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No.28802の一覧
[0] (SO3)その後のデメトリオ[シウス](2011/07/12 21:57)
[1] 第一部  プロローグ 出会いのキッカケ[シウス](2011/07/12 21:59)
[2]  1章 ここはどこ?[シウス](2011/07/13 22:55)
[3]  2章 地上から隔絶された平穏[シウス](2011/07/13 22:57)
[4]  3章 希望との再開[シウス](2011/07/16 16:15)
[5]  4章 平穏の終わり[シウス](2011/07/17 00:18)
[6]  5章 地底からの脱出[シウス](2011/07/19 22:28)
[7]  エピローグ 新たな旅立ち [シウス](2011/07/19 22:35)
[8] 第2部 プロローグ アリアス村の現状[シウス](2011/08/06 16:29)
[9]  1章 久しぶりの人里[シウス](2011/08/06 16:44)
[10]  2章 パルミラ平原[シウス](2011/08/13 15:22)
[11]  3章 平穏な道中[シウス](2011/08/13 15:26)
[12]  4章 エクスキューショナー:メデューサ[シウス](2011/08/13 15:28)
[13]  5章 平穏な道中(2)[シウス](2011/08/17 14:50)
[14]  6章 最上級エクスキューショナー:代弁者[シウス](2011/08/17 14:55)
[15]  7章 決着[シウス](2011/08/19 21:23)
[16]  エピローグ また次なる旅へ[シウス](2011/08/19 21:25)
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[28802]  6章 最上級エクスキューショナー:代弁者
Name: シウス◆60293ed9 ID:11df283b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/17 14:55
 豪雨が降りつづけ、足元には数センチの水が溜まっていた。ここが街道の、ペターニまで登る坂道だからこの程度の水位で済んでいるが、このまま注意を引き付けて遠くまで代弁者を誘導する場合、水位が10センチ以上ある大地に降り立たなければならない。
 そんな地面を、敵を引き付けながら走れるのであろうか?
「無理に決まっている……」
 無意識のうちに、アストールは呟いていた。明らかに分が悪すぎる。
 背後からユリウスが声をかけた。
「行くっきゃねぇだろ」
 今度はフィエナが口を開いた。
「みんな、雷系の施術は使わないでね。あれは水を伝って、術者にもダメージを与える術だから」
 つまり彼女の必殺技であるライトニング・ブラストは封じられたことになる。
 ヴァンが今までにないくらいマジメな声で、静かに呟いた。
「……どう攻める? 遠距離から施術だけで、代弁者がくたばるまで攻撃し続けるか?」
 一見、とても素晴らしい案にも聞こえる。確かに魔物は、ここと決めたテリトリーからは出てこない。つまりテリトリーよりも外から攻撃した場合、ただ一方的な的となるのだ。
 だがここでフィエナが異議を唱えた。
「たぶん無理よ。代弁者を含むいくつかの魔物って、未だに人間が勝てたことが無いんでしょう?」
「その情報だって、俺たちがアリアス村を出るまでの話だ。あの時でさえ『星蝕の日』から三日しか経ってなかった―――王都の方でなら、もうとっくに倒されてるかもしれないだろ?」
 即座にヴァンが否定するが、その内容は希望的なものに満ちていた。
 フィエナは厳しい目つきで言った。
「楽観はしないで。あなた仮にも六師団の上の方にいるんでしょ? だったら自分達が勝てない相手が、他の人が倒してくれるなんて思わないでよ。それに―――そんな相手だからこそ、施術だけで攻めてたら先に私たちの精神力が尽きるか、日が暮れてしまうわ」
 一同に重い沈黙がのしかかった。
