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No.28792の一覧
[0] 【完結】リリカルマジック ~素敵な魔法~ (リリちゃ箱→Force)[GDI](2011/08/04 07:56)
[1] その2  気苦労多き八神司令[GDI](2011/07/14 16:44)
[2] その3  優しい時間[GDI](2011/07/17 11:24)
[3] その4  たいせつなもの[GDI](2011/07/22 14:06)
[4] その5  魔法の言葉はリリカルマジカル[GDI](2011/07/22 14:06)
[5] その6  決意、新たに[GDI](2011/07/24 13:57)
[6] その7  ただいま[GDI](2011/07/27 01:26)
[7] 番外編 高町一尉の異世界生活[GDI](2011/07/31 13:11)
[8] 番外編 花咲く頃に会いましょう[GDI](2011/08/04 08:02)
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[28792] 番外編 高町一尉の異世界生活
Name: GDI◆9ddb8c33 ID:97ddd526 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/31 13:11
番外編 高町一尉の異世界生活


海鳴市 藤見町 高町家


 高町なのは、戦技教導官である高町一等空尉は、周囲の急激な変化に対応できずにいた。彼女とて歴戦の魔導師である、なので不測の事態に対する心構えは常にしてあったのだが、流石にこの状況には混乱した。

 自分は第3世界ヴァイセンのCW社機器試験場でAEC装備のストライクカノンの最終チェックを行っていたはずだ。それが、一瞬眩い光が目に入ってきたと思った次の瞬間には、自分は別の場所にいたのである。

 強制転移? いや、そんな術式は探知されたいなかったし。そもそもあの場所でそんな事が出来るはずも無い。だが現実問題として自分がここに居るということは、それを成した何者かがいるということ。

 そして不屈のエースたる彼女をして混乱させる最大の要因は、なによりも周囲の光景だった。見覚えがあるのだ、よく知っている場所なのだ。

 どうして自分は、海鳴の実家にいるのだろう、彼女の頭の中を占めているのはそれだった。なぜか、いきなり実家に転移している。

 『マスター、ここは間違いなく貴方の実家であるようです』

 転移する直前まで手にしていた”カノン”こそないが、彼女の側には相棒たるレイジングハートがあることを、今の声が証明している。それだけあれば十分、例え何者かの陰謀であろうとも、負けない不屈の心が自分にはある。

 彼女がそうやって冷静になるように努め、周囲の気配を探った所、すぐ側に誰かがいる事に気づいた。

 その誰かに対し、なのはは油断なく構えて、かつ心に鎧を着せて質問する。自分を強制転移させた相手ならば、まちがいなく強力な魔力の持ち主だろう。

 「貴方は何者ですか、私は時空管理局特務六課の一等空尉、高町なのは。私をここに召び寄せた理由を答えてください」

 だが、そんななのはの心の鎧は、相手の姿を見た瞬間霧散して消えた。現れた(実際は最初からその部屋にいたのだが)相手はよく知っている相手だったから。そしてその人物が口を開く。

 「なのは?」

 その顔は間違いなく彼女が知るクロノ・ハラオウンのもの。だが、その上に今現れている表情は、彼女が一度も見た事が無いものだった。困惑を隠せず、しかし相手(この場合自分)に対する気遣いを感じられる、そんな表情。

 「クロノ、君?」

 一度持ち直した心構えが、再び混乱の色に変わっていく。何故か実家に転移していて、何故かそこにクロノがいる、流石のエースもこの状況にはついていけない。

 そのクロノは自分をじっと見た後、考え込むような仕草をし、何らか結論が出たのか再び口を開いた。

 「君は…… 僕のなのはとは、違うなのはだね……?」

 その言葉になのはの理解は追いつけないでいる。混乱した頭では、考えを上手く纏める事が出来ない。

 その最たる要因はいきなり実家にいたこともあるが、何より目の前のクロノの存在だ。彼が実家の高町の家にいる訳が分からない。しかも、クロノの様子が彼女が知る彼と違うのだ。

 彼女が知るクロノは、あまり表情を動かさずに、難しい顔をしていることが多い男性だ。性格も一言で言えば厳格で、他人に厳しく自分にはもっと厳しい。提督という立場もあり、最近ではどこか”威厳”のような雰囲気を漂わせている。

 だが、今彼女の前にいるクロノは、綺麗な瞳でこっちを見つめながら、心配そうな表情でなのはの答えを待っている。良く見れば、このクロノの顔は自分が知るクロノより柔らかい印象を受ける。

 一番違うのは瞳だ、彼女がよく知るクロノは、常日頃から厳しい顔をしているからか、鋭い目を持っている。だがこのクロノの目は大きく真ん丸で、綺麗な青い宝石のようだ。そして、その全体の雰囲気はクロノというよりユーノかフェイトに近い。

 「ええと、どういうことかな、クロノ君」

 そのなのはの返答に、クロノは再び考え込むような仕草をして、同じように言葉を発する。

 「取りあえず、ここで立ち話というのもなんだから、居間に行こう。このままじゃ士郎を起こしてしまう」

 えっ、となのはは驚いた。そしてその驚きは2回来た。クロノが士郎のことを呼び捨てにしたことが一度目の驚き、そして2度目の驚きは彼が指した”士郎”が、彼等の横のベッドで眠る小さな子供であることだった。




