Fate/stay night~魔術師と死神~
第1夜「白の少女と黒の死神」
アインツベルン城。この雪の降り続ける、冬の城が私の家。
私は雪は好きだけど、寒いのは嫌い。だからこの城は余り好きじゃない。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。それが私の名前。
私は今日この城で、英霊を召喚する。大英雄ヘラクレスを。
聖杯戦争に勝ち残り、第三魔法“天の杯”を再現する使命を果たす為に。そして、私と私のお母様を捨てて、アインツベルンを裏切った衞宮切嗣に復讐する為に。
「イリヤスフィールよ…準備はよいな?」
魔方陣の中央に立ち、魔力を高める。
玉座のように最も高い所の椅子に座っているお爺様が鋭い視線で私を射抜く。魔方陣を囲むように立つ、一族の関係者達も同じように私を見る。…失敗は許されない。
何よりも失敗は復讐の機会が永久に消える事にも繋がる。故に私は成功させるしかない。
「素に血と魂。 礎に大剣と至りし者。祖には我が始祖ユスティーツァ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
ー召喚呪文を唱えながら何故か私は思い出していた。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「―――告げる」
ー優しい母に抱きしめられた事を。
「―――汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
ー切嗣の肩に乗ってドングリを探した事を。
「誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。」
ーあの雪の日を。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーー!」
ー暖かかった、雪の日を。
魔方陣の輝きが最高点に達する時、涙が一粒零れ落ちた。
その雫が地に落ちた時、魔力が爆発した。
「貴方は…」
目の前の男…オレンジの髪に、黒い装束の男はどう見てもヘラクレスには見えなかった。
それでも私は一縷の望みを掛けて聞く。
貴方は誰?、と。
「黒崎一護」
ーああ、私は失敗してしまった。
全ての道は今、閉ざされた。他でも無い私の手によって。
周りから怒号が聞こえる。ヘラクレスで無いどころか、日本人。それも狂化さえしていない。笑えてくるわね…
お爺様も激怒しているか、それとも失望しているか…どちらにしても私は役立たずとして捨てられるわね…
私はノロノロとお爺様を見上げる。
私の予想のどちらでも無かった。お爺様は驚愕していた。遠目でもわかる程に、私の傍に立つ男を見て。
お爺様は表情を普段の重厚なものに戻し、ゆっくりと口を開く。
「静まれ…」
その声は決して大きくは無かったけど、有無を言わせない迫力を持っていた。私も硬直してしまって、動けない。
「イリヤスフィールよくやった…この男と共に聖杯戦争を制すのだ」
「は、はい」
お爺様は何と言った?
よくやった?ヘラクレスを呼べず、何処の誰とも知れない男を召喚してしまった私が?
周囲がざわめく。
「ナハト老!どういう事ですか!?何故このような東の猿を聖杯戦争に参加させるのですか!このような凡夫、存在自体が煩わしい!」
男の一人が大声で騒ぎ出す。そういえばこの人は、酷い選民思想の持ち主だった。魔術師は少なからず、自分を世界の中心だと考える人が多い。
だけど、それは自分の技術や知能に自信を持っているから。だから、自分より劣る者を軽視する。
でもこの男は、自身には何も無いクセに、ただ日本人というだけでクロサキを否定した。
狙ったサーヴァントじゃ無いとしても、私の声に応えてくれた人だ…馬鹿にされたままではいられない。
「イリヤスフィールも同罪だ!所詮は作り物!紛い物!母親と同じ役立たずめ!!」
口から泡を飛ばしながら、男が叫ぶ。
その言葉に私の全身が熱くなる。一瞬で血が煮えたぎり、目に涙が溜まった。
コイツはクロサキだけじゃなく、お母様まで馬鹿にした!
「お母様はっ…」
「黙れよ、クソ野郎」
私が言い返そうとした時、男が壁に衝突した。男はそのまま地に崩れ落ちる。
「え?」
男が立っていた所にはクロサキが立っている。クロサキの動き、全く見えなかった…
「俺はいい。だけどな、マスターを傷つける事は許さねぇ」
クロサキの冷徹な声に辺りが静まりかえる。中には怯えて、腰を抜かす人もいる。
でも、私にはクロサキの声はとても優しいものに聞こえて、何だか嬉しかった。
私はクロサキに近づいて手を出す。
「クロサキ、私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。イリヤでいいわ、よろしくね?」
「よろしく、イリヤ。サーヴァント・バーサーカー。君を護り抜く事を誓おう」
差し出した手は強く握りしめられた。