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No.28802の一覧
[0] (SO3)その後のデメトリオ[シウス](2011/07/12 21:57)
[1] 第一部  プロローグ 出会いのキッカケ[シウス](2011/07/12 21:59)
[2]  1章 ここはどこ?[シウス](2011/07/13 22:55)
[3]  2章 地上から隔絶された平穏[シウス](2011/07/13 22:57)
[4]  3章 希望との再開[シウス](2011/07/16 16:15)
[5]  4章 平穏の終わり[シウス](2011/07/17 00:18)
[6]  5章 地底からの脱出[シウス](2011/07/19 22:28)
[7]  エピローグ 新たな旅立ち [シウス](2011/07/19 22:35)
[8] 第2部 プロローグ アリアス村の現状[シウス](2011/08/06 16:29)
[9]  1章 久しぶりの人里[シウス](2011/08/06 16:44)
[10]  2章 パルミラ平原[シウス](2011/08/13 15:22)
[11]  3章 平穏な道中[シウス](2011/08/13 15:26)
[12]  4章 エクスキューショナー:メデューサ[シウス](2011/08/13 15:28)
[13]  5章 平穏な道中(2)[シウス](2011/08/17 14:50)
[14]  6章 最上級エクスキューショナー:代弁者[シウス](2011/08/17 14:55)
[15]  7章 決着[シウス](2011/08/19 21:23)
[16]  エピローグ また次なる旅へ[シウス](2011/08/19 21:25)
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[28802]  2章 地上から隔絶された平穏
Name: シウス◆60293ed9 ID:11df283b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/13 22:57
 それから七日が経った。
 窓から差し込む光に、ユリウスは朝が来たのだと気付いた。ベッドから上半身を起こし、大きく伸びをする。
「―――って、朝日?」
 この谷では滅多に太陽の光が届かない。数百メートルある崖の中間地点の辺りを、常に深い霧が覆っているからだ。ただ霧が濃いだけでなく、厚いのだ。
 そして光が届かないかわりに、利点がある。この谷自体がウルザ溶岩洞に近いためか、1年を通して暖かいのだ。もし溶岩洞が近くに無ければ、光の届かないこの地は季節を問うこと無く、非常に寒いところになっていたはずだ。さらに、この谷は風が吹かない。よって、1年間の気温は1~2度ほどの差しかない。非常に住み心地の良いところなのである。
 もっとも、稀ではあるが、全ての霧が消えうせてしまう日がある。―――例えば今日みたいに。
「んー……」
 ユリウスの真横で、フィエナが寝ぼけ半分に甘い声をあげた。どうやら起きたようである。
「なあ、フィー。前に君が言っていた『霧が晴れた日』って、こういう日のこと?」
 言って、窓の外を指す。
 フィエナは眠そうに目をこすりながら、ユリウスの指の先にある光景に注目した。次の瞬間、
「えっ? 晴れてる!? やった! 行くわよ、ユリー! こういう日は滅多に無いんだから!! 今のうちに洗濯する物、用意しといてね!!」
 そう言って、彼女はそのまま部屋を飛び出していった。
 最初は互いに遠慮しあっている事もあったが、今ではさっきのように、同じベッドで寝るようになっていた。よその家を探せばいくらでもベッドは手に入るのだが、あえてそうせずに一つのベッドを二人で使用しているところを見ると、二人の仲は案外良いようである。
 ……ちなみに、フィーとはフィエナの、ユリーというのはユリウスの、それぞれ略称である。
「たしかにこういう日は洗濯するのに打ってつけだな」
 ユリウスはそう呟くと、フィエナを追うように部屋を飛び出した。
 
 
 
 
 
