オスマン老に安らぎを
A. D. 6103 トリステイン王立魔法学院学院長オスマン
万一を考えてこの手記を後世に残しておく。
ロシュフォール伯より恐るべき手紙を受け取った。慄然たる思いで手紙を読み終えると儂は大きく息をついた。
急ぎ書を認めねばならない。
ミス・ロングビルに人払いを頼み机に向き合う。
始祖ブリミルよ、我が教え子たちに祝福をお願い申し上げます。
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ロシュフォール家より長女が到着する。
手紙に会った通り、この世ならざる容姿をしておった。
病的なまでに白い肌は太陽の下でなお輝いている。まるで十年近くも外に出ていないような、それほどまでに青白い。白百合よりもなお白い狂気じみた髪の色がまた不気味さを強調している。
さらに瞳が血のように赤い。
漆黒の星空から生まれ落ちたような少女じゃった。
しかし儂も伊達に百年生きておらん。ありったけの胆力で少女を威嚇した。
魔法学院は儂が守る、貴様の思惑は容易ならざるものと思え、と。
だが少女は涼しげに儂の威圧を受け流したのじゃ。並みの貴族なら腰を抜かし、下手をすれば気を失うほどの活を浴びても変化がない。
ロシュフォール伯の危惧は的中している可能性が高そうじゃった。
入学式のイベントは中止することにする。
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入学式、儂はありったけの思いを込めて演説を行った。
普段のおちゃらけは一切出さん、そんなことをすればミス・ロシュフォールに追撃されるかもしれん。すべての生徒は話に聞き入っておる。
しかしあの異形の子には無駄なことだったようじゃ。
始祖ブリミルの偉業など知ったことか、と冒涜的な表情が内心を物語っておった。
儂と目が合うと顔を伏せ、おぞましき忍び笑いを漏らしている。
監視の目を強めねばならんかもしれん。
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今年の入学生にトライアングルは二人しかおらん。
生贄にするようで悪いが、そのうちの一人、ミス・ツェルプストーにはミス・ロシュフォールと同じクラスになってもらう。
ガリアからの使者、ミス・タバサも監視役として潜入してもらった。儂が手紙を出したオルレアン機関の中でも腕利きであり、鼻が利くという。
常に監視できるわけではないので大助かりじゃ。
学生に潜入してもおかしくはない工作員を要しているとは、ジョゼフ王はこういう事態を予測していたというのじゃろうか。
いや、今は考えまい。
モートソグニルにも申し訳ないが、ミス・ロシュフォールについてもらう。
用心に用心を重ねたが、不安をまだ消えん。最近夢の中でも何かに追われている気がする。
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ミス・タバサから早速報告があった。彼女の正体に気付かれているかもしれない、ということじゃ。
ありえない、とは言い切れないのが恐ろしいところじゃ。
ミス・ロシュフォールはミス・タバサのことをよく目で追っている。
まるで貴様の正体はわかっているが泳がせているんだ、と言わんばかりじゃ。
それだけでなく、ミス・ツェルプストーにまで視線を送っている。
単純に実力者を見ている感じはしない。どこか、身体を這いずり回るような視線じゃ。
男ならまだしもそんな目をした女は見たことがない。
また、身体中に混沌と背徳を集めたかのような、おぞましき三本脚の獣が月に吠える夢を見た。
祈りの時間を増やすことにする。敬虔なブリミル教徒が膝を折るわけにはいかん。
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百年生きてきてこれほどまでに背筋が粟立ったときはない。
ことのおこりはミス・タバサが披露したフライじゃ。ミス・ロシュフォールはあえて遅く詠唱し、わざと低く飛んだ。
これは間違いない、長年教鞭をとるミスタ・ギトーも認めたことじゃ。
どのような意図があって実力を低く偽ったのか、わからん。
しかも薄気味悪い笑みを浮かべていたそうじゃ。
彼女の本性を垣間見る瞬間は他にもあった。
ミスタ・ロレーヌがミス・タバサに決闘を挑んで負けたとき、彼女は遠くから観察していたのだ。
決着がついたときも、その顔には何の感慨も浮かんでいなかった。
まるで決まりきった運命を知っていたかのように。
彼女は運命を知っているのじゃろうか。
だとしたらこれほど恐ろしいことはない。
始祖ブリミル、我が生徒をお守りください。