 もはや直接引き付けるしか思いつかなかった。
 しかも足場が最悪だというのに。
 誰もが死を覚悟して戦うことを決意したとき、グラハムが口を開いた。
「仕方ない。積荷を使うぞ……」
「積荷?」
 ヴァンが訊き返すと、グラハムは重々しい声で言った。
「星の船との戦いに用いられた新兵器―――それを竜王クロセルに乗せて、戦いに挑んだのは知ってるだろ?」
「ああ。一応はシランド城から見てたからな……。あの時はクロセルだけでなく、疾風の精鋭たちも小型の新兵器を乗せて参加してたな」
「その小型の新兵器―――それがここにあるって言ったら……どうする?」
「「「「……………ッ!!!!」」」」
 全員が息を飲んだ。
 真っ先にアストールが反応する。
「馬鹿な! あんた民間人だろ!? なんでそんな機密情報の塊みたいなものを―――」
「極秘裏に輸送せよ―――シーハーツの女王と、アーリグリフの王から言い渡された、民間人を使った秘密輸送さ。かの戦いの後、アーリグリフは一時的に自国で小型の新兵器を預かって研究したいと言ったんだ。シーハーツは再び戦争を起こさない証として、それを了承した。そして研究が終わり、その新兵器を俺たちがペターニへと輸送。そのままシランドへは行かずに、ちょっと戻ってアリアスへ行き、今度こそシランドへ向かう途中―――それが今だ」
 再び沈黙が支配し、雨音だけが静けさを際立たせる。
 今度はユリウスが口を開いた。
「グラハムさん。その新兵器に名前ってあるんすか?」
「聞いてどうする?」
 ユリウスは悪戯っぽく笑って言った。
「これから俺たちが世話になる、相棒(武器)の名前を聞いておこうと思いましてね……」
 グラハムが言うよりも前に、フィエナが言った。
「………サンダー・アロー。雷の矢よ」
「雷系はダメなんじゃなかったのか?」
「威力を雷に例えてるだけ。確かに営力―――雷に似た力を部分的に使うけど、それは使用者が感電しないように作られてるわ」
 
 
 
 
 
 施術兵器サンダー・アロー。
 かつてアーリグリフ軍を殲滅するために作られた巨大大砲。
 一応はシーハーツには前から施術大砲は存在するのだが、構造そのものが全く異なるサンダー・アローは、例え従来の大砲と同じサイズであったとしても、威力が桁違いに高いものだった。
 威力だけではない。
 効率良く敵を殲滅することが目的だったため、そこそこの連射性能と、一発当たりが着弾・爆発した際の攻撃範囲がとにかく広い。途中から星の船を攻める目的で改造され、爆発力は激減したが、その分だけ貫通力が激増している。
 これの研究に携わった異世界人―――という名目の地球人フェイト・ラインゴットは、この施術兵器の威力などを想定し、このように称した。
 ―――これはオーバー・テクノロジーだ。連射性のあるロケット・ランチャーと変わらないじゃないか、と。
 ここにある小型サンダー・アローは全部で8本。
 戦闘員は、ユリウスとフィエナ。アストールにヴァン。そして一般兵が四人。全員合わせて八人。
 無意識の内に、アストールは呟いていた。
「上等じゃねぇか……」
 一人につき1本ずつ担ぎ上げる。完全に鉄製かと思われたが、なんとサンダー・アローの全身はダマスカスで出来ていた。チタンより軽く、並みの金属よりも硬いことで有名な金属である。
 扱い方は簡単だった。スコープを覗き込み、トリガーを引く。
 砲身を支える脚立もあり、狙っているときに手がブレる心配も無い。
「全員、敵の東側に回りこめ!!」
 アストールが一括すると、一般兵たちは指示に従いはじめた。
 ユリウスが疑問を口にする。
「なんで東側なんだ? 挟み撃ちにしたら良いと思うんだが……」
「弾が外れたらどうするんだ? 同士討ちになるぞ。あと撃つ位置によって馬車に当たったり、街の方へ飛んでいく可能性もあるから気をつけろ」
 そうこう言いながらも、全員が所定の位置につく。
 誰もが皆、その顔に緊迫の表情を浮かべていた。噂に聞いた新兵器に初めて触れることに、そして代弁者という危険極まりない敵を相手に挑むことに。
