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No.28802の一覧
[0] (SO3)その後のデメトリオ[シウス](2011/07/12 21:57)
[1] 第一部  プロローグ 出会いのキッカケ[シウス](2011/07/12 21:59)
[2]  1章 ここはどこ?[シウス](2011/07/13 22:55)
[3]  2章 地上から隔絶された平穏[シウス](2011/07/13 22:57)
[4]  3章 希望との再開[シウス](2011/07/16 16:15)
[5]  4章 平穏の終わり[シウス](2011/07/17 00:18)
[6]  5章 地底からの脱出[シウス](2011/07/19 22:28)
[7]  エピローグ 新たな旅立ち [シウス](2011/07/19 22:35)
[8] 第2部 プロローグ アリアス村の現状[シウス](2011/08/06 16:29)
[9]  1章 久しぶりの人里[シウス](2011/08/06 16:44)
[10]  2章 パルミラ平原[シウス](2011/08/13 15:22)
[11]  3章 平穏な道中[シウス](2011/08/13 15:26)
[12]  4章 エクスキューショナー:メデューサ[シウス](2011/08/13 15:28)
[13]  5章 平穏な道中(2)[シウス](2011/08/17 14:50)
[14]  6章 最上級エクスキューショナー:代弁者[シウス](2011/08/17 14:55)
[15]  7章 決着[シウス](2011/08/19 21:23)
[16]  エピローグ また次なる旅へ[シウス](2011/08/19 21:25)
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[28802]  7章 決着
Name: シウス◆60293ed9 ID:11df283b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/19 21:23
『…………ッ!!?』
 代弁者の口から、見知らぬ男の声がした。続いて女の声で、
「ちょっと……声だけしか出てないわよ、アイレ!!」
 再び男の声で、
「あれ!? あー、やっぱりエクスキューショナーを操るのは難しかったよ、パルミラ。もうエリクールにしかエクシューショナーは居ないんだから、ぱっぱと直接倒してしまう方が早いんじゃないかな?」
 思わずフィエナは声を掛けた。
「あ……あのっ!!」
「うお!? なんだ? パルミラ平原から呼びかけられてるのか?」
 男の声で、かなり慌てた声が聞こえた。
 フィエナは続ける。
「は……はい、そうです。その……あなたは誰ですか? アイレとかパルミラとか……私の記憶では、この大陸の神様だったと思うんですけど……」
「あちゃー……現地人に見つかったか……。いかにも! 俺が大地の神、アイレ様だ!!」
「―――本気で言ってます?」
「目の前でエクスキューショナーという超常的な存在が人の声で喋ってるのに、いまさら疑う気なのかい?」
「う……じゃあ、信じていいんですね? いいんですよねっ!?」
「おうよ! それと安心してくれ。エクスキューショナーは、間もなく俺たちが消滅させるから」
『――――は?』
 全員の口から間の抜けた声が出た。
「いやー悪かった。俺たち神様も一枚岩じゃなくてさー」
 と、そこで今度は女の怒鳴る声が聞こえた。
「あんた調子こいて神様気取りしてんじゃないわよ! えーと、ごめんね。私たち、あなた達の住む世界を造った人間なの」
 その言葉に、辺りはしんと静まりかえった。次の瞬間、
『世界を造ったぁッ……!?』
 またもや全員の声がハモる。
 しかし、それも当然だろう。世界を造ったというのが、例えどんなに不真面目な口調で話す自称“神様”よりも、誠実さの混じる口調の自称“人間”の方が遥かに疑わしい。
 その女の声―――パルミラと呼ばれた女は言った。
「私たちの正体は、たぶん未来永劫にそっちの世界では知られることは無いわ。だから一握りの人たちに、私たちの正体をそれなりに明かした上で話があるの」
 パルミラの声はどこまでも誠実さを感じさせた。フィエナが問う。
「話って、何なの?」
「こっちの世界では、そっちの世界を造りあげた組織があって、今は組織内で内戦状態なの。私たちのいる組織がそうなの。で、そっちの世界に住む人々を―――あるいは人々の心を『しょせんは作り物だ!』とか『消去してしまえ!』っていう派閥と、私たちみたいに『あの世界は、私たちが干渉してはいけない』、『彼らは作り物であっても、本当に生きていることに変わりはない』って派閥とが争っている」
 パルミラの話す言葉は、想像を絶するものだった。
 彼女は続ける。
「先日、あなた達の世界―――エターナルスフィアから、こっちの世界に乗り込んできた人間が居たわ。彼らの中に、私たちみたいな創造主に対抗するための特殊な改造を施され、創造主と同じ力を持った人間が数人いたの。マリア・トレイターとソフィア・エスティード、そしてフェイト・ラインゴットっていう三人なの。その内のフェイト君って子は、過去にあなた達の星に滞在していたらしいわね」
 その言葉に、ユリウスが反応した。かつてフェイトという男と交戦し、見事に負けてしまったのだ。