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新入生歓迎の舞踏会、めでたい日であろうとも儂の心は晴れない。
今日も今日とて問題が起きた。
決闘に負けた腹いせにミスタ・ロレーヌがミス・タバサとミス・ツェルプストーの二人を嵌めたのじゃ。
幸い二人は和解した、これからもいい友としてあるじゃろう。
しかし、それを些事と済ませるにあたる問題が起きたのじゃ。
やはりミス・ロシュフォールは未来を知っている。
モートソグニルに監視させておいたが、彼女は壁際から最初動かなかった。しきりにミス・ツェルプストーを目で追っているのじゃ。
普段はミス・ツェルプストーとミス・タバサ、両者を同じくらいの比率で追っていたのにも係わらず今日は一人だけを熱心に見ておった。
そこにミスタ・ロレーヌが事件を起こした。
その時彼女はミス・ツェルプストーを男のような情欲に満ちた目で眺めておったのじゃ。
すぐその邪悪な表情を誤魔化すため手洗いに駆けて行ったが、おぞましき顔じゃった。
さらに帰ってきてからも冒涜的な笑顔で視線がミス・ツェルプストーの体を舐め回しておった。
モートソグニルの報告によれば、その時彼女の右目が青く染まったようじゃ。
ロシュフォール伯の手紙にあった通りに。
青と赤の月目など聞いたことがない。まして普段は両方とも同じ目なのに特定の時にだけ月目になるということはありえない。
始祖ブリミル様、儂はいったいどうすればいいのでしょうか。
百年生きた儂にも一切わかりません。
お答えを賜りますようお願い申し上げます。
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ミス・ロシュフォールはとうとう二年生に進級した。
明日は使い魔召喚の儀式だ。
儂は恐れておる。
彼女を、彼女が呼び出す使い魔に底知れぬ恐怖をおぼえておる。
どのような使い魔を呼び出すのか。この世ならざる深淵に潜む怪物を呼び出すのではなかろうか。
明日は授業のないすべての教師に使い魔召喚の儀式を監視するよう命じておく。
いざとなれば何をおいても駆けつけ、生徒を守るようにと。
念には念を入れ、マザリーニ枢機卿にも書を認めておく。
始祖ブリミル様、無力な子羊たちをお導きください。
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メアリー・スーに寿ぎを
やっほー、俺の名前はメアリー・スー・コンスタンス・ド・ロシュフォール。
トリステイン王国のロシュフォール伯爵家長女だ。
神様の力で皆おなじみ「ゼロの使い魔」の世界に転生した元男、現女の子なんだ。
さて、とうとうトリステイン魔法学院に入学しちゃったよ。
ここで地味~に友だちの輪を広げておかないとな。領地の繁栄も大事だけど青春は謳歌するためにあるっ!
それに今の俺はオンナノコなのだ。
つまり、つまりだ、もうみんなわかってるんだろ?
堂々と覗きができるってことなんだよ!!
ここらへんまだ俺には男の感覚が残ってるみたいだな。
まぁいいじゃないか、跡継ぎなんて養子養子。
キャッキャウフフな青春は少し望めそうにないのが残念なところ。
いや待てよ。ふっ、そういうことか。
あえて言おう、百合もまた良しッ!
だけどルイズの同級生とそんな仲になっちゃうと原作の流れにどんな影響がでるかわかったもんじゃない。
百合百合ターゲットは下級生ということで、来年まで我慢しよう。
今はただ女の子を物色して、ウォッチングにとどめるだけ。
ふっふっふっふっふ、ターゲットはキュルケあたりかな。
ぺたん娘も悪くはないがやはり男たるものナイスバディには惹かれるのだよ。
お前今女だろって?
こまけぇこたぁいいんだよ!
*
さて、入学式だ。
原作通りならオールド・オスマンが飛び降りるんだが、今回はそんなことがなかった。なんでだろ、流石にアレは寒いと思ったのかな?
まぁいいや。
なんか始祖から賜った魔法がどーたらこーたら言ってるけど正直な話どーでもいい。
それどころか話が長くって欠伸が出ちまったぜ。
げ、校長と目があった。やっべ、顔伏せておこ。
周りの貴族のお坊ちゃまお嬢さまはなんでこんな話をクッソマジメに聞けるんだろーね?
やっぱ感覚の違いかな、トリステイン人は大仰なことが好きっていうし。
日常会話で演劇みたいな言い回しが飛び交うって、元日本人としては恥ずかしいことこの上ないぜっ!
*
これも神様のお導きなのかもしれない。
なんと赤青キュルタバコンビと一緒のクラスになっちゃったのだ。トライアングルは一まとめにしておけ、ってことなんだろうなきっと。
それにしてもタバサ可愛いなぁ。無口で近寄るなオーラ出しちゃってるけどそこがまた良し!