 今回は馬車を押す人間は必要なさそうだった。状況が状況なだけに、もはや敵を引き付けてるうちに馬車を通らせるという戦法は通じないからだ。もう倒すしかないと考えている。
 それでも念を押すように、アストールは言った。
「グラハムさんには了承を得ている。どうしても無理だったら、積荷を置き、人と馬だけで迂回(うかい)しながら街に入るのも仕方が無いそうだ」
 無論、それは彼ら行商人にとっては死活問題だが、絶対的な死に比べれば妥協せざるをえない。
 全員が配置に着いたところで、今度は準備作業に取り掛かる。
 サンダー・アローは、この惑星では似つかわしくも無い表現になるが電化製品だ。バッテリーは存在しないが、代わりに施力を蓄えた物体を容れ、スイッチを入れて起動するのを待ち、機能が立ち上がったところで初めて大砲が放てる。
 砲弾は入れなくても良い。何から何まで施術で作り出される。内部を流れる電気はもちろん、飛び出す砲弾は錬金術で作り出され、更にその砲弾に膨大な熱や回転、質量やスピードなどの付与エネルギーが加えられる。……ただし安っぽい錬金術が使われているため、着弾後は砲弾が消滅する。
 準備が整ったのを確認し、アストールは言った。
「俺とヴァンは頭を狙う。ユリウスとフィエナさんは胸を。そこのお前らは腹を。残りの二人は脚を―――はスカートに隠れて見えないか。言いにくい話だが、奴の股間を狙え!!」
 僅かな冗談を交えるも、誰も笑えなかった。緊張だけが高まる中、皆それぞれが狙いを定める。
 そして―――
「―――撃てぇッ!!」
 その瞬間―――代弁者がこちらを向いた。同時に右手を宙に躍らせる。
 一斉に紫色の閃光が代弁者に殺到する。人間には絶対に防御のしようがない攻撃は、しかし突然代弁者の周りに現れた4本の光の柱が、代弁者を中心に回転したことにより、全ての砲弾が絡め取られてしまった。
「う……嘘だろ?」
 呆然と呟くアストールの目に、代弁者がこちらに向かって滑るように飛んでくるのが映った。どうやら魔物のテリトリーは、魔物によってかなりの差があるようだ。ここは最初から代弁者のテリトリー内だったらしい。慌てて叫ぶ。
「もう1発だけ撃て! それで一旦後退だ!!」
 誰もが顔を青ざめさせながらも、震える手で狙いを定め、再び引き金を引く。
 何発かは外れた。
 何発かは吸い込まれるようにして代弁者の胸に向かい、代弁者の正面に×字型の風の刃が現れ、自分に当たりそうな砲弾を全て叩き落した。
 ―――ただし、1発を残して。
 たったの1発が代弁者の腹に命中し、『ドオォン!!』という轟音と共に代弁者の身体は大きく後ろへと吹っ飛び、ごろごろと地面を転がった。しかしその身体に、傷らしきものは見られなかった。
「……竜でも一撃で爆砕できるのにな」
 一般兵の誰かが呟くが、それに構わずに次の射撃体勢に入る。代弁者が転んでいる今がチャンスだと判断したからだ。
 代弁者が起き上がった。人間のように手をついて起き上がるのではなく、まるで操り人形の糸を引き上げたかのような起き上がり方であった。
 誰かが1発だけ放ち、代弁者が再び自分の周囲を光の柱で囲んだ。だが今の1発は囮だった。光の柱が消えるタイミングを見計らい、今一度、強烈な紫色の閃光が代弁者に殺到する。
 少しだけ煙が立ち込め、そしてすぐに晴れる。
 代弁者は倒れていた。しかし目立った外傷は無い。
 今度はフィエナが口を開いた。
「もしかして―――魔物って、ダメージを蓄積しても、見た目や動きに変化が表われない……の…かな?」
 言われてみて、一同は昨日のメデューサを、特にユリウスとフィエナは、数日前のジャイアントモスを思い出す。変化は―――無かったような気がする。
 フィエナは言った。
「見た目に変化が無かったとして、もう限界に近い場合って、どうやって見極めたらいいと思う?」
 ユリウスが答えた。
「分かるわけねぇな。……でも今の俺たちには飛び道具がある。だったら奴が消えるまで、弾ぁぶちこんでやるしかねぇってことだ!」
 再び代弁者に砲身を向け、トリガーを引いた。しかし、
 ―――カチン、カチン。
「あ……あれ? ええっ!?」
「施力切れだな……」
 アストールが呟き、自分のサンダー・アローのトリガーを引く。周りの兵士たちもそれに習うが、砲弾が出てくることは無かった。