「とにかく彼らが今、私たちの敵対派閥のボス……ルシファーを討ちに行ってるの。エターナルスフィア内のエクスキューショナーは私たちの方で大半は消したんだけど、どうしてもルシファーの居る特殊空間へ繋がる星―――つまり、あなた達の星だけがエクスキューショナーが消せないの。そしてルシファーの居る特殊空間へフェイト君たちが侵入したから―――」
 パルミラの声を、アイレが引き継いだ。
「侵入されたことにより、全てのエクスキューショナーに命令が下ったんだ。『全員、ここまで守護しに来い』ってな。そんでもってエクスキューショナーの大移動が始まったんだが、あいつらは動くものを全て破壊・殺害せよって命令を受けている。そしてあいつらの移動経路には、必ずと言っていいほどに街や村がある。そしたらどうなる?」
 その光景は、あまりにも悲惨で、恐ろしいものだった。
 ヴァンが呆然と呟く。
「大惨事どころじゃねぇぞ、おい……いくつもの国が一気に潰れることになるぞ」
 アイレの声が頷いた。
「おうよ。ってなわけで、俺たちプロジェクトチーム・アペリスの出番ってわけさ」
 一番に反応したのはフィエナだった。
「それって私たちの国教の―――っていうか、アペリスって神様の個人名になってるけど、そっちでは集団名なの?」
「当たり! そうなんだよ。そっちのアペリス教に出てくる神様で、唯一こっちにいないのはアペリスっていう個人名さ。ま、代わりにこっちにはブレアっていうリーダーがいるけどね。それはともかく、各地で暴走するエクスキューショナーを殲滅すべく、俺たちアペリスのメンバーが各地に派遣されてるわけなんだ。俺たちは強いぞー? 一人でエクスキューショナーを千匹潰すのくらい朝飯前だな」
 さっきから驚かされてばかりだが、一つだけ矛盾しているところがあることを、誰もが気付いていた。
 フィエナが問いかける。
「各地に派遣したって言いましたけど……じゃあ、何でここには誰も派遣されなかったんですか?」
 するとアイレは沈黙し、やがて申し訳無さそうに口を開いた。
「すまん……エクスキューショナーの反応が無かったもんだから。いま調べたんだけど、そっちにはメデューサが3匹と、代弁者が1匹。その内のメデューサはすでに討伐されている―――そうだな」
 まるで見ていたかのように、フィエナ達の過去を語るアイレ。
 フィエナが頷く。するとアイレは、
「今から言うことを落ち着いて聞いてくれ。俺たちは今、各地で一人当たり万単位の数のエクスキューショナーを相手に、街への侵攻を食い止めてるんだ。当然ながらそっちに人手を割く余裕なんて無いけど、そっちのエクスキューショナーは1匹だけで、しかも君らは中級エクスキューショナーとはいえメデューサを3匹も倒しているんだ。今から可能な限りのサポートをする。だから―――」
 アイレは一旦言葉を切り、息を大きく吸い、急に人が変わったかのような声で叫んだ。
「だから代弁者を、いまそこで倒してくれ!! そいつは放っておいたら街に入ってしまうんだ! もうこれ以上エクスキューショナーの……こっちの世界の介入で、エターナルスフィアの人間を死なせるわけにはいかないんだよッ……!!」
 アイレの叫びに、ユリウスの脳裏を、かつて共に空を駆けた相棒の姿がよぎる。
 ユリウスだけではない。
 実際、ここに居るアリアス村に居た兵士達ですら、『星蝕の日』以降に魔物に挑みかかって殺されていった仲間達をたくさん見ていたのだ。アイレの気持ちが痛いほど伝わってきた。
 刹那、暗雲が立ち込めていた空が、まるで一点を中心に爆発したかのように、雲ひとつ無い青空へと変貌し始めた。
 空だけではない。10センチ以上も水没していた地面は、雨など降ってなかったかのように、ほどよく乾いた地面に変わる。
 再びアイレの声が響く。
「全てエクスキューショナーの攻撃力・知力を1/10以下に減少、防御力・呪文耐性をゼロに変更。エクスキューショナーの周囲1キロメートル以内にある全ての物質にアンチ・エクスキューショナーの性質を付与。スピードを50パーセント低下。全属性を弱点に変更。戦闘中、ダメージを与えた瞬間に、与えた分だけの経験値を1000倍にして入手。各エクスキューショナーの頭上に、残りの体力値をリアルタイムで表示―――」
 代弁者の身体が不思議な色に輝き、同時に威圧感が少しずつ薄れていく。
 続けて今度はパルミラと呼ばれた女性の声で、
「現在、パルミラ平原にいる全ての人間に補助系紋章術を最大威力で付与。攻撃力上昇のグロース。防御力上昇のプロテクション。速度上昇のヘイスト。そして全能力値上昇のエンゼル・フェザー。全身と手持ちの武器や紋章術に、聖属性付与のデバイング・ウェポン。一度の攻撃につき、攻撃判定回数を+2追加。それら全ての効力時間―――寿命が来るまでの間、本人が望むときに対価無しでいつでも、そして何度でも発動・解除が可能―――」
 するとフィエナ達の身体に異変が起こった。自分達の周辺の空中に複数の施紋が現れ、身体の内側から爆発的なまでの力が湧き出してきた。同時に手に持った武器や衣服が純白の光を―――強力な聖なる属性を帯び始める。
 最後にアイレの、悔しそうな声が聞こえた。
「ちくしょう、こんだけしか干渉できないのか。……あと10秒しか代弁者の動きを止められない! 奴が動けるようになると同時に、俺の声も届かなくなる! だから最後にもう一度だけ言わせろ! お前らの星を―――エリクールを守れッ!!」
 同時に―――代弁者が動いた。
 
