俺は伊織がいつも持ち歩いているウサギの人形のシャルルを探している
のだが…
「ここもない。あそこもない。…どこにあるんだ、シャルル」
俺は会場のあらゆる場所を探しているが、いまだにシャルルの姿も形も見当たらないのである。
楽屋の近くとか会場の玄関のあたりとか、伊織の通ったであろう道の付近などを探しているが
「成果ゼロって…」
俺は深くため息をつきながら手首につけている安物の腕時計を見る。
(もうライブも始まってるな。確か伊織は最後だったか…)
それまでにはどうしても見つけなければアイツも安心してステージに立てないだろう。
俺はまだ探していないような場所を絞ってから、そこへ駆け足で向かった。
「伊織、大丈夫?」
「伊織ちゃん…」
今も落ち込んでいる私を出番を待っている皆が励ましてくれている。
それだけで嬉しいような、情けないような気持ちが混ざり合う。
「うん、私は大丈夫だから…皆は歌の歌詞とか覚えないとダメでしょ?」
「…伊織」
私が言うと皆はしぶしぶ『分かった』というように椅子に座って歌詞カードやメイクのチェックに入った。
やよいは椅子に座っても私のほうを何度か見ていたけれど…。
(っていうか、歌詞も頭に入ってきてない私が言うのも気が引けるんだけどね)
私はライブの日までに歌詞やダンスをキチンと覚えてきていたはずなのに、どうしてもそれが浮かんでこない。
(シャルル…)
私は今もシャルルを探してくれているプロデューサーに申し訳ない気がしてきた。
この仕事はどうやら彼が多くのライブ会場に掛け合ってやっととれた仕事の一つらしい。
(私…ミスせずに、出来るかな)
私は椅子に座ったまま俯くことしか出来なかった。
「この袋は…違う。じゃぁあっちか!?」
シャルルを探していた俺はある重大なことに気が付き、会場のあちこちにあるゴミ袋をあさっていた。
「これか!…違うー!」
俺は頭を両手で抱えながら悶えた。
「はぁ~。この時間は清掃員がいるからてっきりゴミ袋の中とかにあると思ったのに…」
「ゴメンねぇ~。アタシがしっかり確認もせずになんでもかんでも袋に入れちゃって」
「あぁ、いえ。ちゃんとアイドルたちのことを見てなかった俺が悪いんです」
俺は清掃員のおばちゃんに掛け合ってゴミ袋が大量においてある場所を教えてもらってそこを探していたのだが、おばちゃんも俺の説明を聞いて罪悪感を感じたらしく一緒にシャルルを探してもらうことになった。
「でも確かにウサギの人形はあった気がするんだけどねぇ…」
「俺も会場のいたる所を探しましたから、後はここだけです」
おばちゃんは首を傾げながら呟き、俺はここに最後の望みを託して捜索を進める。
もしここで見つからなければ、シャルルは…。
(って俺が諦めたらダメじゃないか!ここは伊織のためにも絶対見つけなければならないんだ!)
俺は心の中で自分を奮い立たせ、袋の中をあさる。
(絶対見つけてやるからな、伊織!)
「それじゃー、準備お願いします」
「あ、はい…」
ステージの裏側。
ライブのスタッフが大声で呼ぶ声がしたので、私の出番が回ってきたことを知った
。
今はやよいがステージで歌っている。
曲は『GO MY WAY!』で、お客の盛り上がりもかなり絶好調だ。
もし私が失敗すれば、この盛り上がりも無くなってしまうかと思うと体の震えが止まらなくなる。
(…怖い、出来る事なら今はステージに出たくない)
アイドルとしてこんな考えはダメと分かっていても思ってしまう。
私はシャルルがいないだけでこんなに弱く、脆くなってしまう自分の心に情けなくなる。
『絶対見つけてやるよ。お前の大切な相棒』
(っ!?私、なんでプロデューサーのことなんか…)
どうしても思い出してしまう。彼の偽りのない笑み、優しい瞳。
そしてこの言葉を。
「…きっと、今は諦めてるんだろうなぁ」
でももうすぐ私の番だ。しかもプロデューサーはまだ戻ってきていない。
どう考えても諦めたと思うのが常識だろう。
それに探していたとしてももう間に合わない。
[ありがとうございましたー!!]
やよいがマイクを通して持ち前の元気な声で客席に感謝の言葉を言いながら、裏に戻ってきた。
「良かったわね、やよい。お客さんも盛り上がってまくってたじゃない」
「うん。私もここまで盛り上がってもらえるとは思わなかったんだ~」
嬉しそうにはにかむやよいを見て、私は少し気分が楽になるのを感じた。
「伊織ちゃん…がんばってね!」
「えぇ、この伊織ちゃんにまかせなさい」
やよいの声援を受けていざステージに立つ。
(…客席、いっぱいじゃない)
でも会場は満員らしく、不安と緊張で視界がぼやける。
「え、えっと…」
(何してるの!?早く歌わないと…早く…)
私がマイクを両手に躊躇していると、客席もざわざわとざわつき始めてきた。
(そう、よね。こんなに躊躇してたらお客もざわつき始めて当然…
それに幻覚かしら、客席からシャルルが見え…え?)
私は驚いて客席をじっと目を擦ってみていると
ボロボロだけれど、確かに誰かがシャルルを天井に向けて掲げ、お客の群れからはみ出させていた。
(見つけてくれた…約束、守ってくれてた…っ!)
私は目の前が滲んでくるのが分かり、右腕で無造作に目を擦る。
「皆~~!!さっきはごめんなさ~い!実は私、こんなにいっぱいお客さんが来てるなんて分からなくてビックリしてたの~!
…でも、もう大丈夫。私がビックリした分、今から皆私にメロメロにさせちゃうからー!」
「うおおおぉおぉぉ!!伊織ちゃんでござるー!?」
「小悪魔伊織ちゃんバンざーイ!」
「すでに俺はメロメロだけどなっ!がんばれー伊織ちゃーん!」
私の言葉に会場は先ほどの静けさとは打って変わって激しい盛り上がり具合に変わった。
「それじゃ聞いてください!『フタリの記憶』!」
きっと彼は人形を片手に笑いながらこう言っていると私は思う。
『らしくなったじゃねーか』って。
(ありがとう)
(まwま)あとがき
曲名を出したのは商売目的じゃない!の愛ドルです。
シャルル捜索編はこれにて終了。
おい伊織が次の回からデレルと思ったやつ、期待してろww(ぇ。
でもいまだにデレの描写をしたことない(気がする)作者はどうしたら…?
誰か教えてーー!!まっこまっこりーん!