ヒミコ(ヤマタノオロチ)への愛が止まらず初投稿でございます。
※以下注意
・トリップ系オリ主ものです(勇者じゃないです)
・主人公チートありです(中盤~終盤にかけて)※チート=正規手段ではないという意味で。
・ヒロインは一人ではありません
・ご都合主義万歳です
・SEKKYOUがでるやもしれません
・基本はドラクエ3ですが、かなり自己設定があります
・作者は厨二病とその他が分かっていない節があります
これだけ書くとかなりあれな話ですが、踏み込める方はどうぞ御覧ください。
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序
つくづく思う。くそくらえだと。
立っているだけで体が焼き付くような熱気の中、青年は独りごちる。
むき出しになっている岩肌に少し触れば、おそらくその部分は使い物にならなくなるだろう。青年の装備は麻の長袖シャツに安物のジーパン。まだおろし立てのスニーカーと、溶岩が流れる洞窟の中を動くにはあまりにも不釣り合いだ。
実際に、青年のむき出しになった肌は既に赤く染まり、地面と接しているスニーカーはもはや役目を果たしているのかどうかすら怪しい。
それでも、青年は洞窟の中を進む事を諦めなかった。青年の足を進めているのは、確固たる決意や強い意志などではなく、全てがどうでもいいという絶望にも似た感情だったからだ。
要は只の自殺志願である。
青年が気が付いたとき、世界は全て変わっていた。見知らぬ土地。見知らぬ風景。見知らぬ人々。それは、青年が生きてきた世界とは明らかに異なるものだった。
青年にある記憶は、大学の教授に呼ばれ車で移動の最中に、トンネルを通ったところまでだった。トンネルに入った瞬間、まばゆい光とともに意識を失ったのである。
気が付いた後、訳も分からずフラフラと辺りを歩き回り、まるで歴史の教科書に載っているような服を着ている人に聞いてみれば、異物を見るような目で見られろくに答えを返してくれない。
村落と言っていいであろう規模の集落は、妙に暗い雰囲気でどんよりとしており、それが余計に青年の不安を掻き立てた。
思い切って村の外へと出てみれば、見た事もない化け物に追いかけ回され、ようやく青年は自分が異世界にやってきたことを思い知ったのだ。少なくとも、青年の知る地球には人を丸呑みできそうなカエルなど存在しないはずである。
追い回され再び村へと逃げ帰り、少し冷静になってみれば、何となく心に引っかかりを覚えた。何故だろうか、青年はそのカエルに既視感を抱いたのである。
まさか、と否定するもどうにも気持ち悪い感覚が拭えず、今度は見つからないようにカエルを発見したとき、青年は理解してしまった。
あのカエルは、だいおうガマ。散々やりこんだRPG。ドラクエ3の雑魚キャラだ。
そんな馬鹿なと、常識が否定する。しかし目の前にある状況が、常識を否定する。
現実に現れた魔物の姿は、元が2Dデザインであるだけに、ゲームで見ていたものとは開きがあった。しかし、大まかな雰囲気、色や造形など所々に見受けられる同一性が、かの魔物であると思わせられる。
改めて見れば、見慣れない村落はかのゲームの中に出てきたジパングそっくりだった。排他的で暗い雰囲気からすると、既にヤマタノオロチとヒミコが成り代わっているのか。
気が付けばゲームの中にいた。こんな突拍子もない話などない。あまりにも滑稽である。
滑稽なのは、状況ではなく自分自身であったが。
こんな結末かと、ただただ嘲る。求めて、足掻いて、足掻いて、決して届かないと知りつつも諦めきれずに、みっともなく生きてきた自分の結末は、こんなものか。
くだらないと、青年は吐き捨てる。元の世界に帰る手段など考えも付かず、金も力もない自分が、この世界でどれほど生きられるものか。おそらく、一ヶ月もしない内に野垂れ死にするのがオチだ。
ならばいっそ、ヤマタノオロチの姿を見てやろう。
冥土の土産に、かつてのめり込んだゲームの存在であり、自分が知っている中でも上位に位置する龍に殺される。それが、青年がオロチの洞窟に潜っている理由だった。
途中で魔物に殺されるかもしれないだとか、そもそも辿り着く前に体力の限界を迎えるかもしれないだとか、むしろヤマタノオロチに出会える可能性の方が圧倒的に少ないということなど、青年にとっては足を止める理由にならなかった。結局の所、青年にとっては死の過程が変わるだけで、結果は何一つ変わらないのだから。せいぜいちょっと惜しかったなと思う程度だろう。
しかしながら、青年の予測は尽く裏切られた。何故か知らないが魔物なんて一つも現れずに、気が付けば既に二階に到達している。覚えている限りでは、この洞窟は一階部分よりも遙かに二階部分のほうが狭かった筈だ。このまま行けば、ヤマタノオロチに到達するのも時間の問題である。
どうにも不思議でならなかったが、構わず青年は先に進んだ。自分の望んだ結果が手にはいるのなら、それに越したことはない。
果たして、青年は遂にその場所へとたどり着いた。
青年よりも遙かに巨大なその体。ただそこに在るだけで震えが走る程の威圧感。青年が己の死に焦がれたものは、望んでいた以上の存在であった。
それなのに、確かに望んでいたはずであったのに、青年が感じたのは歓喜でなく、畏怖でなく―――
―――ただ美しいと、そう思った。
何故だろう。恐怖を抱いてもおかしくないその巨躯が、まるでガラスで作られた彫像のように思えたのは。
何故だろう。押しつぶされそうな威圧感を持つその眼光が、まるで水面に浮かぶ月のように思えたのは。
何故なのだろう。神々しささえ感じる程の存在が、あまりにも儚く見えるのは。
その一瞬が、何倍にも伸ばされたような感覚の中で、自分でも気付かぬ内にとうに限界を超えていた青年は、そのまま地面へと倒れ伏した。