 
 
 
 
 代弁者の頭上に、エメラルド色の文字が浮かんだ。
『HP:56572/120000』
 ヴァンが静かに呟く。
「ようするに……あの数字をゼロにしたら勝ちってことだな?」
 それを否定する者など居なかった。
 アストールが口を開く。
「あれだけ沢山のサンダー・アローを叩き込み、あとは施術と気功術でダメージを与えて約半分か……。実質、サンダー・アローの威力は相当高いからな……。サンダー・アロー1発につき、後から施術とかで与えたダメージの総量より遥かに高いとみて間違いないだろう」
 こちらの推測も、否定する者は居なかった。―――誰もそんな計算などできなかったからだ。
 もしアストールの言っていることが正しいとすれば、サンダー・アローを失ったことが、どれほど絶望的なことだろうか。
 しかし同時に希望もあった。
 今の敵の防御は実質上のゼロなのだ。他の身体能力だって激減している。
 それに対して、こちらは各能力値を激増されている。
「上等じゃねぇか……」
 ユリウスは呟き、ミスリルソードを上段に構える。
「大地の神・アイレ―――ずるい性格してるわね。あんな頼まれ方されたら、もう断れないじゃない……」
 フィエナが両手にフレイムファルシオン逆手に握り、ぶらりと両腕を垂らして代弁者との間合いを確かめる。
「………なんか光栄だな。戦時中みたいに理由をつけて人を殺した時の“栄誉”じゃなく、この上なく正当な理由で、多くの人間を守るための戦いだ」
 アストールが剣を抜く。刀身が緑色の光の放つ(光が反射してるのではなく、本当に発光している)肉厚の長剣―――聖剣ブライアンスソードは見た目より遥かに軽く、絶大な切れ味を持っている。
「チンピラみたいって言われたこともある俺が………とうとう神様もどきにまで『お願い』されるたぁな……」
 ヴァンは二振りの刀を抜いた。
「―――ああ、俺たちも来るとこまで来ちまったな」
「こんな歴史に残るような場面に出くわすなんて、格好良いじゃねぇか」
「歴史には残らねぇよ。ってか残せねぇ……。誰かに話したって『変な薬でも吸ってラリったか?』って言われるに決まってるだろ」
「気にすんなよ。歴史の裏舞台の方じゃ最高のシチュエーションじゃねぇか」
 一般兵たちも、各々の武器を手にとり、いつでも施術を放てるよう、精神を集中させる。
 と、どこからともなく代弁者に対して、何かが飛来した。同時に、遠く離れた馬車から、グラハムの声が響く。
「さっきのアイレさんの話―――全部聞こえてたぞい!! 俺らにも手伝わせんかいッ!!」
 見ると、それは頑丈な鎖で作った輪で、しかも3方向から代弁者の首に見事に引っかかる。鎖の繋がる先を見ると、行商隊の馬車3台の後部に連結しており、リーダー・グラハムが掛け声を上げると共に、それぞれの方向へと馬たちが猛然と駆け出した。もちろん、この馬も先程のアイレの行った身体能力強化を受けている。
 代弁者は身動きしなくなったが、元が無表情とはいえ、あまり苦痛を感じているようには見えなかった。その証拠に、頭上の体力値の表示に、代弁者のHPが減少している様子は無かった。
 ユリウスは小さくファイアボルトを唱え、自分の剣に宿した。その切っ先を代弁者に向け、
「ソードボンバー!!」
 7発の巨大な火球が、ユリウスの剣から弾丸のごとく発射された。
 同時にフィエナはウインドブレードを小さく唱え、こちらも同じく獲物に宿し、
「ハリケーン・スラッシュ!!」
 身動きの取れない代弁者に向けて、巨大な2本の竜巻が―――従来より3倍近い背丈の竜巻が、地面を掘り起こしながら襲い掛かる。
 瞬間、代弁者の頭を覆っている、尼さんなどがよく被っている布が取れた。腰まで届くような輝かしい銀髪が、風に乱れて宙を舞う。同時に、ずっと閉じられていた目が一気に開かれ、真紅の瞳が一同を睨みつける。それまで感情の無い人形のような表情から一転、まるで怒りの権化のような顔になった。
 
