「や、やっととれた……」
俺はこの時もうクタクタで、今にも倒れそうだった。
この前の歌の交換で千早に『おはよう!朝ごはん』を歌わせた後、無視という名の軽蔑を受けてから俺は必死で
『歌』の仕事を探し回っていたのである。
『歌』
の仕事である。誰だ今くちばしつけてアヒルの練習とかいったやつ。
…まぁ、それは置いておくとして。
「千早~、明後日の午後から歌の仕事だ」
「はい…ってプロデューサー、大丈夫ですか…」
千早は給湯室から現れて、俺を見るや否や正直な感想を言った。
ちなみに表情はいつもとそんなに変わっていない…俺本気で心配されてんのかな。
「気にするな、いつものことだ。それよりお前に謝らなければならんことがある」
「謝らなければならないこと、ですか?」
俺はクタクタの体をなるべく起き上がらせて、千早と向き合う。
「あぁ、仕事は明後日にあるんだが…お前、明日オフだったろ?」
「はい。それがどうかしたんですか?」
「いや、歌の仕事にでるんだから前日はレッスンさせといたほうが良いと俺は思ったんだが、今月は明日しかオフ取れなくて…千早、どうする?
明日も事務所に来るか?手の空いてる時間は俺もレッスン付き添えるけど」
俺の提案に千早は少し考えた後
「大丈夫です。レッスンは家でも出来るので、明日はお休みさせてもらいます」
「そか、すまんな、大事な休日の日に羽のばせられなくて」
そんな頼りない俺に千早は「いいえ、少し一人でレッスンもしてみたかったんで」と言いながら、また春香たちのいる給湯室へ戻っていった。
翌日
『最近はプロデューサーとしてがんばってくれているから、私からのプレゼントとして』
「高木社長からオフを貰った」
他のアイドルは小鳥さんと律子が見てくれているのでありがたいが、どちらかといえば俺はあの2人にこそ休んでもらいたいと思う。
社長にオフはいらないといってみたのだが、どうやらあの2人にも相談していたらしく3人共々「休んでくれ」らしい。
しかしなんとも突然な休みなので、家にいても暇だったので散歩以外するようなこともなく、安価なセリフしか言えなくなってきた。
「俺休日の散歩で3時間くらい歩いてるな…」
足もそろそろ疲れてきたので、そのあたりで休もうと思い俺は何処か休めそうな場所は、と周りを見渡していたとき
「…あれ?千早じゃないか」
俺は包装された花を優しく両手で持ち、何処かへ向かっている千早が見えたので、意外に思っていた。
(あいつ家でレッスンしてたんじゃないのか?…いや、さすがに千早でも外の空気も吸いたくなるだろうな)
しかしただ出かけるのならいいとして、あの手の中の花は何なのだろうか。
「…どうしよう」
俺は好奇心で千早についていくべきか、見なかったことにするべきか悩んでいた。
もしここで千早を追いかければ間に合うかもしれないが下手すればストーカー行為である。
しかもストーカーしていたのがバレテ俺(プロデューサー)ということになればあいつは俺を二度と頼ってはくれなくなるだろう。
だが!
アイドルを守る側としてはアイドルのある程度の事情は知っておきたいところである。
それも俺は伊織や真ならともかく、千早の家や生活についてはほとんど知らないわけである。
…貴音?アイツハモウソレハオソロシクテカタレナイ。
「…ついていってみよう」
もうストーカーとでもロリコンとでも呼ぶがいいさ、と心の中で勝手に吹っ切れて俺は千早を追いかけることにした。
千早についていこと数分、彼女は近くにある墓地へ足を運んでいた。
「…ごめんね、最近はここにこれなくて」
千早はある墓の前にしゃがみこんで墓石に向かって何か喋りこんでいた。
俺は近くの墓石に隠れながらそれを見ていると、驚きの事実を見つけてしまった。
それは墓石に彫られている名前である。
(如月…ってえぇ!?あの墓って千早の家の…でも、一体誰の墓なんだ…)
「最近はね、仕事がどんどん増えてきたんだよ?…歌の仕事はあんまり来ないんだけどね」
(…ゴメンナサイ)
俺は墓に隠れながら少し憂鬱そうな千早の言葉に謝罪するほかなかった。
そして墓石に喋りかけている彼女の声はどこか嬉しそうで悲しそうな、なんともいえない微妙な感情が交じり合っているように思えた。
「…私、明日歌番組に出るんだ。それもゴールデンの」
(確かに明日千早が出るのは結構有名なゴールデンで生放送の歌番組だったな…)
その番組ではうまくいけば有名になれるとも言われている、いわば『歌手の登竜門』的な番組なのだ。
「でもね?私、うまく歌えるか不安なんだ」
(…何?)
