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No.28792の一覧
[0] 【完結】リリカルマジック ~素敵な魔法~ (リリちゃ箱→Force)[GDI](2011/08/04 07:56)
[1] その2  気苦労多き八神司令[GDI](2011/07/14 16:44)
[2] その3  優しい時間[GDI](2011/07/17 11:24)
[3] その4  たいせつなもの[GDI](2011/07/22 14:06)
[4] その5  魔法の言葉はリリカルマジカル[GDI](2011/07/22 14:06)
[5] その6  決意、新たに[GDI](2011/07/24 13:57)
[6] その7  ただいま[GDI](2011/07/27 01:26)
[7] 番外編 高町一尉の異世界生活[GDI](2011/07/31 13:11)
[8] 番外編 花咲く頃に会いましょう[GDI](2011/08/04 08:02)
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[28792] 番外編 花咲く頃に会いましょう
Name: GDI◆9ddb8c33 ID:97ddd526 前を表示する
Date: 2011/08/04 08:02
番外編 花咲く頃に会いましょう

海鳴市 高台墓地



 海鳴市の高台にある墓地、高町なのははそこへ向かって、小さな士郎と共に勾配のある道を歩いている。

 彼女にとってはほとんど馴染みのない道。なぜなら、彼女は墓地を訪れる必要が無かったから。父方の家も母方の家も、墓があるのは海鳴ではなく、彼女の家族及び友人で鬼籍に入った者は居ない。

 しかし、この世界の自分はどんな時でも週に一度、この季節になるとほぼ毎日のように出かけるという。自分に馴染みのない場所に、もう1人の自分が行く理由はなにか。

 それは無論お参り。高町なのはは、逢う事のできなかった父と、大切なともだちに会いにくるのだ。

 そのことは、なのはがこの世界の自分との相違点の中で、一番驚いたことだった。彼女の世界ではいる者が、この世界にはいないこと。

 高町士郎と、アリサ・ローウェル

 アリサはなのはの世界においてはバニングスの姓で、聞いた話だと年齢も違ったという。けれど、とても大事な友達だったというのは、自分と同じ、アリサは今でも彼女の親友だ。

 父・士郎は自分の世界では存命で、今でも元気にしており、実家に帰ると暖かく迎えてくれて、ヴィヴィオを自分の孫のように可愛がってくれる。

 けれど、この世界の自分は、父と会う事ができなかった。彼女が生まれる前に死んでしまったから。

 また、月村忍の両親も忍が幼い頃に亡くなっているために、この世界ではすずかが生まれていないらしい。

 彼女は思う、この世界の家族達はどこか自分達の家族と雰囲気が違った。母も、電話越しだったが兄と姉からも、それが感じられた。そして今その答えが分かったような気がする。

 大切なものを失い、それを乗り越えた強さ。それが、家族達から感じられた雰囲気の違いなのだろう、なんとなく、彼女達からは自分が知る彼女達からは感じられない”重み”があったのだ。

 それは無いほうがいいのかもしれない。だって、大切な人を失う悲しみは、なるべく味わないほうが良いだろうから。

 自分も、父が重傷を負って入院し、その間家族が忙しいのを眺めて甘えることを、わがままを言うことを我慢し、遠慮する幼少時期を送った。リハビリを頑張る父の邪魔になるのを恐れて、迷惑かけないように抱きついて甘えたいのを我慢した。

 けど、この世界の自分はそれがしたくても出来なかったのだ。父親がいない、そんな環境でも”自分”はとても子供らしく真っ直ぐに育った。

 それに比べれば、自分の悩みはとても贅沢なものだったろう、自分には父がいたのだから、甘える事が出来たのだから。

 ヴィヴィオという娘を持って、彼女が始めて思った事がある。それは親というのは子供のためなら、どんなに苦しくても頑張れるということ。そして。その心からの笑顔を向けてくれる事が、なによりの喜びであるということ。

 ならば、”自分”はどこかでそれを理解していたのだろうか。だから、自分のような仮面の笑顔ではなく、心からの笑顔を向け、素直な心で家族達に甘えたのだろうか。

 この世界の雰囲気が優しいのは、悲しみを乗り換えた強さをもっているからだろうか――

 そこまで考え、彼女はちょっと考えすぎかな、と心の中で苦笑した。

 そんな考えが浮かんでくるのは、やはり墓地という場所へ向かっているという状況のなせる業かもしれない。死者が眠る場所というのは、けっして気分が高揚する場所ではないだろう。