 
 
 
 
 急に自我が目覚めた代弁者が、低く呟く。
「―――愚か者め」
 代弁者が呟いた。相変わらず感情の無い声だったが、それは怒りが頂点に達した人間が、感情を押し殺した声を出したときの『それ』に似ていた。
 呟くと同時に、右腕を宙に躍らせる。エメラルド色の読めない字で書かれた文章が代弁者の周囲を回り、直後、先程の光の柱が代弁者の周りを回転する。一撃で代弁者を繋ぐ鎖をが焼き切られるかと思いきや―――しかし鎖を僅かに赤熱させるだけにとどまった。
 グラハムの声が響き渡る。
「ハーハハハッ! そいつはルーン・メタル製でなぁ! 何かしらの施術を加えると、その反対属性の力が働いて相殺しちまうんだ! 切れるもんなら切ってみやがれってんだ!!」
 もちろん限度だってある。
 それを瞬時に見抜いた代弁者は、しつこく何度も何度も光の柱を使い、またその隙を狙って周囲から施術と気功術の嵐が叩き込まれる。
 ある程度鎖が赤熱してきたところを見計らって、アストールは小さくアイスコフィンという氷属性最弱の呪文を唱え、武器に宿した。各属性の最弱呪文を武器に宿し、放つことで絶大な威力を出せる特殊な奥義。彼もまた、その使い手の一人だった。
「アイシクル・ディザスター!!」
 代弁者そのものを、巨大な極低温の氷が包み込み―――中身をも砕くかのような勢いで爆砕した。代弁者を繋ぐ鎖が冷却され、元の色に戻る。
「―――愚者が!!」
 ついに代弁者が怒りをあらわに吼えた。周囲を回る光の柱が速くなり、太くなり、より強く光りだす。同時に×字型の刃を何発も放ちつづけ、驚くような速度で鎖が再び赤熱しだす。そして―――
 ―――バキン!
 とうとう3方向から代弁者を引っ張っていた鎖が切れた。
『HP:34395/120000』
 代弁者の頭上の表示が、代弁者の体力値の激減をリアルタイムで表示し続ける。
「いい調子じゃねぇか!!」
 ヴァンが叫ぶ。
 それに応じて、戦士達の士気が爆発的に高まる。
 代弁者は身近にいたヴァンに飛びかかり、右腕を真っ直ぐに突き出した。その突き出された手の平から、巨大な×字型の刃が放たれる。が同時に、ヴァンはすでに刀を振り上げており、代弁者の放った刃をなぞるように二振りの刀を振り下ろした。同時に空破斬を放つことにより、代弁者の攻撃を相殺する。
 代弁者が一瞬だけ怯み、すぐさま腕を振り上げようとする。また光の柱を出現させるつもりか。
 しかしヴァンは―――
「……ブレイズ・ソード、ライトニング・バインド」
 刀に火属性と雷属性を付与し―――
「うおおおおおあああぁぁッ!!!」
 二振りの刀で交互に、それでいて超高速で何度も何度も斬りつけた。その動きに一切の無駄が無く、炎と雷を纏いながら刀を振るうその姿は、ソード・ダンスとでも呼ぶような華麗な剣技だった。代弁者は腕で庇おうとするが、嵐のような連撃をほぼ全身に受けつづけるしかない。
 代弁者が連撃を受けつづけると同時、今度はアストールが叫ぶ。
「全員――突撃・三段突き!!」
 次の瞬間、代弁者の背中に一般兵四人が同時に槍を突き刺す。槍の先端には一般兵にも仕える簡易施術の炎と雷がまとわりついており、兵士たちは一瞬で散開し、続けざまにアイスニードルを唱え、氷柱を叩き込む。