 


 「ええええ!? 私とクロノ君が結婚してるの!?」

 そして居間にて、クロノが淹れたコーヒーを挟んで自分達の情報を交換していた2人だが、なのはの何故クロノが高町家にいるのか、という質問にたいして返ってきた答えに、彼女は思わず大声を発してしまった。

 「なのは、夜も遅い時間だから、もう少し声をさげて」

 「は、はい」

 今まで話したことは、彼女がココにいる理由があの不思議な鏡によるものだろうと言うことと、彼女がミッドチルダに住む時空管理局所属の魔導師であるということ。

 そして次なる質問として、クロノが居る理由を聞いたところ、近所迷惑1歩手前な大声になってしまったというわけである。

 「今話したように、君がここにいる原因は寝室にあったあの鏡なんだ。そして、あれがどういう原理でどういう機能を果たしたのかは、まだ分かっていない」

 「そう、だよね、でも……」

 なのはは部隊のことを考える。自分が作戦の中核だった以上、居なくなった場合の負担はどれほどになるか、果たして作戦は実行できるのか、というか向こうの自分は大丈夫なのか、と一気にいくつもの考えがよぎる。

 その様子を眺めていたクロノは、真摯な表情で、今自分たちに今できることを告げる。

 「君が不安であるのは分かるつもりだし、僕も君の世界にいったなのはが心配だ。けれど何も分かっていない以上、下手な干渉はしないほうが良い」

 それに対する答えは、力強い頷き。確かにクロノの言うとおり、無闇に行動するのは良くない。

 だが、それ以前に少し気になる事が、目の前のクロノを最初に見たときからあるのだ。

 「なのは、君は今夜は休むと良い、僕はあの鏡の調査を一通りしておく、明日の朝には桃子さんも来るし、詳しい情報交換はそのときにしよう」

 「う、うん」

 やはり違和感、優しい瞳で優しく語り掛けるクロノ、そんな存在は彼女の記憶の倉庫にはなかった。

 いや、おそらく倉庫内を隅々まで探索すれば見つかるだろう。おそらくそれには”希少品”のラベルが貼られていることは間違いない。だが、目の前のクロノはそれが常態であるかのごとく振舞っている。

 どうもクロノ君と話してる気がしないなーと彼女が思ったのは無理からん事だろう。

 しかも、彼女が知るクロノと違うのは内面だけではなく、外見も少々違う。髪が長いのだ、後ろで翠のリボンで纏めている。そんなところも、クロノというよりはユーノを髣髴させる。

 いや、むしろフェイトを男性にした感じかな、とも思ったが、すぐにフェイトちゃんは仕事中はともかく、プライベートで予期せぬことが起こった場合、こんなに冷静になれないよね、とヴィヴィオ大人モードになったのを最初に見たとき床にへたり込んだ親友の姿を回想しそれはナイなと思いなおした。

 「さっきの部屋、ああ、君にとってもここは実家だったね。あの部屋が僕らの寝室だから、そこで休んで」

 「わかった、じゃあ、詳しいことは、明日の朝お母さんが来た時に、だね」

 「うん、とりあえず、今夜はもう遅いから」

 時計は既に深夜1時半を回ろうとしている、これからさらに詳しい話し合いをするには、あまり相応しい時間とはいえないだろう。

 「クロノ君は、どうするの?」

 「僕はここで鏡のチェックをしたあと、恭也さんが使っていた部屋で休ませてもらうよ。あ、それと士郎は寝相がいいから、安心して。それじゃあ、お休み」

 「あ、はい、おやすみなさい」

 クロノが寝室から持ってきた鏡を前に、なにやらデバイスマスターの人が使うような道具を取り出すのを見ながら、なのはは最初に現れた寝室に戻る。

 そこには幼子が可愛い寝顔で眠っており、それをみたなのはも自然に頬が緩む。

 その子を抱くような格好でベッドに、大人2人と幼児1人が入っても充分な大きさのベッドに入りながら、なのははさまざまなことを考える。

 次元移動の技術では、通常こうした「近くて遠い世界」には移動できない。次元世界とは一つの惑星の異なる可能性の世界だが、類似した世界にはいけない仕組みになっている。

 同じ土地でも、そこを畑にするのと工場にするのとでは、外見から用途までまるで違う。次元移動で行けるのはこうした差がある世界で、工場の機械の配置が少し違う、といった具合の差異の世界には行けないのだが、どうしたわけか、あの鏡はそれを可能としたようだ。

 部隊のことはやはり心配だが、ここで自分がやきもきしていても仕方が無い、それに皆なら大丈夫だという信頼もある。その皆が居る限り、向こうの”私”はきっと無事でいるだろう

