<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.28802の一覧
[0] (SO3)その後のデメトリオ[シウス](2011/07/12 21:57)
[1] 第一部  プロローグ 出会いのキッカケ[シウス](2011/07/12 21:59)
[2]  1章 ここはどこ?[シウス](2011/07/13 22:55)
[3]  2章 地上から隔絶された平穏[シウス](2011/07/13 22:57)
[4]  3章 希望との再開[シウス](2011/07/16 16:15)
[5]  4章 平穏の終わり[シウス](2011/07/17 00:18)
[6]  5章 地底からの脱出[シウス](2011/07/19 22:28)
[7]  エピローグ 新たな旅立ち [シウス](2011/07/19 22:35)
[8] 第2部 プロローグ アリアス村の現状[シウス](2011/08/06 16:29)
[9]  1章 久しぶりの人里[シウス](2011/08/06 16:44)
[10]  2章 パルミラ平原[シウス](2011/08/13 15:22)
[11]  3章 平穏な道中[シウス](2011/08/13 15:26)
[12]  4章 エクスキューショナー:メデューサ[シウス](2011/08/13 15:28)
[13]  5章 平穏な道中(2)[シウス](2011/08/17 14:50)
[14]  6章 最上級エクスキューショナー:代弁者[シウス](2011/08/17 14:55)
[15]  7章 決着[シウス](2011/08/19 21:23)
[16]  エピローグ また次なる旅へ[シウス](2011/08/19 21:25)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[28802]  1章 ここはどこ?
Name: シウス◆60293ed9 ID:11df283b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/13 22:55
 ―――ドスンッ!
「うわっ!?」
 夢の中で硬い地面に叩きつけられ、その時の悲鳴で青年は目を覚ました。
「今のは夢か? って、ここはどこだ!?」
 一瞬で眠気が覚める。勢い良く上体を起こすが、視界が真っ白になっていた。両目を負傷したのだろうか。それと同時に気付く。自分はバンザイのポーズをしていた。
「あ、ごめん。着替えさせている途中だったから」
 若い女の声に驚き、今の現状を把握する。身動きを止めると、誰かがシャツを下に引っ張る感触がし、続いて視界が開けた。辺りを見渡すと、木造の部屋の壁・床・天井、そしていくつかの家具が目に映った。どうやらここは、どこかの民家のようだ。
「目が覚めたようね」
「ん? うおっ!?」
 突然呼びかけられ、ふと自分の隣を見た青年は驚いて声を上げた。呼びかけてきた声の主はそこにいた。自分が寝かされているベッドに腰掛け、まるで寄り添うような至近距離で、自分の顔を覗き込んでいる。
 突如、その顔がプゥッと膨れ、
「人の顔見て、いきなりそのリアクションはないでしょ?」
「あ、その……すみません。その……ここはどこで、あなたは誰でしょう?」
 すると女性は、青年の顔を真っ直ぐに見据えたまま真剣な声で、
「ここは死後の世界」
「嘘ぉッ!!?」
「嘘よ」
「…………」
 女性はゆっくりと立ち上がり、金髪頭を掻き、
「驚いたわ。さっき外で洗濯をしていたら、上流から人が流されてきたんだもの……」
 特に驚いた様子の無い声で言う。
 青年はとっさに気付き、
「じゃあ、俺を助けてここまで運んできたのは……」
「私よ。ついでに着替えさせてげたのもね」
「ははは……」
 青年の口から乾いた笑いが漏れた。シャツだけならともかく、どう考えても今穿いている下半身の下着まで乾いたものになっている。
「ともかく、命を救ってくれて、ありがとう。えっと……」
「何?」
「君の名前は?」
「ああ、なるほどね。私はフィエナ。フィエナ・バラード」
「俺はユリウス。ユリウス・デメトリオだ」
 青年――ユリウスが名乗ると、フィエナは首をかしげた。だがすぐに思い当たったのか、
「……デメトリオ? ―――ああ。たしかあなた、アーリグリフで疾風の副団長やってた人ね」
「へぇ……俺も有名になったもんだな。そういう君は……」
