ある暑い日のこと。
765プロに2人の来客が来た。
「雪歩のアイドル活動をやめさせてもらいたい」
「真をあんなプリンプリンの女の子に育てた覚えはない!」
「……はぁ」
その来客は雪歩の父と真の父であった。
雪歩の父(以下雪父と略称)はいかにも『頑固一徹』の四文字があてはまる岩のように頑強そうな顔と小麦色の肌をしており、
真の父(以下真父)はとても若く、聞けばカーレーサーらしく体はそれなりに鍛えられていそうだった。
「えっと…お2人は娘さんのアイドル活動を反対と」
「反対というより今すぐアイドルなんか辞めてもらいたいですね」
「娘じゃない!息子だ!」
雪父は眉間に皺を寄せて全否定の発言、真父は…アンタ自分の子供の性別を分かれ。
俺はこの状況の中、下手なことを言えばあの雪歩と真、あの二人のアイドル人生をここで終わらせる形となってしまうかもしれないと怯えていた。
仕事を取るときとは違う圧迫感と息苦しさ、よくバイトでも失敗すると味わった感覚だがいまだにキツイ。
「と、とにかく!あの2人も思うことはあると思いますし、ご家庭でキチンとお話を」
「いらないな」
「いりません!あとうちの子は息子です!」
何を言っても押し返される。
俺はさすがに俺も言い返す言葉が見つからず、じっと俯いたまま思考をめぐらせた。
(ダメだ!俺はこのまま2人のアイドル活動を何の抵抗もせずに終わらせるのか!?しかし、ここで抵抗すれば余計…)
どう考えても結論はループするばかりで、結果はどれも同じ。
「…これ以上ここに長居しても、時間を浪費するだけですな」
「真は連れて帰らせてもらいます。あと、アイドルも辞めさせてもらいます!
…あと、ウチの子はm(ry」
2人の父親は席を立ち、客室の扉へ向けて足を進めた。
それを俺は俯いたまま、認めるしかなかった。
(…俺はあいつらのプロデューサーなのに、あいつらを支える人間としてここにいるのに、なぜこうも無力なんだ)
自然と組んでいた手の指に力が入り、顔が熱くなってくる。
2人が客室の扉に手をかけ、部屋を出ようとした
「「まっ、待って(ください)!」」
「っ!?雪歩、真!」
しかし2人が扉を開けた先には真とその後ろで少し隠れ気味にいた雪歩が立っていた。
父親2人は最初は驚いていたようだが、すぐに自分の子だと分かると表情を引き締め
「帰るぞ、雪歩。ここにいてもしょうがない」
「真。今日は早く帰ってすき焼きを食べよう!」
雪父は雪歩を流し目で見ながら事務所の扉に足を進め、真父は真の手首を握って楽しそうな表情をしていた。
それでも俺はここで止める事ができない。
事務所のメンバーもそれ相応に聞き耳を立てて話を聞いていたのなら、きっとあの2人も聞いていただろう。
(…さすがにこんなヘタレプロデューサーじゃ、あの2人も幻滅してるだろうな)
俺は自分でも驚くほど消極的になっていた。
だが
「か、かぇりま…せん」
「いやだ!それに今日はボク、そうめんを食べたい気分なんだから!」
2人は違った。
真はともかくとして、あの雪歩が自分から反抗するのには俺や事務所メンバーも驚いたであろう。
真は自分の父親に目をじっと見据えながら反抗し、雪歩は控えめだが小さな声で反抗していた。
「…なんだと?」
「…ま、真が、ついに反抗期に!?」
2人の父親はそれぞれ驚き、雪父に至っては目がかなり開くほどの驚きようである。
「…雪歩。オマエいつからそんな親に反抗するようになった?」
「ま、真?父さんのこと嫌いになったのか?…う、嘘だといってくれぇえええええ!」
雪父は扉に向かっていた足を今度は雪歩へと向け、真父はなんかすごい発狂のし様である。
「お、お父さん…。私その…」
「雪歩、顔を逸らさず、しっかり相手をみてはっきり言ってみなさい」
雪歩はしどろもどろになりながら言葉を繋ぎ、言葉を発し、
それを雪父は一つ忠告した後は静かに雪歩の言葉を聞こうとしていた。
「…わ、私、アイドル、続けたいです!こ、こここれは絶対、かっ、変えません」
「……なぜだ?」
「え?」
雪父は雪歩がなぜアイドル活動を続けたいのか、ということに疑問があるようで、少し伏せ目がちに雪歩に語りかける。
「確かお前がアイドルになったのは友達がそこに応募したから、と言ってなかったか?」
「あ、はい…。でも、今は違います」
雪父の方をまともに見れていなかった雪歩がこのとき、まっすぐ雪父の顔を見ていた。
そしてその目はとても力強く、滅多なものでは崩れないという決心がこもっている様に感じれた。
「何が違う?」
「確かに最初は友達が勝手に応募しちゃって、受かっちゃって…。
その時はアイドルって人前に出なきゃいけないし、とても怖いって思ってました。
でも今は違うんです。
アイドルになることで私は自分を、変えようって思いました!」
雪歩は少し怯え気味に両手をぎゅっと握り締め、体も震えていた。
だが、彼女特有のその通った声は震えず、きっちりと聞こえた。
「私には大事な事務所の仲間もいます!」
俺はこのとき、雪歩がこんなにも強かったのだと今思った。
「自分を変えたいって、こんなにも強く思いました!」
いつも仕事現場に行けば穴を掘ったり掘ろうとしたりして、弱気だった彼女がこんなにも強くなっているなんて、そばにいた俺が一番気づくべきことに気が付けなった。
「それに…私が変わったってことを、一番知って欲しい人もできました」
「……」
雪歩の心の声を聞き、少しの間ができた。
「…そうか」
雪父はそう言うと被っていた小さな帽子を被り、扉へと足を向けた。
「雪歩」
「は、はぃ…」
扉のドアノブに手をかけ事務所を出ようとしたとき、雪父は背を向けたまま我が子の名を呼んだ。
「…アイドル、がんばりなさい」
「……はいっ!!」
そういうと雪父は事務所の外へと出て行った。
「真ー!父さんが悪かった!嫌いにならないでー!なんでもするから!」
「じゃぁアイドル続けさせてよー!」
「ダメだ!アイドルなんか女の子がするもんだろうが!」
「父さん!?ボク女なんだけどー!」
この2人はなんやかんやで数分後、和解しました。
あとがき(OTO)
誰が呼んだかやよいたーーーーん!愛ドルです。
おそらくどの世界にもあるであろう、職業への親の反対!
しかしその職業に運命を感じた子!
これこそ家族で最大の親子喧嘩でしょうね。
雪歩の父親は巨人の一徹ならぬ『頑固一徹』。
しかしその頑固さは我が子への愛情から来る厳しさでもあるでしょう。
…まぁ、あんな可愛い子ほったらかす親も親になるからなぁ。
しかし我が子の変化と強い決心を感じた雪父は最後に雪歩への応援の言葉を。
(T T)泣けるで!
次回はなんか発狂した真父と真の和解編!…すると思ったカー!
……なんかすいませんでしたorz。