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No.28802の一覧
[0] (SO3)その後のデメトリオ[シウス](2011/07/12 21:57)
[1] 第一部  プロローグ 出会いのキッカケ[シウス](2011/07/12 21:59)
[2]  1章 ここはどこ?[シウス](2011/07/13 22:55)
[3]  2章 地上から隔絶された平穏[シウス](2011/07/13 22:57)
[4]  3章 希望との再開[シウス](2011/07/16 16:15)
[5]  4章 平穏の終わり[シウス](2011/07/17 00:18)
[6]  5章 地底からの脱出[シウス](2011/07/19 22:28)
[7]  エピローグ 新たな旅立ち [シウス](2011/07/19 22:35)
[8] 第2部 プロローグ アリアス村の現状[シウス](2011/08/06 16:29)
[9]  1章 久しぶりの人里[シウス](2011/08/06 16:44)
[10]  2章 パルミラ平原[シウス](2011/08/13 15:22)
[11]  3章 平穏な道中[シウス](2011/08/13 15:26)
[12]  4章 エクスキューショナー:メデューサ[シウス](2011/08/13 15:28)
[13]  5章 平穏な道中(2)[シウス](2011/08/17 14:50)
[14]  6章 最上級エクスキューショナー:代弁者[シウス](2011/08/17 14:55)
[15]  7章 決着[シウス](2011/08/19 21:23)
[16]  エピローグ また次なる旅へ[シウス](2011/08/19 21:25)
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[28802]  1章 久しぶりの人里
Name: シウス◆60293ed9 ID:11df283b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/06 16:44
 翌日、三日間の野宿と、昨晩の夜更かしが祟ったのか、二人は見事に寝坊した。すでに昼時である。
 ある程度、旅の疲れが出ているだろうと見越して、あらかじめ二日分の宿代を払っていて良かったと、二人は思った。
 ユリウスが宿屋の人に尋ねる。
「なぁ、行商人ってペターニから来るんだよな? 次に来るのがいつか、分かるか?」
 宿屋のオヤジは、指折りしながら数え、
「そうだなぁ……明日の昼には来るはずだな」
「お、ラッキー。聞いたかよ、フィー? 明日にはペターニに向けて出発できるぞ?」
 するとオヤジは釘を刺すように、
「ただし、タダで行けるほど甘くはないぞ? あと昼に来るんだから、次にペターニに向かうのは明後日だ」
 フィエナが口をはさむ。
「どういう事なの? 甘くないって」
 宿屋のオヤジは気まずそうに頬を掻きながら、
「最近の魔物騒ぎは知ってるよな?」
「「いえ、全く」」
 見事にハモった即答に、オヤジはぎょっとするが、すぐさまユリウス達の脳裏に浮かぶものがあった。
「ああ……ひょっとして、あのでけぇ蛾の化け物とかか?」
「み……見たのかよ?」
「ああ。ってか戦った。すげぇ数に囲まれてヤバかったな」
 宿屋のオヤジはポカンとした顔になり、次の瞬間には大笑いした。
「すげぇな、お前! いや、お前さんらか?」
「ええ。彼と私、とっても強いわよ?」
 フィエナが腕を組んで、自慢げに言う。
「そーか、そーか! ……で、話を戻すとな、ペターニまでの街道にも魔物―――こっちは人型の危険なヤツが山ほど出るんだよ」
「……嘘だろ? ってか、そんな危険地帯を通る行商人なんているのかよ?」
「お前さんら、素人だな。三日前から急に現れた魔物どもなんだが、基本的には群れで動かないし、行動範囲も小さい。何かを捕食するでもないし、向こうから人里には近づかない―――まぁ、こっちから近づいたら襲われるんだけどな」
「へぇ、そうなんだ……」
 フィエナが感心したように呟く。
 ユリウスは更に問い掛けた。
「なぁ、だったら街道に魔物が突っ立ってたらどうするんだよ? 徒歩ならともかく、馬車はレンガで舗装(ほそう)された道以外は慣れてないだろ?」
 オヤジはチッチッチと指を振ってみせた。
「だーかーらー、タダじゃ行けないって言っただろ? 一応、国からの要請で、護衛の兵士が数人ずつ付いてるのさ。そいつらが街道に突っ立ってる魔物の気を引き、逃げる。その隙に馬車が街道を通る。もちろんスピードが必要になるから、馬が引くだけでなく、後ろからも乗組員が馬車を押すんだ。―――死ぬ気でな。
 ああ、それから……あの魔物どもの中で、人間が勝ったことの無いヤツが3種類いる。天使の姿をした代弁者、竜の化け物みたいな姿の執行者、あと悪魔っぽい姿の断罪者だ」
 フィエナは半眼になって訊ねた。
「………誰なんです? そんな意味ありげな名前を付けたのは」
 するとオヤジは、頭を掻きながら困ったような口調で、
「あー、俺も遠くからしか見てないから、人づてに聞いただけなんだが………その3種類だけな、言葉が話せるらしいんだわ。そいつらの名前も、そいつら自身が自称したらしいんだ」
「「………ッ!?」」
 当然ながら驚愕する。魔物―――という表現に値する生き物を見たのは、こないだのジャイアントモスが初めてだ。通常の生物とは明らかに異なる存在と出遭った経験など無い二人である。『魔物』と名の付く存在が、無意識のうちにジャイアントモスのような知性の欠片も無いものだと考えるのは仕方が無かった。
 だからこそ、その『言葉の通じる魔物』というのには、強い興味が湧いてきた。
「おっさん、その魔物について、もっと詳しく―――」
「いや、だから詳しくは知らねぇって言ってんだろ? 俺は遠めに見ただけなんだ。そんなに知りたけりゃ、明日乗るって言ってた行商人か、その護衛の兵士にでも訊けよ」
 結局、この宿屋では大した情報は聞けなかった。
 