 しかし、彼女の脳裏の半分以上を占めるのが、今の状況、というよりもう1人の”自分”の環境だ。

 ミッドチルダにいっていない。

 翠屋の次期2代目になっている。

 そもそも魔導師じゃない。

 そしてなんと言ってもクロノと結婚している。

 こうしたことに加え、さらにそのクロノが自分の知るクロノとは、ほぼ別人であるということ。彼から感じる雰囲気、仕草、声などはむしろ、ユーノに近い。

 それ故に、つい考えてしまう。”自分”がこうしてごく普通の女性の幸せを掴んでいるように、もしかしたら自分もこんな風に、ユーノと結婚していた可能性もあるんだろうか、と。

 隣に眠る幼子、名前は父の名前の小さな命、この子を見ても、自分もこうして子供を生んでいる可能性があったんだろうか、と思ってしまう。

 いったいこれからどうなるんだろう、と考えた所で

 『大丈夫ですマスター、貴女ならどんなことでも切り抜けられます』

 という相棒の言葉を聞き、勇気付けられた彼女は徐々に眠りの世界へと引きずり込まれていった。






 そして翌日、早朝に帰ってきた桃子を交えて、改めて互いの情報を確認しあった。

 仕事関係、家族関係、友人関係、そして入れ替わった原因についてなど、全て話す頃には開始から2時間の時が経過していた。 

 その結果として、お互いが非常に驚く結果となったのは、もはや当然というべきだろうか。

 特に、昨夜多少話し合った2人と違い、桃子の驚きは殊更大きいものだった。

 「色々驚いたことは多いけど、それにしてもまさか、なのはが魔法使いで、しかも恭也や美由希みたいなことしてるだなんて、おかーさん驚きだわ~」

 子供のうち長男と長女は、既に一流の剣士となっているが、末っ子のなのははそれらとは無縁の、どちらかといえば運動は苦手な子供だったから、その娘がまさか、亡き夫や美由希のような、戦技の教官になっているとは。

 「そんなに意外かな?」

 なのはとしては、家族は自分が教導官になったことは少しも驚いていなかったので、この母の反応こそが驚きだ。まあ、話を聞く限り、こっちの自分は本当にごく普通の女性であるらしいので、無理ないことかもしれないが。

 なのはにとっては桃子はほとんど自分が知る母そのままだ。そのためか、変に緊張を感じなくて済んでいる。桃子にとっても娘は娘、ということなのか、屈託無く接している。

 お互いの環境についての話が一通りおわったところで、今度は今後どうするか、という話に移っていく。

 「とりあえず、何にしても僕は調査を始めます。だから、その間なのははもちろん家で過ごしてもらうことになるけど、お店のほうはどうします? お義母さん」

 「とりあえず、ホテルのほうには娘の調子が悪くなったので、って言って断ってきたから、大丈夫よ。それで、なのははどうする? 家にいてもいてもいいし、よければお店を手伝って欲しいけど」

 なのはとしては、無論手伝うの一択だ。どちらの世界においても、高町なのはという女性は働き者なのだから。

 「もちろん、手伝うよ。でも、私あんまり経験無いから……」

 この世界のなのはは、それこそ小学生に上がる前からメニューの撮影をはじめとした手伝いをしていたが、彼女はその頃常に遠慮していたので、邪魔になることを恐れて、あまり積極的に手伝うことは無く、そのまま魔法と出会い、今に到る。

 そのため、彼女が最後に喫茶翠屋で働いたのは、年単位の前のこと、それも2桁の年月だ。

 「だいじょーぶ、だいじょーぶ、バイトの子だってみんな最初は不慣れだし、分からないことはちゃんと教えてあげるから、ね?」

 「う、うん」

 不屈のエースと言われ、多くの局員から尊敬や憧憬の眼差しを向けられる女丈夫が、喫茶店のウェイトレスをすることに緊張を覚えることになるとは、誰が予想できただろう。

 しかしなのはとて人間、魔法関係、管理局関係となればベテランの彼女でも、慣れないことには緊張するのだ。また、緊張とは別に、自分はどれだけ実家の家業に携わってこなかったんだろう、という負い目のような感情も混ざっていた。


 そして女性2人が支度をして、家を出る前に、クロノが行ってらっしゃいの声を送る、その横には息子の士郎もいた。普段ならば翠屋に連れて行くが、今日からはクロノが自宅で鏡の調査をするので、小さな彼も自宅待機だ、明日からは幼稚園があるが。

 「なのは」

 気遣いが感じられる、その優しげな瞳、そして柔らかい声。彼女が知るその人の声とは全く違う、けれど耳に心地いい声。

 「いってらっしゃい」

 その微笑に、胸の鼓動が高鳴る。

 ……なるほど、”自分”はこの微笑にやられたのか、となのはは思ったのだった。



 海鳴市 喫茶翠屋 店内


 なのはにとって実に10年ぶり、もしかしたらもっと経っているかもしれない店員の仕事が始まった。

 ほとんど初めてといってもいいほどブランクがあるので、やはり最初は戸惑い、小さな失敗を繰り返してまう。そんな様子を見守る桃子は、丁寧に教え、冗談を交えて娘の緊張をほぐしてやる。

 桃子にとって、なのはに手取り足取り教えるというのは、実は初めてだったりする。なのはは本当に小さな頃から手伝っていたので、いつの間にかマスターしてのだ。だから、桃子が思い出したのは、たどたどしい動きのフィアッセや美由希の少女時代だった。