 しかし、その抱いていた墓地への印象も、高台まで昇り終えたときに、変わらざるを得なかった。


 
 一つの風景がある。それは高台の墓地にある小さなお墓の風景。

 冬にそこへ訪れた人は、その寂しげな佇まいを見て、どこか物悲しい気持ちになってしまうだろう。その墓地が幼くして亡くなった少女のものだと分かれば、尚のこと。

 ちいさなお墓は、まるで1人ぼっちで泣いているように見えたから。

 でも、春になってからまた訪れると、その人はきっと驚き、そして胸を打たれる。

 だって、そのちいさなお墓はお花で一杯になっていたから。

 お墓は花々に囲まれて、半ば埋もれるようになっていたから。

 その光景に、冬に見た寂しさはない。周りにいっぱい咲き誇る菜の花が、ちいさな墓に眠るちいさな女の子と一緒にいるから。

 それを見た人が感じるのは、何よりもきっと優しさ。

 その花を植えた人、その女の子が寂しくないように、と花を植えた人の優しさを感じるはず。

 その光景は綺麗だけど、なによりも心を暖かくしてくれる。だから感じるのはきっと優しさ。

 アリサ・ローウェルは、今でも高町なのはの優しさに包まれて、穏やかに眠っている。




 だから、なのはも墓地についた瞬間、その光景に目を奪われた。

 スミレ、リンドウ、アヤメ、ジャスミン、タンポポなど多くの花々が植えられていたが、何よりも多いのが――菜の花。

 それを植えた人物が、どういう意味を込めてその花を植えたか、なのはには分かった。他ならぬ、同じ名前を持つ自分だから分かった。

 菜の花――なのはは、アリサちゃんの側にいるよ、貴女が寂しくないように。

 そして今も、おそらく姉から教わったであろう園芸技術で、花の手入れを行っているのだ。自宅の庭の花壇も、この世界では姉が香港に行っているが、綺麗に花が並んでいたことから、世話をしているのは”自分”だろう。

 それが分かったから、不意に目頭が熱くなる。話によればこの墓に菜の花が植えられたのは17年前、自分が8歳の時だ。8歳の幼さで、それだけの思い遣りをもてる”自分”を、なのはは素直に尊敬した。

 自分は誰かを失った事はない。自分の家族も友人も、自分のもとからいなくなったりしていない。だけど”自分”は、父と会うことはなく、大事なともだちを失った。クロノとも6年間音信不通の末に再開したということだし。

 だからきっと、この世界の”なのは”は、自分には無い強さがあるんだな、と彼女は思う。戦えば無論強いのは彼女だが、そんな類の強さではない、それはきっと人としての強さ。

 ”高町なのは”に尊敬の気持ちを抱きながら、彼女は横にある墓の前に花を捧げる。

 刻んである名前は、高町士郎。

 士郎の墓の周りには花は植わっていない。むろん季節柄野花は咲いているが、アリサの墓のように花に囲まれてはいない。

 だけどそれは愛情が不足していることを意味しない。男性で剣士だった士郎の墓は、そのままがいいと、家族で決めたのだ。そして、なのはは父の墓の前では歌う事が多い、それはフィアッセが世界に向けて歌っている歌。

 士郎の墓の側にいられないフィアッセに代わり、側にいる彼女が歌うのだ。――貴方が助けた命は、今も幸せに生きています――という気持ちを込めて。

 亡くなったという父、自分と会えなかった父。自分が知らない父、その墓に花を添え、なのはは不思議な気分になる。

 死者に会いに来るということ自体がほとんどなかった彼女にとっては、新鮮な感覚であり、それが自分のなかではちゃんと生きている父であるとなれば尚このことだ。

 人が死ぬ、そのことを真剣になって考えたことは無い。では目の前で眠る父はどうだったのだろう。

 母の話では、危険な仕事をしていたから死の危険はいつも考えていたとのことだった。だからこそ、父は母と”約束”をかわしたのだと。

 母と結婚し、”自分”が生まれるということが分かった後は、彼は危険な仕事はせず、教官としての仕事に専念するつもりだったらしい。けれど、いつもどおりに「帰って来る」と言って――そのまま帰ってくることはなかった。

