火し、倒壊の危険性が無いことを確認してからの救出作業となったので、ほとんど休まずに働いていた特別救助隊の隊員は疲れていた。が、1人も死者をださなかったことに皆満足感を覚えてもいた。

 「しっかし、よく間に合ったなスバル、正直まだまだ時間がかかると思っていたぜ」

 「うん、女神さまからのプレゼントがあって、あたしの方はこっちを優先していい事になったんだ」

 「何だよそりゃ」

 そういいながら救助隊のテントの椅子に座り、手近にあったドリンクを一気飲みするノーヴェ。

 「はー、生き返るぜ、流石に2日間休みなしはきつかった。だけどホントにお前が来て良かったよ、多分あたし達だけじゃ48階の連中は助けられなかった」

 「あたしも来れてよかったと思ってる。だってこれがあたしの仕事だし、したいことだもん」

 防災士長であるスバルの能力は特別救助隊のなかでも指折りだ、そんな彼女がいないときに大規模火災が起こったことに隊員たちは舌打ちして神のクソ野郎と呪ったが、現場に駆けつけてきたスバルを見て、前言撤回した。

 そしてスバルは思う、もしなのはがあの奇跡を起こしてくれなかったら、自分は今ココには居れなかっただろう、だからそのことには感謝してもしきれない。

 (なのはさん、貴女のおかげで、あたしは助けを求めてる人を無事に助ける事が出来ました)
 
 だけど、死者を1人も出さずに済んだのは、なのはの奇跡のおかげだけではない、ノーヴェが、他の隊員が居てくれたから、それが出来た。

 それが自分の職場、特別救助隊。助けが必要な人の下へ、1秒でも早く、そして1人でも多く助けることに力を尽くす場所。

 こっちのなのはさんに助けられてこの道を目指すことを志し、今また別のなのはさんが起こした奇跡によって、自分の居るべき場所、やるべきことを改めて認識した。

 そのことを、スバルは隣に居たノーヴェに対して口にする、だがそれは言葉にすることによって、自分に強く言い聞かせる意味合いが強かったかもしれない。

 「ノーヴェ、あたしたちの仕事は大変な事が多いけど、人の命に直接関わる大事な仕事だから、これからも頑張っていこうね!」

 「何言ってんだ、そんなん当たり前じゃねーか」

 何を当然のことを、といわんばかりのノーヴェの表情と言葉に、返ってスバルは笑顔になり、うん、そうだよね、と返して炎の色ではない赤で染まりつつある空を眺めた。

 女神さまがくれた奇跡で今回は助けられたけど、それはもう2度と起こらない一度きりの贈り物で、これからも自分の現実は続いていく。だからここにいるノーヴェたちと一緒に、精一杯の力で自分の選んだ道を生きていこうと、赤い空を見上げながら、そんな思いを抱くスバルだった。

 そしてようやく現場の緊張が抜けたためか、無事保護したあの弟分は、今頃どうしてるかな、と考えた。







 クラナガン 管理局病院 特務六課用病室

 
 「はい、一通りの検査は終わりました。これで無事退院できます、おめでとう」

 医務官であるシャマルは、その言葉とともに患者に笑顔を向ける。患者は2名、トーマ・アヴェニールとリリィ・シュトロゼック。さらに付き添いにアイシス・イーグレットもいる。

 トーマは完全にエクリプスウイルスの影響が抜け、元の少年に戻っており、リリィは本来エクリプス兵器の生きた制御端末のようなのであったが、”奇跡の歌”が響いた後は、口が効けないだけのごく普通の少女となっていた。

 その理由についてはシャマルも分からないが、その光景を見た者としては、あの女性が誰かが不幸になることを望まなかったから、という結論しか浮かばなかった。そいう奇跡があったっていいじゃない、と思う。

 それに、自分たちとて元は単なるプログラム、文字と数字の羅列でしかなかった者たちだ、だからこの少女が人として生きることに、なんの問題があるという。

 だが、その少女、リリィ本人がそのことに当惑していた。自分の所為で多くの人が死んだ、その自分が普通に生きていいのか、と問うてきたのだ。

 ソレに対して無論トーマは、それはリリィの所為じゃない、と励まし、もう1人のアイシスは悪いのはその研究所のクソ野郎たちだよ! と怒りを顕わにして反論している。

 その光景を微笑ましく眺めながら、シャマルはリリィに優しく語り掛ける。

 「ねえ、リリィちゃん、聞いてくれる?」

 【は、はい】

 リリィは言葉を話せないが、念話を以って意思疎通を図ることはできる。ただ、人間になった彼女のソレは以前と異なり、通常の魔導師の念話と同じようなものになっていたが。

 「私達もね、リリィちゃんと似たようなものだったの。ある魔導書の付属品でしかなく、主の命令には逆らう事が出来ないプログラム」

 リリィを初めとした3人は驚いた、トーマですらそのことを聞いたことはなかった。

 「私達は、その間に多くの罪を犯したわ。今ではほとんど思い出すことすら出来ないけど、自分の手が血で染まる感触は、今でもなんとなく覚えてるの」

 3人とも声も出せずに、固唾を呑んでシャマルの言葉に耳を傾ける。

 「でも、はやてちゃんが、今の主がそんな私達を助けてくれた、私たちを”人”にしてくれて、一緒に罪を償う道を歩んでくれると言ってくれた」

 リリィは思う、そのシャマルの主は、自分にとってのトーマだと、初めて自分に温もりをくれた大事な人。

 「死ねことを選べば楽だったかもしれないけど、彼女が示したのは、一人でも多くの人を、私達が起こしてしまったような事件で苦しむ人たちを助けていく道。だから私は今ここに居る」