 この谷へ来て初めて見る日の光は、ユリウスにとって喜びを感じさせた。
 まあ、空がせまく見える分、少し悲しくも感じたが。
 洗濯物は、朝起きてすぐに済ませた。今は二人で畑の草むしりをしている。時間帯が昼頃のせいか、せっせと草をむしる二人の衣服は、大量に掻いた汗で重くなっていた。
「……さっき洗濯したばかりなのに、また洗濯物が増えたな」
 草をむしりながら手を止めず、フィエナに話しかけた。最初にこの谷に落ちたときに着ていた服は、さっき川で洗濯して干してある。いま二人が着ているのは、村の空き家にあった服である。
 フィエナもユリウスと同様、作業を続けながら振り返らずに口を開いた。
「それは仕方ないわよ。だって、こんなに天気が良いんだもの。後で今着ているのも洗濯するしかないわね」
 何となくだが、彼女の口調は初めてユリウスと会ったときに比べ、かなり感情豊かになっていた。どうやらこれが彼女の本当の性格らしく、3年間もの孤独が、彼女から明るさを少しだけ奪っていたようだ。
「でもさ、フィー。それって、スッゲー面倒くさくねえ?」
 たしかに二度も洗濯するのはかなり面倒だろう。だがフィエナはユリウスの方を向き、笑顔を浮かべて言った。
「ユリーはまだ知らないみたいだけど、今日みたいな日は、これからの時間がとっても暑くなるの。今でも崖に隠れて太陽が見えないでしょ? これからこの谷の真上に見えるようになるから、それまでにお昼ご飯を食べて、それから川に泳ぎに行かない? 今日の仕事はここまでにして。ね♪」
 そう言ってフィエナは、柔らかく微笑んだ。この笑顔で微笑まれると、ユリウスは断れなくなる。もっとも、このクソ暑いのに泳がないでいられるわけがない。
「オーケー、俺もその作戦がいいと思うな」
 ユリウスも負けじと笑顔を浮かべて笑った。
 
 
 
 
 