 そう言って、ユリウスはフィエナの肩を指した。ノースリーブの薄手のシャツから、大きな刺青が見え隠れしている。タトゥーが趣味でない限り、この大陸で彫り物をするのは一つしかない。
「君は施術師だな。シーハーツの?」
 シーハーツの住民でなくとも、施術師は存在する。隠密の者が仕入れてくる情報により、アーリグリフ人でも何人かは施術が使えるのだ。ユリウスもまた、その一人である。またどういう経緯を通じてか、最近では盗賊でも施術を扱える者が増えている。
「ええ、そうよ。シーハーツ人がアーリグリフ人を助けたことが不思議なの?」
「まあ、そりゃあな。だってお互いに戦争してんだぜ?」
 口で言いながらも、なぜか目の前の女性には、敵対心が見られなかった。同じくユリウスも、不思議と敵対心が沸いてこなかった。
「それもそうね……。でも、理由を聞いたら納得してくれると思うわ」
「……理由?」
 首を傾げるユリウス。
「じゃあユリウス、今から質問するから答えて。いま私達がいるここはどこだと思う?」
「うーん、窓から差し込む光の明るさからして……カルサア?」
 ゲート大陸では、地方によって光の明るさが大きく異なる。王都アーリグリフでは、常に雪が降り続いているためか、ほんの少しだけ薄暗い。それに比べると、ここの明るさは常に砂埃の舞っているカルサアの町と、ほぼ同じくらいと言える。
「まあ、たしかにここはカルサアだったわね」
「……『だった』?」
 その時、ユリウスは猛烈な不安に襲われた。どこかで聞いたことがある。
 フィエナはそんなユリウスを見て、悲しげな顔をしながら言った。
「昨日、あなたはカルサア山道から落ちてきたの。だからここは、あなたが落ちた崖の下」
「………………じゃあ、この家は?」
「数十年前まで使われていた、旧カルサアの村の中の家よ。アーリグリフ人なら場所までは知らなくても、聞いたことはあるはずだわ」
 旧カルサアの村―――アーリグリフの住人全員とまではいかなくとも、カルサアに住む者、もしくはユリウスのようにカルサア出身の者ならば誰でも知っている事である。
 カルサア山道よりも遥か二百メートルもの崖下に存在する村。村には唯一の出口と呼ばれる坑道があり、そこが外界との接点となっていた。ある日のことだ、事前に坑道が崩れ落ちることに気が付いた者が村人を村から避難させた。そして坑道が崩れ落ちたのは、その翌日のことだった。
 それ以来、ここは陸の孤島と化したのだ。分かりやすく言えば、ここにいる時点で、もうここから地上へは戻れないということになる。
「この村に住んでいた人達がね、急いで避難したものだから、村の中にはいろいろな物資があったわ。しかも畑付きで。おまけに村と隣接するように流れてる川があるから、魚だって食べられるし―――」
「ちょ……ちょっと待って! じゃあ何で君は、こんな寂しい所に住んでるんだ?」
「―――落ちてきたのよ。大嵐の日にね」
 再び悲しげな顔になるフィエナ。
「あの時、私はとある任務の帰りにカルサア山道を通ることにしたの。本当なら嵐が去るまで待ったほうが良かったんだけどね、どうしても急がなければ間に合わない状況だったわ。仕方なく山道を通っていたら案の定、足を滑らせて崖下まで一直線。落ちたところが偶然にも、増水した川の中だったから助かったの。―――もう3年も前の話よ」
「…………」
 フィエナの言葉は信じられないものだった。こんな所で誰にも会うことなく、彼女は3年間もの間、孤独に暮らしていたというのか?
「あれ? じゃあ、俺はどうして助かったんだ? 俺の時は嵐どころか、快晴だったぞ?」
「あなたの場合なら……エアードラゴンにでも乗ってたんじゃないの? って言っても、当のドラゴンの姿は見当たらないんだけどね」
「エアードラゴン………ゼノンの奴か!! あいつ……俺を助けようと……?」
「でも、そのドラゴンの姿は見当たらなかったわ。残念だけど、もう死んでると思った方がいいわ。川で流されたのかもね。ずっと下流の方へ行ったら、水が地下に潜るようになってるの。あそこに流されたらもう、戻れないわ。ある意味で、この谷からの唯一の出口かもね」
 それを聞いた瞬間、ユリウスは目の前が真っ暗になったような錯覚を覚えた。目から一筋の涙が流れ落ちた。自分のパートナーとして共に戦ってきた戦友が、共に生き抜いてきた友が、自分の知らないところで呆気なく死んだのだ。
 肩を震わせ続けるユリウスに、フィエナは優しく声をかけた。
「しばらく一人になりたい?」
「―――ああ」
 ユリウスがそれだけ答えると、フィエナは黙って部屋を出て行った。
 