 来るお客の中には当然、なのはがウェイトレスをしていることに疑問を持つ者もいた、現在は彼女がマスターとして厨房とカウンターの両方にいる事が通常なので、常連さんにとっては不思議なのだろう。

 それに対する桃子の回答には、流石のなのはも目を剥いた。なんと、こともあろうに母は

 「なのは、昨日転んで頭打っちゃって、少し記憶があいまいなの、フィリス先生はしばらくすれば大丈夫って言ってたから、それまで先代の復活」

 呆気に取られるなのはを尻目に、お客達は「そうか、大変だねなのはちゃん」、「大丈夫かい? まあ、フィリス先生が言うなら大丈夫だろう」、「私の名前、分かります?」とごく普通に受け入れていた。流石は海鳴、実に素朴な気のいい人たちである。

 しかし、そのおかげで、”自分”との齟齬が埋まってくれた。俄かには信じがたいが、やはりここは海鳴、不思議な事が一杯な、そして優しい街なのだ。

 部活の帰りなのか、休日だが海鳴中央や風芽丘の女生徒が結構多い。そんな中の何人が、きょろきょろと店を見渡して、残念そうな顔になることが数回あった。それを見たなのはは不思議に思っていたのだが、回答は1人の女生徒の質問がきっかけで得られることになった。

 「あ、なのはさん、今日は旦那さんはお店出てないんですか?」

 「そうですよー、いつもは日曜は出てるのにー」

 えっと驚いたなのはは咄嗟に返事ができず、代わりにカウンターの桃子が援護にはいってくれた。

 「クロノ君はねぇ、ちょーっと急な仕事が入っちゃって、今は工房に篭もってます、残念だったねー」

 明るい笑顔で言う桃子に、そっかー、残念ーと口々に語る生徒達。どういうことかとこっそりなのが問うと、どうやら翠屋が若い女性に
人気があるのは、味と値段は元々だが、ここ数年である理由が加わったらしい。

 即ち、笑顔が綺麗な男性店員がいるということ。中性的なクロノの容姿は、特に海鳴中央や風芽丘の生徒達に大人気だそうだ。既婚者、ということも真剣な恋愛感情に発展させない良い要因になって、気軽に来れるというのもあるだろう。

 ちなみに、未だに高校生でも通りそうな容姿でありながら、しっかりとした”母性”を醸し出している2代目は男子生徒に人気である。本人は知らないが。

 理由を聞いたなのはは、はぁっと感心した顔をしたあと、新しい客が来たので、笑顔で挨拶をする。

 「いらっしゃいませ、喫茶翠屋へようこそ」

 そしてそれは彼女にとって、懐かしくもあり、新鮮でもある体験だった。





 その日の夜、高町家。

「ふう………」

 なのはは疲れた様子でソファに身を預ける。流石の彼女も、慣れない仕事で体力よりむしろ精神が疲れたようだ。

 「お疲れ様なのは、どうだった今日は?」

 桃子となのはが帰ってきたのを察知したのか、クロノが出迎えて労いの言葉を掛け、それを聞いた桃子が横合いから口を挟む。

 「桃子さんはビックリしたかな、だってなのはがあんなにてきぱきクルクル動くんだもん。バイトの子よりスムーズに仕事してたんじゃない?」

 当初こそ緊張していたなのはだが、初めて2時間も経つとそれもほぐれてきたのか、実に無駄なく迅速に動いていていたのだ。流石は実戦経験豊富なエース、周囲の状況を察知し、行動する判断能力が高い。

 「そうなんだ、すごいねなのは」

 「でも流石に疲れちゃった。だって本当に久しぶりだったから」

 「なんなら、マッサージしてあげたら? クロノ君?」

 いつもなのはが疲れていたら、クロノがマッサージをしてやっていたが、流石に今は状況が違う、とクロノは思う。

 「さすがにそれはちょっと。なのははなのはでも、やっぱり僕のなのはとは違う女性ですから、おいそれと身体に触るわけにはいきませんよ、お義母さん」

 「あはは、そうかもしれないけど、私は構わないよ?」

 「僕が構うんだ、妻あるものとして、独身女性の身体にみだりに触れるのはいけないと思うから」

 真面目な所はおんなじなんだ、感心するなのは。ようやく彼女の世界のクロノと共通する箇所を見つけたような気がする。

 「さて、夕飯までまだかかるから、なのはは先にお風呂に入ってきたらどう?」

 なのはは桃子の言葉に甘え、先にお風呂をいただくことにした。そこへクロノから、士郎も一緒に入れてあげてね、という注文がつく。

 リビングで絵本を眺めていた士郎をつれ、風呂場に行こうとすると、その幼子から意外(なのはにとってのみ)な言葉が発せられる。

 「とーさんは一緒に入らないの?」

 「うん、父さんはすこし忙しいから、今日は母さんとだけ一緒に入っておいで」

 「わかった」

 そうした父子の会話を聞いた後、小さな士郎の面倒を見ながら風呂に入り、夕飯の後も談笑を続けていると、時刻は9時を回っていた。子供が眠る時間である。

 クロノに頼まれ士郎を寝かしつけていると、ベッドにはいった幼子が不思議そうな顔で聞いてきた質問になのはは、少し返答に窮した。その質問とは

 「とーさんは一緒に寝ないの?」

 というものである。クロノ君、いやおとうさんは、いまとっても忙しいの、となんとか理由を捏造した(調査を急いでるのは事実ではある)が、これで納得するかなー、と内心思っていたが、子供の純粋さですぐに納得し、かつすぐに眠りに落ちた。