 村の端と隣接する川。
 川幅は10メートル程、深さは30センチから1.5メートルのところまで、場所によって異なる。
 洗濯をするときは大抵、川岸の浅瀬でするのだが、今はは深いところで洗濯することにした。つまり、水浴びしながらである。
「ハァ~、極楽、極楽」
「ちょっと、ユリー……。いくらなんでも、それはオヤジっぽくない?」
 水浴びというより、どちらかといえば『一日の仕事を終わらせてから入る、オヤジの一番風呂』みたいである。
 ユリウスは軽い気持ちで言い返す。
「わかってねーなぁ。汗だくになった時の水浴びってのはな、毎日の水浴びとは格別なんだよ。それに今日みたいな晴天の日ともなれば、なおさらさ」
「何言ってんのよ。『こういう日』だからこそ、泳ぐのが気持ち良いんだから。ねぇ、ユリーも一緒に泳がない?」
 そう言って手を差し伸べるフィエナ。ユリウスはその手をつかんだ。
「それも悪くないな……」
 フィエナに手を引っ張られ、深いとところまで来た。とはいえ、溺れるような深さではない。平気な顔をしているが実を言うと、ユリウスは泳げない。というより、寒い土地であるアーリグリフに住む人間は『泳ぐ』ということを知らない。単語の意味が分からないという訳ではないが、泳ぐ機会が全くといってもいいほど無いのだ。
(今から練習しても覚えられるかな?)
 楽観的に考えてみる。川の流れは非常に緩やかなものである。川の下流にまで流されると危険だとフィエナは言ったが、この程度ならば歩いてでも戻ってくることができるだろう。
 まずは手始めに、川底から脚を離してみた。同時に両腕で水をかいてみる。自然と身体は浮いた。多少は口が水中と空気中とを行き来するが、溺れるということはまず無さそうだ。
 次に両足も動かしてみた。簡単に前進することが出来た。
(俺って才能あんのかな?)
 その様子を見ていたフィエナが口を開いた。
「ねぇ……ユリーってさ、ひょっとして泳げないの?」
 その言葉がユリウスの心臓にグサッと突き刺さった。ユリウスの落ち込んだ様子を見て、フィエナが慌ててフォローする。
「ああっ、そうじゃなくてね! ええと、アーリグリフの人って泳げないのを忘れてたのよ。泳ぐこと無いんでしょ?」
「たしかに無いさ。でもちょっと練習してみたら、意外と簡単だったぞ?」
「ひょっとするとユリーには、泳ぐ才能があったのかもね」
 フィエナはまた、あの柔らかい微笑みを浮かべた。正直に言って、何度見ても飽きない、最高の笑顔である。続けるように、フィエナは言った。
「じゃあさ、今度は潜ってみて」
「潜るって……顔を水の中に漬けるやつだよな?」
「まあ、慣れないうちは私でも少しはためらっちゃうんだけどね。慣れたら面白いわよ?」
 そう言ってフィエナは、ユリウスの側まで泳いできて、そして潜って川底にしゃがみこんだ。
 ユリウスは少しためらったが、覚悟を決めて大きく息を吸い、勢いよく水の中に頭を沈めた。目を開けてみると、最初は泡ばかりが視界に飛び込んできたが、それらが晴れると、今度は美しい水底と、水中で笑顔を送ってくるフィエナが見えてきた。
 だがマジマジとフィエナを見つめてると、
「ブハッ!!」
 ユリウスは突然、肺の中の空気を吐き出してしまった。というより、『見て』しまった。
 今の自分達が水着代わりに着ている物は、村の洋服ダンスなどの中にあった下着類(この時代には、ブラジャーやパンティといった下着は存在せず、代わりにノースリーブ・シャツやトランクスのような形状の『ドロワーズ』が主流)だ。だが元から古くなっていた布であるそれらを、3年間もフィエナが使っていたせいでか、布が完全に透けて見えていた。しかも下着である。普段なら互いに下着姿なら見慣れているが、ユリウスは彼女の裸は、まだ見たこと無い。
 水面に顔を出すユリウスに続いて、フィエナも後を追う。
「ぷはっ。どうしたのユリー? 鼻の中に水でも入ったの?」
「あ、ああ……まあ、そんなところだ」
「…………?」
 ユリウスの言葉に少し引っかかりがあるのを感じたが、あえてフィエナは気にしなかった。今度は仰向けになり、そのままの体勢でプカプカと浮き、ふと何かを思い出したかのように口を開いた。
「あれからもう、七日も経ったのねー」
「ん?」
「ユリーが来てからのこと。銅を取りに来た人達と戦って負けたんでしょ?」
「ああ、そうだったなぁ。もう、どうでもいいんだけどな」
 本当にどうでもいいかのように、その口調には興味が含まれていなかった。フィエナは気にせずに続ける。