 
 
 
 
「さて……どうしたものかしらね」
 フィエナは当ても無く、村の中央の辺りをウロウロしていた。
 旧カルサアの村は、全体が崖に○形に囲まれた村だ。ここから少し歩いた村の端に川が流れていて、その川に沿って崖も続いている。ユリウスが落ちてきたのは川の上流の方だった。ユリウスの話から推測すると、おそらく彼が乗っていたエアードラゴンのお陰で、彼は助かったらしい。
「辛いでしょうにね、彼。二度と帰れなくなっただけでなく、大事な仲間が死んじゃったんだものね……」
 フィエナも一応、軍人なのである。それもただの軍人でなく、施術と通常の戦闘能力を併せ持つ上等兵―――別名『シーハーツ六師団』の中の幽静師団『水』の副団長なのだ。仲間の死を見ることなど、戦時中では日常茶飯である。だからこそ彼女にも、ユリウスの気持ちが痛いほどよく分かる。
 だが本当に辛いのはこれからなのだ。たしかに仲間の死は辛いが、時が経てば次第に落ち着くものである。それに比べて、二度とこの谷から抜け出せない苦しみは、はっきり言って想像を絶する。
「思い出すわね……あの日の事を―――」
 3年前の、あの日。
 フィエナにとってそれは、全てを無くした日と言っても、あながち間違いではなかった。
 一般に『全てを無くす』と言えば、大切な人が死んだり、あるいは信じていた人々に裏切られたりすることである。それも大切な人の全員に。フィエナの場合、それらの人達は生きている。3年ほど会ってはいないから、今でも生きているという保障はどこにも無いが。
 一度だけ―――たった一度だけ、崖の上で『足を滑らせる』などというドジを踏んだだけだというのに、二度と地上へは戻れない地へ来てしまった。
「アペリスは何を考えているのかしらね。私を―――ひと一人をこんな孤独な地獄へ叩き落しておいて、それでもまだ神様を気取ってるっていうの? それともユリウスを私と同じ境遇にしておいて、『仲間を増やしてやったから感謝しろ』なんてほざく気?」
 聖王都シランドでは、口が裂けても言えない言葉で吐き捨てる。だがそれでも、彼女は神の存在を疑おうとはしなかった。シーハーツの人間はそういう人ばかりである。人は辛い境遇に立たされた時、『この世には神などいるわけがない』と言ってしまうが、生まれた時から宗教色に染まっている者は、そう簡単には神の存在を否定しようとは思わない。もっとも、口から出る言葉には、神に対する敬意など、微塵も感じられないが……。
 空の道を見上げた。崖に挟まれ、霧でかすみ、ひどく狭くなった空色の道が見える。
「ねえ役立たずのアペリス。私みたいな人間に悪口言われて悔しい? でも現に役立たずでしょ? 何のために神様なんかやってるのか知らないけど、困ってる人を助けないなら辞めちゃいなさいよ。神様なら神様らしく、奇跡の一つや二つくらいは起こして、私達を助けてくれたっていいんじゃない?」
 言った直後、一人で何言ってるのだ? という、あまりの惨めさに悲しくなり、フィエナは肩を震わせて涙を流し続けた。
 