 彼は小さな命を助けて、そのために命を落とした。

 家族を残して死ぬ、それはどういう気持ちだったのだろう、自分には分からないし、分からないほうがいいに決まっている。

 母は父との約束を、”俺が死んでも泣かずに幸せに生きること”をずっと守って生きている。母の笑顔の重みは、きっとその約束があるから。

 ふと、自分に置き換える。ヴィヴィオを残して、自分が死ぬ、そんな事が起こったらどうなるのか。

 自分は父のように、”もしも自分が死んだら”ということを想定したことはしていない。でも、どんなに強くても、エースオブエースと呼ばれていても、避けられぬ死というのはあるだろう。父がそうだったように。

 もしそんなことになってしまったら――― そんな事が頭をよぎった時だった、その声が聞こえてきたのは。

 


 『なのは、俺と同じ失敗は、するなよ』


 
 驚いて顔を上げるとそこに居たのは、自分と一緒にやってきた小さな士郎、その小さな体が墓の前に立ち、子供のものとは思えない深い瞳で自分を見ている。


 『家族を残して、死ぬな』


 やはり声は幼子のものでありながら、成人男性のようにも聞こえる声。自分が知るものとは少し違う父の声。

 「お父さん……?」

 そういって幼子の顔を覗き込むと、「どうしたの? かーさん」と不思議そうな声が返ってきた。それは間違いなく子供の目、子供の声で、先ほどまでの雰囲気は感じられない。

 今のは何だったのか、白昼夢だろうか、と思った彼女だが、すぐにそうではないと思いなおす。

 今のは父からの、この世界の父からのメッセージだ。

 改めて考えれば。今の自分と亡くなった父の居た環境は、よく似ている。父は結婚後はSPの教官をよくしていたらしいし、自分は教導官だ。

 そして、危険なボディガード、特別任務と危険な仕事が舞い込んでくることも変わらない。

 その果てに父は命を落とした、家族を残して。

 そして自分も、今回のフッケバインの任務を受けて、ヴィヴィオに別れを告げた。父のように「帰って来る」と告げて。

 でも、無事帰ってこられる保障がどこにあるというのか、フッケバインは資料を見るだけで危険な敵、死ぬ可能性は今までの任務よりも高い。

 それでも自分は任務を受けた、仕事だから、管理局員だから。

 でも、それは家族を持つ者として、正しい選択だったのだろうか。ヴィヴィオを引き取るかどうか、という時に思っていたではないか、自分は空の人間だ、だから子供を引き取るべきではない、と。

 ならば子供を引き取った自分は、空から降りるべきだったのだ。父は今の自分のように空に残り――そして堕ちた。

 「…………ああ」

 そうか、そうだったのか、なぜ自分がここに居るのか、その理由が分かった気がした。

 異なる可能性の世界である次元世界は数多く、行き来する世界は多い。だが、些細な違いの並行世界すら行き来するあの鏡の力が働いた時、どうしてその無限の可能性のなかの”高町なのは”から自分が選ばれたのか。

 「私をここに呼んだのは、おとうさん、貴方ですか」

 自分と同じ過ちを犯しそうな娘に、その道から外れるように、自分という”例”を知らせるために、父が、高町士郎が呼んだ。そして同じ名を持つ幼子の口を借りて、それを伝えた。

 なのはにはそう思えてならない。父は享年28歳、今自分は25歳、年齢も近い。

 「貴方の教え、しっかりと胸に刻みます」

 なのはの胸に言い表せない感情が溢れる。それは自分に対する戒め、娘に対する申し訳なさ、そして何より死して尚娘を想う父の愛情に対する嬉しさ、それらがない交ぜになった感情だろう。彼女の瞳から涙がこぼれた。