 
 
 
 
 その夜。
 宿屋の窓から、アリアス村の北西門を覗くと、昨日とは違う兵士が見張りをしていた。まるで石像のように動かないところを見ると、昨日の二人より桁外れにマジメなのだと気付かされる。
 ―――というか、昨日の二人のほうが不謹慎すぎるのだろう。公務中に酒を飲むなど―――とそこまで考え、自分たちも一緒になって酒を飲んでいたということを、ユリウスは思い出した。
 窓の外を向いたまま、フィエナに問い掛ける。
「なぁ。魔物のこと、どう思う?」
 フィエナは風呂―――は村の有力者の家にしか無いので、村の共同水浴び場で洗ってきた髪をタオルで拭きながら答える。
「んー、『不思議な現象』とか『超常現象』って類のものだとは思うけど、考えたところで解決しないと思うね。こういうのは大勢の人が研究して、各地を調査して、それでようやく『これが原因かもしれない』っていうのが見つかるんだと思う」
「そりゃあ、そうだろうけど……」
「あれこれ考えてても、答えは見つからないよ。今は自分の身をどうやって守れば良いかだけ考えるべきだと思うわ。それに―――私たちの目的は、魔物を消すことでも、世界を救うことでもないの。無事にグリーデンまで行って、そして幸せに暮らす事でしょ? まぁ、グリーデンが理想郷かどうかまでは分からないけどね」
 彼女の言う通りだ。世間的には、二人ともそれなりの有名人であり、同時に行方不明者(おそらくは死亡者という扱い)である。世間の目をすり抜け、二人で平凡に暮らす―――と誓った時点で、アーリグリフやシーハーツに居場所は無かった。
 確かに今は、魔物の正体など、どうでも良い。今は自分の身をどうやって守るかと、これからの身の振り方を考えるだけだ。
 ユリウスは複数ある荷物袋の中から、白い棒状の物体を取り出した。
 フィエナは何も言わない。アリアス村に着くまでの三日間、野宿する際に、ユリウスが何度も“それ”を加工している姿を見ているからだ。そして完成したのは、村に着いた日の昼頃―――村に着く数時間前だ。
「出来たばかりで、まだ吹いてなかったよね。―――その竜笛」
「ああ。一応、穴の開けるときに位置には気をつけたから、普通の笛みたいな音階が出せると思う。あとは竜笛そのものが持つ音色が気になるだけだな」
「何か吹ける曲ある? あたし、聖歌以外にも民謡とか、旅芸人から教えてもらった曲とか吹けるけど」
「俺だっていくつか吹ける曲があるさ。ってか、フィーも旅芸人から教わってたの?」
「うん。陽気なお兄さん―――って、今じゃ中年かな? とにかく気に入った人には、自作の曲を教えて回ってるんだって」
「―――もしかして、それってこんな曲だったか?」
 ユリウスは竜笛を横にし、端に口をつけ、ゆっくりを吹き始めた。
 ゆっくりと明るく、陽気な曲が、柔らかな音色でもって奏でられる。
 フィエナは驚いて目を見開くが、次第に目を閉じて聞き入り、安らかな笑顔になっていった。
「……いい音ね。これが竜笛かぁ。それに―――ああ……この曲だ。あたしが子供の頃に聞いた曲だよ。あのお兄さんが言ってた。『これはペターニとかサーフェリオのイメージに合う曲だ』って。街のBGMにしたいくらいだって言ってたわ……」
「俺もその意見には賛成だな。たしかにあの街のイメージに合う曲だと思う」
 しばらくの間、何曲か吹いてみる。途中、フィエナと交代して、互いに知っている曲を披露しあった。
 そして感想は。
「んー、確かに良い音なんだけどなぁ……」
「なんか、あれだよね。木材とか動物の毛とかで作られた一般的な楽器より、少し上くらいの音質ね。名器とまでいかなくとも、ちょっと値の張る楽器ほどではないわ」
「でも幅広い音が出せるんだぜ? 『怒り』とか『喜び』とかの感情を表現しやすいって言われてるし」
「あははっ。なんかゼノンが言い分けしてるっぽいね」
「ぷっ……確かに……」
「そんなこと言ったら、ゼノン怒っちゃうよ?」
「そしたら吠えるんだろうな。こんな感じに?」
 ユリウスはふざけて竜が喉を鳴らすイメージに合わせて、プーという気の抜けた音を出そうとした。全ての穴を指で塞ぎ、軽い気持ちで息を送り込み、
『グルルル……ヴヴヴゥゥゥゥ……フシュー』
 フィエナと、吹いていたユリウスがポカンとした顔になった。通常の獣とは明らかに異なる唸り。その中に混じる、獣の殺意と知性を持つものの殺意とを合わせたような感情。挙句の果てに『フシュー』というエアー・ドラゴン独特の呼吸音。
 ついで隣の部屋から、幼い女の子の声で、
『お父さん、お父さん! いまお化けの唸り声が聞こえたよっ!!』
『Zzz……うーん、どうせ気のせいだろう?』
『違うもん! 本当だもん!』
 フィエナとユリウスはゆっくりと視線を合わせる。そして、
「ぷっ……」
「は…はは……」
 声を押し殺し、静かに笑い続けた。
 