 シャマルの言葉には重みがある、彼女を初めとした4人は、16年目のあの日、己たちの身の振り方を真剣に語り合ったのだから。

 「闇の書の守護騎士たちは、今もそうして生きているの。貴女の場合は、貴女の責任なんか少しも無いんだから、そんなことを気にしちゃダメよ」

 とシャマルが締め括り、リリィが涙を流して頷いている所へ、別の声が掛かった。

 「そうだ、存在することは罪にはならない。剣を振るうことしか出来ない私ですら、こうして生きることを許されているのだ。お前が許されない道理がどこにある」

 シグナムだった。松葉杖を付き、点滴台を脇に従えながら、しかし背筋を伸ばして病室の前に立っていた。

 「シグナム!? 貴女こんな所でなにしてるの!?」

 「ヴィータから聞いた、保護された少女がかつての我らと似た境遇で、そして生き方に迷っていると。ならば先達として助言の一つでもと思いまかりこした次第だ」

 「次第だ、じゃないでしょ!! 貴女絶対安静なのよ、わかってる!?」

 「わかっているさ、そしてザフィーラは今の私のような状態で6年前の事件では動いただろう」

 「あの時は仕方なかったけど、今はもう事件は終わってるのよ、なのに「シグナムー!! テメぇ何処行きやがったーー!!」

 シャマルとシグナムの口論、というかシャマルの説教が始まろうとしたとき、ここは病院だ、という注意を受けそうなほどの大声が聞こえてきた。

 実際、「はい、すみません……」という小さな声も聞こえたので、注意を受けたようだ。

 「ここか、やっぱり居やがったな、さあ病室戻るぞ馬鹿野郎」

 現れたのはヴィータだった。注意されたからか、大きさは抑えてあったが、その声は怒りに満ちている。

 「いや、まだ私はこの少女にいうべきことが……」

 「それはシャマルに任せとけ、テメエの一番の仕事は傷を早く治して現場復帰することだろうが」

 「それはそうだが、しかし」

 「い・い・か・ら、いくぞ! ったく世話やかせんじゃネーよ」

 と言ってシグナムを引っ張っていくヴィータ、そして去り際にリリィに向かって。

 「まあ、なんだ、シャマルとこの馬鹿がもう言ったとは思うけど、お前は悪くねーよ、それに、もしそう言う奴らがいても、守ってやるんだろ? 坊主」

 前半はリリィにだが、後半はトーマに向けた言葉だったようだ。そのことに気づいたトーマは、元気よく頷いた。

 「はい、もちろんです、リリィのことをとやかく言うヤツがいても、俺はぜったいリリィの味方だから」

 「うむ、いい顔だ。男の顔だな、頼もしいぞ」

 「早く来いつってんだろシグナム、何うんうんと頷いてやがる!」

 そういうやりとりを残し、二人は去っていった。シャマルがコホンと咳払いをし、もう一度纏めに入る。

 「ま、まあヴィータちゃんとシグナムも言ったとおり、リリィちゃんは責任を感じることは何も無いわ。それでももし自分で納得できなかったら、トーマ君やアイシスちゃんに相談なさい、あなたのことを最も親身になってくれるのは、きっとこの2人だから」

 「もっちろん」

 「リリィ、何でも言ってくれよ」

 その2人が元気よく返事をすると、リリィもようやく笑顔になり、彼女の心の影は一応は祓われたようだ。

 「さて、退院したあとは、ナカジマ家に向かうのかしら」

 「はい、こんなことになっちゃいましたから、一旦戻って、そのあともう一度今後どうするかを考えます」

 「あたしは、もう一回3人で旅したいな」

 【わたしも、そうなれば素敵だと思う】

 「まあ、なんにしても一旦おうちに帰らないとね」

 そして、3人は病院から退院していった。リリィは足が動かないので、たまたま現れたザフィーラ(シグナムの見舞いに来た所だった)の背に乗って少し離れたターミナルまで行き、仲良く笑顔でナカジマ家へと向かうのだった。

 ちなみに、ターミナルへ向かう最中、第3者がいると分かれば会話も弾まないだろう、と気を遣ったザフィーラは終始無言のままだった。なのでトーマたち3人はザフィーラが喋れることを知ったのは、ずっと後のことになる。




 

 あとがき

 もう最終回うんぬんは言いません、罪が重くなりそうなだけなので。それと今回はなのちゃん出ませんでしたね。

 次回書く予定なのは、フッケバインとなのちゃんのその後、そしてお別れですね。最終回とは言いません、これ以上嘘予告はしたくないので。

 今回のトーマたちを出しましたが、彼等の性格が今イチ掴めていないので、違和感があったら御免なさい。

 ただ、本編が終わったら、おまけ話として高町一尉のことの様子を短く(多分)書いて、もうひとつおまけを書いて終わりにする予定です。


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