 しばらくの間墓の前で涙する彼女だったが、その瞳が晴れるころには、彼女の心もまた晴れていた。

 そして、一つの決意をする。ヴィヴィオを引き取った時から、私の命は私だけのものじゃない、だから私はそう簡単に死んだりしてはいけない。

 そのためには、危険な任務は断ろう。管理局の人手不足のこともあるが、その分自分は強く折れない若者を鍛え上げることに専念しよう。

 嘱託時代から数えて既に16年、前線任務に参加してきた。ならば、そろそろ前線任務から手を引いてもいいだろう。

 自分が参加しないことで被害が増えるかもしれない、そう思うと二の足を踏むが、しかしこの決断はヴィヴィオを引き取った時に下しておくべきだったのだ。

 自分は完全無欠のヒーローじゃない、どっちもとる、なんてことは出来ない。だから、子供を持つ私は死んではいけないし、死の危険がある場所へいってもいけない。

 エゴ、自分勝手といわれるかもしれない。でもそれでもいい。ヴィヴィオを悲しませるよりはずっといい。子供を引き取るということは、それを決断する、ということだ。

 たった今、父がそう教えてくれた。



 そしてお参りを済ませたなのはは、来た時よりもずっと晴れ晴れとした表情で、小さな士郎の手をとって「帰ろっか」と言った。

 その小さな手を握りながら、ふと考えた事がある。それは自分の未来について。

 もう前線には出ないようにしよう、そう今決めた。ならば、それにあわせて考えることもあるのではないか、そう、例えば結婚。

 この世界の自分が結婚し、とても幸福な家庭を築いている事実が、彼女をそう思わせた。結婚にはむろん相手が要る、それは誰か。

 脳裏に浮かぶのは一人の男性、この世界の自分と結ばれたクロノと似た雰囲気を持つ男性、ユーノ・スクライア。

 思えば自分とユーノはこの世界の自分とクロノのようになってもおかしくなかったのではないか、と今では思うが、そうならなかった原因も理解している、あの怪我だ。

 それ以来、彼は自分に対して一歩引く態度をとってしまうようになった。人の数倍責任感が強い彼は、要らぬ罪悪感を背負う悪癖を持っている。だが自分はそれを分かっていながら是正はしなかった。

 元々、2人の関係はなのはが進み、ユーノが支えるという形。初めて出会い、海鳴の街を駆けまわったときからそうだった。

 ならば、切り込むのは自分からだ。あの遠慮しすぎる青年は、どんな時も”待ち”の姿勢でいる、結構、ならば全力全で開突撃するのみ。

 むろん恋人になれるかなれないか、というのはその後の話だが、自分は彼が好きだし、彼だって自分を嫌ってはいないだろう。少々遅くなったが、関係を進展させてもいいかもしれない。