 直後、今度は黒鷹旋が投げつけられ、代弁者をその高速回転に巻き込む。
 1対1の戦闘とはわけが違う。
 誰かが攻撃に転じている間、別の誰かが大きく体勢を立て直す事ができる。ましてやこれほどまでの多人数だ。一集団がチームプレーをしている間に、別の集団が更なるチームプレーを用意できる。
 ヴァンの連撃が終わり、すぐさまユリウスとフィエナが、代弁者を挟むように斬りかかる。代弁者は瞬時に、自らの両腕で二人分の刃を受け止めた。ユリウスが叫ぶ。
「ずいぶんと感情豊かになったじゃねぇか……!!」
 代弁者は、それまでの無感情さを一切感じさせないほど怒りを混ぜた声で返した。
「気にするな……!!」
「なんたって急に態度が変わったんだよ!?」
「全部で数億体いるエクスキューショナーを統括する存在―――いつでもエクスキューショナーのどれかに憑依(ひょうい)し、自在に操る存在―――それが私だ!!」
 叫ぶや否や、左右に向けて同時に×字型の刃を放った。きわどいところでユリウスとフィエナは避ける。
 代弁者は更に叫ぶ。
「一介のエクスキューショナーだった私は偶然にも突然変異し、自我を手に入れた! ……だが自我を持っただけで、私はこの世界を壊すだけのエクスキューショナーでしかない―――この世界に居場所が無いのだ!! だから私はルシファー様と取り引きした! もしも銀河系を消滅させることができれば、その褒美として、私はエターナルスフィア内の銀河系以外での地区にて、人間として―――それも最高に幸福な人間として再生させてもらえるのだ!!」
「そんな大層なエクスキューショナー様が、いったい何で、こんな所に現れるんだよ! 他にも万単位で各地に現れてるんだろ!?」
「プロジェクトチーム・アペリスの誰一人に対しても、私が勝てるはずが無かろう! そして私は常々、エクスキューショナーのどれかに憑依してなければならないのだ! 無論、私が憑依しているエクスキューショナーが死ねば、私も消えてしまう! なら一番弱そうな現地の人間と戦ってる素体に憑依して逃げるのが最良だからだ!!」
「俺たちが弱いかどうか、その身で味わってみやがれっ……!! そんでもってテメェがエクスキューショナーを送り込んだせいで、死んだ相棒の仇―――討たせてもらうぜッ……!!」
「ぬかせッ……!!」
 ユリウスやフィエナの刃物とつばぜり合いをしている代弁者の腕が、今度は予備動作さえ無しに、×字型の刃を左右に放った。咄嗟に後ろへと跳ぶ二人に対し、大きく跳んで戦士達の包囲網を抜けた。が、そのタイミングを見計らったかのように、今度は馬車の物陰から、行商隊の積荷のクロスボウを構えた残りの非戦闘員たちが―――シャルやピートのような子供たちまでもが、一斉に矢を放った。先程のアイレの身体能力強化の影響か、彼らは弓など持ったこともないのに、全ての矢が吸い込まれるように代弁者へ深々と刺さる。
「おのれ―――ッ!!」
 代弁者が声を荒げ、両腕を振り上げた。その隙だらけのポーズのまま、徐々に宙へと浮いていき、同時に今までに無い膨大な施力が集結し始める。
「滅ばざる者よ。その身に刻むがいい」
 だんだんとエメラルド色の光が集まりだす。もはや説明の余地はあるまい。代弁者はかなりの広範囲な施術を組み上げているのだ。それも相当に高威力な術を。
 