 その寝顔を少しの間眺めた後、リビングに戻ったなのはは、クロノによい知らせがある、といって調査が順調であるという報告を聞いた。

 「でも、あんまり無理はしないでね?」

 「大丈夫、それほど無茶はしてないよ、開発技師として仕事はもっと缶詰めになることもあるから。君も早く帰りたいだろうし、僕のなのはのことも心配だしね」

 その言葉に、なのはは先ほどより聞きたかった事を聞くことにした。

 「ねえ、クロノ君、もしかしてこっちの私とクロノ君って、いつも一緒にお風呂入ってる? ベッドも同じ?」

 「? そうだけど、それが何か?」

 「ううん、なんでもないの」

 となんでもない表情をしながらも、なのはは内心、胃もたれを起こした時のような気分を味わっていた。

 同じベッドはまだしも、結婚5年で毎回一緒に入るなんて、どういう夫婦だ、まるで新婚じゃないか、と”自分に”ツッコミを入れてしまう。

 そしてこっちの自分を呼ぶときに、桃子は「うちのなのは」と呼び分けているが、クロノは「僕のなのは」と言っているのだ、あまりにもナチュラルに、そしてそのことを桃子が全く指摘していないということは、それが”自分”とクロノのスタンダードということなのだろう。

 なのははコーヒーを淹れることにした、無論、砂糖もミルクもいれるつもりは無い。

 余談だが、向こうの世界に行ってるなのはも、ごく自然に「私のクロノ君」と言って周囲の人たちを瞠目させていたりしたりする。





 クロノがまだ調査を続けるといって、自室である工房に戻ったため、リビングにはなのはと桃子の母子2人だけとなる。

 桃子はホットミルクのカップを手に持ったまま、なのはに真剣な口調で問うた。

 「なのはは、向こうにいい人はいないの? うちのなのはは今の通りだから、おかーさんは安心なんだけど、そっちは?」

 あいまいな返事は許されない、真面目な問いだったために、なのはもありのままのことを話す。

 「今はいない、というよりあんまりそういうことを考えたこと、なかったかな」

 「そっか、うん、なのはの人生だものね。やりたいように生きればいい。でもね、向こうの私がどう思ってるかは分からないけど、私は、貴女にもちゃんといい人を見つけて、結婚して欲しいな、って思う」

 その瞳はなのはが知らない瞳、こんな瞳をした母は、彼女は知らない。

 「だって、とても幸せだったんだもの…… 短かったけど、あの人一緒にいたあの時間は。そして、もちろん今も幸せ」

 それは自分が体験していない高町家の事情、自分が知らない家族の人生。

 母の表情を眺めながら、なのはは思う。恋人、結婚。こういう単語は自分の周りの人たちにほとんどまったく出ていない。類は友を呼ぶ、というものだろうか。

 ただ、自分もそろそろいい年齢だ。母は今の自分の年の一年前に自分を生んでいる。自分の人生、将来を真剣に見つめなおす時期が来ているのかも知れない。

 ふとユーノの顔が浮かんだ。自分の交友関係で最も近しい異性である人。もしかしたらここのクロノと”自分”が結ばれたように、彼と自分が結ばれる、そんな道もあったんだろうか……

 そんな考えを抱きながら、やはり見たことの無い眼をした母が、1人の男性が写っている写真をみて微笑んでいるのを見つめる。

 「あなたが生きている世界があって、嬉しいわ……」

 その声も、彼女が一度も聞いたことがないような声だった。




 翌日、昼過ぎに高町家に城島晶と鳳蓮飛(フォウレンフェイ)が訪れた。

 レンは会うなり謝り倒しで、何度もなのはたちに頭を下げていた、自分が持ち帰ったものの所為で、大変なことになってるのを聞いて(桃子が電話した)、矢の様に飛んできたらしい。

 その途中で同じように桃子から聞いた晶と合流し、2人揃って現れたという流れのようだ。その晶も「こいつを責めないでやってくれ」と言い擁護していた。会えば喧嘩ばかりの2人だが、やはり根っこでは仲が良い。

 一応クロノの調査で、どうやら悪くても一月後には戻れそうだという事が判明したため、桃子は連絡し、その旨を伝えていたのだが、レンはいても立ってもいられなかったらしい。晶も同様。