食事もなんか一生懸命食べてる感があって、リス? みたいな。
思わず目で追っちゃうのも仕方ないよね!
キュルケもキュルケであのないすばでーは素晴らしい。トリステイン貴族は慎ましやかな体型が多いから余計にいい感じ。
*
ザ・ギトーがなんか前で言ってる。
てか父上俺がトライアングルって言ってなかったんかな?
ドットとラインしかいない、とかのたまってるや。
目立つのはイヤだからいいんだけどさ。
というわけでレッツ・フライ!
タバサが飛んで少ししてから、少し低めに飛んでみる。
ほぼ同時に同じ高さまでいけたんだけどやっぱ原作キャラを立ててあげないとね。
べ、別にスカートの中を覗きたいっていうんじゃないんだから!
タバサは少しだけ驚いてた。
いかん、その表情萌えますよおじょーちゃん、顔デレデレしちゃう。
スカートは抑えてなかったからきっとバレてない、よね?
あ、そういやヴィリエが原作通り挑んでボロ負けしてました。
*
新入生歓迎舞踏会ーどんどんぱふぱふーー。
なんと素晴らしい日だろう。この日はキュルケのエクセレント・ボディを拝むことができるのだ。
これは俺の持論だが、マッパよりもエロいものはある!
それは中途半端に肌蹴てたり破けてたりする服だ!!
数々のエロ本を読み漁った俺がその結論に至のにそう時間はかからなかった。
え? 前世でエロ本しか読んでなかったのかって?
……言うな、言うなよ。
てかさ、高校二年でそんなぐっちょぐちょぬちゃぬちゃするヤツいないって。
うんいない。
いないんだよ……きっと。
俺は断じて友達の体験談とか耳に挟んじゃいないね!!
まぁそれはおいておこう。
リアルでやったら犯罪な切り裂かれた服、今日はほっといても見れるんだ。
この機会を逃すバカはいねぇ!
舞踏会中ずっと壁際に突っ立ってキュルケをガン見しておく。
ちょっち顔がにやけてるかもしんない。
ぶっ!?
破けたドレスがひらひら舞って……靴以外マッパだと!?
これは、イイ!
靴下だけというのも確かに乙なものだ、しかし舞踏会用の靴だけというのも、こう、クルものがあるね!
もう心の中は狂喜乱舞、百花繚乱さっ!!
多分今の俺すっげーニヤニヤしてる。ちょっと顔洗ってこないと。
お、キュルケ上着羽織って……ヴィリエ。
お前のこと誤解してたよ。
お前も、紳士だ!
素っ裸にタキシードの上だけ羽織るって、それもうイヤンバカンなヴィデオに出てきそうですよっ!
ふーふー、鼻血出そうだわ、本気で抑えないと。
うん本気で顔に力入れたらおさまった気がした。
さ、交友関係もちっとは広げにいかないとな。
視線はちらちらキュルケを追っちゃうんだけどね。
*
キュルタバの決闘やらなんやらかんやらが終わり、俺は二年生に進級した。
なんか初日以来タバサはちらっちらこっちを見てたりする。
こっちもタバサを見つめてたりするからよく目が合うんだ。
いやタバサ可愛いから目で追っちゃうんだってば。
視線がかち合ったらにっこり笑って手を振ったりするんだけど、そうするとタバサは恥ずかしそうに顔を逸らすんだよ。
……萌える。
ツンデレ=ルイズorモンモンと思ってた時期が俺にもありましたよ。子どもっぽいツンデレならタバサのが萌えるかもしんないね。
そうそう、明日は使い魔召喚の日だ。
三日ほど前に神様と夢であったんだよ、なんか神父っぽいカッコしてた。
せっかくだから使い魔どんなのが良い? って親切にも聞いてくれたんだよ。
俺は悩んだよ、星の海でうんうん唸ったよ。
グリフォンとかドラゴン、マンティコアはまずアウトだろ。そんな強そうなヤツらを呼んだら否応なしに原作ルートへ行きそうだ。
だからといってカエルとかネズミはちょっとなぁ……。
そのとき外宇宙から電波がビビッと飛んできて、というわけで犬か猫がいいと思ったんだ。
でも俺は気まぐれな猫よりかまってもらいたがりな犬のが好きだ。
というわけで犬が良いって神様にお願いしといた。
勿論、チワワとかプルプル系じゃなくってドーベルマン的な猟犬だ。戦闘も少しは考慮しないとな!
神様は名状し難い表情で了承したと言ってくれたよ。
ああ、明日が楽しみだ!