 
 
 
 
『HP:11500/120000』
 代弁者の頭上の体力値が、もはや1/10以下を示していた。
「だったら施術をぶっぱなされる前に、一気にカタをつけるッ……!!」
 ユリウスは駆け出した。
 この時、ユリウスはある違和感を感じていた。昨日に『吼竜破』を編み出した時の感覚が蘇る―――否、数倍になって蘇ってくる。竜の呼吸が、竜の気のめぐりが、全身で強烈に感じた。
 全く同じタイミングで、フィエナの脳裏に複雑な施紋が浮かんだ。通常、先天的に数多の施術を覚える施術師は、修行しながらある程度すると、今よりも強力な施術を突発的に思いつくという。剣士が新たな技を思いつくのと同じで、何の前触れも無く脳裏に閃くのだ。今の彼女が感じているのもそうなのだが、この時は今までに無い強大な力を秘めた施術が浮かんだ。
 それは彼らだけでなく、アストールも、ヴァンも、一般兵たちも。誰もが皆、気功術だろうが施術だろうが、現在進行形で“それ”を体験していた。
(新しい技を編み出せる―――!!)
 全員が一度に全く同じことを感じた。
 一般兵が代弁者を囲い、
「レイっ!!」
 高い殺傷性を秘めた紅いレーザー光が、上下から代弁者に叩きつけられ、
「ロックレイン!!」
 一つ当たりが100kgはありそうな岩の塊が、『レイ』に混じって雨のように降り注ぎ、
「ディープフリーズ!!」
 氷属性の上級呪文が代弁者を地面に固定し、
「イフリート・ソード!!」
 巨大な炎の魔人が、炎で出来た巨剣を代弁者へと振り下ろす。
 轟音と共に、莫大なエネルギーが叩きつけられるが、それでも代弁者は顔色すら変えず、施力を集めつづける。
『HP:7060/120000』
 アストールが全身に雷属性の施力を集中させる。それは膨大なエネルギーのうねりとなり、彼の両腕から前方へと、自然界の雷もかくやという雷撃が放たれる。
「封神醒雷破(ほうしんせいらいは)ッ……!!」
 大昔から伝わる施術師の歴史の中でも、最奥秘たる技だった。
 同時に、フィエナがありったけの力をつぎ込んだ施術を唱える。
「エクスプロージョン!!」
 今は使い手が居ないほど伝説級の施術を放ち、
「七星紅蓮・七星雷鳴―――」
 ヴァンが二振りの刀に特殊な気功術の炎と雷を纏い、
「二刀流―――七星・双・空破斬!!」
 膨大な熱と雷を蓄えた空気が、一瞬で鉄をも裂く超烈風と化し、代弁者を襲う。
 そして代弁者の真上からはユリウスが―――
「皇竜空破斬―――ッ!!」
 巨大な竜の形(翼の生えたトカゲではなくヘビ型)をした気塊が、大口を開けて代弁者を上から襲い掛かる。
『HP:323/120000』
 と、僅かなタイムラグを開けて、今の皇竜空破斬の軌道を辿るように、ユリウスが剣を真下に構えて落下してきた。その彼の背中から炎の翼が生えたかと思うと、今度はユリウスの全身は、緋色の気が竜の形(こちらはトカゲ型)へと変貌する。
「緋竜天雷破(ひりゅうてんらいは)ッ!!」
 それまで持ちこたえていた代弁者が、小さく呟いた。
「ディヴァイング・ウェーブ」
 術が発動し、地面に巨大な六茫星(ろくほうせい)が現れる。同時に膨大なエメラルド色の光が溢れ、ユリウスを緋色の気塊と共に上へ押し返そうとする。が……、
「させない―――リフレクション!!」
 フィエナが叫び、非常に面積の広い円盤状に集まった電撃が、地面を覆った。同時に地面から立ち昇るエメラルド色の光が減殺され、それを見たアストール達も同じリフレクションを展開しようとする。
 が、フィエナはそれを遮って叫んだ。
「あたしのリフレクションが、たくさん『ひねり』が入ってるから一番強いの!! だからみんな! みんなの力を、あたしの力に上乗せしてっ……!!」
 ―――力の上乗せ。
 施術を知らない人間には意味不明な言葉だろう。否、よほどの施術師でしか知りえない『ひねり』の中の大技。複数人の施術の威力を、たった一人の施術に上乗せすることで、極限にまで威力を高める超大技。
 なぜかこのとき、この場に居合わせた全ての人間が、その意味を瞬間的に理解していた。
 アストールがフィエナに向けて、両手の平を突き出す。
 ヴァンもまた、それに習う。
 兵士たちも。
 行商人たちも。
 ピートもシャルも。
 全員から送られてくる施力が体内で大きくうねるのを感じながら、フィエナは突き出した両手の先数メートルにあるリフレクションに、爆発的な力を注ぎ込む。
 徐々にディヴァイング・ウェイブのエメラルド色が薄くなり、次第にユリウスの緋色の気と同じくらいになる。
 ユリウスは叫んだ。
「ここで負けたら終わりなんだよ……!!」
 最後の気力を振り絞り、体内の気を全て背中の炎翼に注ぎ、ジェット噴射のように赤い炎が噴き出す。
 負けじと代弁者も叫ぶ。
「それは私も同じだぁッ……!!」
 ユリウスは絶叫する。
「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!!」
「あああああああああああああああぁぁぁぁッ!!!!」
 代弁者も絶叫する。
 莫大な緋色とエメラルド―――気と施力がぶつかり合い、拮抗し―――やがて大きな爆発が起き、辺りを砂煙が覆う。
「ユリーっ!?」
 フィエナが思わず叫ぶ。
 砂煙の向こうに、八枚の翼を生やした姿が見えた。フィエナが息を呑む。
 煙が晴れ、そこには代弁者の後姿があった。誰もが息を飲み―――代弁者は、ゆっくりと仰向けに倒れた。
 その代弁者の向こう側にはユリウスが立っており、フィエナが涙を流しながら駆け寄っていった。
 誰かが代弁者の頭上を見る。『HP:0/120000』という表示が出ていた。
 