 ちなみに、ほかの家族は、恭也はドイツ、美由希は香港、フィアッセはイギリスと実にグローバルなことになっているため、おいそれとは帰ってこれない。

 他の知人も那美は現在九州、久遠も一緒と、あと海鳴にいるのはフィリス先生くらいしかいなかったりする。

 尚、晶とレンを見た時のなのはの感想は、向こうの世界にいるなのはがはやてとスバルを見たときと同じようなものだったため、割愛する。

 「俺は城島晶、これでも料亭で板前やってんだ、よろしくななのはちゃん」

 「鳳蓮飛いいます、ほんまにごめんな、そしてよろしゅうな、なのはちゃん」

 「はい、よろしくお願いします」

 晶とレンは、「なのちゃん」と「なのはちゃん」で2人のなのはを呼び分けることにした。なのはに対しても敬語はいいよ、と口を揃え、なのはもその言葉に甘え、友人と話す口調にかえる

 こんなところでも、2人の”なのは”の違いが現れているようだった。

 そして互いのことを話し合う3人。既に3時過ぎになっているし、折角のお客ということなので、なのは達は高町家に戻って話をしている。

 2人がなにより驚いたのは、美由希たち同様なのはが戦技教導官であるということだった。それで、ではどれほどの腕前か、ということでそれそれとなのはが手合わせすることとなった。

 なのはは結界敷設などができないので、この世界で放出系の魔法は使えない。よって身体強化の術を用いて1人目の晶と対峙する。

 レジングハートをセットアップして、エクシードモードの装飾槍のような魔法の杖をみて、おおと感嘆する2人。一応魔力を付与して、衝撃を吸収する仕様にし、本気の一撃が当たっても怪我が無い様に調整を行う。

 ちなみに、セットアップはしても、バリアジャケットは纏っていない、コレには無論理由があり、それは彼女がこの世界に来た夜のこと――

 回想


 「それにしても、その服はもしかして防護服かい?」

 なのはは現れた時の姿、バリアジャケット姿だったので、クロノはそう聞いた。彼が昔、そして現在もごく稀に着ている服装のように思えたのだ。

 「うん、バリアジャケット、言い方は違うけど、多分同じものだと思うよ」

 「そうなんだ…………」

 そしてバリアジャケットを見ながらなにやら考え込むクロノ。彼の世界でこの手の服を着るのは危険な任務や実験のときだ。ただ、ひとつ欠点というか、問題があったのを彼は覚えている。

 「どうしたの?」

 クロノの様子が気になったので、なにかおかしい事でもあるのか、と聞くなのは。

 「いや、大変だな、と思ってね」

 「大変?」

 「その服装だよ。決まりとはいえ、そうした格好はあまりしたくないでしょ? しかも官給品というのはなかなかデザインを変更しないものだから」

 咄嗟に声も出ないなのはであった。その言葉がもたらした衝撃はあまりに大きかった模様。

 「僕のときも、デザイン自体は”執行官”のイメージで作られたものだから、重々しい感じだけど悪くなかった。でもあのトゲだけはいただけなかったから、外してもらうよう頼んでも、受理されるまで3年も…… ってどうかしたのなのは」

 あさっての方向を向き、なんとも言えない顔のなのはに、クロノは訝しがったが、なのははなんでもないよーっと若干引きつった笑顔で答える。

 もし、これがクロノが彼女のバリアジャケットのデザインを揶揄するようなことを言ったなら、彼女は毅然と反論しただろう。この服は自分の命を守るもの、馬鹿にされるようなものではない、と。
 
 だがしかし、この時クロノの言葉に込められていたのは、純然たる気遣いと同情だった。大変だね公務員は、といった具合で、悪意の欠片もありはしない。

 なので、なのはとしては笑顔で応対するより道は無かった。これは自分でデザインしました、とは口が裂けても言えない状況だ。

 折りしも、そろそろデザイン変えるべきかなー、と彼女自身も思っていた事がなにより大きい。人間はやろうと思ったことをやれと言われるのは非常に腹が立つ。クロノは別に変えろといった訳ではないが、いかんせんタイミングが悪かったようだ。

 故になのははこの時、この世界いる限りバリアジャケットは纏わん、と心に決めたのだった。


 回想終了
 

 
 そして晶との手合わせが開始される。構図としては晶が攻め、なのはが受ける、という形、基本的に近接格闘が得意ではないなのはは受けに回る。

 だが、彼女は15年以上実戦で戦ってる屈指の戦士。”機を読む”ことはすでに感覚で理解しており、的確かつ無駄なく、晶の攻撃を受け、流し、そして反撃する。

 開始より7分後、僅差ではあったがなのはのレイジングハートが晶の拳より早く届いた、互いに寸止めである。これだけでも2人が達人であることがわかろう。

 「あー、負けた、いや、すごいななのはちゃん、まるで師匠や美由希ちゃんみたいだ」

 「いえいえ、晶ちゃんこそ、凄かったよ」

 スバルと似た外見から、一撃必殺を旨とする戦法かと思いきや、晶の動きはきちんとした”型”にはまったものだった。ストライクアーツか、むしろ古代ベルカの武術に近いのかもしれない。