 
 
 
 
「どう? 少しは落ち着いた?」
 出来立ての料理の皿を片手に、フィエナはユリウスがいる部屋へと入った。相変わらず、ユリウスはベッドの上にいた。ユリウスはフェイト達との戦いによって負傷しているのである。軽傷で済んでいるのは、フェイト達の一行が本気を出していない証である。
「ああ、ありがとな。……その料理は?」
「これ? ああ、さっき言ったようにね、この村には畑があるから食べ物には困らないの。シーハーツには無い野菜もあるし、川へ行けば魚だって手に入るわ。調味料も納屋に行けばいくらでもあるし」
 そう言ってフィエナは、身を起こしたユリウスに料理の皿を手渡し、ベッドに腰掛け、自分も料理を食べ始めた。
「野菜炒めか?」
「ええ。ひょっとして野菜、嫌い?」
 逆に問い返されて、ユリウスは勢いよく首を左右に振った。
「そんなわけ無いだろ。シーハーツではともかく、アーリグリフで野菜と魚は貴重品なんだ。魚は重騎士団『漆黒』の修練所でしか手に入らないし、特に野菜なんて、一般人でも滅多に口に出来る物じゃないんだ。土地が痩せ、おまけに寒さもあって野菜が育たない。陛下が食べ物を階級に関係なく、平等に行き渡るようにしているっていうのに、それでも食えない。ましてや青菜なんて―――」
 皿の中では、青々とした野菜や黄色い豆、赤々とした物さえ入っていた。おそらくトマトやニンジンのような物なのだろう。アーリグリフで手に入る野菜といえば、根菜類オンリーである。貴族といえど、それ以外の野菜は口にした事などほとんど無いはずだ。
 フィエナは柔らかく微笑むと、
「良かった、気に入ってもらえて」
 一瞬、ユリウスは彼女の美しい微笑みに見とれてしまった。
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない。いただきまっす」
 慌てて視線を逸らし、目の前のご馳走にかぶりつく。野菜独自の旨みや甘味、時には苦味や渋味でさえ、旨さを際立てるスパイスとなりうる。
 フィエナが口を開いた。
「そう言えば……これからどうするの? 一応、掃除すれば他の家も使えると思うけど、良かったら一緒に住まない?」
「ぶっ!?」
 食べている途中、ユリウスは思わず口の中の物を吹き出しそうになるのを、何とか我慢した。吐いてはもったいない。
 いま口の中にあるものを全て飲み込んで、少し乱れた息をムリヤリ抑えながら、ユリウスは口を開いた。
「い、いきなりすごいこと言うなぁ……。もしかして俺に一目惚れ?」
 努めて冷静な、あえて言うならばナンパされるのに慣れているような声を出そうとしたが、今まで生きてきた中で一度もそのようなことを言われたことが無かったため、声は凄まじく不自然になった。フィエナもその様子に気付き、笑いながら訂正した。
「ああ、ゴメンゴメン。なんていうか、『一目惚れ』っていうより、寂しいから……かな? 今朝にも言ったけど、二度とこの谷からは出られないの。3年間もここで一人暮らししてたら誰でも寂しくなるわ」
 言われて見ればそうだな、とユリウスは思った。相棒であるゼノンが死んだ今となっては、この谷からは抜け出すことは不可能だろう。そうなるとすれば、もう二度と人に出会うことは無いだろう。目の前のフィエナを例外として。
 ユリウスの決断は早かった。
「オーケー。今日からお世話になるよ。よろしくな、フィエナ」
 今度はあまりアガらずに声が出た。するとフィエナは手を差し伸べてきて、
「こちらこそよろしく、ユリウス。そして、ようこそ我が家へ」
 差し出された手をユリウスが握ると、フィエナはもう一度、さっきの柔らかい微笑みを浮かべた。先程の微笑みに比べると、やや頬が紅潮した微笑みだった。
 


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02252197265625