「ひっ……やべぇよ、おい!」
 兵士の誰かが呟く。アストールは静かに命じた。
「一旦撤退だ。ここから先は俺たちで戦う。お前らは施術で援護を頼む」
 俺たち―――自分を含め、ヴァン、ユリウス、フィエナのメンバーである。
 兵士たちに命じた。
「まずはファイアボルトだ! 一人が先に撃ち、時間を開けて残りも放て!」
 一瞬の乱れもなく、ホーミング性質を備えた火球が、ゆっくりと近づく代弁者へと吸い込まれる。当然ながら光の柱を使って防がれるが、直後に3発のファイアボルトと、いつの間にか三方向から代弁者を囲ったアストール、ヴァン、フィエナから、
「黒鷹旋!!」
「白鷹旋!!」
「氷鷹旋!!」
 闇・光・氷の巨大ブーメランが高速回転しながら代弁者を絡め取り、一瞬だけ動きが鈍くなった瞬間を目掛け、
「吼竜破!!」
 代弁者の真上から竜の形をした気塊が叩きつけられ、そのタイミングで最初に囮のファイアボルトを唱えた兵士が、
「アースグレイブ!!」
 代弁者の足元から先の尖った石柱を飛び出させる。
「今だ!!」
 ユリウスが叫び、剣を構えて突進する。
 しかし次の瞬間。代弁者が腕を振り上げる。また光の柱を出すつもりか。
 寸前のところで、ユリウスはバックステップを踏み、大きく後ろに跳んだ。次の瞬間。
「愚か者が……」
「………ッ!?」
 代弁者が喋った。それもかなりの棒読みでだ。その直後、またあの光の柱が通過する。幸い、先に避けていたので、当たる心配は無かったが。
 ユリウスはゆっくりと剣先を下げ、声を張り上げた。
「お前……言葉が話せるのか!?」
 最後に泊まった宿屋のオヤジの言葉が蘇る。確かに言っていた。言葉が話せる魔物がいると。
 一同も呆然としている。ユリウスは構わずに続けた。
「お前らの正体は何だ!」
 代弁者は答えた。ひどく棒読みで文字通り感情の無い―――いや、感情どころか自我すら感じさせない声で。
「我らは神が遣わせたエクスキューショナーの一人、代弁者」
 まさか会話が成立するとは思ってもいなかったため、予想外なまでに答えたので驚いた。
 続けてユリウスは問う。
「エクスキューショナー? 何なんだ、それは?」
 すぐに答えが返ってきた。
「この世界は―――銀河系に浮かぶ星々の文明は進みすぎた。もはや見過ごすことはできない」
「星々の文明だぁ? 星なんて高いところにあるのに、文明なんて存在するっていうのか?」
「星とは宇宙空間に浮いた球体状の物体。この大地もまた、ひとつの星の表面である」
『――――ッ!?』
 誰もが皆、予想外の世界の姿に、言葉を失ってしまう。
 そんな様子を無視し、代弁者は続けた。
「星には極稀に生物の住むものがあり、長い年月を経て人間という種族へと進化する。そして人間の中でも進化した文明域に達したものは、やがて自らの星を出る技術を身に付け、他の星にまで文明の交流を求める」
 フィエナは呆然とする頭の中で、先日に起きたという異世界の人間のことを思い出す。
 必然的に、彼らの言う『異世界』という単語が、『夜空に浮かぶ星』という意味だと知った。
 ユリウスは言った。
「その星々の文明が進みすぎたってのはよぉーく分かった。じゃ、なんで俺たちの住む星に、お前らが現れるんだ? とてもじゃないが、ここが進んだ文明だなんて口が裂けても言えねぇぞ?」
 代弁者は更に、感情の無い声で続けた。
「人間たちの進んだ技術により、この世界は歪み、汚染が生じた。汚染は広がり続け、そこで創造主は決断した。宇宙の―――銀河系そのものを消滅させると」
 瞬間、声にならない悲鳴が起こった。
 代弁者は言う。どこまでも―――どこまでも感情の無い声で。
「そのために遣わされたのが我らエクスキューショーナーで…あ……」
「………?」
 突然、代弁者の声がおかしくなった。
「ピー……ガガッ…ザザザザザ……―――あー、あー、お! やっと繋がるようになったぜ!」
 代弁者の声は、この場の誰のものでもない、軽薄な男性のものに切り替わった。


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