 
 
 
 
「私は―――居場所が欲しかった」
 代弁者は仰向けになったまま、消え入りそうな声で言った。
 もはや動けなくなった代弁者を、ユリウスやフィエナ、アストールにヴァン、一般兵、その他大勢―――全員が囲い、代弁者の言葉を聞いていた。
 彼女からは、先程までの怒りの感情は見えない。そこには虚脱と絶望という感情が見て取れた。
 そんな彼女に、ユリウスは不思議とゼノンを殺された怒りを感じなかった。―――否、心のどこかでは納得していたのかもしれない。ゼノンを殺したのと、他のエクスキューショナーは別物だということに。
 彼女は続けた。
「この世界を隅々まで見てきた私は思った。私にも喜びや怒り、楽しみや悲しみが欲しいと。そしてそれらを分かち合える家族が、友が、あまつさえ恋人まで欲しいと思った。だが私はエクスキューショナー……この世界を―――エターナル・スフィアを破壊するために創られた存在だ。私は創られた時から与えられていた命令に逆らうこともできずに、世界を壊し続けるしかなかった」
 誰もが皆、代弁者の言葉を静かに聞いていた。
「私は人間として、この世界に生まれたかった……誰かと共に笑い、泣き、励まし合いたかった」
 代弁者の身体が、少しずつ、非常にゆっくりとだが透き通り始めてきた。
「そもそも世界を破壊する為に生まれたエクスキューショナーが突然変異で自我を持ったなど、滑稽(こっけい)な話だとは思わないか? こんな思いをするくらいなら、いっそのこと、私など生まれなければ良かったのだ……」
「……違う」
 否定の声が上がった。
 フィエナだった。
「違うよ。確かにあなたは、この世界を滅ぼすために創られた破壊神みたいなものだった。でも、だったら何で、この世界を造った人間たちに―――それもこの世界を守ろうとしてくれたアイレさん達の派閥に助けを求めなかったの? 彼らがこの世界を―――人間達を造り、そして強大な力を持ったエクスキューショナーをも作り出した。なら自我を持ったエクスキューショナーであるあなたを人間に作り変えるくらい、彼らに出来ないはずがないじゃない」
 代弁者が目を見開いた。
「なぜ………今まで気付けなかったのか……」
 彼女が特別に間が抜けている―――というわけではない。エクスキューショナーの突然変異体である彼女は、そもそもが自我を持たない存在として創られた以上、思考能力がどうしても乏しいのだ。
 フィエナが続ける。
「さっきまでアイレさんが、あなたの身体を通して会話してくれたの。話の内容からして、全てのエクスキューショナーの制御を奪うつもりだったみたい。あなたの方からアイレさんには話し掛けられないの?」
「ふっ……こちらから呼びかける手段など、そう短時間で用意できるものではないのだ。すぐにでも話せる人間など、ルシファー様しかいない」
「ダメ元で頼んでみろよ。諦めたら、そこでお終いだぜ?」
 ユリウスが言うと、代弁者は無言のまま、右手で宙を指した。瞬間、空中にテレビモニターが表示される。
 画像が映った瞬間、
『とどめだルシファー! 耐えられるなら……耐えてみせろッ……!!』
 背中から光る翼を生やした青年―――フェイトが、両腕から強烈な光をルシファーに向けて放った。
 それを受けてルシファーは、