 いつまでも片親というのは、ね。

 そう思いながら、待ってろユーノくーんと手を振り上げるなのはだった。



 そうして墓地から去る際、彼女は最後にもう一度振り返った。

 何よりも先に目に写るのは、やはり菜の花に囲まれた小さなお墓、それを眺めると、不意にある言葉が浮かんでくる。

 自分の世界に帰れば、おそらく2度とこの世界に来ることは無いだろう、だからここに来るのはこれで最後になるはず。だからこう思うのはおかしい。

 けれど、あの墓を眺めていると、その言葉が自然と浮かんでくる。そしてそれは、この墓地を訪れ、花に囲まれた墓を見て感動した者誰もが思い浮かべ、そして口にする言葉。

 その光景あまりにも優しく、心を満たしてくれるから、次に来る時もこの季節、菜の花が咲くこの頃に来ようとそう思うから。

 だから彼女も少女の墓に、こう語り掛けるのだ。


 ―――また、花咲く頃に会いましょう――


 高原を吹く風が花を揺らし、その一枚がなのはの手に落ちる。それが花に囲まれ眠る少女の返事であるかのように。










 海鳴市 藤見町 喫茶翠屋


 高町士郎は、昼のピークを終えた店内の掃除をしながら、今日来る人物のことを考えていた。

 その人物は末娘のなのは、彼女が帰省するのは頻繁ではないが少なくもないので、そう珍しいことではないが、今回はいつもと違う点があった。

 帰省の連絡をしてきたのが本人ではなく、親友のフェイトであること、そしてとても驚く事があるだろう、ということ。

 前者は忙しかった、など理由はいろいろ考えられるのでいいが、後者はなんだろうか。

 ひょっとしたら恋人でも出来たかな、娘もいい年になってきた、そういうこともあるだろう、と昨夜妻と話し合っていた。父としては寂しい思いではあるが。

 まあ、楽しみにしていよう、と結論付けて掃除を終わらせたとき、店のドアが開き、一人の女性が入ってくる。

 「いらっしゃいませ、喫茶翠屋に……」

 士郎の言葉は途中で止まった。その女性を見た瞬間、一瞬時間が止まった気がしたほどに、彼は驚いた。

 出会った頃の妻が、そこにいたから。
 
 だが、すぐにそれが娘のなのはだという事に気づいた。彼が妻だと勘違いしたのは、娘が珍しく髪を解いているためか、それともいつものとどこか違う雰囲気か。

 そして、その娘は被っている白い鍔広の帽子を外し、彼が見たこと無い表情で、こう告げた。


 「はじめまして、お父さん、高町なのはです」

 えっと彼が驚いた次の瞬間、娘は彼の胸に飛び込んできた。

 「ずっと、ずっと会いたかった……」






 その話を聞いた時、彼女は完全に茫然自失の態をとってしまった。

 父が、高町士郎が生きている。この世界では父は死んでいない、それをフェイトから聞かされ、思考を回復させた後、彼女が抱いた思いは会いたい、ただそれだけだった。

 それを察したフェイトは早速海鳴に連絡をいれ、明日行くことを約束してくれた。

 その日なのはは眠れなかった。写真の中で、そして一度”魔法”を使って見た母の記憶の中でしか知らない父の姿。

 それが、生きている。行けば、自分を抱きしめてくれる、優しい言葉をかけてくれる。

 何度夢に見ただろう、父に手に抱かれる夢を。何度思っただろう、父と一緒に歩く自分を。

 父の手の感触を知りたくて、普段は絶対触らない刀におっかなびっくり触ることもあった。

 父の墓がある高台の草原で、父と共に遊ぶ自分を想像し、そしてその後こみ上げてくる寂しさで、そのまま緑の波に溺れてしまそうになったこともあった。

 会いたかった、声を聞きたかった、抱きしめて欲しかった。

 その父が、生きている。そう聞かされては眠れるはずも無かった。そしてもし眠ったとしても、夢にはきっと父が出てくる。

 だから、次の日に彼女が翠屋に着くなりにした行動は必然。

 見慣れた店内、でも一つだけ見慣れない姿がある。それは写真で見た姿より、幾分年齢を重ねた姿だが、兄によく似たその顔を間違うはずが無い。

 抱きつき、触れ合い、言葉を交わす。

 ずっとしたかったこと、でも出来るはずが無かったこと。だけど、今確かに自分は父の胸の中にいる、父の鼓動を感じる、生きていてくれている。

 「名前の意味は、菜の花、お父さんが、考えてくれた名前だよ」

 父にとってはなんだか分からないだろう、いきなりの娘の行動に目を丸くしているはずだ。それはきっと隣の母も同じ。

 だけどゴメンナサイ、今日は、今日だけはお父さんを借ります。いっぱい話したい事があるし、いっぱい聞きたい事があるの。

 でも、今は確かにここにいる父を感じていたい。

 そう思いながら、よりしっかりと父に抱きつき、その実在する逞しい身体の感触を確かめるなのはだった。







 余談だが、次の日、久しぶりに会った友人に一目見るなり泣き出され、次の瞬間抱きつかれて、1時間以上解放されずにいるという状態に混乱するアリサ・バニングスの姿が月村すずかによって確認された。








あとがき


おまけ更新、お墓参りですね。これは絶対書きたいことだったので、トリにしました。今回のタイトルはどうしてもつけたかったので、こうなりました。
これにてこのシリーズ終了です。ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。おそらく次書くのも中篇になるとは思いますが、また書き始めたら付き合ってもらええれば嬉しいです。短編の構想がひとつあるので、それを先に書くかもしれませんが。

余談ですが、アリサの墓の花は誰が植えたのか? と聞く人のなかには、喫茶店の店員と聞いて元軍人のスキンヘッドの大男を想像し、実際は白い服が似合う美しい女性であることを知り、安堵する人もいたりします。
尚、今回のなのちゃんのシーンは「さとうきび畑の唄」の6番~8番を聞きながら書きました。




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