俺は初めて聞いた、いつも歌に全てを込める千早が今『歌に対して大きな不安』を持っていることに。
彼女にとって歌が全てであり、それを磨く事で何かを得ることができるのだと俺も周りも思っていた。
そんな彼女が唯一なくてはならない『歌』に恐怖に似たものを感じている。
「いつもマジメに発声練習やボイストレーニングをしているのに、いざ明日歌うとなると体が震えてきちゃって…」
彼女は両手で自分の体を抱きしめるようにしていた。
俺の隠れている場所では彼女の背中しか見えないが、その顔はおそらく不安を感じているだろう。
「…私、あなたの姉として…失格、かな?」
(……姉?)
俺は千早の家族構成についてはあまり首をつっ込まなかったので、姉という単語から推測することができなかった。
そして
『ツルッ』
「んうぉっ!?」
「!?だ、誰!」
俺は知らぬ間に前のめりになって話をきいていたので、掴んでいた墓石から手を滑らせて顎から地面に打ち付けてしまうはめになった。
後千早にも気づかれてしまった。
「ぷ、プロデューサー!?…どうしてここに」
「あ、あはは……すいません」
その後千早にここまで付いてきたことについて話すことになった。
「なるほど…プロデューサーの考えは理解できます。
しかし、さすがにストーカーまがいのことをするのはどうかと」
「マジすいません」
千早から説教を食らっている俺は、ただいま絶賛土下座タイムに突入している。
そのあとなんとか許してもらい、墓について教えてもらった。
「ここ、私の弟の墓なんです。…昔はよく私が弟に歌を歌って言われて、仲の良い姉と弟だって近所でも評判だったんです」
「…そうか」
千早は何処か遠い目で墓を見つめ、俺はそんな千早の目に何が映っているのか、まったく分からなかった。
「弟はある日、交通事故で死んだんです。幼いころの私と母の目の前で」
「なっ!?」
俺は驚いて千早を見た、突然大切な家族が目の前で死ぬ。
それは幼い彼女にどれほどの傷を負わせたのか。
そして彼女は少し俯き加減で話を続けてくれた。
「それから家族はバラバラになってしまったんです。
母は弟が死んでからは毎日泣いて、父はなんでそのとき弟の手を離したんだって怒ってばかり…。
そして2人は離婚しました。…まぁ、当然のことでした。
完全に私たち家族の歯車は壊れてました。弟の死があってからは…」
「……」
千早の目はうっすらと涙ぐんでいた。
こんなときこそプロデューサーの俺が何か言うべきだと思ってはいた、だが何も言えない、それが現状だった。
「…それに弟は酷いんですよ?私の声まで奪って言ったんですから」
「声を…奪う?」
俺は意味が分からず、首を傾げたが千早はすぐに疑問に答えてくれた。
「弟が死んだあと、なぜか私は声が出せなくなったんです。…でもある日泣いたはずみで声を出す事ができましたけど」
「そうだったのか…今の千早からは想像も出来ないな」
「どういうことですか?」
今度は俺ではなく、千早が疑問符を付ける番だった。
彼女は俺のほうを不思議そうに見て、俺はそんな彼女を不思議とキレイだと思った。
「え、えっと…。ほら、千早って歌がうまいし声量もプロ並みだから、意外だなって」
「…そう、ですか?」
「あぁ、弟さんが欲しがるのも一理あると俺は思うけど」