 「よし、次はウチや、いくでーなのはちゃん、このおサルみたいに簡単にはいかへんよ」

 そしてレンとの手合わせ開始。

 4分後

 「あつー、お見事や、なのはちゃん」

 「つーかオメー、俺よりもたなかったじゃねーか」

 「ウチのほうが速かったし、押してたやろーが」

 「その分早く体力削られて、早く負けたんだろーが」

 「そもそもウチは棍使いや、徒手空拳では不利やろ」

 「そんなら物干し竿でも使えよ!」

 「アンタには掛かってる洗濯物が見えヘンのか!」

 高町家にとってはいつものことだが、なのはにとっては珍しい光景だった。彼女の周囲の友人知人は皆仲良しなので、こうした息の合った喧嘩というものをほとんどしない。

 なのでなんか楽しそうだなーというどこか気楽な感想を抱くのだった。そしてそんななのはの様子に、今度は喧嘩中の2人が戸惑う。

 「なんや、ウチ等の喧嘩を眺めるだけのなのちゃんっていうのも不思議なもんやな」

 「う~ん、たしかに違和感がある…… けどやっぱ別人なんだからしょうがないだろ」

 彼女らが知るなのちゃんは、2人が喧嘩すると5km先でも察知し仲裁に入る能力の持ち主なので、それと同じ顔の人物が喧嘩をただ見てる、というのは新鮮なものだった。

 そんなこんなで手合わせを終えた3人は、それぞれ既に数年来の友人であるように接していた。達人同士の場合、肉体言語は千言万語に勝る。

 「にしても、まさかなのはちゃんがこんなに強いとはなぁ~」

 「でも、私だって身体強化を使ってなかったら、きっと反応すら出来なかったよ」

 「いやいや、それも実力のうちやて、それよりもやっぱり”あの”なのちゃんと同じ姿でこうも強い、ゆうのがなぁ」

 「だよな、ちょっと打ち込みづらくはあった。なのちゃんとやりあうなんて、一生無いと思ってたから」

 「同じようで、全然ちゃうなーっと、すごく実感できたわ」

 しみじみという2人のい様子に興味を覚え、なのはは聞く。

 「やっぱり違う? こっちの私と」

 2人は顔をうーん、と見合わせた後、はっきりと答えを言う。

 「やっぱりなのちゃんは末っ子だからさ、なんつーか”守ってやらなきゃ”って感じがあるんだよ。でもなのはちゃんにはそれが無い」

 「そやなぁ、なんやこう、なのはちゃんならどんなことがあっても、大丈夫やろう、って思わせるような雰囲気持ってる」

 「大きい地震とかおきると真っ先になのちゃんに連絡するもんな、無事かーって」

 「他の人たちはみんな大丈夫そうな人ばっか、ってものあるかもしれへんけど、なのちゃんはほんまに普通の子やから」

 「その点、なのはちゃんは頼れる人、って感じ。むしろ率先して誰かを助けに行く、みたいな」

 「姐御とか、女丈夫とか、そんな言葉がお似合いや」

 「なのちゃんを表すなら”良妻賢母”ってのがピッタリだけど」

 「なのはちゃんは”肝っ玉かーさん”ってイメージがくるなあ」

 はっきりと言いすぎだった。基本、この2人は性格がサバサバしているし、歯に衣着せない。しかも2人揃うと相乗効果でさらに倍。

 25歳独身(子供はいる)でありながら”肝っ玉かーさん”と表されたなのはは、怒っていいやら悲しんでいいやら、それとも彼女等としては褒めたのだから、喜んでいいやらで複雑だった。

 

 そしてそんな話題をきっかけに、なのははこの世界の”自分”のことを聞いていった。2人の口から語られる「高町なのは」の姿は、やはり自分と大きく異なる。

 魔法との出会い方がきっかけかと思っていたが、そうではなかった。2人の話に出てくる高町なのは、その少女時代の彼女は、とても素直で愛らしい女の子だったから。

 寂しいときには家族に甘え、悲しい時には家族に抱きつき、ワガママを言えばゴメンなさいと言う。そんな居るだけで周囲の心を和ませてくれる、可愛い子。

 おりしもそのとき次元を隔てた世界で、その”なのちゃん”がフェイトから幼少期のことを同じように聞いていた。

 彼女が抱いた異なる自分、それはどんな辛いことに遭っても諦めず、悲しいことがあっても涙をこらえ、真っ直ぐな瞳で周囲の人を引っ張っていく魅力を持つ、強い子。

 互いが互いのことを「すごいなぁ、私には出来ない」と思っていたのだった。


 そうしているうちに話はなのはが扱う魔法ことに移っていき、彼女はなるべく分かり易く説明するが、イマイチつたわっていないようなので、どうしたものかと首を捻った。
 
 百聞は一見に如かず、という格言にのっとって、実践できれば早いが、結界系統の魔法が使えない彼女では、街中で謎の桃色光線を発して、近所の人を騒然とさせてしまうだろう。

 そんなふうになのはが頭を悩ませていると、なにやらリビングの方で声がする、覗いてみるとちょうど士郎がテレビを見ていて、どうやら声はテレビのもののようだ。

 昔のアニメの再放送のようで、興味を惹かれたのか幼子は食い入るように見ている。その内容は戦闘民族の主人公が自分の”気”を技名と共に収束させて放っているところだった。
 