『何だ……この…結末は………』
 全身にヒビが入り、その隙間から大量の光があふれだした。瞬間、爆発する。それは世界が救われたと解釈できる光景でもあり―――
「は―――」
 代弁者が、弱々しく笑った。
「これで私の希望は潰えたか―――」
 フィエナの頬に涙が伝う。そんな彼女の様子を見て、代弁者は悲しげに笑った。
「こんな私のために、涙を流してくれるのか―――私も少しは幸せだったのだな……」
 代弁者は穏やかな笑みを浮かべて、そっと目を閉じる。
 少しずつ、代弁者の倒れている地面が、上に向けて光を放ち始める。それと同時に、代弁者の身体が端から崩れ始めた。
「フィエナといったな。お前のお陰で、私の心は救われたよ。もし来世というものがあったら、私はお前と親しくなりた―――」
 代弁者の姿が、跡形も無く消え去った。
 フィエナが涙を拭わずに呟いた。
「これで……良かったのかな?」
 ユリウスが答えた。
「ああ、多分な。……少なくとも、あいつは笑って逝くことができたんだ。俺たちにできたことは少なかった。そう思うなら、これが最善だったんだよ」
 ヴァンが苛立たしげに呟く。
「あーあ。せっかく英雄になった気分になれてたのに、なーんか奴に同情しちまったじゃねーか……」
 沈痛な空気が続く中、アストールが空気を変えるように口を開いた。
「……行こう。目前の脅威は去り、そして全ての元凶だったらしいルシファーとやらも消えた。世界は平和になったんだ。ここで死んだ彼女の分まで、俺達は生きなければならない」
 皆が頷き、身をひるがえした。
 次の瞬間、さっきまで代弁者が倒れていた地面の空中に、突然光る玉が現れた。
 誰もが唖然とするなか、光はだんだんと膨張し、そして人の姿へと変わっていき、そして唐突に光が消え、中から一人の女性が姿を現した。
 それは紛れもなく人間だった。エクスキューショナー特有の禍々しい施力が一切感じられない。同時に、その顔は先程まで戦っていた代弁者の顔そのものだった。ただ服装だけが、修道女の格好から、白いブラウスと紺のスカートに変わっていた。
 そして目を開き、むくりと起き上がり、
「あれ……? 私は今、消えたはずじゃ……」
 ―――それはルシファーなりの慈悲だったのか、それとも実在するかも判らない本物の神が与えた奇跡なのか。
 感動のあまり、誰もが言葉を発せずにいる中、フィエナが涙を零しながら言った。
「おかえり。また会えたね」
 その瞬間、ようやく事態を呑み込めた元・代弁者の女は、両目から一生分の涙を流すかのように泣き出した。
 フィエナが皆を振り返り、
「今夜の飲み会は、彼女の誕生日パーティも兼ねるべきかと思うんだけど、どうかしら?」
 と問いかけた。
 それを肯定するかのように、爆発のような歓声が上がった。
 
 
 
 
 
 同時刻、異世界―――FD空間。
 アイレは自分の作業用デスクに向かって、小さく呟いた。
「一部始終は見てたさ……。だから礼くらいはさせてもらったぜ」
 モニターの中で泣きつづける元・代弁者と、そしてフィエナ達を眺めながら、彼は唇を笑みの形に歪めた。


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