「で、その時シーハーツ側に協力してたのはグリーテンの人間だったのよね?」
「まあ、隠密が仕入れてきた情報によると、そういう事になってるしな」
 ユリウスも、フィエナを真似して仰向けになってみた。案外、簡単に浮くことができた。
「前にそれをユリーから教えてもらった時も思ったんだけどさー、それって本当にグリーテンの人? アーリグリフに落ちてきた『謎の飛行物体』って時点でおかしいのよ。前に一度だけグリーテンの首都に行ったことあるんだけどね、馬車以外に自動で動く乗り物すら存在しなかったわよ? そんな国に空を飛ぶ技術なんて考えられないわ」
「さあね。俺だってそんなこと知らねーよ。たしかにそれなら、奴らを拷問したときにゲロっててもおかしくはないと思ったんだけど、結局、奴らは何も言わなかったしな。
 ―――ああ、でも、グリーテンに自動で動く乗り物の技術があるのは否定できないんじゃねーの? 大昔の『機工兵』なんてものもあるだろ?」
 歴史上で、かつて悪魔のような機械人形が大挙して、シーフォート王国―――今のシーハーツに押し寄せてきた事があった。
 その機械人形は、たった一騎で数十人の兵を惨たらしく殺す力があるというのに、何と数百、あるいは数千という数が居たという。
 フィエナは理解できないといったふうに、
「一番の謎はそれよ。そのことをグリーテンに行って調べてみたら、『かつて謎の飛行物体に乗って舞い降りた一人の人間が、地上を支配するために機工兵を造った』なんて書かれた歴史書しか残されてなかったのよ。おかしいと思わない?」
「『謎の飛行物体』ってところが、俺を打ち負かした奴らと同じ気がするな。でも奴らは機工兵なんか連れてなかったぞ? それどころか、シーハーツ側の秘密兵器とやらの開発に携わってるって聞いてるし……」
「謎が、謎を呼ぶわねぇ……」
 しばらくの間、二人はプカプカと空を眺め続けた。
 そこから見える空は、相変わらず狭かった。左右を崖に挟まれ、蒼い空が縦に太い『道』を引いている。普段は霧に隠れてみえないはずの空―――その珍しい一日の中で、わずか数時間しか見えない太陽は、すでにここからは見えなくなっていた。
 その時、どこか遠くの方から、ドーン、ドーンという音が聞こえてきた。かなり小さな音である。音のする方角からすると、アイレの丘の方だろうか。
「戦争………してるのかな?」
 フィエナが呟くように言った。聞こえてきた音は、間違いなく施術砲の音だと分かったからだ。
「あれから七日も経ったからな。奴ら――あのフェイトとかクリフとかいう奴らが、パルミラ平原やイリスの野を往復して、アイレの丘で戦争を始めていてもおかしくはないな。大方、ヴォックスの野郎が『銅を奪われた今、施術兵器が開発される前に奴らに総攻撃をしなければ!!』とかほざいてんだろうけどガボガボガボッ!?」
 長く喋り続けたせいか、肺の中に溜めた空気が一気に無くなり、ユリウスは沈みかけてしまった。
「ユリー、大丈夫?」
 フィエナが寄ってきた。
「ブハッ!! あ~死ぬかと思った! つーか鼻の奥が痛てぇ!」
 フィエナの手にしがみつきながら、咳き込むユリウス。
「大丈夫? 鼻の中に水が入ると痛くなるんだけど、やっぱ知らなかった?」
「一応は知ってたさ。アーリグリフに水浴びの習慣は無くても、風呂くらいなら入るんだ。それくらい知ってて当たり前だっての」
「それもそっか」
「ああ」
 それっきり、二人は何も言わなくなった。
(おかしいなぁ。いつもなら話が続くんだけど、何か変な気分になってくるような……)
 今までに感じたこともない感じがし、フィエナは胸中で呟いた。ユリウスも同じ気分になったらしく、首を捻っている。
 互いに目を合わせたまま、何も言えなくなってから数秒。だんだんと心拍数が上がるのを感じ始める。なにか嫌な予感がしてきた。
(何!? 何なの、この感じ!?)
 まさか話のネタが無くなったというわけでもない。不安は次第に大きくなってきた。
「……ユリー」
「……ん……」
 今、気付いた。
(ああ、そうだ。この感じは―――)
 この感じは―――
 ユリウスは上を見つめ――いや、睨んだ。
 ほぼ同時にフィエナも上を睨む。ユリウスの方から口を開いた。
「何かが………来るな……」
「ええ。でも何なの、これ? ……気配?」
 たしかにそれは気配だった。だが獣が忍び寄ってくる気配でも、人が忍び寄ってくる気配でもない。あえて言うならば、それは今までに感じたことも無い気配だった。
 何かが……
 何かが来る……
 やがて、『それ』が見えてきた。
 