 
 
 翌々日の朝9時。
 日がだんだんと高い位置へと昇り始める頃。
 昨日の昼下がりに到着した行商人は到着した。その馬車の数は3台。しかも大型の馬車ときた。1台を3頭が引き、また各馬車にも商人たちが2~3人ずつと護衛の兵士、僅かに旅人が乗っていた。
 積荷はアリアス村の倉庫へと運ばれ、それらは特産物を持たないアリアス村(戦争が起こる前までは、いくつかの野菜と、狩人が獲ってくるカルサア山道にしか生息しない動物の干し肉、そして近くの浜辺で生産される塩が財源だった)の貴重な物資となる。
 しかし行商人たちの仕事は、物資をこの村に運ぶだけではない。
 隣国アーリグリフの、ここから一番近い街であるカルサアから輸入された物資をアリアス村で保管し、それを行商人の手でペターニやシーハーツの王都であるシランドまで輸送するのも、彼らの仕事である。
「さってと……それじゃあ出発だな」
「おうよ。俺達の旅の道中に、アペリスの加護がありますよーに」
 やけに気の抜けた会話をする二人の兵士が、出発寸前の馬車の中に乗り込んできた。彼らが、この馬車の護衛の兵士なのだろう。ほかの馬車にも、同じように兵士が乗り込んでいるはずだ。
 と、そこで二人の兵士の視線が、馬車に乗せてもらっている旅人―――ユリウスとフィエナの視線とぶつかった。
「ああ……!」
「あんたら!」
「あのとき酒を奢ってくれた……!!」
「あなた達は!」
 四人の声が、見事にハモった。
 ユリウスが尋ねる。
「あんたら……昨日、この馬車が来たときに、護衛の兵士の中には居なかったはずじゃ……」
 すると兵士の片方―――短く刈った黒髪の男が笑いながら、
「いやいや。行商人を護衛する『ついで』でな、こうやってアリアスとペターニとの人員を交代するようにしてるんだ。ペターニとシランドの間でもやってるぜ?」
 もう一人の赤い髪の兵士も頷き、
「何事も無駄を省いてコスト削減―――不景気や今みたいな緊急時に培われるものだが、そういう時が終わった後でも役立つからな、こういうのは」
 その言葉を聞き、フィエナは意味ありげな笑みを、口元に浮かべた。馬車の中には彼女にとっての知り合いがいなかったので、村を歩く時につけてた顔を覆っているフード付きマントは無い。
 彼女は悪戯っぽく問い掛けた。
「あら、ずいぶんと格好良い格言ね」
 すると黒髪の兵士は笑いながら、
「だろ? いやー、これを言った俺ってばチョー天才―――」
「言ったのは六師団『水』の副団長だよ。今の副団長じゃなくて、3年前に戦死した方の」
 赤髪の兵士が、黒髪の方よりも大きな声で言い切った。
 恨みがましそうな黒髪の彼の視線を爽やかに受け流しつつ、赤髪の彼は語りつづけた。
「前の『水』の副団長……それなりに有名な人でさ。俺は見たこと無いけど、なんでもアイデアを出す事に秀でた人だったみたいなんだ」
 言葉にして言うなら、簡単な事かも知れない。
 しかし実際にやってみると、それが途方も無く難しいことなのだ。
 それは遠い先進惑星で言うところの、『企業理念』に関わる特技でもある。
 もちろん、ただアイデアを出すだけではない。彼女の場合、コスト削減にしろ、現状問題への対策にしろ、参謀などとは異なった『ひらめき』を持っていたのだ。
 ユリウスが、そっとフィエナに目を向けると、ちょうど目が合い、彼女は照れくさそうに笑った。
 ついでとばかりに、フィエナは質問する。
「あ、そういえば今の『水』の副団長って、誰がやってるの?」
 答えはあっさりと返ってきた。
「ああ、あの人だよ。レベッカ・ファーレンスって人」
 一瞬、フィエナの目が驚きに見開かれたのを、ユリウスは見逃さなかった。だがすぐに彼女が笑顔になっていくのを見て、すぐに安心する。おそらくは彼女の友達か後輩だろう。


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