しかし俺の発言が気に食わなかったのか、千早は少し不機嫌になってしまい、俺と(弟さんの)墓石とはまったく別の方向へ顔を向けてしまった。
「戻ったから良かったですけど…私は許しません。弟のことを…」
「でも、『本気』で嫌いにもなれないんだろ?大切な人だから」
俺のこの言葉を最後に俺と千早は数分黙りこくったままで、聞こえるのは風音だけだった。
「…あ」
しかし千早が何かを見つけたらしく、俺も千早が見ている方向を見た。
「…あれは、ツバメか?」
そこには優雅に、素早く飛行する一匹のツバメがいた。
2人でじっとそのツバメを見ていたが、やがて鳥は俺たちのすぐ近くで飛行して
「んぉ?」
「すごい、ツバメがこんなにも人の近くに、しかもプロデューサーの頭に乗ってる」
千早は何処か感激したようで、「動かないでください」と俺を制して、ツバメを優しく捕まえようとした。
「もう少し…」
(…顔が近い!)
千早はツバメのほうに意識が行き過ぎて、俺は千早に意識が行き過ぎていた。
というのも、正面から千早がツバメを捕まえようとするので、俺と千早の距離は縮み、顔も結構至近距離にあるのだ。
『バサバサッ!』
「あっ…」
「逃げられたな」
後少しというところでツバメに逃げられたらしく、千早はどこか残念そうで、浮かない顔をしていた。
さすがにまた黙りこくるのはいやなので、今度は俺から話しかけることにした。
「もしかしたら…あのツバメ、オマエの弟さんに頼まれてきたんじゃないかな?」
「え?弟に、ですか…」
「そう、『お姉ちゃんをはげましてあげて』ってさ」
千早はキョトンとした気の抜けた表情をするので、さすがに俺もメルヘンすぎたと思ったが
「…そうかもしれませんね」
千早は俺のほうを向いて、軽く微笑を浮かべていた。
「でももしかしたらあのツバメが弟だったりして…」
「おぉ、なんか信憑性あるなそれ」
千早にはもう暗い雰囲気がなく、俺もそれを感じ、話がしやすくなっていた。
「そうだ、プロデューサー。私の弟と話をしてみません?」
「へっ?俺がか?でも、あんまり話すようなことないぞ…」
「大丈夫です、弟はプロデューサー自身に興味があると思いますから」
そう千早に諭され、俺は墓石の前にしゃがみこみ、話をすることにした。
「え~、どうも。千早からどう言われてるか分かんないけど、千早の…って千早だけじゃないけどプロデューサーです」
それから何時間か千早も混ざったりしてしゃべり、俺たちは帰宅することにした。
そこで千早が
「プロデューサー、私明日の番組でがんばって歌います。弟にも聞こえるぐらいに」
彼女の悩みも消えたようで、今日は少し充実した日だと俺は思いながら俺は帰った。
街を茜色に染めながら沈む夕日とどこかでなく“鳥”の声を聞きながら。
あとがき(◎ロ◎)
千早のストーリーをぱくったんじゃないよ!題材にしたんだよ!(言い訳
アニメのアイマスのファーストアルバムが楽しみな、愛ドルです。
今回はあの泣ける千早√の話を私なりにアレンジしてみました。ぱくったんz(ry
彼女は暗い過去を持ち、それ故他人との接触をほとんどしていない。
そんな孤独で健気な彼女に惚れるプロデューサーもいるのでしょう。(現にユーチューブで作者も見て千早が好きになった
そんあプロデューサーの方々の有名なセリフ、それは!!
「千早ー俺だー!結婚してくれー!」
G
J
!
この名言は永遠に語り告がれてほしいですww。