 「えーと、あんな感じのことができるの、かな?」

 
 「おお、かめはめ波 が撃てるのか!?」

 「なんやごっついなぁ、魔法っていうのとかなりイメージちゃうわ」

 そしてそれを例にしてしまったことをなのはは後悔した。この後ブラスターモードの説明をしたと時は「おお、界王拳だな」と反応され、スターライトブレイカーのときは「つまり元気玉やね」と納得されてしまった。

 それがためにまた微妙な気分になり、タイミング悪く放送していた地方放送局に内心恨みをぶつけるなのはだった。 





 そのあと、汗を流した3人は、昔のアルバムをみることにした。

 そしてやはり向こうの世界でも同様に、フェイトやスバルがなのはに”高町なのは”の映像を見せているところだった。

 こちらのなのはが子狐を肩に乗せて神社の階段で笑っている写真を見ているとき、向こうのなのははフェレットを乗せて笑っている映像を見ていた。

 こちらのなのはが喫茶翠屋のエプロンを付けて美由希と並んで働いている写真を見ているとき、向こうのなのははエクセリオンモードのレイジングハートを掲げてザンバーモードを掲げたフェイトと並んでいる映像を見ていた。

 こちらのなのはが怪我した姉に包帯を巻いているときの写真を見ているとき、向こうのなのはは辛いリハビリにめげずに歯を食いしばっている映像を見ていた。

 こちらのなのはがワンピース姿で髪を解き、つばの広い帽子を持って草原に立っている写真を見ているとき、向こうのなのははスターダストフォールでガジェットを殲滅させている映像を見ていた。

 こちらのなのはが結婚式でウェディングドレスを着てクロノと並んでいる写真を見ているとき、向こうのなのははシグナムとの戦技披露会で竜虎相打つ映像を見ていた。

 こちらのなのはがたった今生まれた我が子を抱いている写真を見ているとき、向こうのなのはは娘の友人にストライクスターズを放って残りLIFE40にしている映像を見ていた。

 こちらのなのはが幼稚園の前で息子と並んでいる写真を見ているとき、向こうのなのはは”ストライクカノン”と”フォートレス”をフル装備した映像を見ていた。

 どちらの世界でも、その写真や映像についての会話で、大いに盛り上がっていた。そして全く違う自分をみたそれぞれのなのはは、その自分を。

      可愛い
 とても       女性(ひと)だと思ったという。
     カッコイイ



 それから数日後の夜、なのははベッドに入りながらも、ぼんやりと考え事をしていた。

 それはこの世界と、そこに生きる自分についてのこと、もうひとりの自分にも有り得た可能性の世界の”高町なのは”について。

 彼女はとても愛らしく、そして優しい女性だ。おそらく周囲の人々みなに愛されているのだろう。彼女がいるから、周囲が優しくなれるのか、周囲の人たちが優しいから、彼女があんなに素敵な女性になれたのか、おそらくは両方だろう。

 この海鳴の町で、夫と子供に囲まれながら、平凡な、それでいて幸福な人生を送る。それはなんて素晴らしいことなんだろう、と羨ましくも思う。

 だけど、だからといって自分の人生が悪かったなどとは思わない。

 たしかに一般の女性とは違う生き方をしたかもしれない。でも、その中に多くの出会いがあった、多くの笑顔があった。

 ユーノと出会い、フェイトと友達になり、はやてたちとも知り合えた。それは魔法がなければ起こらなかったことで、そうしたことがなければ、スバルたちとも出会わなかったし、ヴィヴィオと母娘にもなることもできなかった。

 本当にさまざまな経験が今の自分を連れてきた。楽しいこともあったし、悲しいこともあった、そしてそれは全て今の自分を作っているの基になっているのだ。

 自分はそうして生きてきた。この生き方は私のもので、これからも自分の気持ちに素直に生きるということを変えることは無い、と思う。

 どこまでいっても私は私、違う自分の可能性を見たからといって、そうなりたい、とは思わない。

 けど

 しかし、だ

 

 …………もう少し、タイミングというものを考えて欲しかったなぁ、と思うのは罪ではないはず。

 彼女とて、流石にストライクカノンを「新装備です」と言って渡された時は、「いや、これはナイんじゃないかな」と思ったものだ。

 なんとなく自分の将来に漠然とした不安と、果たしてこのままでいいんだろうか、と思ったところへコレである。いまの彼女には幸せな人妻の生活をなぞるというのは、ある意味で苦行であった。

 でも、そんなこと思っても始まらない! 高町なのはは前向きに! と気を持ち直してもう寝よう、と目を瞑る。

 こんな気分で明日を迎えるのは、絶対失礼なことだろう。

 
 明日は、お墓参りにいくのだから。



 あとがき

 恒例の「書いているうちに話が膨らむ現象」が起こりました。もう何も言わないで下さい。
 今回はちょっとギャグっぽく書きすぎましたかね。なのはさんが好きな人には受け入れてもらえないような描写があるかもしれないと思っているので、ここで謝っておきましょう。

 次回はお墓参りです。そしてこのシリーズもそれで終わりですね。

 



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