 
 
「……なに……あれ?」
 『それ』は、赤く、大きかった。
 後方には蒼い『ヒレ』のようなものが光っており、『それ』はここから見える道のような空を渡るかのように、通過していった。向かっている方角からすると、どうやらアイレの丘を目指しているようだ。
 フィエナは呟くように、ユリウスに問いかけた。
「アーリグリフに落ちてきたっていう奴って……今のような奴?」
 ユリウスは呆然とした声で返した。
「ンなわけないだろ……今の奴の100分の1くらいだった……」
 そう言った直後、
 
ドオオォォン……ドオオォォン……
 
 先程の施術砲とは比べ物にならないくらいの音が、しっかりと聞こえてきた。
「……ああいうデカイ音のする大砲ってのは……グリーテンに無かったのか?」
「……あ、あるわけないに決まってるでしょ。いま開発中の施術兵器でも、これに比べたらムシケラみたいなものよ……」
 今、アイレの丘では、一体何が起こっているのだろうか? ここまで聞こえてくる音からすると、恐ろしい事態になっている事だけは確かだ。
 時間にして数分、爆音のような音は鳴り止むことはなかった。たった数分の事とはいえ、二人には永久のようにも感じた。肩を震わせたフィエナが、ユリウスの腕にしがみつく。
 
 そして、その『数分』が終わった時のことだった。
 
 空から『光』そのものが消滅し、辺りが暗闇に包まれた。同時にアイレの丘の方角から、膨大な蒼い光がチラッと見える。
「な……何なの!? 一体何なの、あの光は!?」
 悲鳴に近い声で、フィエナが叫んだ。それに対してユリウスは、恐怖で何も言えなかった。
 施術が使える二人には、確かに感じることができたのだ。空の彼方に見えた光が持つ、ありえないほどの莫大な施力を……。
 ここまでくれば、もはや存在しているだけで恐怖である。誰であろうと畏怖させる、絶対的な力が、そこにはあった。
「…………もう、何も起きなくなったみたいだな」
 空の彼方が光った後、何も聞こえてこなくなった。
「一体……何だったのかしら?」
 フィエナが呟いた直後のことだった。
 
 恐らく、二人がこの時見たものは、彼らの人生の中で、最も恐ろしい物であったに違いないだろう。
 
「あれは……ヴォックス………?」
 最初に見えた『それ』を見て、ユリウスは呟いた。
 この谷の上空を、しかもエアードラゴンでも飛ばないほどの高空をヴォックスと、その相棒のエアードラゴンであるテンペストが飛んでいた。ここでユリウスとフィエナの頭に、一つの疑問が生まれた。『なぜ、そのような高空を飛行しているのか?』ではない。『なぜ、そのような上空にいる者が、地の底も同然のここからハッキリと見えるのか?』という、至極単純な疑問だった。
 高空に見えるヴォックスは、衣服のシワから白髪の数まで、至近距離でも見えないはずのものが不自然なほどハッキリと見えた。そしてその顔には、『感情』と呼べるものが何一つとして、浮かんではいなかった。
「………幽……霊?」
 どこか放心したような声で、フィエナは呟いていた。証拠はない。だが漠然と、それが正解だと確信していた。それはユリウスも同じだった。
 
 そして生涯ずっと忘れられないような、最も恐ろしい光景が空に現れた。
 
「ひっ………」
 悲鳴にならない悲鳴を、フィエナは上げた。ユリウスに至っては、もはや声すら出なかった。
 崖に挟まれ、狭くなった空の『道』を、ヴォックスに続くかのように、何万もの人間達が飛行していった。
 ある者はエアードラゴンに跨り、またある者はルムに跨り、またある者はうつ伏せの姿勢のまま飛行して。アーリグリフ人もシーハーツ人も関係なく、そして中には白い外見の魚顔の『何か』でさえ混じっていた。
 それらが、空の『道』を、埋め尽くしているのだ。
 恐らく、彼らは幽霊なのだろう。きっとそうなのだ。ただ、その数が通常の戦場ではありえない程にのぼっているのだ。
『…………』
 そのおぞましい光景から目を逸らせず、気絶することすら叶わず、二人は最後まで見届けることとなってしまった。
 幽霊が全て消え去った時、空は久しぶりに見る夕焼けで、赤く染まっていた。
 ―――本来なら美しく見えるはずのそれは、戦場で流された『血』なのではないかと二人に錯覚させた。
 


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